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令和4年司法試験刑事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した48項目と5段階の重み付け(AI作成)

令和4年司法試験の刑法を,48の評価項目と約5000字の答案で整理する。公式資料が許容する理論の分岐と,典型的な誤りを併せて確認できる。

第1 この記事の対象と結論

令和4年司法試験刑事系科目第1問(刑法)を対象とする。問題,出題の趣旨及び採点実感をもとに,48項目を独自に抽出した。法務省の公式採点基準・項目別配点ではない。

中心は,盗品の委託信任関係の要保護性,横領における効用に基づく利用処分の要否,第三者防衛の急迫性の基準主体,認識事実に基づく誤想過剰防衛,及び無関係の第三者への危難転嫁である。答案は,設問1の二つの主張を肯定し,乙について傷害罪と窃盗罪の成立を認める。傷害の刑の減免は別に検討する。異なる根拠・構成が許容される点は評価表と解説に示す。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

各項目は,一つの判定対象を答案の記述に対応させている。番号は記事全体で連続し,必須・高評価・負例・許容分岐を区別する。負例は避けるべき誤り,許容分岐は採用した立場でのみ必要となる内容である。全項目を全答案への累積的な要求としない。資料欄はPDFの頁・節と最小限の根拠を示す。「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果であり,未確認という意味ではない。

2 5段階の重み付けの基準

重み5=採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格。
重み4=出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。
重み3=どちらか一方が明示する中核の理由付け。
重み2=一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り。
重み1=一方が控えめに触れる事項。

本問では重み1に該当する独立項目は抽出していない。重みは本記事の分析であり,区分とは独立する。重み5の高評価事項や条件付き分岐を,全答案の必須事項へ変更するものではない。

第3 本問の概要

AはBのバイクを盗み,甲にはA所有と説明してガレージでの保管を頼んだ。甲はAと仲違いし,Aを困らせるためバイクを約5キロメートル離れた実家の物置に隠した。設問1は甲の全罪責ではなく,横領罪の成立を認める二つの主張の当否をそれぞれ簡潔に問う。

その後,甲はAの暴力を強く予期しながら包丁を準備して公園へ出向いた。Aが甲を殴ろうとする場面を偶然見た乙は,先行事情と甲の包丁を知らず,甲を助けるためAの背後からナイフで上腕を強く刺した。乙はAに追跡され,無関係のDの原付を逃走に使い,安全な場所で放置するつもりで乗り去った。設問2は乙の罪責を問う。特別法違反は除外する。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1【必須】委託信任関係を原因とする占有が必要であると示す。516頁・設問1:委託信任関係を原因1頁・2採点方針:他人からの委託に基づく占有
2【必須】窃盗犯人Aからの盗品保管の委託の要保護性を問題とする。516頁・設問1:窃盗犯人からの盗品の保管の委託1頁・2採点方針:窃盗犯人Aとの委託関係も保護に値するか
3【高評価】委託者が所有者以外であるという一般論にとどめず,正当な権限を持たない窃盗犯人である点を扱う。416頁・設問1:正当な権限を与えられていない窃盗犯人2頁・2採点方針:正当な権限を与えられていない者
4【許容分岐】保護肯定説では,窃盗犯人の占有を保護する窃盗罪との均衡を理由にする。
条件:保護肯定説を採る場合
316頁・設問1:窃盗罪において窃盗犯人の占有も保護2頁・2採点方針:窃盗犯人の占有が保護されることとの均衡
5【許容分岐】保護否定説では,客観的な委託内容が盗品等保管罪を構成することを論拠とする。
条件:犯罪委託を理由とする保護否定説
316頁・設問1:委託の内容が犯罪を構成する場合記載なし
6【許容分岐】保護否定説では,所有者又は所有者から権限を与えられた者の委託を要求する。
条件:権限を理由とする保護否定説
316頁・設問1:所有者又は所有者から権限を与えられた者記載なし
7【高評価】自説の論拠と他説への批判を示し,主張⑴への賛否を明示する。416頁・設問1:自説の論拠や他説への批判1頁・2採点方針:自説の論拠や他説への批判
8【負例】Bの所有権をAの物と扱ったり,他人物性の検討を中心にしたりしない。2記載なし2頁・2採点方針:本件バイクが実質的にはAの物

2 設問1⑵

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
9【必須】横領行為を越権行為と捉えるか,領得意思の発現と捉えるかを明示する。516頁・設問1:横領行為とは3頁・3⑵各設問:越権行為説
10【許容分岐】越権行為説では,委託の趣旨に反する権限逸脱行為を根拠にする。
条件:越権行為説を採る場合
316頁・設問1:委託の趣旨に反する権限逸脱行為3頁・3⑵各設問:受託者が委託の趣旨に反し
11【許容分岐】領得行為説では,不法領得の意思が行為として外部に現れることを要求する。
条件:領得行為説を採る場合
416頁・設問1:不法領得の意思を発現する行為3頁・3⑵各設問:不法領得の意思を発現する行為
12【高評価】横領罪の不法領得の意思を,委託任務に背く無権限の所有者的処分意思として説明する。
条件:領得行為説を採る場合
416頁・設問1:所有者でなければできないような処分3頁・3⑵各設問:所有者でなければできないような処分
13【高評価】横領で効用に基づく利用処分を不要とする場合,その根拠を示す。
条件:利用処分不要説を採る場合
416頁・設問1:目的物をその効用に基づいて利用3頁・3⑵各設問:財物の効用に基づく利用処分の要否
14【許容分岐】利用処分必要説では,毀棄罪との区別から用途への利用処分意思を要求する。
条件:利用処分必要説を採る場合
316頁・設問1:毀棄罪との区別記載なし
15【高評価】本件隠匿は委託趣旨に反するが,バイクの効用に基づく利用処分ではないと分析する。416頁・設問1:バイクの効用に基づいて利用処分1頁・2採点方針:Aを困らせるため
16【負例】報復目的の隠匿を,単なる適切な保管場所変更と評価しない。2記載なし3頁・3⑵各設問:単なる保管場所の変更ではなく
17【負例】利用処分が必要かという争点を示さずに,所有者的処分との定型句だけで処理しない。2記載なし3頁・3⑵各設問:特段の問題意識もなく
18【負例】利用処分を要求しない判例の定義と,利用予定がないとの当てはめを矛盾させない。2記載なし3頁・3⑵各設問:何の説明もなく利用処分意思を必要

3 設問2・傷害

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
19【必須】刺突・傷害結果・故意を,傷害罪の構成要件に対応させる。417頁・設問2:傷害罪の構成要件に該当1頁・2採点方針:傷害罪の成否を論じる必要
20【必須】第三者防衛について,甲と乙のどちらを急迫性判断の基準にするかを問題にする。517頁・設問2:いずれを基準に侵害の急迫性1頁・2採点方針:被侵害者甲と防衛者乙のいずれ
21【高評価】甲基準説では,甲の要保護性と正当防衛の制度趣旨から基準主体を論証する。
条件:甲基準説を採る場合
417頁・設問2:その侵害に対する要保護性を欠き3頁・3⑵各設問:被侵害者の要保護性
22【高評価】侵害予期のみで否定せず,平成29年決定の先行事情を含む総合判断を示す。
条件:侵害予期を検討する場合
417頁・設問2:対抗行為に先行する事情を含めた行為全般3頁・3⑵各設問:対抗行為に先行する事情を含めた行為全般
23【負例】平成29年決定の判断を,積極的加害意思の有無だけに狭めない。
条件:侵害予期を検討する場合
2記載なし4頁・3⑵各設問:専ら積極的加害意思の有無のみ
24【高評価】甲の高い侵害予期,出向く必要の欠如,包丁準備,予期内の殴打等を法的に評価する。
条件:甲基準説を採る場合
417頁・設問2:わざわざ出向く必要はなかった1頁・2採点方針:喧嘩闘争を覚悟の上で包丁を準備
25【負例】Aの侵害が不正であることと,甲について急迫性がないことを両立させる。
条件:甲基準説を採る場合
2記載なし4頁・3⑵各設問:Aの行為が不正の侵害であっても
26【負例】拳を再度振り上げた場面だけを切り取り,Aの正当防衛にすり替えない。2記載なし4頁・3⑵各設問:拳を振り上げる行為だけを切り取って
27【必須】急迫性否定後,乙が防衛状況を誤信した場合の故意犯成立を検討する。
条件:甲基準・急迫性否定枝
517頁・設問2:乙に故意犯が成立するかどうか1頁・2採点方針:乙に故意犯が成立するのか否か
28【高評価】認識した事情が真実なら適法かを検討し,責任故意と構成要件故意を区別する。
条件:錯誤のある枝
417頁・設問2:責任段階で故意が阻却2頁・2採点方針:違法性を基礎付ける事実の認識
29【必須】乙の認識事実に基づいても刺突が相当かを判断する。
条件:錯誤のある枝
517頁・設問2:乙の認識・予見した事実2頁・2採点方針:乙の認識を前提としても
30【高評価】素手の攻撃とナイフ,体格,背後・無警告の強刺突,軽い代替手段を比較する。
条件:相当性判断
418頁・設問2:より侵害性が軽微な手段2頁・2採点方針:具体的な事実関係に即して
31【高評価】認識事実でも過剰であることから,違法性基礎事実の認識と傷害の故意責任を認める。
条件:採用枝
418頁・設問2:故意は阻却されず乙に傷害罪4頁・3⑵各設問:故意犯の成立を認めるため
32【高評価】誤想過剰防衛について36条2項の適用・準用の可否を根拠付きで示す。
条件:誤想過剰防衛の枝
418頁・設問2:適用(又は準用)の可否2頁・2採点方針:刑法第36条第2項に基づく刑
33【許容分岐】乙基準説では,甲に防衛が認められないのに乙に認める理由と急迫性の相対化を説明する。
条件:乙基準説を採る場合
318頁・設問2:急迫性の判断が相対化する理由記載なし
34【許容分岐】急迫性を肯定する枝では,相当性否定後に客観的過剰防衛を処理する。
条件:急迫性肯定枝
418頁・設問2:傷害罪が成立し過剰防衛を認める4頁・3⑵各設問:過剰防衛の成否に全く言及しない
35【負例】急迫性を肯定した枝を,誤想防衛の枝と混同しない。
条件:分岐の整合
2記載なし4頁・3⑵各設問:急迫不正の侵害を肯定しながら誤想
36【負例】誤想(過剰)防衛という名称だけで止めず,故意・違法性・刑の帰結を示す。2記載なし4頁・3⑵各設問:いかなる帰結が導けるか

4 設問2・原付

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
37【必須】Dの原付の他人物性・占有・窃取・故意を窃盗の構成要件に対応させる。418頁・設問2:「他人の財物」、「窃取」4頁・3⑵各設問:窃盗罪の成否が問題
38【必須】逃走利用と放置予定から,不法領得の意思を端的に認める。418頁・設問2:故意及び不法領得の意思4頁・3⑵各設問:適当な場所に放置する意図
39【負例】不法領得の意思の明白な事案で,その論証に過大な分量を割かない。2記載なし4頁・3⑵各設問:不法領得の意思が認められるかを延々
40【必須】現在の身体危難を避ける原付使用として緊急避難を問題にする。418頁・設問2:緊急避難として違法性が阻却2頁・2採点方針:緊急避難の成否が問題
41【必須】乙が招いた危難の回避を,無関係の第三者Dに転嫁できるかを問題にする。518頁・設問2:無関係の第三者Dに侵害2頁・2採点方針:無関係の第三者Dに侵害
42【高評価】自招危難の処理について,緊急避難・違法性の本質から具体的な判断基準を示す。519頁・設問2⑵:緊急避難や違法性の本質2頁・2採点方針:具体的な判断基準
43【許容分岐】平成20年自招侵害決定を使う場合,要保護性欠如の根拠が緊急避難にも妥当することを説明する。
条件:平成20年決定の趣旨を参照する場合
318頁・設問2:被侵害者の要保護性の欠如記載なし
44【許容分岐】同決定参照説では,先行不正行為との一体性と,後の危難が先行行為を大きく超えないことを検討する。
条件:同決定参照説を採る場合
318頁・設問2:招致行為の程度を大きく超える記載なし
45【許容分岐】有責招致説では,乙の故意又は過失による危難招致と,侵害の予見可能性を論じる。
条件:有責招致説を採る場合
319頁・設問2⑵:予見可能性は認められる記載なし
46【許容分岐】要件内処理又は社会的相当性・権利濫用等の処理を採る場合,論証の位置を一貫させる。
条件:これらの構成を採る場合
319頁・設問2⑵:社会的相当性や権利濫用記載なし
47【高評価】自招危難の基準を,乙の不法な刺突と直後の追跡など本件事実に当てはめる。419頁・設問2⑵:具体的な事実関係に即して2頁・2採点方針:具体的な事実関係に即して

5 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
48【必須】設問1⑴⑵を別の争点として扱い,各主張の当否を答える。416頁・設問1:各主張の当否を論ずる3頁・3⑵各設問:異なる論点に関する主張

6 重みの分布

重み5:8項目,重み4:20項目,重み3:10項目,重み2:10項目,重み1:0項目。総項目数は48,重みの単純合計は170である。この数値は公式得点や難易度を示さない。

5段階の重み付けは,各項目が答案の骨格,評価の分かれ目,中核の理由付け又は補強のどれに当たるかを判断して行う。重みごとの件数や割合を他年度・他科目に合わせるための調整はしない。令和8年度の主要7科目のハブ記事と同じく,一つの項目に一つの判定対象を置き,項目の機能と充足条件を示すことによって整合性を確保する。本記事は公表済みの出題の趣旨・採点実感から抽出したものであり,公表前に問題文・法令・判例から予想した令和8年度の記事とは項目の作り方が異なる。そのため,重み5の割合や重みの合計から,年度間の配点,難易度又は評価の精度を比較することはできない。重み1が0項目であることも,件数を埋めるために項目を追加する理由にはならない。

重み5の全8項目は,番号1(委託信任占有),2(盗品委託の要保護性),9(横領行為の捉え方),20(第三者防衛の基準主体),27(錯誤と故意犯),29(乙の認識事実下の相当性),41(第三者Dへの危難転嫁),42(自招危難の具体的判断基準)である。番号27・29は,急迫性を否定して錯誤を検討する枝で必要となる。

一般的な指摘(重み集計外):規範・事実の法的意味・結論を接続し,重要事項を厚くして無関係な論証を増やさない。用語・漢字・読みやすい文字にも留意する。これらは採点実感2頁・5頁の一般的な指摘を整理したものである。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

基準時は刑事系科目第1問の試験日である令和4年5月14日とする。刑法は同日に施行されていた版により,後年の拘禁刑への改正等を遡及させない。以下は公式資料を踏まえた独自答案であり,唯一の模範答案ではない。答案本文は見出し・「以上」を含め,空白・改行を除いて5236字である。

2 答案

第1 設問1

1 主張⑴の当否

(1)横領罪は,委託関係に基づいて自己が占有する他人の物を横領することにより成立する。甲は,Aから保管を頼まれ,自宅のガレージに本件バイクを入れて管理しており,事実上の占有と保管の委託がある。バイクの所有者はBであり,Aによる窃取によって所有権は移転しないから,「他人の物」に当たる。

もっとも,事実上の委託があれば常に足りるとすると,犯罪者が盗品の隠匿を依頼した関係まで刑法が保護することとなる。横領罪が所有権と委託に伴う信任関係を保護する以上,委託関係が刑法上保護すべきものかを検討する必要があり,「頼まれた以上」当然に成立するとする主張は,この点の説明を欠く。

(2)主張を肯定する根拠として,窃盗罪が窃盗犯人の占有も保護することとの均衡が挙げられる。窃盗犯人が占有する物を第三者が奪えば窃盗となるのに,窃盗犯人が保管を委託した物を受託者が領得する場合だけ保護を否定するのは,財物の支配を保護する体系として均衡を欠く。横領罪では事実的占有に委託信任関係が加わるため,その侵害を処罰する必要性も認められる。

これに対して,盗品の保管の委託は客観的に盗品等保管罪の実行を内容とし,犯罪を目的とする信任を保護すべきでないとの反論がある。また,所有者又は所有者から権限を与えられた者による委託だけを保護すれば,正当な権限のないAからの委託は除外される。甲が盗品であると知らなかったことは,甲自身の盗品等保管罪の故意の問題であって,それだけで客観的な委託関係の要保護性が確定するわけではない。

しかし,窃盗罪が保護する占有についても,その原因が不法であるだけでは財物に対する保護を失わせない。横領罪についても,委託者の違法な取得を是認することと,受託者が委託を裏切って新たに財物を領得することを禁ずることとは区別できる。委託信任関係の保護は,窃盗犯人に所有権を認めるものでも,盗品保管を適法にするものでもない。本答案はこの均衡を重視し,窃盗犯人からの委託も本罪の占有の原因として認める。

よって,本件の委託信任関係も保護されるとの限定と以上の根拠の下で,主張⑴は妥当である。否定説を採る場合には,甲の主観的な善意を理由に例外を設けるのでなく,採用した要保護性の基準に即して主張の当否を答える必要がある。

2 主張⑵の当否

(1)「横領」とは,不法領得の意思を実現する行為をいう。その意思は,他人の物の占有者が委託の任務に背き,権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思である。この領得行為説に対し,委託趣旨に反する権限逸脱行為を全て横領とする越権行為説もあるが,単なる保管上の任務違反と財物の領得とを区別できない難点があるため採らない。

また,他の領得罪と毀棄罪を区別するのと同様,横領でも物の効用に基づく利用処分意思が必要との反論がある。この説では,甲はバイクを走行・売却等に利用することを考えず,専ら隠匿するにとどまるため,主張⑵は否定される。

しかし,横領罪は適法に開始した占有を委託に反して所有者的支配へ変える点に特質があり,窃盗のような占有奪取との区別のための意思要素を,そのまま要求する必要はない。自己の利益取得や効用に基づく利用処分の予定は不要と解する。窃盗罪で用いる利用処分意思の説明をそのまま移して,使用・売却の予定がないから当然に横領ではないとすることはできない。

(2)甲は,保管場所を適切に変更するためではなく,Aを困らせるため,無断でバイクを軽トラックに積み,約5キロメートル離れた実家の物置に隠した。これは単なる返還の先延ばしや保管上の措置ではなく,Aによる回収を妨げ,委託の範囲を離れてバイクの所在と返還を自己の意思に従わせる行為である。所有者的に処分する意思を外部に表したと評価できる。

その後どうするかを考えていなかった点は,最終的な使途が未定であるにすぎず,既に行った任務違背の処分を否定しない。よって,主張⑵は妥当である。

第2 設問2

1 Aに対する刺突行為

(1)傷害罪の構成要件

乙は,刃体18センチメートルのナイフをAの右上腕部に強く突き刺し,加療約3週間を要する刺創を負わせた。身体の生理的機能を害する結果があり,刺突との因果関係も認められる。人の上腕を強く刺すことを認識しているので傷害の故意もあり,204条の構成要件を充足する。上腕を狙った事情の下で,殺意を補って殺人未遂罪を論じるべきではない。

(2)第三者のための正当防衛

ア 乙は甲を助けるために行為しているから,甲の身体に対する侵害を対象とする36条1項の正当防衛が問題となる。Aは至近距離から甲の顔面を殴ろうとしており,侵害は現に切迫している。しかし,第三者防衛で先行事情を考慮する急迫性の判断を甲と乙のいずれを基準とするかが問題となる。

イ 急迫性は,公的保護を求められない状況で私人の対抗行為を例外的に許すための要件である。侵害を回避できるのに積極的にその場へ臨んだ被侵害者が,自ら受け入れた侵害についての要保護性を欠く場合には,その者の権利を第三者が防衛する必要性も失われる。侵害を予期していたことだけでは否定されず,従前の関係,予期の程度,回避の容易性,現場へ出向く必要,凶器の準備,実際の侵害との異同などを総合して判断する。

甲は,Aの粗暴な性格と過去の暴行を知り,殴られる可能性が極めて高いと思いながら,呼出しに応じて包丁を準備して公園に出向き,Aを待ち構え,更に挑発している。会って応戦しなければならない事情は示されておらず,現実の殴打も予期した範囲にある。この経過は単に侵害を予期しただけの場合と異なり,侵害を回避せず凶器を携えて争いに臨んだものとして,甲について急迫性を否定すべきである。

ウ 第三者防衛も被侵害者の権利を防衛する制度であり,被侵害者について正当防衛状況が存在しないのに,別人が介入することだけで客観的な防衛権限が発生するのは相当でない。そこで,先行事情による防衛状況の制限は甲を基準として判断し,乙が事情を知らない点は錯誤として個別に処理する。乙に積極的加害意思がないことのみから甲をめぐる侵害の急迫性を認めるべきではない。

甲について急迫性が認められない以上,乙の行為も正当防衛ではない。急迫性を欠くため,客観的な過剰防衛として36条2項を直接適用することもできない。

(3)誤想過剰防衛

ア 乙は先行の窃盗・隠匿・口論・呼出しを知らず,甲が包丁を持つことも認識していない。そしてAが甲を一方的に攻撃しようとしていると思い,偶然その場に来て直ちに甲を助けようとした。したがって,乙は急迫不正の侵害が存在すると誤信したといえる。

違法性阻却事由に関する事実の錯誤がある場合,認識していた事実が真実なら行為が適法になるときには,違法性を基礎付ける事実の認識を欠くため故意責任を否定し得る。しかし,認識事実を前提としても防衛の程度を超える場合には,過剰性を基礎付ける事情を認識している限り,傷害の故意責任はなお残る。

イ 乙の認識を前提とすると,Aは素手で甲の顔面を殴ろうとしているにとどまり,甲,乙,Aはいずれも20歳代で体格に大差がない。乙はAの背後に回ることができ,警告や制止をしないまま,殺傷能力の高いナイフを上腕に強く刺している。乙も同体格で,背後から羽交い締めにするなど,より侵害の軽い制止手段を採り得たと評価できる。顔面殴打による被害を防ぐ必要はあっても,背後からの強い刺突は,その危険に対する相当な防衛手段の程度を超える。

急な出来事で直ちに助けようとし,胸腹部ではなく上腕を狙ったことは防衛的な意思や情状を支える。しかし,これらを考慮しても無警告の強刺突を相当とすることはできない。乙は素手の殴打と自己のナイフ使用を認識しているので,認識した事情によっても過剰な防衛行為をしたことになる。

ウ よって,乙は誤想過剰防衛であり,単なる誤想防衛として傷害の故意を否定することはできない。もっとも,36条2項が緊急状況下の心理的圧迫に配慮して減免を許す趣旨は,防衛状況を誤信した場合にも及び得る。乙は一方的な攻撃を目撃したと思ってとっさに介入しており,同項の類推適用による刑の減軽又は免除を認める余地がある。これは犯罪の不成立ではなく,成立した傷害罪についての刑の問題である。

(4)反対構成との関係

第三者防衛の急迫性を防衛者乙を基準として判断する見解では,侵害を予期していない乙に急迫性が認められる。この構成でも,前記の刺突の相当性を欠くため傷害罪は成立し,客観的な過剰防衛として36条2項が直接適用される。甲基準の誤想過剰防衛と混在させず,基準主体の選択に応じて減免根拠を区別する必要がある。

2 本件原付を使用した行為

(1)窃盗罪の構成要件

本件原付はDが宅配のため道路脇に一時停めたものであり,Dが近くのマンション内に入っていたとしても,業務中の一時的な離席であるから事実上の支配は継続する。エンジンが掛かっていることやDがその場にいないことから,占有離脱物とすることはできない。乙はDの意思に反して原付を発進させ,Dの占有を排除して自己の支配へ移したから,窃取に当たる。

乙には原付を逃走に利用する意思があり,安全な場所に放置して立ち去る予定で,Dの元へ返還する意思がない。権利者を排除して経済的用法に従い利用する不法領得の意思と窃盗の故意が認められる。使用窃盗の限界を長く論じる必要はなく,235条の構成要件を充足する。

(2)緊急避難の一般要件

乙はAに追い付かれれば暴力を振るわれると考え,原付を使って逃げた。Aは刺突後に乙を蹴り,乙がナイフを落として走り去った後も,捕まえて痛め付けるため追い掛けている。これは既に終了した刺突を排除するための対抗行為にとどまらず,新たな身体侵害の危険を生じさせている。Aの足が速く,逃走を続けてもすぐ追い付かれるので,身体に対する現在の危難がある。

乙は危難を避ける目的で行為しており,原付を使うことが追跡を振り切る唯一の手段であるとの与件から,具体的な避難時点における補充性もある。回避しようとする身体への害に対し,生じる害は原付の財産的被害であり,短い逃走利用であることも考慮すれば,法益均衡を肯定する余地が強い。問題文にない生命の危険や高額の損害を付加すべきではない。

(3)自招危難の問題

もっとも,この追跡は乙による先行の強い刺突を契機としており,自ら招いた危難を無関係のDに転嫁できるかが問題となる。緊急避難は第三者の法益への侵害を許すため,その許容には厳格な理由を要する。他方,危難と先行行為に因果関係があるだけで否定すると,些細な過失で危難に陥った者まで救済されないので,先行行為の違法性・危険性,予測可能性,危難の連続性及び第三者への転嫁の合理性から判断すべきである。

この問題については,自招侵害に関する平成20年5月20日決定の趣旨が参考になる。同決定は,不正行為に触発された直後の近接場所での一連一体の侵害であり,先行行為の程度を大きく超えない場合に,反撃の正当化状況を否定した。その実質的根拠を被侵害者の要保護性の欠如と捉えるなら,同じ状況で無関係な第三者の財産を侵害する緊急避難についても妥当する。これは同決定が緊急避難を直接判断したという意味ではなく,制度趣旨の参照である。

乙の刺突は,認識した事情の下でも防衛の程度を超える違法な傷害である。Aの追跡はこの刺突に触発された直後の近接場所での一連一体の事態であり,Aは素手で殴る蹴るなどの暴力を加えようとするにとどまるから,乙の強いナイフ刺突の程度を大きく超える危難とはいえない。甲を助ける動機や誤信があっても,故意の不法な傷害を受けたAのこの程度の反応について,乙を第三者Dの犠牲で保護する必要性は乏しい。

本答案は,この要保護性の欠如により,緊急避難として「やむを得ずにした行為」の実質を欠くと解する。原付が追跡を振り切る唯一の手段であるという物理的な補充性の与件は維持した上で,緊急状況を自ら作った者が第三者の権利侵害を正当化できるかを,その実質的許容性の問題として扱う。

したがって,本件では自招危難として緊急避難の成立を否定し,窃盗罪の成立を認める。これに対し,善意の第三者防衛への介入を重視して自招性による制限を認めない見解では,一般要件を満たす限り窃盗の違法性が阻却されるが,本答案は以上の理由から採用しない。

3 罪数

乙にはAに対する傷害罪とDに対する窃盗罪が成立する。両者は異なる時点の刺突と占有奪取であり,被害者と侵害法益も異なる。現実に傷害後の逃走に原付を利用したとしても,窃盗は傷害の通常の手段又は結果ではない。行為同一性もないから観念的競合・牽連犯ではなく,45条前段の併合罪となる。傷害について前記の刑の減免を検討する。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案第1の1は番号1〜8,第1の2は番号9〜18,第2の1は番号19〜36,第2の2は番号37〜47に対応する。番号48は両主張を独立に答える形式を確認する。重み5の番号1・2・9は設問1の別々の争点,番号20・27・29は第三者防衛から錯誤への順序,番号41・42は緊急避難の自招性に関する論述で回収している。

(2) 盗品の委託と横領行為

甲の善意と,客観的な盗品保管の委託の要保護性は別問題である。答案は窃盗犯人の占有を保護する窃盗罪との均衡を採るが,犯罪内容の委託を除外する説,正当な権限を要求する説も公式資料が掲げる説明である。番号5・6を採らない答案に,その結論自体を要求しない。横領行為についても,越権行為説,領得行為説の利用処分不要説・必要説を区別する。隠匿をバイクの効用による利用と説明したり,判例の定義を掲げながら利用予定がないだけで否定したりするのは不整合である。

(3) 第三者防衛・故意・刑の減免

甲基準説は,被侵害者の要保護性から防衛状況を判断する。乙の事情不知は,乙の責任段階で扱う。乙基準説なら,先行事情に関与せず予期していない第三者が現に切迫する不正侵害を排除することには独立の正当化根拠があるとして,甲の制限を乙へ及ぼさない理由と急迫性の相対化を説明する必要がある。その枝では刺突の相当性欠如を客観的過剰防衛として処理する。

自招侵害を除いて先行事情による急迫性の制限を否定する立場も,根拠を十分に説明する場合には検討対象となる。急迫性を肯定したのに誤想防衛を論じること,相当性を否定したまま過剰防衛を処理しないことは避ける。甲基準の枝では,乙が認識していた事実でも刺突が過剰であることを示した上で故意犯を認め,36条2項の減免を別に論証する。

(4) 自招危難とDの財産

本答案は平成20年決定の要保護性の根拠を緊急避難へ参照し,先行不正行為との一体性と,追跡による危難が刺突の程度を大きく超えないことを重視する。決定自体がDのような第三者への緊急避難を判断したわけではない。有責招致説,現在危難又はやむを得ずにした行為の要件内処理,社会的相当性・権利濫用等による処理を採る場合も,根拠・基準・当てはめを一貫させる。原付使用が唯一の逃走手段という与件を覆して補充性を否定してはならない。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

設問1は簡潔な論述が指定されており,学説の比較を全て同じ分量で書く必要はない。答案の採用構成と強い反論を優先する。罪数の45条前段の処理は法律上の補足であり,両公式資料に本問の独立評価項目として明示された事項とは区別する。A及び甲の全罪責,特別法違反,問題文にない殺意に基づく殺人未遂は扱っていない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①令和4年司法試験論文式試験問題・刑事系科目(PDF1〜3頁,第1問)
②令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨(PDF15頁の刑事系第1問の見出しから19頁の第2問直前まで)
③令和4年司法試験の採点実感・刑事系科目(第1問,PDF1〜6頁)
④令和4年司法試験の実施日程(刑事系第1問の試験日)

2 法令

刑法・令和4年5月14日に施行されていた版の第36条,第37条,第38条,第45条,第204条,第235条,第252条及び第256条。e-Govの改正履歴と当該版の原文を確認した。

3 裁判例

①最判昭和24年3月8日・昭和23年(れ)1412号(横領の不法領得の意思,原文全頁)
②最判昭和27年10月17日・昭和25年(れ)637号(不法領得意思の外部発現,関連判示はPDF2〜3頁)
③最決平成29年4月26日・平成28年(あ)307号(侵害予期と急迫性,原文全3頁)
④最決平成20年5月20日・平成18年(あ)2618号(自招侵害,原文全2頁。緊急避難への接続は本記事の解釈)

4 確認状態

公式資料の本問関連範囲と,上記法令原文及び裁判例の関連判示を実読している。評価項目の具体化,区分,重み及び答案の当てはめは本記事独自の分析である。盗品の善意受託を直接扱う判例及び第三者防衛の基準主体・誤想過剰防衛の減免を直接判断する判決原文は,本記事の確認範囲では確定していない(Unknown)。この部分は公式資料が示す説明と制度趣旨に基づく解釈として述べ,確認済みの判例結論とは表示していない。