第1 結論と判決の位置付け
1 最高裁の結論
最高裁令和7年12月23日第三小法廷判決(令和6年(受)第204号・民集79巻8号2869頁)は,戸建て住宅のLPガス供給契約を供給開始から10年未満で終了する場合に,配管等の設置費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項について,消費者契約法9条1項1号の対象となる違約金等条項に当たり,その全部が無効であると判断した。
ただし,同判決は,設備費用とガス料金との関係が明確でなかったこと等を前提とする事例判断である。
LPガス契約を解約すれば,どのような設備費用も常に請求できないという意味ではない。
条項の文言,設備の所有関係,設備費用とガス料金との関係,契約時の説明及び請求額の算定方法を確認する必要がある。
2 現在の消費者契約法との関係
判決が適用したのは改正前の消費者契約法9条1号であるが,現在は同条1項1号に相当する。
同号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の合計額が,同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合に,その超過部分を無効とする。
第2 最高裁判決の事案
1 LPガス供給契約と設備費用条項
事案では,LPガス事業者が戸建て住宅へ配管等を設置し,消費者とLPガス供給契約を締結した。
契約書には,供給開始から一定期間内に契約が終了した場合,経過年数に応じて設備費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項があった。
契約終了後,事業者がこの条項に基づく支払を求めたため,条項が消費者契約法9条1項1号により無効となるかが争われた。
2 設備費用とガス料金との関係
最高裁が重視したのは,条項の名称だけではなく,契約の実質である。
事案では,設備費用がガス料金によってどのように回収されるのか,毎月のガス料金のうちどの部分が設備費用に対応するのか,契約終了時の所定額が未回収分とどのように対応するのかが明確ではなかった。
第3 最高裁の判断
1 解除に伴う違約金等条項に当たること
最高裁は,契約終了時に支払を求める設備費用条項を,単に既に発生していた独立の設備代金を精算する条項とは扱わなかった。
契約が一定期間内に終了したことによって支払義務が生じる仕組みに着目し,消費者契約法9条1項1号の「解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるとした。
したがって,契約書で「設備費用」「貸付配管費用」等の名称を用いていても,解除又は契約終了を条件として支払義務が生じるのであれば,実質に応じて同号の適用を検討する必要がある。
2 平均的な損害が零円とされた理由
最高裁は,本件と同種の契約ではLPガスの価格に法令上の規制がなく,事業者がガス料金を自由に設定でき,設備費用の未回収リスクを見越して契約者全体の料金を設定できること,設備費用とガス料金との関係が明確でないこと等を考慮した。
その上で,同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害に当たり得るものは見当たらないとした。
この事案では平均的な損害が零円であるため,所定額のうち平均的な損害を超える一部だけでなく,条項に基づく請求額の全部が無効となった。
3 判決の射程
判決は,設備費用とガス料金との関係が不明確であった契約を前提としている。
設備代金がガス供給契約とは別の売買又は工事契約として明確に合意され,金額,支払方法,所有権及び中途精算方法が具体的に定められている場合まで,同じ結論になるとは限らない。
また,設備の撤去費用,原状回復費用,未払ガス料金及び契約終了後の設備買取額は,それぞれ発生原因が異なる。
契約終了時にまとめて請求されても,項目ごとに法的根拠と金額を分けて検討する必要がある。
4 三部料金制との関係
液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則16条15号の7は,令和7年4月2日から,LPガスの供給に係る料金その他の費用を,基本料金,従量料金及び消費設備の貸与等に係る設備料金に整理し,算定根拠を通知する三部料金制を事業者に求めている。
最高裁判決の補足意見は,屋内配管の所有権が家主に帰属することを前提として,三部料金制の下で家主が月々負担すべき設置費用を基本料金及び従量料金と区別して請求する場合には,本判決の射程は当然には及ばないと述べている。
もっとも,三部料金制に従って設備料金を区分表示すれば,どのような中途精算条項も当然に有効になるわけではない。
契約上の支払義務,設備費用と月額料金との対応,解除時点の残額及び消費者契約法9条1項1号との関係は,なお個別に確認する必要がある。
第4 同日の配管付合判決との違い
最高裁は同じ令和7年12月23日,LPガス設備の配管が建物に付合したか,また,契約の表題や条項から設備の所有関係をどのように解釈するかが問題となった別事件についても判決を言い渡した。
消費者契約法9条の事件は,契約終了時の金銭請求条項が平均的な損害を超えるかという問題である。
これに対し,配管付合の事件は,設備の所有権及び民法上の付合等が中心である。
同じLPガス設備でも,金銭請求の有効性と設備の所有権は別の問題であり,一方の結論だけで他方が決まるわけではない。
第5 消費者が確認する事項
①契約書,重要事項説明書,料金表及び設備貸与契約書をそろえ,契約終了時の請求条項を確認する。
②請求額を,未払ガス料金,設備代金,撤去費用,原状回復費用,違約金その他の項目に分けてもらう。
③設備費用が毎月のガス料金に含まれていたのか,別に支払う契約であったのか,事業者へ算定根拠を確認する。
④消費者契約法9条2項に基づき,違約金等の算定根拠の概要について説明を求める。
⑤設備の所有者,配管が建物に付合しているか,撤去又は買取りを求める条項があるかを別に確認する。
第6 事業者が契約書と料金体系を確認する事項
設備費用を回収する契約では,ガス料金との関係,設備の所有権,費用総額,償却又は回収の期間,中途終了時の残額算定及び説明方法を契約書と料金表の間で整合させる必要がある。
契約終了時の請求額を一律の残存費用として定めるだけでは,同種契約の解除に伴う平均的な損害との対応が不明確になりやすい。
実際の料金設計と契約条項が一致しているか,消費者へどの時点で何を説明したか,算定資料を示せるかを確認する必要がある。
第7 消費者契約法見直しとの関係
消費者庁の検討会が令和8年9月10日に公表した中間取りまとめは,消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」という基準自体を今回は見直さない方向を示した。
他方で,同条2項等の説明制度を拡充し,複数の解約料選択肢がある場合の情報提供や,通常要する費用以外のものを含む場合及び参考にした業界等の考え方がある場合の説明を促す方向を示している。
中間取りまとめは,9条1項1号が果たしてきた役割等を検証・分析することが有益であるとの記述の脚注で,LPガス最高裁判決の概要を紹介している。
ただし,中間取りまとめは改正法でも法律案でもなく,令和8年10月30日現在,現行の条文を変更するものではない。
第8 関連記事
①「消費者契約法に関する最高裁判例(AIリライト)」
https://yamanaka-bengoshi.jp/2023/01/01/shouhisha-hanrei/
②「無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるか――消費者契約法9条の『平均的な損害』と裁判例(AI作成)」
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/13/mudan-cancel-ryou-heikinteki-songai/
③「消費者契約法はどう変わろうとしているのか-令和8年9月中間取りまとめの要点(AI作成)」
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/15/shohisha-keiyakuho-kentokai-chukan-torimatome/
第9 出典
①最高裁判所第三小法廷令和7年12月23日判決(令和6年(受)第204号,民集79巻8号2869頁)
判例詳細:https://www.courts.go.jp/hanrei/95265/detail2/index.html
判決PDF:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95265.pdf
②最高裁判所第三小法廷令和7年12月23日判決(同日関連判決)
https://www.courts.go.jp/hanrei/95264/detail2/index.html
③e-Gov法令検索「消費者契約法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
④e-Gov法令検索「民法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
⑤消費者庁「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会 中間取りまとめ」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_006/assets/consumer_system_cms205_260910_01.pdf
⑥e-Gov法令検索「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則」
https://laws.e-gov.go.jp/law/409M50000400011
⑦資源エネルギー庁「三部料金制の徹底(設備費用の外出し表示・計上禁止)に関するQ&A」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/distribution/lpgass_hourei/pdf/sannburyoukinnQA.pdf