離婚を進める前には,手続の選択だけでなく,子の生活,別居中と離婚後の費用,財産・債務,安全確保を同時に整理する必要があります。
この記事では,令和8年4月1日施行後の制度を基準に,合意書や裁判手続へ進む前に確認すべき事項をまとめます。
第1 この記事の対象と基準日
1 離婚実務の論点を分けて考える
離婚事件では,離婚するかどうかだけでなく,子の親権・監護,親子交流,養育費,別居中の婚姻費用,財産分与,年金分割,慰謝料などを分けて検討する必要があります。
同じ夫婦の問題でも,合意で決められる事項,家庭裁判所が判断する事項,別の民事訴訟で扱うことがある事項では,手続と必要な証拠が異なります。
最初に,①子の安全と生活,②別居中と離婚後の生活費,③財産と債務,④暴力・不貞などの損害,⑤住所や連絡先の秘匿の必要性に分けると,優先順位を付けやすくなります。
2 令和8年9月15日現在の制度を基準とする
この記事は,令和8年9月15日現在の法令と公的資料を基準にしています。
父母の離婚後の親権,法定養育費,養育費債権の先取特権,財産分与の期間などに関する令和6年法律第33号は,令和8年4月1日に施行されました。
離婚日が施行日の前か後かによって,法定養育費の有無,財産分与を求められる期間などが異なります。
古い解説を利用するときは,説明の基準日と経過措置を確認する必要があります。
第2 離婚の方法と裁判離婚の原因
1 協議離婚・調停離婚・裁判離婚
夫婦が離婚と条件について合意できる場合は,離婚届による協議離婚ができます。
合意できない場合又は直接の話合いが難しい場合は,家庭裁判所の夫婦関係調整調停を利用し,調停でも解決しないときは離婚訴訟を検討します。
離婚訴訟を提起する前には,原則として家庭裁判所の調停を経ます。
離婚調停では,離婚そのもののほか,親権者の指定,親子交流,養育費,財産分与,年金分割,慰謝料などを一緒に話し合うことができます。
手続の全体像は,裁判所の「夫婦関係や男女関係に関する調停」で確認できます。
2 裁判上の離婚原因
民法770条1項は,裁判上の離婚原因として,①配偶者に不貞な行為があったとき,②配偶者から悪意で遺棄されたとき,③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき,④その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときを定めています。
従前の「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」という独立の離婚原因は,令和8年4月1日に削除されました。
離婚原因が形式的に存在しても,裁判所は一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚請求を棄却できます。
別居期間だけで結論が決まるものではなく,別居に至った経緯,夫婦関係の実情,未成熟子への影響などが個別に検討されます。
3 離婚届をめぐる事故を防ぐ
署名済みの離婚届を相手方に渡した後で離婚意思を撤回した場合や,無断提出のおそれがある場合は,不受理申出を検討します。
不受理申出は届出の受理を防ぐ制度であり,親権,養育費,財産分与などの条件を決める制度ではありません。
手続の詳細は,離婚届の不受理申出に関する記事で整理しています。
第3 離婚前に決める事項と合意書
1 確認事項を一覧化する
未成年の子がいる場合は,親権を父母双方又は一方のどちらに定めるか,子の主たる生活場所,監護の分担,親子交流の方法,養育費,進学・医療などの臨時費用を確認します。
夫婦間では,別居中の婚姻費用,預貯金・不動産・保険・退職金・有価証券などの財産分与,住宅ローンその他の債務,年金分割,慰謝料を整理します。
氏の選択,住民票,健康保険,児童手当,学校・保育所への連絡などの行政上の手続も必要ですが,法的紛争の解決とは分けて期限と担当者を確認するのが安全です。
2 合意は履行できる内容にする
金銭の合意では,金額だけでなく,支払開始日,支払日,終期,振込先,振込手数料,臨時費用の負担,事情変更時の協議方法を明確にします。
親子交流では,子の年齢と生活に応じ,日時,場所,引渡方法,連絡方法,学校行事,病気時の対応などを具体化します。
私的な合意書,執行認諾文言付きの公正証書,調停調書,審判書又は判決書では,強制執行の可否と方法が異なります。
公正証書を作成するだけで銀行などの第三者との契約が変更されるわけではないため,住宅ローンや連帯保証を処理するときは債権者の承諾を別に確認します。
第4 子の親権・監護・親子交流
1 離婚後の親権者
令和8年4月1日以後は,協議離婚をする父母は,原則として父母双方又は一方を親権者と定めます。
親権者の協議が調わない場合でも,親権者指定の審判又は調停を申し立てた上で離婚届を提出できる制度があります。
家庭裁判所が親権者を定めるときは,子と父母との関係,父と母との関係その他一切の事情を考慮し,子の利益のために判断します。
父母双方を親権者とすることで子の利益を害すると認められるとき,父母の一方が他方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがあるとき,共同して親権を行うことが困難であると認められるときなどは,父母の一方を親権者としなければなりません。
共同親権が原則,単独親権が例外という単純な関係ではありません。
制度の詳細と経過措置は,共同親権・共同監護・養育費に関する記事及び裁判所の親権に関する案内を参照してください。
2 親権の共同・単独行使
父母双方が親権者である場合は,親権を共同して行使するのが基本です。
もっとも,監護及び教育に関する日常の行為,子の利益のため急迫の事情があるとき,家庭裁判所が特定の事項について一方が単独で親権を行うことができると定めたときなどは,単独で行使できます。
日常の行為又は急迫の事情に当たるかは,行為の目的・内容,子に与える影響,決定を急ぐ必要性などによって判断されます。
対立が予想される進学,転居,医療その他の重要事項は,合意の有無と緊急性を記録し,必要に応じて家庭裁判所の手続を利用します。
3 親子交流と父母以外の親族
親子交流は,子の利益を最も優先して,子の年齢,生活状況,意向,父母間の葛藤,暴力その他の危険を考慮して定めます。
回数を多くすれば常に子の利益になるわけではなく,直接交流,オンライン交流,手紙・写真の送付,第三者機関の利用などを事案に応じて組み合わせます。
令和8年4月1日以後は,子の利益のため特に必要があると認められる場合に,祖父母など一定の親族と子との交流を家庭裁判所が定める制度があります。
施行前の親族と子との交流に関する裁判例を,現行法の結論としてそのまま引用することはできません。
第5 養育費
1 合意又は裁判で定める養育費
父母は,子を養育する責務を負い,親権者であるかどうかにかかわらず,子が父又は母と同程度の生活を維持できるよう扶養しなければなりません。
養育費は,父母の収入,子の人数・年齢,公私立学校の費用,医療費などを踏まえて定めます。
裁判所の算定表は重要な出発点ですが,個別事情の主張立証を不要にするものではありません。
算定表の読み方と計算上の注意点は,養育費算定表に関する記事及び裁判所の養育費請求手続案内で確認できます。
2 法定養育費
令和8年4月1日以後に離婚した父母が養育費を取り決めず,父母の一方が子を主として監護している場合は,その父母は他方に対し,取り決めまでの暫定的なものとして法定養育費を請求できます。
額は,子一人につき月額2万円です。
法定養育費は,合意又は裁判で相当な養育費を定めるまでの暫定措置であり,すべての家庭にとって相当な最終額を意味しません。
支払能力を欠くこと又は支払によって生活が著しく窮迫することを証明した場合には,全部又は一部の支払を拒むことができます。
令和8年4月1日前に離婚した場合には法定養育費は発生しません。
3 先取特権と履行確保
令和8年4月1日以後に弁済期が到来した養育費債権には,一定の範囲で一般の先取特権が認められます。
省令で定める上限は子一人につき月額8万円であり,これは養育費の額そのものの上限ではありません。
この先取特権による差押えには,養育費の金額,支払時期その他の内容を示す文書が必要です。
養育費等の扶養義務に係る定期金債権については,地方裁判所に一回の申立てをすることで,財産開示又は勤務先に関する情報取得と,判明した給与債権への差押えを一連の手続として進められる場合があります。
先取特権の範囲と差押えの注意点は,法定養育費と先取特権の記事及び養育費債権の先取特権と差押えの記事で詳しく説明しています。
4 収入資料の提出
養育費に関する審判・調停で裁判所が必要と認めるときは,当事者に対し,収入に関する情報の開示を命ずることができます。
給与明細,源泉徴収票,確定申告書,課税証明書などを早期にそろえ,変動収入,失職,転職,休業などがある場合は経緯と現在の稼働状況も説明します。
退職又は減収があれば当然に従前の収入を基礎に算定される,あるいは当然に現在の低い収入だけで算定されるという一律の扱いではありません。
具体的な資料に基づく判断が必要です。
収入と稼働能力の確認は,性別による一般化を避け,双方について同じ項目を尋ねる必要があります。
現在の雇用形態,休職・育児休業,退職・転職の時期,育児・介護の分担,健康上の制約及び再就職の具体的見通しを確認し,集団統計だけから個人の収入を推定しません。
社会調査を個別事件に用いる際の注意点は,社会調査・アンケートを法律実務で使うときの読み方を参照してください。
第6 別居中の婚姻費用
1 婚姻中の生活費
夫婦は,資産,収入その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担します。
別居中も婚姻が継続しているため,生活費と子の生活費を含む婚姻費用について,家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることができます。
婚姻費用と離婚後の養育費は,対象期間と法的根拠が異なります。
算定表の確認方法と別居時の資料は,婚姻費用算定表に関する記事を参照してください。
2 既存の合意がある場合
最高裁令和7年9月4日判決は,夫婦間の婚姻費用分担契約の無効確認を求める訴えについて,その契約の有効性は婚姻費用分担審判で審理判断されるから,確認の利益がないと判断しました。
既存契約の有効性や事情変更を争うときは,請求の形式だけでなく,家庭裁判所の婚姻費用分担手続でどのような判断を求めるかを検討する必要があります。
第7 財産分与・住宅・事業資産・年金分割
1 財産分与の対象と期間
財産分与では,婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持した預貯金,不動産,保険,有価証券,退職金その他の財産を,基準時と評価時を意識して把握します。
婚姻前から有する財産,単独で相続又は贈与を受けた財産などは,原則として夫婦の協力によって取得した財産には含まれませんが,混在や維持への寄与が争点になることがあります。
令和8年4月1日以後に離婚した場合,離婚後に財産分与を家庭裁判所へ請求できる期間は5年です。
同日前に離婚した場合は,従前どおり2年です。
夫婦の寄与の程度が明らかに異ならないときは,その程度は相等しいものとされます。
財産資料は,別居によって取得しにくくなる前に,権限のある範囲で通帳,残高証明,保険証券,登記事項証明書,住宅ローン明細,証券口座資料,退職金規程などを保存します。
相手方のアカウントへの無断アクセスその他の違法な手段は避けなければなりません。
証券口座については,基準日現在の残高だけでなく,基準日前後の顧客勘定元帳,取引残高報告書,入出金・入出庫履歴,配当・分配金及び手数料の資料を保存します。残高の増加額は,値上がり益だけでなく,婚姻中の収入からの入金,婚前財産,相続・贈与資金,他口座からの移管,配当再投資,為替変動及び借入れを含み得るため,現在残高だけから夫婦共同財産の拠出額又は本人の運用成果を判断することはできません。詳しい復元方法は,「証券口座の残高増加をどう検証するか-入出金・運用損益・為替・税を分ける財産分与・相続実務」を参照してください。
2 裁判所に分与を求めた財産の特定
最高裁令和4年12月26日決定は,財産分与の申立てで分与を求められた財産の一部について,手続を分けて判断しないまま終局判断をすることはできないとしました。
申立てでは,対象財産を漏れなく特定し,取得時期,名義,残高,評価,債務との関係を一覧化することが重要です。
財産の特定では,対象財産を決める基準時と,有価証券の価額を決める評価時を区別します。基準時後の追加入金,出金,売買及び口座移管を区別せずに現在残高だけを分与対象とすると,基準時に存在しなかった財産又は一方の固有財産が混入することがあります。
3 情報開示命令と支払原資
家庭裁判所は,財産分与に関する処分の審判事件で必要があると認めるときは,申立て又は職権により,当事者に財産状況に関する情報の開示を命ずることができます(家事事件手続法152条の2第2項)。
正当な理由なく開示せず,又は虚偽の情報を開示したときは,10万円以下の過料の対象となります(同条3項)。
これらの規定は,財産分与調停及び離婚調停にも準用されます(同法258条3項)。
情報開示命令は,財産状況に関する情報の開示を命ずる制度であり,裁判所が一律に全財産を自動収集する制度ではありません。
対象となる情報及び提出方法は個別事件の争点と裁判所の指示に従って確認します。資料を確保するときも,相手方のアカウントへの無断アクセスその他の違法な手段は避ける必要があります。
分与額と支払方法を検討するときは,資産の名目額だけでなく,現在の時価,担保債務・税金・売却費用控除後の正味額,流動性,所有・処分権限及び支払期限までの資金化を確認します。
詳しくは,資産額と「実際に払える額」は違うを参照してください。
4 自宅・住宅ローン・会社関係財産
自宅については,名義,取得資金,現在価値,ローン残高,売却費用,居住継続の必要性を確認します。
夫婦間でローン負担者を決めても,金融機関の承諾がなければ,債務者や連帯保証人の地位は当然には変わりません。
ペアローンの処理は,離婚とペアローンの記事を参照してください。
会社経営者の離婚では,会社財産そのものと,夫婦の一方が有する株式・持分・会社に対する貸付金などを区別します。
役員報酬,配当,会社と個人の資金移動も,収入又は財産評価に関係することがあります。
詳しくは,会社経営者の離婚と財産分与の記事で整理しています。
財産の移転には譲渡所得税,不動産取得税,登録免許税などが問題となることがあります。
個別の課税関係は,財産分与と税金の記事を参照し,税理士等にも確認してください。
5 将来の退職金・確定拠出年金
将来の退職金は,基準時にまだ支給されていなくても,勤務先の退職金規程,勤続期間,退職までの期間及び支給の蓋然性によっては,財産分与で考慮されることがあります。
もっとも,現在の自己都合退職額,定年時の予想額又は実際の支給額のどれを基礎にするか,婚姻期間に対応する部分をどう算出するか,いつ支払わせるかは事案により異なります。
東京家裁平成22年6月23日審判(L06560026)は,退職金が支給される蓋然性が高いとして分与対象に含め,将来実際に退職金が支給されたことを条件とする支払方法を採りました。
さいたま家裁川越支部平成29年4月28日審判(L07260015)は,基準時に自己都合退職したと仮定した退職金額に,婚姻期間と勤続期間の割合を乗じて対象額を算定しました。
大阪家裁令和2年9月14日審判(L07560048)は,企業年金・確定拠出年金等について婚姻期間中の増加部分を検討しました。
これら3件はいずれも裁判所HP未掲載であり,判例秘書で全文確認しています。判例秘書の「財産分与 AND 退職金」という検索では95件が表示されましたが,この件数は検索式と収録範囲に限られ,裁判例全体の網羅性を示すものではありません。
退職金を財産分与の対象財産として評価する問題と,将来の退職金を分割払の原資として期待する問題は分けて考えます。
後者では,支給時期・金額が未確定なまま相手方へ信用リスクを負わせることになるため,一括払,条件付支払,担保又は他の流動資産による精算を比較します。
6 年金分割
年金分割は,厚生年金記録を分割する制度であり,預貯金のように年金額そのものを半分にする制度ではありません。
合意分割と3号分割では要件が異なるため,年金事務所で年金分割のための情報通知書を取得して確認します。
令和8年4月1日以後に離婚した場合,年金分割を請求できる期間は原則として離婚等をした日の翌日から5年です。
同日前に離婚した場合は原則として2年であり,調停・審判中などの例外もあるため,日本年金機構の年金分割改正案内で期限を確認してください。
第8 離婚慰謝料
1 離婚自体の損害と個別の不法行為
離婚慰謝料を検討するときは,婚姻関係を破綻させ離婚に至らせたことによる損害と,暴力,不貞その他の個別の不法行為による損害を区別します。
行為の内容・期間,婚姻期間,破綻の時期,因果関係,診断書・写真・録音・メッセージなどの証拠によって結論が変わります。
2 不貞相手など第三者への請求
最高裁平成31年2月19日判決は,夫婦の一方と不貞行為をした第三者が,直ちに他方配偶者に対して離婚に伴う慰謝料責任を負うものではなく,離婚させることを意図して婚姻関係に対する不当な干渉をしたなどの特段の事情が必要であるとしました。
これは,不貞行為それ自体による慰謝料請求の成否と,離婚に伴う慰謝料請求の成否を区別した判断です。
3 離婚に伴う慰謝料の遅延損害金
最高裁令和4年1月28日判決は,離婚に伴う慰謝料請求権は離婚の成立時に発生し,履行の請求を待たず直ちに遅滞に陥ると判断しました。
請求原因と対象期間を明確にし,離婚成立前の個別行為による損害と混同しないことが必要です。
起算日の考え方と請求の趣旨の書き方は,離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生するかで詳しく説明しています。
第9 証拠と安全への配慮
1 先に時系列と資料一覧を作る
まず,同居,婚姻,子の出生,別居,生活費の支払,不貞・暴力などの出来事,離婚協議の経過を日付順に整理します。
その上で,戸籍,住民票,所得資料,預貯金,不動産,保険,ローン,子の学校・医療,夫婦間の連絡などを論点別に対応させます。
証拠は量ではなく,証明したい事実との対応が重要です。
相手方の主張を推測して無制限に資料を集めるのではなく,争点,立証目的,取得費用,取得の適法性を確認します。
SNS,マッチングアプリ又はメッセージアプリの記録が争点となる場合は,相手をブロックし,アカウントを削除し,又は端末を交換する前に,自分が適法に閲覧できる範囲で,①サービス名・プロフィール・ユーザーID,②問題発言の前後を含むメッセージ,③公式機能による書出し,④写真等の受信ファイル,⑤宿泊・移動・決済の記録を保存します。
問題部分だけの切取りではなく,取得日時,取得端末及び会話の連続性が分かる状態を残します。
配偶者のパスワードを推測し,又は保存された認証情報を無断で用いて,他人のSNS,メール又はクラウドへアクセスしてはなりません。
証拠保全の具体的方法は,SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全及びデジタル証拠の原本保全とハッシュ値を参照してください。
2 DV・虐待・住所秘匿
暴力,脅迫,つきまとい,子の虐待などのおそれがある場合は,直接交渉より安全確保を優先し,警察,配偶者暴力相談支援センター,弁護士などへ相談します。
緊急時は110番を利用し,DV相談窓口は内閣府のDV相談ナビで確認できます。
家庭裁判所へ提出する書類に相手方へ知られたくない住所などがある場合は,まずマスキングして提出できるかを確認します。
書面の性質上マスキングできないときは,秘匿決定の申立て又は非開示希望の申出を検討しますが,制度ごとに要件と効果が異なります。
詳しくは,裁判所の「家庭裁判所の手続における住所・氏名等の秘匿制度等」を参照してください。
第10 子の移動・引渡し
1 実力による連れ去りを避ける
最高裁平成17年12月6日決定は,監護養育中の子を有形力を用いて連れ去った事案について,未成年者略取罪の成立を認めました。
この判断は,別居に伴う子の移動がすべて犯罪になるという意味ではなく,行為の態様,監護状況,子の年齢・意思,目的などを具体的に検討したものです。
子の所在や引渡しをめぐる対立では,実力行使を避け,子の監護者の指定,子の引渡し,審判前の保全処分などの家庭裁判所の手続を検討します。
手続の準備方法は,家事調停に関する記事も参照してください。
2 引渡し・返還の裁判例は手続を区別する
国内の子の引渡し,ハーグ条約に基づく子の返還,人身保護請求,強制執行では,要件と判断時点が異なります。
最高裁令和4年11月30日決定は,子の引渡しを命じる審判の間接強制について,その後の監護状況を踏まえて権利濫用となる場合があるとしましたが,個別事情の強い事案です。
国境を越える子の移動や返還命令が問題となる場合は,適用条約,常居所,留置の時期,国内外の手続が関係するため,早期に専門的な助言を受ける必要があります。
第11 関連記事
令和8年4月施行の制度改正は,共同親権・共同監護・養育費に関する記事,法定養育費と先取特権の記事,養育費債権の先取特権と差押えの記事で詳しく説明しています。
金額算定と手続は,養育費算定表に関する記事,婚姻費用算定表に関する記事,家事調停に関する記事を参照してください。
財産関係は,資産額と「実際に払える額」は違う,財産分与と税金の記事,会社経営者の離婚と財産分与の記事,離婚とペアローンの記事で掘り下げています。
離婚届の提出を止める必要がある場合は,離婚届の不受理申出に関する記事を確認してください。
SNS等の証拠保全は,SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全及びデジタル証拠の原本保全とハッシュ値を参照してください。
統計を個別事件へ用いる際の注意点は,社会調査・アンケートを法律実務で使うときの読み方にまとめています。
第12 出典・参考資料
1 法令
民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令(令和7年法務省令第56号)
2 裁判例
最高裁平成17年12月6日決定・平成16年(あ)第2199号
最高裁平成31年2月19日判決・平成29年(受)第1456号
東京家裁平成22年6月23日審判・L06560026。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認。
さいたま家裁川越支部平成29年4月28日審判・L07260015。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認。
大阪家裁令和2年9月14日審判・L07560048。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認。