第1 この記事の対象
弁護士も税理士も,依頼者との間で委任契約を結び,専門家として事務を処理する。したがって責任の出発点は同じ民法の規律であるが,実際に損害賠償請求の場面に立つと,両者の争われ方は相当に異なる。弁護士の過誤では「その主張をしていれば勝てたのか」という仮定的な判断が壁になるのに対し,税理士の過誤では「本来いくらの税額であったか」という計算問題に還元されやすい。この違いは,義務を基礎づける規範の置かれ方,損害の立証構造,賠償責任保険の設計,法人化したときの責任のいずれにも及んでいる。
この記事では,民法及び両職業法の条文,弁護士職務基本規程,並びに裁判所ウェブサイトで全文を確認した最高裁判所の判決4件を手がかりに,弁護士の賠償責任と税理士の賠償責任を項目ごとに対照する。本記事はAIを用いて条文及び判決原文を確認しながら作成したものであり,制度の比較を目的としている。個別の事案で責任が認められるかどうかは,委任契約の内容,専門家が受け取っていた情報,救済手段が残っているかどうかによって結論が変わるため,以下の整理をそのまま当てはめられるわけではない。
第2 出発点は同じ——委任契約上の善管注意義務
1 民法の規律
弁護士も税理士も,依頼を受けて事務を処理する以上,民法644条の適用を受ける。同条は「受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う。」と定めており,この注意義務に違反すれば民法415条1項により債務不履行に基づく損害賠償責任が生じ,同時に民法709条の不法行為責任が問題となることもある。専門家の責任が「結果を保証する責任」ではなく「相当な注意を尽くす責任」であるという点も両者に共通する。
もっとも,善管注意義務の内容は職業ごとに具体化されるほかない。何をどこまで説明し,どこまで調査すべきかは民法からは出てこず,それぞれの職業法,会規及び委任契約の解釈によって埋められる。したがって,弁護士と税理士の差は,民法のレベルではなく,その具体化のレベルで生じている。
2 使命規定の違い
弁護士法1条1項は「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。」と定め,同条2項は「弁護士は,前項の使命に基き,誠実にその職務を行い,社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と定める。誠実義務の名宛人は依頼者だけではなく,職務全体に及ぶ構造になっている。
これに対し,税理士法1条は「税理士は,税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそつて,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と定める。「独立した公正な立場」及び「納税義務の適正な実現」という文言は,税理士が依頼者の利益だけを追求する立場に立つのではないことを示している。税理士の業務は税理士法2条1項が税務代理,税務書類の作成及び税務相談の3つとして限定列挙しており,弁護士の職務のような一般条項的な広がりを持たない点も対照的である。
3 説明義務を基礎づける規範がどこにあるか
弁護士については,日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程が受任時の行為規範を明文化している。同規程29条1項は「弁護士は,事件を受任するに当たり,依頼者から得た情報に基づき,事件の見通し,処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について,適切な説明をしなければならない。」と定め,同条2項は依頼者に有利な結果となることを請け合い又は保証することを禁じる。さらに同規程30条は委任契約書の作成を義務付け,同規程36条は「弁護士は,必要に応じ,依頼者に対して,事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し,依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」と定め,同規程37条1項は事件処理に当たり必要な法令の調査を怠ってはならないと定める。民事責任の判断そのものは会規で決まるわけではないが,善管注意義務の内容を認定する際の手がかりが,成文の形で用意されていることになる。
税理士法には,これに対応する受任時の一般的な説明義務の規定が置かれていない。同法41条の3は助言義務という見出しを持つが,その内容は「委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実」等を知ったときに直ちに是正を助言すべきものであり,脱税等の是正に向けられた義務である。有利な特例を選べる可能性を個別に照会せよという趣旨の規定ではない。他方で税理士法41条1項は「税理士は,税理士業務に関して帳簿を作成し,委嘱者別に,かつ,一件ごとに,税務代理,税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。」と定め,同条2項でこの帳簿を閉鎖後5年間保存すべきものとしている。説明義務の明文はない代わりに,業務の内容と顛末を記録する法定の義務が課されているという構造の違いは,後に見る立証の場面で意味を持つ。
第3 義務違反の認定——弁護士側の到達点
1 最判平成25年4月16日の事案
弁護士の説明義務違反を正面から認めた最高裁判決として,最高裁判所第三小法廷平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号,民集67巻4号1049頁)がある。事案は次のとおりである。弁護士が平成17年6月30日に依頼者から消費者金融業者に対する合計約250万円の債務の整理を受任し,利息制限法所定の制限利率による充当計算をしたところ,3社に対して過払金が発生していることが判明した。弁護士はこの3社から合計159万6793円の過払金を回収したが,残る1社との和解が成立しなかったため,その債務を放置して消滅時効の完成を待つ方針を採ることとし,依頼者にその旨を伝えて「債務整理終了のお知らせ」と題する書面を送付した。回収した過払金からは報酬及び費用が控除され,残額が依頼者に送金された。
原審は,依頼者が方針に異議を述べず黙示に承諾したと認められることなどから説明義務違反はないと判断して請求を棄却したが,最高裁はこれを破棄して差し戻した。
2 判示——承諾があっても免責されない
最高裁は,時効の完成を待つ方針が「債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるばかりか」,債権者が回収を断念することを期待し得る合理的な根拠がうかがえない以上,提訴を受けて「法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクをも伴うもの」であったと指摘した。その上で,回収した過払金から報酬等を控除してもなお48万円を超える残金があったことを踏まえ,これを用いて残債務を弁済するという「一般的に採られている債務整理の方法」も現実的な選択肢として十分に考えられたとした。
そして最高裁は,受任した弁護士は「委任契約に基づく善管注意義務の一環として」,方針に伴う不利益及びリスクを説明するとともに,回収した過払金をもって債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務を負っていたと述べ,「仮に,Aが時効待ち方針を承諾していたとしても,それによって説明義務違反の責任を免れるものではない。」と判示した。依頼者の同意があったという抗弁が,説明が尽くされていない限り機能しないことを明示した点に,この判決の実務上の意味がある。
3 補足意見が描いた説明・報告義務の全体像
この判決には田原睦夫裁判官及び大橋正春裁判官の補足意見が付されている。田原裁判官の補足意見は,受任時の説明義務について,債務整理の依頼を受けた弁護士は破産,個人再生,特定調停,私的整理といった手続について依頼者の資力や対応能力に応じて説明すべき責任があり,各手続に要する時間及びコスト,依頼者自らが行うべき事務の負担,免責の見込みや保証人への影響といったメリット及びデメリットを説明することが求められると述べる。依頼者が経済的に困窮している場合には法律扶助手続の説明も含まれるとしている。
受任後については,途中経過の報告義務を免除する特段の合意がない限り,善管注意義務の一環として受任事務の遂行状況を適宜報告し説明すべき義務を負うとし,特に過払金返還請求のような積極財産の処理では「民法644条による直接の効果であり,同法645条の請求による報告義務とは別の義務である」と位置付けている。依頼者から請求がなかったことは,報告を怠った弁護士の免責理由にならないという整理である。補足意見は判例としての拘束力を持つものではないが,説明義務の内容を具体的に描いた記述として参照価値が高い。
4 射程
この判決が直接判断したのは,債務整理において時効の完成を待つ方針を採る場面である。判決文は当該事案の事実関係を詳細に摘示した上で「このような事情の下においては」と限定を付しており,あらゆる分野の弁護士業務について一律の説明義務を定立したものではない。もっとも,義務の根拠を委任契約に基づく善管注意義務の一環と構成し,採用しようとする方針の不利益及びリスクと,採り得た他の選択肢の双方を説明対象としている点は,方針選択を伴う事件処理一般に応用しやすい枠組みである。
他方で,最高裁がこの枠組みを適用したのは債務整理の1件であるから,これをもって弁護士の説明義務一般について確立した判断枠組みが示されたと述べることはできない。他の分野で同様の説明義務が認められるかどうかは,当該業務において現実的な選択肢が存在したか,依頼者が被る不利益がどの程度のものか,依頼者が自ら判断するために必要な情報をどれだけ持っていたかによって,個別に判断されることになる。
第4 義務違反の認定——税理士側に特徴的な類型
1 税制選択上の過誤
税理士の過誤として繰り返し裁判で現れてきたのは,依頼者に有利な課税方式を選ぶための届出書を期限内に提出しなかったという類型である。後述する最高裁判決2件の事実関係は,いずれもこの類型に属する。一方は,簡易課税制度選択適用届出書を提出済みの依頼者について,簡易課税制度によらない一般の課税方式の方が有利であったにもかかわらず,簡易課税制度選択不適用届出書の提出を怠ったまま一般の課税方式で申告し,税務署長から簡易課税制度を適用した増額更正を受けた事案である。他方は,基準期間の課税売上高が小規模であった依頼者について課税事業者選択届出書の提出を怠りながら,課税事業者であることを前提に仕入れに係る消費税額の控除不足額5607万4873円の還付を求める申告をし,申告が無効とされて還付を受けられなかった事案である。
これらの類型では,専門家がどのような法的評価を誤ったかというよりも,特定の書面を特定の期限までに出したかどうかという事実が責任の分かれ目になる。消費税の届出書の提出期限は,原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日とされており(制度の概要は消費税に関するメモ書きを参照),期間の経過とともに選択の余地が失われる。
2 期限管理という構造
この構造は消費税に限られない。租税特別措置法にも,適用を受けるかどうかを納税者の選択に委ねる規定が置かれている。例えば住宅借入金等特別控除について,認定住宅等に係る上乗せを定める同法41条6項は「その者の選択により」当該控除額を計算した金額として「適用することができる」と規定する。同法41条36項は確定申告書への記載及び明細書等の添付を適用要件とし,同条37項は記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときの宥恕を定めるが,この宥恕は文言上,同条1項について定められたものである。
したがって税理士の過誤は,法解釈の誤りよりも,適用可能性のある特例を洗い出して期限内に選択する事務の管理の失敗として現れやすい。弁護士の過誤が方針選択と説明の問題として現れやすいのと対照的である。
第5 損害と因果関係——最も大きな違い
1 弁護士——仮定的判断の壁
前記の最判平成25年4月16日は,説明義務違反を認めた上で「損害の点等について更に審理を尽くさせるため」原審に差し戻している。義務違反が認定されても,それによってどのような損害が生じたのかは別問題として残るという構造が,主文からそのまま読み取れる。
弁護士の過誤で損害を立証しようとすると,多くの場合,適切な処理がされていれば得られたはずの結果を仮定的に想定しなければならない。時効期間を徒過した,主張を提出しなかった,証拠を提出しなかったといった過誤であれば,本来の訴訟で勝訴していたか,いくらの認容を得られたかを,別の訴訟の中で審理してもらうことになる。相手方の資力や和解の成否といった不確定要素も入り込むため,義務違反が明白でも賠償額の算定に至らないことがある。説明義務違反の事案で慰謝料構成が用いられるのは,この立証の困難と無関係ではない。
2 税理士——税額差という計算問題
税理士の過誤では,この仮定的判断が大幅に単純化される。最判平成15年7月18日は事案を説明する中で,届出書の提出を怠ったために依頼者に有利な一般の課税方式の適用を受けられず簡易課税制度による税額が確定したことについて,「この税額と一般の課税方式が適用されるものとして算定された税額との差額が依頼者に生じた損害であるとして,依頼者からその賠償の請求を受けた事案である」と述べている。本来適用されるべきであった課税方式による税額と現に確定した税額との差額が,そのまま損害額の計算式になる。
損害額が大きくなりやすいのもこの類型の特徴である。前記の課税事業者選択届出書の事案では,税理士は依頼者から損害賠償請求訴訟を提起され,訴訟上の和解により和解金4000万円を支払っている。受け取った報酬の規模と賠償額との落差は,専門家責任のうちでも税務分野で特に大きくなりやすい。
3 更正の請求で取り戻せるかが損害の成否を左右する
税理士の過誤で損害が確定するかどうかは,税法上の救済手段が残っているかどうかにかかっている。国税通則法23条1項1号は,更正の請求ができる場合を,申告書に記載した課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたこと」により納付すべき税額が過大であるときと定める。有利な特例を選ぶかどうかが納税者の選択に委ねられている場合,当初申告でその選択をしなかった申告は,法律の規定に従っていなかったわけでも計算を誤ったわけでもないから,この要件に当たらないと解する余地が大きい。選択をやり直す趣旨の更正の請求は認められにくく,過誤がそのまま確定した損害に転化することになる。
弁護士の過誤についても,判決が確定してしまえば実質的に取り返す手段はほとんど残らないという点では同じである。ただし税務の場面では,更正の請求ができるかどうかという入口の判断が制度上明確に切り分けられており,そこを検討しないまま賠償請求に進むと,本来消えるはずの損害を争うことになりかねない。依頼者側でも専門家側でも,まず救済手段の有無を確認することが順序として先に来る。
第6 賠償責任保険の構造
1 税理士職業賠償責任保険の免責条項
税理士職業賠償責任保険は,被保険者である税理士が業務の遂行に当たり職業上相当な注意をしなかったことに基づき提起された損害賠償請求について,法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険である。前記2件の最高裁判決が扱った約款には,「当会社は,納税申告書を法定申告期限までに提出せず,または納付すべき税額を期限内に納付せず,もしくはその額が過少であった場合において,修正申告,更正または決定により納付すべきこととなる本税(累積増差税額を含みます。)等の本来納付すべき税額の全部もしくは一部に相当する金額につき,被保険者が被害者に対して行う支払(名目のいかんを問いません。)については,これをてん補しません。」という特約条項が置かれていた。
この条項をそのまま読むと,形式的に過少申告があった場合には広く保険がきかないことになりかねない。実際,最判平成15年7月18日の原審は,過少申告の原因となった税理士の過失の内容を問うことなく一律に免責されると解し,請求を棄却していた。
2 最判平成15年7月18日・最判平成15年9月9日
最高裁判所第二小法廷平成15年7月18日判決(平成12年(受)第1394号,民集57巻7号838頁)は,原審の判断を破棄した。「税理士の賠償すべき損害が不適用届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときには,依頼者に有利な一般の課税方式が適用されないことにより,形式的にみて過少申告があったとしても,特約条項の適用はないと解すべきである。」というのがその判示である。最高裁は,特約条項の趣旨及び目的が,不正な過少申告等に関わった税理士が差額を賠償しその損害を保険でてん補されることによって生じ得る納税申告に係る不正の助長を防止するところにあると捉え,税制選択上の過誤はこれに当たらないとした。
最高裁判所第三小法廷平成15年9月9日判決(平成12年(受)第877号,集民210号565頁)は,課税事業者選択届出書の提出を怠った事案について,同年7月18日判決を参照しつつ同じ結論を採り,特約条項の適用はないとして保険会社の上告を棄却した。約款の文言だけを見れば免責されそうな場面について,条項の趣旨に遡って適用範囲を画した判断が,2か月足らずの間に2件続いたことになる。
3 この判例が示す損害の切り分け
これらの判決が実質的に行っているのは,税理士の過誤による損害のうち「本来納付すべき税額」に相当する部分と,「選択を誤ったために失われた有利な取扱い」に相当する部分とを切り分ける作業である。前者は依頼者がもともと負担すべきものであるから,これを保険でてん補すれば不正を助長しかねない。後者は税理士の過誤がなければ依頼者が現実に得ていた利益であり,保険の対象から外す理由がない。損害額が税額の計算として表現できるからこそ,このような切り分けが可能になっている。
弁護士の賠償責任には,これに対応する切り分けの仕組みが判例上明確に現れていない。弁護士の過誤による損害は,本来得られたはずの訴訟結果という仮定的な利益として立ち上がるため,「依頼者がもともと負担すべきであった部分」を機械的に控除するという発想がなじみにくいからである。両者の保険設計の違いは,損害概念の違いの反映であると整理することができる。
第7 法人化しても責任は限定されない
1 弁護士法人
弁護士法30条の15第1項は「弁護士法人の財産をもつてその債務を完済することができないときは,各社員は,連帯してその弁済の責めに任ずる。」と定め,同条2項は法人財産に対する強制執行が効を奏しなかったときも同様とする。株式会社のような有限責任は認められていない。
もっとも弁護士法人には指定社員の制度がある。同条4項は,指定がされ通知がされている場合に,指定事件に関し依頼者に対して負担することとなった債務について,指定社員が連帯して弁済の責めに任ずるとしており,指定を受けていない社員の責任が及ばない場面を作っている。ただし同条6項は,指定を受けていない社員が指定の前後を問わず指定事件に係る業務に関与したときは,関与に当たり注意を怠らなかったことを証明した場合を除き,指定社員と同一の責任を負うと定める。関与した以上,指定の有無だけで責任を免れられる仕組みにはなっていない。
2 税理士法人
税理士法人については,税理士法48条の21第1項が,会社法580条1項をはじめとする合名会社に関する規定を税理士法人の社員について準用している。社員が無限連帯の責任を負う点は弁護士法人と同じである。
これに対し,税理士法には弁護士法30条の15第4項のような指定社員の規定が置かれていない。同法及び関係規定を通覧しても指定社員に相当する制度は見当たらず,特定の事件について責任の範囲を限定する仕組みは用意されていないことになる。法人化によって責任が有限になるわけではない点は両者に共通するが,責任を負う社員の範囲を事件単位で絞る制度の有無という点では差がある。
第8 懲戒制度との関係
1 処分主体
弁護士法56条1項は,弁護士及び弁護士法人が同法若しくは会則に違反し,所属弁護士会の秩序若しくは信用を害し,その他職務の内外を問わず品位を失うべき非行があったときに懲戒を受けると定め,同条2項は「懲戒は,その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が,これを行う。」と定める。同法58条1項により何人も懲戒を求めることができ,綱紀委員会の調査及び懲戒委員会の審査を経て弁護士会が処分をする。行政庁ではなく弁護士会が処分主体となる点が,弁護士自治の中核である(具体的な事由については弁護士の懲戒事由及び弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例を参照)。
税理士については,税理士法45条及び46条により財務大臣が懲戒処分をする。同法44条は懲戒の種類を戒告,2年以内の税理士業務の停止及び税理士業務の禁止の3種と定め,同法47条4項は,財務大臣が懲戒処分をしようとするときは国税審議会に諮りその議決に基づいてしなければならないと定める。処分主体が行政庁である点で弁護士とは構造が異なる(他の士業を含む横断的な比較は弁護士以外の士業の懲戒制度を参照)。
2 除斥期間
弁護士法63条は「懲戒の事由があつたときから三年を経過したときは,懲戒の手続を開始することができない。」と定める。これに対し税理士法47条の3は「懲戒の事由があつたときから十年を経過したときは,懲戒の手続を開始することができない。」と定めており,期間に3倍以上の開きがある。過誤が判明した時点でどちらの手続がなお可能かという実務的な差を生む部分である。
もっとも,懲戒手続と民事上の損害賠償請求は,目的も判断主体も要件も異なる。懲戒処分がされなかったことは注意義務違反がなかったことを意味せず,逆に懲戒処分がされたことが直ちに賠償責任を基礎づけるわけでもない。除斥期間の差は,賠償請求の可否そのものではなく,賠償請求と並行してどの手続を選択できるかという問題として現れる。
3 最判昭和50年6月27日と現行法
税理士に対する懲戒処分については,最高裁判所第二小法廷昭和50年6月27日判決(昭和45年(行ツ)第93号,民集29巻6号867頁)が,効力の発生時期を処分が確定した時としている。同判決は,当時の税理士法が欠格事由を懲戒処分の確定した日から起算していたこと,税理士証票の返還や官報公告,罰則の適用をいずれも処分の確定にかからせていたことを挙げ,「税理士法が懲戒処分の効力の発生に伴う処置やこれを前提とする不利益な効果の付与を懲戒処分の確定にかからせていることから考えると」,効力の発生時期を処分の確定した時としているものと解するのが相当であると述べた。
もっとも,この判断は当時の条文構成を根拠としたものであり,条文はその後改められている。現行の税理士法4条6号は,欠格事由の一つを「懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で,当該処分を受けた日から三年を経過しないもの」と定めており,起算点は「確定した日」ではなく「処分を受けた日」である。同判決を現在の制度の説明としてそのまま用いることはできず,効力の発生時期を論じる際には現行条文に当たり直す必要がある。
第9 期間制限
債務不履行構成による損害賠償請求権は,民法166条1項により,債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間,又は権利を行使することができる時から10年間で時効消滅する。不法行為構成による場合は,民法724条により,被害者が損害及び加害者を知った時から3年間,不法行為の時から20年間である。専門家責任の事案では両構成が併存し得るため,どちらで構成するかによって残された期間が変わる。
税務の過誤では,更正の請求の期間制限も同時に意識する必要がある。国税通則法23条1項は法定申告期限から5年以内と定めており,この期間内であれば,賠償請求に進む前に税務上の救済で損害そのものを消せる可能性がある。逆にこの期間を過ぎてから相談を受けた場合には,救済の選択肢が民事の賠償請求に絞られることになる。
第10 依頼者側及び専門家側の着眼点
1 依頼者側——請求を検討するときの順序
依頼者の立場で専門家の責任を検討するときは,負担の軽い調査から始めるのが合理的である。まず自分の手元にある資料,すなわち委任契約書,受任時に受け取った説明資料,経過報告の書面及びメールを揃える。弁護士との契約であれば,弁護士職務基本規程30条が委任契約書の作成を義務付けているため,通常は契約書が存在するはずであり,その不存在自体が説明義務違反を検討する手がかりになる。税理士との契約であれば,税理士法41条1項が委嘱者別かつ一件ごとに業務の内容及び顛末を記載した帳簿の作成を義務付け,同条2項が閉鎖後5年間の保存を義務付けているから,法定の記録が存在することを前提に開示を求めることができる。
専門家の側だけが保有する資料については,任意の開示要求から始め,得られなければ弁護士会照会,提訴後の文書送付嘱託や文書提出命令へと進むことになるが,いずれも照会先や裁判所の判断を経るため,回答や採用が得られない可能性を織り込んで組み立てる必要がある。税務の過誤では,これらに先立って更正の請求ができるかどうかを確認するのが最も費用対効果が高い。更正の請求で税額が是正されれば損害が消えるからである。逆に,説明義務違反が明らかであっても,本来の事件で勝訴していたことや有利な取扱いを受けられたことを示す資料が乏しい場合には,鑑定や大量の記録分析といった負担の重い立証に進んでも結論が変わらないことが多く,その段階で打ち切る判断も必要になる。
2 専門家側——記録で守る
専門家の側では,適用可能性のある制度や採り得た選択肢について,抽象的に資料の提出を求めるのではなく,どの事実を確認したいのかを特定して照会し,必要な資料を名称で指定して請求した記録を残すことが,最も実効的な防御になる。最判平成25年4月16日が,依頼者の承諾があっても説明義務違反の責任を免れないとした以上,「依頼者が了解していた」という事後の主張は,何をどう説明したかの記録がなければ機能しにくい。
期限で決まる選択規定については,事件単位ではなく期限単位で管理する必要がある。前記の消費税の届出書や住宅借入金等特別控除の特例のように,期限を過ぎた時点で選択の余地が失われ,更正の請求による是正も期待しにくい制度では,過誤が直ちに確定した損害になる。保険についても,最判平成15年7月18日及び最判平成15年9月9日が示したとおり,税制選択上の過誤による損害と本来納付すべき税額とでは扱いが異なるため,自らの過誤がどちらの性質のものかを早い段階で見極めることが,対応の前提になる。
出典
法令
- 民法(明治29年法律第89号)644条,415条,709条,166条,724条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 弁護士法(昭和24年法律第205号)1条,30条の15,56条,58条,63条 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
- 税理士法(昭和26年法律第237号)1条,2条,4条,41条,41条の3,44条,45条,46条,47条,47条の3,48条の21 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 国税通則法(昭和37年法律第66号)23条 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)41条 https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
会規
- 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)22条,29条,30条,36条,37条 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/rules/kaiki/kaiki_no_070.pdf
裁判例
- 最高裁判所第三小法廷平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号,損害賠償請求事件,民集67巻4号1049頁,破棄差戻し,原審福岡高等裁判所宮崎支部平成23年(ネ)第233号平成23年12月21日判決) https://www.courts.go.jp/hanrei/83191/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷平成15年7月18日判決(平成12年(受)第1394号,保険金請求事件,民集57巻7号838頁,破棄差戻し,原審東京高等裁判所平成11年(ネ)第6061号平成12年7月19日判決) https://www.courts.go.jp/hanrei/52288/detail2/index.html
- 最高裁判所第三小法廷平成15年9月9日判決(平成12年(受)第877号,保険金請求事件,集民210号565頁,上告棄却,原審東京高等裁判所平成11年(ネ)第2413号平成12年3月28日判決) https://www.courts.go.jp/hanrei/62472/detail2/index.html
- 最高裁判所第二小法廷昭和50年6月27日判決(昭和45年(行ツ)第93号,税理士業務停止処分取消請求,民集29巻6号867頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/52027/detail2/index.html