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マンションの建替え決議の要件―令和7年改正区分所有法の4分の3特例,団地一括建替え決議及び最高裁平成21年4月23日判決(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象と基準日

本記事は,分譲マンション等の区分所有建物を建て替えるための建替え決議について,決議の要件,決議後の手続,団地内の建物の一括建替え決議及びその合憲性を判断した最高裁判所の判決を整理するものである。
建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)は,老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)により改正され,改正後の規定は令和8年4月1日から施行されている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文と,同法の施行前日である同年3月31日時点の条文をe-Gov法令検索及びe-Gov法令APIの時点指定で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判決の全文を確認した。

2 結論

①建替え決議は,集会において,区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数ですることができる(区分所有法62条1項)。
②令和7年改正により,建物が耐震性・火災に対する安全性の不足,外壁等の剝離・落下のおそれ,給排水管等の劣化又はバリアフリー基準への不適合として法務大臣が定める基準に該当するときは,この要件が4分の3に緩和された(同条2項)。
③所在等不明区分所有者として裁判所の裁判を受けた区分所有者は議決権を有せず(同法38条の2),決議の母数から除かれる。
④建替え決議に参加しない区分所有者に対しては,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができ(同法63条5項),専有部分の賃借人に対しては賃貸借の終了を請求することができ,賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒むことができる(同法64条の2)。
⑤団地内の建物の一括建替え決議は,改正前は団地全体の5分の4以上の賛成に加えて各棟の3分の2以上の賛成を要したが,改正後は,団地全体の5分の4以上(一定の場合は4分の3以上)の賛成があれば足り,ただし,いずれかの棟で区分所有者又は議決権の3分の1を超える反対があればすることができないという形に改められた(同法70条1項・2項)。
⑥最高裁判所第一小法廷平成21年4月23日判決は,改正前の区分所有法70条について,区分所有権の行使に対する他の区分所有者の意思を反映した制限は区分所有権自体に内在するものであるなどとして,憲法29条に違反しないとした。
⑦建替えのほか,建物更新決議,建物敷地売却決議,建物取壊し敷地売却決議及び取壊し決議も,改正後は多数決ですることができる。

第2 建替え決議の基本

1 多数決の要件

区分所有法62条1項は,集会においては,区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数で,建物を取り壊し,かつ,当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(建替え決議)をすることができると定める。
区分所有者の頭数と議決権の双方について,5分の4以上の賛成が必要である。

2 決議で定める事項

建替え決議においては,①再建建物の設計の概要,②建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額,③その費用の分担に関する事項,④再建建物の区分所有権の帰属に関する事項を定めなければならない(区分所有法62条4項)。
③と④の事項は,各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない(同条5項)。

3 集会の招集と説明会

建替え決議を会議の目的とする集会の招集通知は,会日より少なくとも2か月前に発しなければならない(区分所有法62条6項本文)。
招集通知では,議案の要領のほか,建替えを必要とする理由,建替えをしない場合に建物の効用の維持又は回復に要する費用の額及びその内訳,修繕計画の内容並びに修繕積立金の額も通知しなければならない(同条7項)。
集会を招集した者は,会日より少なくとも1か月前までに,区分所有者に対する説明会を開催しなければならない(同条8項)。

第3 令和7年改正による変更

1 4分の3に緩和される場合

区分所有法62条2項は,建物が次のいずれかに該当する場合には,同条1項の「五分の四」を「四分の三」とすると定める。
①地震に対する安全性に係る建築基準法等の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していないとき(1号)
②火災に対する安全性に係る建築基準法等の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していないとき(2号)
③外壁,外装材その他これらに類する建物の部分が剝離し,落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当するとき(3号)
④給水,排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして法務省令で定めるものに限る。)の損傷,腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当するとき(4号)
⑤高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律14条5項に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していないとき(5号)
法務大臣は,これらの基準を定め,又は変更するときは,あらかじめ国土交通大臣と協議する(同条3項)。
改正前の62条1項は,「区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数」と定めるだけで,このような緩和の規定はなかった。

2 所在等不明区分所有者の除外

区分所有法38条の2第1項は,裁判所は,区分所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができないときは,それ以外の区分所有者又は管理者の請求により,それ以外の区分所有者による集会の決議をすることができる旨の裁判をすることができると定める。
同条2項により,この裁判で所在等不明区分所有者とされた者は,集会における議決権を有しない。
改正後の62条1項は「区分所有者(議決権を有しないものを除く。)」と定めており,このような議決権を有しない区分所有者は,決議の母数から除かれることになる。

3 施行日と経過措置

令和7年法律第47号の附則1条は,同法を令和8年4月1日から施行すると定める。
同法附則2条2項は,施行日前に改正前の区分所有法の規定により招集の手続が開始された集会については,なお従前の例によると定める。
施行日前に招集手続を始めた集会での決議には,改正前の要件が適用されることになる。

4 改正の趣旨

令和7年4月25日の衆議院国土交通委員会で,国土交通大臣は,法律案の提案理由として,マンションの総数が700万戸を超える一方で,建物と区分所有者の二つの老いが進行し,外壁の剝落等の危険や集会決議の困難化などの課題が顕在化していると説明した。

第4 決議後の手続

1 参加の催告と売渡し請求

建替え決議があったときは,集会を招集した者は,遅滞なく,建替え決議に賛成しなかった区分所有者に対し,建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない(区分所有法63条1項)。
催告を受けた区分所有者は2か月以内に回答しなければならず,回答しなかった者は建替えに参加しない旨を回答したものとみなされる(同条3項・4項)。
その期間が経過したときは,建替えに参加する区分所有者等又は買受指定者は,その後2か月以内に,建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対し,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる(同条5項)。
建物の明渡しにより生活上著しい困難を生ずるおそれがあり,かつ,建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないと認めるべき顕著な事由があるときは,裁判所は,代金の支払又は提供の日から1年を超えない範囲内で,明渡しにつき相当の期限を許与することができる(同条6項)。
建替え決議の日から2年以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には,売り渡した者は,買主が支払った代金に相当する金銭を提供して,権利を売り渡すべきことを請求することができる(同条7項本文)。

2 建替えの合意

建替え決議に賛成した各区分所有者,建替えに参加する旨を回答した各区分所有者及び区分所有権又は敷地利用権を買い受けた各買受指定者は,建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意をしたものとみなされる(区分所有法64条)。

3 賃借人への賃貸借の終了請求

令和7年改正で新設された区分所有法64条の2第1項は,建替え決議があったときは,建替えに参加する区分所有者等又は賃貸されている専有部分の区分所有者は,当該専有部分の賃借人に対し,賃貸借の終了を請求することができると定める。
同条2項により,賃貸借は,請求があった日から6か月を経過することによって終了する。
同条3項により,専有部分の区分所有者は,賃借人に対し,賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければならない。
同条5項により,賃借人は,補償金の提供を受けるまでは,専有部分の明渡しを拒むことができる。
使用貸借には同条1項・2項が準用され(同法64条の3),配偶者居住権には同条が準用される(同法64条の4)。
借地借家法28条の立退料の算定方法は,居住用建物の立退料の算定方法の記事で紹介している。

第5 団地内の建物の一括建替え決議

1 改正前の規定

改正前の区分所有法70条1項は,団地内の建物の全部が専有部分のある建物であり,団地内の建物の敷地が団地内の区分所有者の共有に属する場合で,所定の規約があるときは,団地の集会において,団地内の区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で一括建替え決議をすることができると定めていた。
同項ただし書は,その集会において,各団地内建物ごとに,それぞれその区分所有者の3分の2以上の者であって議決権の合計の3分の2以上の議決権を有するものがその一括建替え決議に賛成した場合でなければならないとしていた。

2 改正後の規定

改正後の区分所有法70条1項本文は,団地の集会において,団地内の区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数で一括建替え決議をすることができると定める。
同項ただし書は,「当該集会において、当該団地内建物のうちいずれか一以上の建物につき、その区分所有者の三分の一を超える者又は第三十八条に規定する議決権の合計の三分の一を超える議決権を有する者がその一括建替え決議に反対した場合は、この限りでない。」と定める。
同条2項により,団地内の建物の全部が62条2項各号のいずれかに該当する場合には,1項本文の「五分の四」は「四分の三」となる。

3 新旧の比較

項目改正前改正後
団地全体の要件区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の賛成(団地内の建物の全部が62条2項各号に該当するときは4分の3以上)
各棟の要件各棟の区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成いずれかの棟で区分所有者の3分の1を超える者又は議決権の3分の1を超える議決権を有する者が反対したときはすることができない

改正前は各棟で3分の2以上の「賛成」を積極的に要求していたのに対し,改正後は,各棟で3分の1を超える「反対」がないことを要件とする形になった。
条文の文言上,棄権や欠席をした区分所有者は,改正前は各棟の「賛成」に数えられず,改正後は「反対」にも数えられないため,同じ賛成の割合でも結論が変わり得る。

第6 最高裁平成21年4月23日判決

1 事案

最高裁判所第一小法廷平成21年4月23日判決(平成20年(オ)第1298号,集民230号435頁)は,改正前の区分所有法70条が憲法29条に違反するかが争われた事件である。
上告人らは,同条によれば,各建物について,当該建物の区分所有者ではない他の建物の区分所有者の意思が反映されて建替え決議がされることになり,建替えに参加しない少数者の権利が侵害され,その保護のための措置も採られていないなどと主張した。

2 判断

同判決は,区分所有権の行使は必然的に他の区分所有者の区分所有権の行使に影響を与えるものであるから,「区分所有権の行使については,他の区分所有権の行使との調整が不可欠であり,区分所有者の集会の決議等による他の区分所有者の意思を反映した行使の制限は,区分所有権自体に内在するものであって,これらは,区分所有権の性質というべきものである。」とした。
その上で,1棟建替えについて5分の4以上の多数で建替え決議ができるとした62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて十分な合理性を有するとした。
団地内全建物一括建替えについては,団地全体として計画的に良好かつ安全な住環境を確保し,その敷地全体の効率的かつ一体的な利用を図ろうとするものであり,団地全体では62条1項と同一の議決要件を定め,各建物単位では区分所有者の数及び議決権数の過半数を相当超える議決要件を定めているから,70条1項の定めはなお合理性を失うものではないとした。
また,建替えに参加しない区分所有者は売渡し請求により区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされており,その経済的損失については相応の手当がされているとした。
そして,「規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば,区分所有法70条は,憲法29条に違反するものではない。」とし,このことは最高裁判所大法廷平成14年2月13日判決の趣旨に徴して明らかであるとした。
裁判官全員一致の意見である。

3 改正後の規定との関係

同判決が判断したのは改正前の70条であり,同判決は,各棟の区分所有者及び議決権の各3分の2以上という要件が過半数を相当超えることを合理性の根拠の一つとしている。
改正後の70条は,各棟の要件を「3分の1を超える反対がないこと」に改め,一定の場合には団地全体の要件も4分の3に緩和した。
改正後の規定の憲法適合性について判断した裁判例は,本記事の調査範囲(後記第9の4)では見当たらなかった。

第7 建替え以外の再生手法

令和7年改正で新設された次の決議も,区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権(建物敷地売却決議と建物取壊し敷地売却決議は,敷地利用権が数人で有する権利であるときにすることができ,これに加えて敷地利用権の持分の価格)の各5分の4以上の多数ですることができるようになった。
①建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復のために共用部分の形状の変更をし,これに伴い全ての専有部分の形状,面積又は位置関係の変更をする建物更新決議(区分所有法64条の5)
②建物及びその敷地を売却する建物敷地売却決議(同法64条の6)
③建物を取り壊し,その敷地を売却する建物取壊し敷地売却決議(同法64条の7)
④建物を取り壊す取壊し決議(同法64条の8)
これらの規定は,いずれも62条2項を準用しており(各条3項),建物が同項各号のいずれかに該当する場合には,多数の割合が4分の3となる。

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第9 出典・参考資料

1 法令

①建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)38条の2,62条~64条の8,70条,附則(令和7年法律第47号)1条・2条
②同法の令和8年3月31日時点の条文(e-Gov法令APIの時点指定で取得)62条,70条

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷平成21年4月23日判決(平成20年(オ)第1298号,集民230号435頁,裁判所ウェブサイト)

3 国会会議録

①第217回国会衆議院国土交通委員会第11号(令和7年4月25日)国土交通大臣の提案理由説明

4 調査範囲

改正後の区分所有法62条2項各号の法務大臣が定める基準の内容は調査していない。
令和8年9月27日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「一括建替え決議」の語により検索したところ4件が表示され,そのいずれも改正後の70条について判断したものではなかった。
マンションの建替え等の円滑化に関する法律その他の関係法律の改正内容は,本記事の対象としていない。