第1 AIの回答と計算書の検証を分ける
生成AIにExcelの数式を提案させると,関数名を知らなくても表の集計や転記を補助してもらえる。
しかし,もっともらしい説明が付いていることと,請求額,支給額又は損害額が正しいことは別である。
法務で計算書を扱う場合は,元データ,適用する計算条件,数式及び表示結果を分けて確認したい。
MicrosoftのCopilot in Excel公式FAQは,誤りや誤解釈,不正確な結果があり得ることを示し,金融・法律・医療等の慎重さが必要な分野の判断での利用を避けるよう案内している。
本稿は,AIへ法的判断を任せる方法ではなく,数式作成等の補助を利用した計算書を人が確認するための実務上の提案である。
製品説明の確認基準日は令和8年10月28日である。
第2 最初に四つの確認対象を分ける
| 確認対象 | 確認する問い | 誤りの例 |
|---|---|---|
| 元データ | 原資料と値・単位・期間が合うか | 円と千円,時間と分の混同 |
| 計算条件 | どの基準・契約・期間を適用するか | 異なる適用期間の条件を流用 |
| 数式 | 対象範囲と計算順序が合うか | 最終行の集計漏れ,参照先の誤り |
| 出力 | 再計算後も結果を再現できるか | 古い表示値を現在の結果と誤認 |
数式が数学的に正しくても,適用する規程や対象期間を誤れば,実務上の結論は誤り得る。
例えば給与計算では,どの版の賃金規程をどの期間へ適用するかという確認が,Excelの操作に先行する。
規程群と実装の関係は,就業規則・人事規程・給与計算を横断点検するで扱っている。
第3 元データと計算条件を固定する
1 原資料を残してから作業する
受領したファイルをそのまま上書きせず,元ファイルと検証用の作業コピーを分ける方法が有用である。
元データの取得元,取得日時,対象期間,単位,作成者及び訂正の有無を記録しておくと,結果の違いを追いやすい。
ファイルのハッシュ値は同じバイト列かを照合する手掛かりになるが,元データの内容が真実であることまでは証明しない。
2 法的な前提をプロンプトだけに残さない
計算に用いる契約条項,規程の版,基準日,対象者,対象期間及び端数処理を,計算書又は対応する説明資料に残す方法が考えられる。
AIとの会話にしか前提が残っていない状態では,他の担当者が同じ結果を再現しにくくなる。
条件が争われている場合は,一方の条件を確定事実として埋め込まず,前提ごとの試算を区別する。
法律上どの条件が正しいかは,条文,判例,契約及び事実関係から別に判断する。
AIが選んだ式を,適用する法的基準の根拠にしない。
第4 数式と参照範囲を調べる
1 合計値だけでなく式を見る
合計値が予想に近い場合でも,集計範囲の開始行と最終行,別シートの参照,非表示の行,フィルター及び合計行の扱いを確認する。
同じ表に数式セルと手入力の固定値が混在していないかも調べたい。
表示形式による丸めと,数式で行う丸めを分け,どの段階で端数処理したかを確認する。
2 検索・転記では一致しない場合も試す
商品番号や社員番号から値を転記する数式では,通常の一致例だけでなく,未登録の番号,空欄,重複する番号及び文字列と数値の違いを試す方法がある。
該当しない値を空欄にするのか,警告として表示するのかも決めておくと,見落としを減らしやすい。
エラー表示を一律に消す処理は,入力漏れを隠す場合があるため,意図を確認する。
3 境界値と計算順序を確かめる
架空の社内試験で150点以上を合格とするなら,149点,150点及び151点を入れて確かめる方法がある。
これは境界値検証の説明例であり,採用・処遇等の法的な判断基準を示すものではない。
期間を扱う式では開始日・終了日の含め方を,割合を扱う式では何を分母とするかを,前提条件と照合する。
小計を丸めてから合計する場合と,合計後に丸める場合では差が出ることがある。
先に控除してから割合を掛ける場合と,割合を掛けてから控除する場合も,別の計算になる。
どちらを採るべきかは対象の法的・契約上の基準に従い,式が動くという理由だけで決めない。
第5 別の方法で照合してから使う
1 同じAIへの再質問と独立した検算は別である
AIに説明を求めることは,式の意味を調べる補助になる。
ただし,同じAIが同じ前提の誤りを繰り返す可能性もあるため,肯定的な回答を得ただけで検算済みとしない。
重要な計算では,原資料からの手計算,別に組んだ計算式又は既存の確認済み計算方法と比較することが考えられる。
二つの方法で結果が一致しても,両方が同じ誤った元データや計算条件に依存していれば,その誤りは残る。
結果の一致に加え,入力と適用条件も照合する。
2 AIの変更範囲を確認する
Copilotの公式FAQは,保存したブックの変更が,そのファイルへのアクセス権を持つ利用者にも見えると説明している。
共同作業のファイルでは,作業コピーで検証し,変更したセル・シートと確認した範囲を明らかにしてから共有する方法が有用である。
すべての計算やシートを見たのか,一部の式だけを確認したのかも区別する。
第6 以前の表示値が残っていても再計算できるとは限らない
MicrosoftのCOPILOT関数の終了案内によれば,試験提供されていたCOPILOT関数は令和8年9月14日から利用できなくなった。
既に計算された結果はキャッシュ値としてブックに残るが,該当する関数セルが再計算されると,認識できない関数として「#NAME?」になると説明されている。
これは,Copilotの画面からSUM等の通常の数式を提案させる機能全体が終了したという意味ではない。
この例は,ファイルを開いて結果が見えることと,現在の環境で計算を再現できることの違いを示している。
受領した計算書を再計算する場合は,まず原本と表示値を保全し,作業コピーで数式,外部参照及びエラーの有無を確認する方法がある。
第7 入力してよい資料と検証記録を確認する
計算書には,氏名,給与,口座情報,取引内容又は事件情報が含まれる場合がある。
AIで検算する前に,そのサービスへ資料を入力してよいかを確認し,不要な情報を含めない方法を検討する。
数式を検証できたことと,資料の外部入力が許されることは別である。
検証記録には,①元ファイルと作業版,②計算条件の根拠,③確認したセル・シート,④独立した検算方法,⑤差異と修正内容,⑥確認者及び確認日を残す方法が考えられる。
一部だけを確認した場合はその範囲を示し,未確認のシートまで検証済みと表示しない。
ここで示す記録方法は実務上の提案であり,法令が一律に指定する統一様式ではない。
第8 出典と関連記事
Microsoft:Copilot in Excelのよくある質問
Microsoft:Copilot in Excelの活用上のヒント
Microsoft:数式のエラーを調べる方法
Microsoft:COPILOT関数の終了案内
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