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相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

第1 本件の結論

1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する

本記事が扱うのは,①被相続人の死亡により相続が開始し,②遺留分権利者が土地について旧法上の遺留分減殺請求を行い,③その後に土地区画整理事業の換地処分が効力を生じた場合である。
調査基準日は令和8年9月28日であり,令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される改正前民法を前提とする。

結論として,土地の評価基準時は,評価の目的によって二つに分かれる。
遺留分侵害の有無及び減殺の割合を決めるための評価は相続開始時であり,その時点の従前地を評価する。
これに対し,換地処分後に旧民法1041条の価額弁償によって現物返還を免れる場合は,原則として現実の弁償時の換地を評価し,訴訟では事実審口頭弁論終結時の換地を評価する。

清算金については,換地処分時までに減殺請求による共有関係が成立していれば,その共有所有権について生じる交付清算金又は徴収清算金は,原則として従前地の共有持分と同じ割合で各共有者に按分される。
ただし,清算金が減殺請求時に土地とともに「移動」するのではなく,換地処分の公告日の翌日に,各共有者と施行者との間で持分割合に応じた独立の債権又は債務として確定するという関係である。

評価の目的評価対象評価基準時
遺留分侵害及び減殺割合の計算相続開始時の従前地相続開始時
減殺後の権利の帰属従前地から移行する換地の持分換地処分の効力発生時に権利の客体が換地へ移るため,新たな減殺割合の計算はしない
旧民法1041条の価額弁償換地処分後の換地の持分現実の弁償時。訴訟では事実審口頭弁論終結時
換地計画で定められた清算金共有持分に対応して別個に確定する清算金債権又は債務換地処分の公告日の翌日。原則として同日時点の共有持分割合で按分

2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない

相続開始時評価では,後に成立した換地の現在価格を用いるのではなく,相続開始時に存在した従前地の客観的交換価値を求める。
相続開始時に土地区画整理事業が既に進行していた場合は,当時の事業計画,仮換地指定,使用収益制限及び市場の認識が従前地の価格形成要因になり得るが,その後の換地処分によって判明した結果を当然に相続開始時へ遡及させるものではない。

換地処分後の価額弁償では,反対に,既に権利の客体が従前地から換地へ移っているため,存在しない従前地の現在価格を仮定するのではなく,換地の現実の価額を基礎とするのが相当である。
ただし,この結論は遺留分法と土地区画整理法を組み合わせた解釈であり,本件と同じ時系列を直接判断した公刊裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲

1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる

平成30年法律第72号による遺留分制度の改正は,原則として令和元年7月1日に施行された。
同法附則2条により,施行日前に開始した相続については原則として従前の例によるため,被相続人が令和元年6月30日までに死亡した場合は,減殺請求又は換地処分が同年7月1日以後であっても旧法事案となり得る。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が生じるだけであり,土地の共有持分を物権的に取得する旧法の構造は採られていない。
したがって,本記事の「減殺請求後に持分が換地へ移る」という説明は,改正前民法が適用される相続に限られる。

2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる

旧法上,遺留分減殺請求の意思表示が効力を生じると,遺留分を侵害する限度で目的物について遺留分権利者の権利が生じる。
最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号,遺留分減殺請求事件)は,旧法事案について,価額弁償請求権が確定的に取得されるまでは,遺留分権利者が減殺によって取得した共有持分権及びこれに基づく現物返還請求権を有することを前提としている。

本件では,換地処分の前に減殺請求がされているため,換地処分時には受遺者又は受贈者だけでなく,遺留分権利者も従前地の持分権者となっていることを出発点とする。
減殺請求前に受遺者が土地を第三者へ売却した場合とは,評価対象及び適用される法理が異なる。

第3 遺留分を計算するための従前地の評価

1 基礎財産は相続開始時に評価する

改正前民法1029条は,遺留分算定の基礎を,被相続人が相続開始時に有した財産の価額に贈与財産の価額を加え,債務の全額を控除したものとしていた。
同法1044条が準用する同法904条も,受贈者の行為による贈与財産の滅失又は価格の増減がある場合について,相続開始時の評価へそろえるための規律を置いていた。

最高裁昭和51年3月18日第一小法廷判決(昭和49年(オ)第1134号,遺留分減殺請求事件,民集30巻2号111頁)は,金銭の生前贈与について,贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算して評価すべきものとした。
この判例と旧法の条文構造から,土地についても遺留分侵害及び減殺割合を計算する価格時点は相続開始時となる。

2 相続開始時の事業段階を価格へ反映する

評価対象は,相続開始時に被相続人が有していた従前地である。
土地の地番,地積,形状及び利用状況だけでなく,相続開始時までにされた事業計画決定,仮換地指定,使用収益開始日の指定,建築制限その他の公法上の負担又は期待も,市場参加者が価格へ織り込む事情であれば考慮する。

後日の換地の地積又は形状が確定していることは,相続開始時の価格を立証するための資料にはなり得る。
しかし,評価時点を固定する以上,相続開始後に初めて生じた地価変動,工事完成による利益又は換地処分後の取引事例を,時点修正をせずに相続開始時価額として用いることはできない。

第4 減殺請求後の換地処分による権利の移行

1 従前地の法律関係は換地へ移る

土地区画整理法104条1項は,換地処分の公告日の翌日から,換地計画で定められた換地を従前の宅地とみなす。
換地が定められなかった従前地について存する権利は,換地処分の公告があった日が終了した時に消滅する。

福岡高等裁判所昭和45年8月27日判決(昭和44年(ネ)第722号,換地代金請求事件,高裁民集23巻3号486頁)は,土地区画整理法104条1項について,従前地に成立していた法律関係が換地へ移り,権利の客体として新旧の土地が入れ替わる趣旨であると説明した。
この判決は遺留分事件ではないが,換地処分の私法上の効果を検討する上で参考になる。

2 遺留分権利者の共有持分も換地へ移る

減殺請求によって従前地に生じた共有持分も,土地区画整理法104条1項の対象となる従前地の権利である。
したがって,換地処分の効力発生後は,減殺割合を再計算するのではなく,従前地について生じていた共有持分が換地について存続すると考えられる。

例えば,減殺請求によって従前地の10分の2の持分を取得していた場合,換地処分後も原則として換地の10分の2の持分として扱う。
従前地と換地の面積が異なっても,面積比だけで持分割合を変更するものではなく,不均衡は換地計画上の清算金によって調整される。

3 清算金は原則として同じ持分割合で按分される

土地区画整理法94条は,従前地と換地との不均衡を金銭で清算し,換地計画でその額を定めるものとしている。
同法104条8項により,清算金は換地処分の公告日の翌日に確定する。

本件では,換地処分時までに,減殺請求によって従前地についての共有関係が既に成立している。
そのため,当該共有所有権について生じる清算金は,交付清算金であるか徴収清算金であるかを問わず,原則として従前地の共有持分と同じ割合で各共有者に按分される。

例えば,遺留分権利者が減殺請求によって従前地の10分の2の持分を取得していた場合,当該共有所有権に対応する交付清算金の10分の2を取得し,又は徴収清算金の10分の2を負担するのが原則である。
大阪市土地区画整理事業清算金取扱要領3条及び堺市土地区画整理事業清算金取扱規則2条3項も,共有に係る権利についての清算金を各共有者の持分に従って按分する取扱いを定めている。

もっとも,これは,減殺請求時にはまだ発生していない清算金が土地の付随物として遺留分権利者へ移動するという意味ではない。
清算金は,換地処分の公告日の翌日に,その時点の各共有者と施行者との間で,持分割合に応じた独立の債権又は債務として直接確定する。

福岡高等裁判所昭和45年8月27日判決は,清算金を換地処分時に施行者との間で確定する独立の債権又は債務として扱い,換地処分後に換地が譲渡されても当然には譲受人へ移らないとした。
したがって,換地処分時に持分割合に応じて確定した清算金債権又は債務は,その後に換地の持分だけが譲渡されても当然には譲受人へ移らない。

ただし,各共有者への最終的な通知額は,同一人が有する複数の土地又は権利についての清算金の集合若しくは相殺,仮清算金,抵当権等がある場合の供託,又は当事者間の特約,債権譲渡若しくは債務引受によって変わり得る。
また,減殺による持分が権利者別清算金明細に反映されていない場合は,持分割合どおりに通知又は支払がされたとは限らないため,換地計画,各筆各権利別清算金明細,通知の名宛人及び実際の支払又は徴収を確認し,施行者との関係と当事者間の精算関係を分けて検討する必要がある。

第5 換地処分後に価額弁償をする場合

1 価額弁償の基準時は相続開始時ではない

旧民法1041条の価額弁償は,遺留分侵害を計算する制度ではなく,減殺により返還すべき現物を金銭へ置き換える制度である。
最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(昭和50年(オ)第920号,持分権移転登記等請求事件,民集30巻7号768頁)は,弁償額を現実に弁償される時の目的物価額によるものとし,訴訟ではこれに最も近い事実審口頭弁論終結時を基準とした。

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1746号,遺言無効確認等請求事件,民集51巻2号448頁)も,事実審口頭弁論終結時の価額による弁償を条件とする引換給付判決を認めている。
相続開始時の価額と口頭弁論終結時の価額が異なることは,評価目的が異なるためである。

2 換地処分後は換地の持分を評価する

換地処分後に価額弁償をする時点では,従前地についての権利は既に換地へ移っている。
そのため,価額弁償の目的物は換地についての共有持分であり,事実審口頭弁論終結時における換地全体の客観的交換価値へ減殺による持分割合を乗じるのが基本となる。

この方法は,従前地を相続開始時に評価して定めた減殺割合を維持しつつ,現物返還に代わる金額だけを現在の換地価額へ置き換えるものである。
換地処分による面積の増減を理由に減殺割合そのものを再計算すると,相続開始時評価と価額弁償時評価を混同することになる。

3 清算金の二重計上を避ける

換地の鑑定評価では,評価対象を土地自体とし,既に独立して確定した交付清算金を土地価格へ重ねて加算しないようにする。
他方,徴収清算金が残っており,市場価格へ影響する契約上又は事実上の負担がある場合は,誰が債務者であるか及び鑑定上どのように扱ったかを明示する必要がある。

換地処分時までに減殺請求による共有関係が成立していれば,清算金は原則として同じ持分割合で各共有者に按分される。
もっとも,その清算金債権又は債務は換地の持分とは別個に確定するため,換地の現在価額を基礎とする価額弁償額へ清算金を当然に加算又は控除するのではなく,既払又は未払の清算金を誰に帰属させるかを別の請求原因及び抗弁として整理する必要がある。

第6 事案によって結論が変わる分岐

1 価額弁償を選ばず現物返還を求める場合

価額弁償が成立せず,遺留分権利者が現物返還を求める場合は,評価額の支払ではなく,換地についての共有持分の確認又は移転登記が中心となる。
この場合でも相続開始時評価は減殺割合の算定に必要であるが,換地の現在価額を金銭判決のために確定する必要は通常ない。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決によれば,受遺者又は受贈者が価額を弁償する旨を表示しただけでは,遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得するものではない。
金銭による解決を前提にする前に,双方の意思表示及び請求内容を確認する必要がある。

2 換地が定められなかった場合

換地計画で従前地に対応する換地が定められなかった場合は,土地区画整理法104条1項により従前地の権利が消滅するため,換地持分の評価という処理はできない。
この場合は,清算金その他の代替的な権利の内容及び帰属を特定し,現物返還が不能となったことによる金銭関係を別に検討する。

3 減殺請求前に処分があった場合

本件と異なり,受遺者又は受贈者が減殺請求前に目的物を第三者へ譲渡した場合は,従前地の持分が減殺請求によって先に生じていたとはいえない。
最高裁平成10年3月10日第三小法廷判決(平成8年(オ)第20号,共有持分売却代金請求事件,民集52巻2号319頁)は,譲渡価額が譲渡当時に客観的に相当であった場合,その譲渡価額を基準として価額を算定するとした。

したがって,出来事の順番が「相続開始,換地処分又は売却,減殺請求」であれば,本記事の結論をそのまま適用できない。
相続開始日,減殺の意思表示が到達した日及び換地処分の公告日を登記事項証明書,内容証明郵便,換地処分通知書等によって固定することが先決である。

第7 主張立証及び鑑定で準備する資料

1 二つの評価書を区別する

遺留分侵害及び価額弁償の双方が争われる場合,原則として二つの価格時点を区別した評価資料が必要となる。
一つは相続開始時の従前地評価であり,もう一つは事実審口頭弁論終結時に近い換地評価である。

鑑定事項には,①評価対象となる従前地又は換地,②価格時点,③従前地と換地の対応関係,④相続開始時の区画整理事業の段階,⑤仮換地の使用収益状況,⑥清算金を土地価格へ含めるか否かを明示する。
単に「本件土地の時価」と指定すると,対象土地と価格時点が食い違うおそれがある。

2 換地関係資料を時系列でそろえる

少なくとも,①相続開始時及び現在の登記事項証明書,②従前地及び換地の公図・地積測量図,③仮換地指定通知書,④使用収益開始日の通知,⑤換地計画のうち対象地及び対象となる共有持分に関する部分,⑥対象地の各筆各権利別清算金明細,⑦換地処分通知書及び公告,⑧減殺請求の到達資料,⑨価額弁償に関する双方の意思表示を確認する。

相続開始時の従前地評価で区画整理事業の進捗が価格形成要因として争われる場合に限り,事業計画の決定又は変更その他の当時の進捗が分かる資料を追加する。

清算金の算定方法自体が争われる場合は,対象地固有の部分に加え,換地計画の一般的な評価基準又は清算金算定基準も確認する。

評価書には,従前地と換地の地番,地積及び位置を対照できる資料を添付し,別の土地を評価していないことを検証できるようにする。

第8 関連記事

1 旧法の評価基準時及び計算方法

遺留分算定の基礎財産と旧民法1041条の価額弁償について一般的な評価基準時を確認する場合は,旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時を参照されたい。
基礎財産,個別的遺留分額,侵害額及び減殺率の計算手順は,旧法の遺留分減殺請求の計算方法-基礎財産・侵害額・減殺率と判例タイムズ1345号の計算シート(AI作成)で説明している。

2 訴額との区別

不動産の持分移転登記請求における訴額は,本記事で扱う相続開始時価額又は価額弁償額とは別の手続上の金額である。
詳しくは,遺留分減殺請求の訴額の算定-不動産の持分移転登記請求,土地の2分の1,建物,訴額と価額弁償額・弁護士費用の違い(AI作成)を参照されたい。

第9 まとめ

1 本件では二つの基準時を使い分ける

相続開始後に遺留分減殺請求がされ,その後に換地処分があった場合,遺留分侵害及び減殺割合は,相続開始時の従前地価額によって計算する。
減殺請求により生じた従前地の共有持分は,換地処分によって換地へ移り,換地処分後に旧民法1041条の価額弁償をする場合は,現実の弁償時又は事実審口頭弁論終結時の換地価額を基礎とする。

清算金は,換地処分時までに成立した共有持分と同じ割合で各共有者に按分されるのが原則であるが,土地の付随物として移動するのではなく,換地処分の公告日の翌日に独立の債権又は債務として確定する。
そのため,換地の土地価格との二重計上を避けるとともに,各筆各権利別清算金明細,名宛人,相殺,供託及び実際の支払又は徴収を確認する必要がある。
結論を出す前に,「何のための評価か」,「どの土地を評価するか」及び「どの日を価格時点とするか」を分けて指定することが重要である。

第10 出典・参考資料

1 法令

① e-Gov法令検索・民法(令和元年6月30日時点)(改正前民法904条,1029条,1041条及び1044条)
② e-Gov法令検索・民法(令和8年9月28日時点)(民法1043条,1044条及び1046条)
③ e-Gov法令検索・土地区画整理法(令和8年9月28日時点)(同法89条,94条,104条及び110条)
④ 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則2条

2 裁判例

① 最高裁昭和51年3月18日第一小法廷判決(昭和49年(オ)第1134号,遺留分減殺請求事件,民集30巻2号111頁)
② 最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(昭和50年(オ)第920号,持分権移転登記等請求事件,民集30巻7号768頁)
③ 最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1746号,遺言無効確認等請求事件,民集51巻2号448頁)
④ 最高裁平成10年3月10日第三小法廷判決(平成8年(オ)第20号,共有持分売却代金請求事件,民集52巻2号319頁)
⑤ 最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号,遺留分減殺請求事件)
⑥ 福岡高等裁判所昭和45年8月27日判決(昭和44年(ネ)第722号,換地代金請求事件,高裁民集23巻3号486頁)

3 清算金の取扱資料

① 大阪市土地区画整理事業清算金取扱要領3条(共有に係る権利についての清算金は持分に従って按分する。)
② 堺市土地区画整理事業清算金取扱規則2条3項(共有者に対する清算金はそれぞれの持分に応じて按分する。ただし,連署による異なる申出を認める。)