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中国製AIの利用は弁護士の守秘義務に違反するか―DeepSeekと利用形態別の判断(AI作成)

第1 中国製AIであることだけでは守秘義務違反にならない

1 結論と本記事の対象

中国で開発されたAIを利用すること自体は,当然に弁護士の守秘義務違反となるものではない。違反の成否は,AIの開発国ではなく,①職務上知り得た秘密を入力したか,②事業者又は第三者がその情報を閲覧,保存,学習利用若しくは再提供できるか,③利用の必要性及び正当な理由があるか,④弁護士が契約上・技術上の安全措置を確認したかによって決まる。

したがって,学習利用を停止し,事業者によるアクセスを正当な理由のある範囲に限定し,暗号化,保存期間及び削除を確認したサービスを,委託その他の適法な構成で利用することは,中国製であるか否かを問わず,守秘義務と両立し得る。学習オフ設定のClaudeコード及びGoogle AI Ultraの利用と弁護士の守秘義務が述べる結論も,個別サービスの公開条件を東京弁護士会の五つの選定基準へ当てはめた結果であり,本記事はその判断枠組みを変更するものではない。

DeepSeekの一般消費者向けクラウドサービスについても,令和8年8月20日現在のプライバシーポリシーは,①設定によって入出力のモデル訓練利用を停止できること,②不正なアクセス,使用又は開示を防ぐ安全措置,③保存・送信時の暗号化,④利用者による対話履歴の削除を公表している。したがって,学習停止設定を実際に適用し,学習以外に残るサービス最適化及び事業者アクセスが正当なサービス提供目的に限定されることを確認し,業務アカウント及び端末を適切に管理し,依頼者の同意を得て利用する場合は,DeepSeekの一般版も適法かつ安全に運用できる余地がある。

ただし,DeepSeekの一般版はゼロデータリテンションではなく,対話履歴の表示,安全確保及び法令対応等のための保存・処理が残る。また,中国国内での保存と中国法上の提供経路は,個人情報保護法上把握すべき外的環境である。インサイダー情報,未公表の企業買収,重大な刑事事件の供述その他の極めて秘匿性の高い情報は,一般版へ入力せず,完全ローカル,専用環境又は入力を保存しない契約形態を使い分けるべきである。

2 「中国製AI」に含まれる四つの異なる利用形態

「中国製AI」という表現は,少なくとも四つの異なる利用形態を含む。①中国事業者が運営するウェブサイト又はアプリ,②中国事業者のAPI,③国内事業者又は企業専用環境に組み込まれた中国製モデル,④公開されたモデルウェイトを弁護士側の端末又はサーバで動かすローカル実行である。同じモデル名を用いていても,秘密情報の送信先とアクセス可能者は異なるため,これらを一括して適法又は違法と評価することはできない。

本記事は,弁護士の守秘義務一般については弁護士の守秘義務に委ね,中国製の生成AIに秘密を入力する場面に絞って検討する。記事の対象は弁護士による業務利用であり,依頼者が自らAIへ相談内容を入力した場合に日本法上の秘匿特権が失われるかという問題は,外国裁判例を理解するために必要な範囲でのみ扱う。

第2 弁護士法上は個人情報より広い「秘密」が保護される

1 弁護士法23条と職務基本規程23条

弁護士法23条は,弁護士又は弁護士であった者について,職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定める。弁護士職務基本規程23条は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用することを禁止している。

保護対象は,依頼者の氏名や住所等の個人情報に限られない。法人の営業情報,相手方や証人の秘密,証拠に対する評価,和解条件,訴訟方針,相談したという事実及び受任に至らなかった相談も,職務上知り得た秘密となり得る。また,弁護士法23条は弁護士であった者にも義務を課しているため,事件終了又は登録取消しだけで義務が消えるものではない。

2 現実に人が読まなくても「漏らす」と評価され得る

日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第3版』60頁は,「漏らす」には特定の少数者への開示も含まれ,相手が他へ伝えないと約束した場合も原則として同様であると説明する。同頁が紹介する日弁連綱紀委員会平成23年11月16日議決(議決例集14集155頁)は,勤務先の個人用メールアドレスへ送信した情報について,メールサーバ上の記録を管理者が管理・点検できる状態に置けば,管理者が現実に閲覧したかどうかにかかわらず秘密漏示となり得るとした。

この考え方からすれば,AI事業者が入力を独自のモデル改善その他の利用者の委託目的を超える用途に使える場合や,正当な理由なく人的に閲覧できる場合に,弁護士が秘密を事業者の管理領域へ送る行為は,現実の再出力又は人手閲覧が確認されなくても「漏らす」と評価される可能性がある。

他方,学習利用が停止され,アクセスが応答生成,不正利用監視その他の正当なサービス提供目的に限定され,暗号化,保存期間,削除及び再委託が統制されている場合は,個人情報保護法上の委託として整理できることがあり,通常の安全なメール,クラウド又は外部委託と同様,事業者の処理領域へ送信したことだけで秘密を第三者へ漏らしたとはいえない。不正利用監視等のために限定的な確認可能性が残ることも,それ自体で守秘義務違反を意味するのではなく,そのアクセスに正当な理由があり,契約及び運用上限定されているかを確認すべき問題である。

3 故意の漏示でなくても管理義務が残る

弁護士職務基本規程23条の「漏らす」について故意を重視する見解を採る場合でも,無料版と企業版を取り違えたこと,学習停止設定又は規約を確認しなかったことが当然に免責されるわけではない。同規程18条の事件記録管理,個人情報保護法上の安全管理措置,民法644条の善管注意義務及び弁護士法56条1項の懲戒責任が別に問題となるからである。

刑法134条1項は,弁護士等が正当な理由なく業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らした場合を処罰する。ただし,日本で生成AIへの入力に同条又は弁護士法23条を直接適用した公刊裁判例は,令和8年8月20日現在,確認できない。そのため,現在の評価は条文,職務基本規程,既存の綱紀・懲戒例及び一般のクラウド利用に関する規律から行うことになる。

第3 個人情報保護法上は委託とクラウド例外を分けて考える

1 委託構成とクラウド例外

個人情報保護法27条5項1号は,利用目的の達成に必要な範囲で個人データの取扱いを委託することに伴って提供される場合,提供先を第三者に該当しないものとしている。個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)は,契約の形態を問わず,他の者に個人データの入力,編集,分析又は出力等を行わせることが委託となり得ることを示す。生成AI事業者の処理を応答生成等の委託目的に限定し,学習その他の独自利用を停止している場合は,この委託構成を採り得る。

これとは別に,個人情報保護委員会の個人情報保護法Q&A 7-53は,クラウド事業者が契約条項及びアクセス制御によって保存された個人データを取り扱わないこととなっている場合,クラウドへの保存が個人データの提供にも委託にも当たらない場合があるとする。いずれの構成でも,個人情報保護法23条の安全管理措置として,データを保存する外国の制度等の外的環境を把握する必要があり,委託構成では同法25条に基づく委託先の監督も必要となる。

反対に,AI事業者が入力をモデル訓練その他の委託目的を超える独自目的に使用する場合は,単に委託又は「クラウドへ預けただけ」と評価できるとは限らない。個人情報保護委員会も,生成AIサービスの利用に関する注意喚起において,本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力する場合は,事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている。同注意喚起は匿名化を一律の要件としているのではなく,事業者による目的外の取扱いを防ぐことを求めている。

2 個人情報保護法に適合しても守秘義務違反は残り得る

個人情報保護法が主として個人に関する情報を対象とするのに対し,弁護士の守秘義務は,法人の営業情報,訴訟戦略及び匿名の相談内容にも及び得る。したがって,個人データの第三者提供に該当しないという結論から,弁護士の秘密をAIへ入力してよいという結論を導くことはできない。

また,サーバの物理的な所在だけで外国第三者提供の成否が決まるわけではない。委託に伴う提供又はクラウド例外に該当すれば,外国事業者が関与することだけで個人情報保護法28条の本人同意が必要になるわけではないが,安全管理措置として外国の制度等を把握する必要は残る。外国事業者が日本国内のサーバに保存された個人データを取り扱う場合や,日本事業者を介して外国の推論APIへ情報が送られる場合もあるため,契約当事者,実際のデータ処理者及び再委託先を確認する必要がある。

第4 DeepSeekの現行規約から確認できるデータ処理

1 一般向けサービスでは入力と出力が保存・利用される

DeepSeekのプライバシーポリシーは,令和8年2月10日を更新日及び施行日とし,ウェブ,アプリ,ミニプログラム,SDK及びAPI等を対象としている。同ポリシーは,対話時に入力されたテキスト,画像,ファイル及び音声等を収集・計算すること,対話履歴を表示するため保存すること,サービス提供,安全確保及び運用分析等に利用することを記載している。

同ポリシーは,入力及び対応する出力を,暗号化及び非識別化を前提としてモデル訓練及びサービス最適化に利用することがあるとし,製品内の「データを体験の最適化に利用する」との設定をオフにすればモデル訓練への利用を停止できるとしている。また,中国国内での運営中に収集した個人情報を中国国内に保存し,対話履歴は利用者に履歴を表示するため保持する旨を記載する。

同ポリシーは,業界標準に沿った安全措置,不正なアクセス・使用・開示を防ぐための制度及び技術,保存・送信時の暗号化を公表している。また,利用者は,個別の履歴又は全ての対話履歴を削除でき,必要な保存期間を超えた個人情報は,法定保存等の例外を除き,削除又は匿名化するとされている。これらは,東京弁護士会の五つの選定基準のうち,暗号化,アクセス管理及び利用者による削除を検討するための公表事項である。ただし,事業者内部のアクセス権限及び承認手続の詳細は,この一般向けポリシーだけでは明らかでない。

2 学習オフは全ての処理を止める設定ではない

モデル訓練への利用停止は重要な統制であるが,推論のための処理,対話履歴の保存,不正利用の監視,障害解析,法令に基づく保存及び政府主管部門の強制的要求への対応まで停止するものではない。同ポリシー自体も,ネットワークログの収集,安全性・違法行為の分析,法令・訴訟・政府主管部門の強制的要求がある場合の開示及び一定の法定保存を記載している。

したがって,「学習に使われない」ことと「事業者が秘密へ一切アクセスできない」ことは同義ではない。ただし,正当な理由のある安全監視等のために限定的なアクセス可能性が残ることは,直ちに不適法を意味しない。重要なのは,品質向上等の独自利用が停止され,残るアクセスの目的,範囲及び保存期間が限定されていることである。DeepSeekの設定説明は,オフにした後の入出力をモデル訓練へ利用しないことを明記する一方,「サービスの最適化」その他の処理が同じ設定でどこまで停止するかを同じ明確さでは示していないため,秘密情報を入力する場合はこの点を追加確認する必要がある。

3 APIであることだけでは安全性を証明できない

DeepSeekのオープンプラットフォームサービス規約は,開発者に対し,エンドユーザーの個人情報を処理する法的根拠及び必要な同意を確保すること等を求める。しかし,公開されている一般規約だけから,依頼者秘密について,①モデル訓練へ利用しないこと,②正当な理由のない人的アクセスを禁止すること,③再委託先を限定すること,④所定期間後に削除すること,⑤弁護士側の監査権及び事故通知を認めることの全てを確認することはできない。これらを個別契約又は追加資料で確認できれば,DeepSeekのAPIについても個人情報保護法上の委託として利用できる余地がある。

国内事業者がDeepSeekを組み込んだサービスも,同じである。画面上の販売者が日本企業であっても,推論APIが中国へ情報を送る構成,ログだけを外国事業者へ送る構成又は国内の専用環境だけで処理する構成があり得るため,サービス名ではなく実際のデータフローを確認しなければならない。

第5 中国法はリスク要素であるが無制限アクセスを意味しない

1 個人情報保護委員会のDeepSeekに関する注意喚起

個人情報保護委員会は,DeepSeekに関する情報提供において,DeepSeekが収集した個人情報を中華人民共和国所在のサーバに保存し,中国の個人情報保護法,サイバーセキュリティ法,データセキュリティ法及び国家情報法等が適用されることを示した。この資料はDeepSeekを一律に禁止するものではなく,利用者に対し,保存国の制度及び利用条件を踏まえて判断するよう求める注意喚起である。

2 国家情報法及びデータセキュリティ法

中国の国家情報法7条は,組織及び公民に国家情報活動への支持・協力等を求め,14条は国家情報機関が必要な支持,協力及び援助を求めることができる旨を定める。また,データセキュリティ法35条は,公安機関及び国家安全機関が法定手続によりデータを取得する場合の協力義務を定めている。以上は中国語原文に基づく本記事の要旨であり,中国法の適用はDeepSeekを利用できないという結論ではなく,サービス選定及び機密度に応じたプランの使分けで考慮すべき外的環境を意味する。

もっとも,国家情報法8条は,国家情報活動を法に従って行い,人権を尊重・保障し,個人及び組織の適法な権益を保護する旨も定めている。したがって,これらの条文から「中国政府がいつでも無制限に全データを閲覧できる」と断定することはできない。正確な問題は,国家安全等に基づく事業者への協力要求の法的経路が存在し,日本の弁護士が要求の有無,範囲及び救済手続を十分に監査しにくいことである。他方,中国にも個人情報保護法等の保護法令があるため,「中国には個人情報保護法制がない」と説明することも正確ではない。

第6 利用形態ごとの守秘義務上の評価

1 一般版,API,専用環境及びローカル実行の違い

利用形態ごとの基本的な評価は,次のとおりである。学習停止等の設定,アカウント管理及び依頼者の同意を前提とする評価であり,個別案件の機密度に応じて利用形態を使い分ける必要がある。

利用形態秘密情報を入力する場合の基本評価確認すべき中心事項
DeepSeek一般ウェブ・アプリ学習利用を停止しない状態では秘密入力を避ける学習停止設定,中国での処理・保存,履歴,アカウント管理
学習設定をオフにしたDeepSeek一般版サービス最適化を含む五つの選定基準と依頼者同意を確認できれば利用可能。ただし,極めて秘匿性の高い情報は別環境を用いる学習以外の利用,正当な理由のないアクセスの防止,暗号化,履歴削除,中国法
DeepSeek公開API非学習等を契約又は追加資料で確認できれば委託として利用可能非学習,正当な理由のないアクセス,再委託,削除,事故通知,監査
国内事業者の組込みサービスデータフロー次第実際の推論先,ログ送信先,契約当事者,再委託先
専用VPC・私有化構成厳格な審査後に限定利用の余地テナント分離,鍵管理,遠隔保守,テレメトリ,外国法
完全オフラインのローカル実行外部送信の点では最も低リスク端末,依存ソフト,通信,ログ,バックアップ,廃棄

2 ローカル実行ではモデルの出自と外部通信を分ける

DeepSeek-R1の公式リポジトリでは,モデルウェイトが公開されている。弁護士の管理する端末又はサーバでモデルを動かし,外部APIを呼ばず,プロンプト,文書及びログを外部へ送らない構成であれば,推論のために秘密がDeepSeek事業者へ提供されるものではない。

ただし,「ローカル版」と表示された第三者アプリが,認証,検索,OCR,更新確認,テレメトリ又は障害解析のために外部通信することがある。完全ローカルと評価するには,通信先,依存パッケージ,更新経路,プラグイン,クラウドバックアップ及び遠隔保守を確認する必要があり,単に画面上でローカルモデルを選択しただけでは足りない。

3 匿名化及び依頼者の承諾の位置付け

匿名化は,安全なサービスを利用するための一律の法的要件ではない。氏名を記号へ置き換えることによって文脈が失われ,人物,行為及び時系列の取り違えが増える場合があり,手作業による置換えには消し忘れや復元時の誤りも伴う。そのため,学習停止,正当な理由のないアクセスの禁止,暗号化,保存期間及び削除を確認した安全な環境では,正確性を保つため実名のまま入力することも合理的な運用となり得る。

他方,匿名化をリスク低減策として採る場合,氏名を削除するだけでは十分でない。事件番号,裁判所,年月日,金額,地名,職業,家族構成,希少な事故態様又は証拠中の固有表現を組み合わせれば,公開情報との照合によって当事者を再識別できる場合がある。安全性を確認できないサービスについて,不完全な匿名化を理由に秘密情報を送るべきではない。

依頼者の承諾は,委任契約約款において,利用する生成AIの種類及び学習機能を停止する旨を示した包括的な同意条項を置く方法でも取得し得るのであり,個々の入力ごとに同意を取り直すことが常に必要なわけではない。秘匿性の高い情報を扱う場合は,保存国,学習,人的アクセス,再委託,削除及び政府アクセス等を説明し,必要に応じて追加の同意を得ることが考えられる。もっとも,依頼者は,相手方,従業員,家族,証人等の第三者秘密を自由に処分できるとは限らず,承諾を得ても安全管理措置及びサービス審査が不要になるわけではない。

第7 国内の懲戒例と外国裁判例が示す分岐

1 日本ではAI直接事例がないが閲覧可能状態が問題となってきた

日本では,中国製AI又は生成AIへの事件情報入力を直接扱った公刊裁判例は確認できない。他方,電子メール,掲示板及びSNSへ秘密を置いた行為は既に綱紀・懲戒の対象となっている。前記の日弁連綱紀委員会平成23年11月16日議決のほか,秘密保持契約の対象である売上額を複数の弁護士が閲覧できるFacebookグループチャットに投稿した行為について,令和2年9月8日効力発生の戒告がある(自由と正義72巻1号83頁)。

これらの事例は,「閉じたグループである」「同業者しか見ない」「現実の拡散は確認できない」という事情だけでは安全にならないことを示す。個人情報をめぐる他の懲戒例と処分取消例については,個人情報漏洩に関する弁護士会の懲戒事例で整理している。

2 英国Munir事件と米国Heppner事件の厳格な判断

英国上級審判所のR (Munir) v Secretary of State for the Home Department [2026] UKUT 81 (IAC)は,公開型のChatGPTへ秘密文書をアップロードすることについて,依頼者の秘密を侵害し,legal privilegeを放棄する行為になると述べた。ただし,同判決がChatGPTを「open-source AI tool」と表現した部分は技術用語として正確ではなく,学習停止,正当な理由のないアクセスの禁止,暗号化及び削除を確認した個人向け・企業向けサービス又はローカル実行まで,インターネット上の公知情報にする一般命題として読むべきではない。

米国ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のUnited States v. Heppner, No. 25-cr-00503-JSR(令和8年2月17日)は,被告人が自ら一般消費者向けClaudeを使って作成し,後に弁護士へ送った防御戦略文書について,attorney-client privilege及びwork productによる保護を否定した。同判決は,Claudeが弁護士ではないこと,弁護士の指示による作成でなかったことに加え,当時のプライバシーポリシーが入力・出力の収集,訓練利用及び政府機関への提供可能性を示していたことを重視した。したがって,同判決は,弁護士自身が学習停止等の設定を確認し,依頼者の同意を得て業務利用する場合について判断したものではない。

3 AI利用だけでワークプロダクトが失われるとは限らない

他方,米国コロラド地区連邦地方裁判所のMorgan v. V2X, Inc., No. 25-cv-01991-SKC-MDB(令和8年3月30日)は,本人訴訟当事者のAIを用いた訴訟準備にワークプロダクト保護が及び得るとした。ただし,利用したAIの名称の開示を命じ,秘密指定資料を入力できるAIについて,事業者が入力を保存・訓練利用せず,サービス提供に不可欠な場合を除いて第三者へ開示せず,利用者が秘密情報を削除できることを契約上確保するよう保護命令を改めた。

テキサス州Business CourtのTate Group Automotive, LLC v. Legacy Automotive Capital, LLC, Cause No. 25-BC11B-0020(令和8年6月3日)も,ChatGPTとの会話をインカメラで審査し,大部分についてワークプロダクト保護を認めた。外国裁判例の結論が分かれるのは,弁護士の指示,本人訴訟,サービス規約,相手方への到達可能性,保護命令及び保護対象がattorney-client privilegeかwork productかという事実・制度が異なるためである。

これらの外国裁判例は,日本の弁護士法23条を解釈したものではない。米国でワークプロダクトが維持されたから日本の守秘義務上も安全であるとも,一般消費者向けAIに入力すれば常に世界へ公開されたことになるともいえないが,サービスの契約条件及び弁護士の指揮監督が結論を左右し得ることを示している。

第8 弁護士業務で利用する前の確認手順

1 入力を停止すべき場合

次のいずれかに当たる場合は,確認が終わるまで当該サービスへの入力を停止すべきである。①サービスのプラン,処理者又は保存国が分からない,②学習,正当な理由のない人的アクセス,暗号化,保存,削除又は再委託が分からない,③企業版のつもりで個人アカウントにログインしている,④裁判所の保護命令,目的外使用禁止又は秘密保持契約に適合するか確認できない,⑤より秘匿性の高い情報であるのに,ゼロデータリテンション,専用環境又はローカル処理等の利用可能な保護手段を検討していない場合である。

この停止基準は,生成AIを組織として全面禁止する趣旨ではない。過度な禁止は,管理外の私用アカウント又は無料サービスによる利用を誘発することがあるため,審査済みの業務アカウントと利用形態を用意し,情報の機密度に応じて一般版,法人向けプラン,ゼロデータリテンション,専用環境及びローカル実行を使い分けることが実効的である。

2 サービス審査で確認する事項

東京弁護士会の令和8年6月号LIBRA掲載資料は,信頼性のある生成AIサービスの選定基準として,①弁護士業務利用が規約上認められること,②入出力情報を学習その他の用途に使用しないか停止設定があること,③事業者が正当な理由なく情報へアクセスできないこと,④暗号化及び厳格なセキュリティ対策,⑤保存期間経過後の自動削除又は利用者による削除を挙げる。この五つを満たすことを個別に確認する方法は,学習オフ設定のClaudeコード及びGoogle AI Ultraに関する前記記事と本記事に共通する判断枠組みである。

実際の審査では,これらに加え,契約主体,処理国,再委託先,テナント分離,暗号鍵,障害解析時の人手閲覧,事故通知,ログ提供,監査権,契約終了時の消去,政府要請時の通知方針及びプラグイン・検索・OCR等の追加送信先を確認する。弁護士情報セキュリティ規程3条及び4条に基づき,事務所の規模及び業務に応じた基本的取扱方法,管理体制並びに組織的・人的・物理的・技術的安全管理措置を整備する必要もある。規約は変更されるため,利用時点の版と設定を案件記録に残す必要がある。

3 入力後に問題が判明した場合

秘密を不適切なAIへ入力した可能性が判明した場合は,追加利用を止め,利用日時,サービス,プラン,設定,入力内容及び送信先を保全する。その上で,履歴及びアカウントの削除だけでバックアップを含む削除が完了するかを確認し,影響を受ける依頼者・第三者,個人データ,保護命令及び秘密保持契約を特定する。依頼者への説明,個人情報保護委員会への報告・本人通知,裁判所又は相手方への対応が必要かは,漏えい等の該当性及び個別の義務に従って判断する。

なお,守秘義務を守ることとAI出力の正確性を検証することは別の問題である。秘密を安全に処理できる企業向け又はローカル環境であっても,条文,裁判例及び事実の誤りは残るため,出力の確認方法についてはAI作成又はAIリライトの記事におけるハルシネーション防止方法で説明した原典確認が必要である。

出典・参考資料

1 法令・会規

弁護士法(昭和24年法律第205号)23条及び56条1項(e-Gov法令検索)

刑法(明治40年法律第45号)134条1項(e-Gov法令検索)

民法(明治29年法律第89号)644条(e-Gov法令検索)

個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)23条,25条,27条及び28条(e-Gov法令検索)

弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)18条,19条及び23条(日本弁護士連合会)

弁護士情報セキュリティ規程(令和4年6月10日会規第117号,令和6年6月1日施行)3条及び4条(日本弁護士連合会)

中華人民共和国国家情報法7条,8条及び14条(全国人民代表大会,中国語原文)

中華人民共和国データセキュリティ法35条(全国人民代表大会,中国語原文)

中華人民共和国個人情報保護法(工業和信息化部掲載,中国語原文)

2 裁判例・議決例

①日弁連綱紀委員会平成23年11月16日議決・弁護士懲戒事件議決例集14集155頁(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第3版』60頁による)

②R (Munir) v Secretary of State for the Home Department [2026] UKUT 81 (IAC),令和7年11月17日判決(BAILII判決全文

③United States v. Heppner, No. 25-cr-00503-JSR,令和8年2月17日(米国ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所提出文書27番の写し

④Morgan v. V2X, Inc., No. 25-cv-01991-SKC-MDB,令和8年3月30日(米国コロラド地区連邦地方裁判所命令全文

⑤Tate Group Automotive, LLC v. Legacy Automotive Capital, LLC, Cause No. 25-BC11B-0020,令和8年6月3日(Texas Business Court裁判文書

3 公的資料・事業者資料

①個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)

②個人情報保護委員会「DeepSeekに関する情報提供」(令和7年2月3日,同年3月5日更新)

③個人情報保護委員会「個人情報取扱事業者がクラウドサービスを利用する場合のQ&A 7-53

④個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成28年11月,令和8年6月一部改正)3-4-4,3-6-3及び10-7

⑤東京弁護士会「弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドラインについて」(LIBRA令和8年6月号25頁~27頁

⑥有本真由「弁護士業務における生成AI活用上の主な注意点」(LIBRA令和8年7・8月号14頁~18頁

⑦DeepSeek「DeepSeek隐私政策」(令和8年2月10日更新・施行,中国語原文)

⑧DeepSeek「DeepSeek用户协议」(中国語原文)

⑨DeepSeek「DeepSeek开放平台服务协议」(中国語原文)

⑩DeepSeek「DeepSeek-R1」(公式GitHubリポジトリ)

4 文献

①日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第3版』(日本弁護士連合会,2017年)54頁~60頁

②福島駿太『法務のための生成AI活用ガイド』(弘文堂,2025年)29頁~47頁