第1 医療費保証制度の仕組み
医療費保証制度は,患者が入院費等を支払わなかった場合に,保証会社が医療機関へ立替払いをし,その後,患者に立替金を請求する仕組みである。医療機関にとっては未収金対策となるが,患者にとって医療費が免除される制度ではない。
関西電力病院は,令和8年9月1日から,入院患者を対象にジェイリース株式会社の「医療費用保証制度」を導入した。同病院の案内では,患者の保証料負担はなく,未払金が生じた場合に同社が病院へ立替払いを行い,患者は同社に立替金を支払うとされている。
この仕組みは,病院・保証会社・患者の三者関係を契約書と同意書で設計した個別制度である。他の病院で同じ名称が使われていても,保証範囲,審査,個人情報の提供先,遅延損害金等は同一とは限らない。
第2 保証料0円と債務免除は違う
「保証料0円」は,保証サービスの利用料を患者が別途負担しないという意味である。未払医療費そのものが0円になるわけではない。
関西電力病院の案内によれば,保証の対象には,健康保険の自己負担分だけでなく,差額ベッド代,文書料その他の自費・実費分も含まれる。患者が病院に支払わず保証会社が立て替えたときは,支払先が病院から保証会社に変わるのであり,最終的な患者負担は残る。
したがって,高額療養費の自己負担限度額,差額ベッド代の請求可否,医療費保証による立替えは,別々に検討しなければならない。高額療養費の対象外となる費用が保証範囲に含まれることもあり,保証対象であることは請求の法的根拠が確定したことを意味しない。
第3 身元保証人・連帯保証人との違い
家族等が個人として入院費を保証する場合,将来発生する不特定の債務を保証する個人根保証契約に当たれば,民法465条の2により極度額を定める必要がある。
これに対し,医療費保証会社は法人であり,患者の家族に代わって身元引受,医療同意,退院時の引取り等を一括して行うとは限らない。少なくとも関西電力病院の案内が示す中心的機能は,未払医療費の立替えである。
「身元保証人がいないこと」と「医療費保証会社の制度を利用すること」は同義ではない。病院が患者に求めているのが,金銭債務の担保,緊急連絡,医療同意,退院支援,遺体・遺品の引取りのどれであるかを分解して確認する必要がある。
第4 同意書で提供される個人情報
関西電力病院が公表する個人情報取扱いに関する同意書は,保証会社が取得・利用し得る情報として,氏名,性別,生年月日,住所,電話番号,国籍,職業,勤務先,月収等を掲げる。さらに,診療費等支払契約の内容,支払状況,身分証明書,画像・音声,公開情報,生体認証情報,病名等も対象に含めている。
利用目的には,保証の審査,保証契約の締結・履行,立替後の求償,サービスの案内・品質向上等が含まれる。保険会社等への第三者提供が予定される場合もある。
同意書は,法令上の例外等を除き,提出された情報を返却・削除しない旨も定めている。患者は,単に病院へ氏名等を記入する書類と考えず,誰が,どの情報を,何の目的で,いつまで利用し,どの第三者に提供するのかを確認する必要がある。
病名や診療情報は要配慮個人情報に当たり得る。もっとも,本記事は公表同意書の内容を整理するものであり,個々の取得・提供が個人情報保護法上適法か,説明が十分かは,実際の取得経路,同意の態様,委託・共同利用・第三者提供の区別等を確認して判断する必要がある。
第5 申込前後に確認する事項
患者側は,少なくとも次の点を確認するとよい。
①保証会社,保証期間及び保証対象となる費用
②保証料,事務手数料,遅延損害金その他の追加負担
③立替えが実行される条件と,実行前に患者へ連絡があるか
④立替後の請求方法,分割払いや相談窓口
⑤取得される個人情報,利用目的,保存期間及び第三者提供先
⑥審査に通らなかった場合の入院・支払方法
⑦差額ベッド代等,請求自体に争いがある費用の取扱い
未払が生じた場合は,病院の請求書と保証会社の請求書を突き合わせ,対象期間,費目,立替日,立替額を確認する。二重払いを避けるため,病院へ直接支払った後に保証会社から請求を受けた場合は,領収書を示して精算状況を確認する。
第6 入院拒否との関係
厚生労働省は,入院による加療が必要であるにもかかわらず,身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは,医師法19条1項に抵触すると通知している。
医療費保証制度を利用しないこと又は審査に通らないことが直ちに「身元保証人等がいないことのみ」と同じかは,病院が入院を拒む具体的理由,緊急性,支払方法の代替案等による。少なくとも,保証会社の制度を導入したことによって,医療上必要な入院を無条件に拒否できるようになるわけではない。
身元保証人がいない場合の応招義務,個人保証の極度額及び医療同意権限は,身元保証人等がいない場合の入院拒否は医師法19条違反かで詳しく整理している。高額療養費,食事代,差額ベッド代等を含む入院費全体は,入院費はいくらかを参照されたい。
第7 資料の射程と判例確認状況
関西電力病院の資料は,同病院とジェイリース株式会社が導入した制度の内容を示す一次資料であるが,医療費保証業界全体の標準約款又は法令ではない。本文では,公表資料に明記された事項と,そこから一般化できない事項を分けた。
判例秘書は今回の調査環境から接続できず,医療費保証会社の立替え・個人情報同意を直接争点とする裁判例の網羅検索は未了である。本記事は裁判例による一般命題を掲げず,契約書・同意書及び厚生労働省通知に基づく確認事項を示すにとどめる。
第8 出典
④厚生労働省「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日付け医政医発0427第2号)