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警察及び検察の取調べ-録音録画・苦情申入れ・検面調書・黙秘権(AIリライト)

この記事は,日本の刑事手続における警察官及び検察官の被疑者取調べについて,取調べを受ける側の心構えから,録音・録画(可視化),取調べに対する苦情の申入れ,供述調書(検察官面前調書)の証拠能力,黙秘権,取調べを規律する犯罪捜査規範の条文まで,条文・通達・裁判例と一次資料へのリンクを添えて整理したものです。
あわせて,弁護人等による取調べ関係の申入れと,検察官本人が利用する人事評価上の苦情手続を区別し,弁護人対応が内部評価項目であることの意味と限界を示します。
条文は令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化など直近の改正を反映し,裁判例は裁判所ウェブサイトの掲載を確認して引用しています。

最終更新 令和8年9月24日(任意取調べの適法性と証拠保全を追記)

現在の状況から取調べの説明を探す

呼出し前の準備は,本文に案内する検察庁呼出しの記事を参照されたい。取調べ中の供述・調書の確認は被疑者ノートの留意点と黙秘権,録音・録画は可視化を確認する。

後から不当な取調べへの対応を検討する場合は,警察への苦情,検察への苦情,検面調書の証拠能力を区別する。聴取の日時・担当者・発言・調書の確認状況など,覚えている事実と資料を整理して弁護人に相談する。

身柄を拘束されずに捜査が続く場合の進行と処分結果の確認は,在宅事件とは―捜査から処分までの流れと結果の確認を参照されたい。

刑事事件全体の分岐と,立場別の確認事項は,刑事事件とは―民事事件との違い,手続の流れと立場別の対応を参照されたい。

第1 取調べを受ける被疑者の心構え(被疑者ノート)

検察庁から来庁の連絡を受け,まず何を確認すべきかを知りたい場合は,検察庁から呼び出されたらを参照されたい。自分の立場・日時・持参物等の準備と,本記事の取調べの権利・証拠の詳説を分けて確認できる。検察庁の役割は検察庁とはにまとめている。

1 被疑者ノートとは何か,最新版の入手先

被疑者ノートは,日本弁護士連合会が作成し,取調べを受ける被疑者が,取調べの日時・時間・取調官の言動・調書への署名押印の有無などをその日のうちに自分で記録しておくためのノートです。
後に取調べの違法・不当を争うとき,被疑者自身が残した同時的な記録は,任意性・信用性を検討する手がかりになります。

被疑者ノートは随時改訂されており,日本弁護士連合会のウェブサイトから最新版と各国語版を入手できます。本記事の更新時点で確認できる日本語文は令和6年(2024年)10月改訂版です。弁護人は,接見の際にこれを差し入れて活用します。

2 被疑者ノートが示す7つの留意点

被疑者ノート(平成21年4月発行の第3版)は,取調べに臨む被疑者に向けて,おおむね次の7点を助言しています。以下は同ノートの内容を要約したものです。

  • ① 供述調書は取調官がまとめて文章にするものであり,被疑者本人の言葉と取調官の表現が混ざりやすい。日本の取調べは弁護人の立会いも録音録画もないまま作成される場合が多く,どこまでが本人の言い分かを後から確かめにくい。
  • ② 黙秘権がある。憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されないことを保障し,刑訴法198条2項は取調べに際して供述しなくてよい旨を告げなければならないと定めている。一切答えずに黙っていてよい。
  • ③ 署名押印に応じる義務はない。刑訴法198条5項は,被疑者が調書に誤りのないことを申し立てたときに署名押印を「求めることができる」と定めるにとどまり,拒絶できることを明記している。
  • ④ 誤った調書は訂正を求められる。刑訴法198条4項は,被疑者が増減変更を申し立てたときはその供述を調書に記載しなければならないと定めている。納得できる訂正がされるまで署名押印する必要はない。
  • ⑤ 調書は自分の目で読んで確認する。取調官による読み聞かせでも足りるとされているが,聞き逃しを避けるため,自分で読ませてほしいと求めてよい。
  • ⑥ おかしいと思ったら妥協せず署名しない。認めないと不利になるなどと言われても,調書を作らないことで直ちに不利になるわけではない。迷ったら弁護人に相談してから決めると述べればよい。
  • ⑦ 録音・録画がされる場面では,それまでの取調べに違法・不当があった場合,その点を録画の中で主張しておく。映像として残しておくことが後の争いで意味を持つ。

第2 取調べの録音・録画(可視化)の現在

1 録音・録画が義務づけられている事件(刑訴法301条の2)

取調べの録音・録画(可視化)は,平成28年(2016年)の刑事訴訟法改正で一部の事件について義務化され,令和元年(2019年)6月1日に施行されました。
義務の対象となるのは,裁判員裁判対象事件(刑訴法301条の2第1項1号・2号に定める,死刑又は無期拘禁刑に当たる罪の事件,及び短期1年以上の拘禁刑に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件)と,検察官が独自に捜査する事件(同項3号)です。

録音・録画の義務の範囲は,捜査主体によって異なります。
検察官又は検察事務官については,刑訴法301条の2第1項各号の事件が対象ですが,同項3号の事件のうち,関連事件が送致又は送付されており,司法警察員が現に捜査していることその他の事情に照らして,当該事件の送致又は送付が見込まれるものは除かれます(同条4項前段)。
司法警察職員については,同条1項1号又は2号の事件が対象です(同条4項後段)。
それぞれ,逮捕・勾留中の被疑者の取調べ又は同項が定める弁解の機会について,供述及びその状況を,録音と録画を同時に行う方法で記録することが求められます。

同条4項各号には,機器の故障その他のやむを得ない事情,被疑者の言動により記録した場合には十分な供述ができないと認める場合,指定暴力団の構成員による犯罪と認める場合,報復等のおそれのため記録した場合には十分な供述ができないと認める場合の例外があります。
単に被疑者が録画を拒んだという事情だけで,例外に該当すると一括して説明しないことが必要です。

録音・録画の義務(刑訴法301条の2第4項)と,その記録媒体の証拠調べを請求する義務(同条1項)は,分けて確認する必要があります。
同条1項の義務は,同項各号の対象事件で,逮捕・勾留中の取調べ又は弁解の機会に作成され,被告人に不利益な事実の承認を内容とする同法322条1項の書面の取調べを検察官が請求し,被告人又は弁護人が任意にされた承認でない疑いを理由として異議を述べた場合に生じます。
ただし,同条4項各号に該当して記録されなかったことその他やむを得ない事情によって記録媒体が存在しない場合は,同条1項ただし書の例外があります。

検察官が同条1項の義務に違反して記録媒体の取調べを請求しないときに,裁判所は,同項の書面の取調べ請求を決定で却下しなければなりません(同条2項)。
したがって,録音・録画がされなかったという事情だけから,すべての供述調書が同条2項により当然に排除されるとはいえません。
同条3項には,被告人の不利益な承認を内容とする被告人以外の者の供述を証拠とする場合の準用規定もあります。
可視化は,取調べの適正を担保し,自白の任意性をめぐる争いを映像で検証する仕組みですが,対象事件,異議の有無及び例外の該当性を具体的に確認することが必要です。

刑訴法321条の3との区別
刑訴法301条の2は,一定の事件における逮捕・勾留中の被疑者取調べ等の録音・録画義務等を定めます。これに対し,刑訴法321条の3は,同条1項1号に掲げる一定の被害者等の供述を記録した媒体について,所定の要件の下で証拠能力を認める伝聞例外です。録音・録画という共通点だけで両制度を同一視することはできず,録画の存在自体が供述の信用性を保証するものでもありません。刑訴法321条の3の要件と代表者聴取については,第12の関連記事を参照されたい。

2 可視化の経緯と近時の動き

取調べの可視化は,昭和59年(1984年)に刑法学者が「取調べの可視化・客観化」を提唱したことに始まり,弁護士会の運動を経て制度化された経緯があります。平成20年(2008年)から検察庁が,平成21年(2009年)から警察が,重大事件の一部について録音・録画の試行を始め,前記のとおり平成28年改正で一部事件の全過程録画が義務づけられました。

もっとも,義務化の対象は全事件のごく一部にとどまるため,対象の拡大が議論されています。日本弁護士連合会は,令和6年(2024年)6月14日の定期総会で,すべての事件の全過程について録音・録画を実現するとともに弁護人立会権を確立することを求める決議を採択しました。
検察は,令和7年(2025年)4月から,在宅(任意)の取調べのうち起訴が見込まれる事件等について可視化の試行を始めました。さらに,令和7年(2025年)7月には,法務省の有識者協議会が,任意捜査や参考人聴取への対象拡大を検討する会議体の設置を提言する報告書をまとめています。

3 任意取調べの適法性を二段階で点検する

刑事訴訟法198条に基づく任意取調べは,「任意」という名称だけで常に適法になるわけではない。最高裁昭和59年2月29日決定及び最高裁平成元年7月4日決定を踏まえると,まず強制手段に当たるかを検討し,強制手段に当たらない場合でも,事案の性質,容疑の程度,被疑者の態度等を踏まえ,社会通念上相当と認められる方法・態様・限度かを検討するという二段階の順序が基本となる。

段階主な確認事項注意点
第1段階
強制手段性
退去・中断の可能性,明示・黙示又は合理的に推認される意思,身体・行動の自由への実質的制約「拒否と言わなかった」だけで意思に反しないと即断しない。
第2段階
社会的相当性
必要性,嫌疑,時間,深夜・徹夜,睡眠・食事,疲労の外形,捜査官の認識,偽計・威迫・利益誘導,自白までの経過長時間,徹夜,疲労及び偽計を分断せず,時間軸に沿って相乗効果を評価する。

第2段階の理論的説明には,捜査の必要性と被疑者の被侵害利益を比較する見解や,捜査機関に対する行為規範として相当性を判断する見解がある。いずれの立場でも,どの事実が,移動・休息・睡眠・黙秘その他のどの利益をどの程度制約したのかを示す必要がある。

取調べの適法性は,後に得られた自白の証拠能力と関連するが,同じ問題ではない。取調べが違法かという行為規制の問題と,刑訴法319条1項による任意性,自白へ違法収集証拠排除法則を適用するか,適用する場合の基準という証拠法上の問題を順に分ける。前段で適法とした事実を,説明なく後段で重大な違法の根拠にするなど,前後の評価を矛盾させない。

弁護側で残す記録

  • 同行,開始,中断,食事,休憩,睡眠,終了及び帰宅の時刻
  • 退去・中断・弁護人連絡の申出と捜査官の応答
  • 疲労,眠気,体調,発話量及び判断能力の変化を示す外形
  • 告知された情報の正確な文言,真偽,供述への作用及び自白までの時間
  • 録音録画,入退室記録,被疑者ノート,診療記録,接見メモ及び同席者供述

令和2年度司法試験刑事系の公式出題趣旨及び採点実感は,約24時間,一睡もさせない徹夜,疲労及び偽計を総合評価し,強制手段性と社会的相当性を分けることを求めた。本記事への応用は当ブログの整理であり,個別事件では判決原文,取調べ記録及び医療資料を別に確認する。

自白法則と違法収集証拠排除法則の関係は,刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序の第6も参照されたい。

4 偽計の内容と供述変更を時系列で残す

最高裁昭和45年11月25日大法廷判決は,偽計による心理的強制が虚偽の自白を誘発するおそれを生じさせた場合の任意性を問題にした。
取調官の説明が虚偽だったことだけで一律に排除を認めたものではなく,任意性の判断に必要な審理を尽くさなかったとして破棄差戻しをしている。

接見では,告げられた言葉,実際の証拠との相違,本人が信じた内容,否認から自白へ変わった時点及び本人の心身の状態を記録する。
虚偽と判断する根拠,本人の説明及び弁護人の推測を分け,録音録画,初期調書,後続調書,被疑者ノート等と照合する。
後の取調べについても,虚偽の情報が訂正されたか,本人が訂正を理解したか,接見や休息を挟んだか等を確認する。
担当者の変更や改めての署名だけで先行する働き掛けの影響が消えたと判断しない。

調書の記載に誤りがあれば,刑訴法198条4項・5項の増減変更の申立て及び署名・押印の拒絶に関する規定を確認する。
実際の発言,調書の記載,訂正を求めた内容とその対応を残すことが,後の任意性・信用性の検討にもつながる。
確認項目と証拠意見の例は,偽計による自白をどう争うかで詳しく説明している。
本追補では大法廷判決の裁判所公開原文と現行条文を確認し,判例秘書での新たな検索・本文照合は行っていない。

第3 警察の取調べに対する監督と苦情の申入れ

1 監督の対象となる行為

警察官による被疑者取調べは,平成21年4月1日に施行された「被疑者取調べの適正化のための監督に関する規則」(平成20年国家公安委員会規則第4号)によって,捜査部門から独立した監督部門の監督を受けます。
同規則3条1項2号は,取調べに携わる警察官が被疑者に対して行う次の行為を「監督対象行為」として規制しています。

  • ① やむを得ない場合を除き,身体に接触すること。
  • ② 直接又は間接に有形力を行使すること(①に掲げるものを除く。)。
  • ③ 殊更に不安を覚えさせ,又は困惑させるような言動をすること。
  • ④ 一定の姿勢又は動作をとるよう不当に要求すること。
  • ⑤ 便宜を供与し,又は供与することを申し出,若しくは約束すること。
  • ⑥ 人の尊厳を著しく害するような言動をすること。

2 取調べ監督官の職務

取調べ監督官は,警察本部長又は警察署長の指揮を受け,取調べ状況の確認,取調べ中止の要求その他の必要な措置などの職務を行います(規則4条2項)。
監督官及びその補助者は,自らが監督する取調べに係る事件の捜査に従事してはなりません(同条3項)。捜査と監督を分離することが,監督の実効性の前提とされています。

取調べ状況の確認は,取調べ室外部からの視認,事件指揮簿及び取調べ状況報告書の閲覧その他の方法によって行われます(規則6条1項)。警察官は,被疑者又は被告人を取調べ室等で取り調べたときは,取調べを行った日ごとに,速やかに取調べ状況報告書を作成しなければなりません(犯罪捜査規範182条の2第1項)。

3 苦情の申出と監督対象行為の調査

警察職員は,被疑者取調べについて苦情の申出を受けたときは,速やかに,担当の取調べ監督官にその旨と内容を通知しなければなりません(規則7条)。
警察本部長は,必要があると認めるときは巡察官を指名して取調べ室を巡察させ(規則8条1項),苦情や報告その他の事情から監督対象行為が行われたと疑うに足りる相当な理由があるときは,取調べ調査官を指名して監督対象行為の有無を調査させます(規則10条1項)。

4 監督規則の施行状況(公表データ)

都道府県警察本部長等は毎年度少なくとも1回,公安委員会に監督の実施状況を報告し(規則11条),警察庁長官は毎年度少なくとも1回,国家公安委員会に規則の施行状況を報告します(規則13条)。
警察庁のウェブサイトには,この施行状況の資料が直近2年分掲載されています。本記事の更新時点で掲載されているのは,令和7年分(令和8年2月26日付)と令和6年分(令和7年2月20日付)です。

それ以前の年度分はウェブサイトから削除されていますが,インターネットアーカイブに残るバックナンバー(平成24年度分から平成28年分まで)を通じて内容を確認できます。

第4 検察の取調べに対する苦情の申入れ

1 取調べに関する不満対応通達

検察官等による取調べについては,平成20年9月1日に施行された「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について」(平成20年5月1日付の次長検事依命通達。不満対応通達)が対応の枠組みを定めています。概要は次のとおりです。

  • ① 弁護人等から取調べに関して申入れがあったときは,申入れを受けた検察官等は,速やかに取調べ関係申入れ等対応票を作成し,内容を記録して当該事件の決裁官に報告する。
  • ② 決裁官は,申入れを把握したときは,速やかに所要の調査を行い,必要な措置を講ずる。
  • ③ 調査結果及び講じた措置は,捜査・公判への影響等を考慮しつつ,申入れをした弁護人等に対し,適時に,可能な範囲で説明する。
  • ④ 決裁官は,調査結果や講じた措置を対応票に記録し,上位の決裁官に報告する。
  • ⑤ 司法警察職員による取調べについて弁護人等から申入れを受けたときも,主任検察官が,検察官による取調べに準じて対応票を作成・記録し,捜査主任官である司法警察職員に連絡して必要な措置を講ずる。
  • ⑥ ここでいう決裁官は,部制庁では当該部の部長(担当副部長),非部制庁では次席検事等を指す。
  • ⑦ 取調べ当時に身柄が拘束されているかどうかにかかわらず,以上の措置を実施する。
取調べに対する申入れと人事評価上の苦情手続との区別
検察官の内部人事評価には,被評価者である検察官本人が評価結果について利用する「苦情相談」及び「苦情処理」の手続があります。これは,本節の弁護人等による取調べ関係の申入れとは別の制度です。なお,検察庁勤務者の人事評価では,捜査・公判における弁護人への適切な対応,取調べ,報告・決裁,責任感・公正性等が着眼点とされていますが,その事実だけから特定の回答義務,不回答の違法性又は個別検察官の評点を導くことはできません。詳しくは,「検察官の人事評価―検察官調査表の評価項目,評点,弁護人対応及び保存期間(AI作成)」を参照してください。

2 取調べ状況等報告書

「取調べ状況の記録等に関する訓令」(平成15年11月5日法務省刑刑訓第117号)1条により,検察官又は検察事務官は,逮捕・勾留されている者を取調べ室等で取り調べたときは,取調べを行った日ごとに取調べ状況等報告書を作成しなければなりません。
検察官等は,この報告書を作成したときは,被疑者等に記載内容を確認させ,署名指印を求めるものとされています(同訓令2条)。

3 記録を任意性・証拠能力・信用性の検討に結び付ける

取調べへの申入れに備えて残した記録は,後にどの問題を検討するための資料になるかも区別して整理すると役立ちます。
以下は弁護側の検討を助けるための整理例です。
記録があるだけで証拠排除や供述の信用性の否定が決まるわけではなく,記録の取得・保全方法や公判で利用する手続は別に検討する必要があります。

検討する問題記録して対応させる事項
自白の任意性威迫・利益の示唆,拘束時間,休憩,心身の状態,発言の日時と前後の経過。刑訴法319条1項の問題として検討します。
調書等の証拠能力供述者が被告人かそれ以外の者か,書面の作成者,署名・押印,公判供述との相違及び適用条文の要件。
供述の信用性当初供述と変遷,質問・証拠提示の順序,知覚・記憶の条件,他の証拠との矛盾を確認します。
自白以外の証拠自白が唯一の不利益な証拠かを刑訴法319条2項に照らして検討し,個々の証拠が何を支えるかを記します。

刑事訴訟法319条は,任意性に疑いのある自白を証拠とできないことと,自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合に有罪とされないことを別々に定めています。
また,調書を証拠として用いるための要件を満たすかという問題と,その内容がどこまで信用できるかという評価も区別します。
任意性に関係する取調べ状況が信用性にも関係する場合はありますが,それぞれの要件と判断の理由を分けて示すことが大切です。

供述の信用性の点検例は,自白・供述の信用性をどう争うか―草加事件から作る検証チェックリスト(AI作成)も参照してください。
検面調書の証拠能力の具体的な要件は,次の第5で扱います。

第5 検察官面前調書(検面調書)の証拠能力

1 証拠能力が認められる要件(刑訴法321条1項2号)

検察官面前調書(検面調書)は,検察官が供述を録取した書面であり,被告人本人の供述を録取したものも含む。
供述内容の真実性を立証するために使う場合の伝聞性は,供述者が公判にいるか,現実に反対尋問したかという事情だけで決まるものではない。
まず,供述者,対象被告人及び立証趣旨を特定する必要がある。

最高裁第三小法廷昭和36年12月12日判決・原文1頁~2頁によれば,本人に対する証拠として用いる場合は刑訴法322条1項の問題となり,他の共同被告人に対して用いる場合は刑訴法321条1項2号の問題となる。
不利益な事実の承認には任意性の制限があり,本人についての採用が他の被告人についての採用を意味するわけではない。
刑訴法326条による同意書面としての扱いも別に確認する。

以下は,被告人以外の者の供述を刑訴法321条1項2号により証拠とする場合の説明である。

  • ① 供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明又は国外にいるため,公判準備・公判期日で供述できないとき(供述不能。同号前段)。
  • ② 公判準備・公判期日で前の供述と相反するか実質的に異なった供述をしたとき(相反供述・実質的不一致供述。同号後段)。ただし,公判廷の供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況(相対的特信情況)が存するときに限られる。

2 前段書面と絶対的特信情況

後段の相反供述の場合は,公判廷の供述と比較して特信情況の有無を判断できます(相対的特信情況)。
これに対して,前段の供述不能の場合は,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しません。そのため,前段書面について特信情況を要求する立場からは,その特信情況は,比較を前提としない絶対的特信情況になると説明されます。

ここで述べた絶対的特信情況は,前段にも特信情況を要求する立場からの説明である。
2号後段の相対的特信情況を,前段の供述不能にもそのまま要求するという意味ではない。
警察官調書等に適用される同項3号では,供述不能,犯罪事実の証明への不可欠性及び絶対的特信情況を別々に確認する。

3 自己矛盾供述による証拠能力の範囲

公判供述と食い違う以前の供述(自己矛盾供述)を理由に証拠能力が認められるのは,裁判官面前調書(刑訴法321条1項1号後段)と検面調書(同項2号後段)に限られ,司法警察員面前調書(員面調書)をはじめとする同項3号書面には認められません。
検面調書については,捜査機関である検察官が作成した書面であるにもかかわらず,相対的特信情況が認められる限り証拠能力が認められる点に,その特色があります。

共同被告人の冒頭否認について,最高裁第三小法廷昭和35年7月26日決定・原文3頁~4頁は,事実に関する否認がその後も維持され,証拠調べの段階で刑訴法311条3項による質問機会が十分与えられた経過を認定し,相対的特信情況も判断している。
冒頭で否認したという一事だけで,検面調書の証拠能力が当然に認められるわけではない。
途中で自白に転じた場合には,採用判断時点までの公判供述と調書の具体的な相違を確認する。
詳しくは,共同被告人の検面調書をどう争うかを参照されたい。

4 憲法37条2項との関係

刑訴法321条1項2号前段は,被告人が供述者を反対尋問できないまま検面調書を証拠とすることを認めるため,証人審問権を保障する憲法37条2項に反しないかが問題となります。
最高裁判所大法廷昭和27年4月9日判決(刑集6巻4号584頁)は,憲法37条2項は反対尋問の機会を与えない供述に絶対的に証拠能力を否定する趣旨まで含むものではないとして,同号は憲法37条2項に違反しないと判示しました。

昭和27年4月9日大法廷判決の原文2頁~3頁は,証人の証言拒絶が同号前段の供述不能に含まれ得るとした。
しかし,一度の拒絶で当然に採用できるわけではなく,東京高裁平成22年5月27日判決は拒絶の継続見込みと検察官の立証責任を示している。
拒絶理由,期日変更・再尋問及び尋問方法を検討した経過を確認し,被告人としての黙秘と証人としての拒絶権を区別する必要がある。

証言拒絶後の立証,再尋問及び記録確認の具体的な手順は,証人が証言を拒んだときの刑事弁護を参照されたい。

5 検面調書が作成される手順

検察官とともに捜査を担当する立会事務官の仕事について,検察庁の捜査公判部門の紹介は,取調べに同席して供述調書の作成等を行うと説明している。
検察事務官の三つの仕事領域と,通常の職員の捜査権限及びその限界については,検察事務官とはを参照されたい。

検面調書は,被疑者本人の一人称で記され,供述内容を検察官が整理して記述することから,「検察官の作文」と評されることがあります。
ただし,その呼称だけで,実際の作成過程や供述内容との一致を判断することはできません。
刑訴法198条4項は,調書を被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて誤りの有無を問い,増減変更の申立てがあった場合には,その供述を調書に記載することを求めています。
同条5項の署名押印は,被疑者が調書に誤りがないと申し立てた場合に求めることができるものであり,拒絶することができます。

法務総合研究所の「立会事務」平成26年6月研修教材は,供述人の面前で検察官が口述し,事務官が入力する方式を原則とし,供述人の面前外で入力内容を修正しないことを説明しています(PDF27頁~28頁,印刷40頁~43頁)。
また,検察官による読み聞かせに加えて,供述人に閲覧・閲読の機会を与え,実質的な増減変更は原則として印刷原本の末尾に追加筆記し,単純な誤字脱字の訂正も面前で確認するという説明があります(PDF28頁,印刷42頁~43頁)。
これは平成26年当時の研修教材に示された作成実務の説明であり,刑訴法198条4項の「閲覧又は読み聞かせ」という条文上の要件と区別して参照する必要があります。

弁護人が調書の作成過程を確認するときは,誰がどのように口述・入力したか,本人が印刷された内容を読めたか,読み聞かせを聞き取れたか,訂正や追加の申出が記載されたかを具体的に聴き取ることが有用です。
調書,録音・録画,取調べの経過に関する記録等を対照して検討し,教材の手順と異なる点があるという事情だけで,直ちに供述の任意性又は証拠能力が否定されると判断しないことが必要です。

第6 黙秘権

以下は,捜査機関の取調べ一般についての黙秘権に関する整理です。

1 条文及び判例

憲法38条1項は「何人も,自己に不利益な供述を強要されない。」と定め,刑事訴訟法198条2項は,取調べに際してあらかじめ自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならないと定めています。

最高裁判所大法廷昭和32年2月20日判決(刑集11巻2号802頁)は,憲法38条1項は,何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである,と判示しました。

他方,最高裁判所昭和28年4月14日判決(刑集7巻4号841頁)は,供述拒否権(黙秘権)を告知しないで取り調べたとしても憲法38条1項に違反するものではない,と判示しています。この理解は,後の最高裁判所昭和59年3月27日判決(刑集38巻5号2037頁。国税犯則取締法の質問調査に関するもの)でも,憲法38条1項は供述拒否権の告知を義務づけるものではない,という形で確認されています。もっとも,刑訴法198条2項は取調べにおける告知を法律上の義務として定めていますから,捜査機関はこれに従って告知しなければなりません。

2 現行刑訴法施行当時の関係者の述懐

現行刑事訴訟法の施行当初,検察官の間では,被疑者に供述拒否権が認められ告知が義務づけられたことで真相究明ができなくなるのではないか,という危惧があったといわれます。
しかし,元検察官の回想(ジュリスト551号94頁掲載の本田正義の論稿)によれば,実際には供述拒否権を行使して沈黙する被疑者は危惧されたほど多くなく,供述を中心とする審理の在り方は旧法当時と本質的に変わらなかった,と振り返られています。

3 黙秘権行使の戦略

季刊刑事弁護79号(平成26年〔2014年〕7月)掲載の論稿「黙秘権行使の戦略」は,黙秘の実務的な意味を次のように整理しています(要旨)。

黙秘は被疑者にとって最も強い防御でありながら,実務が逮捕・勾留中の被疑者に取調べ受忍義務があることを前提とし,捜査機関が黙秘する被疑者に供述するよう説得を続けるため,黙秘権の行使には大きな障害が伴う。人は沈黙し続けること自体に苦痛を覚えるため,説得され続けると黙秘の維持は一層難しくなり,従来は強い精神力を持つ限られた被疑者にしか黙秘はできなかった。
しかし,取調べの可視化は,こうした障害を弱め,普通の被疑者にも戦略的な黙秘を可能にする。可視化されていれば,カメラの前で黙秘する旨を述べてそれ以降沈黙すればよく,脅しや長時間の説得も抑制される。
同論稿は,民事事件で依頼者に相手方代理人のもとで陳述書を作成させる弁護士はいないだろうという対比を挙げ,取調べに応じて調書作成に応じることの意味を根本から問い直す必要があると説いています。

同号には,否認事件・自白事件の個別の設例ごとに黙秘権を行使すべきかどうかを検討する座談会も収録されています。

共犯者による責任転嫁の可能性は,調書の採用要件と供述内容の信用性を分けて検討する必要がある。
他の被告人との関係では,質問の機会が与えられたこと,弁護側が質問しなかったこと,共同被告人が黙秘したことを混同しない。
調書が採用されても,共犯供述の独立性,情報源,変遷及び客観証拠との整合性は別に争える。

4 黙秘権を行使する際の留意点

黙秘権の行使には次のような留意点もあります。

  • ① 共犯者がいる事件で一切供述調書を作成しないと,責任転嫁を図る共犯者の供述だけで捜査機関のストーリーが組み立てられるおそれがある。
  • ② 被害者がいる事件で一切供述調書を作成しないと,自分には落ち度がないとする被害者の供述だけで捜査機関のストーリーが組み立てられるおそれがある。

黙秘権を行使するかどうか,どの範囲で供述するかは,事件の内容や証拠関係に応じて,弁護人と相談して判断すべき事柄です。

第7 取調べに関する犯罪捜査規範の条文(166条から182条の5まで)

犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)のうち,取調べに関する166条から182条の5までの条文は次のとおりです。182条の3第1項が掲げる録音・録画の対象事件は,令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化(令和4年法律第67号)を反映した現行の文言に改めています。

166条(取調べの心構え)

取調べに当たつては,予断を排し,被疑者その他関係者の供述,弁解等の内容のみにとらわれることなく,あくまで真実の発見を目標として行わなければならない。

167条(取調べにおける留意事項)

① 取調べを行うに当たつては,被疑者の動静に注意を払い,被疑者の逃亡及び自殺その他の事故を防止するように注意しなければならない。

② 取調べを行うに当たつては,事前に相手方の年令,性別,境遇,性格等を把握するように努めなければならない。

③ 取調べに当たつては,冷静を保ち,感情にはしることなく,被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。

④ 取調べに当たつては,言動に注意し,相手方の年令,性別,境遇,性格等に応じ,その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。

⑤ 警察官は,常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め,取調べに当たつては,その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。

168条(任意性の確保)

① 取調べを行うに当たつては,強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。

② 取調べを行うに当たつては,自己が期待し,又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により,みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。

③ 取調べは,やむを得ない理由がある場合のほか,深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において,午後十時から午前五時までの間に,又は一日につき八時間を超えて,被疑者の取調べを行うときは,警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない。

168条の2(精神又は身体に障害のある者の取調べにおける留意事項)

精神又は身体に障害のある者の取調べを行うに当たつては,その者の特性を十分に理解し,取調べを行う時間や場所等について配慮するとともに,供述の任意性に疑念が生じることのないように,その障害の程度等を踏まえ,適切な方法を用いなければならない。

169条(自己の意思に反して供述をする必要がない旨の告知)

① 被疑者の取調べを行うに当たつては,あらかじめ,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。

② 前項の告知は,取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には,改めて行わなければならない。

170条(共犯者の取調べ)

① 共犯者の取調べは,なるべく各別に行つて,通謀を防ぎ,かつ,みだりに供述の符合を図ることのないように注意しなければならない。

② 取調べを行うに当たり,対質尋問を行う場合には,特に慎重を期し,一方が他方の威圧を受ける等のことがないようその時期及び方法を誤らないように注意しなければならない。

171条(証拠物の呈示)

捜査上特に必要がある場合において,証拠物を被疑者に示すときは,その時期及び方法に適切を期するとともに,その際における被疑者の供述を調書に記載しておかなければならない。

172条(臨床の取調べ)

相手方の現在する場所で臨床の取調べを行うに当たつては,相手方の健康状態に十分の考慮を払うことはもちろん,捜査に重大な支障のない限り,家族,医師その他適当な者を立ち会わせるようにしなければならない。

173条(裏付け捜査及び供述の吟味の必要)

① 取調べにより被疑者の供述があつたときは,その供述が被疑者に不利な供述であると有利な供述であるとを問わず,直ちにその供述の真実性を明らかにするための捜査を行い,物的証拠,情況証拠その他必要な証拠資料を収集するようにしなければならない。

② 被疑者の供述については,事前に収集した証拠及び前項の規定により収集した証拠を踏まえ,客観的事実と符合するかどうか,合理的であるかどうか等について十分に検討し,その真実性について判断しなければならない。

174条(伝聞供述の排除)

① 事実を明らかにするため被疑者以外の関係者を取り調べる必要があるときは,なるべく,その事実を直接に経験した者から供述を求めるようにしなければならない。

② 重要な事項に係るもので伝聞にわたる供述があつたときは,その事実を直接に経験した者について,更に取調べを行うように努めなければならない。

175条(供述者の死亡等に備える処置)

被疑者以外の者を取り調べる場合においては,その者が死亡,精神又は身体の故障その他の理由により公判準備又は公判期日において供述することができないおそれがあり,かつ,その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるときは,捜査に支障のない限り被疑者,弁護人その他適当な者を取調べに立ち会わせ,又は検察官による取調べが行われるように連絡する等の配意をしなければならない。

176条(証人尋問請求についての連絡)

刑訴法第二百二十六条又は同法第二百二十七条の規定による証人尋問の必要があると認められるときは,証人尋問請求方連絡書に,同法第二百二十六条又は同法第二百二十七条に規定する理由があることを疎明すべき資料を添えて,検察官に連絡しなければならない。この場合において,証明すべき事実及び尋問すべき事項は,特に具体的かつ明瞭に記載するものとする。

177条(供述調書)

① 取調べを行つたときは,特に必要がないと認められる場合を除き,被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。

② 被疑者その他の関係者が,手記,上申書,始末書等の書面を提出した場合においても,必要があると認めるときは,被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。

178条(供述調書の記載事項)

① 被疑者供述調書には,おおむね次の事項を明らかにしておかなければならない。

一 本籍,住居,職業,氏名,生年月日,年齢及び出生地(被疑者が法人であるときは名称又は商号,主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居,被疑者が法人でない団体であるときは名称,主たる事務所の所在地並びに代表者,管理人又は主幹者の氏名及び住居)

二 旧氏名,変名,偽名,通称及びあだ名

三 位記,勲章,褒賞,記章,恩給又は年金の有無(もしあるときは,その種類及び等級)

四 前科の有無(もしあるときは,その罪名,刑名,刑期,罰金又は科料の金額,刑の執行猶予の言渡し及び保護観察に付されたことの有無,犯罪事実の概要並びに裁判をした裁判所の名称及びその年月日)

五 刑の執行停止,仮釈放,仮出所,恩赦による刑の減免又は刑の消滅の有無

六 起訴猶予又は微罪処分の有無(もしあるときは,犯罪事実の概要,処分をした庁名及び処分年月日)

七 保護処分を受けたことの有無(もしあるときは,その処分の内容,処分をした庁名及び処分年月日)

八 現に他の警察署その他の捜査機関において捜査中の事件の有無(もしあるときは,その罪名,犯罪事実の概要及び当該捜査機関の名称)

九 現に裁判所に係属中の事件の有無(もしあるときは,その罪名,犯罪事実の概要,起訴の年月日及び当該裁判所の名称)

十 学歴,経歴,資産,家族,生活状態及び交友関係

十一 被害者との親族又は同居関係の有無(もし親族関係のあるときは,その続柄)

十二 犯罪の年月日時,場所,方法,動機又は原因並びに犯行の状況,被害の状況及び犯罪後の行動

十三 盗品等に関する罪の被疑者については,本犯と親族又は同居の関係の有無(もし親族関係があるときは,その続柄)

十四 犯行後,国外にいた場合には,その始期及び終期

十五 未成年者,成年被後見人又は被保佐人であるときは,その法定代理人又は保佐人の氏名及び住居(法定代理人又は保佐人が法人であるときは名称又は商号,主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居)

② 参考人供述調書については,捜査上必要な事項を明らかにするとともに,被疑者との関係をも記載しておかなければならない。

③ 刑訴法第六十条の勾留の原因たるべき事項又は同法第八十九条に規定する保釈に関し除外理由たるべき事項があるときは,被疑者供述調書又は参考人供述調書に,その状況を明らかにしておかなければならない。

179条(供述調書作成についての注意)

① 供述調書を作成するに当たつては,次に掲げる事項に注意しなければならない。

一 形式に流れることなく,推測又は誇張を排除し,不必要な重複又は冗長な記載は避け,分かりやすい表現を用いること。

二 犯意,着手の方法,実行行為の態様,未遂既遂の別,共謀の事実等犯罪構成に関する事項については,特に明確に記載するとともに,事件の性質に応じて必要と認められる場合には,主題ごと又は場面ごとの供述調書を作成するなどの工夫を行うこと。

三 必要があるときは,問答の形式をとり,又は供述者の供述する際の態度を記入し,供述の内容のみならず供述したときの状況をも明らかにすること。

四 供述者が略語,方言,隠語等を用いた場合において,供述の真実性を確保するために必要があるときは,これをそのまま記載し,適当な注を付しておく等の方法を講ずること。

② 供述を録取したときは,これを供述者に閲覧させ,又は供述者が明らかにこれを聞き取り得るように読み聞かせるとともに,供述者に対して増減変更を申し立てる機会を十分に与えなければならない。

③ 被疑者の供述について前項の規定による措置を講ずる場合において,被疑者が調書(司法警察職員捜査書類基本書式例による調書に限る。以下この項において同じ。)の毎葉の記載内容を確認したときは,それを証するため調書毎葉の欄外に署名又は押印を求めるものとする。

180条(補助者及び立会人の署名押印)

① 供述調書の作成に当たつては,警察官その他適当な者に記録その他の補助をさせることができる。この場合においては,その供述調書に補助をした者の署名押印を求めなければならない。

② 取調べを行うに当たつて弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは,その供述調書に立会人の署名押印を求めなければならない。

181条(署名押印不能の場合の処置)

① 供述者が,供述調書に署名することができないときは警察官が代筆し,押印することができないときは指印させなければならない。

② 前項の規定により,警察官が代筆したときは,その警察官が代筆した理由を記載して署名押印しなければならない。

③ 供述者が供述調書に署名又は押印を拒否したときは,警察官がその旨を記載して署名押印しておかなければならない。

182条(通訳及び翻訳の場合の処置)

① 捜査上の必要により,学識経験者その他の通訳人を介して取調べを行つたときは,供述調書に,その旨及び通訳人を介して当該供述調書を読み聞かせた旨を記載するとともに,通訳人の署名押印を求めなければならない。

② 捜査上の必要により,学識経験者その他の翻訳人に被疑者その他の関係者が提出した書面その他の捜査資料たる書面を翻訳させたときは,その翻訳文を記載した書面に翻訳人の署名押印を求めなければならない。

182条の2(取調べ状況報告書等)

① 被疑者又は被告人を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたとき(当該取調べに係る事件が,第百九十八条の規定により送致しない事件と認められる場合を除く。)は,当該取調べを行つた日(当該日の翌日の午前零時以降まで継続して取調べを行つたときは,当該翌日の午前零時から当該取調べが終了するまでの時間を含む。次項において同じ。)ごとに,速やかに取調べ状況報告書(別記様式第十六号)を作成しなければならない。

② 前項の場合において,逮捕又は勾留(少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第四十三条第一項の規定による請求に基づく同法第十七条第一項の措置を含む。)により身柄を拘束されている被疑者又は被告人について,当該逮捕又は勾留の理由となつている犯罪事実以外の犯罪に係る被疑者供述調書を作成したときは,取調べ状況報告書に加え,当該取調べを行つた日ごとに,速やかに余罪関係報告書(別記様式第十七号)を作成しなければならない。

③ 取調べ状況報告書及び余罪関係報告書を作成した場合において,被疑者又は被告人がその記載内容を確認したときは,それを証するため当該取調べ状況報告書及び余罪関係報告書の確認欄に署名押印を求めるものとする。

④ 第百八十一条の規定は,前項の署名押印について準用する。この場合において,同条第三項中「その旨」とあるのは,「その旨及びその理由」と読み替えるものとする。

182条の3(取調べ等の録音・録画)

① 次の各号のいずれかに掲げる事件について,逮捕若しくは勾留されている被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは,刑訴法第三百一条の二第四項各号のいずれかに該当する場合を除き,取調べ等の録音・録画(取調べ又は弁解の機会における被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録することをいう。次項及び次条において同じ。)をしなければならない。

一 死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件

二 短期一年以上の拘禁刑に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件

② 逮捕又は勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合であつて,その被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは,必要に応じ,取調べ等の録音・録画をするよう努めなければならない。

182条の4(録音・録画状況報告書)

取調べ等の録音・録画をしたときは,速やかに録音・録画状況報告書(別記様式第十八号)を作成しなければならない。

182条の5(取調べ室の構造及び設備の基準)

取調べ室は,次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。

一 扉を片側内開きとするなど被疑者の逃走及び自殺その他の事故の防止に適当な構造及び設備を有すること。

二 外部から取調べ室内が容易に望見されないような構造及び設備を有すること。

三 透視鏡を備え付けるなど取調べ状況の把握のための構造及び設備を有すること。

四 適当な換気,照明及び防音のための設備を設けるなど適切な環境で被疑者が取調べを受けることができる構造及び設備を有すること。

五 取調べ警察官,被疑者その他関係者の数及び必要な設備に応じた適当な広さであること。

第8 独占禁止法違反被疑事件の行政調査における供述聴取

独占禁止法違反被疑事件について公正取引委員会が行う行政調査での供述聴取には,「独占禁止法審査手続に関する指針」(平成27年12月25日公正取引委員会決定。令和2年7月7日改正)が留意事項を定めています。同指針は,供述聴取における留意事項として,おおむね次の点を挙げています。

  • ① 審査官等は,威迫・強要その他供述の任意性を疑われる方法を用いてはならず,期待・希望する供述を示唆してみだりに供述を誘導し,供述の代償として利益供与を約束するなど,供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
  • ② 供述聴取時の弁護士を含む第三者の立会い,聴取過程の録音・録画,調書写しの交付,聴取中の聴取対象者によるメモの録取は,事案の実態解明の妨げとなることが懸念されるなどとして,認められていない。

第9 可視化の下で問題となった取調べの実例(プレサンス元社長事件)

1 取調べの経過

可視化された取調べであっても不適正な取調べが問題となった例として,プレサンスコーポレーションの元社長が業務上横領の共謀を疑われて逮捕・勾留され,後に無罪が確定した事件(プレサンス元社長事件)があります。
同事件の弁護活動を担当したしんゆう法律事務所のウェブサイトによれば,元社長の関与を否定し続けた関係者に対し,担当検察官(田渕大輔検事)が,机を強くたたき,「検察なめんなよ」などと大声で罵倒し,関与を認めなければ多額の損害賠償を負うなどと述べる取調べを行っていたとされています。同ウェブサイトは,こうした取調べが可視化されている中で行われた点を指摘しています。

無罪が確定した後の意見陳述で,元社長は,逮捕・勾留され特捜部の検察官に取り調べられた関係者が虚偽の供述をさせられていたことを,弁護人から取調べの反訳の差入れを受けて初めて知った,と述べたと伝えられています。

2 無罪判決後の展開

報道によれば,この取調べをめぐっては,令和6年(2024年)8月8日,大阪高等裁判所が,担当検察官を特別公務員暴行陵虐罪で審判に付する決定(付審判決定)をしました。付審判請求が認められた例は戦後わずかであり,裁判官と同じ法曹資格を持つ検察官について付審判請求が認められたのは初めてとされています。
この決定を受けて,令和8年(2026年)7月10日には大阪地方裁判所で刑事の初公判が開かれ,検察官は無罪を主張したと報じられています。また,大阪弁護士会は,付審判決定を受けて,取調べの全過程の可視化と弁護人立会権の法制化を求める会長声明を出しています。

上記のうち,付審判決定・初公判・会長声明に関する事実関係は報道及び弁護士会・法律事務所の公表資料に基づくものです。刑事事件は係属中であり,事実関係の評価は今後の審理によります。

第10 被疑者に対する不起訴処分の告知

検察官は,事件について公訴を提起しない処分をした場合において,被疑者の請求があるときは,速やかにその旨を告げなければなりません(刑訴法259条)。
もっとも,被疑者が検察庁に問い合わせをしない限り,検察官の側から不起訴処分とした旨を伝える義務はありません。

検察官が被疑者に対して書面で不起訴処分の告知をする場合は,不起訴処分告知書(様式第118号)によります(事件事務規程76条1項)。この告知書は,被疑者の請求に基づいて交付されるものです。

第11 刑事手続のIT化と取調べに関する通達・資料

取調べに関する近時の通達・資料と,刑事手続のIT化の動きは次のとおりです。

取調べの録音・録画に関する通達

改正刑訴法が施行された令和元年5月31日まで適用されていた通達等(平成29年3月22日付の最高検察庁次長検事依命通達等)と,令和元年6月1日から適用されている通達等(平成31年4月19日付の次長検事依命通知等)が,それぞれ整理・掲載されています。

取調べの適正確保・弁護人立会いに関する資料

このほか,検察独自捜査における取調べの適正確保についての文書(令和6年12月9日付の最高検察庁刑事部長の文書),被疑者の取調べにおける弁護人立会い要求等に対する対応要領(令和4年8月の兵庫県警察本部刑事部刑事企画課の文書),令和元年の参議院議員通常選挙をめぐる大規模買収事件に関する監察調査の結果についての文書(令和5年12月25日付の最高検察庁監察指導部の文書),取調状況DVD等に関する調査についての事務連絡(令和元年5月24日付の最高裁判所刑事局第三課長の事務連絡),証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の運用等についての通達(平成30年3月19日付の次長検事依命通達)が掲載されています。

刑事手続のIT化と供述調書

令和7年5月16日に,「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)が成立した。
同法のうち,電磁的記録提供命令等は令和8年5月21日に施行された。訴訟書類の全面的な電子化等の残る規定は,令和8年度末までに段階的に施行される予定である。
同法により,供述調書を含む証拠書類の電子データ化と,弁護人によるオンラインでの証拠の閲覧・謄写が導入される。従来は多額の謄写費用を要した取調べ関連書類の入手が,取調べの記録の在り方とともに変わっていくことになります。

第12 関連記事・参考書籍

取調べに関する書籍・特集

元検察官が取調べの実務を解説した書籍として,「自動車事故の供述調書作成の実務」(富松茂大,立花書房,2016年11月15日発行),「取調べハンドブック」(城祐一郎,立花書房,2019年2月15日発行)があります。
取調べへの弁護人立会いについては,自由と正義2024年5月号に特集「取調べへの弁護人立会い」が掲載されています。黙秘権については,前記の季刊刑事弁護79号が参考になります。

当ブログの関連記事

取調べに関連する手続として,次の記事も参照してください。
司法修習生による取調べ修習の合法性,被疑者の逮捕,被疑者及び被告人の勾留,被告人の保釈について,それぞれ別稿で扱っています。
スマートフォンの暗証番号の聴取,生体認証及び黙秘権の関係は,スマートフォンのロック解除と捜索・差押え―暗証番号・生体認証・黙秘権(AI作成)で整理しています。
供述調書その他の書証の証拠能力については,刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序(AI作成)を参照されたい。
司法面接及び代表者聴取と刑訴法321条の3の関係については,司法面接・代表者聴取とは-刑訴法321条の3の証拠能力と供述の信用性(AI作成)も参照されたい。

出典・参考資料

令和2年度司法試験刑事系との関係では,法務省の令和2年司法試験の出題の趣旨(刑事系科目部分)及び同年度の採点実感(刑事系科目)を確認した。これらは出題・採点意図の一次資料であり,個別事件の判例命題を直接証明する資料とは区別している。本追記に当たり判例秘書の新規検索は行っていない。

1 法令

  • 日本国憲法37条・38条(e-Govウェブサイト) https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
  • 刑事訴訟法198条・259条・301条の2・321条(e-Govウェブサイト) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
  • 犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号。166条から182条の5まで。e-Govウェブサイト) https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000010002
  • 被疑者取調べの適正化のための監督に関する規則(平成20年国家公安委員会規則第4号。e-Govウェブサイト) https://laws.e-gov.go.jp/law/420M60000010004
  • 事件事務規程76条1項(不起訴処分告知書。様式第118号。法務省ウェブサイト掲載のPDF) https://www.moj.go.jp/content/001400166.pdf

2 裁判例

  • 最高裁判所大法廷昭和27年4月9日判決(刑集6巻4号584頁。刑訴法321条1項2号前段と憲法37条2項) https://www.courts.go.jp/hanrei/54599/detail2/index.html
  • 最高裁判所大法廷昭和32年2月20日判決(刑集11巻2号802頁。憲法38条1項の法意) https://www.courts.go.jp/hanrei/51265/detail2/index.html
  • 最高裁判所昭和28年4月14日判決(刑集7巻4号841頁。供述拒否権の不告知と憲法38条1項) https://www.courts.go.jp/hanrei/54602/detail2/index.html
  • 最高裁判所昭和59年3月27日判決(刑集38巻5号2037頁。供述拒否権の告知義務) https://www.courts.go.jp/hanrei/50290/detail2/index.html

3 通達・公文書

  • 取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について(平成20年5月1日付次長検事依命通達) https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2017/12/200501-%E4%B8%8D%E6%BA%80%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E9%80%9A%E9%81%94.pdf
  • 取調べ状況の記録等に関する訓令(平成15年11月5日法務省刑刑訓第117号) https://media.toriaez.jp/m0567/363770997522.pdf
  • 独占禁止法審査手続に関する指針(平成27年12月25日公正取引委員会決定・令和2年7月7日改正。公正取引委員会ウェブサイト) https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/shinsashishin.html
  • 検察独自捜査における取調べの適正確保について(令和6年12月9日付最高検察庁刑事部長の文書) https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2025/03/%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E7%8B%AC%E8%87%AA%E6%8D%9C%E6%9F%BB%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8F%96%E8%AA%BF%E3%81%B9%E3%81%AE%E9%81%A9%E6%AD%A3%E7%A2%BA%E4%BF%9D%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%96%E5%B9%B4%EF%BC%91%EF%BC%92%E6%9C%88%EF%BC%99%E6%97%A5%E4%BB%98%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E5%BA%81%E5%88%91%E4%BA%8B%E9%83%A8%E9%95%B7%E3%81%AE%E6%96%87%E6%9B%B8%EF%BC%89.pdf

4 統計・データ

  • 令和7年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(令和8年2月26日付。警察庁) https://www.npa.go.jp/news/release/2026/kantoku2026.pdf
  • 令和6年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(令和7年2月20日付。警察庁) https://www.npa.go.jp/news/release/2025/kantoku2025.pdf

5 文献・報道等

  • 被疑者ノート(日本弁護士連合会) https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/recordings/detail/suspect_note.html
  • 特集「取調べへの弁護人立会い」自由と正義2024年5月号(日本弁護士連合会) https://www.nichibenren.or.jp/document/booklet/year/2024/2024_5.html
  • 本田正義「供述拒否権」ジュリスト551号94頁
  • 「黙秘権行使の戦略」季刊刑事弁護79号(2014年7月) https://www.amazon.co.jp/dp/4877985913
  • 富松茂大「自動車事故の供述調書作成の実務」立花書房(2016年) https://www.amazon.co.jp/dp/4803744092
  • 城祐一郎「取調べハンドブック」立花書房(2019年) https://www.amazon.co.jp/dp/4803724911
  • プレサンス元社長事件に関するしんゆう法律事務所ウェブサイト https://www.shin-yu-lawoffice.com/
  • 「検察官面前調書」(ウィキペディア。作成手順の一般的な説明の参照元) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E5%AE%98%E9%9D%A2%E5%89%8D%E8%AA%BF%E6%9B%B8