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AI活用に伴う弁護士法72条見直しの動き――令和8年8月21日の新ガイドラインと判例・行政解釈の到達点(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

本記事は,AIを用いた法務サービス(AIリーガルテック)の普及に伴って進んでいる弁護士法72条の見直しについて,令和8年9月1日現在で公表されている一次資料を整理するものである。対象とするのは,同条の条文及び罰則,同条の解釈を示した最高裁判例,法務省が令和5年8月及び令和8年8月に公表した2件のガイドライン並びにグレーゾーン解消制度の回答,規制改革推進会議の中間答申,令和8年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画,法務省のタスクフォースに関する国会答弁及びその取りまとめ,自由民主党の提言並びに日本弁護士連合会の会長談話である。生成AIを用いて公表資料を通読し,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所ウェブサイトの個別ページで内容を確認した上で構成した。

見直しの主たる対象は,AIリーガルテックを提供する事業者に対する規律である。弁護士自身がAIを業務に用いることの可否は,後述するとおり令和5年8月の法務省ガイドラインで既に整理されており,今回の見直しで新たに制限が加わる方向の議論はされていない。両者を区別せずに論じると議論の位置がずれるため,本記事では節を分けて説明する。

2 見直しの現在地

現在地を一文で示せば,令和8年7月21日の閣議決定によって「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」が政府の規制改革実施計画の正式な項目となり,これを受けた法務省のタスクフォースが,令和8年8月21日に新たなガイドライン及びロードマップを取りまとめた段階にある。実施計画の内容は,規制改革推進会議の中間答申(令和8年2月26日)の段階で報道された内容と実質はほぼ同じであるが,閣議決定に格上げされている点は,引用の際に区別する必要がある。

新ガイドラインは,令和5年8月のガイドラインを補完・拡充するものであり,事業者向けのAI法務サービスがどのような場合に72条に抵触し得るかについて,従来より踏み込んだ判断枠組みを示している。他方,実施計画が設置を求めた検討会はまだ立ち上がっておらず,ロードマップ上,有識者検討会の立ち上げは令和8年度中,その取りまとめは令和9年度中が目途とされている。したがって,現時点で確定しているのは行政解釈の補完までであって,法律の制定又は改正の方向は決まっていない。

第2 弁護士法72条の条文と罰則

弁護士法(昭和24年法律第205号)72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い又はこれらの周旋をすることを,業として行うことを禁止し,違反には77条3号により2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金が定められている。

同条の各要件(①非弁護士性,②報酬目的,③事件性,④法律事務該当性,⑤業性)の意義,判例による確定の経緯及び73条・27条との関係は,非弁護士との提携の禁止で整理済みである。法務省のガイドライン,AIリーガルテック協会の資料及び規制改革推進会議の資料は,いずれもこの要件の枠組みを共有しており,AIサービスの適法性を論じる際の出発点となる。労働組合法6条に基づく団体交渉と弁護士法72条との関係については,労働組合の団体交渉と弁護士法72条――個別労働紛争・拠出金・退職代行の境界で整理している。

なお,非弁提携業者が弁護士を取り込み,支配し,用済みとなった後に撤収するまでの構造は,非弁提携業者による弁護士の取込みから撤収までで整理している。

第3 最高裁判例が示した判断枠組み

72条の趣旨(報酬目的と業性の双方を要するとした昭和46年大法廷判決),「業とする」の意義(昭和50年判決),依頼者側の免責(昭和43年判決)及び事件性の基準(平成22年決定)は,非弁護士との提携の禁止で判文とともに整理済みである。本記事では,AIリーガルテックの議論に直接関わる2件の判例を補足する。

1 72条に違反した行為の私法上の効力――平成29年判決

最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)は,認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが72条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないとした。刑罰法規である72条に違反したことが直ちに私法上の無効を導くわけではないという整理であり,AIサービスを用いて作成・締結された契約の効力を論じる際にも参照される。もっとも,同判決は無効とならない場合の判断枠組みを示したものであって,違反行為自体が適法になるわけではない。

2 ただし書と隣接士業――平成28年判決

72条ただし書は「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合」を除外する。司法書士,弁理士,税理士等の隣接士業の業務範囲は,この別段の定めによって画されている。最高裁判所第一小法廷平成28年6月27日判決(平成26年(受)第1813号,民集70巻5号1306頁)は,債務整理を依頼された認定司法書士は,当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が司法書士法3条1項7号に規定する額を超える場合には,その債権に係る裁判外の和解について代理することができないとした。ただし書による例外の範囲が個別債権の価額で画されることを示した判断である(隣接士業の業務範囲の沿革については司法書士の業務範囲と司法書士法の変遷を参照)。

なお,本記事の作成にあたり,裁判所ウェブサイトの裁判例検索において「弁護士法72条」「非弁護士」「非弁行為」等の語で全文検索を行ったが,AIリーガルテックの72条該当性を判断した裁判例は確認できなかった。「リーガルテック」の語では該当がなく,「生成AI」の語による該当も本主題とは無関係の事件であった。裁判所ウェブサイトが全ての裁判例を掲載しているわけではないため不存在の証明にはならないが,少なくとも公表された裁判例による解決が期待しにくい状況にあることは,後述する行政解釈への依存の背景を成している。

第4 法務省の行政解釈

1 令和5年8月のガイドライン

法務省大臣官房司法法制部は,令和5年8月,AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係についてを公表した。同ガイドラインは,非弁行為に該当するか否かは罰則の構成要件を定めたものである以上,個別の事件における具体的な事実関係に基づき昭和46年大法廷判決が示した趣旨に照らして判断されるべき事柄であり,解釈・適用は最終的に裁判所の判断に委ねられるとした上で,一般論として考え方を示したものである。

要件ごとの整理は次のとおりである。報酬を得る目的については,利用料等一切の利益供与を受けずに提供する場合は通常該当しないが,他の有償サービスへの誘導,第三者からの金銭の支払を伴う誘導,あるいは「顧問料・サブスクリプション利用料・会費等の名目を問わず金銭等を支払って利用資格を得たものに対してのみ」提供する場合には,実質的に対価関係が認められるときは該当し得るとされた。事件性については,紛争が生じた後に和解契約等を締結する場合は認められる一方,親子会社間で従前から慣行として行われている物品や資金等のフローを明確にする場合や,継続的取引の基本契約に基づき特段の紛争なく従前同様の物品を調達する契約を締結する場合には,通常は認め難いとされた。

鑑定その他の法律事務については,機能ごとに詳細な例示がある。作成支援では,利用者の非定型的な入力内容に応じて契約に至る経緯や背景事情を法的に処理し,これに応じた具体的な契約書等が表示される場合は該当し得るが,あらかじめ登録されたひな形が選別されて表示されるにとどまる場合は通常該当しないとされた。審査支援では,個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度が表示される場合及び具体的な修正案が表示される場合は該当し得るが,ひな形との相違部分が字句の意味内容と無関係に表示される場合や,言語的な意味内容の類似性のみに着目して表示される場合は該当しないとされた。

さらに同ガイドラインは,右の各要件のいずれにも該当する場合であっても,サービスを弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって,当該弁護士等が「本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し,必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するとき」は,通常72条に違反しないとした。企業内弁護士が自社の契約について同等の方法で利用する場合も同様である。弁護士がAIの出力をそのまま用いず自ら精査・修正するという運用は,品質管理の問題であると同時に,この整理においては適法性を基礎付ける事情として位置付けられている。

2 グレーゾーン解消制度の回答

法務省の弁護士法(その他)のページには,産業競争力強化法7条に基づくグレーゾーン解消制度の回答が令和2年12月18日付けのものから令和8年8月19日付けのものまで15件掲載されている。法務省は,個別の事案が弁護士法に違反するかどうかを答えることは困難であるという立場を国会でも述べており,事業者が自己のサービスについて事前に見解を得る手段としては,この制度が用いられてきた。

このうち令和4年6月6日付け(AI契約審査サービス),令和4年7月8日付け(法曹無資格者による契約書チェックサービス)並びに令和4年10月14日付けの2件回答(契約書レビューサービス及び締結済み契約書のリスク検出機能)が契約書の審査に関するもので,いずれも72条本文に違反すると評価される可能性があるとの内容であり,これがガイドライン策定の直接の契機となった。契約書レビューサービスに関する令和4年10月14日付けの回答は,①レビュー対象を契約書のひな形等に限定すること,②利用料を無料とすること,③利用者を弁護士又は弁護士法人に限定すること,④利用者の社内弁護士の監督を条件とすることのいずれによっても同条本文該当性は否定されないとしており,翌年のガイドラインが弁護士による精査・修正という利用方法に着目して適法となる場合を明示したことは,この点を具体化したものである。

最も新しい令和8年8月19日付けの回答は,自治体や医療機関等の業務システムについて法令改正等に伴う改修作業を生成AIに行わせるサービスに関するものであり,顧客の権利義務に関する争いや疑義の存在を前提とするものでなく,法律的見解を述べ又は法律上の効果を発生,変更等する事項を処理するものでもないのであれば,72条本文に違反しないとされた。

3 令和7年8月4日の回答と萎縮

令和7年8月4日付けの回答は,弁護士が執筆・監修した人事労務分野のQA記事,法令情報及び通達等を生成AIに学習させ,利用者が自由入力した質問に対して,関連するQA記事を元に要約文を生成して表示するとともに,関連するQA記事を修正せずに一覧表示するサービスに関するものである。照会者はプロンプト条件により個別事案又は事件性が高いと判断される場合には回答を出力しないよう制御するとしていた。

法務省の回答は,一覧表示については,あらかじめ学習させたQA記事に個別の修正を行わずに一覧として表示させているにとどまるから通常「鑑定」に該当しないとした一方,要約文の作成・表示については,入力された質問文と生成された回答文の具体的な内容によっては,単なる要約にとどまらず新たに法的な回答が作成・提示されたと評価される可能性があり「鑑定」に当たり得るとした。そして,プロンプト条件による制御についても,「かかる条件設定により個別事案だと考えられる場合や事件性がある場合の全てを除外することはおよそ困難である以上」,制御が及ばない可能性を否定できないとして,これをもって事件性を否定することは困難であるとした。結論として,要約文を生成して表示する機能を一般向けに提供することは72条本文に違反すると評価される可能性があるとされた。

技術的な出力制御を設けても構成要件該当性の判断は左右されないという内容であり,後述する中間答申は,この回答を受けてサービス提供を断念する事業者が生じ,回答中の文言が一人歩きして適法に運営可能なサービスまで自粛する「誤解と萎縮」が生じているとの指摘があることを,見直しの理由として明記している。

第5 規制改革推進会議の議論と閣議決定

1 令和8年1月9日のワーキング・グループ

規制改革推進会議のデジタル・AIワーキング・グループは,令和8年1月9日の第6回会合で「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」を取り上げた。提出資料は,日本経済団体連合会,一般社団法人AIリーガルテック協会,日本組織内弁護士協会理事の弁護士,リーガルテック研究会及び法務省の5点である。

AIリーガルテック協会の資料は,サービスが契約自動レビュー中心の第1世代から,生成AIによる修正案提示の第2世代を経て,契約生成エージェントや法務相談案件の初期回答を行う第3世代に至っているとした上で,同協会の各社のサービスは事件性がなく,また生成AIの出力は統計的なものにすぎないから「鑑定」にも「その他の法律事務」にも該当しないと主張している。さらに,汎用型生成AIが「リーガルテック」と名乗らずに提供され事実上72条の規制対象として議論されていないのに対し,法務に特化した事業者のみが抑制される状態はイコールフッティングの問題であると指摘している。

リーガルテック研究会の資料は,現行72条の文言が昭和8年の法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律をほぼそのまま引き継いだものであり,その目的が弁護士でない者による他人間の紛争への介入の害悪を排除することにあったという沿革を示した上で,紛争案件と非紛争案件,企業法務と個人という二つの軸で領域を分け,非紛争領域についてはガイドラインや業界自主規制と利用者側の研修・消費者保護によって質を担保し,紛争案件については72条の規律とただし書に基づく他の法規制によることを提案している。また,米国ユタ州が令和2年に州最高裁判所の下に機関を設置してサンドボックスを導入し,令和7年9月時点で12業者が監督下で業務を行っていること,アリゾナ州が同年に州最高裁判所規則で弁護士以外の者による法律事務所への出資を解禁していることを紹介している。

法務省の資料は,ハードローによる解決は日進月歩のAI分野に対して機動性に欠けること,弁護士法72条が刑罰法規であることから個別具体のサービスを対象とするホワイトリストの策定は困難であること,現状のガイドラインの改定にも一定の限界があることを述べ,守るべき法益として,AIの学習・処理過程における個人情報・機密情報の漏えいと,弁護士が監修しない情報又はハルシネーションにより誤った法的情報が広く一般に提供される技術的リスクを挙げている。その上で,各手法の得失を意識した段階的な課題解決を目指すという方針を示している。

2 中間答申

規制改革推進会議は,令和8年2月26日の規制改革推進に関する中間答申において,「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」を項目として掲げた(16頁以下)。基本的考え方として,法務省ガイドラインは作成当時の技術水準を前提に契約書自動レビューサービス等を念頭に置いたものであるところ,その後,大規模言語モデル,大規模マルチモーダルモデル及び検索拡張生成等によって技術水準が向上し,契約書等の自動作成・更新等のより高度なサービスの提供の実現可能性が高まる中で,こうしたサービスの提供が同条に抵触せず実施可能であるかは必ずしも明らかではないとした。

3 令和8年7月21日の規制改革実施計画

規制改革推進会議は令和8年6月29日に答申を内閣総理大臣に提出し,これを踏まえて,規制改革実施計画が令和8年7月21日に閣議決定された。同計画のⅡ1(6)デジタル・AIの1番として「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」が掲げられ,実施時期は「令和8年検討開始,令和8年度上期結論,結論を得次第速やかに措置」,所管府省は法務省とされている(80頁~81頁)。

規制改革の内容として定められたのは,弁護士法72条の立法趣旨を念頭に置き,AIガバナンスの視点を入れるとともに,海外主要国における規制・制度やサービス提供の状況も比較検討しつつ,利用者目線で「同条の解釈等について,AIリーガルテックを活用したサービスの提供者間における自主的な規制の在り方や新法の制定も含め,AI等を用いた契約書等関連業務支援サービス(契約書等の自動修正を可能とするサービスを含む。)を提供可能とするために必要な検討を行う検討会を設置し,結論を得次第,速やかに措置する」というものである。検討の対象に契約書等の自動修正を可能とするサービスが明示的に含められた点は,令和5年ガイドラインが具体的な修正案の表示を「鑑定…その他の法律事務」に該当し得るとしていたことと対比すると,実務上重要な変化である。

同計画は,検討に当たっての留意事項として3点を挙げる。第1に,72条についての萎縮効果により,海外のAIリーガルテックに対して我が国のAIリーガルテックが遅れをとらないことを含め,日本企業の不利益及び国際競争力の低下を招かないこと。第2に,一般的な生成AIのサービス提供者と法務事務に特化したAIリーガルテック活用サービスの提供者との間で,72条の適用対象者又はその可能性があるかどうかについてイコールフッティングの問題が生じないようにすること。第3に,AIエージェントを含めAIのテクノロジーは日進月歩であることから,「これまでの弁護士法第72条の構成要件(いわゆる非弁行為)の該当性等の解釈論から脱却しつつ」,予見可能性を確保する観点から,必要に応じた専門家の関与,透明性の確保,知的財産の保護等を含めAIガバナンスを議論することである。

第3の留意事項は,従来の構成要件解釈の積み重ねを前提とする議論の枠組みそのものを組み替えることを示唆している。もっとも,72条が刑罰法規である以上,罪刑法定主義の要請から自由になれるわけではないから,解釈論からの脱却をどのような立法技術で実現するのかは,計画の文言からは定まっていない。

第6 法務省のタスクフォースと自由民主党の提言

1 国会答弁で説明されたタスクフォースの実像

法務省のタスクフォースについては,令和8年4月10日の衆議院法務委員会における三谷英弘法務副大臣の答弁が最も詳しい。同答弁によれば,中間答申を受けて法務大臣の指示により法務副大臣の下に「企業法務分野におけるAIリーガルテック規制に関するタスクフォース」が立ち上げられ,同日までに2回の会議が行われ,弁護士法を研究する法社会学や刑事法の研究者,リーガルテックの業界団体及び日本弁護士連合会といった関係機関からのヒアリングが実施されている。忌憚のない意見を得るため,タスクフォース自体は省内で非公開の形で行われているとされ,令和8年夏頃を目途に一定の結論を得るべく検討を重ねるとされた。

同答弁は,72条について,非弁護士が報酬目的で業として法律事件に介入することを放置すれば当事者その他関係人の利益を損ね,ひいては法律秩序を害することになることから設けられた規制であるという趣旨を確認した上で,「具体の事実関係や証拠関係を前提に臨機かつ的確な判断を行い得る弁護士の判断というものは,やはりこれからの時代においてもなお重要である」と述べている。見直しが弁護士の関与を不要とする方向で進められているわけではないことは,政府側の公式の説明としてここに残されている。

2 自由民主党司法制度調査会の提言

自由民主党政務調査会司法制度調査会は,令和8年6月24日に「司法制度調査会2026提言――新時代における司法・法務行政の責務と進化」を平口洋法務大臣に手交した提言は,リーガルテックが業務の効率化・高度化のみならず国民の司法アクセスの向上や法務分野の国際競争力強化に資するとした上で,生成AIを利用したリーガルテックの利活用には判断の透明性・説明責任の確保,個人情報・機微情報の適切な取扱い,AIによる判断の限界やバイアスへの対応など慎重な検討を要する課題も多いとする。

提言は,弁護士法72条の趣旨やAI利用による技術的・社会的課題を踏まえたガバナンスの視点を取り入れながら,「AIが何に使えるか」の観点にとどまらず「人にしかできないこと・人だからできることは何か」にまで視座を拡げ,AIによって代替することができない,人である弁護士が引き続き担うべき業務や役割を見極めるべきであるとしている。その上で,法務副大臣の下のタスクフォースが夏頃を目途にロードマップの策定等の一定の結論を出す予定であることを踏まえ,その結論を受けて,有識者等からなる検討会における検討を含め中長期的なスパンでルールメイキングの在り方を検討することを求めている。あわせて,最高裁判所が令和8年に民事訴訟における争点整理の補助として生成AIを利活用することについて研究会を開催し初歩的な検証を行ったことにも言及している(この研究会の取りまとめについては「AI時代における民事司法を考える研究会」取りまとめの要点と限界で,裁判官がAIを用いて判決書を作成することの憲法上の限界については判決書作成におけるAI利用と憲法76条3項で,それぞれ扱っている)。

第7 令和8年8月21日のタスクフォース取りまとめ

1 新ガイドラインの位置付けと適用範囲

法務省大臣官房司法法制部は,令和8年8月21日,ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係についてを公表した。法務省の掲載文によれば,これは前記第6の1のタスクフォースの取りまとめとして策定されたものであり,同日,後記7のロードマップも併せて公表されている。

同ガイドラインは,令和5年ガイドラインが示した「報酬を得る目的」「訴訟事件…その他一般の法律事件」「鑑定…その他の法律事務」の各要件に関する基本的解釈や,判例が示した72条の解釈そのものを変更するものではない。令和5年ガイドラインを前提としつつ,同条との関係で分水嶺となり得る要件に絞って解釈指針を補完し,併せてガバナンス上の留意・推奨事項を示すものであり,補完・拡充した部分については新ガイドラインによるものとされている(同1頁~3頁)。

対象は,企業その他の事業者が自己の事業活動に関連して利用する場面であり,消費者を主たる対象とするサービスについては別途の考慮が必要となる場合があるとされた。他方で,いわゆる汎用型AIのサービス提供者が事業者に対して法律事務を行い得る機能を有するサービスを提供する場合も明示的に射程に含められ,API等を通じて他の事業者に機能を提供する事業者についても,その利用目的・利用態様を認識し得る場合には同ガイドラインの趣旨が及び得るとされている(同1頁~2頁)。汎用型AIを射程に取り込んだ点は,中間答申及び実施計画が留意事項として掲げたイコールフッティングの問題に対する法務省の回答に当たる。

事件性については,その要否及び程度について様々な見解があり得ることを認めた上で,これまでの法務省の立場である事件性必要説を踏襲し,平成22年決定を参考に,法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得るか否かという基準を用いることが明示された(同5頁)。

2 行為の主体と価値中立性という判断枠組み

同ガイドラインが新たに立てた枠組みは二段構えである。第一に,利用者がプロンプト等を入力して出力を得るという操作は,法的観点の指摘や法的助言を提供することが目指された機能が備え付けられているなど,サービスの設計・機能に照らしてそれが当然に想定されている場合には,提供者が企図した法務業務支援の契機にすぎず,規範的に評価すれば利用者側の行為も含めて提供者の行為と評価され得るとした。根拠として,配信サイトの自動送信機能を利用したわいせつ動画の頒布に関する最高裁判所第三小法廷平成26年11月25日決定(平成25年(あ)第510号,刑集68巻9号1053頁)が引用されている(同3頁~4頁)。

第二に,そのように提供者を行為の主体と評価し得る場合であっても,①サービスの設計,中核的機能及び用いられている技術が,法的紛議が現に顕在化している案件や法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件に利用させることを目指したものでなく,②そうした案件への利用に特化し又はそれが念頭に置かれた特性・機能を具有しないときは,「価値中立的なサービス提供」に当たるとした。この場合には,利用者が自律的な判断で事件性のある案件に用いたという提供者にとって他律的・事後的な事情だけで,提供者が事件性のある案件に関する法律事務を取り扱ったと評価することは,責任主義の観点から困難であるとされている。根拠は,価値中立的なソフトの提供が著作権侵害の幇助に当たるかが争われた最高裁判所第三小法廷平成23年12月19日決定(平成21年(あ)第1900号,刑集65巻9号1380頁)である(同4頁~10頁)。

その上で,③後記4のガバナンス措置を講じて不適切な利用を回避する体制を整備しているときは,一般に72条に抵触しないとする。もっとも,①及び②を満たさない場合には,③の措置を講じてもそれのみで価値中立性が認められるものではないとされており,ガバナンス措置は設計・機能の中立性を補完し,提供者が不適切な利用の蓋然性を認識・認容していたとまではいえないことを示す事情として位置付けられている(同9頁~10頁)。

3 サービスごとの当てはめ

価値中立的な提供に当たり得るものとして挙げられたのは,通常の業務に伴う,文献その他のリサーチ・法的問題点の検討,書面の作成・審査・管理,社内研修や経営判断の適法性確認を含むガバナンス・リスク管理・コンプライアンス,内部通報事案の調査支援,新規業務スキームの構築・事業再編,従業員・顧客・取引先等とのトラブルが発生した場合に会社としての対応方針を決定するための内部調査の支援,株主総会・取締役会その他の会議業務の各支援サービスである(同10頁~12頁)。企業法務の実務で用いられている用途の大半が,①及び②を満たす限りで名指しで挙げられた形になっている。

これに対し,法的紛議が現に顕在化している案件等の処理を目指して設計されたサービスや,弁護士の関与なしに訴状,準備書面,答弁書,証拠説明書その他の裁判所への提出書面や和解契約書等の法的紛議を前提とした対外使用書面を作成することに特化し又はこれを念頭に置いた機能を有するサービスは,およそ価値中立的な提供とはいい難く,実質的に事件性のある案件に関する法律事務を取り扱っているものと同視せざるを得ないとされた。もっとも,「この条項には訴訟リスクが生じる可能性がある」といった一般的な法的リスクの指摘は,それ自体が直ちにこれに当たるものではないとの留保が置かれている(同12頁)。

さらに,設計・機能上は価値中立的であっても,非弁活動を行い又は行おうとする者への提供や,事件性のある案件への継続的・反復的な利用を認識・認容しながらの提供が行われ,実際にそのように利用されていると認められるときは,用法の点から同様に評価され得るとされた。この場合に提供者が執るべき合理的な措置として,利用停止,警告の発出,弁護士への相談の案内,当該利用者に対するサービス利用範囲の制限並びに利用規約違反の指摘及び是正要求が例示されており,これらを講じることなく漫然と提供を継続する場合が問題とされている(同12頁~14頁)。

4 ガバナンス上の留意・推奨事項

ガバナンス上の留意・推奨事項として挙げられたのは,①AI事業者ガイドラインその他の政府指針が推奨する取組の実施及び個人情報の保護に関する法律,著作権法等への適合,②日本国内におけるインシデント対応窓口の設置,③「鑑定」等にわたり得る機能を有する場合における我が国の弁護士資格を有する者の監修又は実質的関与,④弁護士に代わる判断を提供するものであるとか法的結論の正確性を保証するものであると想起させる表現の不使用,⑤利用申込時の合理的確認措置及び利用規約等への明記,⑥重大な利用規約違反があった場合の利用停止措置,⑦プロンプト等を入力する前の段階及び出力結果へのディスクレーマーの明示,⑧事件性のある案件への利用を誘発しないUI・機能設計並びに根拠及び参照元の表示,⑨ひまわりサーチ等を案内して弁護士への相談を促す仕組みである(同15頁~21頁)。

③の弁護士の関与は,形式的な名義の貸与では足りず,機能要件の策定,仕様レビュー及び変更管理における品質確保のための検証や,表示・免責・利用者ガイダンスのリーガルチェックといった場面で具体的に関与していることをいうとされている。ここでいう「鑑定」等にわたり得る機能には,個別の事案における経緯・背景事情等を法的に処理して具体的な契約書案や修正案を作成する機能,具体的な事案に応じた法的リスクの有無や程度・個別の法的対応の必要性等を抽出・摘示する機能が含まれる(同16頁~17頁)。

⑤に関して利用規約等に定めるべき核心的な遵守事項の一つとして,利用者が自己の業務にのみ利用し,他人の法律事務を取り扱うためには使用しないことが挙げられている。もっとも,企業グループ内において親会社の法務部門が子会社・関連会社の法務業務を支援するためにサービスを利用することは,通常これに該当しないとされた(同18頁)。親子会社間の法律事務の取扱いそのものについては,法務省が平成28年6月2日閣議決定の規制改革実施計画を受けて親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条を公表しており,子会社の通常の業務に伴う契約についてひな形を提供しチェックし一般的な法的意見を述べること等は,紛争介入目的で親子会社関係を作出した等の事情がない限り,同条に違反するものではないとされる場合が多いと考えられるとしている。

⑨については,非弁業者が特定の弁護士に特定の案件を継続的・反復的に紹介する行為は27条の禁止する行為に抵触するおそれがあるが,弁護士への相談を一般的に案内することは特定の弁護士への特定案件の紹介には当たらず,同条及び72条の「周旋」に該当しないとの整理が示されている(同19頁)。事業者側から見れば,紛争性のある入力を検知した際の導線として,日本弁護士連合会の弁護士検索を案内する方法が,27条に触れない形として示されたことになる。

5 出力制限を今後の検討課題としたこと

前記第4の3で述べた技術的な出力制御については,同ガイドラインの策定過程でも,訴状や準備書面等の出力自体に制限をかける措置の当否が検討された。

事業者側からは,専ら利用している汎用型AIの出力の問題であることに加え,現在の技術水準ではコスト面・効用面での多大な支障なしに実効性のあるガードレールを設けることが技術的に困難であり,制限の範囲・基準の設定が恣意的になりやすく,過剰に遮断すれば問題のない利用の利便性まで大きく削ぐ一方,書式変形や抽象化出力による回避が容易であるとの意見が述べられた。これに対し法曹実務家からは,実効性が完全でなくとも,裁判手続での利用以外の用途がおよそ考え難い表題を有する書面のうち主要なものに限って出力制限を課すことは技術的に可能であり,一定のコストがかかることは出力制限を行わないことを正当化する理由にならないのではないかとの意見が示された。

法務省は,現時点の技術水準に照らせば,72条との抵触が生じ得ない適法な出力に影響を及ぼさない方法で実効的又は合理的な出力制限の範囲を明確化することは困難であり,範囲を明示せずに推奨事項とすれば萎縮効果が大きいこと,実効性が低く規制効果も限定的であるにもかかわらず事業上の多大な支障を伴う措置を推奨事項とすることは相当でないことを理由に,出力制限を留意・推奨事項として明記せず,今後の検討課題とした(同20頁~21頁)。もっとも,利用者が出力結果をたやすく信用して弁護士に相談することなく対外的に使用する事態を放置すれば72条の趣旨を没却しかねないとして,利用者のリテラシー向上,不適切な利用を把握した場合の注意・警告及び悪質なケースにおける利用停止を確実に行うことを求めている。

日本弁護士連合会は,令和8年9月1日,公益社団法人商事法務研究会の「AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ」及び本ガイドラインに関する会長談話を公表した。同談話は,本ガイドラインが令和5年8月のガイドラインを補完・拡充するものとして72条の趣旨を踏まえた具体的な指針を示したことを評価できるとした上で,事件性の認められる案件に関し,「訴状、答弁書、準備書面といった裁判手続での利用以外の用途がおよそ考え難い表題を有する書面」のうち主要なものを限定的に特定し,それらの作成の指示に限って出力制限を課すことについてさえ,ガバナンス上の留意・推奨事項として明記しないこととしていると指摘する。そして,これにより,特に中小規模の事業者が,リーガルテックサービスにより出力された訴状等を妄信し,法的知見に関する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の実質を伴わない訴訟追行をした結果,その権利や利益が不当に損なわれる事態を招来しかねないとの意見を示している。

同談話は,本ガイドラインがサービスの受け手として想定する事業者には,事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人も該当し,フリーランスなど脆弱な個人事業者も含まれることを看過してはならないとし,本ガイドラインの考え方が今後消費者を受け手として想定する場面にも敷衍されることにより,法的知見に関する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の実質を欠く法律事務が拡散することを強く懸念するとしている。前記1のとおり,本ガイドライン自体は消費者を主たる対象とするサービスについて別途の考慮が必要となる場合があるとするにとどめており,その先の取扱いは,後記第9のとおり今後の検討に委ねられている。

6 弁護士が関与する場合の整理

弁護士が関与する場合の整理は,令和5年ガイドラインを維持した上で拡張された。すなわち,①弁護士又は弁護士法人が自らサービスを開発するなどして提供者となる場合及び提供を受けた出力結果を前提に自己の名義と責任において判断を行う場合(弁護士提供モデル),②弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって,その弁護士が当該サービスを利用した結果も踏まえて自ら精査し必要に応じて自ら修正する方法で利用するとき,及び提供先の職員若しくは使用人又は役員である弁護士が,当該提供先が当事者となっている案件について同等の方法で利用するとき(弁護士利用モデル)は,直ちに72条に抵触するものではないとされている(同15頁注16)。

令和5年ガイドラインが「審査対象となる契約書等」及び「当事者となっている契約」と限定していた部分は「案件」と改められており,契約書の審査以外の場面にも及ぶ書きぶりになっている。もっとも,こうした場合であっても,提供者には現状のAIのリスクを踏まえた適切なガバナンスの構築が期待されるとされており,弁護士向けであることが免責事由とされているわけではない。

なお,弁護士が業務でAIを用いる場合には,72条とは別に守秘義務及び情報管理の問題が生じる。この点は中国製AIの利用は弁護士の守秘義務に違反するかで,事務所や企業が管理していないAIを従業員が業務に用いる場合の問題はシャドーAIの問題点で扱っている。

7 ルールメイキングの在り方検討のロードマップ

法務省は,新ガイドラインと同じ日にAI等を活用した法務業務及びその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方検討のロードマップについてを公表した。ガイドラインの範囲にとどまらない継続的な検討を行うためのものであり,現行の弁護士法及び現行ガイドライン等の限界や司法への影響を踏まえつつ,今後の将来像を見据えたルールメイキングの在り方を検討するとされている。

工程は,令和8年夏にロードマップを公表し,令和8年度中を目途に委員の選任等の準備を経て有識者検討会を立ち上げ,令和9年度中を目途に同検討会の取りまとめを行い,令和10年度から令和11年度にかけて取りまとめに基づく措置を講ずる(仮)というものである。有識者検討会の構成員としては,法学やAIガバナンス等の研究者,裁判官・弁護士等の法律実務家,AI・情報工学等の技術系の研究者,経済界の有識者及び消費者保護の専門家等が想定されている。閣議決定された実施計画が設置を求めた検討会は,この工程に従って立ち上げられることになる。

以上を通してみると,今回の取りまとめは,行為の主体,事件性及び価値中立性という構成要件の解釈をより精緻にする方向で組み立てられており,実施計画が留意事項に掲げた「これまでの弁護士法第72条の構成要件(いわゆる非弁行為)の該当性等の解釈論から脱却しつつ」という方向を実現したものではない。解釈論からの脱却は有識者検討会に委ねられ,当面は補完された解釈の下で実務が動くことになる。

第8 見直しの論点

1 事件性と「鑑定」をめぐる対立

見直しの実質的な争点は二つに整理できる。第一は事件性の要否である。「その他一般の法律事件」に当たるためには条文列挙の事件に準ずる程度の権利義務に関する争い又は疑義を要するという事件性必要説と,これを不要とする事件性不要説とが対立してきた。法務省は,令和5年ガイドラインでも事件性を要するという前提で整理していたが,令和8年8月の新ガイドラインでは,事件性の要否及びその程度について様々な見解があり得ることを認めた上で,これまでの同省の立場である事件性必要説を踏襲すると明示した。これに対し,日本弁護士連合会は,前記第7の5の会長談話において,「これまで同条の解釈につき事件性必要説を支持してきてはおらず,本ガイドラインが事件性必要説を前提としている点については支持するものではない」との意見を明らかにしている。事件性不要説によれば非紛争型の契約書作成支援も広く同条の禁止に服することになるため,どちらの立場を採るかはAIサービスの適法性の範囲を大きく左右する。所管行政機関の解釈と弁護士会の意見が正面から分かれている点であり,いずれか一方をもって同条の解釈が確定しているものとして扱うことはできない。

第二は,生成AIの出力が「鑑定」に当たるかである。法務省は前記のとおり要約文の生成・表示が「鑑定」に当たり得るとする一方,AIリーガルテック協会は大規模言語モデルの出力は統計的なものにすぎず個別事情を解釈して回答しているものではないから「鑑定」に該当しないと主張している。これは法解釈の対立であると同時に,生成AIの出力を法律的見解の陳述と評価するか否かという性質決定の対立でもあり,条文解釈だけでは決着しにくい構造にある。

新ガイドラインは,この第二の対立を正面から解決してはいない。具体的な契約書案や修正案を作成する機能,個別の法的リスクの有無や程度を摘示する機能は,依然として「鑑定」等にわたり得る機能として扱われている。変わったのは,そうした機能を備えるサービスであっても,事件性のある案件に用いさせることを目指した設計でなく,ガバナンス体制が整っていれば72条に抵触しないという道筋が示された点であり,議論の分水嶺は「鑑定」該当性から事件性と価値中立性へ移ったといえる。

2 規制手法の選択

規制手法についても複数の方向が示されていた。法務省は,ハードローの機動性の欠如とホワイトリスト策定の困難を指摘しつつ,ガイドラインの改定にも限界があるとしており,どの手法にも難点があることを自ら認めている。AIリーガルテック協会は解釈の明確化又は特別法の制定を求め,リーガルテック研究会は領域を分けた上で自主規制と利用者側の教育・消費者保護を組み合わせることを提案していた。閣議決定された実施計画は,自主的な規制の在り方や新法の制定も含めて検討する検討会を設置するとしており,いずれの手法にも開かれた形になっている。

実際に採られたのは,まずガイドラインを補完・拡充して予測可能性を高め,ルールメイキングの在り方そのものは有識者検討会に委ねるという進め方であり,法務省がワーキング・グループの資料で述べていた段階的な課題解決に沿うものである。ガイドラインというソフトローの限界は法務省自身が指摘していたところであるから,新ガイドラインが技術の進展等を踏まえて必要に応じ見直すという附則を置いていることは,この限界を前提とした運用が予定されていることを示している。

3 現行法の下で確認できること

以上の見直しの動きとは別に,現行法の下で既に確認できている事項がある。令和5年8月のガイドラインによれば,弁護士がAIサービスを利用し,その結果も踏まえて対象となる契約書等を自ら精査し必要に応じて自ら修正を行う方法で用いる場合は,通常72条に違反しない。企業内弁護士が自社の契約について同等の方法で用いる場合も同様であり,新ガイドラインはこの整理を維持した上で,対象を契約書等から案件一般へ広げ,弁護士又は弁護士法人が自らサービスの提供者となる場合を加えた。したがって,弁護士がAIを補助的に用いること自体は,見直しの結論を待たずに整理されている。

他方,事業者が一般向けに,利用者の質問に応じて法的な回答文を生成して表示する機能を提供することについては,令和7年8月4日の回答が72条本文に違反すると評価される可能性があるとした。新ガイドラインは同回答に言及しておらず,同回答が撤回されたわけではないが,同種のサービスであっても,設計・機能上の中立性とガバナンス措置のいかんによっては,新ガイドラインの枠組みの下で異なる評価があり得ることになる。

顧問先がAI法務サービスを内製し又は外販しようとする場合には,①サービスの設計,中核的機能及び用いられている技術が,法的紛議が顕在化している案件や紛議が生じることがほぼ不可避に想定される案件の処理を目指したものでないか,②そうした案件への利用に特化し又はそれを念頭に置いた特性・機能を備えていないか,③利用規約への明記,ディスクレーマーの表示,弁護士への相談の案内,重大な違反があった場合の利用停止措置その他のガバナンス体制が整っているか,④「鑑定」等にわたり得る機能について弁護士が設計・監修に実質的に関与しているか,の4点で切り分けて検討することになる。③の措置を講じても①及び②を満たさない限り価値中立性は認められないから,①及び②は設計段階で確認しておく必要がある。

4 諸外国及び隣接する制度との関係

米国の一部の州が司法アクセスの促進を理由にサンドボックスや弁護士以外の者による法律事務所への出資の解禁を試みていることは前記のとおりであるが,リーガルテック研究会の資料自身が指摘するとおり,法律家及び法サービスの規律は法域ごとに行われており,普遍的なルールがあるわけではない。したがって,海外の制度をそのまま参照して我が国の72条の在り方を決められるものではなく,実施計画も「海外主要国における規制・制度やAI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供の状況も比較検討しつつ」という限度で言及するにとどめている。

国内に目を向けると,72条は従来から隣接士業の業務範囲や業界慣行を画する機能を果たしてきた。たとえば,昭和35年の弁理士法改正の審議では,弁理士の「鑑定其ノ他ノ事務」に差止請求や損害賠償請求の代理を含められるかについて,弁護士法72条との関係から法律上非常に難しいとの答弁がされている。損害保険会社の示談代行についても,昭和48年9月1日付けの日本損害保険協会と日本弁護士連合会との覚書が72条の解釈をめぐる紛争を回避するためのものであったと国会で説明されている(昭和48年9月1日付の覚書の内容と制度史)。72条の解釈の変更は,AIリーガルテックの範囲を超えて,これらの領域にも影響し得る。

第9 今後の確認方法

令和8年8月21日に公表された新ガイドライン及びロードマップは,実施計画に定められた「令和8年度上期結論」に対応する第一段階の成果であり,実施計画が設置を求めた検討会における検討はこれからである。今後の動きを確認するには,法務省の弁護士法(その他)のページ,規制改革推進会議の公表物のページ及び国会会議録検索システムを直接確認するのが確実である。

今後確認すべき事項は,①有識者検討会の委員構成と第1回の開催時期,②同検討会の取りまとめが解釈の明確化にとどまるのか新法の制定に進むのか,③新ガイドラインが別途の考慮を要するとした消費者向けサービスの取扱い,④今後の検討課題とされた出力制限が推奨事項に格上げされるか,⑤令和7年8月4日の回答をはじめとする既存のグレーゾーン解消制度の回答が新ガイドラインの枠組みの下で改めて整理されるか,の5点である。法令の改正が行われる場合は,公布日と施行日を区別し,経過措置の有無を含めてe-Gov法令検索で条文を確認する必要がある。

なお,民事裁判情報の利用環境の整備は,AIリーガルテックの前提となるデータ基盤に関わる別の法制度であり,民事裁判情報の活用の促進に関する法律の記事で扱っている。訴訟におけるAI生成物の扱いについては,AIで作成・加工された証拠と民事訴訟の対応を参照されたい。

出典・参考資料

1 法令

弁護士法(昭和24年法律第205号)27条・72条・73条・77条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決(昭和42年(あ)第1988号,刑集22巻13号1625頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和50年4月4日判決(昭和47年(オ)第751号,民集29巻4号317頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成22年7月20日決定(平成21年(あ)第1946号,刑集64巻5号793頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷平成23年12月19日決定(平成21年(あ)第1900号,刑集65巻9号1380頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷平成26年11月25日決定(平成25年(あ)第510号,刑集68巻9号1053頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成28年6月27日判決(平成26年(受)第1813号,民集70巻5号1306頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

①法務省大臣官房司法法制部「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(令和5年8月。概要及び掲載元のページ
②法務省大臣官房司法法制部「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」(令和8年8月21日。概要
③法務省「AI等を活用した法務業務及びその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方検討のロードマップについて」(令和8年8月)
④法務省大臣官房司法法制部「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」(平成28年6月2日閣議決定の規制改革実施計画を受けたもの)
⑤法務省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(産業競争力強化法7条2項。令和4年6月6日回答令和4年7月8日回答令和4年10月14日回答(1)及び同日回答(2)
⑥法務省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(令和7年8月4日回答。同項)
⑦法務省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(令和8年8月19日回答。同項)
⑧規制改革推進会議デジタル・AIワーキング・グループ「第6回配布資料」(令和8年1月9日。資料2 一般社団法人AIリーガルテック協会提出資料資料4 リーガルテック研究会提出資料資料5 法務省提出資料
⑨規制改革推進会議「規制改革推進に関する中間答申」(令和8年2月26日)16頁~19頁
⑩内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日閣議決定)80頁~81頁
第221回国会衆議院法務委員会における三谷英弘法務副大臣の答弁(令和8年4月10日。国立国会図書館国会会議録検索システム)
第213回国会参議院総務委員会における法務省大臣官房司法法制部長の答弁(令和6年5月16日。同システム)
第34回国会参議院商工委員会における特許庁長官の答弁(昭和35年3月8日。同システム)
⑭自由民主党政務調査会司法制度調査会「司法制度調査会2026提言――新時代における司法・法務行政の責務と進化」(令和8年6月24日。法務大臣への手交に関する法務省の記録

4 文献

①田中和明=西片和代編著『信託法務大全 第3編 民事信託』(清文社,2025年)461頁~477頁
②石田京子「さらなるゲームチェンジに求められること――グレーゾーン解消制度の構造的課題」ビジネス法務2023年1月号96頁~98頁(中央経済社)

5 弁護士会資料

①日本弁護士連合会「公益社団法人商事法務研究会「AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ」及び法務省「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」に関する会長談話」(令和8年9月1日)