第1 裁判長と陪席裁判官とは
1 合議体を構成する裁判官
複数の裁判官で事件を審理し,裁判をするときの裁判官の集まりを,合議体という。
裁判所法は,高等裁判所(18条2項),地方裁判所(26条3項)及び家庭裁判所(31条の4第3項)の合議体の裁判官の員数を3人とし,そのうち一人を裁判長とすると定めている。
高等裁判所では,内乱罪等の訴訟(同法16条4号)に限り5人の合議体とされている(同法18条2項ただし書)。
合議体のうち裁判長以外の裁判官を,陪席裁判官という。
民事訴訟法149条2項は「陪席裁判官」,刑事訴訟法304条1項は「陪席の裁判官」という語を用いている。
本記事は,令和8年10月17日にe-Gov法令検索及び裁判所ウェブサイトで確認した法令・規則に基づいて,裁判長と陪席裁判官の役割を説明する。
2 合議事件と単独事件
高等裁判所は,裁判官の合議体で事件を取り扱う(裁判所法18条1項)。
これに対し,地方裁判所は,原則として1人の裁判官で事件を取り扱う(同法26条1項)。
地方裁判所が合議体で取り扱うのは,合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件,死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪(強盗等の一部の罪を除く。)に係る事件,簡易裁判所の判決に対する控訴事件等である(同条2項)。
家庭裁判所も,原則として1人の裁判官で事件を取り扱う(同法31条の4第1項・2項)。
地方裁判所の大規模訴訟では5人の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をすることができ(民事訴訟法269条1項),特許権等に関する訴えの控訴事件でも,東京高等裁判所は5人の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をすることができる(同法310条の2)。
3 右陪席と左陪席
横浜地方裁判所の法廷見学の案内(裁判官席)は,合議事件のときには法壇の中央の席に裁判長が座り,裁判長から見て右側に右陪席裁判官,左側に左陪席裁判官が座ると説明している。
右と左は裁判長から見た向きなので,傍聴席から見ると左右が逆になる。
同じ案内によれば,刑事裁判の裁判員裁判のときには,右陪席裁判官及び左陪席裁判官のさらに外側に,3名ずつ裁判員が座る。
河合健司氏の講演録は,任官後に勤務した函館の刑事部では「左陪席」,その後の京都地裁の民事部では「右陪席」であったと述べている(「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」早稲田大学法務研究論叢第3号238頁)。
同じ講演録は,その後,東京高裁及び仙台高裁の刑事部にいずれも左陪席として勤務したと述べている(同239頁)。
4 誰が裁判長になるか
下級裁判所の合議体では,支部長又は部の事務を総括する裁判官(部総括判事)が裁判長となる(下級裁判所事務処理規則5条2項)。
これらの裁判官に差し支えがあるときは,裁判官会議の議により毎年あらかじめ定められた順序に従って,他の裁判官が裁判長となる(同条3項,6条1項)。
判事補は,裁判長となることができない(裁判所法27条2項)。
部総括判事の指名の手続や「部長」という呼び方は,部総括判事とはで説明している。
第2 法廷での裁判長と陪席裁判官
1 訴訟指揮と法廷の秩序維持
民事訴訟の口頭弁論は,裁判長が指揮する(民事訴訟法148条1項)。
刑事訴訟でも,公判期日における訴訟の指揮は,裁判長が行う(刑事訴訟法294条)。
法廷における秩序の維持は,裁判長又は開廷をした一人の裁判官が行う(裁判所法71条1項)。
2 陪席裁判官の発問と尋問
陪席裁判官も,法廷で当事者や証人に問いを発することができる。
民事訴訟では,裁判長が当事者に対して問いを発し,又は立証を促すことができ(民事訴訟法149条1項),陪席裁判官は,裁判長に告げて同じ処置をすることができる(同条2項)。
期日外でこれらの処置をし,その内容が攻撃又は防御の方法に重要な変更を生じ得る事項に関するときは,相手方に通知しなければならない(同条4項)。
刑事訴訟法304条1項は,証人等は,裁判長又は陪席の裁判官がまず尋問すると定める。
同条3項により,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて尋問の順序を変更することができる。
被告人が任意に供述をする場合には,陪席の裁判官も,裁判長に告げて被告人の供述を求めることができる(同法311条3項)。
3 受命裁判官として行う手続
合議体の裁判官の一人が,裁判所の命令を受けて手続を行うことがある。
民事訴訟では,裁判所は,受命裁判官に和解を試みさせること(民事訴訟法89条1項),弁論準備手続を行わせること(同法171条1項)及び合議体の構成員に命じて裁判所外で証拠調べをさせること(同法185条1項)ができる。
受命裁判官が弁論準備手続を行う場合には,裁判所及び裁判長の職務(一部を除く。)は,その裁判官が行う(同法171条2項)。
第3 評議と判決
1 評議は裁判長が開き,整理する
合議体でする裁判の評議は,公開されない(裁判所法75条1項本文)。
ただし,司法修習生の傍聴を許すことができる(同項ただし書)。
評議は,裁判長が開き,かつ整理する(同条2項)。
評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については,法律に特別の定めがない限り,秘密を守らなければならない(同項)。
2 陪席裁判官も意見を述べ,過半数で決まる
裁判官は,評議において,その意見を述べなければならない(裁判所法76条)。
裁判は,最高裁判所の裁判について最高裁判所が特別の定めをした場合を除いて,過半数の意見による(同法77条1項)。
3人の合議体では,裁判長の意見が当然に優先するのではなく,陪席裁判官2人の意見が一致すれば,その意見が合議体の結論となる。
数額や刑事について意見が三説以上に分かれ,いずれも過半数にならないときの評決の方法は,同条2項が定めている。
3 評議の結果と判決
評議で決まった結論は,反対の意見を述べた裁判官がいても,合議体の裁判として示される。
森脇淳一氏は,退官後のコラム「退官後1年」で,裁判官の悪い点として「意見の合わない裁判長の陪席裁判官(裁判長の脇に座っている裁判官をこう言う)の仕事をしなければならないこと」を挙げ,「意に染まない判決にも署名押印しなければならない」と述べている。
最高裁判所の裁判書には各裁判官の意見を表示しなければならないが(裁判所法11条),下級裁判所の評議の経過や各裁判官の意見は,前記の評議の秘密の対象となる(同法75条2項)。
最高裁判所の評議と個別意見については,最高裁判所は判決をどう決めるかを参照されたい。
第4 判事補と陪席裁判官
1 判事補の職権の制限
判事補は,他の法律に特別の定めのある場合を除いて,1人で裁判をすることができない(裁判所法27条1項)。
また,判事補は,同時に2人以上合議体に加わり,又は裁判長となることができない(同条2項)。
大規模訴訟の5人の合議体でも,判事補は,同時に3人以上合議体に加わり,又は裁判長となることができない(民事訴訟法269条2項)。
判事補で一定の職の年数を通算して5年以上になる者のうち最高裁判所の指名する者(特例判事補)は,当分の間,判事補としての職権の制限を受けない(判事補の職権の特例等に関する法律1条1項)。
特例判事補の指名の要件等は,特例判事補とはで,判事補の職務の全体像は,判事補とはで説明している。
2 判事補が担当する陪席の仕事
最高裁判所の「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会」の報告書のうち「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況」は,平成14年当時の説明として,判事補に任命された者が最初の2年半,比較的規模の大きな地方裁判所に配置され,主として合議事件の陪席裁判官を務めると説明している。
同じ箇所は,特例判事補の期間に,少数ながら高等裁判所の職務代行を命じられて,控訴事件の陪席裁判官を経験する者もいると説明している。
これらは平成14年当時の説明であり,現在の配置の実情を示すものではない。
3 単独事件への判事補の参与
地方裁判所で判事又は特例判事補が1人で事件を取り扱う場合,裁判所は,その裁判官が属する部又は支部の判事補(特例判事補を除く。)1人を,当該事件の審理に参与させることができる(地方裁判所における審理に判事補の参与を認める規則1条1項)。
裁判所は,参与判事補を審理に立ち会わせ,参与させた事件について意見を述べさせることができる(同規則2条)。
この場合も,事件を取り扱うのは1人の裁判官であり,参与判事補が合議体を構成するわけではない。
第5 裁判官が代わった場合
民事訴訟では,判決は,その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする(民事訴訟法249条1項)。
裁判官が代わった場合には,当事者は,従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならない(同条2項)。
合議体の裁判官の過半数が代わった場合に,その前に尋問をした証人について当事者が更に尋問の申出をしたときは,裁判所は,その尋問をしなければならない(同条3項)。
3人の合議体で陪席裁判官1人だけが代わった場合は,過半数が代わった場合に当たらないため,同項の規定による尋問の義務は生じない。
刑事訴訟では,開廷後裁判官が代わったときは,判決の宣告をする場合を除き,公判手続を更新しなければならない(刑事訴訟法315条)。
異動後の判決の効力は裁判官が転勤(転補)した後の判決は有効かで説明している。
第6 高裁の陪席裁判官
河合健司氏は,東京高裁の刑事部に左陪席として3年間勤務した経験について,「高裁の陪席は,ひたすら記録を読み判決を書くのが仕事です。」と述べている(前記講演録239頁)。
同氏は,東京高裁の左陪席時代に,第一審の死刑判決に対する控訴の取下げの効力が争われた異議申立て事件で主任裁判官となり,記録を読んで原決定が相当かどうかを検討した経験も述べている(同244頁~246頁)。
前記の報告書も,判事任命後しばらくは,地方裁判所・家庭裁判所の合議事件の陪席裁判官,高等裁判所の陪席裁判官等を務めるのが一般的であると説明している。
高等裁判所の部の構成,集中部及び事件の配点は高等裁判所の事務分配の比較(令和8年度)で,高裁の部総括判事の経歴の傾向は部総括判事とはの第3で説明している。
第7 関連記事
① 部総括判事とは
② 高等裁判所とは
③ 裁判官とは
④ 判事補とは
⑤ 特例判事補とは
⑥ 最高裁判所は判決をどう決めるか
⑦ 民事控訴審の審理の流れ
⑧ 地家裁の部総括が年度途中に高裁判事になった場合の,その後のキャリア分析
第8 出典
1 法令・規則
① 裁判所法(昭和22年法律第59号)11条,18条,26条,27条,31条の4,71条,75条~77条――e-Gov法令検索(裁判所法)
② 民事訴訟法(平成8年法律第109号)89条,148条,149条,171条,185条,249条,269条,310条の2――e-Gov法令検索(民事訴訟法)
③ 刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)294条,304条,311条,315条――e-Gov法令検索(刑事訴訟法)
④ 判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年法律第146号)1条――e-Gov法令検索(判事補の職権の特例等に関する法律)
⑤ 下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)5条,6条――裁判所ウェブサイト掲載のPDF2頁
⑥ 地方裁判所における審理に判事補の参与を認める規則(昭和47年最高裁判所規則第8号)1条,2条――裁判所ウェブサイト掲載のPDF
2 公式資料・文献
① 横浜地方裁判所「1 裁判官席」(法廷見学の案内)
② 最高裁判所「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会」報告書「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況」(平成14年)
③ 「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」早稲田大学法務研究論叢第3号237頁以下
④ 森脇淳一「退官後1年」(弁護士森脇淳一ウェブサイトのコラム)