第1 この記事の対象と基準日
【基準日:令和8年10月15日】
本記事は,不動産クラウドファンディングのうち,不動産特定共同事業法に基づく事業について,契約,鑑定評価,情報開示及び相続税評価案の境界を整理するものである。
個別ファンドの安全性又は収益性を保証するものではなく,実際の契約では事業者の許可・登録,契約約款,契約成立前書面,財産管理報告書及び対象不動産の資料を確認する必要がある。
1 不動産クラウドファンディングと不動産特定共同事業法
不動産特定共同事業は,投資家から出資を受けて不動産を売買・賃貸等し,その収益を分配する事業について,許可・登録,業務運営及び投資家保護の仕組みを設ける制度である。
平成29年の法改正で,オンライン契約を行う電子取引業務に対応した環境が整備された。
インターネットで募集される不動産投資商品がすべて同法の同じ類型に属するわけではないため,契約の法的形式と事業者の役割を先に確認すべきである。
2 令和8年改正と相続税通達案を分ける
不動産特定共同事業法施行規則は令和8年内閣府・国土交通省令第4号により改正され,国土交通省の監督指針も令和8年8月21日付で改正された。
監督指針の改正は,投資勧誘,利害関係人との取引,鑑定評価,契約成立前の情報及び財産管理報告等に関する実務を扱う。
これとは別に,国税庁は令和8年9月18日,不動産小口化商品等の相続税・贈与税評価を見直す法令解釈通達案を公表した。
同通達案は令和8年10月18日17時まで意見募集中であり,本記事の基準日現在,確定した通達ではない。
事業法上の投資家保護と,相続税法22条の時価評価は,目的と法的根拠が異なるため,一方の評価を他方へそのまま転用してはならない。
第2 事業類型と契約当事者を確認する
1 第1号事業と特例事業
第1号事業では,不動産特定共同事業者が投資家と契約し,自ら不動産取引を行って収益を分配する。
特例事業では,特例事業者が不動産取引を行い,第3号事業者へ不動産取引業務を,第4号事業者へ契約締結の代理・媒介を委託する仕組みが用いられる。
倒産隔離の有無,対象不動産の所有主体,借入れの主体,投資家が有する権利及び損失負担は,類型と契約内容によって異なる。
名称や広告表示だけで判断せず,契約成立前書面に記載された事業の仕組みと当事者を図にして確認するとよい。
2 募集・運用・売却を担う者
募集サイトの運営者,契約締結の代理・媒介をする者,対象不動産を取得・管理する者,賃貸運営をする者及び売却を決定する者が同じとは限らない。
各事業者の許可・登録の種類,業務委託契約,手数料,利害関係及び責任分担を確認する必要がある。
電子取引業務をシステム会社へ委託しても,委託元の事業者は,委託先の選定,監督,役割分担,監査権限,再委託及び情報管理を自ら管理しなければならない。
投資家側では,ウェブ画面の表示だけでなく,ダウンロードできる契約成立前書面,約款及びリスク説明を保存しておくことが重要である。
第3 利害関係人との取引と鑑定評価
1 利害関係人と独立した不動産鑑定士
監督指針は,事業者,親法人・子法人,主要株主,役員・使用人その他一定の者を,利害関係人として検討する枠組みを示している。
利害関係人から対象不動産を取得し,又は利害関係人へ売却する取引では,取引条件が投資家に不利益となっていないかを特に検討する必要がある。
令和8年改正後の監督指針は,「利害関係を有しない不動産鑑定士」から,事業者の利害関係人や特例事業者の役員・使用人に当たる者を除くものとしている。
鑑定評価書では,依頼者,提出先,評価対象,価格時点,価格の種類及び鑑定士・鑑定業者との利害関係を確認すべきである。
2 鑑定評価額の1割は安全圏を示すものではない
監督指針は,鑑定評価額に相当する額で売却等をするために必要な措置の例として,鑑定評価額を概ね1割以上上回る又は下回る価格での売却等は該当しないとしている。
これは,鑑定評価額との差が1割未満なら常に公正であるとか,法的責任を負わないという安全圏を定めたものではない。
取引の必要性,時点,物件の個別性,売却条件,利害関係,鑑定の前提及び投資家への説明を含め,個別に合理性を検討する必要がある。
鑑定評価額自体の基礎資料や前提が変われば,単純な差額率だけでは取引の公正さを判断できない。
3 比較資料を示せない場合の鑑定評価
契約成立前書面で,直近の非利害関係人売買の価格,類似不動産の売買価格又はその水準等を示せない場合がある。
令和8年改正後の監督指針は,理由のいかんを問わず一定の比較情報を示していない場合,利害関係を有しない不動産鑑定士による鑑定評価を受け,評価結果,方法の概要,評価年月日及び鑑定士名を記載する必要があるとしている。
賃料についても,一定の比較情報を示せない場合は,同様に独立した不動産鑑定士による賃料の鑑定評価が必要とされる。
「特殊な物件なので比較事例がない」という説明だけで,価格又は賃料の根拠を省略できるわけではない。
第4 契約成立前書面の価格・賃料情報を読む
1 比較事例は数字だけでは足りない
監督指針は,類似不動産の売買価格又は賃料の水準について,単に数字を示すのではなく,特定物件の数値か複数物件の平均値かなど,数値の意味も記載するものとしている。
また,所在,地番,用途,土地面積,延べ床面積その他の対象不動産を特定するために必要な事項を記載し,対象不動産と条件が類似する資料であることを説明するものとしている。
投資家や相談を受けた弁護士は,事例の時点,権利関係,築年,稼働状況,改修状況及び取引条件が対象不動産と比較できるかを確認すべきである。
販売公表価格や募集賃料は,実際の成約価格・成約賃料と同じではないため,資料の性格を区別する必要がある。
2 価格査定と鑑定評価を区別する
監督指針は,価格査定の根拠として価格査定マニュアル又は同種の取引事例等を用いる場合,合理的な説明があることに加え,不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書ではないことを明記するものとしている。
査定書に不動産価格が記載されていても,不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価と同じ調査・手順が実施されたとは限らない。
書面の作成者,現地調査,対象権利,価格時点,想定条件,採用資料及び評価手法を確認し,書面の名称だけで証明力を判断してはならない。
3 契約済み・意向表明・相手方探索を区別する
監督指針は,将来の不動産取引について,①契約締結済み,②法的拘束力のない意向表明書があるだけ,③相手方を探索中,④相手方を探索する前という状態を区別して記載するものとしている。
売却価格の想定が具体的であっても,買主や契約が存在しなければ,その価格で売却できることが確定したわけではない。
売買代金や賃料が契約書に記載されていても,実際の支払が確実とは限らないため,相手方の信用,資金調達条件,停止条件及び違約時の取扱いも確認する必要がある。
第5 開発・改修案件の資金と許認可
1 開発許可等と資金計画
令和8年改正後の監督指針は,開発許可や建築確認等を受けている場合,開発登録簿又は確認済証に記載された事項を含め,処分の概要を契約成立前書面へ記載するものとしている。
工事に関する資金計画は,収入と支出の予定額を費目ごとに具体的に記載するものとされている。
許認可を取得する予定であることと,既に有効な許認可を取得したことを区別し,変更・取消し・失効の可能性も確認する必要がある。
工事費の増加,工期の遅延又は稼働開始の延期が,配当,借入返済,追加出資又は売却時期へ及ぼす影響を検討すべきである。
2 出資金の使途と期中報告
契約成立前書面では,出資金の使途を,不動産取得代金,工事費用,租税公課,アップフロントフィー及び積立金等の具体的な項目に分けて記載するものとされている。
財産管理報告書でも,支出した金銭の額と使途を具体的に示し,複数物件・複数工事・複数税目等をまとめて記載する場合は内訳を示すことが求められる。
期中の報告では,着手済み工事,今後着手する予定の工事,必要な開発許可等の取得・取消し・失効及び資金計画の変化を確認する。
募集時の計画と期中の実績を比較し,差異の原因と今後の資金需要が説明されているかを点検する必要がある。
第6 投資判断で確認する収支と出口
1 賃料・空室・費用と評価額
想定利回りだけでなく,賃料の根拠,空室率,滞納,フリーレント,管理費,修繕費,保険,租税公課及び資本的支出を確認する。
満室想定の総賃料から費用を控除した数値と,実際の入金を基礎とする運営純収益を区別する必要がある。
鑑定評価額を用いる場合は,収益還元法の純収益,還元利回り又は割引率,保有期間,最終還元利回り及び復帰価格の前提を読むべきである。
空室,賃料下落又は評価額下落による元本欠損のおそれは,契約成立前書面の損失発生要因として具体的に説明されているかを確認する。
2 借入れ,優先劣後及び流動性
対象不動産に係る借入れは,担保付借入れに限られず,事業目的の無担保借入れを含む場合がある。
借入額,金利,返済順位,期限,財務制限条項及び借換えの前提を確認し,収益悪化時に投資家の元本へ及ぶ影響を検討する。
優先劣後構造がある場合は,損失を誰がどの順序で負担し,追加募集や評価額の下落が既存持分へどう影響するかを確認する。
途中解約,組合からの脱退,第三者への譲渡及び償還額の計算方法を確認し,市場性の低い持分をいつでも換金できると考えてはならない。
3 売却時の価格と契約状態
ファンドの分配原資が賃貸収益だけでなく売却益を含む場合は,売却時期,売却費用,修繕・改修後の状態及び想定買主を確認する。
将来の売却価格は,契約済みの価格,法的拘束力のない意向表明,仲介会社の意見又は事業者の目標価格のどれであるかを区別する。
売却が遅れた場合の維持費,借入利息,契約期間の延長,追加費用及び投資家への説明手続を確認する必要がある。
出口価格の感応度を示すときは,想定値を変えた計算結果と,実際に売却できる価格の範囲を混同してはならない。
第7 相続税評価案との関係
国税庁の令和8年9月18日付通達案は,一定の不動産特定共同事業契約に基づく権利又は一定の信託受益権を「特定小口化商品」とし,その目的となる貸付用不動産を原則として課税時期の通常の取引価額で評価する考え方を示している。
同案では,事業者による課税時期前1年以内の売買実例価額,売買実例価額がない場合の適正な売却見込価額又は一定の鑑定評価額が問題となる。
しかし,この税務上の評価は,相続税・贈与税の課税価格を算定するためのものであり,出資持分の途中換金額,ファンドの純資産,投資家保護上の公正価格又は実際の売却代金と当然に一致するものではない。
通達案は本記事の基準日現在まだ確定していないため,意見募集結果,確定通達,制定日及び経過措置を公表後に確認する必要がある。
第8 相談・審査のチェックリスト
不動産クラウドファンディングについて相談を受けたときは,少なくとも次の事項を確認する。
①契約の法的類型,第1号から第4号までの事業者及び特例事業者の役割は何か。
②各事業者の許可・登録,業務管理者及び電子取引業務の体制は確認できるか。
③対象不動産,所有主体,借入れ,担保,賃貸運営及び売却権限は誰に属するか。
④対象不動産の取得・売却・賃貸が利害関係人との取引ではないか。
⑤鑑定士の独立性,鑑定評価の価格時点・前提・手法及び利害関係は確認できるか。
⑥比較価格・比較賃料の意味と対象物件を特定でき,対象不動産と比較可能か。
⑦価格査定書が鑑定評価書ではない場合,その旨と算定根拠は明記されているか。
⑧開発許可等,建築確認,工事費,工期及び資金計画の現在の状態は何か。
⑨出資金の使途,手数料,積立金及び期中支出の内訳を追えるか。
⑩賃料,空室,費用,修繕,利回り,借入れ及び出口価格の主要前提は何か。
⑪優先劣後,損失負担,途中解約,譲渡,償還及び期間延長の条件は何か。
⑫相続税評価を検討する場合,確定通達の内容と課税時期を最新資料で確認したか。
第9 関連記事と出典
不動産小口化商品の相続税評価案は,貸付用不動産・不動産小口化商品の相続税評価の見直しで詳しく整理している。
鑑定評価書の対象,価格時点,前提条件及び評価手法の一般的な読み方は,不動産鑑定評価書の読み方を参照されたい。
主な一次資料は,国土交通省「不動産特定共同事業法関係」,「不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について」(令和8年8月21日改正),「監督指針の新旧対照表」及び「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」(令和8年9月更新)である。
制度の全体像,許可事業者等一覧,モデル約款及び電子取引業務ガイドラインは,国土交通省「不動産特定共同事業等について」に掲載されている。
相続税評価案は,e-Govパブリックコメント「『貸付用不動産の評価について』の法令解釈通達(案)」(案件番号410080055)で確認した。
本記事の実務チェックリストはこれらの一次資料を相談・契約審査へ適用するための整理であり,個別ファンドの推奨又は投資助言ではない。