第1 交通事故の後遺障害を考えるときの出発点
1 後遺症が残ることと等級認定は同じではない
交通事故の治療後も痛み,しびれ,関節の動かしにくさ,記憶や注意の問題などが残った場合は,症状固定後の後遺障害と,それによる損害賠償を検討することになる。
ただし,症状が残ることだけで自賠責保険の後遺障害等級が認定されるわけではない。
国土交通省の説明では,事故による傷害との相当因果関係と,症状の存在が医学的に認められることが必要であり,自動車損害賠償保障法施行令別表第一又は第二に該当するものが対象となる。
本記事は,自賠責保険・共済の認定手続を中心に,等級,申請,慰謝料及び必要資料の全体を説明する。
令和8年10月4日現在の法令と公表資料を確認した。
個々の傷病の検査や測定方法は第4の関連記事,診断書の作成は第5,認定に不服がある場合は第8から進める。
2 現在の段階から確認する
| 現在の段階 | 最初に確認すること | 本記事の案内 |
|---|---|---|
| 治療中で症状が残っている | 担当医の治療方針,症状の推移,保険会社が示す支払終了の理由 | 第2の症状固定 |
| 診断書の作成を考えている | 現在の様式,症状固定日,診療記録・検査との整合 | 第5の診断書・資料 |
| 申請方法を選ぶ | 事前認定と被害者請求,提出資料と窓口 | 第6の認定手続 |
| 非該当又は予想より低い等級だった | 判断理由,提出済み資料,補充すべき争点 | 第8の異議申立て等 |
| 認定され,示談案が届いた | 慰謝料と逸失利益の内訳,過失相殺,既払金 | 第7の損害額 |
第2 症状固定から認定・賠償までの流れ
1 症状固定は保険会社の支払終了と区別する
国土交通省の手続案内は,症状固定を,症状が安定し,一般に認められた医療を行っても医療効果が期待できなくなった時と説明し,医師が判断するものとしている。
症状固定は「痛みが全て消えた日」という意味ではなく,治療による改善をどこまで期待できるかという判断に関係する。
保険会社が治療費の支払終了を提案した日や,事故から一定の月数が経過した日を,そのまま症状固定日と決めないことが重要である。
担当医には,①現在残る症状,②これまでの治療効果,③今後予定する治療,④改善の見込みを確認する。
治療費の支払終了が問題となる場合は治療費打切りと慰謝料,むち打ち症の場合は症状固定時期と判断要素を参照されたい。
2 医師の診断と認定手続の役割は異なる
医師は,傷病名,残存症状,医学的所見,検査結果及び予後を診断書に記載する。
その資料等を用いた損害調査を経て,自賠責保険会社・共済組合が支払について判断する。
したがって,医師に希望等級を書いてもらえば認定される,あるいは診断書だけで認定が完結するという仕組みではない。
実務上の順序は,①治療経過と症状固定の確認,②後遺障害診断書と裏付け資料の準備,③事前認定又は被害者請求,④結果と理由の確認,⑤認定内容を踏まえた損害額の検討である。
申請中も,資料の提出状況と請求権の時効は別々に管理する必要がある。
第3 後遺障害等級と自賠責の支払限度額
1 別表第一の介護を要する障害を分けて読む
自賠責の等級表は,自動車損害賠償保障法施行令別表第一と別表第二に分かれている。
別表第一は,神経系統の機能・精神又は胸腹部臓器に著しい障害を残し,介護を要する障害について定める。
常時介護を要する第1級の限度額は4000万円,随時介護を要する第2級は3000万円である。
同じ「1級」「2級」でも別表第二と金額が異なるため,認定通知では別表と等級・号数を一組で確認する。
2 別表第二の1級から14級までの早見表
次の金額は,自賠責における後遺障害による損害の支払限度額である。
慰謝料だけの額でも,加害者に対する損害賠償総額でもなく,等級が認定されれば常に満額を受け取れるという意味でもない。
| 等級 | 自賠責の支払限度額 |
|---|---|
| 1級 | 3000万円 |
| 2級 | 2590万円 |
| 3級 | 2219万円 |
| 4級 | 1889万円 |
| 5級 | 1574万円 |
| 6級 | 1296万円 |
| 7級 | 1051万円 |
| 8級 | 819万円 |
| 9級 | 616万円 |
| 10級 | 461万円 |
| 11級 | 331万円 |
| 12級 | 224万円 |
| 13級 | 139万円 |
| 14級 | 75万円 |
等級は傷病名だけで決まるものではない。
例えば骨折後でも,関節機能,骨の変形・短縮,神経症状など,残った障害によって確認事項が変わる。
複数の障害がある場合も単純な足し算ではなく,併合,派生関係又は総合評価を検討する。
等級・号数対照表では,自賠責と労災の号数が異なる箇所も説明している。
14級各号の基準,14級9号の確認事項及び金額の計算例は,交通事故の後遺障害14級で説明している。
第4 残った症状・部位から関連記事を探す
1 痛み・しびれと関節の動かしにくさ
①むち打ち症の治療経過と症状固定は,むち打ち症の症状固定時期で説明している。
②12級13号・14級9号と画像所見の関係は,後遺障害14級9号でも画像所見はあるのかを参照されたい。
③関節の動かしにくさは,可動域制限の後遺障害等級から,対象関節の測定方法へ進める。
④靱帯損傷後の不安定性と可動域制限は,靱帯損傷と後遺障害等級,膝の半月板は半月板損傷の後遺障害で扱っている。
2 骨折と頭部外傷
①大腿骨は,骨折部位ごとの後遺障害等級と,複数の後遺障害の併合を参照されたい。
②踵骨は,踵骨骨折後の後遺障害で,足関節等の機能と疼痛を分けて説明している。
③頭部外傷後の記憶・注意・行動等の変化は,高次脳機能障害7級4号と,損害保険料率算出機構の高次脳機能障害の案内を参照されたい。
これらは障害を検討する入口であり,特定の記事の等級が,自分にもそのまま当てはまることを示すものではない。
障害者手帳,障害年金,労災保険及び自賠責保険は制度が異なるため,他制度の等級を自賠責の等級へそのまま置き換えない。
第5 後遺障害診断書と必要資料
1 まず存在する医療資料を整理する
後遺障害診断書は,治療を担当した医師に,提出先が受け付ける現在の様式で作成を依頼する。
事故日,初診日,入通院・転院・手術の経過及び症状固定日を時系列にし,残った症状と診療記録・画像・検査結果が対応しているかを確認する。
診断書に記載された左右,日付,傷病名又は測定値に誤りが疑われるときは,発行した医療機関に根拠資料を示して確認を依頼する。
患者や家族が診断書を書き換えるものではない。
2 資料の役割を分ける
| 資料 | 主に確認する問題 |
|---|---|
| 交通事故証明書・事故発生状況報告書 | 事故の特定と受傷の経緯 |
| 治療中の診断書・診療報酬明細書・診療録等 | 初診時から症状固定までの症状と治療経過 |
| 後遺障害診断書 | 症状固定時の残存症状,所見,測定値及び予後 |
| 画像データ・読影報告・検査結果 | 障害に対応する医学的な裏付け |
| 収入資料・仕事や家事への支障の記録 | 逸失利益等の損害額 |
損害調査の案内には,提出書類と,必要に応じた医療機関等への照会が示されている。
申請経路,傷病,既に提出した資料等によって必要書類が変わるため,受付窓口の一覧と照合する。
追加検査は,既存資料で解けない具体的な医学上の問題がある場合に担当医と検討するものであり,申請のために一律に検査を増やすものではない。
依頼前・受領後・提出前の詳しい確認は,後遺障害診断書の作成と認定申請で説明している。
第6 事前認定と被害者請求
1 提出経路と負担の違い
事前認定は,任意保険会社を通じて後遺障害の有無・程度を確認する経路である。
被害者請求は,被害者又は代理人が,加害車両の自賠責保険会社・共済組合に直接請求する経路である。
大阪地方裁判所の交通事件の案内も,訴訟前の等級認定について,両方の経路を紹介している。
| 確認事項 | 事前認定 | 被害者請求 |
|---|---|---|
| 主な窓口 | 資料を預ける任意保険会社 | 加害車両の自賠責保険会社・共済組合 |
| 書類の準備 | 保険会社の取りまとめ内容を確認する | 必要書類の取得・確認・提出を自ら行う |
| 共通する注意 | 診断書と医学資料の整合を確認する | 同左。経路だけで認定が保証されるものではない |
提出する資料を確認したい,示談交渉が難航しているなどの事情がある場合は,被害者請求を検討する理由となる。
一方,資料取得の費用や手間,既に提出されている資料,代理人への依頼の有無も含めて選ぶ必要がある。
2 調査中に確認することと期限
資料を提出しても,不足資料の取り寄せ,医療機関への照会,地区本部・本部等での審査に時間を要する場合がある。
認定結果が届くまでの期間を一律に約束できるものではなく,長さだけから認定の可否を推測しない。
窓口には,①受付・送付状況,②不足資料,③照会の回答待ちの有無,④次の連絡予定を確認し,自分が行うべき追加提出を特定する。
国土交通省の案内では,後遺障害の被害者請求は,症状固定日の翌日から3年以内とされている。
平成22年3月31日以前の事故は2年とされるため,古い事故では扱いが異なる。
加害者に対する民事上の損害賠償請求とは別に確認し,期限が近い場合は結果待ちを続けるだけにせず,保険会社等に時効更新の手続を確認する。
詳しくは自賠責保険の請求権の消滅時効と,交通事故の損害賠償請求権の起算点を参照されたい。
第7 後遺障害慰謝料・逸失利益と示談金
1 慰謝料と逸失利益は別の損害である
後遺障害慰謝料は,障害が残ったことによる精神的・肉体的苦痛に関する損害である。
逸失利益は,障害による労働能力への影響から,将来得られるはずの収入等が失われる損害である。
治療期間に関する入通院慰謝料や休業損害とも区別して,示談案の費目と対象期間を読む必要がある。
例えば14級では,現行の自賠責支払基準の慰謝料等は32万円であり,後遺障害による損害全体の限度額は75万円である。
「14級の慰謝料が75万円」と読むのは誤りである。
自賠責の支払額と民事賠償の検討額も同一ではないため,慰謝料の3つの基準と早見表で算定の場面を分けて確認する。
2 等級だけで最終金額は確定しない
逸失利益を検討するときは,基礎収入,労働能力喪失率,喪失期間及び中間利息控除を確認する。
職業,担当業務,家事の内容,事故前後の収入,仕事を維持するための努力や周囲の援助によって,立証すべき事情が異なる。
給与が下がっていないことだけから結論を出さず,実際の業務への支障と将来の不利益を具体化する必要がある。
後遺障害逸失利益の立証と計算では,会社員,家事従事者及び自営業者を分けて説明している。
示談案では,損害額の合計に加え,過失相殺,既払金,保険給付等の控除と,今回追加で受け取る額を分けて確認する。
慰謝料の目安に自賠責既払額をそのまま加算するなど,同じ損害を重ねて数えない。
示談案の見方で,内訳・控除・清算条項を確認してから合意の可否を検討する。
第8 非該当・低い等級に不服がある場合
1 まず判断理由と提出資料を読む
結果に不服がある場合は,認定通知,判断理由及び提出済み資料の一覧を確保する。
損害保険料率算出機構のFAQは,保険会社等から等級と判断理由の情報提供を受け,追加の詳細情報も請求できることを説明している。
事故との因果関係,残存障害の程度,画像・検査の裏付けなど,どの点が認められなかったのかを分けることが,次の対応の出発点である。
2 異議申立て・紛争処理・訴訟を選ぶ
異議申立ては保険会社・共済組合を窓口に行い,主張と,それを裏付ける追加資料があれば提出する。
自賠責保険・共済紛争処理機構への申請や,民事訴訟による解決も選択肢となるが,扱う争い,手続,費用・時間及び判断の効果は同じではない。
同じ資料を繰り返すだけにせず,理由のどの部分に何を補う必要があるかを先に検討する。
非該当・低い等級への異議申立てと必要資料で具体的に説明している。
大阪地方裁判所の案内は,自賠責で認定された障害の程度が民事訴訟で必ずそのまま採用されるものではないと説明している。
非該当を含む自賠責の結果と,裁判所での損害の立証は分けて考える必要があるが,訴訟なら必ず認められるという意味ではない。
第9 相談前にそろえる事項
相談時には,①事故日と症状固定日の状況,②残る症状と部位,③診断書・画像・検査の有無,④申請経路と提出日,⑤結果通知と理由,⑥示談案と既払金,⑦収入及び仕事・家事への支障を,分かる範囲で整理するとよい。
初回申請の準備なのか,非該当の見直しなのか,認定後の損害額なのかによって,先に確認する資料が変わる。
期限が近い場合,示談書への署名を求められている場合又は複数の障害・既往症が関係する場合は,その事情を相談の初めに伝える。
交通事故の相談の流れ,弁護士費用及び交通事故のお問い合わせも参照されたい。
第10 出典・参考資料
①e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」第2条・別表第一・第二(等級と保険金額)。
②国土交通省「限度額と補償内容」(後遺障害の説明,限度額及び慰謝料等)。
③国土交通省「支払までの流れと請求方法」(請求方法,必要書類,症状固定及び期限)。
④損害保険料率算出機構掲載「自賠責保険支払基準」第3・別表Ⅰ(等級認定と損害額の算定)。
⑤損害保険料率算出機構「自賠責保険(共済)損害調査のしくみ」5頁~7頁・10頁~12頁(請求,資料及び調査)。
⑥損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」及び「自賠責の損害調査に関するよくあるご質問」(調査・情報提供・異議申立て)。
⑦国土交通省「支払に疑問,不服がある場合には」(不服への対応)。
⑧大阪地方裁判所「交通事件の審理について」1のイ(事前認定・被害者請求と民事訴訟の関係)。