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被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか―国税通則法5条の相続分による承継,遺産分割との関係,納付責任額,限定承認・相続放棄及び大阪国税局の承継マニュアル(AI作成)

第1 この記事の対象

1 対象と基準日

本記事は,被相続人が納めていなかった国税(所得税,消費税等)を相続人がどのように引き継ぐかについて,国税通則法5条の仕組み,相続人が2人以上いる場合の承継税額と納付責任額の計算,遺産分割・遺言との関係,限定承認・相続放棄・相続人不存在の場合の扱い及び相続財産への滞納処分を整理するものである。
令和8年10月1日時点で,国税通則法,国税徴収法,民法等の条文,国税庁の法令解釈通達,税務大学校の公表資料及び裁判例を確認して作成した。

2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」

本記事の出発点は,大阪国税局徴収部徴収課が令和3年7月に作成した「相続による納税義務の承継マニュアル」である。
本ブログに掲載しているPDFは,表紙・凡例・目次を含めて46枚,本文の印字頁は1頁~42頁である。
第1章(相続の意義と効果),第2章(相続による納税義務の承継),第3章(具体的な相続人調査方法)及び第4章(納税義務の承継手続)から成り,徴収職員が滞納者の死亡を把握した後に相続人を調べ,承継税額と納付責任額を計算し,相続人に通知するまでの手順を説明している。

(1) 開示されていない部分

第3章の相続開始の事実の把握と相続人等の把握の手順(20頁~21頁),相続人等の調査の具体的な流れの一部(27頁~28頁),外国籍の被相続人の相続人調査フロー(18頁),被相続人について納税の猶予等を行っている場合等の取扱い(39頁)及び承継手続の具体的な流れ(42頁)等は黒塗りである。
本記事では,黒塗りの部分の内容を推測しない。

(2) 資料の性質

このマニュアルは国税局内部の事務の手引であり,法令解釈通達そのものではない。
本記事では,マニュアルの記載を国税通則法基本通達(徴収部関係)及び国税徴収法基本通達の現在の本文と照合し,食い違う点や令和3年7月以後の改正で読み替えが要る点を第8で挙げた。

3 関連記事

相続人のあることが明らかでない場合の税金は「相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税」で,限定承認をした場合のみなし譲渡所得等は「限定承認と税金――みなし譲渡,準確定申告,相続税及び住民税」で整理している。
被相続人の死亡年分の所得税の申告は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で,生前贈与と国税徴収法39条の第二次納税義務は「相続放棄と生前贈与スキームの限界」で扱っている。

第2 相続人が引き継ぐ国税

1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費

相続(包括遺贈を含む。)があった場合には,相続人(包括受遺者を含む。)又は民法951条の相続財産法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項前段)。
相続税と違って財産を取得したことに課される税ではなく,被相続人が負っていた租税債務そのものを引き継ぐ制度である。
国税通則法基本通達(徴収部関係)は,三つの国税を次のように説明している(第5条関係4~6)。
①「課されるべき国税」は,相続開始の時において,被相続人について納付義務は成立しているが,納付すべき税額が確定していない国税である(例えば,死亡した年の所得税で申告がされていないもの)。
②「納付すべき国税」は,相続開始の時において,納付すべき税額が確定している国税である(例えば,申告済みで未納の所得税や,決定・更正を受けた税額)。
③「徴収されるべき国税」は,被相続人が源泉徴収義務者として徴収すべきであった源泉所得税等で,相続開始時までに徴収がされていないものである。

(1) 税務上の地位も引き継ぐ

承継によって,相続人は,被相続人の国税について申告,申請又は不服申立て等をする主体となり,税務署長がする更正・決定,納税の告知,督促,滞納処分及び還付の相手方となる(マニュアル14頁)。
被相続人に対して既にされていた納期限の延長,延納,納税の猶予,換価の猶予,滞納処分の停止,物納の許可,これらの申請及び担保の提供も,相続人はその状態のまま国税を承継する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係7)。

(2) 被相続人が連帯納付義務者・第二次納税義務者であった場合

マニュアルは,被相続人が他の納税者の国税について連帯納付義務,第二次納税義務又は納税保証を負っていた場合には,それらも承継の対象になるとしている(マニュアル14頁)。
連帯納付義務者の1人が死亡し,相続人が2人以上いる場合には,各相続人は相続分で按分した額について他の連帯納付義務者と連帯して納付する義務を承継するが,相続人どうしの間には連帯納付義務は生じない(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係13)。

2 誰が引き継ぐか

(1) 相続人,包括受遺者及び相続財産法人

承継するのは,民法の規定による相続人,包括受遺者及び相続財産法人である。
包括受遺者には,包括名義の死因贈与を受けた者も含まれる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係1)。
相続人がいない場合や全員が相続放棄をした場合は,相続財産法人が承継する(後記第5の3)。

(2) 特定受遺者は引き継がない

特定の財産を遺贈された者(特定受遺者)は,相続人に当たらないため,国税の納付義務を承継しない(マニュアル4頁)。
もっとも,国税徴収法基本通達第39条関係3は,国税徴収法39条の「譲渡」に特定遺贈を含めているため,被相続人の財産で滞納国税を徴収しきれないときは,特定受遺者が無償譲受人として第二次納税義務を負うことがあり得る。
マニュアルも,特定受遺者については同条の第二次納税義務の検討が必要になるとしている(マニュアル4頁)。

(3) 胎児,特別養子,同時死亡,欠格・廃除

民法上,胎児は相続については既に生まれたものとみなされるが,国税の納付義務の承継については,出生の時までは相続人でないものとして取り扱われる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係2)。
特別養子は実親との親族関係が終了するため実親の国税を承継せず,同時に死亡したと推定される者の間では相続が生じず,相続欠格・廃除によって相続権を失った者も承継しない(マニュアル4頁)。

第3 相続人が2人以上いるときの承継税額

1 法定相続分・代襲相続分・指定相続分だけで按分する

国税通則法5条2項は,「前項前段の場合において、相続人が二人以上あるときは、各相続人が同項前段の規定により承継する国税の額は、同項の国税の額を民法第九百条から第九百二条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分により按分して計算した額とする。」と定めている。
マニュアルは,民法上の相続分には特別受益者の相続分(民法903条)や寄与分(民法904条の2)を考慮したものもあるが,国税の承継に使うのは法定相続分,代襲相続分及び指定相続分の三つだけであると説明している(マニュアル30頁)。
相続人が2人以上いる場合は,この按分によって,被相続人の1個の租税債務が相続人ごとの租税債務に分かれることになる。
遺言による相続分の指定がない限り,法定相続分(代襲相続分を含む。)による(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係8-2)。

(1) 計算例

マニュアルの計算例では,被相続人の申告所得税及び復興特別所得税の本税250万円と無申告加算税12万5000円を,妻(2分の1)と子3人(各6分の1)が承継する(マニュアル31頁)。
妻の承継税額は本税125万円・無申告加算税6万2500円,子は各人が本税41万6666円・無申告加算税2万0833円となる。
按分の結果1円未満の端数が出たときは切り捨てる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第119条関係5)。
この例では本税で2円,無申告加算税で1円が誰にも承継されず,マニュアルはこの差額を不納欠損として処理するとしている(マニュアル30頁~31頁)。

(2) 計算の区分

マニュアルは,按分を,税目ごと,同じ税目でも年分・申告と更正の区分ごと,本税・加算税・延滞税等の区分ごと,猶予や滞納処分の停止の対象となっている税額とそうでない税額の区分ごとに行い,消費税と地方消費税も分けて計算するとしている(マニュアル31頁)。
消費税及び地方消費税の計算例では,消費税300万円と地方消費税84万6100円を別々に按分し,地方消費税の2円が不納欠損となっている(マニュアル32頁)。

2 遺産分割は承継税額を変えない

(1) 遺産分割協議書で負担者を決めても国との関係は変わらない

相続人の間で法定相続分と異なる遺産分割をしても,国税通則法5条2項による承継税額は変わらない(マニュアル10頁,30頁)。
例えば,「被相続人の税金は不動産を取得する長男が全部払う」と遺産分割協議書に書いても,国との関係では各相続人が相続分に応じた承継税額を負ったままである。
その条項は相続人の間の負担の取決めとしての意味を持つにとどまるため,協議書には,他の相続人が承継税額を納めた場合の求償の方法まで書いておく必要がある。

(2) 遺産分割の後に相続人や相続分が変わった場合

国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係22は,認知,胎児の出生,指定相続分の判明,遺産の分割等によって相続人,相続分又は相続財産に異動が生じても,その前に生じた承継国税及び納付責任の消滅の効果には影響しないとしている。
既に納付した分が,後から相続分が変わったことを理由に払い戻されるわけではない。

3 遺言による相続分の指定と遺留分

(1) 指定相続分・包括遺贈の割合が優先する

遺言で相続分が指定されていれば,按分は指定相続分による。
包括遺贈の割合や包括名義の死因贈与の割合も,指定相続分に含まれる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係9)。
相続分の指定を第三者に委託したが,委託を受けた者が指定をしないときは法定相続分により(同11),遺言の効力に争いがあるなどで指定相続分が明らかでないときも法定相続分による(同12)。

(2) 遺留分を侵害する指定でも指定相続分による

国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係10は,相続分の指定が民法の遺留分に関する規定に違反していても,指定相続分によるとしている。

(3) 東京地裁平成25年10月18日判決

東京地裁平成25年10月18日判決(平成24年(行ウ)第104号)は,被相続人の遺産を他の相続人らに「相続させる」旨の遺言について,遺言に記載のない相続人(孫)の相続分を零と定める限度で相続分の指定があるとし,その相続人が承継する被相続人の所得税の額は,所得税の額に零を乗じた0円であるとした。
税務署長は法定相続分(10分の1)で按分した額の承継を前提に決定処分をし,国税不服審判所の裁決は遺留分減殺請求によって指定相続分が20分の1に修正されたとしたが,同判決は,遺留分減殺請求によって取り戻された権利は遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないから,指定相続分は修正されないとして,決定処分のうち0円を超える部分と無申告加算税の賦課決定を取り消した。
この判決が確定したことは,同じ被相続人の所得税に関する東京地裁平成29年8月30日判決(平成24年(行ウ)第185号)の前提事実に記載されている。

(4) 令和元年7月1日以後に開始した相続

民法の改正により,遺留分侵害額請求は,受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。)又は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めるものになった(民法1046条1項)。
遺留分侵害額請求によって相続分の指定そのものが変わるわけではないから,令和元年7月1日以後に開始した相続では,遺留分侵害額請求があっても承継税額の割合は指定相続分のままになると考えられる。

(5) マニュアルの表の読み方

マニュアルは,遺産の3分の2を第三者に遺贈した例で,妻と子の「侵害額請求後の相続分」を表にしている(マニュアル9頁)。
しかし,同じマニュアルの用語集も「遺留分侵害額請求権は、金銭債権である」としており(マニュアル6頁),この表は遺留分の額を説明するものと読むべきである。
国税の承継税額は,前記の通達と東京地裁平成25年10月18日判決のとおり,遺留分侵害額請求の前後で変わらない。

(6) 一般の相続債務との違い

一般の相続債権者に対しては,相続分の指定があっても,債権者は法定相続分に応じて権利を行使することができ,債権者が指定相続分に応じた債務の承継を承認したときに限って指定相続分によるとされている(民法902条の2)。
これに対し,国税は,国税通則法5条2項が民法902条の指定相続分によると定めているため,遺言で相続分が指定されると,国の承認を待たずに指定相続分で承継税額が決まる。
前記の税務大学校論叢の論文は,国税通則法5条2項の前身の規定が相続分の指定の効果は相続債務にも及ぶという民法の学説を参考にしたこと,その後の学説・判例はこれと異なることを指摘した上で,全ての場合に法定相続分により承継させる方向での見直しを提案している。
同論文には,内容は個人的見解であり,税務大学校や国税庁等の公式見解を示すものではない旨の注記がある。

第4 納付責任額

1 相続で得た財産が承継税額より多い相続人の責任

相続人のうちに,相続によって得た財産の価額が自分の承継税額を超える者があるときは,その相続人は,超える価額を限度として,他の相続人が承継した国税を納付する責任を負う(国税通則法5条3項)。
マニュアルは,この規定の趣旨を,被相続人の財産のいずれにも滞納処分ができたはずなのに,相続によって財産が切り離され,資力のない相続人にも納付義務が承継されたために国税の徴収が困難になることを防ぐことにあると説明している(マニュアル32頁)。

(1) 「相続によって得た財産の価額」

国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係14は,相続があった時におけるその相続により承継した積極財産の価額によるとしている。
マニュアルは,遺産分割の後であれば遺産分割によって現実に得た財産の価額,遺産分割の前であれば総遺産の価額に相続分を乗じた額によるとし,相続した債務は考慮しないとしている(マニュアル32頁)。
被相続人を被保険者とする生命保険金で特定の相続人が受取人に指定されているものは,相続によって得た財産に当たらない(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係8(注))。

(2) 延滞税・利子税

承継した国税に併せて納付すべき延滞税や利子税も,「同項の規定により計算した国税」に含まれる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係15)。

2 マニュアルの計算例

マニュアルの計算例では,被相続人の滞納国税が900万円で,妻と子3人(A・B・C)が遺産分割により次の財産を取得した(マニュアル33頁)。
①不動産500万円(妻),②株式300万円(子A),③預金150万円(子B),④預金100万円(子C),⑤借入金100万円(妻)。

相続人法定相続分取得財産の価額承継税額納付責任額
妻2分の1500万円450万円50万円
子A6分の1300万円150万円150万円
子B6分の1150万円150万円0円
子C6分の1100万円150万円0円

承継税額は遺産分割にかかわらず法定相続分で計算され,納付責任額は取得財産の価額から承継税額を差し引いた額となる。
妻が相続した借入金100万円は,納付責任額の計算では差し引かれていない。
子Cは取得財産(100万円)を超える承継税額(150万円)を負うが,単純承認をしている限り,その差額も子C自身の固有財産から納める義務がある。

3 他の相続人が納めた場合の納付責任

相続人の1人が承継税額の全部又は一部を納めたときは,他の相続人の納付責任は,その納付責任の基因となった国税の残額の範囲内でなお存続する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係17)。
マニュアルの例では,A(取得財産50万円・承継税額30万円・納付責任額20万円),B(同50万円・30万円・20万円),C(同25万円・15万円・10万円)のうち,Aが30万円を納めると,Bの納付責任はCの承継税額15万円の範囲に縮んで15万円となり,A・Cの納付責任は変わらない(マニュアル34頁)。
その後にBが26万円を納めると,Bの承継税額の残りは4万円となるから,Aの納付責任は19万円(Bの4万円とCの15万円の合計),Cの納付責任は4万円となる(マニュアル35頁)。

4 相続税の連帯納付義務とは別の制度

相続人が2人以上いる場合の相続税については,相続税法34条の連帯納付義務がある。
国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係18は,国税通則法5条3項は相続税法34条2項の適用を受ける相続税又は贈与税には適用されないとし,両方が問題となる場合に相続人が負う総額は,相続によって得た財産の価額から承継税額を控除した額を限度とするとしている。
被相続人の生前の未納所得税等(国税通則法5条)と,相続人自身に課される相続税(相続税法34条)とは,分けて検討する必要がある。

第5 限定承認・相続放棄・相続人不存在

1 限定承認

(1) 承継税額は減らず,責任が相続財産に限られる

相続人が限定承認をしたときは,その相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ承継した国税を納付する責任を負う(国税通則法5条1項後段)。
マニュアルは,納税義務自体は全額承継されるが,その責任が相続財産に限定されるため,国は相続人の固有財産に対して滞納処分をすることができず,相続財産をすべて充てても足りない部分は「責任なき債務」となると説明している(マニュアル14頁~15頁)。
承継税額800万円,相続財産500万円の例では,固有財産500万円には滞納処分ができず,300万円は徴収困難となる(マニュアル15頁)。
国税徴収法基本通達第51条関係3も,限定承認があったときは,被相続人の国税によって相続人の固有財産が滞納処分を受けることはないとしている。

(2) 「相続によって得た財産」

限定承認の場面の「相続によって得た財産」は,相続によって被相続人から承継した積極財産(遺贈の目的となった財産を含む。)であり,相続財産から生じた果実等も含まれる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係8)。

(3) 繰上請求と納付義務の消滅

納税者が死亡し,相続人が限定承認をしたときは,税務署長は,納期限までに完納されないと認められる国税について,納期限を繰り上げて納付を請求することができる(国税通則法38条1項2号。マニュアル15頁)。
また,相続財産に滞納処分をすることができないときは,滞納処分の停止をした上で,3年の経過を待たずに納付義務を直ちに消滅させることができる(国税徴収法153条5項,国税徴収法基本通達第153条関係16(1))。
限定承認の申述が受理されただけで未納の国税が消えるわけではなく,相続財産の換価と弁済を終えた後に,所轄の税務署と停止・消滅の扱いを確認することになる。

2 相続放棄

(1) 放棄をすれば承継しないが,生前贈与には注意する

相続放棄をした者は,その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるため,被相続人の国税を承継しない。
国税徴収法基本通達第51条関係3も,相続の放棄をした者については被相続人の国税を承継しないことを前提としている。
ただし,被相続人から生前に財産の贈与を受けていた場合には,相続放棄をしても,国税徴収法39条の無償譲受人等の第二次納税義務を負うことがある(「相続放棄と生前贈与スキームの限界」参照)。
相続放棄の期間は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月であり,家庭裁判所に伸長を求めることもできる(民法915条1項)。

(2) 熟慮期間の起算点に関する最高裁判例

マニュアルは,熟慮期間に関する最高裁判例として次の2件を挙げている(マニュアル12頁,21頁)。
最高裁第二小法廷昭和59年4月27日判決(昭和57年(オ)第82号,民集38巻6号698頁)は,相続人が相続財産が全く存在しないと信じ,かつ,そう信じたことに相当な理由があると認められるときは,熟慮期間は,相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算するとした。
最高裁第二小法廷令和元年8月9日判決(平成30年(受)第1626号,民集73巻3号293頁)は,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人(再転相続人)について,民法916条の熟慮期間は,その者が,死亡した者からの相続により,死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時から起算するとした。
被相続人の滞納税を知らずに3か月を過ぎた場合の扱いは,「相続放棄の3か月はいつからか」で整理している。

3 相続人不存在・全員の相続放棄

(1) 相続財産法人が承継し,清算中でも滞納処分ができる

相続人のあることが明らかでないとき(戸籍上の相続人がいない場合や全員が相続放棄をした場合)は,相続財産法人が被相続人の国税を承継し,家庭裁判所が選任した相続財産清算人が,申告・納付や税務署の確定手続・徴収手続の当事者となる(マニュアル15頁)。
マニュアルは,国も利害関係人として相続財産管理人(令和5年4月1日施行の民法改正後は相続財産清算人)の選任を請求することができるとしている(マニュアル15頁)。
相続財産法人の清算中で債権申出期間内であっても,相続財産に対しては滞納処分をすることができる(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係21)。
相続財産法人に滞納処分をすることができる財産がないときは,滞納処分の停止をした上で納付義務を直ちに消滅させることができる(国税徴収法基本通達第153条関係16(2))。
清算人の報酬と国税との優劣等は,「相続財産清算人と税金」で整理している。

(2) 行方不明の相続人がいる場合

マニュアルは,戸籍上の相続人はいるが生死不明又は行方不明である場合は「相続人のあることが明らかでないとき」に当たらないとしている(マニュアル15頁)。
その根拠として挙げられている東京高裁昭和50年1月30日決定(昭和49年(ラ)第109号,判例秘書の判例番号 L03020047)は,民法951条の「相続人のあることが明らかでないとき」は相続人の存否が不明である場合をいい,相続人の生死不明や行方不明はこれに含まれないとした。
同決定は,被相続人の母が相続人として存在し,その生死と所在が不明であっただけの事案について,母について失踪宣告又は不在者の財産管理の手続をとるのは別として,相続人の存否が不明であるとはいえないとして,相続財産管理人の選任の審判を取り消した審判を正当とし,特別縁故者への財産分与の審判を取り消して分与の申立てを却下した原審判に対する抗告を棄却した。
このような場合,被相続人の国税は行方不明の相続人に承継され,相続財産清算人ではなく,不在者財産管理人の選任や失踪宣告によって手続を進めることになる。

第6 相続財産に対する滞納処分

1 単純承認をした相続人の固有財産

単純承認をした相続人は,承継した国税の範囲で,相続人自身の固有財産に対しても滞納処分を受け得る(マニュアル19頁)。
もっとも,徴収職員は,滞納処分の執行に支障がない限り,まず相続財産を差し押さえるように努めなければならず(国税徴収法51条1項),相続人は,固有財産が差し押さえられた場合に,換価が容易で第三者の権利の目的となっていない相続財産を提供して差押換えを請求することができる(同条2項)。
差押換えの請求は,差し押さえられた固有財産の公売公告の日(随意契約による売却の場合は売却決定の時)までに書面でしなければならない(国税徴収法基本通達第51条関係7)。

2 遺産分割前の相続財産

遺産分割前の相続財産は共同相続人の共有となるため,滞納処分は,原則として各相続人の持分を差し押さえる方法による(マニュアル19頁)。
預貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる(最高裁大法廷平成28年12月19日決定,平成27年(許)第11号,民集70巻8号2121頁)。
マニュアルはこれを「平28.12.19最高判」と表記しているが,大法廷の決定である。

3 差押えの後の遺産分割

遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生ずるが,第三者の権利を害することはできない(民法909条)。
そのため,例えばAとBが各2分の1で共有する土地の持分を差し押さえた後に,遺産分割でAが土地を取得することになっても,Bの持分に対する差押えは解除されない(マニュアル30頁)。
また,相続による権利の承継は,遺産分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない(民法899条の2第1項)。
マニュアルは,この点を民法177条と最高裁第三小法廷昭和46年1月26日判決(昭和45年(オ)第398号,民集25巻1号90頁)で説明しているが,令和元年7月1日施行の相続法改正の後は,民法899条の2が根拠条文となる。
遺産分割で不動産を取得した相続人は,速やかに相続登記をしないと,分割後に法定相続分でされた差押えに対抗できないことになる。

第7 相続人の調査と通知

1 国税側の相続人調査

(1) 戸籍の「証明期間」をつなぐ

マニュアルは,滞納者の死亡を把握した場合は速やかに相続人調査を開始するとし,戸籍について,現行戸籍だけでなく除籍及び改製原戸籍を集め,「戸籍による証明期間」をつなぎながら出生から死亡までを確認する方法を説明している(マニュアル20頁~26頁)。
調査対象者の入籍事由の日と戸籍の作成日を比べて証明期間の始期を判断し,除籍事由の日(又は除籍前の改製の日)を終期とするという読み方は,弁護士が相続人調査をするときもそのまま使える(マニュアル25頁)。
第1順位の代襲相続は孫・ひ孫へと続くこと(民法887条3項),兄弟姉妹の代襲相続は子の1代に限られること(民法889条2項)も,調査の注意点として挙げられている(マニュアル27頁~28頁)。

(2) 外国籍の被相続人

相続は被相続人の本国法による(法の適用に関する通則法36条)。
マニュアルは,被相続人が外国籍の場合はその国の相続法によって承継者と承継割合が決まり,被相続人が日本国籍であれば相続人が外国籍でも日本の民法によるとしている(マニュアル16頁)。
韓国籍の被相続人については,相続人の順位,相続放棄,家族関係登録簿の証明書等を説明しているが,証明書の取得方法の一部は黒塗りである(マニュアル16頁~18頁)。
在日韓国人の相続人調査は,「在日韓国・朝鮮人の相続人調査」で整理している。

2 相続人への通知

相続人が2人以上いるときは,更正決定等,納税の告知及び督促は,各相続人が承継した国税について各別にしなければならず,納付責任については「通則法第5条第3項の規定による納付の責めがある」旨の文言を記載する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係19)。
マニュアルが載せる「相続による納税義務承継通知書」の記載例も,相続人ごとに作成し,あなたが相続により得られた財産の価額を限度として他の相続人の承継分も納付しなければならない旨を記載している(マニュアル40頁~41頁)。
被相続人の死亡前に督促がされていた国税について相続人の財産を差し押さえる場合には,緊急を要する場合等を除き,あらかじめ相続人に承継税額と納付責任額を催告する取扱いである(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係20)。

第8 マニュアルを読むときに注意する点

1 令和3年7月以後の改正等

マニュアルは令和3年7月の作成であり,次の点は現在の法令・通達で読み替える必要がある。
①相続人のあることが明らかでない場合の「相続財産管理人」(民法952条)は,令和5年4月1日施行の民法改正により「相続財産清算人」に改められた。
②限定承認をした相続人が数人ある場合に家庭裁判所が選任する者も,同じ改正により「相続財産の清算人」となった(民法936条1項)。
マニュアルはこれを「相続財産の管理人」とし,根拠を「民936②」としているが,選任を定めるのは同条1項である(マニュアル15頁)。
③限定承認に係る国税の納付義務を直ちに消滅させる場合として,マニュアルは「徴基通153-15」を挙げているが,現在の国税徴収法基本通達では第153条関係16である(第153条関係15は3年間の継続による消滅である。)。

2 表記の誤り等

④預貯金を遺産分割の対象とした最高裁平成28年12月19日の裁判は,大法廷決定である(前記第6の2)。
⑤遺産分割による法定相続分を超える権利の取得の対抗要件は,現在は民法899条の2による(前記第6の3)。
⑥「侵害額請求後の相続分」の表は,承継税額の割合が変わることを意味しない(前記第3の3)。

第9 相続人の側の実務の手順

被相続人に未納の国税があるか,又はありそうな相続では,次の順で検討すると漏れが少ない。
①被相続人の申告状況と未納の有無を確かめる(被相続人の申告書の閲覧は「被相続人の生前申告書は相続人が単独で閲覧できるか」を参照)。
②熟慮期間(3か月)の中で,単純承認・限定承認・相続放棄を選ぶ。
③遺言があれば,指定相続分や包括遺贈の割合を確かめる(承継税額の割合がこれで決まる。)。
④相続人ごとに承継税額と納付責任額を試算する(遺産分割をしても承継税額は変わらない。)。
⑤遺産分割協議書には,税金を負担する者と,他の相続人が納めた場合の求償の方法を書く。
⑥死亡した年の所得税は,相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をする(所得税法124条,125条)。
⑦納付が難しいときは,差押えを受ける前に所轄の税務署に納付の方法を相談する。

第10 出典

1 法令

① 国税通則法(5条,38条)
② 国税徴収法(39条,51条,153条)
③ 民法(887条,889条,899条の2,900条~902条の2,909条,915条,916条,936条,939条,951条,952条,1046条)
④ 相続税法(34条)
⑤ 所得税法(124条,125条)
⑥ 法の適用に関する通則法(36条)
e-Gov法令検索は令和8年10月1日にシステムメンテナンス中で利用できなかったため,条文は判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在)で確認した。

2 通達

① 国税庁・国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係
② 国税庁・国税通則法基本通達(徴収部関係)第119条関係
③ 国税庁・国税徴収法基本通達第39条関係
④ 国税庁・国税徴収法基本通達第51条関係
⑤ 国税庁・国税徴収法基本通達第153条関係

3 裁判例

① 最高裁第三小法廷昭和46年1月26日判決・昭和45年(オ)第398号・民集25巻1号90頁
② 最高裁第二小法廷昭和59年4月27日判決・昭和57年(オ)第82号・民集38巻6号698頁
③ 最高裁大法廷平成28年12月19日決定・平成27年(許)第11号・民集70巻8号2121頁
④ 最高裁第二小法廷令和元年8月9日判決・平成30年(受)第1626号・民集73巻3号293頁
⑤ 東京地裁平成25年10月18日判決・平成24年(行ウ)第104号
⑥ 東京地裁平成29年8月30日判決・平成24年(行ウ)第185号
⑦ 東京高裁昭和50年1月30日決定・昭和49年(ラ)第109号(判例秘書の判例番号 L03020047,裁判所HP未掲載,判例秘書で全文を確認した)

4 公的資料

① 大阪国税局徴収部徴収課「相続による納税義務の承継マニュアル」(令和3年7月)
② 前田純武「遺留分減殺請求と納税義務の承継」税務大学校論叢90号(平成29年6月)

第11 今後掘り下げる事項

本記事はマニュアルの公開部分と通達を中心にまとめたものであり,次の事項は別に掘り下げる予定である。
①テーマ:地方税(住民税,固定資産税,国民健康保険税等)の承継。
未検討点:地方税法9条の承継割合・納付責任と国税通則法5条との異同,市町村の実務。
②テーマ:相続人が承継税額を争う方法。
未検討点:相続人が申告しなかった場合の決定処分(東京地裁平成25年10月18日判決の事案)と,準確定申告後の更正処分(東京地裁平成29年8月30日判決は,更正処分が確定するのは被相続人に課されるべき所得税の額であるとして,各相続人の承継税額部分の取消しを求める訴えを却下した。)とで,争い方がどう違うか。
③テーマ:被相続人の承継国税についての換価の猶予・納税の猶予。
未検討点:マニュアルの黒塗り部分(39頁)に相当する取扱いの公表資料,相続人が猶予を申請する場合の要件と添付書類。
④テーマ:相続財産清算人・不在者財産管理人がいる場合の承継通知の宛先と手続。
未検討点:相続財産清算人の選任前に承継の決議をする場合の扱い(マニュアル38頁)と,選任申立ての実情。