メインコンテンツへスキップ
       

源泉所得税に関するメモ書き(AIリライト)

第1 総論

給与等の支払をする者は,その支払に係る金額について所得税を源泉徴収する義務を負い,これを源泉徴収義務者という(所得税法6条)。源泉徴収義務者は,給与だけでなく,退職手当等(所得税法199条),弁護士報酬等の一定の報酬・料金(所得税法204条1項各号)等,法律が定める範囲の支払について,それぞれ源泉徴収をしなければならない。

賞与に対する源泉所得税の額は,その支給の直前に支払われた月々の給与の金額及び扶養親族等の数に応じて,国税庁が公表する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」により算出する。この算出率の表は年分ごとに改定されるため,実際の計算に当たっては,支給時点で最新の年分の表(後記第16のとおり,本稿執筆時点の最新版は令和8年分である。)を用いる必要がある。

第2 給与支払事務所等の開設届出書

給与の支払者は,新たに給与の支払事務を取り扱う事務所等を設けた場合(例えば,法律事務所の開業),その事実が生じた日から1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署長に提出しなければならない(所得税法230条)。国税庁ホームページの「[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」に,この届出書の様式及び記載要領が掲載されている。

第3 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

1 源泉所得税の納期の原則

源泉徴収義務者が源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税は,原則として,その源泉徴収の対象となる所得を支払った月の翌月10日までに,併せて納付しなければならない(給与についての所得税法183条1項のほか,退職手当等につき同法199条,弁護士報酬等の一定の報酬・料金につき同法204条1項)。

2 源泉所得税の納期の特例

給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者は,「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出して承認を受けることで,7月10日及び翌年1月20日にそれぞれ半年分をまとめて納付すれば足りることとなる(所得税法216条)。この申請書を提出した日の属する月の翌月末日までに税務署長から承認又は却下の通知がない場合,その申請月の翌月末日において承認があったものとされ,その申請月の翌々月の納付分からこの特例が適用される(所得税法216条,217条5項)。

そのため,例えば,令和4年9月13日にこの申請書を提出した場合,同年10月末日までに税務署長から承認又は却下の通知がない場合,同日において承認があったものとされ,11月の納付分からこの特例が適用される結果,同年10月から同年12月までの源泉所得税については翌年1月20日までに納付すれば足りることとなる。国税庁ホームページの「[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」も参照されたい。

第4 給与所得者の扶養控除等申告書

給与所得者は,その年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに,「給与所得者の扶養控除等申告書」を,給与等の支払者を経由して所轄税務署長に提出しなければならない(所得税法194条1項)。控除対象扶養親族であった人の就職,結婚などにより控除対象扶養親族の数が減少した場合など,年の中途で扶養控除等申告書の記載内容に変更があった場合には,その都度,異動の内容を記載した申告書(いわゆる異動申告書)を提出することになっている(所得税法194条2項)。

扶養親族等の判定は,申告書を提出する年の翌年ではなく,扶養控除等申告書が適用される年の12月31日現在の状況で行う点に注意を要する。例えば,ある年分の扶養控除等申告書は,一般的にその前年の12月までに提出するが,16歳以上の控除対象扶養親族に当たるかどうかは,適用年の12月31日現在の年齢が16歳以上であるかどうかで判定するため,提出する時点ではまだ15歳の子がいる場合でも,控除対象扶養親族として記載することになる(この判定時点のずれについては,濱田会計事務所ホームページ「Q10 【令和3年分】「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とは?記載方法は?」が令和3年分を例に分かりやすく解説している。)。年の途中で子が生まれたり,配偶者がパート勤務を始めたりするなど,扶養親族等に異動があった場合は,随時,異動申告書を提出しなければならない。

従業員から扶養控除等申告書の提出を受けていない場合,給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の乙欄により源泉徴収をする必要がある。国税庁ホームページには年分ごとの源泉徴収税額表が掲載されており,後記第16のとおり,本稿執筆時点の最新版は令和8年分である。なお,扶養控除等申告書の様式及び記載事項は,後記第5の税制改正により,令和8年分以後は「源泉控除対象親族」欄への変更及び「特定親族」欄の追加という形で変わっている。

第5 令和6年分から令和8年分にかけての税制改正

本件記事は令和5年1月の執筆当初,扶養控除等申告書及び源泉徴収税額表について令和4年分の内容を前提としていたが,その後,令和6年分の定額減税,令和7年度税制改正及び令和8年度税制改正という3段階の制度変更があり,源泉徴収実務に影響を及ぼしている。以下,順に整理する。

1 令和6年分の定額減税

令和6年6月1日以後最初に支払う給与等から,所得税につき本人3万円及び同一生計配偶者又は扶養親族1人につき3万円を,月々の源泉徴収税額から順次控除する「月次減税事務」が実施された。控除しきれない金額は,以後の給与等に係る源泉徴収税額から順次控除し,年末調整でその年の年間の所得税額との差額を精算する。この制度は令和6年分限りの措置であり,令和7年分以後は継続していない(国税庁ホームページ「令和6年分所得税の定額減税について(給与所得者の方へ)」参照)。

2 令和7年度税制改正

令和7年度税制改正により,いわゆる「103万円の壁」に対応するため,基礎控除及び給与所得控除の引上げ並びに特定親族特別控除の新設が行われた。基礎控除は,従来一律48万円であったところ,合計所得金額に応じて,132万円以下の場合は95万円,132万円超336万円以下の場合は88万円,336万円超489万円以下の場合は68万円,489万円超655万円以下の場合は63万円,655万円超2350万円以下の場合は58万円に,それぞれ引き上げられた(令和7年分及び令和8年分の特例)。給与所得控除の最低保障額は,55万円から65万円に引き上げられた。

また,生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者及び事業専従者を除く。)で合計所得金額が58万円超123万円以下であるものについて,最高63万円を控除する「特定親族特別控除」が新設された。扶養控除の対象となる扶養親族の合計所得金額の要件も,48万円以下から58万円以下(給与収入では123万円以下)に緩和された。この改正は令和7年12月1日に施行され,令和7年分以後の所得税に適用されるが,国税庁は「令和7年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じない」としており,改定後の源泉徴収税額表が実際に適用されるのは令和8年1月1日以後に支払う給与等からである(国税庁ホームページ「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」参照)。

3 令和8年度税制改正

令和7年度税制改正では,上記の基礎控除の引上げのうち132万円超336万円以下の区分及び336万円超489万円以下の区分は令和7年分及び令和8年分限りの特例とされ,令和9年分以後は58万円に戻る予定とされていた。しかし,令和8年度税制改正により,この段階的な引上げ分がさらに引き上げられて据え置かれることとなった。

基礎控除は,132万円以下の場合は104万円(令和8年分及び令和9年分。令和10年分以後は99万円),132万円超336万円以下の場合及び336万円超489万円以下の場合はいずれも62万円に整理され,489万円超655万円以下の場合は67万円,655万円超2350万円以下の場合は62万円となった。給与所得控除の最低保障額は,65万円から74万円に引き上げられ(令和8年分及び令和9年分),令和10年分以後は「収入金額×30%+8万円(下限69万円)」という算式に移行する。扶養親族等の合計所得要件も,58万円以下から62万円以下に,特定親族の要件も58万円超から62万円超に,それぞれ連動して引き上げられた。

さらに,令和10年分以後は,基礎控除額及び給与所得控除の最低保障額を2年ごとに直近2年間の消費者物価指数の変化率に基づいて見直す物価スライド制度が法定化された。この改正は令和8年12月1日に施行され,令和8年分以後の所得税に適用されるが,令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じず,改定後の源泉徴収税額表が適用されるのは令和9年1月1日以後に支払う給与等からである(国税庁ホームページ「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」及び「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」参照)。

4 源泉徴収税額表及び扶養控除等申告書への影響

以上の2段階の改正の結果,給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表は,令和7年12月の年末調整で改正前後の差額を精算した上で,令和8年分から改定版が適用されており,令和9年分からは更に改定される予定である。扶養控除等申告書についても,令和8年分の様式では「控除対象扶養親族」欄が「源泉控除対象親族」欄に変更され,特定親族特別控除に対応する「特定親族」欄が追加されている。

なお,令和7年分については,扶養控除等申告書自体には特定親族欄が設けられておらず,「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書」という複合様式で特定親族特別控除を申告する扱いであったとみられるが,この様式の現物までは確認できておらず,実務に用いる際は国税庁ホームページの最新の申告書様式及び記載例で確認されたい。

第6 源泉徴収制度の趣旨等

東京高裁昭和49年9月26日判決(判例秘書に掲載。裁判所ホームページの裁判例検索には掲載がないため,掲載誌に基づき紹介する。)は,源泉徴収制度の趣旨に関して,次のとおり判示している。

「源泉徴収制度の趣旨は、納税義務者の納税を容易ならしめるため、所得が納税義務者の手中に帰する以前の段階で徴収して税金の概算前払の方法で国が一応これを収納し、他日所得金額が明らかになってから、改めて納税義務者から納税させる代りに既に源泉徴収によって納付した右税額をもってこれに充て、もし不足があれば追加納付させ、余剰があれば還付して、納税義務者の事後納税によって生ずる煩雑な事務を軽減すること、他面、源泉徴収の方法によらないと容易に捕捉しがたい種類の収入を容易に捕捉してその支払の段階で支払者をして捕捉徴収させ、これによって国の所得調査の手数を省くこと等にあるものとされている。」

最高裁平成23年1月14日判決も,源泉徴収義務の趣旨について,次のとおり判示している。

「弁護士である破産管財人が支払を受ける報酬は、所得税法204条1項2号にいう弁護士の業務に関する報酬に該当するものというべきところ、同項の規定が同号所定の報酬の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのは、当該報酬の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって、徴税上特別の便宜を有し、能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである(最高裁昭和31年(あ)第1071号同37年2月28日大法廷判決・刑集16巻2号212頁参照)。」

なお,給与所得に対する源泉徴収は,昭和15年の所得税法改正によって導入された制度である(名古屋青年税理士連盟の「源泉徴収制度の仕組みとその問題点」2頁参照)。同改正では,配当利子所得,勤労所得及び退職所得が新たに源泉徴収の対象とされた。当初は源泉課税に伴う経費の一部を補償する意味で支払者に交付金が支給される仕組みも設けられていたが,現在の制度にこの交付金は存在しない。

第7 源泉所得税の確定時期及び不納付加算税の確定時期及びその争い方

1 源泉所得税の確定時期及びその争い方

源泉所得税の徴収納付義務は,源泉徴収の対象となる所得等の支払の時に成立し(国税通則法15条2項2号),その成立と同時に,特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同法15条3項2号)。そのため,源泉所得税の納税の告知(所得税法36条1項2号)は,税額の確定した国税債権について納税義務者に履行を請求する行為(徴収処分)であり,源泉所得税の額を確定する行為(課税処分)ではない。

したがって,支払者は,源泉徴収義務の存否又は範囲を争って納税の告知に対する抗告訴訟を提起できるほか,これと併せて,又はこれと別個に,源泉徴収義務の全部又は一部の不存在確認の訴えを提起することができる(最高裁昭和45年12月24日判決参照)。

2 不納付加算税の確定時期及びその争い方

不納付加算税は,源泉所得税を税務署の通知に基づいて納付した場合は源泉所得税額の10%,税務署からの通知を受けることなく自ら納付した場合は同5%の割合で課される(国税通則法67条1項本文,2項)。ただし,法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合には,不納付加算税は課されない(同法67条1項ただし書)。仮装・隠蔽があった場合には,不納付加算税に代えて重加算税(10%の不納付加算税に代えて35%)が課される(同法68条3項)。

不納付加算税の納税義務は,本税である源泉所得税の法定納期限の経過の時に成立し(国税通則法15条2項15号),税務署長の賦課決定(課税処分)によりその納付すべき税額が確定する(同法16条2項2号,32条)。そのため,支払者が不納付加算税の納税義務の存否又は範囲を争うためには,賦課決定に対する抗告訴訟を提起することが通常の争い方となるが,賦課決定の無効を主張して納税義務の不存在確認の訴えを提起することもできる(最高裁平成23年1月14日判決の最高裁判所判例解説〔法曹時報66巻1号214頁〕参照)。国税庁ホームページには「源泉所得税及び復興特別所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」が掲載されている。

第8 源泉所得税の徴収・納付に過誤がある場合の取扱い

源泉所得税の徴収・納付に不足がある場合,不足分について,税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(所得税法221条),支払者は源泉納税義務者たる受給者に対して求償することができる(同法222条)。他方,源泉所得税の徴収・納付に誤りがあり過大に徴収した場合,支払者は国に対し当該誤納金の還付を請求することができる(国税通則法56条)とともに,受給者は,何ら特別の手続を経ることなく,直ちに支払者に対し,本来の債務の一部不履行を理由として,誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができる(最高裁平成4年2月18日判決)。

国税庁ホームページの「タックスアンサーNo.2506 源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき」によれば,受給者は,源泉所得税の納税地の所轄税務署長に「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」を提出することによっても,納め過ぎた源泉徴収税額の還付を請求することができる。

第9 e-Tax(SP版)を利用した源泉所得税の申告

e-Tax(SP版)を利用した源泉所得税の申告の大まかな流れは,次のとおりである。①タブレット又はスマートフォンを使い,利用者識別番号及び暗証番号を入力してe-Tax(SP版)にログインする。②「申請・納税」から「徴収高計算書を提出する」を選び,「(一般)給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」,「(納期特例分)給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」又は「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」のいずれかを選択する。③提出先税務署及び内容を入力する。「納期等の区分及び区分の選択」欄には,例えば「令和8年12月分」及び「俸給・給料等」のように入力し,「支払年月日・人員・支給額・税額の入力」欄には,従業員全体の給与の支給額及び源泉徴収額を別途集計した上で入力する。ネットバンキング等を利用する予定であれば,「所得税徴収高計算書用紙の送付の要否」は「否」を選べばよい。④最後に「送信」ボタンをタップする。

納期の特例の適用を受けている場合の「(納期特例分)給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」では,「人員」欄に各月の実人員の合計数を記載する必要がある点に注意を要する。例えば,1月から6月まで毎月2人に給与を支払っている場合の人員は12人となる。

インターネットバンキングを用いて源泉所得税を納付する場合には,①国税庁の収納機関番号として00200を入力し,②納付番号として利用者識別番号(16桁の数字)を入力し,③確認番号として納税用確認番号(e-Taxの開始届出書を提出した際に設定した6桁の番号)を入力し,④納付区分として受信通知(納付区分番号通知)に届いた納付区分を入力すればよい。国税庁ホームページには「e-Taxを利用して源泉所得税が納付できます!」が,e-Taxのホームページには「納付区分番号を確認するには、どうすればいいですか。」が,それぞれ掲載されている。なお,e-Tax(SP版)の画面構成及び操作方法は逐次更新されるため,実際の操作に当たっては,申告時点の最新の画面表示に従う必要がある。

第10 破産管財人の源泉徴収義務

最高裁平成23年1月14日判決によれば,次のとおりである。①弁護士である破産管財人は,所得税法204条1項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負う。②弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,破産法148条1項3号の財団債権である。③破産管財人は,破産債権である所得税法199条所定の退職手当等の債権に対する配当の際に,その退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではない。

同判決の最高裁判所判例解説(法曹時報66巻1号211頁)には,次の記載がある。「退職手当等の債権に対する配当についての本判決の考え方は、給与等の債権等、源泉徴収の対象となり得る他の破産債権に対する配当に関しても基本的に妥当し、また、現行破産法の下における破産債権に対する配当及び弁済許可に基づく弁済(現行破産法101条)に関しても同様に妥当するものと考えられる。さらに、現行破産法の下では、労働者の給料及び退職手当の請求権の一部が財団債権とされているが(現行破産法149条)、これらの請求権のうち本来の性質が破産債権であるものについては、本判決の考え方が妥当し、破産管財人はその弁済について源泉徴収義務を負わないものと解される。」

なお,破産管財人代理(破産法77条1項)が受ける報酬についても,破産管財人自身の報酬と同様,所得税法204条1項2号所定の弁護士の業務に関する報酬として源泉徴収義務の対象となる。また,破産管財人の源泉所得税の納税地は,破産会社の本店所在地ではなく,破産管財人(弁護士)の事務所所在地によるとする実務上の考え方がある(『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』〔尾島史賢編集代表ほか,新日本法規出版,2021年5月,358頁から359頁〕参照)。

第11 強制執行を受けた場合の源泉徴収義務

1 最高裁平成23年3月22日判決に基づく取扱い

給与等の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても,当該支払をする者は,所得税法183条1項所定の源泉徴収義務を負う。給与等の債権者がその債務名義に基づいて民事執行法122条2項により弁済を受ける場合には,源泉徴収されるべき所得税相当額をも含めて強制執行をすることになり,他方,源泉徴収義務者は,強制執行により支払った給与等につき源泉徴収すべき所得税を納付した上で,所得税法222条に基づき求償することになる(最高裁平成23年3月22日判決)。

同判決の裁判官田原睦夫の補足意見には,「給与等の債権者による強制執行手続が複数回にわたって行われる場合には,給与等の支払義務者が第1回目の強制執行手続に基づいて支払った給与等に係る所得税の源泉徴収義務は,その支払によって具体的に発生することになるから,同税相当額は,それ以後に支払うべき金額から控除することができる。」との説示がある。なお,同判決は,給与等の支払が強制執行による場合における社会保険料の控除の問題については,何ら明らかにしていない(法曹時報65巻12号72頁参照)。

解雇の効力等が争われた事案で使用者側に敗訴判決が確定し,強制執行に至る前の段階であれば,使用者は,源泉所得税を控除した金額を任意に弁済することで,二重払いのリスクを避けられる場合がある(『Q&A解雇トラブル後の実務ポイント』〔水谷英夫著,新日本法規出版,2022年7月,86頁〕参照)。

2 所得税法の関連条文

所得税法183条1項(源泉徴収義務)は,次のとおりである。「居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」

所得税法222条(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)は,次のとおりである。「前条の規定により所得税を徴収された者がその徴収された所得税の額の全部又は一部につき第一章から第五章まで(源泉徴収)の規定による徴収をしていなかつた場合又はこれらの規定により所得税を徴収して納付すべき者がその徴収をしないでその所得税をその納付の期限後に納付した場合には、これらの者は、その徴収をしていなかつた所得税の額に相当する金額を、その徴収をされるべき者に対して同条の規定による徴収の時以後若しくは当該納付をした時以後に支払うべき金額から控除し、又は当該徴収をされるべき者に対し当該所得税の額に相当する金額の支払を請求することができる。この場合において、その控除された金額又はその請求に基づき支払われた金額は、当該徴収をされるべき者については、第一章から第五章までの規定により徴収された所得税とみなす。」

第12 債務名義に基づく支払をする場合の源泉徴収義務

最高裁平成23年3月22日判決に関する最高裁判所判例解説には,次の記載がある(法曹時報65巻12号73頁及び74頁参照)。「使用者としては、源泉所得税を控除しない金額の支払を命ずる判決を受けたとしても、強制執行に至る前に、判決において命ぜられた金額から源泉所得税を控除した金額を労働者に支払うことはできる。そして、その支払時には、公法上源泉徴収義務が成立するから、この義務の履行のために私法上労働者には源泉徴収を受忍する義務が発生すると解され(法183条が労働基準法24条1項にいう法令の別段の定めに当たると解されていることは、このことを前提としているものと思われる。)、源泉所得税を控除した金額の支払をもって、判決において命ぜられた給与等の全額について債務が消滅することになるのではないかと思われる。そうだとすると、使用者としては、判決段階における抗弁として、源泉所得税額の控除を主張することが認められないとしても、口頭弁論終結後の執行段階における異議事由として、源泉所得税を控除した金額の支払いの事実を主張し、請求異議の訴えを提起することができ(東京地決昭和62年6月9日・判時1236号153頁参照),求償の問題を避けることができるのではないかと思われる。」

給与等の債権者と債務者との間で,判決において支払を命じられた金員がいずれの所得であるかについて争いがある場合,源泉徴収税額が確定しないため,結果として債務者による源泉徴収税額が多すぎた場合,債権者との関係では未払金が残ることになり,請求異議の訴えにおいて全部勝訴判決を得ることはできない。また,給与等の債権者が,その支払を受ける時までに退職所得の受給に関する申告書(所得税法203条1項及び6項)を債務者に提出していない場合,債務者は,20.42%の税率による源泉徴収義務を負うことになる(所得税法201条3項のほか,国税庁ホームページ「[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」参照)。そのため,債務者が給与等の債権者との間で源泉徴収税額について合意できなかった場合,源泉徴収税額を含む全額を支払った上で,所得税法222条に基づいて求償する方が無難であると考えられる。

給与等の債権者が取得するお金が,心身に加えられた損害に起因して取得する損害賠償金に該当する場合,非課税所得となる(所得税法9条1項18号)ため,債務者が源泉徴収をする必要はないのに対し,給与所得又は退職所得に該当する場合には,債務者が源泉徴収をする必要がある。心身に加えられた損害に起因して取得する損害賠償金の典型例は,交通事故の治療費,休業損害,入通院慰謝料,後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料並びに相当の見舞金(葬祭料及び香典を含む。)である(所得税法9条1項18号,所得税法施行令30条及び所得税基本通達9-23参照)。

請求異議の訴えは,債務名義の存在を前提とし,その執行力の排除を目的とする訴えである(最高裁昭和40年7月8日判決の判決理由参照)。そのため,判決その他の債務名義が作成されれば訴えを提起することができ,執行文が付与されたこと,又は執行が開始されたことは,請求異議の訴えの要件ではないと考えられる。

労働基準法20条に基づく解雇予告手当は退職所得である(所得税法30条1項,所得税基本通達30-5)から,退職所得の受給に関する申告書を事前に受領していない場合,所得税のことだけを考えれば,20.42%の税率による源泉徴収をした上で支払うことが正しいこととなる(d’s JOURNALの「【弁護士監修・完全版】解雇予告手当の複雑な計算方法や支給ルール、流れを解説」も参照)。

第13 源泉徴収義務に関する最高裁判例の裁判要旨

①源泉徴収義務者の納付額は,所得税法の規定により,控除に当たる事項の申告に応じて計算される(最高裁昭和29年2月23日判決)。②所得税法中源泉徴収に関する規定は,憲法14条1項,18条及び29条1項・3項に違反しない(最高裁大法廷昭和37年2月28日判決)。③給与等の受給者が,支払者により誤って所得税の源泉徴収をされた場合において,当該年分の所得税の額から右誤徴収額を控除して確定申告をすることはできない(最高裁平成4年2月18日判決)。④給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限が経過したという一事をもって,当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとはいえない(最高裁平成30年9月25日判決)。

第14 その他特殊なお金の支払と源泉徴収

1 未払の残業代及び付加金の支払と源泉徴収

未払の残業代を支払う場合,残業代の本体については源泉徴収が必要である。未払の残業代の遅延損害金は雑所得に区分される(国税不服審判所平成22年4月22日裁決参照)ため,源泉徴収は不要である。同裁決は,賃金格差の是正を求める損害賠償請求訴訟の認容判決に基づく遅延損害金の所得区分が争点となった事案であるが,賃金の支払遅延に起因する遅延損害金は継続的行為に起因する利息相当のものとして雑所得に該当するという判断枠組みは,未払残業代の遅延損害金にも同様に妥当すると考えられる。未払の残業代に対する付加金(労働基準法114条)は一時所得に区分される(所得税基本通達34-1(3)参照)ため,源泉徴収は不要である。法律事務所エソラのホームページの「未払残業代の支払いと税金」も参考になる。

2 従業員の交通事故の慰謝料と源泉徴収

従業員が交通事故を起こした場合において,事業主が当該事故の慰謝料を負担するときは,①当該事故が会社の業務と関係ないものである場合,又は②従業員の故意若しくは重過失によるものである場合には,原則として源泉徴収が必要である(所得税基本通達36-33参照)。これに対し,事故が業務の遂行に関連するものであり,かつ,従業員の故意又は重過失に基づかない場合には,従業員が受ける経済的利益はないものとされ,源泉徴収は不要である(同通達参照)。

3 出向社員及び転籍者に給料を支払う場合

出向社員の場合,給与を実際にその従業員に支給する会社において源泉徴収を行う。出向先法人が支出する給与負担金が出向者に対する給与として取り扱われる場合については,法人税基本通達9-2-45及び9-2-46に定めがある。これに対し,転籍の場合には,転籍前の法人及び転籍後の法人が,それぞれ自らが支給する部分について源泉徴収義務を負うことになる点で,出向の場合と異なる(『子会社管理の法務・税務〈第2版〉』〔あさひ法律事務所ほか編,中央経済社,2015年4月,272頁及び273頁〕参照)。

第15 給与計算に関する外部サイト

Ke!san(カシオ計算機の高精度計算サイト)には,「給与所得の源泉徴収税額(月額)」及び「賞与の源泉徴収税額」の計算ツールが掲載されている。これらのツールは令和2年分から令和7年分までの各年分に対応しており,サイトのドメインはkeisan.siteに移行している(従来のkeisan.casio.jpのURLからは自動的に転送される。)。「給与ねっと」の「給与計算Ver.2」を使えば,給料及び賞与の源泉所得税等を計算し,かつ,給料明細を作成することができる。

第16 関連記事その他

税務調査においては,源泉所得税は,どんなに規模の大きい法人であっても,国税局の調査部ではなく,税務署の法人課税部門の源泉所得税部門等が担当する(柴田尚之税理士事務所ホームページ「Q1-3 税務調査の担当部署について教えてください。」参照)。税理士法人松本のホームページには「税務調査で指摘されやすい税務署が見る源泉所得税のポイントとは?」が掲載されている。

国内において給与の支払をする者は,支払の際に,給与の金額,源泉徴収税額など必要な事項を記載した支払明細書を,その支払を受ける人に交付する必要がある(所得税法231条1項,所得税法施行規則100条1項)。退職所得の受給に関する申告書は,税務署長から提出を求められるまでの間又は7年間,源泉徴収義務者が保存するものとされている(所得税法施行規則77条6項)。マネーフォワードクラウド確定申告のホームページには「源泉徴収の種類や注意点、フリーランスの場合も解説!」が掲載されている。

フリーランス・業務委託の担い手に対する報酬の支払が源泉徴収の対象となるかどうかは,所得税法204条1項各号に該当するかどうかで判断する。請負契約(民法632条)に基づく報酬は,講演料,原稿料,弁護士報酬等,同項各号に個別に列挙されたものを除き,源泉徴収の対象とならないのに対し,雇用契約(民法623条)に基づく給与は,所得税法6条により支払時に源泉徴収義務が生じる。請負と雇用のいずれに当たるかは,契約書の文言だけでなく,代替可能性,指揮監督関係,危険負担及び材料供与の有無等の実質により判断される(消費税法基本通達1-1-1参照。事業所得と給与所得の区分基準を示した最高裁昭和56年4月24日判決・民集35巻3号672頁も参照)。

以下の記事も参照されたい。①「個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き」。②「e-tax(国税電子申告・納税システム)に関するメモ書き」。③「年末調整に関するメモ書き」。

出典

法令

裁判例

文献

  • 『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』尾島史賢編集代表ほか,新日本法規出版,2021年5月,358頁から359頁
  • 『Q&A解雇トラブル後の実務ポイント』水谷英夫著,新日本法規出版,2022年7月,86頁
  • 『子会社管理の法務・税務〈第2版〉』あさひ法律事務所ほか編,中央経済社,2015年4月,272頁及び273頁

ウェブ資料