第1 借金がある会社でも,破産以外の廃業方法を検討できる
借金を全額返せない会社でも,債権者との合意や裁判所の特別清算手続を利用して,破産以外の方法で廃業できる場合がある。
ただし,営業をやめたり解散登記をしたりするだけで,借金や経営者の個人保証がなくなるわけではない。
会社の債務をどう処理するか,会社をどう清算するか,経営者の保証をどう整理するかを分けて検討する必要がある。
この記事では,金融機関に対する借入れがある株式会社を中心に,廃業型の私的整理と特別清算の関係を説明する。
個人事業主の本人名義の借金は,会社の借金と経営者保証を分ける場面とは異なる。
個人事業主の廃業と借金も参照されたい。
第2 私的整理・通常清算・特別清算の役割は異なる
1 私的整理は,対象となる債権者との合意による整理である
私的整理は,裁判所の多数決手続によって当然に債権を減額する制度ではない。
返済猶予,資産売却代金の分配,残債務の免除などについて,対象債権者との合意を形成する。
一部の債権者の同意を得たというだけで,合意していない債権者の権利まで変更することはできない。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインには,廃業を目的とする私的整理の手続が設けられている。
この枠組みでは金融債務の整理が中心となり,通常の商取引債務を対象から外して支払うことがある。
しかし,対象債権の範囲,取引債権を支払う必要性,全体の資金繰りについて,具体的に検討することが前提である。
2 解散しても,清算が終わるまでは会社は存続する
会社法476条は,清算株式会社が清算の目的の範囲内でなお存続することを定めている。
解散は清算の入口であり,債務の消滅と同じ意味ではない。
借金の残った会社について,廃業届や解散登記だけを済ませれば責任がなくなると考えるのは適切ではない。
3 特別清算は,清算中の株式会社について裁判所が関与する手続である
会社法510条は,清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること,又は債務超過の疑いがあることを特別清算開始の原因として定めている。
同法511条2項は,債務超過の疑いがあるとき,清算人に開始申立てを義務付けている。
また,同法514条は,特別清算によっても清算を結了する見込みがないことが明らかな場合などを開始命令の除外事由としている。
債務超過だから必ず特別清算で終えられる,という制度ではない。
特別清算には,債権者集会の決議と裁判所の認可を経る協定を用いる方法と,個別の和解を用いる実務上の方法がある。
協定の可決要件は,出席した議決権者の過半数と,議決権総額の3分の2以上という二つの要件である(会社法567条)。
個別和解についても,特別清算開始後の和解に関する会社法535条など,裁判所の関与に関する規律を別に確認する。
「私的整理だから裁判所の手続は一切不要」とは限らない。
第3 金融機関との合意と,会社を終わらせる手続を組み合わせる
金融機関との間で,どの資産を換価し,どれだけ返済し,残額をどう扱うかが合意できても,その合意だけで法人格が消滅するわけではない。
残る契約,税金,従業員の債権,取引先の債権,未処理の資産を確認し,清算を終える方法を検討する。
金融債務の免除の合意と,会社の清算手続は,互いに関係する別の問題である。
実務書『私的整理(廃業型手続)・特別清算の実務Q&A115問』は,この二つを組み合わせる実務を解説している。
その説明には,法令の要件に加え,金融機関との調整や裁判所ごとの運用に関する実務上の考慮が含まれる。
書籍で紹介された方法が,どの裁判所でも同じ条件で利用できるとは限らない。
経営者保証に関するガイドラインのQ&Aにも,保証債務の整理と主債務者の手続の関係についての説明がある。
これを「主債務者である会社の清算も,いつでも裁判外の合意だけで完了する」と読み替えることはできない。
第4 銀行返済を猶予してもらいながら,取引先に支払えるか
廃業型の私的整理では,金融機関に一時停止を求める一方,廃業を円滑に進めるために通常の取引債権を支払うことがある。
ただし,一時停止の要請書を送るだけで,金融機関に対する返済義務が当然に停止するわけではない。
預金口座の利用,担保権の実行,相殺,保証人への請求についても,実際の合意内容と法的な要件を確認する必要がある。
解散後の債権申出期間中には会社法500条による弁済制限があり,特別清算開始後には同法537条による弁済の規律がある。
金融機関との私的な了解だけで,これらの法律上必要な許可を代替できるとは限らない。
さらに,私的整理が成立せず後に破産したときは,それまでの支払が否認の対象になることがある。
詳細は,廃業を決めた会社は取引先に支払ってよいかで説明している。
特定の金融機関だけへの返済,経営者や親族への返済,資産の廉価譲渡などを先行させる前に,整理方針と資金繰りを確認することが大切である。
第5 会社の借金と,経営者の保証債務を別々に整理する
会社が債務免除を受けても,経営者の個人保証まで当然に消えるとは限らない。
会社法571条2項は,特別清算の協定が保証人などに対する債権者の権利に影響を及ぼさないことを定めている。
また,個別和解を使う場面では,保証に関する合意内容や関係する裁判例の射程を確認する必要がある。
会社についての合意書,経営者についての合意書,保証を存続させる確約書や念書を一緒に確認する。
担保が解除されたことと,保証債務が免除されたことも同じではない。
特別清算の協定・個別和解と保証存続合意を参照されたい。
経営者保証に関するガイドラインを用いる場合でも,財産をどれだけ残せるか,弁済を要するか,免除を受けられるかは個別の要件と合意による。
会社が破産する場合に,経営者自身も必ず破産しなければならないという関係でもない。
会社と経営者の財産・債務を分けた上で,双方の解決方法を検討する。
第6 廃業の準備から合意・清算までの進め方
1 資産・負債と,当面の資金繰りを把握する
借入先,残高,保証人,担保,預金口座,売掛金,リース物件,従業員への未払金,税金・社会保険料を一覧にする。
帳簿上の金額と,廃業時に実際に回収・換価できる金額は分けて考える。
予定どおり売掛金が入らない場合や,資産売却が遅れた場合にも必要な支払を継続できるかを確認する。
2 事業や資産を譲渡する場合は,価格と代金の行方を説明できるようにする
事業譲渡によって価値を維持できることはあるが,経営者や関係者に資産を移せばよいという意味ではない。
譲渡対象,価格の根拠,買主との関係,代金の入金先,債権者への配分を説明できるようにする。
保証解除が必要な取引では,会社と買主だけの約束で金融機関の保証解除が実現したと考えないことも重要である。
3 合意できない場合の方針を,資金が尽きる前に決める
私的整理を続けることで債権者にとってもよい結果が見込めるか,必要な同意を得られるか,手続費用を確保できるかを検討する。
見通しが崩れたのに,従前の支払だけを続けることは避けるべきである。
破産などの法的整理への切替えを含め,支払方針を見直す時点をあらかじめ設ける。
第7 相談時に確認したいこと
1 費用や期間は一律に決まるか
弁護士費用,裁判所に納める費用,専門家の調査費用,公告・登記などの費用を分けて見積もる必要がある。
裁判所の運用,債権者数,資産の内容,調整の難しさで変わるため,一つの金額や期間をすべての案件に当てはめることはできない。
資金が尽きる前に,必要な費用と期間を確認する必要がある。
2 債務免除を受ければ税金の問題も終わるか
会社の債務免除益,債権者の貸倒損失,経営者が資産を処分した場合の課税は,それぞれ別の問題である。
国税庁の文書回答にも,特定の手続・事実関係を前提とした取扱いがある。
「私的整理なら非課税」「特別清算なら必ず全額損金」といった一括した理解は避け,合意内容と税務上の要件を照合する。
3 初回相談には何を持参するか
直近の決算書・試算表,金融機関別の借入一覧,保証契約書,担保の資料,通帳,資金繰り表,主な資産と契約の一覧を用意すると検討が進む。
経営者保証も整理する場合には,経営者個人の財産・収入・債務の資料も必要である。
廃業を決めた理由,直近の支払や資産移転,取引先や従業員への説明状況も伝える必要がある。
第8 主な参照資料
会社法(特に476条,500条,510条,511条,514条,535条,537条,567条,571条)。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
破産法(特に162条)。
https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
全国銀行協会「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」関連資料の掲載ページ(令和8年3月改定の本文及びQ&A)。
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」関連資料の掲載ページ。
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/
裁判所「特別清算」。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_19/index.html
全国倒産処理弁護士ネットワーク編『私的整理(廃業型手続)・特別清算の実務Q&A115問』(金融財政事情研究会,2026年3月30日初版)。
書籍の実務上の説明と,法令・ガイドラインに明記された要件を区別して参照している。