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パートタイマーが正社員に転換する際の退職手当の取扱い――勤続年数の通算義務と同一労働同一賃金ガイドラインの改正(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

本記事は,パートタイマー(短時間労働者)が勤務先の制度により正社員(通常の労働者)へ転換した場合に,転換前のパート期間を退職金の算定基礎となる勤続年数に通算する法律上の義務があるかという論点を,条文及び裁判例に基づいて整理するものである。生成AIを用いて関連する法令,行政通達,最高裁判例及び国税庁の質疑応答事例を横断的に確認し,記載された条文番号と判示内容を原典と照合した上で構成した。検討の時点は令和8年8月現在であり,後記のとおり令和8年10月1日に同一労働同一賃金ガイドラインの改正が施行される予定であるため,その前後の違いにも触れる。

インターネット上には「パートから正社員に転換した場合,パート期間は勤続年数として通算しなければならない」と断定する記述が見られる。しかし,本記事で確認する限り,退職手当についてそのような一律の通算義務を定めた法令の規定は見当たらない。この点は第4で条文に即して検討する。

2 「正社員転換」と「無期転換」の違い

本記事が扱う「正社員転換」(雇用区分の転換)は,短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期法」という。)13条が定める「通常の労働者への転換」を指す。これに対し,有期労働契約が更新により通算5年を超えた場合に労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換される制度(労働契約法18条)は,一般に「無期転換ルール」と呼ばれ,契約期間の定めの有無が変わるだけで,賃金体系や退職金制度の適用区分(正社員か否か)が当然に変わるものではない。無期転換ルールの詳細は,有期労働契約に関するメモ書きで整理している。両制度は転換の対象・効果を異にするため,本記事では区別して論じる。

第2 通常の労働者への転換を定める規定

1 パート・有期法13条

パート・有期法13条は,事業主に対し,通常の労働者への転換を推進するため,①通常の労働者の募集に係る事項を短時間・有期雇用労働者に周知すること,②通常の労働者の配置の希望を申し出る機会を与えること,③一定の資格を有する者を対象とした転換試験制度を設けることのいずれかの措置を講ずることを義務付けている。この規定は,平成26年改正前は12条であったが,平成30年の働き方改革関連法による同法の題名変更(パートタイム労働法から現在の題名への変更)及び有期雇用労働者への対象拡大に伴い,現行の条番号(13条)に整理された。

2 転換推進措置の性質

13条が事業主に求めているのは,転換の「機会」を制度として保障することであり,転換の実現そのものや,転換後の労働条件の内容を規律するものではない。厚生労働省の施行通達(平成31年1月30日基発第130001号等)は,この点について「本条においては,通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずることが求められているのであって,その結果として短時間・有期雇用労働者を通常の労働者に転換することまで求められるものではない」と説明している。同通達は,転換制度が形骸化していないかを検証すべきものとしつつも,転換後の退職金の算定方法や勤続年数の通算については言及していない。就業規則の記載事項一般については,就業規則に関するメモ書きで整理している。

第3 退職手当と不合理な待遇差の禁止

1 パート・有期法8条

パート・有期法8条は,事業主が雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,通常の労働者との間で,職務の内容,職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち当該待遇の性質及び目的に照らして適切と認められるものを考慮して,不合理と認められる相違を設けてはならないと定める。退職手当は「その他の待遇」に含まれるため,在職中のパートタイマーと正社員との間で退職手当の有無や水準に相違を設けること自体は,8条による規律の対象となる。もっとも,8条が直接規律するのは通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との相違であって,転換によって既に通常の労働者となった者について,転換前の期間をどう扱うかという算定方法の問題を直接に規律するものではない。

2 メトロコマース事件最高裁判決

退職手当の相違が問題となった唯一の最高裁判例が,地下鉄駅構内の売店における販売業務に従事していた契約社員の退職金請求に関するメトロコマース事件である。最高裁判所第三小法廷令和2年10月13日判決(令和元年(受)第1190号,民集74巻7号1901頁)は,無期契約労働者に退職金を支給する一方で有期契約労働者(契約社員B)に支給しない労働条件の相違について,職務内容の相違,配置転換の可能性,正社員登用制度の存在等の事情を総合考慮すると,労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとした。同判決は,退職金の性質について,長期継続勤務への誘因という側面を有するとともに,職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いの性質も有し,一般に功労報償の性質をも兼ね備えていると位置付けている。

この判決は,5人の裁判官全員一致の結論ではない。裁判官林景一の補足意見は,多数意見に賛同しつつも,退職金の性質に応じて「継続的な勤務が期待された労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう」と述べ,退職金を全く支給しないのではなく在職期間に応じた一部支給という選択肢があり得ることを示唆している。他方,裁判官宇賀克也の反対意見は,長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金について,正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら支給しないことは不合理であるとした原審の判断を是認すべきであるとした。このように,最高裁判決は,退職金の相違が一般に不合理でないと判断したものではなく,当該事案における職務内容や登用制度等の具体的事情を踏まえた事例判断であり,勤続年数に応じた退職金の一部支給という考え方自体を否定したものでもない点に留意する必要がある。

第4 転換時の勤続年数の通算

1 法律上の一律の義務はない

以上を踏まえると,パートタイマーが正社員に転換した場合に,転換前のパート期間を退職金の勤続年数に通算するかどうかは,パート・有期法にも労働基準法にも一律の義務を定めた規定が見当たらず,各事業主の退職金規程の定め方に委ねられていると考えられる。労働基準法89条は,就業規則の相対的記載事項として,退職手当の定めをする場合には「適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を記載しなければならないと定めるにとどまり(同条3号の2),算定方法や通算の要否の内容自体には立ち入っていない。退職手当は,そもそも支給するかどうか自体が任意であり(同条柱書き),これを定める場合の記載事項を求める規定であることに留意が必要である。

2 就業規則における設計例

法律上の一律の義務がない以上,退職金規程の設計は事業主の判断に委ねられる。想定される設計として,①勤続年数を「正社員として在籍した期間」に限定し,パート期間を算入しない設計,②パート期間は勤続年数に算入しないが,転換自体を優遇する一時金等の措置を別途設ける設計,③退職金規程の勤続年数を「入社日(パートとしての採用日)から起算する」旨明記し,パート期間を含めて通算する設計,のいずれもあり得る。いずれの設計も,それ自体が直ちに違法となるものではない。もっとも,前記の8条は,通常の労働者となった後の期間について,同時期に採用された他の正社員との間で不合理な取扱いの差異が生じないよう留意すべき規律であって,転換後は既に通常の労働者であるから,転換前の期間の扱いとは区別して検討する必要がある。

3 インターネット上の誤った説明

第1で述べたとおり,「パートから正社員に転換した場合,勤続年数は通算しなければならない」との記述がインターネット上に見られる。しかし,本記事で確認したパート・有期法13条の施行通達,厚生労働省の各種資料,及び労働政策審議会の令和7年12月25日付け報告書(案)(後記第6)のいずれにも,退職金の勤続年数を通算すべきことを定めた記載は見当たらなかった。労働基準法上,年次有給休暇の権利発生要件である「継続勤務」(同法39条1項)については,雇用形態の変更があっても実質的な使用関係が継続していれば通算されるという理解が一般的であるが,これは有給休暇に固有の解釈であって,退職手当についてこれと同様の法定の通算ルールが存在するわけではない。両者を混同した記述には注意を要する。

第5 税務上の勤続年数の計算との違い

1 退職所得控除額の計算原則

労働法上の設計とは別に,税務上は,退職金を受け取った際の退職所得控除額の計算方法として,勤続年数の数え方が定められている。所得税法施行令69条1項1号本文は,退職所得控除額の計算上の勤続年数について,退職手当等の支払者の下で「その退職の日まで引き続き勤務した期間」により計算すると定める。パートから正社員への転換は,同一の使用者の下での雇用区分の変更にとどまり,形式的な退職・再雇用の手続を経ていない限り,パート期間を含めた在籍期間全体が「引き続き勤務した期間」に当たると解される。国税庁の質疑応答事例も,個人事業当時の期間を通算して退職給与を計算する場合について,退職給与規程にその旨明記されていれば通算できるとしており,同一の使用者の下での継続勤務を通算の基本的な考え方としている。

2 支給額の設計とは別の問題

もっとも,これは退職所得控除額(非課税枠)の計算方法にすぎず,退職金の支給額をいくらにするかという第4の労働法上の設計問題を直接左右するものではない。退職金規程が「勤続年数は正社員としての在籍期間に限る」と定めている場合,税務上の勤続年数(控除額計算の基礎)と,退職金規程上の勤続年数(支給額算定の基礎)は,異なる概念として併存し得る。両者は連動を要求されておらず,退職金の設計を検討する際にこの違いを混同しないことが重要である。

第6 同一労働同一賃金ガイドラインの改正

1 現行の位置づけ

パート・有期法8条及び9条の解釈指針である「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号。いわゆる同一労働同一賃金ガイドライン)は,現行(令和8年9月30日まで)の基本的な考え方において,「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当,住宅手当,家族手当等の待遇や,具体例に該当しない場合についても,不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と記載しており,退職手当については他の待遇項目のような具体的な考え方や例が示されていない状態が続いている。

2 令和8年10月1日施行の改正

令和8年4月28日公布の厚生労働省告示第202号及び第203号により,このガイドラインが改正され,令和8年10月1日に施行される予定である。改正後は,指針の短時間・有期雇用労働者に関する部分及び派遣労働者に関する部分のそれぞれに,新たに「退職手当」の項目が設けられ,「退職手当については,当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として,労務の対価の後払い,功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが,通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず……均衡のとれた内容の退職手当を支給せず……当該退職手当の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである」との記載が加えられる。厚生労働省が公表した新旧対照表は,この改正がメトロコマース事件最高裁判決の内容を踏まえたものであることを明記している。この改正では,退職手当以外にも同一労働同一賃金ガイドラインに関する見直しが行われており,改正全般への実務対応については,令和8年10月1日施行の改正同一労働同一賃金ガイドラインに基づき,民間企業で対応が必要な事項で整理している。

なお,この改正は,パート・有期法8条という法律自体の文言を変更するものではなく,行政解釈であるガイドラインに退職手当に関する留意事項を明記するものである。本記事の執筆時点で確認できた新旧対照表には,賞与や役職手当等の他の待遇項目にあるような「問題となる例」「問題とならない例」という具体的な当てはめの例までは示されておらず,一般的な留意事項の明記にとどまっている。また,この改正の根拠となった労働政策審議会職業安定分科会雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会の令和7年12月25日付け報告書(案)は,パート・有期法13条の転換推進措置についても言及しているが,退職金の勤続年数の通算には触れていない。したがって,この改正によって第4で述べた通算義務の有無に関する状況が変わるものではないと考えられる。

第7 実務上の留意点

退職金規程を新たに設ける事業主,又は既存の退職金規程を点検する事業主にとっては,①退職金規程の「適用される労働者の範囲」(労働基準法89条3号の2)を明確に定義すること,②勤続年数の起算点(入社日か,正社員転換日か)を規程上明記すること,③転換前のパート期間について,通算しない設計を採る場合には,その理由(正社員としての職務内容・責任・異動可能性等の相違)を待遇差の説明資料として整理しておくことが,パート・有期法14条に基づく説明義務への対応としても有用である。他方,正社員への転換を検討する労働者にとっては,退職金制度の適用の有無及び勤続年数の起算点が転換前後でどう扱われるかを,転換の打診を受けた時点で確認しておくことが,後日の認識の齟齬を避ける観点から望ましい。なお,本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別の労働契約及び就業規則の解釈は,具体的な規程の文言に即して検討する必要がある。

出典・参考資料

1 法令・通達

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)8条・9条・13条・14条(e-Gov法令検索)
労働基準法(昭和22年法律第49号)89条(e-Gov法令検索)
労働契約法(平成19年法律第128号)3条・18条(e-Gov法令検索)
所得税法(昭和40年法律第33号)30条(e-Gov法令検索)
所得税法施行令(昭和40年政令第96号)69条(e-Gov法令検索)
所得税基本通達30-10(国税庁)
⑦短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日基発第130001号・雇均発第130001号・職発第130006号・開発第130001号。厚生労働省法令等データベース)

2 裁判例

最高裁判所第三小法廷令和2年10月13日判決(令和元年(受)第1190号,民集74巻7号1901頁,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」(厚生労働省),
同一労働同一賃金ガイドライン新旧対照表(解説付き)(厚生労働省),
労働政策審議会職業安定分科会雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会「雇用形態又は就業形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けた取組の強化について」(報告)(案)(令和7年12月25日,厚生労働省),
国税庁質疑応答事例「個人事業当時の期間を通算して退職給与を支給する場合の勤続年数」(国税庁)