第1 判決等の取得と回収を分けて計画する
犯罪被害の損害賠償では,責任と金額を確定する手続だけでなく,加害者の財産を把握し,支払を受け,未払いの債権を管理することまで検討する必要がある。
損害賠償命令や民事判決を得ても,裁判所が自動的に賠償金を取り立てるわけではない。
本記事は,令和8年10月7日時点の現行法令,裁判所の手続案内及び第5次犯罪被害者等基本計画を基礎に,回収の流れを説明する。
被害者参加その他の刑事手続上の権利は,刑事手続及び少年審判における被害者の権利を参照されたい。
| 段階 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 債務名義の取得 | 損害賠償命令,刑事和解,民事訴訟等の対象・期限・効力 |
| 財産の把握 | 既知の財産,財産開示,第三者情報取得の利用条件 |
| 強制執行 | 対象財産,送達・執行文等,差押禁止範囲,費用と回収見込み |
| 継続管理 | 支払履歴,残額,手続の終了・取下げ,時効満了候補日 |
第2 損害賠償命令・刑事和解を利用できるか
1 損害賠償命令の対象と申立期限
犯罪被害者等保護法24条は,所定の対象犯罪の被害者又は一般承継人が,刑事事件の係属する地方裁判所に対し,弁論終結までに損害賠償命令を申し立てる制度を定めている。
請求は,訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づくもの及びこれに附帯する請求である。
対象には,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪,所定の性犯罪,逮捕・監禁,略取・誘拐等が含まれる。
すべての犯罪被害が対象ではなく,通常の過失運転致死傷事件や財産犯罪を,当然に対象として扱うことはできない。
同法35条は,有罪言渡し後の審理について,特別の事情がある場合を除き4回以内の審理期日で終結することを定める。
同法38条は,所定の送達又は告知から2週間の異議申立期間を定め,適法な異議がなければ確定判決と同一の効力を有するとしている。
仮執行の宣言の有無や異議申立てによる効力も確認する。
条文番号は令和8年10月7日時点のものである。
電子化等の改正前の解説には別の条文番号が記載されていることがあるため,現在の条文と照合する必要がある。
2 刑事和解と民事訴訟
同法19条の刑事和解は,被告人と被害者等との間で民事上の争いについて合意が成立した場合,共同で公判調書への記載を求める制度である。
申立ては弁論終結までに行い,公判調書の記載は裁判上の和解と同一の効力を有する。
同条2項は,被告人以外の者が保証又は連帯して責任を負うことを約した場合の記載も定めるが,家族であるだけで当然に賠償義務を負うものではない。
損害賠償命令の対象外の事件や,請求の相手方・範囲が異なる事件等では,民事訴訟その他の手続を検討する。
刑事事件の進行を待っている間にも民事時効は別に問題となるため,刑事手続の期限と民事時効を並行して管理する。
第3 財産を調べる手続を選ぶ
1 財産開示の要件
民事執行法197条は,執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権者について,最近の配当等で完全な弁済を受けられなかった場合,又は既知の財産への執行でも完全な弁済を得られないことを疎明した場合等の要件を定める。
裁判所の財産開示の案内は,債務者に出頭して財産の状況を陳述してもらい,その結果を踏まえて執行を検討する手続と説明している。
原則として,申立て前3年以内に財産開示期日で陳述をした債務者への再実施には制限があり,財産の不開示,新たな財産取得,雇用終了等の例外事由を確認する。
申立てのために,全財産へ実際に差押えを行うことが常に必要というわけではなく,197条のいずれの要件によるかを明らかにする。
2 第三者から得る情報の種類
| 情報 | 主な条文・注意点 |
|---|---|
| 預貯金等 | 207条。銀行等を選択し,197条1項各号等の要件を確認する |
| 不動産 | 205条。財産開示期日における手続の実施と,原則としてその期日から3年以内という条件がある |
| 勤務先 | 206条。生命・身体侵害の損害賠償請求権等に利用が限定され,財産開示の先行実施等も必要となる |
勤務先情報の取得は,犯罪被害の賠償であればすべて使える制度ではない。
例えば,財産被害だけの損害賠償請求について,生命・身体侵害の請求と同じ条件で206条を利用できるとは限らない。
情報取得は,原則として財産を調べる手続であり,その情報から債権差押え等を別に検討する。
令和8年4月からの養育費等のワンストップ執行手続は別の特則であり,犯罪被害賠償一般へそのまま適用されるわけではない。
制度の違いは,裁判所の情報取得の案内で確認できる。
第4 差押えと実際の取立てを進める
債務名義,執行文,送達等の必要な準備は,債務名義の種類と電子的に作成されたものかどうかに応じて確認する(民事執行法22条・25条・29条)。
加害者の銀行預金を差し押さえる場合は対象債権を特定し,給与の場合は勤務先と差押禁止範囲を確認する。
給与全額を差し押さえることはできず,民事執行法152条の制限がある。
養育費等の扶養義務に関する差押禁止範囲の特則を,犯罪被害賠償にも当然に適用することはできない。
債権差押えの効力は第三債務者への送達時に生じるが,取立てが可能になる時期は別に確認する(同法145条・155条)。
同法155条は,債務者への送達後の期間,給与等の取立てに関する特則,取立て後の届出及び長期間支払を受けていない場合の届出等を定める。
差押命令を取得した段階で管理を終えず,送達日,取立可能日,実際の入金と届出を記録する。
第5 未払いの残額と時効を管理する
1 判決等の確定と手続の終了を記録する
民法169条は,確定判決等によって確定した権利について,10年より短い時効期間を10年とする。
ただし,確定時に弁済期が到来していない債権には同条2項の例外がある。
分割払いの合意では,各支払期限,期限の利益喪失条項,支払履歴も確認する。
強制執行,財産開示,第三者情報取得等については,民法148条による完成猶予・更新を検討する。
手続が終了した場合と,申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しで終了した場合では扱いが異なるため,申立日だけを記録して「10年延びた」と扱ってはならない。
| 管理する事項 | 確認資料 |
|---|---|
| 債務名義・確定・弁済期 | 判決等,確定資料,和解条項,各支払期限 |
| 現在の残額 | 支払・取立履歴,元本・利息・費用の計算 |
| 回収手続の経過 | 申立日,送達日,終了・取下げ・取消しとその理由 |
| 時効満了候補日 | 適用条文,各手続の終了日,承認等の資料 |
詳しくは,判決で確定した債権の消滅時効は10年及び強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新を参照されたい。
2 破産・免責と公的支援
破産法253条1項2号・3号は,悪意の不法行為,故意又は重大な過失による生命・身体侵害等の損害賠償請求権について,免責の例外を定める。
「犯罪の被害だからすべて免責されない」とも,「破産したから請求はすべて消える」とも一律に説明せず,各号の要件を確認する。
非免責であることも,現在の資力から直ちに回収できることを意味しない。
公的給付や法律援助は,加害者の財産からの取立てと区別して検討する。
給付と賠償の調整も制度ごとに確認し,同じ損害について重複して受領できると説明しない。
第6 政策上の要望と現行制度を区別する
第5次犯罪被害者等基本計画の印刷8頁~9頁は,債務名義の取得,財産調査,時効の完成猶予・更新等を説明するとともに,養育費と同様の履行確保の特別な取扱い,時効期間の延長・廃止の要望を紹介している。
計画に要望が記載されたことだけで,犯罪被害賠償一般について時効が廃止されたり,先取特権が付与されたりしたことにはならない。
回収支援では,現行制度を利用するための具体的な準備と,制度改革への要望を分けて説明する。
被害者の経済的・心理的負担も踏まえ,回収費用,見込める財産,継続管理の必要性を共有することが大切である。
第7 出典
① 犯罪被害者等保護法19条・24条・35条・38条
② 民事執行法22条・25条・29条・145条・152条・155条・197条・205条~207条
③ 民法148条・169条
④ 破産法253条1項2号・3号
⑤ 裁判所財産開示・情報取得
⑥ 法務省公判段階での被害者支援
⑦ 第5次犯罪被害者等基本計画印刷8頁~9頁
法令は令和8年10月7日時点のe-Gov掲載条文を確認した。
個別の申立てでは,債務名義の種類,請求権の性質,経過措置及び申立先裁判所の最新の書式・運用を確認する必要がある。