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重要事項説明書(相続事件)

本記事は、山中弁護士が相続事件を受任する際に、依頼者と弁護士が最初に確認しておきたい事項をまとめたものです。
個別事件の委任契約書、委任契約約款、報酬の説明及び打合せ内容を補うものであり、それらに代わるものではありません。
依頼する手続、相手方、費用又は役割分担が分からないときは、契約前又は事件処理中に確認してください。

相続事件では、相続人・財産・債務の調査と同時に、相続放棄、遺留分、相続税、相続登記その他の期限が進みます。
まず期限と遺産の処分状況を確認し、その上で受任範囲、必要資料、交渉・裁判の対象及び税務・登記との分担を明確にすることが重要です。

第1 本記事の目的と既存記事との役割分担

関連する既存記事とは、次のように役割を分けています。

– 弁護士に依頼するとき、知っておいてほしい大切なことは、依頼者による事実確認、証拠の提供、相手方との直接連絡、和解及び費用など、民事事件に共通する注意点を説明します。
– 相続事件のご相談・ご依頼の流れは、お問い合わせから法律相談、委任契約までの手順と、相談時に用意する資料を案内します。
– 相続事件(遺産分割・遺留分・遺言)の弁護士費用の基準は、事件類型ごとの着手金、成功報酬金、実費、日当及び追加費用の基準を示します。
– 弁護士の委任契約書はいつ必要かは、委任契約書の記載事項、中途終了時の清算及び追加業務の扱いを一般的に説明します。

これに対し、本記事は、相続事件を正式に依頼した後の受任範囲、期限管理、資料の集め方、遺産の管理、他の専門家との分担及び依頼者に判断していただく事項を中心に説明します。

第2 誰から何を依頼された事件かを確定します

1 依頼者と相手方を一人ずつ確認します

相続事件では、家族全体の問題を扱っているように見えても、弁護士が代理するのは委任契約を締結した依頼者です。
配偶者と子、兄弟姉妹又は複数の受遺者から一緒に依頼を受ける場合も、各人が何を求め、費用をどのように負担するかを確認します。

受任後に共同依頼者の希望や利益が対立した場合、全員について受任を続けられず、辞任その他の対応が必要になることがあります。
家族の代表者一人が相談しただけで、他の相続人も依頼者になったり、弁護士が相続人全員の中立的な調整役になったりするものではありません。

2 受任する作業と受任しない作業を分けます

同じ相続でも、相続人調査、相続財産・債務の調査、遺産分割交渉、家庭裁判所の調停・審判、遺留分侵害額請求、遺言の有効性を争う訴訟、相続放棄及び遺言執行は別の業務です。
委任契約書では、今回の受任範囲と、追加の合意・費用が必要になる業務を区別します。

相続登記、相続税の申告、不動産の測量・売却、株式・証券口座の移管、空き家の管理、遺品整理、債務の支払、強制執行及び控訴・即時抗告は、当然にすべて含まれるものではありません。
弁護士が司法書士、税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士その他の専門家を紹介し、又は連携する場合も、誰が誰と契約し、費用を負担し、資料を共有するかを確認します。

3 遺言執行と特定の相続人の代理は役割が異なります

遺言執行者又はその補助者として行う事務と、特定の相続人・受遺者の利益を主張する代理業務は、目的と立場が異なります。
遺言執行に関わっている弁護士が、当然に特定の相続人の代理人として遺言無効や遺留分の争いも担当するとは限りません。

第3 期限と、してはいけない行為を先に確認します

1 代表的な期限は別々に進みます

項目原則的な期限・時期最初に確認すること
相続放棄・限定承認自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月死亡を知った日だけでなく、自分が相続人となったことを知った日、先順位者の放棄、既にした財産処分を確認します。調査が間に合わないときは期間内に熟慮期間の伸長を検討します。
遺留分侵害額請求相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年遺言の内容を知った日、贈与の内容、通知又は請求をした日と方法を記録します。
相続税の申告・納付通常は死亡を知った日の翌日から10か月申告の要否を早めに税理士へ確認します。遺産分割が未成立でも期限は自動的に延びません。
相続登記原則として不動産の相続取得を知った日から3年令和6年4月1日より前の相続も対象です。施行前から取得を知っていた未登記不動産は、原則として令和9年3月31日までに対応が必要です。
裁判所・税務署・金融機関等から指定された期限各書面に記載された日受領日、封筒、送信記録と書面一式をすぐに弁護士へ共有します。

起算点、期間の延長、経過措置及び例外は、事情によって異なります。
「まだ調査中である」「他の相続人と話し合っている」「弁護士へ相談した」というだけで期限が止まるわけではありません。

相続放棄の判断については、相続放棄とは―期限・手続き・費用・デメリットと判断のポイントも参照してください。

2 遺産の払戻し・処分・廃棄を急がないでください

相続放棄又は限定承認を検討しているときに、被相続人の預貯金を払い戻して自分のために使う、不動産・自動車・有価証券を売る、価値のある遺品を処分する、遺産分割協議書へ署名するなどの行為をすると、法定単純承認その他の問題が生じることがあります。
被相続人の死亡が金融機関に伝わる前であっても、キャッシュカードによる払戻しを独断で行わないでください。

既に払戻し、支払、売却又は廃棄をした場合は、隠さずに、日時、金額、対象財産、理由、保管状況及び使途を記録し、通帳、利用明細、領収書、写真その他の資料を提出してください。
葬儀費用、医療費、固定資産税、家屋の保存費用又は債務の支払であっても、民法上の扱い、相続税上の扱い及び相続人間の負担は同じとは限りません。

遺産分割前に資金が必要な場合には、民法909条の2による金融機関からの払戻しや、家庭裁判所の保全処分を検討できることがあります。
詳しくは、遺産分割前に預貯金を払い戻す二つの方法を参照してください。

第4 相続人・遺産・債務の調査には資料と手掛かりが必要です

1 家族関係と立場を整理します

被相続人との関係、出生・死亡・婚姻・離婚・養子縁組、先に死亡した相続人、代襲相続、相続放棄及び遺言による取得者を家系図に整理します。
家系図は調査の索引であり、相続関係の証明そのものではないため、戸籍、除籍、改製原戸籍その他の公的資料と照合します。

相続人に未成年者、判断能力が十分でない方又は行方不明者がいる場合、特別代理人、成年後見制度又は不在者財産管理人などの別手続が必要になることがあります。
親族が事実上代わりに署名することはできません。

2 財産と債務を種類ごとに分けます

預貯金、有価証券、不動産、保険、事業用資産、貸付金、現金、車両、貴金属、暗号資産その他の積極財産と、借入金、保証債務、未払税金、医療費その他の債務を分けて整理します。
死亡保険金、死亡退職金、未支給年金、葬儀費用及び相続開始後の賃料等は、名称だけで遺産に含まれるかを決めず、契約、受取人、発生時期及び支払根拠を確認します。

通帳、残高証明書、取引履歴、証券会社・保険会社からの郵便物、固定資産税納税通知書、登記事項証明書、確定申告書、借入契約書、請求書、信用情報その他の資料は、役割が異なります。
心当たりのある金融機関、支店、証券会社、保険会社、不動産所在地及び取引先を具体的にお知らせください。

弁護士に依頼しても、全国の財産や債務を自動的かつ完全に把握できる制度があるわけではありません。
家庭裁判所の遺産分割手続も、遺産を探し出すこと自体を目的とする手続ではありません。
調査対象、照会先、調査期間、費用及び調査を終える基準を相談し、判明した財産と未確認の財産を区別します。

3 原本と電子データを保全します

遺言書、契約書、通帳、手紙、メモ、領収書、介護記録その他の原本には、書き込み、切取り又は貼付けをしないでください。
封筒、付箋、ファイルの並びにも作成時期や保管状況を示す意味がある場合があります。
スマートフォンのメッセージ、メール、写真、録音及びオンライン明細は、画面の一部だけでなく、相手方、日時、前後のやり取り及び元データが分かる形で保存します。

財産一覧、時系列及び主張書面を更新するときは、上書きだけで済ませず、作成日又は版を付けてください。
弁護士へ渡した資料と手元に残した資料が対応するよう、簡単な一覧を作ると確認が容易になります。

第5 交渉・調停・審判で扱える問題を分けます

1 遺産分割の中心は現存する遺産の分け方です

遺産分割では、相続人、分割対象となる遺産、評価、特別受益・寄与分及び分割方法を順に整理します。
不動産の固定資産税評価額、相続税評価額、査定額及び時価は同じではなく、何のための評価かを確認します。
評価に合意できなければ鑑定費用が必要になることがあります。

葬儀費用、相続債務、使途不明金、祭祀承継その他の付随問題は、相続人全員が合意すれば調停で一緒に話し合える場合がありますが、審判では原則として扱えないことがあります。
使途不明金の返還や遺言の有効性などについて、別の民事訴訟その他の手続が必要になる場合もあります。

相続債務を特定の相続人だけが負担するという相続人間の合意をしても、債権者の同意その他の根拠がなければ、その合意を債権者に主張できるとは限りません。
「遺産を受け取らない」という家族内の合意と、家庭裁判所で行う相続放棄も別のものです。

2 和解・分割方法の最終判断は依頼者が行います

弁護士は、法的な見通し、証拠、費用、時間及び執行可能性を踏まえて選択肢を説明し、交渉や書面作成を行います。
他方、どの財産を取得したいか、代償金をいくらまで支払えるか、不動産を売却するか、相手方の提案を受け入れるかなど、依頼者の権利を処分する重要な判断は依頼者に行っていただきます。

代償分割を希望する場合は、代償金の支払能力を示す資料が必要です。
共有取得は当面の解決に見えても、将来の管理、賃貸、修繕又は売却について新たな対立が生じることがあります。
換価分割では、売却価格だけでなく、仲介手数料、登記費用、譲渡所得税その他の負担も確認します。

第6 税務・登記・財産移転を事件処理と並行して管理します

1 遺産分割が終わるまで税務が止まるわけではありません

相続税の申告が必要な場合、遺産分割が成立していなくても、原則として申告・納付期限は延びません。
未分割申告、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、後日の更正の請求その他の税務対応について、早い段階で税理士へ相談してください。

民法上の遺産の範囲、遺産分割で用いる評価、相続税の課税財産及び所得税上の取得費・譲渡所得は、それぞれ目的が異なります。
弁護士との合意に税務申告が含まれていると明記されていない限り、税務申告は別業務です。

2 登記義務と遺産分割の進行を別々に確認します

相続登記は令和6年4月1日から義務化され、施行前に開始した相続も対象です。
遺産分割が長期化する場合には、法定相続分による登記又は相続人申告登記を含め、期限内にどの対応をするかを司法書士又は弁護士へ確認してください。
遺産分割成立後には、その内容を反映した登記について別の義務が生じます。

預貯金、有価証券、不動産その他の財産は、協議、調停又は審判が成立・確定しただけで、すべて自動的に名義変更又は換価されるわけではありません。
事件終了後の名義変更、売却、代金受領、分配、税務申告及び完了資料の受領を誰が担当するかを確認します。

第7 費用・連絡・事件終了時の確認

1 費用は作業範囲と一緒に確認します

着手金、成功報酬金、実費、日当、追加着手金及び他の専門家の報酬は、委任契約書と相続事件の弁護士費用の基準で確認してください。
戸籍取得、金融機関照会、不動産鑑定、相続登記、税務申告、不動産売却及び遠方への出張等には、別の費用が生じることがあります。

複数の依頼者がいる場合は、弁護士に対する支払義務、依頼者間の負担割合及び回収金から控除する範囲を決めます。
相続財産から支払う予定であっても、それだけで相続人全員との関係や税務上の扱いが決まるものではありません。

2 連絡先と確認期限を守ってください

住所、電話番号、メールアドレス、氏名、家族関係、相手方からの連絡又は財産状況に変更があったときは、速やかにお知らせください。
弁護士が作成した事実関係の記載を確認するときは、誤り、不足及び分からない箇所を区別して、指定された期限までに回答してください。

相手方、裁判所、税務署、金融機関その他の機関から直接書類や連絡を受けた場合は、独断で回答、署名又は支払をせず、受領日が分かる形で共有してください。
急ぎの期限があるときは、資料を送るだけでなく、期限と緊急性が分かる方法で連絡してください。

3 事件終了後に残る作業を確認します

交渉成立、調停成立、審判・判決の確定、相続放棄の受理又は委任契約の解除により、受任業務の主要部分が終わっても、登記、税務申告、財産の引渡し、債権回収、換価、分配、原本返還又は記録保管が残ることがあります。
終了時には、合意・裁判の内容、未了の手続、各期限、預り金・実費の清算及び返還資料を確認します。

依頼者は弁護士との委任契約を終了させることができますが、既に行った業務の費用清算と、裁判所その他の期限への対応は別に必要です。
方針や説明に疑問がある場合は、事件処理を止める前に具体的な疑問点をお知らせください。

第8 確認事項のまとめ

相続事件では、法定相続分の説明だけでなく、依頼者、受任範囲、期限、既にした行為、調査対象、手続ごとの対象範囲、税務・登記との分担及び費用を一つずつ確認することが重要です。
特に、次の点は事件の見通しや選択肢に直接影響します。

– 死亡、遺言の発見、相続人となったことを知った日及び通知を受けた日
– 相続人、受遺者、共同依頼者及び相手方の範囲
– 判明している財産・債務と、所在・金額が未確認のもの
– 死亡前後の預貯金払戻し、財産処分、債務支払及び遺産分割書類への署名
– 希望する取得財産、最低限必要な条件及び代償金の支払能力
– 相続税、相続登記その他の手続の担当者と期限
– 委任契約に含まれる業務、追加業務、費用及び事件終了後に残る作業

分からない事項は、推測で埋めず、「未確認」としてお知らせください。
後から事情や資料が判明した場合も、その時点で共有していただくことが、適切な方針の見直しにつながります。

第9 公的資料と関連記事

1 公的資料

– 民法(e-Gov法令検索)
– 裁判所「相続・遺産分割」
– 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」
– 京都家庭裁判所「遺産分割調停」
– 法務省「相続登記の申請義務化について」
– 国税庁「相続税の申告と納税」
– 国税庁「相続財産が分割されていないときの申告」

資料確認日:令和8年10月15日。

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