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無償PoCをいつまで続けるのか―報酬,追加作業及び本開発に進まない場合の精算(AI作成)

技術検証だけのはずが,追加の実装や修正を繰り返し求められ,本開発にも進まない。
こうしたPoCの問題は,最初の金額だけでなく,どこまで行えば終わるか,追加作業を誰が承認するかを決めていない場合に起こりやすい。

無償のPoCが直ちに違法になるわけではない。
一方,「将来の大きな取引につながる」と期待して対応を続けても,後で当然に費用全額を回収できるとは限らない。
契約上の請求根拠と,不当な無償作業の要請が独占禁止法上問題になるかを分けて考える必要がある。

本記事は,令和8年10月24日までに確認した民法及び公正取引委員会・経済産業省の指針を基礎に,PoCの開始から終了までに確認する契約と記録を整理する。

第1 PoCでは何を約束するのか

1 検証の実施と製品の完成を分ける

PoCは,新しい技術や仕組みを試し,本格的な開発や導入に進めるかを判断するために行われる。
しかし,契約書にPoCと書くだけで,具体的な義務や契約類型が決まるわけではない。

合意した検証を行って結果を報告する義務と,指定された機能・性能の製品を完成する義務では,未達成の場合の扱いが異なる。
民法632条の請負と,同法656条の準委任の区別を踏まえ,実際に約束する業務を確認する。

2 「準委任が望ましい」とする指針の意味

公正取引委員会・経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は,PoCについて,検証の実施と報告を業務とする準委任契約が望ましいと説明している。
これは,検証段階の不確実性を踏まえた契約設計上の考え方である。

すべてのPoCが法律上当然に準委任になるとか,契約書の表題を準委任にすれば完成義務がなくなる,という意味ではない。
見積書,提案書,仕様書,メール等に,どのような結果を約束したかも確かめる必要がある。

第2 無償・低額なら独占禁止法違反になるか

同指針は,優越的な取引上の地位にある連携事業者が,正当な理由なく無償のPoCや不当に低い対価,減額,やり直し等を求める場合に,優越的地位の濫用として問題となり得ることを示している。

ただし,無償又は低額という一事情だけで結論を出すことはできない。
ほかの支払に対価が反映されているか,十分な協議があったか,修正が当初の合意内容に含まれるか,取引への影響を懸念して応じざるを得なかったか等を具体的に確認する。

また,独占禁止法上の問題があることと,特定の金額の報酬を契約に基づいて請求できることは,同じ問題ではない。
契約上の請求と法令上の問題を,それぞれの根拠に沿って整理する必要がある。

第3 着手前に決める事項

次の表は,契約交渉のための実務上の整理例である。
すべての案件に同じ条件を当てはめるためのひな形ではない。

項目決めておきたい内容
検証の目的何が分かれば事業化の判断ができるか。実証する仮説と対象外の事項
作業範囲対象機能,利用環境,データ,作業回数,報告書等の内容
完了条件何を提出し,誰が,いつまでに確認すれば業務が完了するか
期間と協力開始・終了予定,データや設備の提供期限,遅延した場合の対応
対価固定額・時間単価等の方式,費用負担,支払時期,上限
変更手続追加依頼の窓口,見積り,承認する権限,合意を残す方法
成果・知財従前の技術,検証中の成果,報告書,試作品を誰がどの範囲で利用するか
データ提供できる情報,利用目的,外部サービス・再委託,終了後の返還・削除
次の段階本開発へ進むかの判断期限,意思決定者,次の契約が成立しない場合の扱い

「精度が十分なら終了」といった表現では,評価するデータ,環境,指標,判定者が異なると認識が食い違う。
検証時の性能評価と,本番環境での継続的な性能保証も分けて決める。

第4 追加作業を頼まれた場合の進め方

1 修正か,範囲の追加かを確認する

例えば,合意済みの検証で誤った集計を直すことと,新しいデータや機能を追加して再検証することでは,契約上の位置付けが異なり得る。
「修正」という依頼名だけで無償対応の範囲を決めない。

依頼内容を,当初の仕様・成果物・完了条件と対照させる。
どの点が合意に適合していないのか,どの点が新しい要望なのかを相手方に確認する。

2 着手前に金額・納期・承認者をそろえる

追加作業については,次の事項をまとめて合意することが考えられる。

①追加する作業と対象外の作業,②金額又は計算方法,③追加の日数,④当初の完了条件への影響,⑤発注・承認する担当者である。
電子メール等で合意する場合も,誰の承認なのか,どの仕様の版に対する合意なのかを追跡できる形にする。

担当者から「先に作っておいてほしい」と言われても,その担当者に追加発注の権限があるか,社内手続が完了しているかを確認する。
議事録を送付したことだけで,相手が記載内容すべてに同意したものとは扱わない。

3 既に作業を始めている場合

未合意の追加作業を整理し,進捗,必要費用及び継続の可否を協議する。
既存契約上の義務を調べずに,データを消去したりシステムを停止したりして請求の手段にすることは避ける。

第5 本開発に進まなかった場合の報酬・成果・データ

1 本開発の不成立とPoCの報酬は別に確認する

PoCを有償で実施したのであれば,本開発に進まないことだけで,既に行ったPoCの報酬が当然になくなるわけではない。
反対に,無償又は割引に合意していた場合に,本開発が成立しなかったことだけから,後で当然に通常価格を請求できるわけでもない。

民法648条は委任の報酬について特約を問題とし,同法656条は法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用する。
具体的な請求では,有償の合意,契約類型,中途終了の理由,商法等の適用を含めて検討する必要がある。

本開発に進む場合だけ割引するのであれば,判断期限,割引が適用される契約の範囲,不成立時に追加して支払う金額等を初めから合意しておく方法がある。
請求の根拠を後から作るのではなく,開始時の条件にすることが重要である。

2 成果を利用してよい範囲を確認する

PoCが終了しても,相手方が報告書,試作品,ソースコード,検証結果等をそのまま事業化に使えるとは限らない。
一方,PoCの終了によって,それまで認められていた利用がすべて当然に消えるともいえない。

契約に基づく権利帰属と利用許諾を確認し,検証目的の利用と商用利用,第三者への開示,他社への開発の引継ぎを分ける。
既存技術と新たな成果,保護される権利と単なる情報も区別する。

3 終了後のデータと秘密保持義務を整理する

提供データ,複製,報告書及び作業環境ごとに,返還・削除するものと保存を認めるものを決める。
NDAの契約期間だけでなく,終了後も続く義務を確認する。
個人データを含む場合には,契約の定めとは別に,利用目的や委託の範囲等に関する確認も必要になる。

第6 支払を求める前に整理する資料

①契約書・発注書,②見積書・提案書とその版,③仕様変更の経緯,④追加作業の依頼と承認,⑤実施記録・報告書・提出記録,⑥不具合等の指摘と回答,⑦請求・支払状況を時系列に並べる。

その上で,「当初合意した報酬」「追加の合意に基づく報酬」「中途終了に関する精算」「損害賠償等」を区別する。
投入した工数の総額が,そのまま相手方の支払義務の額になるとは限らない。

将来の受注を期待して無償対応を続けた場合には,期待の根拠となった発言,時期,発言者,約束した条件を確認する。
「必ず本契約をする」との説明があったかどうかも,具体的な記録に基づいて整理する。

第7 よくある疑問

1 契約書がなければ請求できないか

署名済みの契約書がないことだけで結論は決まらない。
メール,発注書,提案書,実際のやり取り等から,業務と報酬についてどのような合意があったかを調べる。
ただし,作業した事実だけで希望額の報酬合意まで証明されるわけではない。

2 NDAがあればPoC契約は不要か

NDAが秘密保持を定めていても,検証の範囲,対価,完了条件まで決まっているとは限らない。
既に合意されている内容を確認し,足りない部分をPoCの条件として定める必要がある。

3 本開発に進まなければ違約金を請求できるか

そのような合意があるか,対象となる場合や金額はどう定められているかを確認する。
共同研究開発に進めなかったことだけで,当然に違約金が生じるわけではない。

第8 出典・参考資料と関連記事

1 法令・行政資料

– 民法632条,648条及び656条(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
– 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」第2の2「PoC(技術検証)契約」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html

2 参考文献

下平将人・尾西祥平『起業家のためのリスク&法律入門―致命的な失敗を避けるための26話』(ダイヤモンド社,2024年)467~468頁。

3 関連記事

– 秘密保持契約(NDA)の審査ポイント―秘密情報の定義,開示先,AI利用及び終了後の義務(AI作成)
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