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交通事故の休業損害と基礎収入―実収入,賃金センサス,申告外所得及び家事従事者の立証(AI作成)

交通事故の休業損害は,事故によるけがのため働けず,又は家事に従事できず,症状固定又は治癒までに生じた収入・労働能力の喪失を対象とする。後遺障害逸失利益とは対象期間と立証事項が異なるため,同じ基礎収入を機械的に用いるべきではない。

本記事は,給与所得者,自営業者,会社役員,家事従事者,学生・若年者及び申告外所得が問題となる場合について,計算順序と証拠を整理する。

第1 休業損害の計算と対象期間

1 基本式

休業損害は,一般に「基礎収入の日額×相当な休業日数」で計算する。ただし,実際の減収額を直接把握できるときは,その額が出発点となる。

基礎収入,休業の必要性,休業日数,事故との因果関係及び既払額を別々に確認する。被害者が休んだ日数と,事故により休業が必要であったと認められる日数は常に一致するとは限らない。

2 休業期間と症状固定後を分ける

休業損害は,原則として事故日から治癒又は症状固定までの損害である。症状固定後に後遺障害による減収又は労働能力の低下が続く場合は,後遺障害逸失利益として別に検討する。

入通院期間の全日が当然に休業日となるわけではない。傷病の内容,仕事の内容,医師の指示,実際の勤務状況,在宅勤務や配置転換の可否及び回復経過から相当日数を判断する。

3 休業期間・割合を段階化する

大阪地裁令和元年6月11日判決(判例秘書L07450721)は,入院86日を100%,その後61日を70%,さらに290日を25%として,復職内容と治療頻度に応じて休業割合を段階化した。福岡地裁田川支部令和4年3月11日判決(判例秘書L07751434)も,症状,通院,早期復職及び既往腰痛を考慮し,13日を60%,その後194日を30%とした。

京都地裁令和7年3月31日判決(判例秘書L08051161)は,事故との因果関係がある治療期間を手術前日までに限定し,手術後の勤務先休業は事故との因果関係を否定した。副業についても,収入の存在,休業の必要性及び現実の休業をいずれも認めなかった。事故日から症状固定日までを一律100%とするのではなく,入院,全休,部分復職,回復期に分け,期間ごとの就労制限と実際の稼働を示す必要がある。

第2 給与所得者

1 事故前の給与と現実の減収

事故前3か月の給与を90日で割る方法は実務で用いられることがあるが,法令上の固定式ではない。賃金の締日,賞与,残業手当,歩合給,休業期間の長さ及び季節変動に応じて,より長い期間を比較する必要がある。

休業損害証明書だけでなく,源泉徴収票,事故前後の給与明細,賃金台帳,出勤簿,就業規則及び会社の担当者による説明を照合する。

2 有給休暇,欠勤及び賞与

有給休暇を使用して賃金が減らなかった場合でも,事故がなければ自由に使えた有給休暇を失ったという損害が問題となる。取得日,取得理由,残日数及び会社の取扱いを記録する。

賞与又は昇給への影響を請求するときは,事故がなければ支給された額と事故後の支給額の差だけでなく,査定期間,支給基準及び欠勤との因果関係を示す資料が必要である。

第3 自営業者・会社役員

1 売上減少ではなく利益減少を確認する

自営業者の休業損害は,売上高の減少だけでなく,休業により支出を免れた変動経費を控除した利益の減少を検討する。家賃,リース料,従業員給与等の固定費は休業中も支出が続くことがあり,事業維持のため必要であったかを費目ごとに確認する。

確定申告書,青色申告決算書又は収支内訳書,総勘定元帳,売上台帳,預金通帳,請求書,領収証,予約・受注記録及び事故後の外注費等を用いる。

2 代替労働・会社役員報酬

従業員又は外注先が代替したため売上が維持された場合でも,追加人件費又は外注費が生じたときは,その必要性及び相当性を検討する。売上が維持されたことだけで損害がないとは限らない。

会社役員の報酬減額については,労務提供の対価部分と利益配当的部分を区別し,職務内容,報酬決定資料,会社規模,他の役員・従業員の代替状況及び会社の業績を示す必要がある。

第4 申告外所得と賃金センサス

1 申告所得が原則的な出発点となる理由

申告所得は公的に作成・提出された資料であり,基礎収入の重要な出発点となる。しかし,申告額が実態と異なるとの主張を一律に排斥し,又は本人の説明だけで申告外所得を認めるのはいずれも適切でない。

申告外所得を主張する場合,契約書,請求書,入金記録,帳簿,取引先資料,仕入・経費資料及び事業実態を整合的に示す必要がある。税務上の修正申告等が必要となる可能性も別に確認する。

2 賃金センサスを用いる場面

厚生労働省の賃金構造基本統計調査は,主要産業の労働者について,雇用形態,職種,性,年齢,学歴,勤続年数,経験年数等別に賃金実態を明らかにする基幹統計である。ただし,統計値は個別被害者の収入を直接証明するものではない。

賃金センサスを参照するときは,性別,年齢,学歴,職種,経験年数,企業規模及び雇用形態のどの区分が被害者の就労可能性に合うかを説明する。最新年度の数値を常に用いるのではなく,事故時又は損害発生期間との関係も明示する。

3 申告外所得・賃金センサスの裁判例

大阪地裁令和6年5月15日判決(判例秘書L07950486)は,申告所得219万2020円に加え,銀行取引等から清掃業の申告外所得を少なくとも年140万円と認め,休業損害の基礎収入を359万2020円とした。名古屋地裁令和6年3月8日判決(判例秘書L07951348)は,確定申告が大幅な赤字でも,事業主が従業員に年240万円超を支払っていた事業構造等から,事業主本人にも少なくとも240万1400円の所得があったと推認した。

大阪地裁令和3年1月19日判決(判例秘書L07650008)は,訴訟上主張された所得額そのものは採用しなかったが,家計を支え自営業を継続していた生活・稼働実態と賃金センサスとの均衡を考慮し,年252万1539円を認定した。賃金センサスを機械的に代入したのではなく,客観的な生活・事業実態を評価する補助指標として用いた例である。

他方,札幌地裁令和6年6月5日判決(判例秘書L07951223)は,自営歯科技工士について,経費への私生活費混入の具体的裏付けがないとして賃金センサス年635万7900円の主張を排斥し,申告上の営業所得213万6044円を基礎とした。東京地裁令和7年2月28日判決(判例秘書L08030413)は,事故前後の確定申告が赤字で,具体的減収,申告外所得及び賃金センサス収入を得る蓋然性の立証がないとして休業損害を否定した。申告外であることだけを理由にゼロとはならないが,賃金センサスは申告所得が低い場合の自動的な最低保障でもない。

第5 家事従事者・兼業家事従事者

1 家事労働の休業損害

家事従事者は,現金収入がなくても,家族のために行う家事労働が制限された範囲で休業損害が問題となる。世帯構成,事故前の家事分担,家事の内容,傷害による具体的支障及び家族による代替を明らかにする。

診断名だけで全期間100パーセントの家事不能とするのではなく,入院期間,退院直後,通院・回復期を区切り,支障割合の変化を説明する。

2 兼業の場合と二重計上

兼業家事従事者について,給与減収と家事労働の支障は別の事実であるが,同一時間帯・同一労働能力の喪失を二重に計上しないようにする。具体的な家事分担及び勤務時間を基礎に,実収入と家事労働のどちらをどの範囲で評価するかを整理する。

詳しくは,兼業家事従事者の休業損害と家事代行費―実収入・賃金センサス・家事分担・二重填補の整理(AI作成)を参照されたい。

第6 学生・若年者・無職者

1 学生・若年者

学生又は若年者に事故時の現実収入がない場合でも,アルバイトを休んだ現実の減収があれば資料化する。卒業・就職が具体化していた場合は,内定通知,雇用契約,給与条件及び就職予定日も重要となる。

抽象的な将来の就労可能性を休業損害として計上することはせず,症状固定後の損害は後遺障害逸失利益として区別する。

2 無職者

事故時に無職であったことだけで休業損害が当然にゼロになるわけではないが,就労の意思と能力,求職活動,採用見込み及び就労開始時期を具体的に立証する必要がある。

第7 立証資料と請求書の作り方

1 証拠チェックリスト

立場主な資料確認する事項
給与所得者休業損害証明書,給与明細,源泉徴収票,出勤簿日額,欠勤日,有給休暇,賞与・手当
自営業者申告書,決算書,帳簿,通帳,請求書,経費資料利益,固定費,季節変動,代替費用
申告外所得入出金履歴,顧客別請求書,領収書控え,取引先資料,決済サービス履歴継続性,経費,申告との差異,第三者資料との整合
会社役員報酬決議,職務資料,会社決算,代替状況労務対価部分,報酬減額との因果関係
家事従事者世帯資料,家事分担表,日記,診療記録事故前の家事,具体的支障,回復経過
学生・求職者アルバイト資料,内定通知,求職記録現実の減収,就労開始の具体性

2 裁判所共通書式との対応

裁判所が公開する交通事件の共通書式は,事案の概要,損害額,治療費等及び相続等を一覧化するものである。休業損害についても,計算式,対象期間,基礎収入,休業日数,既払額,主張及び証拠を対応させる。

第8 出典及び関連記事

1 一次資料

① e-Gov法令検索「民法」709条及び722条

② 厚生労働省「賃金構造基本統計調査 結果の概要」

③ 裁判所「民事訴訟(交通事件)で使う書式」

2 文献上の実務整理と判例秘書調査

公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2019年版 下巻(講演録編)』26頁以下を,休業損害・基礎収入・申告外所得及び賃金センサスに関する実務上の整理として参照した。

さらに,2026年9月27日,判例秘書の民事裁判例を対象に,「申告外所得・休業損害」,「申告外収入・休業損害」,「賃金センサス・申告所得・休業損害」,「休業の必要性・実通院日数・休業損害」等で検索し,本記事に挙げた下級審判決の全文を確認した。判例秘書に収録されていない裁判例,検索語で把握できない裁判例,上訴・確定状況及び裁判所公表版との全文同一性は未確認であり,検索結果は全国の全裁判例を意味しない。

3 関連記事

① 交通事故の後遺障害逸失利益―減収のない会社員・家事従事者・自営業者の立証と計算(AI作成)

② 若年労働者の後遺障害逸失利益―基礎収入と賃金センサスの使い分け