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ADRでAIを使うときの説明と同意―和解案,人による確認及び拒否できる手続(AI作成)

第1 研究会が検討したADRにおけるAI利用

ADRでAIを使うことへの同意と,AIが関与して作られた和解案を受け入れることへの同意は,分けて確認する必要がある。
公益社団法人商事法務研究会の「AI時代における民事司法を考える研究会」は,取りまとめでADRにおけるAI利用を検討し,手続の選択,適切な説明及び当事者の理解を重視している。
本記事では,現行のADR法の規定,研究会の見解及び実務上の確認事項を区別して整理する。

1 対象とするADRの範囲

ADRは,訴訟手続によらない紛争解決手続を指す広い言葉である。
ここで主に扱うのは,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)の民間紛争解決手続,すなわち当事者双方の依頼と契約に基づいて和解を仲介する手続である。
そのうち法務大臣の認証を受けた業務として行われる手続が,認証紛争解決手続となる(同法2条)。

裁判所の調停,仲裁判断を行う仲裁及び個別の業法に基づく制度などは,根拠法や仕組みが異なる。
本記事の認証ADRに関する説明を,全ての制度に一律に当てはめることはできない。

2 取りまとめの参照箇所

AI利用に関する主な記述は,研究会の取りまとめ第5「ADRにおけるAIの利用」にある(本文49~50頁,PDFの53~54枚目)。
研究会資料の全体像は,「AI時代における民事司法を考える研究会」取りまとめの要点と限界で説明している。
取りまとめで示された運用の考え方と,現行法が直接定める義務とは,分けて読む必要がある。

第2 現行法の説明義務と研究会の見解

1 手続実施者と手続の説明

ADR法6条2号は,取り扱う紛争の範囲に応じ,和解の仲介にふさわしい者を手続実施者として選任できることを認証の基準としている。
また,同法14条は,認証紛争解決事業者に対し,手続を行う契約を締結する前に,手続実施者の選任に関する事項,当事者が支払う報酬・費用,標準的な手続の進行,その他法務省令で定める事項を説明する義務を定めている。
説明は,書面の交付又は電磁的記録の提供により行う。

この制度の中でAIを利用する場合も,誰が手続を担当し,どのように進め,どの費用が生じるかを利用者が理解できることが基礎となる。
「AIが案内したから」「AIが和解案を作ったから」というだけで,運営者や手続実施者の役割がなくなるわけではない。

2 AIの役割に応じた説明

研究会は,資料の整理や参考案の作成と,判断に近い役割をAIに担わせる場合とを区別し,利用者の属性も踏まえて,説明の必要性と程度を検討している。
AI利用が手続の進め方に関わる場合には,同法14条3号の標準的な手続の進行に関する説明との関係も問題となる。
とりわけ,利用者がAIの働き方や限界を理解した上で,その手続を選択できることが重要である。

取りまとめは,AI利用について十分な説明を受け,その利用を含む手続を選択する場合の同意を検討している。
ただし,これを「あらゆるAI利用について,法律上必ず独立した同意書が必要である」と一般化することはできない。
具体的なAIの役割,手続規則,説明内容及び契約の仕組みを確認する必要がある。

第3 区別して確認したい三つの意思決定

1 手続の利用とAI利用への理解

ADRを申し込む際には,利用する機関と手続の種類,取り扱う紛争,費用及び担当者を確認する。
AIを利用する場合は,その手続のどの段階で,何のために利用し,誰が結果を確かめるかを併せて確認することが考えられる。
「このADRを利用したい」という意思だけから,説明されていない全てのAI利用に同意したと即断すべきではない。

2 提示された和解案を受け入れるか

AI利用を含む手続を選択したとしても,提示される全ての和解案を受け入れなければならないわけではない。
和解の仲介では,具体的な和解条件について当事者が合意することが問題となる。
AIの案や確率の表示を,裁判所の判決や,受諾を命じる判断のように受け取らないことが大切である。

確認する段階主な確認内容
ADRを利用するかどの機関の,どの手続か。対象紛争,担当者,費用及び終了条件は何か。
AIを含む運用を受け入れるかAIの役割,利用する情報,人による確認及び異議・質問の窓口はどう説明されているか。
個別の和解案を受け入れるか支払額,履行期限,対象となる請求,権利の放棄,違反時の扱い等を理解し,その条件に合意するか。

判断の前提となる事実や資料に誤りがある場合は,受諾する前に訂正を求める必要がある。
分からない条件や,将来の権利への影響がある条件については,必要に応じて独立した法律相談を利用することが考えられる。

第4 説明内容を具体的にするための確認事項

1 抽象的なAI利用の告知だけで済ませない

以下は,研究会の論点を踏まえた確認事項の例であり,全項目について同じ方式の説明が法令上必須であると示すものではない。
機関の規則や契約に応じ,利用者が判断するために必要な内容を具体化することが重要である。

項目確認したい内容
利用目的と範囲要約,分類,論点整理,参考となる和解案の作成のうち,何を行うか。AIだけで決める事項があるか。
人による確認誰が,どの資料と照らして結果を確認し,説明や訂正に対応するか。
入力する情報提供先,利用目的,保存,アクセス範囲及び第三者に関する情報の取扱いはどうなっているか。
誤りへの対応事実の取り違い,存在しない根拠及び不適切な案について,どの段階で質問・訂正を申し出られるか。
利用を望まない場合AIを使わない進め方があるか。別の機関を選ぶ場合や,手続を終了する場合の条件・費用は何か。

文章が自然であることは,資料の読み方や法的評価が正しいことの証明にはならない。
特に和解案では,事実の認定,法的な見通し及び双方の譲歩を区別して説明できることが大切である。
勝訴予測が合意形成に与える影響については,AIの勝訴予測は訴訟を萎縮させるかも参照されたい。

2 情報の取扱いへの同意を別に確かめる

手続の利用への同意と,どの情報をどのサービスへ提供するかについての判断も,同じ問題ではない。
AI利用を了承したというだけで,利用目的,守秘,個人情報の取扱い及び第三者の情報に関する問題が全て解消するわけではない。
運営機関が説明する規則と利用条件を確認し,疑問がある場合は,資料を渡す前に確認することが考えられる。

入力内容が保存・再利用されるか,人の確認が入るかは,サービスと運用によって異なる。
本記事は,特定のADR機関やAIサービスについて,データが保存されない,学習されないと確認したものではない。

第5 AI利用を望まない場合の確認

研究会は,適切な説明を受けて手続を選択すること,AI利用に同意しない場合の扱いを検討している。
しかし,どのADR機関にも,利用者の希望だけで同じ機関内の手続をAIなしに変更させる権利が当然にある,とまではいえない。
人だけによる対応の有無,利用を見送る方法,手続開始後の終了条件及び費用を,個別の規則と説明で確認する必要がある。

ADR法6条9号は,認証の基準として,当事者が手続を終了させるための要件・方式を定めることを求めている。
それぞれの規則に従った終了と,別のADRや裁判所への申立てをどう組み合わせるかは,事件の事情も踏まえて検討することになる。
ADRを選択したり問い合わせたりするだけで,全ての期限や時効の問題を回避できるとは限らない。

利用する機関を探す際は,法務省の「かいけつサポート」手続利用の案内を参照できる。
AIの有無だけでなく,取り扱う紛争の範囲,費用,担当者及び相談・申込みの方法を確認することが必要である。

第6 資料と確認時点

本記事は,令和8年10月5日に確認した研究会の取りまとめ,e-Gov掲載の現行ADR法及び法務省の認証ADRに関する案内に基づく。
関連する法令・規則・ガイドラインは,法務省の資料一覧から確認できる。
研究会の見解を法的義務と同一視せず,個別機関の最新の手続規則と説明に即して,AIの役割と利用者の選択を確かめることが大切である。