第1 共同親権でも、問題ごとに手続を分ける
1 この記事の対象
父母双方が親権者である場合に、子どもの名字の変更、進学、転居等について意見が一致しないときは、誰が何を決める必要があるのかを具体的に整理する。
本記事は、令和8年10月28日に確認した裁判所の手続案内等に基づき、特定の事項について一方が単独で親権を行うための親権行使者指定を中心に説明する。
共同親権というだけで、子どもに関するすべての行為に他方の同意が必要になるわけではない。
反対に、子どもと同居しているという事情だけで、重要な事項をすべて一方で決められるわけでもない。
2 親権者の変更とは区別する
親権行使者指定は、父母双方が親権者であることを前提に、協議が調わない特定の事項について、一方が単独で行えるようにする手続である。
親権者そのものの変更や、子どもを主に監護する者の指定とは、求める判断の対象が異なる。
例えば、入学に必要な契約について判断を求める場合と、今後の親権者を一方に変更する場合では、申立ての目的も説明すべき事情も同じではない。
まず、必要な行為、期限、対立している点を分けて整理する。
第2 一方で決められる場合と、共同で決める場合
1 日常の行為と急迫の事情
民法824条の2は、父母双方が親権者である場合の共同行使を基本としつつ、監護・教育に関する日常の行為や、子の利益のため急迫の事情がある場合等の単独行使を定めている。
裁判所の案内は、日常の行為の例として食事・衣服の決定、短期間の観光旅行、通常のワクチン接種等を挙げるが、具体的事情によって判断が異なり得るとしている。
したがって、行為の名称だけで、必ず共同決定又は必ず単独決定と分類することは適切でない。
子どもへの影響、決定の内容、変更のしやすさ、緊急性等を具体的に確認する。
2 意見が違うというだけで、単独決定に切り替わるわけではない
共同で決めるべき事項について協議が調わない場合は、民法824条の2第3項に基づく親権行使者指定を検討する。
家庭裁判所が、父又は母の請求により、子の利益のため必要と認めるときに、その事項を一方が単独で行うことができる旨を定める仕組みである。
日常の行為や急迫の事情に該当するかという問題と、裁判所の指定を受ける必要があるかという問題を混同しない。
相手が返事をしない、又は反対しているという事実だけから、すべての行為について単独行使が可能になると考えないようにする。
第3 親権行使者指定で求めること
1 対象とする行為を具体的にする
裁判所の案内は、重要な事項の例として居住場所の決定、進学先に係る契約、重大な医療行為に関する同意等を挙げ、15歳未満の子の氏変更許可申立ての法定代理も指定の対象となる例に含めている。
申立てでは、誰が、どの子について、どの行為を単独で行えるようにすることを求めるのかを明らかにする。
「子どものことを全部自分で決めたい」という希望と、具体的な契約又は申立てのために指定を求めることは区別する。
一方の希望だけでなく、その行為が子どもの生活に必要な理由、他の選択肢、相手との意見の違いを整理することが有用である。
2 調停と審判の申立先を区別する
親権行使者の指定調停は、父又は母が申し立て、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所が申立先となる。
調停が不成立となった場合は、別に審判を申し立てなくても審判手続が開始する。
直接審判を申し立てる場合の申立先は、子の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所であり、調停とは法定の管轄を区別する必要がある。
具体的な申立書、添付書類、手数料及び連絡用郵便料は、選択する手続に対応する裁判所の最新案内で確認する。
第4 子どもの名字を変えたい場合
1 15歳未満と15歳以上を分ける
本節は、父母の離婚後に、氏の異なる親の氏へ子の氏を変更する場面を扱う。
父母が離婚しても、子の氏と戸籍が同居する親の氏・戸籍に当然に変わるわけではない。
子が父又は母と氏を異にする場合にその親の氏を称するには、家庭裁判所の子の氏の変更許可を受け、その後の戸籍届出を行う手続を確認する。
子の氏の変更許可の申立人は子である。
15歳未満の場合は法定代理人が代理し、15歳以上の場合は子自身が申し立てるため、父母の意見だけで手続を整理しない。
2 共同申立てと、指定を受けた一方による申立て
15歳未満の子について父母双方が親権者である場合は、原則として父母が法定代理人として連名で申し立てる。
その氏変更の申立てについて、裁判手続により親権行使者が指定されている場合は、指定された一方が単独で申し立てることができる。
父母間で一方に法定代理を委ねるという私的な合意だけでは、一方のみを法定代理人とする申立てに切り替えられない。
一方が単独で申し立てるためには、裁判手続による指定を確認する必要がある。
父母が共同で申し立てる場合でも、必ず一緒に裁判所へ行く必要があるわけではなく、裁判所は郵送による申立ても案内している。
共同の申立てと、父母がそろって来庁することは別の問題である。
3 許可後の入籍届を忘れない
家庭裁判所の許可だけで戸籍の記載が自動的に変わるわけではなく、市区町村への入籍届が必要となる。
裁判所のQ&Aは、父母共同で許可を申し立てた場合の戸籍届出も、父母共同で行う必要があると説明している。
親権行使者指定を受けて氏変更許可を申し立てる場合は、許可申立ての代理と、その後の戸籍届出を分け、指定内容を示して家庭裁判所及び届出先市区町村に確認する。
許可申立てを単独で行えることから、その後のすべての届出も当然に単独で行えると判断しないようにする。
第5 進学・転居について意見が対立する場合
1 期限と、対立している内容を分ける
進学では、学校の選択、在学契約、費用負担等のうち、何について意見が一致しないのかを整理する。
学校が示す回答期限と、家庭裁判所に求める判断の対象を対応させ、募集要項、契約書案、学校からの連絡等を保存しておくことが有用である。
期限が近いことだけで、急迫の事情による単独行使が当然に認められるわけではない。
裁判所の案内も、期限までに指定手続を終えるため、時間的な余裕をもって申し立てる必要があると説明している。
2 転居は子どもの生活への影響を具体化する
転居では、居住場所の決定に加え、通学、通院、日常の世話、他方の親との交流等にどのような影響があるかを整理する。
親権行使者指定を求めることと、監護者、監護の分掌又は親子交流の条件を定めることは、必要に応じて分けて検討する。
暴力、脅迫、虐待等の危険がある場合は、相手との協議方法を考える前に、安全に関する事情を弁護士や裁判所に伝える。
安全確保のための行動と、通常の転居について父母の意見が違う場合を一括して扱わないようにする。
第6 申立て前に整理する資料と期限
次の事項を一つずつ整理すると、何を決める必要があるかを説明しやすくなる。
これは検討のための整理例であり、裁判所がすべての事件で提出を義務付ける書類の一覧ではない。
– 必要な行為:氏変更許可の申立て、特定の在学契約、居住場所の決定等。
– 期限:契約期限、入学に必要な手続日、転居予定日等と、その根拠資料。
– 協議経過:提案した内容、相手の回答、意見が一致しない点。
– 子どもの事情:生活状況、意向、健康、通学等への影響。
– 選択肢:他の方法を採った場合の利点と不利益。
– 裁判手続の資料:既存の審判書・調停調書、戸籍、利用する申立書式。
氏変更許可と親権行使者指定では、申立人、申立先及び添付書類が同じとは限らない。
子の氏の変更許可は子の住所地の家庭裁判所が申立先であり、指定済みの場合にはその指定を証する書類等も確認する。
第7 関連記事と出典
1 関連記事
– 重要事項説明書(離婚事件)
– 共同親権・共同監護の場合の養育費―監護日数・直接負担と算定表の限界(AI作成)
– 家庭裁判所の家事審判―調停との違い・手続の流れ・不服申立て(AIリライト)
2 法令・裁判所の資料
– 民法791条、824条の2。
– 裁判所「親権行使者の指定調停」
– 裁判所「子の氏の変更許可」
– 裁判所「家事事件Q&A」子の氏の変更許可に関する項目。
– 最高裁判所「家庭裁判所の手続案内」親権行使者の指定の申立先一覧。
3 関連する実務解説
– NIBEN Frontier 2026年10月号・改正家族法に関する特集20~21頁。