第1 最初に区別すべき三つの事項
1 国籍・地域欄の表示
在日韓国・朝鮮人及び台湾関係者をめぐる制度を理解するには,日本の在留カード,特別永住者証明書又は住民票に記録される「国籍・地域」の表示,外国法上の実体国籍,日本に在留する法的根拠を区別する必要がある。この三つは一致することもあるが,常に一致するわけではない。
日本の在留記録における「朝鮮」は,朝鮮半島出身者及びその子孫等で,大韓民国国籍をはじめいずれかの国籍があることが日本側で確認されていない者について用いられる地域表示である。「朝鮮」という国家の国籍又は朝鮮民主主義人民共和国の国籍を表示するものではない。
「台湾」も日本の在留管理上は地域表示である。日本側の「台湾」という表示だけでは,中華民国国籍の有無,台湾地区に戸籍があるか又は無戸籍国民であるかを確定できない。
2 永住者と特別永住者
入管法上の「永住者」は在留資格である。これに対し「特別永住者」は,入管法上の在留資格ではなく,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に基づく法的地位である。
特別永住者制度は,終戦前から引き続き日本に在留し,平和条約の発効に伴って日本国籍を離脱した朝鮮及び台湾関係者並びに一定の子孫について,歴史的経緯と定住性を考慮して法的地位を安定させるために設けられた。したがって「韓国人又は朝鮮人であれば特別永住者である」とはいえず,台湾関係者にも特別永住者がいる。
3 2025年末の在留外国人統計
出入国在留管理庁の2025年末統計によれば,在留外国人総数は412万5395人であり,そのうち特別永住者は26万6896人であった。次の数値は同庁の公表表による。
| 国籍・地域欄 | 在留外国人総数 | 中長期在留者 | 永住者 | 特別永住者 |
|---|---|---|---|---|
| 韓国 | 40万7341人 | 16万5629人 | 7万7013人 | 24万1712人 |
| 朝鮮 | 2万2201人 | 432人 | 327人 | 2万1769人 |
| 台湾 | 7万3256人 | 7万2256人 | 2万6380人 | 1000人 |
この統計の「国籍・地域」は在留管理上の分類である。特に「朝鮮」の人数を朝鮮民主主義人民共和国の国民数又は無国籍者数と読み替えることはできない。
第2 植民地期の法域と身分登録
1 日本国籍と地域別の法制度
日本は1910年に韓国を併合し,1895年以後に台湾を統治した。植民地期の朝鮮人及び台湾人は日本国籍を有したが,内地,朝鮮及び台湾は同一の民事法と戸籍制度だけで処理される一つの法域ではなかった。
朝鮮では朝鮮民事令及び朝鮮戸籍令等に基づく身分登録があり,内地戸籍とは別に編製された。戦後の日本国籍喪失の対象を論じた裁判例は,民族又は血統だけでなく,朝鮮戸籍に登載されるべき法的地位を重要な基準としている。
2 台湾の戸口調査簿と戸籍
台湾では1905年の臨時台湾戸口調査を基礎として戸口調査簿が作成され,1933年の台湾総督府令第8号「本島人ノ戸籍ニ関スル件」により,既存の戸口調査簿を身分関係を公証する戸籍として扱う法的整備がされた。
もっとも「本島人戸籍」という単一の正式名称の戸籍に台湾住民全員が登載されたと説明するのは正確でない。先住民族には別の登録も存在したため,個別事件では簿冊の種類,作成時期及び登載根拠を確認する必要がある。
3 共通法と地域籍の変動
内地,朝鮮及び台湾の各法域の関係は共通法により調整された。婚姻,養子縁組その他の身分行為によって適用法域と戸籍上の所属が変わる場合があったため,日本国籍喪失の対象は出生地又は民族だけでは判定できない。
この問題について,最高裁大法廷1961年4月5日判決及び最高裁第一小法廷1998年3月12日判決は,朝鮮戸籍に登載された者又は登載されるべき事由を生じた者の法的地位を検討している。
第3 終戦後の外国人登録と日本国籍の喪失
1 外国人登録令による「外国人とみなす」取扱い
外国人登録令は1947年5月2日に公布・施行された。同令11条は,台湾人のうち内務大臣の定める者及び朝鮮人を,同令の適用について当分の間外国人とみなした。
これは外国人登録令を適用するための「みなし」であり,その日に当然に日本国籍を失わせた規定ではない。登録上外国人として取り扱われた時点と,条約の発効に伴って日本国籍を喪失した時点は分けて考えなければならない。
2 朝鮮関係者の日本国籍喪失
日本国政府は1952年4月19日付け民事甲第438号民事局長通達により,対日平和条約発効時の国籍と戸籍の取扱いを示した。最高裁判例は,朝鮮人として日本国内法上の法的地位を有した者は,対日平和条約が発効した1952年4月28日に日本国籍を喪失したと解している。
この国籍喪失は本人の選択又は国籍離脱届によるものではない。どの範囲の者が対象となったかは,当時の戸籍と身分行為を含む法的地位に基づいて判断される。
3 台湾関係者の日本国籍喪失
最高裁大法廷1962年12月5日判決は,台湾人として日本国内法上の法的地位を有した者について,日本国と中華民国との間の平和条約が発効した1952年8月5日に日本国籍を喪失したと判断した。
台湾関係者についても,出生地又は現在の居住地だけで結論を出すことはできない。植民地期の戸口調査簿等,身分行為による法域の変更,日本の戸籍及び条約発効時の法的地位を検討する必要がある。
4 対日平和条約に国籍選択条項がないこと
対日平和条約は朝鮮の独立承認と台湾等に対する権利等の放棄を定めたが,旧植民地出身者が日本国籍を選択するための条項を置かなかった。
台湾の最終的な帰属先及び中国を代表する政府をめぐって連合国間に合意がなかったことは,条約が台湾の帰属先を明記しなかった重要な背景である。他方,1951年の国会答弁では,日本政府は朝鮮人が条約発効により韓国国籍を回復するとの理解を前提とし,日本国籍を希望する者は通常の帰化制度によるとして,日本側から国籍選択条項を求めなかったと説明している。
したがって,国籍選択条項が置かれなかった理由を台湾の帰属又は中国代表問題だけに還元することはできない。また,当時の政府説明を現在の個人の実体国籍を直接確定する根拠として使うこともできない。
第4 特別永住者制度までの沿革
1 法律第126号による資格のない在留
1952年法律第126号は,平和条約に基づいて日本国籍を離脱し,終戦前から引き続き日本に在留していた者及び一定の子について,将来別に法律で在留資格と在留期間が定められるまで,在留資格を有しないまま在留できる措置を設けた。
この「法126-2-6該当者」は,現在の特別永住者制度に至る沿革上重要であるが,現行の法的地位を表示する名称ではない。
2 協定永住と特例永住
1965年の日韓法的地位協定とその国内実施法により,所定の大韓民国国民には申請に基づく協定永住が認められた。他方,国籍・地域欄が「朝鮮」の者及び台湾関係者等には別の仕組みが適用され,1982年には特例永住制度が設けられた。
このように特別永住者制度以前の在留上の地位は一様ではなかった。古い外国人登録原票又は裁判記録を読むときは,その記載がどの時点の制度に基づくものかを確認する必要がある。
3 1991年の一本化
1991年施行の入管特例法は,協定永住者,法126該当者,特例永住者その他の所定の者を特別永住者という地位に一本化した。1991年4月25日の参議院法務委員会及び2025年5月16日の衆議院法務委員会の政府説明も,朝鮮及び台湾関係者並びにその子孫が制度の対象に含まれることを明示している。
特別永住者は在留期間の更新を要せず,活動制限もない。退去強制事由は一般の外国人より限定され,再入国許可についても生活の安定に配慮する特則がある。
第5 国籍・地域欄が「韓国」又は「朝鮮」の者
1 「朝鮮」は実体国籍を決めない
国籍・地域欄が「韓国」であれば,通常は大韓民国国籍を証する資料に基づく表示である。これに対し「朝鮮」は地域表示であるため,その表示だけから大韓民国国籍,朝鮮民主主義人民共和国国籍又は無国籍のいずれであるかを決めることはできない。
大韓民国国籍を有しながら日本側の表示が「朝鮮」のままである場合もある。逆に,韓国の除籍簿又は家族関係登録簿に記録があるだけで現在の大韓民国国籍が確定するわけでもない。
2 大韓民国国籍法の時点差
大韓民国国籍法は,旧法では父系血統主義を基本としていた。1997年改正法が1998年6月14日に施行され,出生時に父又は母が大韓民国国民であれば出生により国籍を取得する父母両系血統主義へ移行した。
したがって,実体国籍の判定には,本人の出生年月日,出生時の父母の国籍,婚姻及び認知,国籍取得・選択・離脱・喪失,日本帰化並びに経過措置を時系列で確認する必要がある。現在の法文だけを過去の出生にそのまま当てはめてはならない。
3 登録簿が残っていても国籍は別に確認する
日本に帰化した後も韓国側への国籍喪失申告がされず,韓国の登録が残っていることがある。反対に,登録が未整理でも実体法上の国籍を有する場合がある。
実務では旅券,国籍判定書,国籍取得・喪失・離脱の記録,基本証明書,家族関係証明書,除籍謄本,日本の帰化記録及び外国人登録原票等を照合する。駐日本国大韓民国大使館の案内に基づく「朝鮮」から「韓国」への表示変更も,大韓民国側で国籍・身分関係を確認して登録し,その資料により日本側の表示を変更する手続である。日本側の表示変更それ自体が大韓民国国籍を創設するものではない。
第6 台湾関係者の現在の取扱い
1 「台湾」という地域表示と台湾旅券
日本は1998年6月以降,台湾の権限ある機関が発給する旅券を入管法上の旅券として取り扱っている。また,2012年7月に始まった現行の在留管理制度では,在留カード等の国籍・地域欄に「台湾」という地域表示が用いられている。
旅券として取り扱うこと,国籍・地域欄に「台湾」と表示すること,日本政府による国家又は政府の承認は別の問題である。これらを相互に同一視してはならない。
2 中華民国国籍と台湾地区の戸籍
台湾の現行国籍法2条は,出生時に父又は母が中華民国国民である者等を中華民国国籍者としている。
もっとも,中華民国国籍と台湾地区の戸籍又は居留資格は別の制度である。中華民国国籍を有しても台湾地区に戸籍を有しない者がいるため,国籍証明と戸籍資料を区別して確認する必要がある。
3 一般の在留資格と歴史的な特別永住
現在新たに台湾から来日する者は,原則として就労,留学,家族関係又は永住許可等に応じた入管法上の在留資格により在留する。
他方,終戦前から日本に居住していた台湾関係者及び一定の子孫で入管特例法の要件を満たす者は特別永住者である。2025年末統計でも,国籍・地域欄が「台湾」の特別永住者が1000人いることが確認できる。
第7 証明書と再入国
1 特別永住者証明書
特別永住者には,在留カードではなく特別永住者証明書が交付される。証明書の交付窓口は原則として居住地の市区町村であり,常時携帯義務はないが,法令に基づく提示義務はある。
2026年6月14日から新様式の特別永住者証明書が導入され,希望者はマイナンバーカードの機能を一体化した特定特別永住者証明書を申請できる。制度開始前に交付された有効な証明書が一律に無効になったわけではない。
2 みなし再入国許可
特別永住者がみなし再入国許可を利用するには,有効な旅券及び特別永住者証明書を所持し,出国時に再入国の意思を表明する必要がある。有効期間は出国の日から2年であり,国外で延長できない。
みなし再入国許可の有効期間を過ぎると特別永住者の地位を失い,新規上陸後にその地位を改めて取得することもできない。長期の国外滞在を予定するときは,出国前の手続を特に慎重に確認すべきである。
3 通常の再入国許可
通常の再入国許可は,特別永住者について最長6年である。無国籍その他の理由により有効な旅券を取得できない者は,通常の再入国許可に際して再入国許可書の交付を受けられる場合がある。
旅券又は再入国許可書が発給されるかという問題と,その者がどの国の国籍を有するかという問題は別である。
第8 相続その他の個別事件での調査方法
1 時系列を作る
相続,戸籍訂正,国籍確認又は在留手続では,まず本人,父母及び配偶者ごとに,出生,認知,婚姻,養子縁組,帰化,国籍取得・選択・離脱・喪失,死亡並びに居住地の移動を時系列にする。
そのうえで,日本の戸籍・除籍,外国人登録原票,在留カード等の記録,韓国の除籍簿・家族関係登録簿,台湾の戸籍・国籍証明,旅券及び領事証明を照合する。一つの登録簿又は現在の国籍・地域表示だけから結論を出してはならない。
2 相続準拠法と相続人の確認
法の適用に関する通則法36条は相続を被相続人の本国法によると定め,38条は重国籍者等の本国法の決定方法を定めている。このため,被相続人の死亡時の実体国籍の確定が相続準拠法と相続人の範囲に影響し得る。
債権者が代位による相続登記等を検討する場合も,日本側の「朝鮮」という表示だけで準拠法又は相続人を決めることはできない。領事証明の取得可能性,登録の欠落,国籍喪失申告の未了及び外国法の時点差を踏まえて立証計画を立てる必要がある。
第9 旧軍人軍属等の補償問題
1 援護法からの除外
戦傷病者戦没者遺族等援護法は,日本国籍を有しない者及び戸籍法の適用を受けない者を給付対象から除外した。朝鮮及び台湾関係者の補償は平和条約等に基づく外交交渉による解決が予定されたが,長期間にわたり十分な給付を受けられない者が生じた。
最高裁第一小法廷2001年4月5日判決は在日韓国人の旧軍人軍属に関する援護法上の取扱いを,最高裁第三小法廷1992年4月28日判決は台湾住民である旧軍人軍属に関する取扱いを判断した。両判決は国籍条項等による区別に合理的根拠があり憲法14条1項に違反しないとし,具体的な救済を立法政策の問題として扱った。
2 後の特別立法
台湾住民については,台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律及び特定弔慰金等の支給の実施に関する法律により,人道的精神に基づく弔慰金又は見舞金が支給された。
平和条約国籍離脱者等についても,平和条約国籍離脱者等である戦没者遺族等に対する弔慰金等の支給に関する法律が2000年に制定された。これらは援護法上の年金給付と同一の制度ではなく,歴史的経緯を踏まえた一時金等の特別措置である。
第10 関連記事
第11 主な法令・裁判例・資料
1 法令及び条約資料
2 裁判例
- 最高裁大法廷1961年4月5日判決・昭和30年(オ)第890号・民集15巻4号657頁
- 最高裁大法廷1962年12月5日判決・昭和33年(あ)第2109号・刑集16巻12号1661頁
- 最高裁第一小法廷1998年3月12日判決・平成6年(行ツ)第109号・民集52巻2号342頁
- 最高裁第三小法廷1992年4月28日判決・昭和60年(オ)第1427号・裁判集民事164号295頁
- 最高裁第一小法廷2001年4月5日判決・平成10年(行ツ)第313号・裁判集民事202号1頁
3 公的資料
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
- 出入国在留管理庁「国籍・地域別在留外国人統計の注意事項」
- 出入国在留管理庁「台湾旅券及び国籍・地域欄の取扱いを含む制度検証資料」
- 1951年11月5日参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会
- 国立公文書館「平和条約に伴う朝鮮人台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理について」
4 参考文献
- 尹龍澤ほか編『コリアの法と社会』(日本評論社,2020年)224頁から229頁まで
- 木棚照一『逐条 国籍法』(日本加除出版,2021年)179頁から183頁まで
- 第二東京弁護士会国際委員会編『わかりやすい出入国在留管理の実務必携Q&A〔第2版〕』(民事法研究会,2025年)
- 小池信行監修・吉岡誠一著『国籍の得喪と戸籍実務の手引き』(日本加除出版,2018年)