第1 この記事の対象と結論
会社のクレジットカードで,役員や従業員の私物が購入されていた場合を扱う。
最初に分けたいのは,カード会社との契約上その人が使えるカードか,会社がその買物を認めたか,会社が使った人へ返還を求めるか,会社が個人の費用を負担したと税務上評価されるかという四つの問題である。
会社の口座から引き落とされたという一事実だけで,社内承認,返還請求及び税務処理まで決めない。
逆に,社内規程に反したというだけで,カード会社への支払義務が消えるとも,店に対する詐欺罪が成立するとも決めない。
本記事は令和8年10月30日に確認した公表資料に基づく一般的な確認手順であり,個別契約の適用結果や具体的な申告処理を一律に示すものではない。
第2 社内の承認とカード契約の権限を分ける
1 個人カードの貸借と法人カードの使用者
最高裁平成16年2月9日第二小法廷決定(平成14年(あ)第1647号)は,他人名義の個人カードについて,名義人本人と装ってガソリンの交付を受けた事案で詐欺罪を認めた。
名義人の使用承諾と,加盟店に示した利用権限は別の問題である。
しかし,法人カードには,法人が指定しカード会社が承認した役職員をカード使用者とする契約もある。
その使用者が自分に発行されたカードを使う場合を,個人カードの名義人への成り済ましと同じ事実として扱うことはできない。
実際の利用者,カード上の名義,使用者登録,店員への説明,社内の承認及び購入品の用途を分けて確認する必要がある。
2 用途違反でも会社が支払う場合
JCBの会員規約(一般法人用)第1条は,指定・承認されたカード使用者と法人会員の関係を定めている。
同条8項は事業費の決済に利用目的を限る一方,その違反利用についても法人会員及び代表使用者が支払義務を負うと定める。
これは今回確認した規約の例であり,すべての法人カードに同一の条項があるという意味ではない。
会社とカード会社との支払関係と,会社内部で誰が最終負担するかは,分けて検討する。
契約の種類,利用時点の規約,使用者登録と利用停止等の届出を確認し,会社の社内規程だけでカード会社との関係を説明しない。
第3 取引ごとに作る確認表
| 確認する事項 | 対応させる資料 | 検討の目的 |
|---|---|---|
| 誰のための購入か | 注文履歴,領収書,納品先,現物,受益者 | 会社の費用か個人の費用かを調べる |
| 誰が何を承諾したか | 利用申請,承認記録,メッセージ,経費規程 | 承認した商品・金額と追加購入を分ける |
| 契約上の利用者は誰か | 利用時点の会員規約,使用者登録,売上票 | 社内権限と対外的な利用権限を分ける |
| いつ債務・支出が生じたか | 購入日,請求書,引落記録 | 購入,請求,引落しの日時をそれぞれ記録する(同日の場合を含む) |
| 会社は何を請求しているか | 請求書面,本人の回答,返済合意,入金 | 請求額・認否・実際の回収を区別する |
| 会社が負担を引き受けたか | 経営判断の記録,免除合意,決算処理 | 単なる未回収と利益供与の判断材料を分ける |
一回の決済に事業用と私用が混在する場合は,明細単位で分ける。
承諾した金額,カード会社に対する利用額,社内の請求額及び回収額を一つの「被害額」にまとめず,差額の理由を記す。
購入後の追認や返金についても,その日付と内容を残し,当初から承諾があったという記録に書き換えない。
第4 会社の負担と税務上の経済的利益
1 国税庁の説明が対象とする人と行為
国税庁タックスアンサーNo.5202は,役員及び特殊関係使用人について,個人的費用の負担や債権の放棄・免除等を経済的利益の例として挙げる。
法人税基本通達9-2-9も,給与支給と同様の経済的効果をもたらすものという前提と,対象者・除外条件を示している。
この対象を,条件を確認せず普通の従業員全員へ広げない。
2 未回収,会社負担,免除を一つにしない
発覚時は,私用の事実に加え,会社が返還を求めているのか,その根拠・金額を本人が争っているのか,実際に返済されているのかを調べる。
帳簿に「仮払金」「貸付金」と記載したという名目だけで,経済的利益の有無を決めない。
会社が役員等の個人的費用を負担した場合と,実際に返還を求めている債権が未回収となっている場合は,確認すべき事実が異なる。
返還請求権を放棄・免除する場合も,その効力と時期,理由を確かめる。
同通達9-2-9(4)は,債権の放棄・免除の例から貸倒れに該当する場合を除いているため,単なる免除と貸倒れを混同しない。
3 損金算入と個人側の処理
役員への経済的利益と評価されても,会社の損金になるかは別の検討である。
No.5202は,役員への継続的な利益の額が毎月おおむね一定かどうか等に応じた取扱いを示している。
一度の私的購入を,当然に損金になる定期同額給与として処理しない。
個人側の所得区分・源泉徴収,消費税及び過年度訂正は,今回の資料だけで一律に結論を出さず,対象者,事業年度,取引内容と実際の費用負担を税理士が確認する。
会社が不正利用の被害を受けた場合の損失・損害賠償請求権・回収・貸倒れについては,第6の被害会社の税務の記事を参照されたい。
第5 発覚後に弁護士と税理士が確認すること
会社は,カード会社への連絡や利用停止の要否を確認するとともに,注文履歴,売上票,原本の経費申請及び会計データを保全する。
調査用の一覧を作る際も,元データを上書きせず,未確認の用途や承認を推測で補わない。
弁護士は,対外的な契約関係,社内の請求根拠,損害と回収,必要な保全及び刑事責任を検討する。
税理士は,同じ取引一覧から,費用・債権・回収等の区分と対象年度を検討する。
刑事上の罪名だけで会計科目を決めたり,会社の支払完了だけで個人への給与と決めたりしないことが,両者の連携の出発点となる。
第6 関連記事
① 家族や交際相手のクレジットカードを使うと犯罪になるか:個人カードの名義人承諾と加盟店詐欺,売上票及び支払責任。
② 従業員の窃盗・横領で被害を受けた会社の税務:損失,賠償請求権,回収及び貸倒れの年度別整理。
③ 平成29年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目:承諾範囲と相手方ごとの財産侵害を分ける学習用事例。
実在する会社カード契約を判断した事例ではない。
第7 出典と確認範囲
① JCB会員規約一覧及び会員規約(一般法人用)第1条2項・6項・8項(PDF物理1頁)。
個別の利用時点に適用された契約を確認する必要がある。
② 国税庁タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」(令和8年4月1日現在法令等の表示)及び法人税基本通達9-2-9(対象者,冒頭の除外条件,(4)(10)等)。
③ 最高裁平成16年2月9日第二小法廷決定(平成14年(あ)第1647号,刑集58巻2号89頁,PDF全2頁)。
個人カードによる成り済ましの事案である。
上記の確認日は令和8年10月30日である。
確認表と専門家間の分担は,これらの資料を踏まえた本記事の実務上の整理であり,カード会社や国税庁が公表した統一手順ではない。