第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料
この記事は,裁判所の予算の規模を,国の一般会計予算に占める割合と,人件費・物件費・施設費の内訳から,平成31年度から令和8年度までの当初予算と令和9年度の概算要求で整理するものである。
裁判所の予算額と内訳は,裁判所ウェブサイトの各年度の「予算の概要」及び「概算要求の概要」によった。
国の一般会計予算の総額と裁判所所管の金額は,財務省の予算書・決算書データベースに掲載されている各年度の一般会計予算(当初)の歳出データを千円単位で合計して求めた。
本記事の基準日は令和8年9月19日である。
本記事は生成AIを用いて資料を照合し,資料に書かれた事実と,資料から考えられることを区別して整理したものである。
2 結論
令和8年度の裁判所予算は3495億円であり,国の一般会計予算122.3兆円の約0.29%である。
この割合は,平成31年度の約0.32%から少しずつ下がっており,国の予算が増える一方で,裁判所の予算は3200億円台から3500億円弱の間で推移してきた。
補正予算を反映した後の予算で昭和23年度以降を見ると,割合は昭和30年度の0.906%が最も高く,その後はおおむね低下を続け,令和2年度には0.186%となった。
内訳では人件費が大部分を占めるが,その比率は令和4年度の84%から令和8年度の80%へ下がり,令和9年度の要求・要望額では74%である。
他方,物件費は令和4年度の384億円から令和8年度の579億円に増え,令和9年度の要求・要望額では800億円である。
第2 国の一般会計予算に占める割合
1 年度別の割合
各年度の一般会計予算(当初)について,裁判所所管の金額と一般会計の総額を比べると,次のとおりである。
| 年度 | 裁判所 | 一般会計総額 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 平成31年度 | 3256億円 | 101.5兆円 | 0.321% |
| 令和2年度 | 3266億円 | 102.7兆円 | 0.318% |
| 令和3年度 | 3254億円 | 106.6兆円 | 0.305% |
| 令和4年度 | 3228億円 | 107.6兆円 | 0.300% |
| 令和5年度 | 3222億円 | 114.4兆円 | 0.282% |
| 令和6年度 | 3310億円 | 112.6兆円 | 0.294% |
| 令和7年度 | 3352億円 | 115.2兆円 | 0.291% |
| 令和8年度 | 3495億円 | 122.3兆円 | 0.286% |
割合は,予算書の歳出データの千円単位の合計から計算し,小数点以下第4位を四捨五入した。
裁判所の金額は億円未満を四捨五入しており,裁判所ウェブサイトの各年度の「予算の概要」の予算額(百万円単位)と一致する。
令和7年度の一般会計総額は,衆議院及び参議院で修正された後の成立予算の金額である。
2 読み方
裁判所予算の割合が下がっているのは,裁判所予算が減ったからではなく,国の一般会計予算が裁判所予算より大きく増えたためである。
平成31年度から令和8年度までに,裁判所予算は約7%増えたのに対し,一般会計総額は約21%増えている。
一般会計総額には,国債費,地方交付税交付金及び社会保障関係費が含まれている。
そのため,この割合は,裁判所の予算が他の行政分野と比べて多いか少ないかを直接示すものではない。
国の予算の中での位置付けを示す一つの目安として読むのが適当である。
なお,日弁連委員会ニュース2022年1月1日号15頁の「もっと知ってください、裁判所予算」も,令和3年度当初予算について,裁判所予算の国家予算に占める割合を「0・305%」とし,昭和40年度は「0・761%程度」であったと述べている。
上の表の令和3年度の0.305%は,この記載と一致する。
第3 昭和23年度以降の長期推移
1 資料と数値の性質
長期の推移は,財務省の「財政統計」の第5表 明治26年度以降一般会計歳出所管別予算によった。
同表の注記によれば,同表の計数は所管ごとの成立予算によっており,年度の途中で所管名が変わった場合は年度首現在の所管で表示している。
同表の計数は,補正予算を反映した後の金額である。
例えば平成30年度の裁判所所管は,当初予算3212億1051万6000円に,第1号補正の2億7390万円の追加と第2号補正の2億5997万8000円の減額を加えた3212億2443万8000円であり,同表の金額と千円単位で一致する。
そのため,同表で計算した割合は,第2の当初予算で計算した割合とは一致しない。
裁判所は,昭和22年5月3日の裁判所法の施行により設けられたため,昭和22年度は司法省所管の予算も計上されている。
そこで,本記事では昭和23年度以降を比べる。
2 年度別の割合
同表の裁判所所管の金額と一般会計の合計を5年ごとに示すと,次のとおりである(令和元年度,令和2年度及び令和8年度を加えた。)。
| 年度 | 裁判所 | 一般会計(補正後) | 割合 |
|---|---|---|---|
| 昭和23年度 | 20.2億円 | 4731億円 | 0.427% |
| 昭和25年度 | 49.5億円 | 6646億円 | 0.745% |
| 昭和30年度 | 91.8億円 | 1.0兆円 | 0.906% |
| 昭和35年度 | 146億円 | 1.8兆円 | 0.826% |
| 昭和40年度 | 284億円 | 3.7兆円 | 0.758% |
| 昭和45年度 | 519億円 | 8.2兆円 | 0.632% |
| 昭和50年度 | 1278億円 | 20.8兆円 | 0.613% |
| 昭和55年度 | 1827億円 | 43.7兆円 | 0.418% |
| 昭和60年度 | 2203億円 | 53.2兆円 | 0.414% |
| 平成2年度 | 2680億円 | 69.7兆円 | 0.385% |
| 平成7年度 | 3015億円 | 78.0兆円 | 0.386% |
| 平成12年度 | 3205億円 | 89.8兆円 | 0.357% |
| 平成17年度 | 3209億円 | 86.7兆円 | 0.370% |
| 平成22年度 | 3217億円 | 96.7兆円 | 0.333% |
| 平成27年度 | 3127億円 | 99.7兆円 | 0.314% |
| 令和元年度 | 3267億円 | 104.7兆円 | 0.312% |
| 令和2年度 | 3263億円 | 175.7兆円 | 0.186% |
| 令和5年度 | 3269億円 | 127.6兆円 | 0.256% |
| 令和8年度 | 3495億円 | 125.4兆円 | 0.279% |
割合は,同表の千円単位の金額から計算し,小数点以下第4位を四捨五入した。
令和8年度の一般会計の合計には,令和8年6月5日に成立した補正予算(第1号)が反映されている(同補正予算には裁判所所管の計上がない。)。
3 読み方
昭和23年度から令和8年度までの各年度で割合が最も高いのは昭和30年度の0.906%であり,昭和32年度も0.901%である。
その後,割合は昭和43年度に0.638%,昭和56年度に0.404%と下がり,平成元年度から平成20年度までは0.36%から0.40%程度,平成21年度から令和元年度までは0.30%から0.33%程度で推移した。
令和2年度は0.186%と最も低い。
同年度は,補正予算により一般会計の合計が175.7兆円に増えた年度であり,裁判所所管の金額はほぼ変わっていないため,割合が大きく下がっている。
令和3年度以降は0.23%から0.28%程度である。
昭和30年度と令和8年度を比べると,裁判所所管の金額は約38倍になったのに対し,一般会計の合計は約124倍になっている。
割合の低下は,裁判所予算が減ったためではなく,一般会計全体の伸びが裁判所予算の伸びを大きく上回ったことによるものである。
なお,前記の日弁連委員会ニュース2022年1月1日号15頁は,昭和40年度の割合を「0・761%程度」としており,同表で計算した0.758%とほぼ同じである。
同記事の計算の基礎(当初予算か補正後予算か)は,同記事からは確認できない。
第4 人件費・物件費・施設費の内訳
1 年度別の内訳
裁判所ウェブサイトの各年度の「予算の概要」に掲載されている円グラフによれば,内訳は次のとおりである。
| 年度 | 人件費 | 物件費 | 施設費 |
|---|---|---|---|
| 平成31年度 | 2711億円(83%) | 370億円(11%) | 175億円(6%) |
| 令和2年度 | 2724億円(84%) | 372億円(11%) | 170億円(5%) |
| 令和3年度 | 2733億円(84%) | 374億円(12%) | 146億円(4%) |
| 令和4年度 | 2698億円(84%) | 384億円(12%) | 146億円(4%) |
| 令和5年度 | 2631億円(82%) | 445億円(14%) | 146億円(4%) |
| 令和6年度 | 2712億円(82%) | 452億円(14%) | 146億円(4%) |
| 令和7年度 | 2711億円(81%) | 501億円(15%) | 140億円(4%) |
| 令和8年度 | 2796億円(80%) | 579億円(17%) | 120億円(3%) |
| 令和9年度要求・要望 | 2777億円(74%) | 800億円(21%) | 199億円(5%) |
各年度の「予算の概要」には,四捨五入等の理由により端数において計数が合致しない場合がある旨の注記がある。
2 人件費
人件費は2600億円台から2800億円弱で推移しており,裁判所予算の8割前後を占めている。
裁判所の予算の大部分は,裁判官及び裁判所職員の給与等であり,予算の総額を大きく動かす要素は人員と給与水準である。
裁判所職員の定員の推移は裁判所職員の予算定員の推移,令和9年度概算要求における定員合理化は令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無(AI作成)で扱っている。
3 物件費
物件費は,令和4年度の384億円から令和8年度の579億円まで,4年間で約5割増えている。
同じ期間の「予算の概要」には,裁判手続等のデジタル化関連経費が主要経費として掲げられており,令和8年度は179億4800万円である。
令和9年度概算要求の概要では,同経費は387億4300万円とされ,そのうち198億7500万円が「強く豊かな日本」投資枠による要求である。
物件費の増加とデジタル化関連経費の増加は同じ時期に起きているが,物件費の増加額のうちどれだけがデジタル化によるものかは,「予算の概要」からは分からない。
デジタル化関連経費の内容は,令和8年度概算要求に基づく,裁判手続のデジタル化の説明(AI作成)で扱っている。
4 施設費
施設費は,平成31年度の175億円から令和8年度の120億円まで減っている。
令和9年度の要求・要望額では199億円であり,そのうち33億1300万円が「強く豊かな日本」投資枠による要求である。
第5 令和9年度概算要求
1 要求・要望額
裁判所ウェブサイトの令和9年度概算要求の概要によれば,裁判所所管の要求・要望額は3776億3300万円であり,令和8年度予算額より281億6000万円(8.1%)多い。
この金額には,「要望」56億9600万円及び「強く豊かな日本」投資枠231億8800万円が含まれている。
2 国の概算要求の中での割合
財務省の令和9年度一般会計概算要求・要望額・『「強く豊かな日本」投資枠』(令和8年9月4日)によれば,一般会計全体の概算要求・要望額等の合計は143兆656億円であり,裁判所は概算要求額3487億円,要望額57億円,『「強く豊かな日本」投資枠』232億円,計3776億円である。
これを基に計算すると,裁判所の割合は約0.26%である。
もっとも,概算要求の段階の総額は,各省各庁の要求をそのまま集計したものであり,同表の注記も精査の結果金額が変動し得るとしている。
そのため,この割合は成立予算の割合と比べることはできない。
第6 予算額についての見方
1 弁護士会の意見
関東弁護士会連合会は,平成28年3月16日,司法予算の大幅増額を求める理事長声明を出し,最高裁判所が地域司法の充実に必要な司法予算の大幅増額を要求し,政府及び財務省がこれを受けて大幅に増額させた予算案を国会に提出し,国会がこれを承認すべきであるとした。
日弁連の裁判官制度改革・地域司法計画推進本部も,前記の委員会ニュース2022年1月1日号15頁及び同年12月1日号16頁の「もっと知ってください、裁判所予算」で,裁判所予算の仕組みと概算要求の読み方を会員向けに説明している。
2 予算編成の過程について公表されていること
裁判所の概算要求と成立予算の間の差が,どの段階で,誰の判断で生じたのかは,公表資料からは分からない。
この点は,裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったこと(AIリライト)で扱っている。
裁判所の予算に関する国会答弁資料(令和4年11月10日の参議院法務委員会)は,山中弁護士のX(旧Twitter)で公開されている。
同じく,「裁判所が財務省と予算交渉する場合,まずは割高な裁判官の給料を下げろと要求されていることが分かる文書」についての最高裁判所の不開示通知書も公開されている。
3 執務環境との関係
予算の規模は,裁判所の執務環境にも関係する。
最高裁判所庁舎の夏季の冷房運転の方針については,最高裁庁舎の令和7年夏季節電・冷房運転方針――原文書と執務環境からの検証(AIリライト)で扱っている。
第7 関連記事
年度ごとの概算要求,当初予算,補正予算及び決算の金額は,次の記事で突き合わせている。
突き合わせた資料は年度によって異なり,令和7年度及び令和8年度は決算を含まず,令和8年度は暫定予算を含む。
裁判所の令和2年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)
裁判所の令和3年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)
裁判所の令和4年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)
裁判所の令和5年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)
裁判所の令和6年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)
裁判所の令和7年度予算-概算要求,当初予算及び補正予算の突合(AI作成)
裁判所の令和8年度予算-概算要求,暫定予算,当初予算及び補正予算の突合(AI作成)
予算の日程は裁判所の予算はいつ決まるか-概算要求基準の閣議了解から国会での成立まで(令和2年度~令和9年度の日程)(AI作成),資料の入手先は最高裁判所の概算要求書(説明資料)及び予算・決算の数値をどこから取るか-概算要求書,予算書,各目明細書,決算書及び決算検査報告の使い分け(AI作成)で扱っている。
第8 出典
1 裁判所ウェブサイト
各年度の「予算の概要」(平成31年度から令和8年度まで)及び令和9年度概算要求の概要
いずれも裁判所の予算の各年度の頁に掲載されている。
2 財務省
予算書・決算書データベースの平成31年度から令和8年度までの一般会計予算(当初)の歳出データ(CSV)
令和9年度一般会計概算要求・要望額・『「強く豊かな日本」投資枠』(令和8年9月4日)
令和7年度予算(国会修正の経緯)
「財政統計」第5表 明治26年度以降一般会計歳出所管別予算(令和8年9月19日取得)
予算書・決算書データベースの平成25年度補正予算(第1号)及び平成30年度補正予算(第1号及び第2号)の歳出データ(CSV)
3 その他
日本弁護士連合会「日弁連委員会ニュース」2022年1月1日号15頁及び同年12月1日号16頁
関東弁護士会連合会「司法予算の大幅増額を求める理事長声明」(平成28年3月16日)