第1 LAC制度は弁護士費用保険そのものではない
1 LAC制度の役割
弁護士費用保険は,法律相談料や弁護士報酬等を約款所定の範囲で補償する保険商品である。
これに対し,LAC制度は,日弁連と協定を締結した保険会社,共済及び少額短期保険業者が販売する弁護士費用保険について,加入者等に弁護士を紹介するための制度設計及び運用を行う仕組みである。
東京弁護士会リーガル・アクセス・センター運営委員会の2025年5月号特集2頁も,このように説明している。
したがって,日弁連LACは保険者ではなく,LAC制度自体も一つの保険商品ではない。
保険金を支払うか,いくら支払うかは,まず各保険契約の約款によって決まる。
弁護士との委任契約上の報酬額も,保険金額とは別に確認する必要がある。
| 区分 | 主体 | 主な役割 | 直接の根拠 |
|---|---|---|---|
| LAC制度 | 日弁連LAC,弁護士会及び協定会社等 | 弁護士紹介,制度運営,所定の案件における費用基準等 | 日弁連と協定会社等との協定,LACの規則・運用 |
| 弁護士保険ミカタ | ミカタ少額短期保険株式会社 | 一般事件等の弁護士費用を補償する個別商品 | ミカタの保険約款 |
| 自動車保険の弁護士費用特約 | 各損害保険会社等 | 主として交通事故等の弁護士費用を補償する個別商品 | 各社の保険約款 |
| ADR | 日弁連又は指定紛争解決機関等 | 保険給付又は弁護士費用をめぐる紛争の解決を支援 | 各ADRの規則・業務規程 |
2 紹介案件と選任済み案件
前記特集13頁は,LACが扱う案件を「紹介案件」と「選任済み案件」に分けている。
紹介案件は,協定会社等がLACへ紹介を依頼し,LACが被保険者等に弁護士を紹介する案件である。
選任済み案件は,被保険者等が自ら弁護士を選任した案件である。
東京弁護士会では,紹介案件の担当弁護士に受任審査等を求める一方,選任済み案件には,LACを通じた紹介ではないことから同じ審査を課していないと説明している。
これは東京弁護士会における運用の説明であり,すべての弁護士会又は商品に同一の審査があるという意味ではない。
3 LAC基準がすべての商品に共通するわけではない
前記特集4頁は,交通事故紛争等の偶発事故について,日弁連LACと協定会社等が保険金支払基準(LAC基準)を策定していると説明する。
他方,偶発事故以外の分野を補償する商品には,約款で支払基準を定めるもの,LAC基準と同様に扱うもの又は保険会社等の内部基準によるものがあるとも説明している。
このため,「LACと協定している商品である」ことと,「どの事件にもLAC基準がそのまま適用される」ことは同じではない。
対象事件,弁護士の選任経路及び約款の定めを順に確認する必要がある。
第2 弁護士保険ミカタは個別の保険商品である
1 ミカタとLAC制度との接点は弁護士紹介等である
弁護士保険ミカタは,ミカタ少額短期保険株式会社が販売する個別の保険商品である。
同社の商品説明は,被保険者が日本全国の弁護士から自ら選ぶことができる一方,希望する場合には,日弁連を通じて弁護士の紹介を受けられると説明している。
また,同社の付帯サービスの説明は,弁護士紹介サービスを,同社と日弁連との協定によって実現した無料サービスと位置付けている。
紹介は法律相談をする弁護士についてのものであり,受任を前提とせず,利用条件や回数等の制限もある。
したがって,ミカタという保険商品とLAC制度との接点は,主として協定に基づく初期相談及び弁護士紹介にある。
ミカタの補償範囲,免責,保険金額及び支払方法は,LACの一般的な説明ではなく,同社の約款を確認しなければならない。
2 待機期間と原因事実の発生時期
ミカタの弁護士費用保険(2021)普通保険約款5条は,責任開始日から3か月間を待機期間とし,その間に原因事実が発生した場合には保険金を支払わないと定める。
ただし,同約款12条所定の交通事故等の特定偶発事故には待機期間を適用しない(PDF7頁,12頁)。
同約款6条は,相続,離婚その他所定の事件について,責任開始日から1年間の不担保期間を定める(PDF7頁~8頁)。
同約款2条及び3条は,問題事象又は法律事件を原因事実が生じた時に発生したものとみなしているので,加入後に相談又は提訴をしたというだけで補償対象になるとは限らない(PDF4頁~6頁)。
3 ミカタ自身との紛争等に関する免責
同約款7条(3)は,被保険者がミカタ自身を相手方として法律相談又は委任契約をする場合を免責とする。
また,他の保険契約に基づき法律相談料又は弁護士費用等の負担による損害を請求する場合に,その保険者を相手方とする法律相談又は委任も免責としている(PDF8頁~9頁)。
この条項は,弁護士費用を補償する保険でも,保険金支払をめぐる争いのための弁護士費用には空白が生じ得ることを示す。
もっとも,これはミカタの当該約款にある個別条項であり,他社の商品へ一般化することはできない。
4 基準弁護士費用,事前承認及び直接送金
同約款8条及び11条は,実際の委任契約上の弁護士費用と,保険金算定の基礎となる基準弁護士費用とを区別している。
同社の補償内容の説明も,実際の弁護士費用と基準弁護士費用が同額にならない場合があり,差額を被保険者が負担することがあると説明している。
同約款34条は保険金支払の事前承認を定めるが,同条4項は,事前承認が同約款37条の最終確認を保証するものではないと明記する(PDF18頁~19頁)。
また,同約款38条4項は,保険金請求権者の申出があれば,弁護士等へ直接送金できると定める(PDF19頁)。
依頼時には,①保険対象となる事件,②対象となる手続及び費目,③基準弁護士費用による算定額,④被保険者が負担する可能性のある差額,⑤事前承認後も残る確認事項,⑥支払先及び支払時期を区別して確認する必要がある。
また,同約款33条が資料提出等を定める一方,弁護士法23条は弁護士の秘密保持の権利及び義務を定めるため,査定に必要な情報の範囲と依頼者の同意も確認すべきである。
第3 自動車保険の弁護士費用特約は各社約款を確認する
1 300万円の表示だけでは補償額を決められない
自動車保険の弁護士費用特約も,保険会社ごとの個別商品である。
ここでは一例として,損害保険ジャパンの2026年7月1日以降始期契約用約款にある「弁護士費用特約(自動車事故限定型)」を確認する。
同特約第1章7条1項は,被害事故弁護士費用保険金を被保険者1名につき300万円までとする一方,別表1所定額に消費税を加えた額の範囲内で支払うと定める(冊子170頁,PDF171頁)。
300万円は支払限度額であり,実際の弁護士費用がその金額まで無条件に補償されるという意味ではない。
同別表1は,着手金及び報酬金を経済的利益に応じて算定し,時間制報酬を1時間当たり2万円,1事故につき30時間分までとするなど,費目ごとの基準を設ける。
ただし,事案に応じた増額又は時間数の例外も定めている(冊子174頁~175頁,PDF175頁~176頁)。
2 保険会社独自基準とLAC利用時の基準を分ける
前記別表1の冒頭は,被保険者が日弁連の「弁護士保険制度」を利用した場合には別に定めるところによるとしている(冊子174頁,PDF175頁)。
すなわち,同社約款の独自別表とLAC利用時の取扱いは,約款上も区別されている。
この例からも,「弁護士費用特約の上限が300万円であること」「保険会社の別表で算定すること」「LAC基準を利用すること」は別々の問題であることが分かる。
適用される約款の版,事故の種類,弁護士の選任経路及び保険会社の回答を一つずつ確認する必要がある。
3 委任前の承認と関連記事
前記特約第1章8条は,弁護士等への委任について,委任契約の内容を記載した書面を提出し,あらかじめ保険会社の承認を得るよう定める(冊子170頁,PDF171頁)。
委任契約上の報酬と保険金との差額を避けるには,委任前に,対象費目,算定方法及び承認範囲を書面で確認することが重要である。
自動車保険の弁護士費用特約について,被保険者の範囲,対象事故及び基本的な利用手順は,別稿「弁護士費用特約」で扱っている。
資料取得費の補償は「被保険者本人が支出した診療録等の資料取得費と弁護士費用特約」,保険会社から弁護士への支払と源泉徴収は「弁護士費用特約の保険金と源泉徴収」を参照されたい。
イタリアにおける法的費用保険の補償範囲,弁護士選択及び訴訟管理については,別稿「イタリアの弁護士費用保険-補償範囲・弁護士選択・訴訟管理(AI作成)」で扱っている。
第4 ADRは相手方と争点に応じて選ぶ
1 日弁連の弁護士費用保険ADR
日弁連の弁護士費用保険ADRに関する規則2条2項は,協定保険会社等が販売する弁護士費用保険について,①保険金給付義務の有無,②対象となる弁護士費用等の適否又は妥当性,③これらに準ずる紛争を扱うと定める。
日弁連に対する弁護士紹介の依頼を経ていない案件も対象に含まれるため,LACによる紹介案件だけのADRではない(PDF2頁)。
同規則3条によれば,申立てができる者は,協定保険会社等,保険契約者又は被保険者及び受任弁護士等である。
ただし,受任弁護士等は,自己を申立人として保険金給付義務の有無に関する紛争を申し立てることができない(PDF2頁~3頁)。
同規則は,和解あっせん,裁定及び所定の場合の見解表明という手続を置く。
裁定も,すべての当事者等が受諾する旨を示した場合に和解が成立したものとみなされるのであり,裁定が一方当事者を当然に拘束するものではない(同規則34条,PDF17頁)。
2 そんぽADRセンター
そんぽADRセンターは,日本損害保険協会と手続実施基本契約を締結した損害保険会社について,保険業法上の指定紛争解決機関として苦情解決手続及び紛争解決手続を行う。
利用費用は原則無料であるが,通信費,交通費及び証明書等の取得費用などは利用者負担である。
日弁連のADRが協定保険会社等の弁護士費用保険に特化し,受任弁護士等も一定の範囲で当事者になり得るのに対し,そんぽADRセンターは,対象損害保険会社と顧客との苦情・紛争を扱う金融ADRである。
両者は同じ制度ではなく,相手方の会社,申立人及び争点により利用可能性が異なる。
3 不払い又は減額を受けた場合の確認順序
日本損害保険協会の損害保険の保険金支払に関するガイドラインⅣ7は,不払理由について,根拠となる約款条項及び調査で確認できた事実等を説明し,必要な事案では再調査を行い,各種相談機関を案内するよう定める(冊子12頁,PDF14頁)。
これは同協会の会員会社向け自主指針であり,法令又は個別約款そのものではなく,ミカタを含むすべての保険者に当然に適用されるものでもない。
不払い又は減額を受けた場合には,まず,保険証券,事故時に適用される約款,委任契約書,見積書・請求書及び事前承認の回答をそろえる。
その上で,①補償対象又は免責の争いか,②費目又は算定額の争いか,③どの約款条項と事実に基づく判断か,④何を補えば再検討されるかを保険会社に確認する。
再査定の進め方,日弁連ADRとそんぽADRの選び方及び消滅時効の管理は,「弁護士費用保険の保険金が減額・不払いになったとき-再査定・日弁連ADR・そんぽADR・消滅時効(AI作成)」を参照されたい。
4 支払時期と消滅時効
保険法21条は,保険給付の期限が確認に必要な相当期間を超える場合,期限を定めない場合及び調査が妨げられた場合の遅滞責任を定める。
すべての請求について同じ日数で支払うことを定めた条文ではない。
保険法95条1項は,保険給付を請求する権利を行使することができる時から3年間行使しないときは,時効によって消滅すると定める。
起算点を一律に事故日とせず,適用約款における保険金請求権の発生時期を確認する必要がある。
再査定の申出又はADRの利用だけで時効管理が不要になるとは限らないため,完成猶予又は更新の有無も個別に確認すべきである。
第5 制度を混同しないための結論
弁護士費用保険を利用するときは,①保険契約の補償範囲,②弁護士との委任契約,③LACによる紹介又は費用基準の利用,④支払紛争を扱うADRを,別々の関係として確認する必要がある。
ミカタと自動車保険特約は個別商品であり,LACはそれらの商品と協定を通じて接続し得る制度であるが,約款を置き換えるものではない。
制度改善を考える場合も,保険金の上限だけでなく,補償範囲と算定方法を事前に理解できるか,着手時の費用負担を支えられるか,弁護士の独立性及び秘密を守れるか,支払理由を検証できる紛争解決手続に到達できるかという観点を分けて評価すべきである。
少額事件であることだけを理由に権利行使を不要と評価せず,請求の根拠,手続の目的及び費用との均衡を具体的に検討することが重要である。
弁護士費用保険で自分で選んだ弁護士を利用する場合の事前同意,自己負担及び利益相反については,「弁護士費用保険で弁護士を自分で選べるか-自己選任・保険者の同意・費用負担・利益相反(AI作成)」参照。
弁護士費用保険・特約をめぐる主要裁判例については,「弁護士費用保険・特約をめぐる主要裁判例-同意・現実の支出・返金・直接請求(AI作成)」参照。
第6 出典
以下の資料は,2026年9月2日に公開状態及び版を確認した。
PDFの冊子頁とPDF内の通し頁が異なる資料は,両者を区別して示した。
1 法令
①保険法(平成20年法律第56号)21条,95条1項(e-Gov法令検索)
②弁護士法(昭和24年法律第205号)23条(e-Gov法令検索)
2 日弁連及び弁護士会の資料
①東京弁護士会リーガル・アクセス・センター運営委員会「弁護士費用保険(LAC制度)のいまとこれから」『LIBRA』25巻5号,2025年5月,2頁~16頁。参照箇所は2頁,4頁,11頁~13頁(PDF1頁,3頁,10頁~12頁)
②日本弁護士連合会「弁護士費用保険ADRに関する規則」(規則第182号。令和8年2月19日改正,改正規定は同年4月1日施行)2条,3条,34条,35条,附則。PDF2頁~3頁,17頁,22頁
3 保険会社の約款及び商品説明
①ミカタ少額短期保険株式会社「弁護士費用保険(2021)普通保険約款」(2025年4月版)2条,3条,5条~8条,11条,12条,33条,34条,37条,38条。PDF4頁~12頁,18頁~19頁
②ミカタ少額短期保険株式会社「弁護士保険ミカタ」及び「付帯サービス」(弁護士選任及び弁護士紹介サービスの説明)
③損害保険ジャパン株式会社「THE クルマの保険 ご契約のしおり・普通保険約款および特約」(2026年7月1日以降始期契約用)6-4「弁護士費用特約(自動車事故限定型)」用語の定義,第1章7条・8条,別表1。冊子168頁,170頁,174頁~175頁(PDF169頁,171頁,175頁~176頁)
4 ADR及び業界の自主指針
①日本損害保険協会「相談対応,苦情・紛争の解決(そんぽADRセンター)」(対象会社,苦情解決手続,紛争解決手続及び費用の説明)
②日本損害保険協会「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」(2026年5月18日改定)Ⅳ7,冊子12頁(PDF14頁)