第1 検察官適格審査会は何を審査するか
検察官適格審査会は,個々の検察官がその職務を行うのに適しているかを審査する機関である。
個別事件を起訴すべきかという判断と,その検察官が職務を担う適格性を有するかという判断は,区別する必要がある。
本稿は,令和8年10月18日に確認した検察庁法及び法務省の公式案内に基づき,制度の対象,申出の方法と限界を説明する。
根拠となる検察庁法23条は,心身の故障,職務上の非能率その他の事由により,検察官が職務を行うのに適しない場合の免官について定めている。
適格審査は,検察官に身分保障を認めながら,職務への適格性を確かめるための制度である。
身分保障の全体像は,検察官の身分保障を参照されたい。
第2 検察審査会・懲戒との違い
名称が似ていても,検察官適格審査会と検察審査会は,構成も判断対象も異なる。
懲戒も,検察官適格審査会による審査とは別の制度である。
| 制度 | 主な判断対象 | 基本的な仕組み |
|---|---|---|
| 検察官適格審査会 | 特定の検察官が職務を行うのに適しているか | 審査会の議決等を経て免官することができる制度 |
| 検察審査会 | 個別事件の不起訴処分の当否等 | くじで選ばれた市民による審査。一定の場合に起訴議決につながる |
| 懲戒 | 法令違反,職務上の義務違反,非行等 | 任命権者が免職,停職,減給又は戒告を行う制度 |
検察官適格審査会は,国会議員,最高裁判所判事,日本弁護士連合会会長など,法律で定められた11人の委員で構成される。
一般市民からくじで検察審査員を選ぶ検察審査会とは異なる。
法務省の案内では,個々の不起訴処分が妥当でないという不服は,検察審査会で扱う事項であり,検察官適格審査会で審査するものではないと説明されている。
不起訴処分の変更を求めたい場合は,検察審査会への申立てと議決後の流れを確認する必要がある。
懲戒については,国家公務員法82条以下が適用され,検察庁法25条ただし書も懲戒処分を身分保障の例外としている。
不適切な行為が疑われる場合でも,その行為に対する懲戒の問題と,職務を担う適格性の問題を分けて整理する必要がある。
第3 一般の人も申し出ることができるか
法務省の公式案内は,一般の人から,特定の検察官について適格性を審査してほしい旨の申出を受ける取扱いを示している。
その場合,審査会が随時審査を開始するかを判断する。
申出をしただけで,自動的に随時審査が始まったり,対象の検察官が免官されたりする仕組みではない。
法律上の審査には,全ての検察官について3年ごとに行う定時審査,法務大臣の請求による随時審査,審査会の職権による随時審査がある。
一般の人による申出は,審査会が職権による随時審査を始めるかを検討する契機となる。
定時審査が3年ごとであることと,一般の人が申出をする時期とは同じ問題ではない。
第4 申出書に何を書くか
法務省の案内では,基本的に書面又はEメールによる申出が示されており,書式は特に定められていない。
記載事項は,申出人の住所・氏名・連絡先,対象となる検察官の所属・氏名,適格でないと考える具体的な事由である。
送付先や連絡方法は,末尾に掲げる法務省の案内で確認されたい。
事実関係を整理する際は,いつ,どこで,誰が,何をしたのかを具体的に記載し,その事実を示す資料と対応させると分かりやすい。
直接経験したこと,記録で確認できること,他人から聞いたこと,そこから推測したことも分けて記載する。
これは申出の内容を伝えるための実務上の工夫であり,新たな法定要件を付け加えるものではない。
例えば,日時,担当検察官,具体的な発言又は対応,その場にいた人,対応する書面・録音等を順に整理できる。
単に「結論に納得できない」と記載するだけでなく,何がその検察官の職務への適格性に関わると考えるのかを説明することが重要である。
資料を提出する際は,事実の説明に必要な範囲を選び,関係のない個人情報を含めないよう確認する。
閲覧した法務省の案内は,セキュリティ対策上,Eメールの添付ファイルを開封できないため,申出事項をメール本文に記載するか,郵送を利用するよう求めている。
資料をメールに添付しただけで,その内容まで確認されると考えないことが必要である。
第5 申出後の流れと結果の意味
一般の人からの申出については,まず随時審査を開始するかが審議され,開始すべきと判断された場合に,職権による随時審査が行われる。
法務省の案内では,内容に応じて,申出人への追加の質問や資料提出の依頼があり,審議又は随時審査の結果は申出人へ通知されるとされている。
検察庁法23条1項は,検事総長,次長検事及び検事長については審査会の議決及び法務大臣の勧告を経て,検事及び副検事については審査会の議決を経て,その官を免ずることができると定めている。
審査会への申出,随時審査の開始,審査会の議決及び免官は,それぞれ異なる段階である。
審査会が直接,刑罰や損害賠償金の支払を命じる制度でもない。
第6 刑事事件の対応と分けて確認すること
係属中の刑事事件における防御,不起訴処分への不服,損害賠償を求める対応は,適格審査への申出と目的の異なる手続である。
申出を検討する場合も,現在の事件で必要な証拠の確保,裁判所への主張や不服申立てなどを,それぞれの期限とともに確認する必要がある。
相談時には,求める結果が何かを先に整理すると,利用すべき制度を選びやすい。
不起訴処分を見直してほしいのか,具体的な行為の是正を求めるのか,職務への適格性を審査してほしいのかを分け,事実と資料を対応させて検討することが有用である。
第7 出典
検察庁法23条・25条:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000061
検察官適格審査会令:https://laws.e-gov.go.jp/law/323CO0000000292
国家公務員法82条・84条:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000120
検察審査会法:https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000147
法務省「検察官適格審査会」:https://www.moj.go.jp/shingi1/shinsakai_tekikakushinsa.html
法務省だより「あかれんが」Vol.56「検察官適格審査会」:https://www.moj.go.jp/KANBOU/KOHOSHI/no56/7.html