高裁の部総括判事の位置付け


目次

1 総論
2 それぞれの高裁部総括判事の位置付け
3 裁判所HPの説明
4 部総括判事は「部長」といわれていること
5 関連記事その他

1 総論
(1) 部総括判事(下級裁判所事務処理規則4条4項)は,合議体における裁判長となります(下級裁判所事務処理規則5条2項本文)。
(2) 下級裁判所事務処理規則の運用について(平成6年7月22日付の最高裁判所事務総長依命通達)記第1の2の定めを受けた,部の事務を総括する裁判官の指名上申について(平成6年12月9日付の最高裁判所人事局長の通達)を掲載しています。

2 それぞれの高裁部総括判事の位置付け
(1) 東京高裁部総括判事の場合
ア 地家裁所長を1つか2つ経験してから就任するのが通例です。
イ 東京高裁長官のすぐ下に民事部代表常置委員及び刑事部代表常置委員がいて,一般的には東京高裁長官代行といわれますが,ほぼ上がりポストですし,司法行政文書開示請求をしないと分かりませんから,幹部裁判官の経歴には記載していません。
    なお,これらの肩書は,例えば,関東弁護士会連合会主催の法曹連絡協議会の出席者名簿で出てきます(「関東弁護士会連合会主催の,平成26年度法曹連絡協議会(平成26年12月1日開催)」参照)。
(2) 大阪高裁部総括判事及び名古屋高裁部総括判事の場合
ア 東京高裁部総括判事ほどではありませんが,地家裁所長を1つか2つ経験してから就任するのが通例です。
イ 大阪高裁長官のすぐ下に民事上席裁判官及び刑事上席裁判官がいて,一般的には大阪高裁長官代行といわれますが,ほぼ上がりポストですし,司法行政文書開示請求をしないと分かりませんから,幹部裁判官の経歴には記載していません。
    なお,これらの肩書は,例えば,近畿弁護士会連合会の司法事務協議会の出席者名簿で出てきます。
(3) 広島高裁部総括判事及び福岡高裁部総括判事の場合
    地家裁所長経験のない人もいます。
(4) 仙台高裁部総括判事の場合
    地家裁所長経験がある人とない人が半々ぐらいです。
(5) 札幌高裁部総括判事及び高松高裁部総括判事の場合
    地家裁所長経験がないのが通常です。
(6) 叙勲の相場
    高裁本庁の部総括判事経験者に対しては原則として瑞宝重光章が授与され,高裁支部の部総括判事経験者に対しては瑞宝中綬章が授与されます。

3 裁判所HPの説明    

裁判所HPの「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況」には以下の記載があります。
    地方裁判所・家庭裁判所の部総括(司法行政上は部の事務の取りまとめに当たり,裁判においては合議体の裁判長となる。その数は300余り。)に指名されるのが,大体,判事任命後10年目前後くらいから(東京地方裁判所では,現在,最も若い部総括が判事任命後12年目。地方ではこ れより早く部総括になる例もある。),所長への任命は,判事任命後20年経過後くらいから,高等裁判所部総括も経験年数はほぼ所長に準じるが,所長を経て任命される例が多い。

4 部総括判事は「部長」といわれていること
    日本の裁判所-司法行政の歴史的研究-106頁には以下の記載があります(注番号等は省略しました。)。
    戦後の裁判所法のもとでは,裁判官の種類は,最高裁判所の裁判官としては最高裁判所長官と最高裁判所判事であり(裁判所法5条1項),高等裁判所以下の下級裁判所の裁判官としては高等裁判所長官,判事,判事補,簡易裁判所判事であって(同条2項),裁判所構成法の時代の「部長」は存在しない。しかし,総括裁判官は,高等裁判所長官,地方裁判所・家庭裁判所長との間で,人事に関する情報などについてひんぱんに連絡をとることによって,自分の「部」に所属する裁判官や裁判所書記官などを事実上監督する中間管理職的な立場となっており,総括裁判官のこのような立場を反映してか,裁判所内においては,総括裁判官を「部長」と呼ぶのが一般的である。さらに,1972年から導入された新任判事補を対象とした研修制度(新任判事補研さん制度)においては,新任判事補は,総括裁判官のもとで,裁判実務の研修の指導をあおぐ立場に置かれることになった。このように,裁判官会議の権限が移譲されることによって,高等裁判所長官,地方裁判所・家庭裁判所長の地位が相対的に高まっただけでなく,総括裁判官が,合議体で裁判長をつとめるだけでなく,中間管理職,さらには新任判事補研さん制度導入後は判事補の指導役として,裁判所内で司法行政上の一定の地位をもつことになったということができるであろう。
   

 関連記事その他(1) 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)「高等裁判所部総括判事の人事をめぐる一考察 」が載っています。
(2) 現代新書HPの「『絶望の裁判所』著:瀬木比呂志—『絶望の裁判所』の裏側」(2014年3月9日付)には以下の記載があります。
    そういう人物(山中注:最高裁判所事務総局系の司法行政エリートと呼ばれる人々のこと。)が裁判長を務める裁判部における日常的な話題の最たるものは人事であり、「自分の人事ならいざ知らず、明けても暮れても、よくも飽きないで、裁判所トップを始めとする他人の人事について、うわさ話や予想ばかりしていられるものだ」と、そうした空気になじめない陪席裁判官から愚痴を聞いた経験は何回もある。『司法大観』という名称の、七、八年に一度くらい出る、裁判官や検察官の写真に添えて正確かつ詳細なその職歴を記した書物が彼らのバイブルであり、私は、それを眺めるのが何よりの趣味だという裁判官にさえ会ったことがある。

(3)ア 弁護士森脇淳一HP「退官後1年」には以下の記載があります(35期の森脇淳一裁判官が筆者です。)。
(山中注:裁判官の)悪い点は、意見の合わない裁判長の陪席裁判官(裁判長の脇に座っている裁判官をこう言う)の仕事をしなければならないことである。裁判長が手を入れた(削った)起案に自分が手を入れることはできないから、意に染まない判決にも署名押印しなければならない。裁判長によっては、まともに記録も読まず、合議で議論に負けても、『それなら判決できない』とか、『判決(言渡期日)を伸ばす』とか、『とにかく、自分は嫌だ』などと言うので、結局、裁判長の意見に従わざるを得なかった」などと述べた。

イ 早稲田大学HPに載ってある「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」には「高裁の陪席は,ひたすら記録を読み判決を書くのが仕事です。」と書いてあります(リンク先のPDF3頁)。
(4) 「大阪高等裁判所第7民事部における上告事件の処理の実情」(寄稿者は45期の島岡大雄裁判官)には以下の記載があります(判例タイムズ1409号(2015年4月1日号)42頁)。
    裁判所書記官による記録調査の終了後,概ね1ヶ月先を合議日に指定する扱いは,上告事件においては,原判決を破棄する場合を除き,判決をするに当たって口頭弁論を開く必要がなく(民訴法319条),口頭弁論期日が指定されないことから,口頭弁論期日が指定されている控訴事件の処理を優先してしまい,上告事件の処理が後手になるおそれがないではなく,上告事件の適正な進行管理を図る観点からは,あらかじめ合議日を指定した上,それまでに主任裁判官が訴訟記録を調査検討して合議メモを作成し,合議メモに基づいて充実した合議を行うことが相当であるとの考えによるものである。
(5)ア 以下の名簿を掲載しています。
 平成14年度から平成28年度までの部総括裁判官の名簿
・ 昭和62年度から平成13年度までの部総括裁判官の名簿
・ 昭和48年度から昭和61年度までの部総括裁判官の名簿 
イ 以下の記事も参照してください。
・ 控訴審に関するメモ書き
・ 幹部裁判官の定年予定日
・ 高等裁判所の集中部
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)

・ 東京高裁の歴代の代表常置委員
・ 大阪高裁の歴代の上席裁判官
・ 東京地裁の歴代の第一所長代行
・ 大阪地裁の歴代の所長代行者,上席裁判官,大阪簡裁司掌裁判官等
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 新様式判決
・ 裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場


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