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歩行者が交通事故の加害者となる場合―不法行為責任・過失相殺・共同不法行為及び求償関係

◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。

第1 歩行者も交通事故の加害者となり得ること

交通事故では自動車、二輪車又は自転車の運転者が加害者、歩行者が被害者と考えられがちです。しかし、歩行者が信号に反して道路へ進入したり、横断禁止場所を横断したりして、車両の運転者、同乗者又はバスの乗客等に損害を生じさせた場合には、歩行者も民法709条に基づく損害賠償責任を負うことがあります。

道路交通法12条は横断歩道がある場所の付近では横断歩道によること等を定め、13条は車両等の直前・直後の横断及び横断禁止場所での横断を禁止しています。ただし、道路交通法違反があれば直ちに民事責任が成立するのではありません。故意又は過失、権利侵害、損害及び因果関係を個別に判断します。

第2 歩行者の不法行為責任

歩行者の責任を検討するときは、次の順序で事実を整理します。

  1. 信号、横断歩道、横断禁止規制、道路形状及び交通量
  2. 歩行者が車両の接近を認識できたか、車両から歩行者を認識できたか
  3. 歩行開始の時点、進行方向、速度、停止又は後退の有無
  4. 車両の速度、制動、回避操作及び衝突位置
  5. 歩行者の行為と、運転者・同乗者等に生じた損害との因果関係

歩行者が車両との衝突で自ら負傷しただけでなく、車両が回避措置をとったために転倒した運転者、急制動で負傷した乗客、衝突した別車両等に損害が生じる場合があります。歩行者と被害者が直接接触していない場合でも、危険な道路進入と損害との相当因果関係が問題となります。

未成年の歩行者については、民法712条の責任能力の有無を確認します。責任能力がないときは本人が責任を負わない一方、民法714条により監督義務者等の責任が問題となることがあります。年齢だけで一律に決まるものではなく、行為の責任を弁識する知能、監督状況及び監督義務者の過失を個別に検討します。

第3 車両側の責任と過失相殺

歩行者に過失がある場合でも、車両側の責任が当然になくなるわけではありません。道路交通法38条は横断歩道等に接近する車両に減速・停止義務を課し、38条の2は横断歩道のない交差点でも歩行者の通行を妨げてはならないとしています。また、自動車の運行により他人の生命又は身体を害した場合には、自動車損害賠償保障法3条の責任が問題となります。

そのため、同じ事故について、歩行者が運転者の損害を賠償する責任と、運転者側が歩行者の損害を賠償する責任が併存することがあります。双方の注意義務違反を比較し、民法722条2項の過失相殺によって各請求の認容額を算定します。

「被害者側の過失」として賠償額を減額する場面と、「歩行者自身の不法行為」として相手方の損害を賠償する場面は、同じではありません。前者では損害の公平な分担のための過失相殺が問題となり、後者では民法709条の要件を満たす必要があります。

第4 複数の歩行者・同行者の責任

複数の歩行者が一緒に横断していたとしても、同行していたという理由だけで全員が責任を負うわけではありません。共同不法行為責任(民法719条)を問うには、各人の行為、関連共同性及び損害との因果関係を具体的に検討します。

夫婦、親子又は友人として一緒に歩いていたことから、互いに道路横断を制止する一般的な法的義務が当然に生じるわけではありません。他方、幼児の監護、危険な横断への積極的な誘導、車両の進行を妨げる共同の行為等がある場合は、同行者又は監督者の責任が別途問題となり得ます。

第5 本訴・反訴と求償関係

歩行者と車両運転者が双方とも負傷し、又は一方が死亡した事故では、歩行者側の請求と車両側の請求が本訴・反訴として同時に審理されることがあります。同一の事故状況については同じ過失割合が用いられることが多いものの、請求権者、責任根拠、損害項目及び被害者側の事情が異なれば、機械的に同一割合となるとは限りません。

複数の加害者が被害者に対して損害を賠償した場合は、各加害者間の内部負担割合に応じた求償が問題となります。対外的な賠償額、過失相殺後の認容額、保険からの支払、既払金及び内部的な求償額を分けて計算する必要があります。

歩行者には自賠責保険がありません。個人賠償責任保険等が利用できるかは、本人又は同居親族の火災保険、自動車保険、傷害保険等の特約と約款を確認します。契約があることだけで補償対象とは限らず、被保険者の範囲、免責事由、示談代行の有無及び事故通知期限を確認してください。

第6 裁判例にみる判断の方法

1 被害者側過失と歩行者自身の不法行為上の過失

東京地裁平成23年10月11日判決(平成23年(レ)第846号、判例秘書L06630477)は、車両側保険者から歩行者に対する請求を棄却しました。同判決は、歩行者が自らの損害賠償請求で減額を受ける「被害者側の過失」と、車両損害について歩行者自身が民法709条上の責任を負うための過失とは別の問題であると明示しています。

歩行者の賠償責任を肯定するには、単に車両への注意が不足していたというだけでなく、走行車両の直前で横断を開始するなど、車両が歩行者との衝突を避けるため急制動又は急回避をせざるを得ない蓋然性の高い危険を具体的に作り出したことが重要になります。したがって、歩行者側に一定の過失相殺事由があっても、直ちに車両損害の賠償義務を負うとは限りません。

2 歩行者の反訴責任が肯定された例

大阪地裁平成25年1月16日判決(平成22年(ワ)第17682号・平成23年(ワ)第5615号、判例秘書L06850749)は、覚醒剤使用下の歩行者が夜間に中央分離帯から異常な態様で飛び出した事故について、歩行者60%、自動車40%と評価しました。自動車側の修理費44万2848円の60%に当たる26万5708円と弁護士費用2万6000円、合計29万1708円の反訴請求を認容しています。

この例は、信号又は横断規制違反の形式だけではなく、進入場所、時間帯、車両との距離及び飛び出し方という具体的な危険創出が歩行者責任の判断に直結することを示します。薬物使用の事実だけから割合を決めたものではありません。

3 歩行者と自転車の事故

仙台地裁平成23年8月9日判決(平成22年(ワ)第2162号・平成23年(ワ)第609号、判例秘書L06651280)は、歩道上で全長約205センチメートルの鋼製ネットを携行した歩行者と自転車との事故について、自転車90%、歩行者10%とし、その割合を本訴及び反訴の双方に適用しました。長尺物の持ち方、歩道の利用状況及び自転車側の安全運転義務を具体的に比較した事例です。

4 2005年以前の基礎事例との関係

東京地裁平成15年8月26日判決(平成10年(ワ)第23725号・平成11年(ワ)第1878号、判例秘書L05833343)は、横断禁止規制のある幹線道路を横断して二輪車の進路へ入った歩行者と、二輪車運転者との間の本訴・反訴を判断した事案です。同判決は、二輪車側30%、歩行者側70%と評価する一方、同行していた配偶者について、婚姻関係及び同行だけでは相互に制止すべき法的義務を負わないとして責任を否定しました。

2005年講演録は「真実の過失割合は被害者か加害者かという立場で変わらない」とする実務上の見解を示していました。しかし、平成23年東京地裁判決を踏まえると、事故状況の評価が共通することと、被害者側過失及び不法行為成立要件としての過失を法的に同一視することは分ける必要があります。平成25年大阪地裁判決及び平成23年仙台地裁判決のように本訴・反訴で同じ割合が用いられる事案もありますが、機械的な原則ではありません。

各過失割合は、道路幅、規制、見通し、速度、夜間又は昼間、横断開始時点、携行物及び回避可能性等によって変わります。下級審の個別判断であり、各事件の上訴及び確定状況は別途確認を要します。

第7 保存すべき証拠と対応手順

資料確認する事項
実況見分調書・現場写真横断位置、衝突位置、見通し、規制標識、痕跡
ドライブレコーダー・防犯カメラ横断開始、信号、速度、警音、制動、回避行動
車両データ・鑑定事故前速度、ブレーキ、回避可能性、接触の有無
目撃者・当事者の供述各人の位置、会話、警告、誘導、説明の変遷
診療録・休業資料・修理資料各当事者の損害項目と事故との因果関係
保険証券・約款個人賠償責任特約、被保険者、免責、示談代行

事故直後は映像が上書きされる前に保存を求め、現場の信号、標識、照明、見通し及び横断経路を撮影します。歩行者側・車両側の双方に請求が生じ得るため、自分の負傷資料だけでなく、相手方に生じた損害とその原因に関する資料も確認します。

第8 出典・参考資料及び調査範囲

追加調査は、2026年9月27日、判例秘書&4誌解説プラスの民事裁判例を対象に、2005年1月1日から2026年9月27日までの期間で行いました。「歩行者」と「損害賠償」の広い組合せは2718件、「歩行者」と「反訴」は282件であり、歩行者、過失割合、反訴及び車両損害等を組み合わせた集合は500件でした。これらの広い集合を全件精読したものではなく、責任成立、反訴認容及び本訴・反訴の割合という争点に直接関係する判決本文を絞り込んで確認しました。

したがって、本稿は検索条件を定めた追加調査の結果であり、未収録判決、検索語から漏れる判決又は別の事実関係の裁判例が存在しないことを示すものではありません。

この記事のカテゴリー……交通事故