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兼業家事従事者の休業損害と家事代行費―実収入・賃金センサス・家事分担・二重填補の整理(AI作成)

交通事故で負傷した人が仕事を持ちながら家事も担っていた場合、勤務先の給与が減ったかどうかだけでは休業損害を判断できない。反対に、給与の減少と家事への支障を常に二重に加算できるわけでもない。

兼業家事従事者の損害は、①勤務先の欠勤等による現実の減収、②本人が無償で担っていた家事への支障、③家族等が無償で代替した家事、④家事代行・一時保育等へ現実に支出した費用を分け、対象期間と家事項目を対応させて検討する必要がある。本記事は、その整理方法と示談・訴訟で準備する資料を説明する。

第1 最初に四つの欄へ分ける

1 勤務先の減収と家事への支障は別の事実である

給与所得者又はパートタイマーについては、まず欠勤、遅刻・早退、休職、有給休暇の使用、賞与又は手当の減少等を確認する。勤務先の休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票及び就業規則が中心資料となる。

これとは別に、調理、洗濯、掃除、買物、送迎、育児、介護等の家事が事故前後でどう変わったかを確認する。給与が支給され続けたことは、家事への支障がなかったことを当然には意味しない。

2 本人・家族・有償サービスの負担を混ぜない

同じ家事について、本人が時間をかけて行ったのか、同居家族が無償で代わったのか、家事代行業者等へ委託したのかを区別する。次の四欄で日付又は期間ごとに整理すると、請求漏れと二重計上を見つけやすい。

欄確認する損害主な資料
①勤務先欠勤等による現実の減収、有給休暇の使用休業損害証明書、給与明細、勤怠、就業規則
②本人の家事事故前の担当と、受傷後にできなくなった又は時間を要した家事家事分担表、症状経過、通院記録、日記
③家族の代替配偶者、親族等が無償で肩代わりした家事代替した人、内容、日数・時間、勤務への影響
④有償の代替家事代行、一時保育、配食等の現実の費用契約書、領収書、利用明細、必要性を示す資料

第2 家事労働が財産上の損害となる根拠

1 最高裁判例

最高裁判所第二小法廷昭和49年7月19日判決(昭和44年(オ)第594号、民集28巻5号872頁)は、家族のための家事労働について、現実の金銭収入を得ていなくても、他人を雇えば相当の対価を支払う必要があること等から、財産上の利益を生ずるものとして評価した。

この判決は死亡事故の逸失利益に関するものである。傷害事故の休業損害について個別の金額又は休業割合が当然に決まるわけではないが、無償の家事労働を「収入がないから損害もない」と扱わない出発点となる。

2 自賠責支払基準と民事上の損害算定を区別する

金融庁・国土交通省告示の自賠責支払基準は、休業損害を原則として1日6100円とし、これを超える収入減の立証がある場合の上限を1日1万9000円とする。また、家事従事者は収入の減少があったものとみなす旨を定めている。

これは自賠責保険の保険金等についての支払基準であり、示談又は訴訟における民法上の全損害を一律に確定する規則ではない。民事上の損害算定では、事故前の家事分担、受傷内容、実際の支障、対象期間、実収入及び代替費用等を具体的に検討する。

第3 兼業家事従事者の基礎収入

1 実収入と家事労働を機械的に足さない

兼業家事従事者には、勤務先での稼働と家庭内での無償労働の双方がある。しかし、実収入と賃金センサスの年額を常に全額加算する方法は、同じ稼働能力又は時間を重ねて評価するおそれがある。

他方、実収入が維持されたという一事だけで、現実に生じた家事への支障又は必要な代替費用まで当然にゼロになるわけでもない。事故前にどの家事を、いつ、どの程度担っていたかから検討する。

2 実収入が比較的少ない場合

パート収入等が賃金センサスの女性労働者の平均賃金を下回る場合、家事労働を含む基礎収入として賃金センサスを参考にすることがある。もっとも、性別、年齢、統計区分及び対象年の選択が自動的に決まるものではなく、本人の家事分担と就労実態に照らして相当性を説明する必要がある。

この場合も、勤務先の減収と、統計賃金を基礎にした家事休業損害を無条件で全額加算するのではない。何を基礎収入に採り、どの期間にどの休業割合を乗じたのかを計算書に明示する。

3 実収入が平均賃金と同程度又はこれを上回る場合

現実の年収が統計上の平均賃金と同程度又はこれを上回る場合、同じ稼働能力を実収入と家事労働で重複評価していないかが強く問題となる。年収だけで結論を出さず、勤務時間、通勤時間、家族構成、家事の担当割合及び代替の実態を示す。

提供された『赤い本講演録2025』の講演は、実収入が女性全年齢平均賃金相当以上で減収がない事案の家事休業損害について否定例がある一方、年齢別賃金センサスや具体的な家事分担を考慮した事例もあると整理している。これは講演者による下級審裁判例の整理であり、本記事作成時に各判決本文を判例秘書で網羅確認したものではない。

第4 家事の支障と休業割合を立証する

1 事故前の家事分担を具体化する

「主婦」「家事全般」という記載だけでは、事故前の分担も事故後の変化も分からない。家族ごとに、平日・休日の調理、洗濯、掃除、買物、子の送迎、育児、家計管理及び介護等を分け、担当頻度と所要時間を記録する。

未成熟子、要介護者、同居人の勤務形態、単身赴任、夜勤等は、家事負担を左右する。住居の広さや階段、車を使う買物、保育所との距離等も、症状との関係で必要な範囲を説明する。

2 症状とできない家事を対応させる

傷病名又は通院日数だけから家事休業割合を決めず、上肢の挙上制限、握力低下、立位・歩行の制限、疼痛、めまい等が、どの家事を妨げたかを結び付ける。

入院中、退院直後、固定具装着中、家事の一部再開後というように期間を区切る。全期間を一律100%又は0%とせず、回復経過、医師の指示、リハビリ記録及び家庭内の実態を対応させる。

3 記録は後からまとめて作らない

事故直後から、日付、症状、できなかった家事、代わった人、所要時間、有償サービスの利用を簡潔に記録する。家族の陳述書は有用になり得るが、診療録、勤務資料、領収書等の同時期資料と整合するかを確認する。

第5 家事代行費その他の代替費用

1 現実に支出したことだけでは足りない

家事代行、一時保育、配食、送迎等の費用は、事故との相当因果関係、利用の必要性、サービス内容、単価及び期間が問題となる。契約書と領収書だけでなく、誰のどの家事を代替し、家族内の代替では足りなかった理由を示す。

事故前から利用していたサービスは、その全額が事故による増加費用とは限らない。事故前後の利用回数と金額を比較し、事故による追加部分を明らかにする。

2 家族が無償で代替した場合

家族が代わって家事をした場合、業者への支出はない。しかし、本人の家事労働への支障を認定する事情となり得るため、代替者、具体的な家事、日数・時間及び代替者の仕事への影響を記録する。

家族が休業して現実の減収を被った場合は、誰のどの損害として、どの法的構成で請求するのかを別に検討する。本人の休業損害へ当然に家族の減収を加算しない。

第6 二重填補を避けるための照合

1 家事項目と期間を横に並べる

二重計上は、損害の名称ではなく、実際に代替された家事と期間が重なっているかで点検する。本人ができなかった同じ調理について、家事休業損害と家事代行費をともに全額請求すれば、重複が問題となりやすい。

一方、家事休業損害が一部の能力低下を評価し、有償サービスが別の家事又は特に支障の大きい短期間だけを代替しているなど、対象が異なる場合まで名称だけで排除するのも適切でない。計算期間、家事項目、担当者及び費用を同じ表で照合する。

2 示談案の控除欄まで確認する

保険会社の提示では、休業損害の基礎日額と認定日数だけでなく、家事代行費が治療関係費、付添費又はその他の費目のどこへ計上されているかを確認する。既払金として別欄で控除され、二度差し引かれていないかも見る。

示談案全体の確認方法は、交通事故の示談案の見方を参照されたい。

第7 相談・請求前のチェックリスト

①事故前の勤務時間、通勤時間及び家事分担を家族別・曜日別に記載したか。
②欠勤、給与減、有給休暇、賞与・手当への影響を資料で確認したか。
③傷病・症状と、できなくなった家事を対応させたか。
④入院、退院直後、回復期等に期間を区切ったか。
⑤家族が代替した家事と、有償サービスが代替した家事を分けたか。
⑥家事代行等の必要性、利用内容、単価及び領収書を揃えたか。
⑦基礎収入の資料、統計年、統計区分及び採用理由を示したか。
⑧実収入、家事休業損害、家族の減収及び代替費用の重複を点検したか。
⑨示談案の既払金・控除欄まで照合したか。

第8 出典・資料上の限界

1 一次資料

①最高裁判所第二小法廷昭和49年7月19日判決(昭和44年(オ)第594号、民集28巻5号872頁)。
②金融庁・国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)。

2 実務資料と確認範囲

①日弁連交通事故相談センター東京支部編・発行『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2025年版講演録所収「共働き夫婦と主婦休損及び家事代替費」(冊子印字83頁以下)。
②同講演で紹介された下級審裁判例の傾向は、講演者による実務整理として参照した。本記事作成時点では、掲載裁判例の判決全文、引用箇所、確定状況及び後続審を判例秘書で網羅確認できていない。個別事件では、必要な判決本文と事故時の資料を改めて確認する必要がある。