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葬儀・火葬の実施(AI作成)

本記事は,人の死亡後に行われる葬儀・火葬・埋葬・改葬をめぐって弁護士が扱う法律問題を,行政法(墓地埋葬法),民法(祭祀財産の承継・費用),社会保障法(生活保護の葬祭扶助)及び公衆衛生(感染症法)の各領域にわたって整理するものである。火葬・埋葬の許可手続,遺骨の帰属と引渡し,葬儀費用の負担,引き取り手のない遺体への対応,散骨などの新しい弔い方を対象とする。個別の宗教的作法や葬祭サービスの内容そのものは扱わない。

第1 本記事の対象と火葬・葬儀をめぐる紛争の全体像

葬儀・火葬は日常的な事柄でありながら,弁護士の関与する紛争は複数の法領域にまたがる。火葬・埋葬・改葬の許可は行政法(墓地埋葬法)の問題であり,遺骨の帰属や祭祀承継は民法の問題であり,費用の負担は民法上の求償や不当利得の問題であり,引き取り手のない遺体の処理は社会保障法(生活保護法)と行旅病人及行旅死亡人取扱法の問題であり,感染症で死亡した者の火葬は感染症法の問題である。相談を受けた際は,まず問題がどの領域に属するかを切り分けることが出発点になる。

実務で現れる典型的な紛争類型は,次のとおり整理できる。
①遺骨・遺体の引渡しや帰属をめぐる親族間の争い,②葬儀費用を支出した者と他の相続人との間の求償をめぐる争い,③祭祀承継者が誰かをめぐる家庭裁判所での争い,④墓じまい(改葬)や散骨の可否をめぐる問題,⑤身寄りのない者の埋火葬と費用負担をめぐる行政との関係である。以下では,まず行政上の手続を確認し(第2),次に私法上の帰属と費用の問題(第3・第4),引き取り手のない場合の処理(第5),新しい弔い方(第6)の順に検討する。

第2 火葬・埋葬・改葬の手続と行政上の許可

1 「埋葬」「火葬」「改葬」の定義と火葬までの流れ

墓地,埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」という。)は,一般用語とは異なる独自の定義を置いており,条文の適用範囲を正確にとらえるにはこの定義から出発する必要がある。墓埋法2条は,「埋葬」を「死体……を土中に葬ること」,「火葬」を「死体を葬るために,これを焼くこと」,「改葬」を「埋葬した死体を他の墳墓に移し,又は埋蔵し,若しくは収蔵した焼骨を,他の墳墓又は納骨堂に移すこと」と定義している。すなわち墓埋法上の「埋葬」は土葬を指し,火葬後の焼骨を墓に納めることは「埋蔵」(納骨堂の場合は「収蔵」)であって「埋葬」ではない。日常語との差異は,条文を当てはめる場面で誤りを生みやすい。

火葬までの標準的な流れは,死亡届の受理と火葬許可を軸とする。
戸籍法86条は,死亡の届出を届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡は3か月以内)にしなければならないと定め,診断書又は検案書の添付を求めている。戸籍法87条1項は届出義務者の順序を同居の親族,その他の同居者,家主・地主・家屋等の管理人の順と定め,同条2項は同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人及び任意後見受任者にも届出資格を認めている。
市町村長は,死亡の届出を受理したうえで,墓埋法5条により埋葬・火葬・改葬の許可を行い,墓埋法8条によって火葬許可証等を交付する。墓埋法14条3項は「火葬場の管理者は,……火葬許可証又は改葬許可証を受理した後でなければ,火葬を行つてはならない」と定めており,火葬許可証がなければ火葬は実施できない。埋葬(土葬)や焼骨の埋蔵は墓地以外で行ってはならず(墓埋法4条1項),火葬は火葬場以外で行ってはならない(同条2項)。

実務上は,火葬の前提として死亡届の受理が必要になる点に留意する。身寄りのない高齢者が持ち家で死亡した場合など,戸籍法87条1項の届出義務者が存在しない事例では,死亡届の受理が滞り,その結果として火葬許可の手続が進まないことがある。この場合は,戸籍実務上,法に明文のない「死亡記載申出書」の提出を受けて市町村長が職権で戸籍に死亡の記載をする取扱いがされている。弁護士が関与する場合は,まず死亡届の受理状況と火葬許可の有無を確認することが手続の起点になる。

2 24時間以内の火葬禁止とその例外

墓埋法3条は,「埋葬又は火葬は,他の法令に別段の定があるものを除く外,死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ,これを行つてはならない。但し,妊娠七箇月に満たない死産のときは,この限りでない」と定めている。死亡直後の火葬を禁ずる趣旨の規定であり,「他の法令に別段の定」があれば例外が認められる。

その例外の代表が感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)である。感染症法30条2項は,一類から三類まで及び新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体について,原則として火葬しなければならないとし(十分な消毒と都道府県知事の許可があれば埋葬も可能とする。),同条3項は,これらの死体を「二十四時間以内に火葬し,又は埋葬することができる」と定めて,墓埋法3条の特例を置いている。同条1項は,まん延防止のため必要があるときの死体の移動制限・禁止も認めている。

新型コロナウイルス感染症に関しては,厚生労働省・経済産業省のガイドライン(令和5年6月14日・第4.1版)が,適切な感染対策を講ずることにより「通常の遺体と同様に取り扱うことができ,納体袋に収容する必要はありません」とし,通夜・葬儀,火葬,拾骨のいずれについても遺族等の意向を踏まえて行うものとしている。同ガイドラインは,24時間以内の火葬が可能であることを前提としつつ,「通常,24時間以内の火葬は禁止されています(墓地,埋葬等に関する法律第3条)」と注記しており,感染症法上の特例はあくまで例外であって義務ではないという整理を示している。依頼者が感染症による死亡を理由に早期火葬の可否を尋ねる場面では,感染症の類型と当該時点のガイドラインを確認する必要がある。

3 改葬の許可と墓地・火葬場の管理者

いわゆる墓じまいや遺骨の移動は,墓埋法上の「改葬」に当たり得る。墓埋法5条は改葬にも市町村長の許可を要求し,その許可は「死体又は焼骨の現に存する地の市町村長」が行うものとしている(同条2項)。市町村長は改葬許可証を交付し(墓埋法8条),墓地・納骨堂・火葬場の管理者は改葬許可証等を受理した後でなければ埋蔵・収蔵・火葬をさせてはならない(墓埋法14条各項)。

もっとも,改葬の実現には行政上の許可だけでなく,現に遺骨が存する墓地の管理者との関係も問題になる。墓埋法13条は「墓地,納骨堂又は火葬場の管理者は,埋葬,埋蔵,収蔵又は火葬の求めを受けたときは,正当の理由がなければこれを拒んではならない」と定めているが,これは受入れ・埋火葬の求めに関する規律であって,既存の墓地からの遺骨の返還や離檀に伴う費用の請求といった問題は,墓地使用契約の解釈という民事の問題として別途検討する必要がある。改葬の相談では,行政手続(改葬許可)と契約関係(墓地使用権・管理者との交渉)の両面を切り分けることが有用である。

第3 遺骨と祭祀財産の帰属

1 祭祀財産承継の枠組み(民法897条)

系譜・祭具・墳墓といった祭祀財産は,一般の相続財産とは別の規律に服する。民法897条1項は,「系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する」と定め,同条2項は,慣習が明らかでないときは家庭裁判所が承継すべき者を定めるとしている。

この規律の帰結として,祭祀財産は相続財産を構成せず(民法896条本文の包括承継の例外),遺産分割の対象にならない。承継の順位は,①被相続人による指定,②慣習,③家庭裁判所による指定の順である。祭祀財産は相続財産ではないため,相続放棄をした者であっても祭祀承継者となり得る一方,祭祀承継者であることが直ちに相続分や遺産分割に影響するものでもない。この点は,遺産分割の相談と祭祀承継の相談を混同しないために押さえておく必要がある。

2 遺骨の帰属

遺骨(焼骨)の帰属について,民法897条は明文を置いていない。この点について最高裁判所平成元年7月18日判決(家庭裁判月報41巻10号128頁。裁判所ウェブサイト未掲載)は,遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属すると判示し,祭祀を主宰すべき者への遺骨の引渡しを命じた原審の判断を是認して,上告を棄却した。すなわち遺骨は,相続財産として法定相続分に応じて共有されるのではなく,祭祀財産に準じて祭祀主宰者に帰属するという整理である。

この帰属の理解は,実務上,遺骨の引渡しを求める訴訟の当事者適格や請求の可否を左右する。遺骨の引渡しを求め得るのは祭祀を主宰すべき者であり,逆にいえば,遺骨を現に占有する者が祭祀主宰者でないときは,祭祀主宰者からの引渡請求に応じるべき立場に立つ。したがって,遺骨をめぐる紛争では,誰が祭祀を主宰すべき者かという点が中心的な争点になる。

3 祭祀承継者の決定基準と家庭裁判所の審判

被相続人による指定がなく,慣習も明らかでないときは,民法897条2項により家庭裁判所が祭祀承継者を定める。これは家庭裁判所の審判事項である。もっとも,どのような基準で承継者を定めるかについて条文は具体的な指針を置いていない。

この点について東京高裁平成18年4月19日決定(判例タイムズ1239号289頁。裁判所ウェブサイト未掲載)は,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対する慕情,愛情,感謝の気持ちといった心情を最も強く持ち,被相続人からみれば,同人が生存していたのであればおそらく指定したであろう者を,その承継者と定めるのが相当であると判示した。同決定は,被相続人の子である長男と長女との間で墓地使用権・墓石等の承継が争われた事案において,被相続人の死亡まで同居を続けるなど緊密な生活関係にあった長女を祭祀承継者に指定している。もっとも,これは当該事案における事実関係を前提とした判断であり,同居や介護の有無が常に決め手になるとは限らない。承継者の身分関係,生活関係の緊密さ,祭祀主宰の意思と能力,利害関係人の意見など諸般の事情を総合して判断されるものと考えられ,個別の事情によって結論は異なり得る。

4 遺骨引渡請求における主張立証と証拠

遺骨の引渡しを求める場合,原告は自らが祭祀を主宰すべき者であることを基礎づける必要がある。指定の有無(明示のほか,被相続人の言動からうかがわれる黙示の指定を含む。),慣習の有無,慣習が明らかでない場合には家庭裁判所の審判による確定が問題になる。手続としては,承継者が誰かに争いがないか,又は原告が承継者であることが明らかな場合には遺骨引渡請求(通常訴訟)を選択し,承継者そのものに争いがある場合には祭祀承継者指定の審判を経てから引渡しを求めるという分岐が考えられる。

証拠としては,被相続人との生活関係を示す資料(同居の事実,療養看護や葬儀の主宰,仏壇・墓の管理や費用負担の状況を示す資料),被相続人の意思を示す資料(遺言書,手紙,生前の言動に関する関係者の陳述)が中心になる。相手方からは,自らが指定を受けた,又は慣習上自らが承継者であるといった反論が想定されるため,依頼者からの聴取の段階で,これらを基礎づける事実と反証の有無を洗い出しておくことが有用である。

第4 葬儀費用の負担

1 負担者に関する明文の不存在と考え方の対立

葬儀費用を誰が最終的に負担するかについて,民法その他の法律に直接の定めはない。この点については,相続財産(遺産)が負担すべきとする考え方,共同相続人が相続分に応じて分担すべきとする考え方,葬儀を主宰した喪主が負担すべきとする考え方,当事者の合意や慣習によるとする考え方などが対立している。明文がない以上,まずは当事者間の契約や合意の有無を確認し,それがない場合に誰が負担するかが問題になる。

2 名古屋高裁平成24年3月29日判決の考え方

この問題について,名古屋高裁平成24年3月29日判決(平成23年(ネ)第968号)は,葬儀費用を「死者の追悼儀式に要する費用」と「埋葬等の行為に要する費用(死体の検案・死亡届・死体の運搬・火葬に要する費用等)」とに区別したうえで,亡くなった者が自らの葬儀に関する契約を締結しておらず,かつ相続人や関係者の間で費用負担についての合意もない場合には,追悼儀式に要する費用は同儀式を主宰した者(自己の責任と計算において儀式を準備し挙行した者)が負担し,埋葬等の行為に要する費用は祭祀承継者が負担すると解するのが相当であると判示した。同判決は,喪主として葬儀を主宰した者が他の相続人に対して葬儀費用等の不当利得返還を求めた事案について,この請求を認めず,控訴を棄却している。

もっとも,これは下級審裁判例であり,前記のとおり相続財産負担説や相続人分担説など異なる考え方も存在する。当該事案では,事前の契約や合意がないことを前提として主宰者負担・祭祀承継者負担という区別が示されたものであって,事前の合意がある場合や被相続人が生前に葬儀契約をしていた場合には結論が異なり得る。「裁判所は一般に喪主負担とする」と断定できるほど裁判例が確立しているとまではいえないため,事案の事実関係に即した検討が必要である。

3 香典・葬式費用の先取特権・相続税との関係

葬儀費用に関連して,実定法上いくつかの手がかりがある。
第一に,香典は,喪主に対する贈与として葬儀費用に充てられるものと理解されており,香典で費用が賄われる限りで負担の問題は縮小する。
第二に,民法306条4号は「葬式の費用」を一般の先取特権の対象として掲げ,民法309条は「葬式の費用の先取特権は,債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する」と定め,扶養すべき親族のためにした葬式費用にもこれが及ぶとしている(同条2項)。もっとも,これは債務者の総財産に対する優先弁済権の規定であり,親族間で誰が最終的に負担するかを直接定めるものではない。
第三に,相続税法13条1項2号は,被相続人の債務等とともに,相続人等が負担した葬式費用を課税価格から控除することを認めている。これは相続税の課税上の取扱いであり,民事上の負担者の議論とは次元を異にする。

4 求償の法律構成と立証・相手方の反論

葬儀費用を支出した者が他の者に負担を求める場合,法律構成としては不当利得返還請求,事務管理に基づく費用償還請求,立替金の返還請求などが考えられ,事案に応じて選択・併用することになる。立証の対象は,支出の事実とその額(葬儀社への支払や関連費用の領収書等),支出の相当性,そして最終的な負担者が誰かという点である。前記の追悼儀式費用と埋葬等費用の区別を前提とする場合には,各費用がいずれの区分に属するかも問題になる。

相手方からは,香典によって既に費用が賄われている,支出額が過大で相当性を欠く,費用負担について合意がなく喪主が負担すべきである,といった反論が想定される。依頼者からの聴取の段階で,香典の収受状況,費用の内訳と相当性を裏づける資料,負担に関する合意の有無を確認しておくことが,これらの反論への備えになる。

第5 引き取り手のない遺体への対応と葬祭扶助

1 墓地埋葬法9条と行旅法による埋火葬

遺体の引き取り手がない場合の処理について,墓埋法9条1項は「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは,死亡地の市町村長が,これを行わなければならない」と定め,同条2項は,その費用について行旅病人及行旅死亡人取扱法(以下「行旅法」という。)の規定を準用するとしている。行旅法7条は,行旅死亡人について所在地の市町村がその死体の埋葬又は火葬を行うべきものとし,墓地・火葬場の管理者はこれを拒めないとしている。費用については,行旅法11条が,まず遺留の金銭・有価証券をこれに充て,なお足りないときは相続人の負担とし,相続人から弁償を得られないときは死亡人の扶養義務者の負担とすると定めている。

実務では,相続人が存在する場合であっても引き取りを拒む,あるいは資力を欠くといった場面がある。この場合,市町村による埋火葬(墓埋法9条)や後記の葬祭扶助(生活保護法18条)が問題になる一方,相続財産の管理・清算(民法897条の2の相続財産の保存に必要な処分等)との関係も検討対象になる。単身世帯の増加を背景に,引き取り手のない遺骨の保管や費用負担は行政上の課題となっており,弁護士としても,相続人の範囲・資力,遺留財産の有無を早期に確認することが必要になると考えられる。

2 生活保護法の葬祭扶助

困窮のため最低限度の生活を維持できない者の葬祭については,生活保護法18条が葬祭扶助を定めている。扶助の範囲は,検案,死体の運搬,火葬又は埋葬,納骨その他葬祭のために必要なものである(同条1項)。同条2項は,被保護者が死亡した場合にその葬祭を行う扶養義務者がないとき,又は死者に葬祭を行う扶養義務者がなくその遺留金品で費用を満たせないときに,現に葬祭を行う者に対して葬祭扶助を行うことができるとしている。

葬祭扶助の基準額は,生活保護の実施要領(令和6年4月1日施行)の別表において,大人については1級地及び2級地で215,000円以内,3級地で188,100円以内,小人については同じく172,000円以内,150,500円以内と定められている。これらは上限額であり,実際の支給は葬祭に要する費用の範囲内で行われる。生活保護を受けている方やその親族から葬儀費用の相談を受けた場合には,福祉事務所への葬祭扶助の申請が選択肢になり得る点を確認する必要がある。

第6 散骨など新しい弔い方をめぐる法的留意

焼骨を海洋や山野に撒く散骨については,これを正面から規律する法律は存在しない。墓埋法4条1項は焼骨の「埋蔵」を墓地に限っているが,地表への散布は「埋蔵」に当たらないと解されており,墓埋法の直接の規制からは外れる。他方,刑法190条は「死体,遺骨,遺髪又は棺に納めてある物を損壊し,遺棄し,又は領得した者は,三年以下の拘禁刑に処する」と定めており,散骨が「遺棄」に当たらないかが問題になる。この点については,葬送のための祭祀として相当の節度をもって行われる限り遺棄罪には当たらないとする理解が広く紹介されているが,その根拠となる公的見解の一次資料を特定できておらず,「節度」の内容も明確な基準があるわけではない。散骨の適法性の外縁は法令上明確でなく,事案により評価が分かれるおそれがある。

行政の対応としては,厚生労働省の研究事業の報告書に収められた「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」がある。これは法令ではなく,法的拘束力を持つものではないが,散骨を「墓埋法に基づき適法に火葬された後,その焼骨を粉状に砕き,墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で,陸地又は水面に散布し,又は投下する行為」と定義し,焼骨はその形状を視認できないよう粉状に砕くこと,陸上ではあらかじめ特定した区域(河川・湖沼を除く。)で行い,海洋では海岸から一定の距離以上離れた海域で行うこと,関係者・自然環境に配慮すること,利用者との契約や散骨証明書の交付などを掲げている。加えて,一部の地方公共団体は散骨の場所や方法を規制する条例を制定している。散骨を希望する依頼者に助言する場合には,対象となる自治体の条例の有無を確認し,焼骨の粉状化や場所の選定といった上記の考え方に沿ってトラブルを避けることが実際的である。改葬(墓じまい)に伴って遺骨を散骨する場合には,改葬許可の要否と散骨の留意点の双方を整理する必要がある。

第7 依頼者からの聴取事項と検討の手順

葬儀・火葬に関する相談を受けた場合,紛争類型の特定に必要な事実を早期に聴取することが,手続選択と主張立証の見通しを立てる前提になる。聴取事項の例は次のとおりである。

  1. 死亡の日時・場所,死亡届の受理状況及び火葬許可・火葬の有無
  2. 遺体又は遺骨の現在の所在と,現に占有・管理している者
  3. 祭祀承継について,被相続人による指定の有無(遺言・書面・言動)及び慣習の有無
  4. 喪主・葬儀の主宰者は誰か,葬儀の規模と態様
  5. 葬儀費用の支出者・金額・内訳・領収書の有無,及び香典の収受状況
  6. 相続人及び扶養義務者の範囲並びにその資力,遺留財産の有無
  7. 墓地・納骨堂・火葬場との契約関係,墓地使用権の内容
  8. 改葬や散骨の希望の有無,対象となる自治体の条例の有無

そのうえで,検討の手順としては,①問題がどの法領域(行政手続・私法上の帰属・費用の求償・行政による埋火葬)に属するかを切り分け,②手続を選択し(遺骨引渡請求か祭祀承継者指定審判か,行政手続か,福祉事務所への申請か),③根拠となる法令の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,④依拠する裁判例については当該事案の事実関係と射程を確認し,⑤主張を基礎づける証拠を収集する,という流れが考えられる。結論を左右し得る不確実な要素としては,葬儀費用の負担者に関する見解の対立,祭祀承継者の決定における事情の総合評価,散骨の適法性の外縁が挙げられ,これらは個別事案の事実関係に即して慎重に検討する必要がある。

第8 出典・参考資料

本文で言及した裁判例のうち,最高裁判所平成元年7月18日判決及び東京高裁平成18年4月19日決定は,いずれも裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判決・決定の全文及び書誌を第一法規D1-Law(判例体系)で確認した。認証付き商用データベースであるため,これらにはリンクを設定していない。名古屋高裁平成24年3月29日判決は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で個別ページを確認したうえでリンクを設定している。

1 法令(条文はe-Gov法令検索により現行条文を確認)

  • 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)1条・2条・3条・4条・5条・8条・9条・10条・13条・14条――火葬・埋葬・改葬の定義,許可及び手続。e-Gov法令検索
  • 民法(明治29年法律第89号)306条・309条・896条・897条――祭祀財産の承継,遺骨の帰属,葬式費用の先取特権。e-Gov法令検索
  • 戸籍法(昭和22年法律第224号)86条・87条――死亡届の届出義務者・届出資格者。e-Gov法令検索
  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)30条――感染症死体の火葬と24時間以内の火葬の特例。e-Gov法令検索
  • 生活保護法(昭和25年法律第144号)18条――葬祭扶助の範囲と要件。e-Gov法令検索
  • 行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)7条・11条――引き取り手のない死体の埋火葬と費用負担。e-Gov法令検索
  • 刑法(明治40年法律第45号)190条――死体損壊等(遺骨の遺棄)。e-Gov法令検索

2 裁判例

  • 名古屋高裁平成24年3月29日判決(平成23年(ネ)第968号,貸金返還等請求控訴事件,棄却)――葬儀費用のうち追悼儀式に要する費用は主宰者が,埋葬等の行為に要する費用は祭祀承継者が負担するとした事例。
  • 最高裁判所平成元年7月18日判決(家庭裁判月報41巻10号128頁,遺骨返還請求事件,上告棄却)――遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属するとした事例。裁判所ウェブサイト未掲載,第一法規D1-Law(判例体系)で全文確認。
  • 東京高裁平成18年4月19日決定(判例タイムズ1239号289頁,祭祀財産承継者指定審判に対する抗告事件)――被相続人が生存していればおそらく指定したであろう者を祭祀承継者と定めるのが相当とした事例。裁判所ウェブサイト未掲載,第一法規D1-Law(判例体系)で全文確認。

3 行政資料

  • 厚生労働省・経済産業省「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置,搬送,葬儀,火葬等に関するガイドライン」(令和5年6月14日・第4.1版)――感染症死亡者の火葬・葬儀の取扱いと遺族の意向の尊重。厚生労働省
  • 厚生労働省「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」(令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書所収)――散骨の定義,場所,焼骨の粉状化等。法令ではなく法的拘束力を持たない。厚生労働省
  • 厚生労働省「生活保護実施要領等」(令和6年4月1日施行)別表――葬祭扶助基準額。厚生労働省