借地上建物を譲渡担保に供して所有権移転登記をした後、土地が第三者へ譲渡され、その第三者が所有権移転登記を備えた場合の借地権の対抗力について、最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決を基に整理する。
第1 判決の結論
最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決(昭和60年(オ)第1496号)は、土地取得者が所有権移転登記を備えた時点で、借地人が借地上建物について自己名義の登記を有していなかった以上、借地人は旧建物保護法1条により借地権を土地取得者へ対抗できないとした。
借地人が後に被担保債務を弁済し、譲渡担保権者から建物名義を回復しても、土地取得者に対する関係で当然に過去へ遡って対抗力を回復するものではない。他方、土地取得者がいわゆる背信的悪意者に当たるか、その明渡請求等が権利濫用となるかについては、更に審理させるため事件を差し戻した。
第2 事案の時系列
判決理由から把握できる主要な時系列は、次のとおりである。
① 昭和52年、借地人は土地を賃借し、借地上建物について自己名義の保存登記を備えた。
② 昭和57年1月27日、借地人は債務を担保するため建物を譲渡担保に供し、譲渡担保権者へ所有権移転登記をした。
③ 同年8月30日、土地取得者は土地について所有権移転登記を備えた。
④ 同年10月、借地人は被担保債務を弁済した。
⑤ 同年10月29日、建物の所有権移転登記が抹消され、借地人名義が回復した。
この事案では、土地取得者が登記を備えた③の時点で、借地上建物の登記名義が誰にあったかが決定的である。⑤の回復登記だけを見て対抗力を判断してはならない。
第3 基準時は土地取得者が登記を備えた時点である
借地権の対抗力は、土地取得者との優劣が問題となる時点で判定する。借地上建物の登記が対抗要件として機能する制度では、建物が存在するだけでなく、誰の名義で登記されていたかを登記事項証明書の履歴から確認する。
契約締結時又は訴訟提起時に借地人名義であっても、それだけでは足りない。土地所有権の移転登記時に名義が第三者へ移っていれば、その時点の対抗力が問題となる。
第4 譲渡担保による所有権移転登記
譲渡担保は、債権担保を目的として目的物の所有権を形式上移転する仕組みである。しかし、借地権の公示を第三者に対抗する場面では、内部的な担保目的だけでなく、外部に現れた登記名義が重要となる。
融資契約又は担保契約に「実質的所有者は借地人である」と記載されていても、土地取得者がその内部関係を当然に引き受けるとは限らない。借地上建物を担保に供する前に、土地所有者の承諾、借地契約上の制限、登記名義が借地権の対抗力へ与える影響及び代替担保を検討する。
第5 弁済と抹消登記は当然に遡及しない
借地人が被担保債務を弁済し、建物の所有権移転登記が抹消されても、土地取得者が既に登記を備えた時点の法律関係が当然に遡って変更されるわけではない。
実務では、債務弁済日、抹消登記申請日、登記完了日及び土地取得者の登記日を区別する。弁済により内部関係で担保権が消滅した時点と、外部から確認できる登記名義が回復した時点も同じとは限らない。
第6 差戻審に残された背信的悪意者・権利濫用
最高裁は、借地権の対抗力を否定しただけで事件を最終決着させず、土地取得者がいわゆる背信的悪意者に当たるか、その請求が権利濫用となるかについて審理を尽くさせるため差し戻した。
対抗要件を欠くことと、相手方の請求があらゆる事情の下で当然に認容されることは同じではない。土地取得者の認識、取得経緯、借地人との交渉、建物利用状況、取得価格、担保関係への関与その他の具体的事情を主張立証する必要がある。
ただし、背信的悪意者又は権利濫用の主張は、対抗要件を欠く全事件で認められる一般的な救済ではない。本判決が差戻しを命じたことから、個別事情の審理が必要であると理解すべきである。
第7 現行法との関係
本判決は旧建物保護法1条を適用したものである。現在の事件では、借地借家法10条、施行日及び経過措置を確認し、旧法の条文をそのまま引用しない。
他方、土地取得者が対抗要件を具備した時点を固定すること、後日の名義回復が当然に遡及するとは限らないこと、対抗力と背信的悪意者・権利濫用を分けて検討することは、現在の相談・訴訟でも重要な審査手順である。
第8 相談・訴訟で確認する資料
① 土地賃貸借契約書、更新契約書及び承諾書
② 土地・建物の閉鎖事項を含む登記事項証明書
③ 建物の建築時期、所有者及び利用状況を示す資料
④ 金銭消費貸借契約書、譲渡担保契約書及び被担保債権の資料
⑤ 弁済日、抹消登記申請日及び登記完了日を示す資料
⑥ 土地取得者の売買契約書、重要事項説明書及び現地確認資料
⑦ 土地取得者が借地・担保関係を知っていたことを示す交渉記録
⑧ 明渡請求前後の通知、回答、録音及び和解提案
資料を集めた後、日付、主体、法律行為、登記、相手方の認識及び証拠を一行ずつ並べた時系列表を作成する。
第9 契約・登記実務への示唆
借地上建物を譲渡担保に供する場合、建物登記名義の移転が借地権の対抗力へ影響し得る。借地人側は、融資実行前に借地契約と登記リスクを確認し、名義移転を伴わない担保手段の可否、土地所有者の承諾及び早期抹消の仕組みを検討する。
土地取得者側は、土地登記だけでなく、現地の建物、占有者、建物登記名義、賃貸借契約及び担保登記の経緯を確認する。対抗要件を欠くように見えても、取得経緯によって背信的悪意者又は権利濫用が争われる可能性を織り込む。
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第11 参考資料
① 最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決(昭和60年(オ)第1496号)
② 富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)―平成元年度―」判例時報1353号(二次資料)
③ 裁判所・裁判例検索
(本記事はAIが作成した一般的な解説であり、個別事件に対する法的助言ではない。具体的事件では、最新の法令、土地・建物登記、借地契約、担保契約、後続判例及び経過措置を確認する必要がある。)