この記事は,山中弁護士へ任意整理,自己破産又は個人再生を依頼した人が,受任後に守るべき共通事項と,各手続を選ぶ場合の重要事項を確認するためのものです。
個別事件では,この記事よりも山中弁護士から受けた具体的な指示を優先してください。
債務整理では,「都合の悪い事実を隠さないこと」,「自分の判断で返済や財産処分をしないこと」,「資料と連絡を止めないこと」が特に重要です。
過去に問題のある借入れや支払があったとしても,それ自体より,弁護士や裁判所に説明しないことの方が手続に重大な影響を与える場合があります。
第1 本記事の目的
弁護士へ事件を依頼するときの一般的な注意事項は,「弁護士依頼時に依頼するとき,知っておいてほしい大切なこと」で説明しています。
本記事は,そのうち債務整理事件に特有の事項に絞ったものです。
任意整理,自己破産及び個人再生のいずれを選ぶかは,相談当日に確定できるとは限りません。
債権者から届く残高,毎月の収支,財産,保証人,担保,滞納税金,住宅ローンその他の事情を調べた結果,当初の方針を変更することがあります。
したがって,依頼者は,最初から「この債権だけは除外したい」,「必ず自宅を残したい」,「破産だけは避けたい」と結論を固定せず,全体像を正確に伝えてください。
その上で,生活を立て直せる現実的な方法を一緒に検討します。
第2 任意整理・自己破産・個人再生の違い
| 項目 | 任意整理 | 自己破産 | 個人再生 |
|---|---|---|---|
| 手続の性質 | 裁判所を使わず,債権者と個別に返済条件を交渉する | 裁判所の手続で財産を清算し,免責を求める | 裁判所の手続で債務を法律上の基準により減額し,原則として分割返済する |
| 継続返済 | 必要 | 免責対象の債務については,免責許可が確定すれば原則として不要 | 原則3年。特別の事情があるときは最長5年 |
| 主な前提 | 合意後の支払を続けられる家計 | 支払不能であること | 将来にわたり継続的又は反復的に収入を得る見込みがあることなど |
| 財産への影響 | 直ちに換価される手続ではない | 自由財産等を除き,換価・配当の対象となることがある | 財産を換価する手続ではないが,保有財産の価値が返済額に影響する |
| 住宅ローン | 通常は整理対象から外して約定どおり支払うことを検討する | 担保権が実行されれば住宅を失うのが原則 | 法律上の要件を満たせば住宅資金特別条項を利用できることがある |
| 保証人 | 対象債務について請求を受ける可能性がある | 免責の効力は保証人に及ばない | 再生計画の効力は保証人に及ばない |
どの方法でも,保証人,担保権者及び滞納公租公課の扱いは別に確認する必要があります。
また,手続の選択は「月々いくらなら払えそうか」だけでなく,債務総額,収入の安定性,財産の価値,過去の取引,家族構成及び今後の生活費を踏まえて判断します。
第3 最初にすべて申告してほしい事項
1 すべての債権者と債務
消費者金融,銀行及びクレジットカード会社だけでなく,次のものも含めて申告してください。
□ 家族,親族,友人,勤務先又は取引先からの借入れ
□ 保証人又は連帯保証人になっている債務
□ 家賃,管理費,通信料金,端末代金,医療費,授業料その他の未払金
□ 税金,国民健康保険料,年金保険料その他の公租公課
□ 損害賠償,養育費,婚姻費用その他の法律上の支払義務
□ 裁判,支払督促,差押え又は保証会社による代位弁済の対象となっている債務
□ 旧姓,旧住所又は以前の勤務先を使って契約した債務
「長く請求が来ていない」,「親族は返さなくてよいと言っている」,「保証債務だから今は請求されていない」という理由で省かないでください。
任意整理で実際に交渉する債権者を限定する場合でも,弁護士には全債務を申告する必要があります。
2 すべての財産と権利
預貯金,現金,保険,自動車,不動産,有価証券,暗号資産,退職金見込額,事業用財産,売掛金,貸付金,過払金その他の請求権を申告してください。
残高が少ない口座,長く使っていない口座,ネット銀行及び電子マネーも対象です。
相続が発生している場合,まだ遺産分割をしていなくても相続分が財産となることがあります。
近く退職する予定がある場合,保険を解約する場合,又は相続が見込まれる事情が生じた場合は,すぐに報告してください。
3 最近の借入れ,返済及び財産移動
直近の借入れ,カード利用,現金化,一部の債権者だけにした返済,親族への返済,財産の売却・贈与・名義変更,保険の解約,暗号資産の移動,ギャンブル又は多額の買物について,隠さず説明してください。
これらは,自己破産の免責や財産回復,個人再生の返済額・履行可能性などに関係します。
資料が残っていなくても,分かる範囲で時期,金額,相手方及び目的を伝えてください。
弁護士に相談する前に,帳尻を合わせるための返済や名義変更をしてはいけません。
第4 受任後の返済,借入れ及びカード利用
1 返済を止める範囲は,弁護士の指示に従う
受任後は,山中弁護士から返済を止めるよう指示された債務について,自分の判断で返済しないでください。
他方で,家賃,水道光熱費,税金,社会保険料,住宅ローンその他の支払を一律に止めてよいわけではありません。
何を止め,何を続けるかは,個別に確認してください。
親族や知人からの借入れだけを優先して返すこと,勤務先からの借入れを給与天引きのまま放置すること,又は差押えを避けるために急いで返済することも,手続に影響する場合があります。
支払前に相談してください。
2 新たな借入れやカード利用をしない
受任後は,新たな借入れ,キャッシング,クレジットカード利用,後払い決済,分割購入及び他人名義を使った借入れをしないでください。
返済できない可能性を認識しながら借りると,自己破産の免責その他の手続に重大な影響を与えることがあります。
カード払いにしている携帯電話料金,保険料,公共料金,動画配信その他の継続課金は,口座振替や振込等へ変更してください。
変更の時期と方法は,カード会社や銀行との関係を確認した上で案内します。
3 口座,カード及び携帯電話を他人に渡さない
銀行口座,キャッシュカード,暗証番号,携帯電話,SIMカード及び本人確認書類を他人に売ったり,貸したり,譲ったりしてはいけません。
「副業」,「口座買取り」,「荷物受取代行」などの勧誘にも応じないでください。
犯罪に利用される危険があるだけでなく,債務整理やその後の生活再建を困難にします。
第5 債権者からの連絡,口座及び郵便物
1 債権者と直接交渉しない
受任通知後に債権者から電話,メール又は書面が来た場合は,山中弁護士へ依頼していることを伝え,内容をそのまま報告してください。
自分で支払約束,債務承認,和解,商品の返還又は担保処分に応じないでください。
貸金業者については,弁護士等から書面による通知を受けた後の直接取立てが貸金業法により制限されます。
しかし,裁判所からの訴状,支払督促,差押命令等が止まるとは限りません。
裁判所,税務署,市区町村,勤務先,保証会社その他から届いた書面も放置せず,受け取った日に連絡してください。
2 銀行口座の凍結や相殺に備える
借入先の銀行に預金口座がある場合,受任通知等を契機として口座が利用できなくなり,預金が借入金と相殺されることがあります。
給与振込,年金受取,家賃・公共料金等の引落しに使っている口座が借入先銀行にあるときは,受任通知を出す前に必ず申告してください。
口座変更や必要な生活費の確保は,弁護士の指示に従って行ってください。
資金を隠したり,親族名義の口座へ移したりしてはいけません。
3 連絡先と郵便物を確保する
住所,電話番号,メールアドレス又は勤務先が変わったときは,直ちに報告してください。
裁判所や弁護士からの郵便物を受け取れず,期限を過ぎると,申立てや手続の進行に支障が生じます。
自己破産で破産管財人が選任された場合,法律に基づき郵便物が破産管財人へ転送されることがあります。
転送された郵便物の扱いは,破産管財人の指示に従ってください。
第6 任意整理を選ぶ場合の重要事項
任意整理は,裁判所の強制的な減額制度ではなく,債権者との合意による手続です。
将来利息の全部免除,長期分割又は希望どおりの月額が必ず認められるわけではありません。
取引内容,債権者の方針及び家計の返済可能額を踏まえて交渉します。
任意整理後は,合意した支払を続ける必要があります。
返済原資が一時的な親族援助に依存している場合や,家計を切り詰めても継続できない場合は,任意整理より自己破産又は個人再生が適切なことがあります。
一部の債権だけを整理対象とすることはありますが,全債務を弁護士へ知らせる必要があります。
別の債務への返済が原因で和解後の支払ができなくなれば,生活再建につながりません。
また,将来,自己破産へ変更する可能性があるときは,特定の債権者だけへの返済が問題となることがあります。
過払金の有無は取引履歴を取り寄せて確認します。
過去に高い利率で取引していたというだけで,現在も請求できるとは限りません。
完済時期,途中の取引断絶,訴訟の有無及び消滅時効を個別に確認します。
第7 自己破産を選ぶ場合の重要事項
1 破産手続と免責手続は別である
破産手続開始決定が出ただけで,すべての債務がなくなるわけではありません。
個人が支払義務を免れるためには,原則として免責許可決定が確定する必要があります。
税金,悪意で加えた不法行為による損害賠償,一定の身体侵害による損害賠償,養育費等,雇用関係に基づく一定の請求権,罰金等及び故意に債権者名簿へ記載しなかった一定の債権などは,免責されないことがあります。
保証人や連帯保証人の支払義務もなくなりません。
2 同時廃止か管財事件かは裁判所が決める
財産の有無,過去の取引及び免責に関する調査の必要性などを踏まえ,裁判所が同時廃止事件又は管財事件として扱います。
申立人や申立代理人が自由に選べるものではありません。
破産管財人は裁判所が選任する独立した立場の弁護士であり,申立代理人とは役割が異なります。
管財事件では,財産の調査・管理・換価,否認権の行使,債権調査及び免責に関する調査などが行われます。
依頼者には,説明,資料提出,財産引渡しその他の協力義務があります。
3 免責不許可事由があっても,隠さない
財産隠し,債権者を害する処分,特定の債権者への不公平な返済,浪費・賭博,虚偽の債権者名簿,虚偽説明,裁判所又は破産管財人への非協力などは,免責不許可事由となることがあります。
もっとも,免責不許可事由があれば必ず免責されないという仕組みではなく,裁判所が事情を考慮して裁量免責を許可できる場合があります。
だからこそ,過去の事情を隠さず,資料を提出し,生活改善の状況を具体的に説明することが重要です。
免責の結果を事前に保証することはできません。
破産管財人の詳しい役割は「破産管財人とは―役割・権限,申立代理人との違い,費用と手続の流れ」,免責判断の具体例は「破産免責の許可・不許可の限界事例」で説明しています。
第8 個人再生を選ぶ場合の重要事項
1 継続収入と債務額の要件がある
小規模個人再生を利用するには,将来において継続的又は反復的に収入を得る見込みがあり,住宅資金貸付債権等を除いた再生債権の総額が5000万円を超えないことなどが必要です。
給与所得者等再生には,これに加えて収入の変動幅等に関する要件があります。
5000万円要件は,借入元本の単純合計だけでは判断できません。
利息・遅延損害金,担保で回収できる見込額,保証債務及び親族からの借入れ等を確認します。
詳しくは「個人再生の5000万円要件―計算方法,少額超過時の弁済・免除と親族援助」を参照してください。
2 返済額は家計だけで決まらない
個人再生の返済額は,法律上の最低弁済額,保有財産の清算価値及び,給与所得者等再生では可処分所得に関する基準などによって決まります。
「月々払える金額」を申し出れば,その金額まで自由に減額できるわけではありません。
再生計画による返済期間は原則3年であり,特別の事情がある場合に5年を超えない範囲で定められます。
申立前後に,家計表の作成や計画弁済額を見据えた積立てを行い,継続して返済できることを確認する場合があります。
3 住宅資金特別条項には要件がある
個人再生では,法律上の要件を満たすとき,住宅資金特別条項を利用して住宅ローンを支払いながら自宅を維持できることがあります。
しかし,住宅ローン自体を一般の債務と同じように減額する制度ではありません。
住宅の用途,ローンの資金使途,抵当権,保証会社の代位弁済時期,住宅以外の担保設定及び滞納状況などにより利用できない場合があります。
住宅を残したい場合は,住宅ローン契約書,登記事項証明書,返済予定表及び保証会社からの通知を早期に提出してください。
4 保証人,税金等及び一部弁済
再生計画による減額や期限の猶予は,保証人等の責任には及びません。
税金,社会保険料その他の一般優先債権は,通常の再生債権と同じように減額されるものではありません。
再生債権者は,原則として再生計画に従って扱います。
親族や勤務先など一部の債権者だけへ返済すると,清算価値,計画の履行可能性,手続の誠実性又は後に破産へ移行した場合の扱いに影響することがあります。
必ず支払前に相談してください。
第9 家族,勤務先,住居及び信用情報への影響
1 家族や保証人への影響
家族であるだけで,依頼者の債務を代わりに支払う義務を負うわけではありません。
ただし,家族が保証人・連帯保証人である場合,共同債務者である場合,又は家族名義の財産が実質的には依頼者の財産である場合は,別途検討が必要です。
保証人には債権者から請求が及ぶ可能性があります。
事前に知らせる時期や伝え方を含め,弁護士と相談してください。
2 勤務先や資格への影響
債務整理をしたことだけを理由に,当然に解雇されるわけではありません。
自己破産では,破産手続開始から復権までの間,一部の資格・職業について法律上の制限が生じることがあります。
現在の職種,資格,会社役員の地位及び勤務先からの借入れの有無を申告してください。
戸籍や住民票に,自己破産又は個人再生をした事実が記載されるわけではなく,選挙権を失うこともありません。
他方で,裁判所の決定が官報に公告される手続があります。
3 住居への影響
任意整理,自己破産又は個人再生をしたことだけで,現在の賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。
ただし,家賃滞納,保証会社との関係,更新時の審査又は契約違反などは別問題です。
家賃滞納があるときは,必ず債権者として申告してください。
4 信用情報への登録
延滞,債務整理,保証履行,破産申立てその他の情報が信用情報機関に登録されると,新たな借入れ,クレジットカード又は分割購入の審査に影響します。
ただし,「一律に何年間,すべての契約ができない」と決まっているわけではありません。
令和8年10月15日現在,株式会社日本信用情報機構(JICC)及び株式会社シー・アイ・シー(CIC)の主な契約・返済情報は,契約期間中及び契約終了後5年以内を基本としています。
全国銀行個人信用情報センターでは,取引情報は契約期間中及び契約終了後5年以内,官報に公告された破産・民事再生手続開始決定の情報は決定日から7年以内とされています。
登録内容や審査は機関・加盟会社ごとに異なるため,必要な場合は本人開示で確認してください。
第10 資料提出と事情変更の報告
1 資料は省略せず,連続した状態で提出する
事件に応じて,おおむね次の資料を提出してもらいます。
□ 本人確認資料,住民票及び家族関係の資料
□ 債権者一覧,契約書,請求書,督促状及び裁判所書類
□ すべての預貯金口座の通帳・取引履歴及びネット口座の明細
□ 給与明細,源泉徴収票,課税証明書,確定申告書及び事業帳簿
□ 保険証券と解約返戻金資料,車検証と査定資料
□ 不動産登記事項証明書,固定資産評価資料及び住宅ローン資料
□ 退職金見込額,相続,貸付金,売掛金その他の財産に関する資料
□ 毎月の家計表及び生活費の裏付け資料
必要な期間や書式は,手続,申立先裁判所及び事件の内容により異なります。
「債務整理必要書類一覧表」を入口として,山中弁護士から個別に案内された資料を優先してください。
通帳や取引履歴の一部を削除・加工したり,説明しにくい取引のあるページだけを省いたりしてはいけません。
取引の相手方や使途が分からないときは,推測で断定せず,「分からない」と伝えた上で調査してください。
2 依頼後の事情変更を報告する
次の事情が生じたときは,速やかに報告してください。
□ 就職,退職,休職,転職,昇給,減給又は賞与の大幅な変動
□ 結婚,離婚,別居,同居家族の増減又は扶養関係の変更
□ 転居,電話番号・メールアドレスの変更
□ 相続,保険金,退職金,給付金,臨時収入又は新たな財産の取得
□ 事故,病気,入院その他の支出増加
□ 債権者,裁判所,税務署,自治体又は勤務先からの通知
3 連絡や積立てを止めない
弁護士からの照会に回答せず,資料を提出せず,又は合意した費用・申立費用・計画弁済原資の積立てを正当な理由なく続けない場合,予定した手続を進められません。
事情が変わって約束どおりにできないときは,黙って連絡を絶つのではなく,早い段階で相談してください。
虚偽説明,財産隠し,無断借入れ,無断返済その他の重大な信頼関係違反がある場合や,必要な協力が得られない場合は,委任関係を継続できないことがあります。
第11 関連記事及び公的資料
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2 公的資料
・ 裁判所「倒産手続」
・ 裁判所「個人再生手続について」
・ 裁判所「民事事件についてのQ&A」
・ e-Gov法令検索「破産法」
・ e-Gov法令検索「民事再生法」
・ e-Gov法令検索「貸金業法」
・ 株式会社日本信用情報機構「信用情報の内容と登録期間」
・ 株式会社シー・アイ・シー「CICが保有する信用情報は,どのくらいの期間,保有されますか」
・ 全国銀行個人信用情報センター「センターの概要」
本記事は令和8年10月15日現在の法令及び公表資料を前提としています。
裁判所ごとの運用,信用情報機関の登録基準及び個別事件の取扱いは変更されることがあるため,実際の手続では最新の資料を確認します。