第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,金銭債権を保全するための仮差押命令を申し立てる債権者が,裁判所から立てるよう命じられる担保(いわゆる担保金・保証金)について,その趣旨,額の決まり方,一応の目安及び立て方を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の条文で確認した。
担保額の算定基準及び基準表は,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)24頁~33頁の頁画像で確認した記載に基づいている。
同書は平成25年時点の教材であり,担保基準を公表した裁判所はないとされているから,個別の事件で命じられる担保額は,担当裁判官の判断によって以下の目安と異なることがある。
仮差押え全体の要件,手続の流れ及び効力は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で整理している。
2 結論
仮差押えの担保金についての結論は,次のとおりである。
① 仮差押命令は,通常,担保を立てさせて発令される(民事保全法14条1項)。
担保は,不当な仮差押えによって債務者が被るおそれのある損害を担保するためのものであり,要否及び額は裁判所の裁量で決まる。
② 担保額は,仮差押えの目的物の価格(時価)を基準とし,これに被保全債権の種類,目的物の種類及び疎明の程度に応じた比率を乗じる形で定められるのが一般的である(前記教材26頁~27頁)。
③ 被保全債権額が目的物の価格より高くても,基準は目的物の価格であり,請求額を減らして内金請求にする必要はない(同26頁)。
④ 一応の目安として,貸金・賃料・売買代金等を被保全債権とする場合,不動産は目的物の価格の10~25%,預金・給料は10~30%,交通事故の損害賠償請求権を被保全債権とする不動産の仮差押えは5~15%とされている(同28頁)。
もっとも,給料の仮差押えは被保全権利を問わず30%以上,預金の仮差押えは20%以上(交通事故の場合は15%程度)とすべきとする実務書の見解もあり,預金・給料の仮差押えでは表の下限より高い比率を想定しておくのが無難である。
⑤ 担保は,法務局(供託所)への金銭又は有価証券の供託のほか,裁判所の許可を得て銀行等と支払保証委託契約を締結する方法でも立てられる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
保険会社の支払保証委託契約(いわゆるボンド)には保証料率が公表されている例があるが,保証料は掛け捨てであり,供託金と異なり戻ってこない。
⑥ 大阪地方裁判所及び東京地方裁判所の案内では,担保提供期間は原則又は一般に7日であり,その期間内に供託書正本等の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
⑦ 立てた担保は,本案勝訴や債務者の同意等により担保取消決定を得て取り戻すのが原則であり,仮差押えが不当であった場合は債務者の損害賠償請求権の引当てになる。
第2 担保の趣旨と法的根拠
1 担保は債務者の損害を担保するためのもの
民事保全法14条1項は,「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」と定めている。
仮差押命令は,債務者の言い分を聴かないまま,債権者の疎明だけで発令されることが多い手続であるから,後に被保全債権が存在しなかったことが判明するなどして仮差押えが不当であったときに備え,債務者の損害をあらかじめ担保しておく必要がある。
前記教材24頁は,担保は民事保全により債務者の被る可能性のある損害を担保する性質を有すると説明している。
債務者は,供託された金銭又は有価証券について,他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法77条)。
もっとも,同頁によれば,債務者がこの権利を行使するには,債権者に対する損害賠償請求権の存在を認める確定判決又はこれと同一の効力を有する和解調書等を添付して還付請求をする必要があり,実際に行使されることは比較的少ないとされている。
2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める
民事保全法14条1項は,担保を立てさせるかどうか,立てさせる場合の額について,具体的な基準を定めていない。
前記教材25頁は,担保額は裁判所の自由な裁量によって決定されると説明した上で,どのように疎明が完全であっても,債権者の生活が窮迫して直ちに生活保持に不可欠な金員の仮払を命じなければならないような特殊な場合を除き,全く担保を立てないで民事保全が許されることはほとんどないとしている。
したがって,通常の債権回収のための仮差押えでは,担保を立てる前提で資金を準備しておく必要がある。
同頁は,専門部・集中部のある大規模な裁判所では一定の基準を設けていることが多いものの,それは通常の疎明がされることを前提とした類型的な参考にすぎず,裁判所は,保全命令の種類と態様,被保全権利の内容と価格,対象物の種類と価格,債務者の職業・財産・信用状態等の具体的事情と疎明の程度を考慮して額を決めるとしている。
3 担保を立てる時期は2通りある
民事保全法14条1項によれば,担保を立てさせる方式には,次の2通りがある(前記教材24頁)。
① 発令前に一定の期間を定めて担保を立てるべきことを決定し,債権者がその期間内に担保を立てたことを証明したときに保全命令を発する方式
② 保全命令の中で担保を立てることを保全執行の実施の条件とし,債権者が担保を立てたことを執行機関に証明して執行を開始する方式
大阪地方裁判所第1民事部及び東京地方裁判所民事第9部の案内は,いずれも①の流れ(担保決定→担保提供→証明書の提出→発令)を説明している。
発令前に担保を立てさせる決定は,債務者に告知することを要しない(民事保全規則16条2項)から,担保決定が債務者に告知されることはない。
第3 担保額の算定基準―目的物の価格
1 目的物の価格を基準とする理由
前記教材26頁は,担保の額は仮差押目的物の価格に応じて定められるのが一般的であるとしている。
その理由として,同頁は,仮差押えの執行により債務者が受ける主な損害は,債務者が目的物を処分することができなくなることによる損害であることを挙げている。
岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)51頁も,不動産・債権の仮差押えについては,原則として目的物の価額を基準とする考え方(目的物基準説)を紹介している。
2 目的物の価格(時価)の出し方
(1) 不動産
基準となる目的物の価格は,目的物の時価である(前記教材26頁)。
不動産の場合,実務では固定資産税評価額をもって目的不動産の価格とみなす扱いが多いが,評価額が時価を反映していない等の事情があるときは,路線価,公示価格,取引事例価格等の資料が必要になることもある(同頁)。
不動産の仮差押命令の申立書には「不動産の価額を証する書面」を添付しなければならない(民事保全規則20条1号ハ)から,通常は固定資産評価証明書を取得して添付することになる。
(2) 担保権の負担と敷地利用権
目的物に担保権の負担がある場合は,被担保債権額を控除して目的物の時価を算定する(前記教材26頁)。
本来は実際の債権額を控除すべきであるが,多くの場合は不明であるため,抵当権については登記されている債権額を,根抵当権については極度額を控除することになるとされている(同頁)。
建物の価格は敷地利用権の価値を加えた価格であり,建物の敷地となっている土地の価格は敷地利用権の負担を控除した価格である(同頁)。
目的不動産の登記事項は,登記情報提供サービスの使い方―地番検索,家屋番号,当日明細及びPDF保存の方法で事前に確認できる。
3 被保全債権額との関係
(1) 被保全債権額の方が高い場合
被保全債権額が目的物の価格より高い場合は,目的物の価格を基準として担保額が決定されるので,被保全債権額を目的物の価格に合わせて減額し,内金請求とする必要はない(前記教材26頁)。
同書27頁注3によれば,従前は,裁判所によっては被保全債権額を基準として担保額を決める運用もあったため,被保全債権額を目的物の価格に一致するよう減額して申し立てる必要があった。
しかし,同一の被保全債権に基づいて異なる目的物に更に仮差押命令を申し立てることができるとした最高裁判所の決定が出たことを契機として,現在の運用になったとされている。
その決定は,最高裁判所第二小法廷平成15年1月31日決定(平成14年(許)第23号,民集57巻1号74頁)である。
同決定は,特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は,異なる目的物について更に仮差押えをしなければ,金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれ等があるときは,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき,異なる目的物に対し,更に仮差押命令の申立てをすることができるとした。
(2) 目的物の価格の方が著しく高い場合
目的物の価格が被保全債権額より高い場合も,原則として目的物の価格が基準になる(前記教材27頁)。
ただし,目的物の価格が被保全債権額よりも著しく高額となる場合には,債務者がその物を処分する個別具体的な危険性と,他にめぼしい財産がないことを疎明しない限り,保全の必要性はないと判断される可能性が高いとされている(同頁)。
岡口・前掲51頁も,目的物の価額が過大な場合は保全の必要性の問題にもなるとしている。
例えば,数百万円の貸金債権のために数億円の土地を仮差押えしようとすると,担保額が高額になるだけでなく,申立て自体が認められないおそれがあるから,目的物の選び方を再検討する必要がある。
4 動産の仮差押えは請求債権額が基準
動産の仮差押命令は,目的物を特定しないで発することができる(民事保全法21条ただし書)。
目的物の価格を発令時に把握できないため,岡口・前掲51頁は,目的物を特定しない動産仮差押えについては,請求債権額を基準とする考え方(請求債権基準説)によるとしている。
第4 担保基準表(一応の目安)
1 基準表の性格
前記教材27頁は,担保額の算定の一応の目安として,被保全債権の内容と目的物の種類に応じた一般的基準が設けられている場合があるとした上で,この基準を公表した裁判所はないと明記している。
同書28頁の「仮差押えの担保基準」表は,一般的に知られている一応の基準を表にしたものであり,数値は目的物の価格に対する担保額の比率(パーセント)である(同書27頁)。
大阪地方裁判所第1民事部及び東京地方裁判所民事第9部の案内にも,令和8年9月17日時点で担保基準表は掲載されていない。
2 代表的な数値
前記教材28頁の表のうち,相談の多い類型の数値を挙げると次のとおりである。
① 貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする場合,不動産は10~25%,預金・給料は10~30%,動産は10~30%
② 手形金・小切手金を被保全債権とする場合,不動産は10~20%,預金・給料は10~25%
③ 交通事故による損害賠償請求権を被保全債権とする場合,不動産は5~15%,預金・給料は10~25%
④ 交通事故以外の損害賠償請求権を被保全債権とする場合,不動産は15~30%,預金・給料は25~35%
表には,このほか,敷金・保証金等の債権,自動車(登録・取上げ・併用)並びに詐害行為取消権,財産分与及び離婚に伴う慰謝料を被保全債権とする場合の区分がある。
令和7年(2025年)に刊行された梶村太市ほか編『最新裁判書式体系 第5巻 民事保全』(青林書院,2025年12月)57頁も,不動産仮差押えの担保額は目的不動産の価格に応じて定めるのが一般的であり,基準を公表した裁判所はないとした上で,貸金・賃料・売買代金その他の場合は目的不動産の価格の10~25%とされるとしている。
平成25年の教材の数値が,その後の実務書でも同じ形で紹介されていることになる。
3 計算例
仮に,貸金5,000万円を被保全債権として,固定資産税評価額3,000万円の土地を仮差押えする場合を考える。
その土地に登記上の債権額1,000万円の抵当権が設定されていれば,担保額算定の基準となる目的物の価格は,3,000万円から1,000万円を控除した2,000万円となる。
これに貸金・不動産の目安である10~25%を乗じると,担保額はおおむね200万円~500万円の範囲になる。
この計算例は目安の当てはめにすぎず,実際の担保額は,疎明の程度その他の事情を踏まえて裁判官が定める。
4 預金・給料の仮差押えの比率
(1) 教材の表と実務書の見解は異なる
前記教材28頁の表は,預金・給料を目的物とする場合の比率を,被保全債権が貸金・賃料・売買代金その他であれば10~30%,手形金・小切手金又は交通事故による損害賠償請求権であれば10~25%,その他の損害賠償請求権であれば25~35%としている。
これに対し,岡口・前掲54頁は,給与債権の仮差押えについては,債務者の打撃が大きいため,被保全権利を問わず30%以上とすることが考えられるとし,預金債権の仮差押えについても,20%以上(被保全権利が交通事故による損害賠償請求権の場合は15%程度)とすべきであろうとしている。
これは同書の著者の見解として述べられたものであり,教材の表の下限である10%とは開きがある。
同書53頁~54頁が被保全権利の種類ごとに掲げる一般的な比率(例えば,貸金・売掛代金・請負代金・賃料は10~20%,交通事故による損害賠償請求権は5~20%)も,教材の表の数値と一部異なっている。
いずれの資料も,裁判所が公表した基準ではない。
預金・給料の仮差押えを申し立てる場合は,教材の表の下限を前提にせず,給料であれば3割程度,預金であれば2割程度の比率で担保を命じられることもあり得ると考えて資金を準備しておくのが無難である。
(2) 比率を乗じる基礎となる額
預金・給料の仮差押えで比率を乗じる基礎となる「目的物の価格」を何とみるかについて,担保額の算定に関して明示した記載は,確認した範囲の資料では見当たらなかった。
参考になるのは仮差押解放金の額の考え方であり,岡口・前掲87頁は,債権の仮差押えの解放金は仮差押債権額を基準とし,被保全債権の額を超える額の債権の仮差押えは原則として認められていないとしている。
預金・給料は,差押えの時点で実際にいくらの残高又は支給額があるかを債権者が知り得ないことが多いから,担保額の算定においても,仮差押えをする債権の額(請求債権額の範囲内で特定して申し立てる額)が基礎になると考えられる。
預金・給料の仮差押えに特有の問題は,預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告で説明する。
第5 担保額を左右する要素
1 疎明の程度
前記教材27頁は,担保額は,目的物の種類,被保全債権の内容,疎明の程度等によって異なるとしている。
基準表の幅のどこに位置付けられるかは,契約書,借用書,請求書,やり取りの記録等によって被保全債権の存在がどの程度疎明されているかに左右される。
被保全債権の存否に争いの余地が大きい類型(損害賠償請求権,詐害行為取消権等)の比率が高めに設定されているのも,債務者が不当な仮差押えによって損害を受ける可能性を反映したものと考えられる。
2 疎明不足を担保で補うことはできない
前記教材27頁注2は,疎明がない場合に,これを担保で補うことができるものではないとしている。
高額の担保を積むと申し出ても,被保全債権又は保全の必要性の疎明が足りなければ,仮差押命令は発令されない。
保全の必要性の考え方は,債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定でも扱う。
3 債務者の損害の大きさ
仮差押えによって債務者に生ずる損害が大きい目的物ほど,担保額は高くなりやすい。
基準表で預金・給料の比率が不動産より高めに設定されているのは,預金の仮差押えが債務者の資金繰りや金融機関との取引に直ちに影響し得ることを反映したものと考えられる。
岡口・前掲54頁も,給与債権の仮差押えは債務者の打撃が大きいことを理由に,高めの比率を示している。
大阪地方裁判所第1民事部の案内では,担保決定は債権者面接(要審尋事件では債務者審尋期日)を経た後にされるから,債権者面接の段階で,目的物の選び方や債務者への影響について説明できるようにしておくことが有益である。
第6 担保の立て方
1 担保を立てる方法
(1) 金銭又は有価証券の供託
担保は,担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に,金銭又は裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法で立てるのが基本である(民事保全法4条1項)。
前記教材31頁は,担保を立てる方法は金銭を供託することが多いとしている。
有価証券を担保とする場合は,あらかじめ裁判所に有価証券の種類及び額面合計を申し出て,その旨の担保決定を受ける必要があり,相当と認められるのは一般に国債・地方債等の価格が安定し換価が容易なものである(同31頁~32頁)。
同書32頁は,有価証券の評価率は一定していないが,通常,国債・地方債等は70~80%程度,株式は40~60%程度といわれ,株式は近年あまり認められていないとしており,裁判所によって運用が異なるので事前に確認する必要がある。
(2) 支払保証委託契約
担保は,担保を立てるべきことを命じた裁判所の許可を得て,銀行,保険会社,株式会社商工組合中央金庫,農林中央金庫,全国を地区とする信用金庫連合会,信用金庫又は労働金庫との間で支払保証委託契約を締結する方法によっても立てることができる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
民事保全規則2条は,契約の要件として,銀行等が裁判所の定めた金額を限度として担保権利者に支払うものであること,担保取消決定の確定時又は同規則17条1項・4項の許可時に効力が消滅するものであること,変更・解除ができないものであること等を定めている。
前記教材32頁は,この方法は,現金等の供託に代え,契約の成立を証する銀行等の証明文書を裁判所に提出することで担保を立てたこととするものであると説明している。
手元資金を拘束したくない場合に検討される方法であるが,銀行等が契約に応じるかどうか及び手数料その他の条件は,銀行等との取引関係による。
銀行・信用金庫等が裁判上の担保のための支払保証委託契約の保証料率等を公表している例は,令和8年9月17日時点で確認できなかった。
後記の損害保険会社の資料は,銀行が保証書を発行する場合は,一般的に保証希望額までの(定期)預金が必要になると説明しており,この場合は資金が拘束される点で供託と大きな違いはないと考えられる。
(3) 保険会社による支払保証委託契約(いわゆるボンド)の例
条件を公表している例として,損害保険ジャパン株式会社が全国弁護士協同組合連合会と連携して令和元年7月から取り扱っている民事保全の支払保証委託契約がある(同社の令和元年9月26日付けニュースリリース,全国弁護士協同組合連合会「保全事件『支払保証委託契約(ボンド)』制度」〔令和8年9月版〕)。
同資料によれば,主な条件は次のとおりである。
① 対象は,全国弁護士協同組合連合会の所属員である弁護士が受任する仮差押え及び係争物に関する仮処分(婚姻等に関する審判事件を本案とする仮差押えを含む)であり,仮の地位を定める仮処分は対象外である。
② 保証料は,保証額のうち300万円以下の部分に6%,300万円超3,000万円以下の部分に4%,3,000万円超1億円以下の部分に2%を乗じて合算した額で,最低保証料は10万円である(例えば,保証額500万円なら26万円)。
③ 申込時に支払う保証料は当初5年分であり,担保の事由が5年より早くやんでも返還されず,5年を超える場合は延長保証料がかかる。
④ 保険会社への担保の差入れは不要であるが,案件ごとに信用調査があり,保証額は最高1億円が限度である。
⑤ 不当な保全執行により債務者に損害が生じて保険会社が賠償した場合,保険会社は保証委託契約者に求償する。
供託金は担保取消決定等を得れば全額が戻るのに対し,この方式の保証料は掛け捨てである。
担保額が高額で資金の準備が難しい場合には有力な選択肢となるが,資金を用意できるのであれば,最終的な費用負担は供託の方が小さいことになる。
2 供託する供託所
金銭又は有価証券を供託する供託所は,前記のとおり,担保を命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所である(民事保全法4条1項)。
東京法務局の「裁判上の担保(保証)」Q&A(Q2)は,例えば東京地方裁判所又は同立川支部から仮差押命令申立事件の担保の供託を命じられた場合は,特段の定めがない限り,東京法務局供託課,八王子支局,府中支局及び西多摩支局のいずれでも供託できると案内している。
遅滞なくこの供託所に供託することが困難な事由があるときは,裁判所の許可を得て,債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる(民事保全法14条2項)。
遠方の裁判所に申し立てる場合に利用される例外であり,東京法務局Q&A(Q5)によれば,許可書の添付は不要であるが,供託書の備考欄に「民事保全法第14条第2項の許可」と記載する必要がある。
3 担保提供期間
担保提供期間について,大阪地方裁判所第1民事部の案内は「原則として7日」とし,その期間内に担保を提供しなければならず,証明書の提出がないまま期間を経過すると民事保全の申立ては却下されるとしている。
東京地方裁判所民事第9部の案内も,担保提供期間は一般的には7日であり,担保提供の告知の日は算入しないとしている。
同部の案内によれば,正当な事由がある場合には期間の延長が認められることもあり,同部では,期間満了前に延長許可申請書が提出され,延長が相当である場合に,満了日の翌日から1週間程度を限度として1回だけ認める扱いである。
前記教材32頁も,担保提供期間は実務では3日から7日程度とされることが多く,正当な事由が認められないときは延長が許されず申立てが却下されることもあると注意している。
担保額が高額になりそうな事件では,申立ての前に資金の手当てをしておくべきである。
4 供託金の納付方法
供託金の納付方法は,供託所によって異なる。
東京法務局Q&A(Q6)によれば,窓口での現金納付(本局及び八王子支局に限る),日本銀行代理店への払込み(府中支局及び西多摩支局に限る),供託受理決定後の銀行振込み,及び供託受理決定後にペイジー対応のインターネットバンキング又はATMで入金する電子納付の方法がある。
法務省の「オンラインによる供託手続について」によれば,供託の申請は登記・供託オンライン申請システムからもでき,電子納付は供託の受理が決定された日から7日の間に行う必要があり,書面の供託書正本は供託所で入金が確認された後に,送付又は窓口で交付される。
同じ案内によれば,平日の午後5時15分以降又は休日に送信された申請は翌業務日の受付となるから,担保提供期間の末日が迫っているときは,窓口での現金納付が可能な供託所を選ぶことも含めて日程を組む必要がある。
法務省の「供託手続の申請方法および供託金の納付方法について(お知らせ)」は,供託金の納付方法として,ペイジーによる電子納付,供託所が交付する振込依頼書を用いた金融機関の窓口での振込み,及び現金による納付の3つを挙げている。
現金による納付は,法務局・地方法務局の本局,東京法務局八王子支局及び福岡法務局北九州支局では窓口ですることができ,その他の供託所では供託申請後に日本銀行の本支店又は代理店に納付することになる(同お知らせ)。
大阪地方裁判所から担保を命じられた場合について,大阪法務局のウェブサイトでは,次のとおり案内されている(令和8年9月17日確認)。
① 大阪法務局本局(大阪市中央区大手前三丁目1番41号,大手前合同庁舎)は,供託の「現金取扱庁」であり,窓口対応時間は平日の午前9時から午後5時までである。
② 北大阪支局,東大阪支局,堺支局,富田林支局及び岸和田支局は,供託を取り扱うが,供託の現金の受入れは取り扱っていない。
③ 大阪法務局の「管轄のご案内(供託)」は,裁判上の保証供託をすべき供託所を,担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所と案内している。
大阪法務局のウェブサイトには,裁判上の保証供託の納付方法に特化した案内は見当たらなかったから,窓口で現金を納付する予定であれば,本局の供託の窓口に事前に確認しておくのが確実である。
なお,法務局の業務取扱時間は平日の午前8時30分から午後5時15分までであるが,令和6年1月4日から,一部の事務を除き,窓口対応時間が午前9時から午後5時までとされている(法務局「法務局の窓口対応時間について」)。
大阪地方裁判所第1民事部の案内では,証明書を午後4時までに提出すれば原則として同日中に発令されるから,同日の発令を目指すのであれば,供託の手続と地方裁判所への移動の時間を見込んでおく必要がある。
保全命令の申立ては,東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされている。
供託手続をオンラインで行えることと,保全事件の申立てを電子で行えることとは別の問題である点に注意を要する。
対象手続の範囲は,mintsを利用できる裁判所と対象事件―旧法事件,少額訴訟,支払督促及び対象外手続でも整理している。
5 証明書の提出と発令
担保を立てたときは,その証明書を裁判所に提出する。
大阪地方裁判所第1民事部の案内は,証明書として「供託書正本及び写し」(正本は写しと照合の上その場で返還)又は金融機関との支払保証委託契約締結証明書を挙げ,担保決定の告知を受けたら速やかに担保提供の予定日を担当書記官に連絡するよう求めている。
同部の案内では,担保提供期間内に担保決定のとおり担保が提供され,その証明書が午後4時までに提出されたときは,原則として同日中に保全命令が発令され,午後4時を過ぎた場合は翌日以降の発令となる。
東京地方裁判所民事第9部の案内は,供託書等の受入完了時刻に応じて決定正本の交付時刻を定めており,午前11時までに受入れが完了すれば原則として当日午後4時以降に交付される。
大阪地方裁判所での一連の流れは,大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令で説明する。
6 第三者による担保の提供
前記教材33頁によれば,第三者(多くは代理人弁護士が債権者から資金を預かって代理人の名で)が担保を提供することは,民事保全法上明文はないが実務上認められており,その場合は裁判所の許可を要する扱いである。
この場合,第三者は自己の名で供託し又は支払保証委託契約を締結し,担保取消し・担保取戻しの申立ても第三者が自己の名で行うことになる(同頁)。
東京法務局Q&A(Q4)によれば,第三者供託の許可書の添付は不要であるが,供託書の備考欄に第三者供託である旨と本来供託すべき者の住所等を記載する必要がある。
第7 担保金以外にかかる費用
仮差押えでは,担保金のほかに,次の費用がかかる。
① 申立手数料として,保全命令の申立て1件につき2,000円(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の一〇の項ロ)
② 不動産の仮差押えの登記の登録免許税として,債権金額の1000分の4(登録免許税法別表第一の一の(五))
③ 債務者,第三債務者及び登記所への送付等に要する郵便切手
東京地方裁判所民事第9部の案内は,不動産仮差押えの登録免許税を請求債権額に1000分の4を乗じた額(端数処理あり)とし,債権仮差押え及び不動産仮差押えの郵便切手の内訳を掲載している。
担保金は,後に担保取消決定等を得れば取り戻せるのに対し,これらの費用は原則として戻らない。
訴訟費用一般の考え方は,訴訟費用とは——費目,計算方法,敗訴者負担と回収手続(令和8年5月のIT化・令和6年10月の郵便料金改定に対応)で説明している。
第8 担保の行方
1 本案で勝訴した場合等は担保を取り戻す
立てた担保は,担保の事由が消滅したこと(本案勝訴の確定等),担保権利者である債務者の同意,又は訴訟の完結後の権利行使催告のいずれかによって担保取消決定を得て取り戻すのが原則である(民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法79条1項~3項)。
支払保証委託契約による担保も,担保取消決定の確定時に契約の効力が消滅する(民事保全規則2条2号)。
保全執行としての登記又は第三債務者への送達ができなかった場合等で,保全執行期間が経過し,又は申立てが取り下げられたときは,裁判所の許可を得て簡易に担保を取り戻すこともできる(民事保全規則17条1項)。
取戻しの手続と所要期間は,仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間で詳しく説明する。
2 和解で解決する場合は担保取消しの同意を条項に入れる
本案訴訟や交渉で和解する場合には,債務者が担保取消しに同意し,担保取消決定に対する抗告権を放棄する旨を和解条項に入れておくと,担保を早期に取り戻しやすくなる。
和解条項の作り方は,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリストで整理している。
申立てを途中でやめる場合の手続は,仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻しで扱う。
3 仮差押えが不当であった場合は損害賠償の引当てになる
債権者が本案で敗訴する等して仮差押えが不当であったことが明らかになった場合,債務者は,債権者に対する損害賠償請求権について,担保から他の債権者に先立って弁済を受けることができる(民事保全法4条2項,民事訴訟法77条)。
担保は損害賠償請求権の引当てにすぎないから,債務者の損害が担保額を超える場合でも,債権者の賠償責任が担保額に限られるわけではない。
不当な仮差押えによる損害賠償の要件と担保からの回収方法は,不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収で説明する。
第9 関連記事
仮差押えの総論及び同時に作成した各論記事は,次のとおりである。
① 仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像
② 仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間
③ 仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法
④ 大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令
⑤ 不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収
⑥ 仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し
⑦ 債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定
⑧ 預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告
担保の考え方が共通する民事保全の記事及び関連する手続の記事は,次のとおりである。
① 交通事故の仮払い仮処分-要件,申立書,必要資料及び自賠責の仮渡金との違い
② 電子記録債権(でんさい)の仮差押え―債権の特定,送達及び決済停止の実務
③ 債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務
④ 登記情報提供サービスの使い方―地番検索,家屋番号,当日明細及びPDF保存
⑤ 訴訟費用とは——費目,計算方法,敗訴者負担と回収手続(令和8年5月のIT化・令和6年10月の郵便料金改定に対応)
⑥ 民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト
⑦ mintsを利用できる裁判所と対象事件―旧法事件,少額訴訟,支払督促及び対象外手続
第10 出典・参考資料
1 法令・裁判所規則
① 民事保全法(e-Gov法令検索)4条,14条,21条
② 民事訴訟法(e-Gov法令検索)77条,79条
③ 民事保全規則(裁判所ウェブサイト)2条,16条2項,17条1項,20条1号ハ
④ 民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)別表第一の一〇の項ロ
⑤ 登録免許税法(e-Gov法令検索)別表第一の一の(五)
2 裁判例
① 最高裁判所第二小法廷平成15年1月31日決定(平成14年(許)第23号,民集57巻1号74頁)
3 裁判所等の案内
① 大阪地方裁判所第1民事部「担保決定」
② 大阪地方裁判所第1民事部「保全命令の発令」
③ 東京地方裁判所民事第9部「保全事件の発令まで」
④ 東京地方裁判所民事第9部「担保の簡易の取戻しの手続(電子申立て不可)」
⑤ 東京法務局「(供託手続)裁判上の担保(保証)の手続について」
⑥ 法務省「オンラインによる供託手続について」
⑦ 法務省「供託手続の申請方法および供託金の納付方法について(お知らせ)」
⑧ 大阪法務局「大阪法務局(本局)」
⑨ 大阪法務局「取扱事務一覧表(供託,成年後見登記,国籍,遺言書保管,人権)」
⑩ 大阪法務局「管轄のご案内(供託)」
⑪ 法務局「法務局の窓口対応時間について」
⑫ 損害保険ジャパン日本興亜株式会社「民事保全『支払保証委託契約(ボンド)』制度の開始」(令和元年9月26日)
⑬ 全国弁護士協同組合連合会「保全事件『支払保証委託契約(ボンド)』制度」パンフレット(令和8年9月版)
4 文献
① 司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)24頁~33頁
② 岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)51頁,53頁~54頁,87頁
③ 梶村太市ほか編『最新裁判書式体系 第5巻 民事保全』(青林書院,2025年12月)57頁