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令和7年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,選択科目の知的財産法第1問(特許法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
本問は,農薬の特許権者Xが,①後発品の農薬登録のための試験用の生産(行為①),②A国で子会社が販売した検査・実験装置の輸入と使用(行為②)及び③存続期間経過後に販売する旨の存続期間中の申出(行為③)について,損害賠償を請求する事案で,Xの主張,相手方の反論及びその妥当性を問うものである。

公式資料から抽出できた評価項目は25項目であり,重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,最判平成11年4月16日(膵臓疾患治療剤事件)を踏まえた試験研究の反論,存続期間制度の趣旨からの妥当性の検討,最判平成9年7月1日(BBS事件)を踏まえた並行輸入の反論,製品への明確な表示の要件の検討,リサーチツールへの特許法69条1項の適用の検討,存続期間経過後の譲渡が適法であることを根拠とする反論及び譲渡等の申出が独立の実施行為とされている理由を踏まえた検討の7項目である。

模範解答の結論は,設問⑴(行為①)は特許法69条1項により特許権の効力が及ばずXの請求は認められない,設問⑵(行為②)はBBS事件の枠組みにより特許権を行使できずXの請求は認められない,設問⑶(行為③)は存続期間中の譲渡等の申出として侵害に当たりXは損害賠償を請求できる,というものである。
設問⑶の結論は出題の趣旨が指定しておらず,反対の結論もあり得る(第5の3で説明する)。

第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(知的財産法第1問の部分)又は採点実感(知的財産法の第1問の部分と,第1問・第2問に共通する全体の感想)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と見出し番号(採点実感の「2⑴ア」は「2 採点方針」の「⑴第1問」の「ア 設問の⑴」を,「3⑴イ」は「3 採点実感」の「⑴第1問」の「イ 設問の⑵」を指す。)で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,出題の趣旨の「妥当性を具体的に検討することが求められる」等の一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
採点実感が誤りとして挙げた事項は,「〜しない」の形の項目にして,同じ5段階の中で重みを付けた。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:答案の骨格そのもの,又は採点実感が「一応の水準」「良好」「優秀」の分かれ目とし,若しくは「ごく僅か」と述べた事項
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項(本記事では,採点実感が「良好」「優秀」の要素又は不足の指摘として取り上げ,出題の趣旨が妥当性の具体的な検討として間接に求める事項も含めた)
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項

第3 本問の概要

農薬の製造販売業者Xは,農薬取締法の審査・登録を要する農薬の発明について特許権(本件特許権1)を有し,その実施品である農薬Pを製造販売している。
また,Xは,農薬の作物残留試験に用いる検査・実験装置の発明について日本の特許権(本件特許権2)と対応するA国特許権を有し,その実施品である装置Qを,A国の子会社Zに許諾してA国でのみ製造販売させている。
Zは,Xの指示で,全製品のA国外への無断輸出及びA国外での無断使用を禁じる旨を,製品それ自体には表示せず,自社のウェブサイトにだけ掲載した。

Y1は,農薬Pと有効成分等が全て同じ農薬Rを本件特許権1の存続期間経過後に製造販売する計画の下,登録に必要な試験のため存続期間中に農薬Rを生産し(行為①),その作物残留試験を研究所Y2に依頼した。
Y2は,A国でZから購入した者から転得した装置Qを日本に輸入し,農薬Rの作物残留試験に使用した(行為②)。
Y1は,農薬Rの登録を受けた後,販売のための製造は開始しないまま,農薬Pを購入している業者に対し,存続期間経過後に農薬Rを販売する旨を存続期間中に申し出た(行為③)。

設問は,Xが行為①〜③についてそれぞれ損害賠償を請求する場合のXの主張,Y1又はY2の反論及びそれらの妥当性を問うものであり,損害額と農薬取締法固有の問題は論じる必要がないとしている。

第4 評価項目と重み

1 設問⑴(行為①:試験又は研究のためにする実施)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1Xの主張として,本件特許発明1が物の発明であり,行為①がその物の「生産」(特許法2条3項1号)に当たり,業としての実施(同法68条本文)として本件特許権1の侵害となることを示す431頁2(Xの主張として求める)20頁2⑴ア(一応の水準),22頁3⑴ア(要件の一部の説明を欠く答案)
2損害賠償請求の根拠として民法709条を示し,過失の推定(特許法103条)に言及する331頁2(民法709条の損害賠償請求)22頁3⑴ア(過失推定に言及できない答案。請求権の発生に必須)
3Y1の反論として,最判平成11年4月16日(膵臓疾患治療剤事件)を踏まえ,行為①が試験又は研究のためにする特許発明の実施(特許法69条1項)に当たり特許権の効力が及ばないと主張する531頁2(判例を踏まえた反論として求める)20頁2⑴ア(一応の水準)
4妥当性として,存続期間制度の趣旨(存続期間終了後は何人でも自由に発明を利用できること)を述べ,本問の事実関係の下で行為①に69条1項を適用できないと存続期間制度の趣旨を達成できず特許制度の根幹に反することを論じる531頁2(妥当性の具体的検討を求める)20頁2⑴ア(良好・優秀)
5平成11年判決の判旨と理由付け(承認・登録の申請に必要な試験のための生産・使用であること,試験に相当の期間を要すること,必要な範囲を超える生産は許されないこと)を正確に示して当てはめる3間接(31頁2)22頁3⑴ア(判旨と理由付けを正確に理解した答案は多くない)
669条1項の趣旨を技術の進歩を目的とする試験研究に求める考え方と,最高裁判決の考え方の両方を踏まえて自らの見解を述べる3記載なし22頁3⑴ア(高く評価)
7最高裁判決と異なる見解を採る場合は,その理由付けを十分に説明する2記載なし22頁3⑴ア(理由付けの説明が求められる)

2 設問⑵(行為②:並行輸入とリサーチツール)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
8Xの主張として,本件特許発明2が物の発明であり,行為②がその物の「輸入」と「使用」の双方(特許法2条3項1号)に当たり,業としての実施(同法68条本文)として民法709条の損害賠償の対象となることを示す431頁3(Xの主張として求める)20頁2⑴イ(一応の水準),22頁3⑴イ(双方を指摘する答案は少ない)
9問題の端緒として,装置QがA国で適法に販売された事実を指摘する2記載なし22頁3⑴イ(指摘できない答案が散見)
10Y2の反論として,最判平成9年7月1日(BBS事件)を踏まえ,A国で適法に譲渡された製品の並行輸入として特許権の行使が否定されると主張する531頁3(判例を踏まえた反論として求める)20頁2⑴イ(一応の水準)
11国内消尽の根拠と比較しながら,国際消尽を認めず,消尽理論ではなくBBS事件の判断枠組みを用いる理由を示す(安易に国際消尽を認めない)4記載なし20頁2⑴イ(良好・優秀),22頁3⑴イ(国際消尽を安易に認める答案等)
12BBS事件の要件①として,装置Qを販売したXのA国子会社Zが「我が国の特許権者又はこれと同視し得る者」に当たるかを本問の事実で検討する4間接(31頁3)20頁2⑴イ(良好・優秀),23頁3⑴イ(検討していない答案)
13BBS事件の要件②として,譲受人との合意の上で製品に明確に表示したかを検討し,ウェブサイト上の表示のみで製品それ自体に表示がないことから要件を充足しないことを示す5間接(31頁3)20頁2⑴イ(良好・優秀),22頁3⑴イ(相当数の答案が言及)
14製品上の表示が必要な理由(転得者が製品を通じて制限を認識し,購入するかを判断できること)を示す3記載なし22頁から23頁3⑴イ(理由付けのない答案)
15Y2の反論として,装置Qの使用が試験又は研究のためにする特許発明の実施(特許法69条1項)に当たり特許権の効力が及ばないという主張を示す431頁3(Y2の反論として挙げる)20頁2⑴イ(一応の水準)
16装置Qがリサーチツールに当たることを踏まえ,69条1項の趣旨からリサーチツールの使用に同項が適用されるかを具体的に検討する531頁3(同項の趣旨を踏まえた検討を求める)20頁2⑴イ(良好・優秀),23頁3⑴イ(「ごく僅か」)

3 設問⑶(行為③:存続期間経過後に譲渡を行う旨の申出)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17Xの主張として,本件特許発明1が物の発明であり,行為③がその物の「譲渡等の申出」(特許法2条3項1号)に当たり,業としての実施(同法68条本文)として民法709条の損害賠償の対象となることを示す431頁4(Xの主張として求める)20頁から21頁2⑴ウ(一応の水準),23頁3⑴ウ(申出に当たることを指摘できない答案)
18Y1の反論として,申出行為の対象である譲渡自体が存続期間経過後に行われる適法な行為であることを根拠とする主張を示す532頁4(Y1の反論として挙げる)21頁2⑴ウ(一応の水準)
19譲渡等の申出が譲渡等と並んで独立した実施行為と規定されている理由(例:申出の時点で需要者の買い控えが生じ,特許発明の需要が失われるおそれ)を論じ,それを踏まえて主張の妥当性を具体的に検討する532頁4(十分に意識した検討を求める)21頁2⑴ウ(良好・優秀。買い控えの例示)
20存続期間満了前の申出によって生じる影響を本問の事実に即して論じる3記載なし23頁3⑴ウ(高く評価)
21行為③を「譲渡」と構成したり,特許法101条の間接侵害行為と構成したりしない2記載なし23頁3⑴ウ(誤りの例)
22試験又は研究のためにする実施行為でない行為③について,特許法69条1項の適用の可否を論じない2記載なし23頁3⑴ウ(誤りの例)

4 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23Yの反論の箇所で最初から裁判官の目線で請求の可否を結論付けず,Xの主張・Yの反論・妥当性という問いの形に沿って書く2記載なし22頁3⑴ア(多くの答案)
24条文の摘示と結論だけで済ませず,条文・要件・事実・結論の論理的なつながりを示す2記載なし22頁3⑴ア(散見),25頁3⑶
25判例が前提とした事案と本問の事実関係の違い(行為者と行為の特定を含む)を見落とさずに論じる2記載なし25頁3⑶(全体の感想)

5 重みの分布

25項目の内訳は,重み5が7項目,重み4が6項目,重み3が5項目,重み2が7項目,重み1が0項目であり,重みの合計は88点である。
設問別では,設問⑴が7項目・25点,設問⑵が9項目・36点,設問⑶が6項目・21点,答案全体が3項目・6点であり,並行輸入とリサーチツールの二つの論点を含む設問⑵の比重が最も大きい。

重み5の7項目は,設問⑴の平成11年判決を踏まえた反論と存続期間制度の趣旨(番号3・4),設問⑵のBBS事件を踏まえた反論,製品への明確な表示及びリサーチツール(番号10・13・16)並びに設問⑶の存続期間経過後の譲渡が適法であることを根拠とする反論と譲渡等の申出が独立の実施行為とされる理由(番号18・19)であり,いずれも各設問の反論とその妥当性の検討の骨格に当たる。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目を満たすように作成したものであり,試験の実施時(令和7年7月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる。」)及び結論(「よって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
設問がXの主張,Y1又はY2の反論及びその妥当性を問うているので,各設問を,Xの主張,反論,その検討の順に書き(設問⑵は二つの反論ごとに検討した),反論の段落では結論を先取りしないようにした(第4の番号23)。
答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
字数は見出しを含めて約2,400字(空白と改行を除いて2,336字)であり,2,500字以下に収めた。

2 答案

1 設問⑴について
(1) Xは,本件特許発明1は物の発明であり,農薬Rは農薬Pと有効成分等を全て同じくし技術的範囲に属するから,行為①は物の「生産」(2条3項1号)として業としての実施(68条本文)に当たるとして,民法709条により損害賠償を請求すべきである(過失は103条により推定される)。
(2) Y1は,最判平成11年4月16日を踏まえ,行為①は登録に必要な試験のための生産であり,69条1項により効力が及ばないと反論し得る。
(3) そこで,登録試験のための生産が69条1項の「試験」のための実施に当たるかが問題となる。
 確かに,同項の趣旨を技術の進歩を目的とする試験の保護に求めれば,販売のための登録試験は含まれないとも思える。しかし,存続期間終了後は何人でも発明を自由に利用できることが特許制度の根幹である。登録を要する物の試験には相当の期間を要するから,存続期間中の試験を禁ずれば存続期間を実質的に延長する結果となり,この根幹に反する。よって,存続期間終了後の製造販売のため,登録の申請に必要な試験を行う目的での生産・使用は,69条1項の「試験」に当たると解する(判例同旨・前掲最判平成11年4月16日)。ただし,必要な範囲を超える生産は許されない。
 同判例は医薬品の事案であるが,農薬取締法の登録も医薬品の承認と並ぶ延長登録の理由であり(67条4項,特許法施行令2条1号),同じ構造にある。
 本問では,Y1は存続期間経過後に製造販売する計画の下,「審査・登録を受けるために必要な試験」のためにRを生産し,必要な範囲を超えた事情はない。試験を外部の機関に依頼しても,登録を申請するのはY1であり,試験のための生産に変わりはない。
 よって,Y1の反論が妥当であり,Xの請求は認められない。

2 設問⑵について
(1) Xは,本件特許発明2は物の発明であり,研究所Y2が装置Qを「輸入」し「使用」した行為(2条3項1号)は業としての実施(68条本文)に当たるとして,民法709条により損害賠償を請求すべきである。
(2)ア Y2は,装置QはXの子会社ZがA国で適法に譲渡した製品であり,並行輸入として権利行使は許されないと反論し得る。
 国内で特許権者等が譲渡した特許製品については,流通の自由の確保と二重利得の不要から特許権は消尽する。しかし,国外での譲渡は,対応特許権と我が国の特許権が別個の権利であるから同列に論じられず,消尽は認められない。もっとも,国外で譲渡された製品の輸入は当然予想されるから,留保なく譲渡した特許権者は日本での制限のない支配権を黙示的に授与したといえる。よって,特許権者又はこれと同視し得る者が国外で特許製品を譲渡した場合,譲受人と日本を除外する旨を合意し,転得者に対してはその旨を製品に明確に表示した場合を除き,特許権を行使できないと解する(判例同旨・最判平成9年7月1日)。転得者は製品の表示によって制限を認識し得るからである。
 本問では,ZはXの子会社で,Xの許諾の下で装置Qを製造販売し,Xの指示で表示をしたから,Xと同視し得る者に当たる。確かに,A国外への無断輸出・使用を禁ずる表示はあった。しかし,それは「製品それ自体には表示することなく」ウェブサイトにのみ掲載されたもので,製品とともに流通しないから,製品への明確な表示とはいえない。よって,Xは転得者Y2に権利を行使できず,この反論は妥当である。
 イ また,Y2は,装置Qの使用は69条1項の試験のための実施であると反論し得る。しかし,同項は特許発明を試験の対象とすることを許して技術の進歩を図る趣旨であるから,その「試験」は当該特許発明自体を対象とするものをいうと解する。装置Qは農薬Rの作物残留試験の道具(リサーチツール)にすぎず,試験での使用こそが主たる市場であるから,これを免責すれば本件特許権2は無価値となる。行為①の免責も本件特許権1の存続期間終了後の利用確保のためであり,別個の本件特許権2には及ばない。よって,この反論は妥当でない。
 以上より,アの反論により,Xの請求は認められない。

3 設問⑶について
(1) Xは,行為③は物の「譲渡等の申出」(2条3項1号)として業としての実施(68条本文)に当たり,存続期間中にされたから侵害であるとして,民法709条により損害賠償を請求すべきである。
(2) Y1は,申出の対象である譲渡は存続期間経過後の適法な行為であり(67条1項),その申出を禁ずれば存続期間を実質的に延長するから,侵害でないと反論し得る。
(3) そこで,存続期間経過後の譲渡を対象とする申出が「譲渡等の申出」に当たるかが問題となる。
 思うに,申出が譲渡等と並ぶ独立の実施行為とされたのは,申出の時点で需要者が侵害品の購入を企図して特許製品を買い控え,譲渡を待たずに特許発明の需要が失われるからである。そうすると,存続期間中の申出は,対象の譲渡が満了後でも,存続期間中の需要を失わせ得るから「譲渡等の申出」に当たると解する(知財高判令和6年4月24日参照)。
 本問では,Y1は登録を受けて販売が可能となった後,存続期間中に,Xの顧客であるPの購入業者に対し申し出た。これにより,業者は満了後のRの購入を見込んでPの購入を控えるおそれがあり,存続期間中のXの需要が失われる。他方,申出は満了後に行えば足りるから,これを禁じても存続期間の延長にはならない。確かに,Y1は「販売のための製造こそ開始していない」。しかし,申出は物の存在を要しない。
 よって,Y1の反論は妥当でなく,行為③は侵害に当たり,Xは損害賠償を請求できる。なお,申出は対象の譲渡に従属するとの見解に立てば,請求は認められない。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は第4の番号1〜7(設問⑴),2は番号8〜16(設問⑵),3は番号17〜22(設問⑶)に対応し,番号23〜25(答案全体)は各設問の書き方で満たすようにした。
重み5の7項目は,1(2)・(3)の平成11年判決を踏まえた反論と存続期間制度の趣旨(番号3・4),2(2)アのBBS事件の反論と製品への明確な表示(番号10・13),2(2)イのリサーチツール(番号16),3(2)の存続期間経過後の譲渡が適法であることを根拠とする反論(番号18)及び3(3)の申出が独立の実施行為とされる理由(番号19)に当たる。
番号7(最高裁判決と異なる見解を採る場合の理由付け)は,答案が判例と同じ見解を採ったので,適用がない。

(2) 設問⑴(行為①)

最判平成11年4月16日は,後発医薬品の製造承認申請に必要な試験のために存続期間中に特許発明に係る医薬品を生産・使用することが特許法69条1項の「試験」に当たるとし,その理由として,存続期間終了後は何人でも自由に発明を利用できることが特許制度の根幹の一つであり,試験を禁ずると存続期間終了後もなお相当の期間自由に利用できない結果となることを挙げ,他方で,試験に必要な範囲を超えて存続期間終了後に譲渡する医薬品を生産することは許されないとした。
採点実感は,同判決の判旨と理由付けを正確に理解した答案は多くなかったとし,同項の趣旨を技術の進歩を目的とした試験研究に求める考え方と最高裁判決の考え方の両方を踏まえて自説を述べた答案を高く評価している。
答案は,技術の進歩を目的とする考え方を「確かに」として取り上げた上で,存続期間制度の趣旨から最高裁判決の考え方を採った。
本問は医薬品ではなく農薬の事案であるが,特許法67条4項の延長登録の理由となる処分を定める特許法施行令2条1号は,農薬取締法の登録を医薬品の承認と並べて挙げており,答案はこれを判例の事案との違いへの応答に用いた(この点は出題の趣旨・採点実感には記載がなく,本記事の補足である)。
なお,平成11年判決より前の東京地判昭和62年7月10日は,農薬登録のための試験は技術の進歩を目的としないとして特許法69条1項の「試験」に当たらないとしていた。
試験を外部の機関に依頼した点は,公式資料に記載がなく,答案では,登録を申請するのはY1であるから試験のための生産に変わりはないと簡潔に処理した。

(3) 設問⑵(行為②)

採点実感は,「輸入」と「使用」の双方を指摘した答案が少なかったこと,国際消尽を安易に認める答案や国際消尽の否定に触れない答案があったことを指摘し,国内消尽と比較しながらBBS事件の判断枠組みを用いる理由を論じた答案を高く評価している。
答案は,BBS事件の判示に沿って,国内で譲渡された特許製品について特許権が消尽する理由(流通の自由と二重利得の不要)を示した上で,国外での譲渡は対応特許権と我が国の特許権が別個であるから同列に論じられないとして国際消尽を否定し,黙示的な授与の考え方による判断枠組みへ進んだ。
当てはめでは,採点実感が検討の不足を指摘した二つの点,すなわち装置Qを販売したのがX自身ではなく子会社Zであること(特許権者と同視し得る者に当たるか)と,ウェブサイトだけの表示で足りるか(なぜ製品への表示が必要か)を,問題文の事実で検討した。
装置Qはリサーチツールに当たり,出題の趣旨は特許法69条1項の趣旨を踏まえた検討を求めているが,採点実感によれば,この検討をした答案は「ごく僅か」であった。
答案は,同項の趣旨を特許発明を試験の対象として技術の進歩を図る点に求め,装置Qは農薬Rの試験の道具にすぎず,試験での使用が主たる市場である発明に同項を及ぼせば特許権が無価値になるとして,この反論を退けた。
リサーチツールに同項が及ぶかを正面から判断した裁判例は,裁判所ウェブサイトでは見当たらなかった。

(4) 設問⑶(行為③)

出題の趣旨は,Y1の反論として,申出の対象である譲渡が存続期間経過後の適法な行為であることを根拠とする主張を挙げた上で,譲渡等の申出がなぜ譲渡等と並ぶ独立の実施行為と規定されているのかを意識した検討を求め,結論は指定していない。
採点実感は,その理由の例として,申出の時点で需要者が侵害品の購入を企図して特許製品の買い控えが生じ,申出の段階で特許発明に対する需要が失われ又はそのおそれが生じることを挙げ,存続期間満了前の申出によって生じる影響まで論じた答案を高く評価している。
答案は,この理由から規範を立て,Y1が登録を受けた後にXの顧客であるPの購入業者へ申し出たことで,存続期間中にPの買い控えが生じるおそれがあるとして,侵害を肯定した。
下級審では,存続期間中に譲渡の申出がされた製品は,譲渡が存続期間後でも特許権を侵害するものとした知財高判令和6年4月24日や,存続期間満了後の適法な譲渡についての申出にすぎないとの主張を退けた大阪地判令和2年1月20日がある(いずれも存続期間中に受注・契約があった事案である)。
他方,申出は対象の譲渡に従属するもので,存続期間経過後の適法な譲渡の申出は実施に当たらないと解すれば,Y1の反論が妥当となり,Xの請求は認められない。
採点実感は,行為③を「譲渡」や特許法101条の間接侵害と構成した答案,試験又は研究のための実施でない行為③に同法69条1項を論じた答案を誤りの例として挙げており,答案はこれらに触れていない。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

答案の弱点は次の2点である。
第一に,設問⑶で侵害を肯定するために用いた下級審の判断は,いずれも存続期間中に受注・契約があった事案であり,本問のように製造も契約もない段階の申出について判断した最高裁判所の判例は,本記事では確認できていない。
第二に,設問⑵でBBS事件の枠組みに当てはめた製品への明確な表示の要件について,ウェブサイト上の表示を製品への表示と同視できるかを判断した裁判例も,本記事では確認できていない。
損害額,差止め及び農薬取締法固有の問題は,設問が論じる必要がないとし,又は問うていないため,答案では扱っていない。
対応特許権の有無が結論を左右しないこと(BBS事件の判示)と,装置Qに加工や部品交換がなく新たな生産の問題が生じないことは,字数の制約から答案では触れていない。

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1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

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⑦令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑧令和7年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑨令和7年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑩令和7年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑪令和7年度司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑫令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑬令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑭令和7年度司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した35項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑮令和7年度司法試験労働法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した24項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑯令和7年度司法試験労働法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑰令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑱令和7年度司法試験環境法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑲令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した19項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑳令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉑令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉒令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉓令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
㉔令和7年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①令和8年度司法試験知的財産法第1問の参考答案と予想される評価項目―出題の趣旨・採点実感の公表前に問題文・判例から予想した37項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和8年度司法試験知的財産法第2問の参考答案と予想される評価項目―著作権法の教育利用・二次的著作物をめぐる32項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和8年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の参考答案(AI作成)
④特許権の存続期間満了前に後発品の参入準備としてできること・できないこと―試験研究の例外,生産・在庫,譲渡の申出(AI作成)
⑤修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(選択科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(選択科目)

2 法令

①特許法(e-Gov法令検索)
②特許法施行令(e-Gov法令検索)
③民法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所第二小法廷平成11年4月16日判決(平成10年(受)第153号,民集53巻4号627頁)
②最高裁判所第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁)
③知的財産高等裁判所令和6年4月24日判決(令和5年(ネ)第10052号等)
④大阪地方裁判所令和2年1月20日判決(平成28年(ワ)第4815号)
⑤東京地方裁判所昭和62年7月10日判決(昭和60年(ワ)第7463号)

4 確認状態

出題の趣旨は,知的財産法第1問の部分(PDFの31頁から32頁)を全て読んだ。
採点実感は,選択科目のPDFのうち知的財産法の第1問の部分(20頁から21頁及び22頁から23頁)と,第1問・第2問に共通する全体の感想以下の部分(25頁から26頁)を読み,第2問の部分は読んでいない。
問題文は,法務省掲載の選択科目の問題集のPDFの20頁によった。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,引用した判示の文言を確認した。
上記③から⑤の判決は,第5の3の解説で触れるもので,③は答案の設問⑶でも参照として掲げた。
条文は,e-Gov法令検索で試験の実施時(令和7年7月16日)に施行されていた版を確認した。