メインコンテンツへスキップ
       

国連憲章の敵国条項は今も使えるのか-死文化・未削除の意味と日中の公式見解(AI作成)

第1 敵国条項は残っているが,対日攻撃の一般的な許可ではない

国連憲章の敵国条項とは,第二次世界大戦の敵国への言及を含む53条,77条及び107条の規定を指す。
令和8年10月4日現在,国連が掲載する憲章本文にはその文言が残っているが,文言の残存だけから,現在の日本に対する武力行使が自由に許されると結論することはできない。

本記事は,令和8年10月4日を調査基準日として,3条文の機能,平成7年と平成17年の総会決議,憲章改正の手続及び日中の公式見解を説明する。
「死文化」は現在の適用についての評価であり,憲章本文からの正式な「削除」とは区別される。
また,日本政府は援用を否定している一方,中国外交部には有効性を主張する発信があるため,双方の説明と条文から導く法的評価を分けて読む必要がある。

第2 敵国条項とは何か-3条文の対象と機能

1 敵国条項の対象国は日本だけか

憲章53条2項は,同条1項で用いる敵国という語を,第二次世界大戦中に憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用すると定める。
日本だけを名指しした定義ではなく,現在の政治的な敵対国一般を指すものでもない。
条文自体に国名の一覧はないが,平成26年の国会で政府参考人は,日本,ドイツ,イタリア,ブルガリア,ハンガリー,ルーマニア及びフィンランドの7か国が一般に該当すると考えられると答弁している。
答弁の位置付けとドイツ政府の説明は,敵国条項の対象国は日本だけか-7か国とドイツの扱いで確認できる。

2 53条は地域的取極等による強制行動を扱う

(1) 安保理の許可を要する原則

53条1項は,地域的取極又は地域的機関による強制行動について,安全保障理事会の許可を原則とする。
地域的取極等を通じた行動の規律であり,あらゆる国のあらゆる武力行使について一律に定めた条文ではない。

(2) 敵国措置の例外とその限定

同項は,敵国に対する措置のうち,①107条に従って定められるもの,又は②敵国の侵略政策の再現に備える地域的取極で定められるものを例外とする。
この例外には,関係政府の要請に基づき国連が新たな侵略を防止する責任を負う時まで,という限定もある。
こうした文言を落とし,「旧敵国ならどの国でも任意に単独攻撃できる」と説明することは,条文の対象と条件を広げるものである。

3 77条は信託統治の対象となる地域を扱う

77条1項(b)は,第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域を,信託統治制度の対象となり得る地域の類型に含める。
1項の柱書は信託統治協定によって制度の下に置かれることを前提とし,2項は対象地域と条件を今後の協定で定めるとしている。
したがって,77条は信託統治についての規定であり,日本に対する軍事行動の許可を定めるものではない。

4 107条は第二次世界大戦の結果としての行動を保存する

107条は,第二次世界大戦中に憲章署名国の敵であった国に関する行動で,責任を有する政府がその戦争の結果として取った又は許可したものを,憲章の規定によって無効にし,又は排除しないと定める。
第二次世界大戦との結び付き,責任を有する政府及び戦争の結果としての行動という限定がある。
敵国という語だけを取り出し,現在の新たな武力行使を恒久的かつ無条件に許す規定と理解することはできない。

条文主な機能読み方の限界
53条地域的取極等による強制行動の許可原則と例外任意の単独攻撃の一般的な許可ではない。
77条信託統治の対象となり得る地域の類型武力行使の許可規定ではない。
107条第二次世界大戦の結果としての一定の行動の保存現在の新たな攻撃を無条件に許すものではない。

各条の前後の条件まで確認するには,敵国条項の条文・全文と意味-53条・77条・107条を参照されたい。

第3 敵国条項は死文化したのか-正式な削除との違い

1 平成7年の総会決議50/52

(1) 時代遅れとなったとの認識

平成7年12月11日に採択された総会決議50/52の前文は,世界の大きな変化を踏まえ,53条,77条及び107条の敵国条項が時代遅れとなったことを認識している。
英語原文は「have become obsolete」であり,日本政府が「死文化している」と説明する際の根拠となっている。
公式の採択記録は賛成155,反対0,棄権3であり,国連の公式採択報告の附属書Ⅰでは中国の賛成票も確認できる。

(2) 将来の憲章改正手続を開始する意図

同決議の本文3項は,憲章108条による改正手続を将来開始し,敵国条項を削除する意図を示している。
時代遅れとなったという認識と,削除のための手続を将来行うという内容が同じ決議に記載されており,採択当日に憲章本文から文言を削除したという意味ではない。

2 平成17年の世界サミット成果文書

平成17年9月16日に採択された総会決議60/1「2005年世界サミット成果文書」の177項は,平成7年の決議を踏まえ,53条,77条及び107条の敵国への言及を削除する決意を示した。
削除の対象として示されたのは敵国への言及であり,3条文の全体を既に廃止したという説明ではない。
この決意も,憲章改正の発効とは別の段階にある。

決議原文,中国を含む国別の投票,国連実務資料及び日本政府の説明の時系列は,敵国条項の削除決議-1995年・2005年と批准の違いで詳しく説明している。

第4 敵国条項はなぜ削除されないのか-憲章改正の手続

1 108条は総会の採択と各国の批准を求める

(1) 総会構成国の3分の2による採択

憲章108条は,改正が総会の構成国の3分の2の多数で採択されることを定める。
分母は総会の構成国であり,単に出席して投票した国の3分の2という説明ではない。

(2) 全常任理事国を含む加盟国の3分の2による批准

同条による改正は,安保理のすべての常任理事国を含む国連加盟国の3分の2が,各国の憲法上の手続に従って批准した時に効力を生ずる。
総会で削除の決意を示すだけではこの要件を満たさず,すべての常任理事国の批准が必要となる。
これは批准段階の条件であり,総会の表決に安保理と同じ拒否権があるという意味ではない。

2 日本政府の方針と未削除の原因を分ける

(1) 安保理改革と併せて削除を目指す方針

令和8年9月29日の茂木外務大臣会見では,安保理改革と併せて旧敵国条項の削除を実現するために取り組む方針が説明されている。
平成7年の決議自体も,憲章改正の複雑な過程を考慮する旨を記載しており,削除の意思を表明することと改正を実現することに隔たりがある。

(2) 特定の一国だけを原因とする説明の限界

108条の要件は改正の制度的な難しさを説明するが,それだけで削除が実現していない外交上の原因をすべて説明できるわけではない。
特定の一国による妨害を唯一の原因として述べるには,改正提案,交渉及び批准に関する記録の確認が必要である。

第5 日本政府と中国側の公式見解はどう違うか

1 日本政府は援用する余地がないとする

令和8年9月29日の茂木外務大臣会見は,平成7年の決議と,中国を含むコンセンサスで採択された平成17年の成果文書を踏まえ,いかなる国も旧敵国条項を援用する余地はないと考えると説明した。
これは日本政府の現在の見解であり,憲章本文から文言が既に削除されたとの説明ではない。
援用を否定する見解と,正式な削除を目指す外交方針は両立する。

2 中国外交部には有効性を主張する発信がある

(1) 令和8年9月2日の会見内容

駐日中国大使館が掲載した中国外交部の令和8年9月2日の会見で,郭嘉昆報道官は,憲章には敵国条項が残っており,53条,77条及び107条は依然有効であると述べた。
第二次世界大戦の敗戦国が再び国際の平和と安全への脅威となることを防ぎ,戦後秩序を維持するための特別な制度であるという説明も示している。
ここでの日本語の説明は,中国語原文の要旨である。

(2) 現在の発信と平成7年の賛成票の区別

この発信は,日本政府の援用否定と一致していない。
中国の平成7年の賛成票と令和8年の発信は時点を分けて示すべきであり,過去の賛成票から現在も同じ見解を表明していると推定することはできない。
一方,中国側が有効だと述べた事実は,その解釈の法的正当性や具体的な対日武力行使の適法性まで確定するものではない。

第6 現在の対日武力行使はどの根拠で判断するか

1 残存する文言から一般的な攻撃許可は導けない

本記事では,3条文の異なる機能と限定,2つの総会決議及び日中の公式見解を比較し,敵国への言及が残ることだけを理由として,現在の対日攻撃が自由に許されるとはいえないと整理する。
この整理は条文と確認した資料に基づくものであり,特定の武力行使について国際裁判所が適法性を判断した事例を紹介するものではない。

2 武力行使禁止,自衛権及び安保理の措置

(1) 武力行使禁止の原則

憲章2条4項は,国際関係における武力による威嚇又は武力行使の禁止を定める。
敵国条項への政治的な言及があったというだけで,この原則との関係や他の法的根拠の検討を省くことはできない。

(2) 自衛権を根拠とする場合

51条は,国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合の個別的又は集団的自衛権を扱う。
安保理が必要な措置を取るまでという文言や,措置を直ちに安保理へ報告する義務も定めており,自衛権という名称だけで行動が適法になるわけではない。
具体的な判断では,武力攻撃の有無や行動の内容などを当該根拠に即して検討することになる。

(3) 39条による安保理の判断

39条は,安保理が平和への脅威,平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し,勧告又は措置の決定を行う枠組みを定める。
ある国が安保理決議を根拠に挙げる場合には,その決議の対象,授権内容及び条件を具体的に確認する必要がある。

(4) 42条による軍事的行動

42条は,41条の措置が不充分であると認められ,又は不充分と判明した場合に,国際の平和と安全の維持又は回復に必要な軍事的行動を取ることができるとする。
安保理による軍事的行動の規定であり,各国が独自の判断だけで無条件に武力行使できるという意味ではない。

3 講和文書に関する問題との役割分担

講和後の法的状態との関係は,ポツダム宣言の現在の効力及びサンフランシスコ平和条約の法的構造を参照されたい。
また,中国政府によるサンフランシスコ平和条約違法・無効論は,敵国条項の有効論とは対象文書と争点が異なる。

第7 出典・参考資料

1 条約本文

①国連法務局「国連憲章」53条,77条,107条及び108条(英語正文の掲載)。
②同2条,39条,42条及び51条。
③国連広報センター「国連憲章テキスト」(日本語訳,令和8年10月3日掲載本文を確認,日本語は111条の正文言語に含まれないため該当条文を英語掲載本文と照合)。

2 国連総会の決議・投票記録

①国連総会「決議50/52」(平成7年12月11日採択,12月15日発行)前文及び本文3項,資料上3頁・PDF3頁,及び公式投票記録。
②国連総会「決議60/1・2005年世界サミット成果文書」(平成17年9月16日採択)177項,国連公式HTML掲載本文。

3 政府の公式会見記録

①外務省「茂木外務大臣会見記録」(令和8年9月29日)「旧敵国条項」欄の回答。
②中国外交部「2026年9月2日外交部報道官郭嘉昆定例記者会見」(駐日中国大使館掲載)環球時報の質問への回答。