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声と肖像の無断利用に不正競争防止法改正の動き―経済産業省の小委員会(令和8年10月13日)が示した2つの方向性と現行法(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 何が示され,何が決まっていないか

(1) 第31回会合で示された2つの方向性

経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会は,令和8年10月13日の第31回会合で,肖像や声の無断使用に不正競争防止法で対応する「対応の方向性(案)」として,二つの方向性を示した。
同小委員会は,第30回会合で生成AIにおける肖像や声の無断利用について関係者のヒアリングを行っており,この案はその結果等を踏まえたものである。
一つは,同法2条1項1号の「商品等表示」の例示に「肖像」と「音声」を明記する案であり,もう一つは,肖像や声の無断使用を新たな不正競争の類型とする案である。
いずれも小委員会の審議資料に記載された検討の案であり,法案や条文案ではない。

(2) 公表資料から分からないこと

調査基準日である令和8年10月25日の時点で,経済産業省のウェブサイトに掲載された第31回の議事要旨は,肖像や声の権利保護について事務局が資料3に基づいて説明し,各委員から意見を得たことを記載するにとどまる。
同回の議事録は,ページ上で容量が「●●●KB」と表示されたままで,調査基準日の時点では内容を確認できなかった。
したがって,どちらの方向性が採られるか,改正法案がいつ国会に提出されるか,施行がいつになるかは,現時点の公表資料からは分からない。

2 本記事の資料と調査基準日

本記事は,令和8年10月25日を調査基準日として,不正競争防止小委員会の第29回から第31回までの公表資料(第28回の資料4は第31回の資料3に収録された抜粋による。),法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書(令和8年8月7日公表,同年10月22日補訂の第1.1版)及びe-Gov法令検索の現行条文に基づいて,改正の検討の到達点を整理するものである。
現行法の下での請求の要件や想定事例の詳細は,AIと声の権利―声の無断利用・AIカバーと肖像権の保護(AI作成)で扱っている。

第2 現行法でどこまで保護されているか

1 判例上のパブリシティ権と声

(1) ピンク・レディー事件最高裁判決の枠組み

最高裁判所第一小法廷平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号,民集66巻2号89頁)は,人の氏名,肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合に,その顧客吸引力を排他的に利用する権利をパブリシティ権と呼び,人格権に由来する権利の一内容とした。
同判決は,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合,商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合,肖像等を商品等の広告として使用する場合など,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権の侵害として不法行為法上違法になるとした。
パブリシティ権は,法律に明文の規定がなく,この判決を中心とする判例・裁判例によって形成されてきた権利である。

(2) 声についての整理と東京地裁令和8年9月30日判決

法務省の検討会の取りまとめ報告書は,人の声が人物識別情報であり,個人の人格の象徴でもあるとして,同判決のいう「肖像等」に声が含まれると整理した(同報告書9頁~10頁,51頁)。
東京地方裁判所令和8年9月30日判決(令和7年(ワ)第70635号)も,声優が動画投稿サイトの運営会社に動画の削除を求めた事案で,人の声は人の肖像と同様に個人の人格の象徴であり,専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的として使用するときはパブリシティ権の侵害に当たるとの一般論を示した。
もっとも,同判決は,対象の動画のデータが口頭弁論終結までに削除されていたことを理由に請求を棄却し,本件の音声が侵害に当たるかは判断していない(生成AIで模倣されたとする声優の声-津田健次郎の削除請求と東京地裁判決(AI作成)参照)。

2 現行の不正競争防止法で対処できる範囲

(1) 経済産業省の令和7年3月の整理

不正競争防止小委員会の第28回会合(令和7年3月25日)の資料4は,現行の不正競争防止法の下でも,俳優や声優等の肖像や声の利用は,事案によって,周知表示混同惹起行為(2条1項1号),著名表示冒用行為(同項2号),誤認惹起行為(同項20号)及び信用毀損行為(同項21号)に該当し得ると整理していた。
ただし,同資料は,①肖像や声の周知の程度と②肖像や声の利用形態の観点から個別に判断する必要があるとし,2条1項1号・2号では「商品等表示」と「商品等表示を使用」の要件が問題になると指摘していた。

(2) 「商品等表示」の要件が壁になる理由

2条1項1号は,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているもの」と同一又は類似の商品等表示を使用するなどして,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を不正競争と定めている。
例示に「肖像」や「音声」は含まれておらず,肖像や声が商品又は営業の出所を示す表示として需要者に認識されていなければ,この類型には当たらない。
第28回の資料4が示した声の事例では,ある人物と同一の声を出力できる生成AIに持ち歌でない曲を歌わせて動画投稿プラットフォームに投稿した場合,声が周知であれば1号で対処し得るが,「AI○○に歌わせてみた」のような打消し表示があるときは1号では対処が難しく,著名性が認められれば理論上は2号で対処できるとされた。

3 法務省報告書が示した到達点と残された課題

(1) 報告書の性格と見解が一致しなかった論点

法務省の検討会の取りまとめ報告書は,パブリシティ権,肖像等をみだりに利用されない権利及び不正競争防止法の適用を七つの想定事例に当てはめた解釈指針であり,法律や裁判所を拘束する判例ではない。
同報告書は,パブリシティ権の請求主体が原則として本人であるとした上で,パブリシティ権の譲渡性・相続性については現時点で一致した見解を導き出すことは困難であるとし,所属事務所等による損害賠償請求や差止請求の可否に関するテーマなどで見解が一致するに至らなかった論点もあるとしている(同報告書44頁~49頁,78頁,136頁)。

(2) 知的財産推進計画2026との関係

同報告書の「終わりに」の注は,知的財産推進計画2026(令和8年6月12日知的財産戦略本部決定)が,ガイドライン等の作成と周知に加えて,「ハードロー整備(不正競争防止法改正を含む)の必要性も含め引き続き議論を継続する」としていることを紹介している(同報告書136頁注232)。
不正競争防止小委員会の検討は,この計画の記載を受けたものである。

第3 不正競争防止小委員会の経過

1 第29回(令和8年8月27日)の検討事項

(1) 検討事項と予定

第29回会合の資料3は,知的財産推進計画2026の記載を踏まえ,肖像や声の権利保護のほか,営業秘密,査証等の証拠収集手続及び損害賠償の民事救済措置を小委員会の検討事項として挙げ,第30回で肖像と声について関係者のヒアリングを行い,10月以降に順次検討する予定を示した。

(2) 委員から出された主な意見

第31回の資料3によれば,第29回では,全体について,民事裁判での実態等の立法事実となる実情を確認した上で議論が必要であるとの意見が出された。
肖像や声の権利保護については,米国州法の具体的な立法例などを参考に具体的な立法を検討してはどうか,パブリシティ権でどこまで手当てがされ,何が課題として残るのかを確認した上で議論してはどうか,肖像や声の周知の程度によらず保護を強化することについて検討してはどうかとの意見と,成果冒用に関する差止めや損害賠償の特則を設ける議論には慎重な検討が必要であるとの意見が出された。

2 第30回(令和8年9月11日)の関係者ヒアリング

(1) 出席した団体と主な意見

第30回会合の議事要旨によれば,同会合では,法務省,協同組合日本俳優連合,声優有志,一般社団法人日本声優事業社協議会及び一般社団法人日本音楽事業者協会が,生成AIにおける肖像や声の無断利用について資料に基づいて説明し,委員との質疑が行われた。
第31回の資料3は,ヒアリングでの主な意見として,不正競争防止法に声を明示してほしいとの意見,肖像や声は世間一般の知名度や周知度とは関係なく顧客を惹きつける価値を持つとの意見,既存の商品等表示の概念の枠内だけで議論するには限界があるとの意見,所属事務所等も権利行使できることが必要であるとの意見,死後の声の無断利用への対処も重要であるとの意見等を挙げている。

(2) 声優有志が示したパブリシティ権の限界

声優有志の資料は,パブリシティ権や声をみだりに利用されない権利で保護できる場合があることを認めつつ,①声の持ち主本人の権利行使が大前提であり,所属事務所等による差止めには相当な困難性があること,②音声全体の一部に声が用いられただけの場合に「専ら」の要件や受忍限度との関係でどう評価されるかが不明であること,③裁判例に基づく権利であり損害額の推定規定がないこと,④譲渡や相続に関する議論が残っており,死後の声の無断利用に対処できないことを挙げた。
同資料は,不正競争防止法を改正するアプローチか,デジタルレプリカに対応した新たな法を整備するアプローチかを検討する必要があるとした上で,立法的な解決を視野に入れることを求めている。

(3) 日本俳優連合が示した声の同一性判定の限界

日本俳優連合の資料は,国内の音声生成AIのプラットフォームに対する削除要請の事例で,声の同一性のスコアが0.90以上でも13件中9件で本人の回答が「自分の声ではない/他人の声」であり,0.90未満でも53件中10件で本人の回答が「本人の声そのもの/酷似」であったことを示し,スコアと本人確認,元データの開示を組み合わせた立証の仕組みが必要ではないかとした。
法務省の報告書も,声紋の類似性に関する科学的分析は考慮要素の一つとなり得るものの,決定的な要素にまでなるわけではないとしている(同報告書27頁注56)。
同資料に記載された被害額は,視聴回数当たりの報酬や違法と思われるコンテンツの割合を仮定して試算した推算であり,実際の被害額を集計したものではない。

3 第31回(令和8年10月13日)の「対応の方向性(案)」

第31回会合の資料3「不正競争防止法に関する検討課題について」は,昨年3月の小委員会での整理やヒアリング結果等を踏まえ,肖像や声の無断使用への不正競争防止法による対応として,次の二つの方向性について検討してはどうかとした。
①方向性① 2条1項1号の商品等表示の例示に「肖像と音声」を明記し,含まれることを明確化する。
②方向性② 肖像や声の無断使用を不正競争の対象とする新類型を創設する。
同資料は,方向性②の理由として,第29回の周知の程度によらない保護強化の提案と,第30回のヒアリングで示された意見を挙げている。

第4 2つの方向性で何が変わるか

1 方向性①は既存の類型の明確化である

(1) 論点とされた事項

方向性①について,資料3は,商品等表示の例示である「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」に「肖像」及び「音声」を加えることをどう考えるかを論点として挙げている。
例示に加えれば,肖像や声が商品等表示になり得ることは条文上明確になる。

(2) 残る要件

方向性①は2条1項1号の枠内での明確化であるため,需要者の間に広く認識されていること(周知性)や,他人の商品又は営業と混同を生じさせることといった同号の要件は,条文の構造上そのまま残ることになる。
第28回の資料4が示したとおり,「AI○○に歌わせてみた」のような打消し表示がある場合に1号での対処が難しいという点は,例示を加えるだけでは解消されないと考えられる。

2 方向性②は新たな不正競争の類型を設ける

(1) 論点とされた事項

方向性②について,資料3は,新たに規制すべき行為はどのような行為か,肖像と音声以外に保護すべき対象はあるかを論点として挙げ,参考としてピンク・レディー事件最高裁判決の三つの類型と,同判決の調査官解説(中島基至「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成24年度41頁)が「肖像等」にはサイン,署名,声,ペンネーム,芸名等が含まれるとしていることを示している。

(2) 韓国の不正競争防止法の例

資料3は,参考として,韓国不正競争防止法2条1項1号タ目を,「国内に広く認識され、経済的価値を有する他人の氏名、肖像、音声、署名等、その他人を識別できる標識を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で、自身の営業のために無断で使用することにより他人の経済的利益を侵害する行為」と紹介している。
この紹介は経済産業省の資料による日本語の記載であり,韓国の法令の公定訳ではない。
この例にも「国内に広く認識され」という要件があり,新たな類型を設けても,どの程度知られている人の肖像や声を保護の対象にするかは,条文の書き方によって変わることになる。

3 請求主体と故人の扱い

(1) 所属事務所等が請求できるか

資料3は,方向性①②の双方に共通する論点として,俳優等のプロダクションや所属事務所が差止請求や損害賠償請求の請求主体となる余地があるか,故人の肖像や声の権利保護を認める余地があるかを挙げている。
現行の3条1項は,「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に侵害の停止又は予防の請求を認め,4条は,故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者の損害賠償責任を定めている。
資料3は,最高裁判所第三小法廷昭和59年5月29日判決(昭和56年(オ)第1166号,民集38巻7号920頁)が,周知表示の商品化事業に携わる使用許諾者及び使用権者も営業上の利益を害されるおそれがある者に当たるとしたことを参考に挙げている。

(2) パブリシティ権との違い

法務省の報告書は,パブリシティ権の請求主体が原則として本人であるのに対し,不正競争防止法に基づく請求の主体は,商品等表示について営業上の利益を有する者であって,商品等表示の主体であると認められる限り,芸能事務所や独占的ライセンシーが請求主体となる場合があり,このことは本人が死亡したことによって直ちに影響を受けるものではないとしている(同報告書78頁)。
声優有志が挙げた①と④の限界は,この請求主体と故人の論点に対応しており,改正の検討での中心的な争点の一つになると考えられる。

4 外国法の参照例

資料3は,不正競争防止法以外の制定法でパブリシティ価値を保護している例として,米国ニューヨーク州の州民権法50条,カリフォルニア州の州民法3344条及びテネシー州のELVIS法(Ensuring Likeness, Voice, and Image Security Act)を挙げ,いずれも声を保護対象に含めていると紹介している。
同資料は,この整理の出典を,経済産業省の令和6年度産業経済研究委託事業の調査研究報告書としている。

第5 現時点で言えること

1 法案と施行時期は決まっていない

第31回の資料が示したのは「検討してはどうか」という案であり,公表資料からは,小委員会の報告書の取りまとめや法案の閣議決定には至っていない。
改正法が成立した場合も,どの時点から適用されるかは,その法律の施行期日と経過措置の規定によって決まることになる。

2 当面の救済は現行法による

(1) 現行法での請求の根拠

現時点で声や肖像を無断で使われた場合の請求は,判例上のパブリシティ権,肖像等をみだりに利用されない権利(声を含む。)及び現行の不正競争防止法の要件によって判断される。
パブリシティ権の要件と裁判例の比較は,パブリシティ権の要件と裁判例-顧客吸引力,「専ら」要件及び肖像権との違い(AI作成)で扱っている。

(2) 損害額と故人の扱い

パブリシティ権侵害の損害額の算定は,パブリシティ権侵害の損害賠償額はどう決まるか―使用料相当額の算定方法と裁判例7件の金額(AI作成)で扱っている。
故人の声や肖像については,死後のパブリシティ権は相続・遺言の対象になるか-故人の声・肖像を生成AIで利用する場合(AI作成)で扱っている。

第6 出典

1 法令

①e-Gov法令検索・不正競争防止法(平成5年法律第47号)2条1項1号・2号・20号・21号,3条及び4条(令和8年5月21日施行の現行版,令和8年10月25日確認)

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号,民集66巻2号89頁)
②最高裁判所第三小法廷昭和59年5月29日判決(昭和56年(オ)第1166号,民集38巻7号920頁)
③東京地方裁判所令和8年9月30日判決(令和7年(ワ)第70635号)

3 審議会資料

①産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会(第31回,令和8年10月13日)資料3「不正競争防止法に関する検討課題について」8頁~25頁(PDF9頁~26頁。10頁~13頁は第28回(令和7年3月25日)の資料4の抜粋)及び議事要旨
②同小委員会(第30回,令和8年9月11日)議事要旨,資料4-1「協同組合日本俳優連合提出資料(抜粋版)」及び資料5「声優有志提出資料」7頁~11頁(PDF8頁~12頁)
③同小委員会(第29回,令和8年8月27日)資料3「不正競争防止小委員会の検討事項について」

4 検討会報告書

①法務省・肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」第1.1版(令和8年8月7日公表,同年10月22日補訂)9頁~10頁,27頁,44頁~49頁,51頁,78頁及び136頁