第1 新しい申合せの概要
1 法務省矯正局長の通達と申合せ
(1) 令和8年6月1日からの取扱い
法務省矯正局長は,令和8年5月1日付け法務省矯成第649号通達「夜間及び休日の未決拘禁者等と弁護人等との面会等の取扱いについて」を,矯正管区長及び矯正施設の長に宛てて発出した。
通達は,法務省と日本弁護士連合会との間で新たな申合せ(以下「新申合せ」という。)が行われたとして,令和8年6月1日以降は新申合せに留意して未決拘禁者等と弁護人等との面会等を実施するよう求めている。
新申合せの全文は通達の別添として法務省のウェブサイトに掲載されており,新申合せ自体も第13項で令和8年6月1日から施行するとしている。
(2) 平成19年の申合せと通達の廃止
従前の取扱いは,平成19年3月13日付けの「夜間及び休日の未決拘禁者と弁護人等との面会等に関する申合せ」と,これを踏まえた同年5月25日付け法務省矯成第3246号通達によっていた。
新しい通達は平成19年の通達を令和8年5月31日限りで廃止し,新申合せも第14項で平成19年の申合せを同日限りで廃止するとしている。
平成19年の申合せと通達の本文は,法務省のウェブサイトでは確認できなかったため,本記事は従前の取扱いとの比較ではなく,令和8年6月1日以降の新申合せの内容を説明する。
2 法律上の位置付け
(1) 刑事収容施設法118条
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律118条1項は,未決拘禁者の弁護人等との面会の日及び時間帯を,日曜日その他政令で定める日以外の日の刑事施設の執務時間内とする。
政令で定める日は,土曜日,国民の祝日に関する法律に規定する休日,1月2日,1月3日及び12月29日から12月31日までの日である(同法施行令2条1項)。
同法118条3項は,弁護人等からこれによらない面会の申出がある場合においても,刑事施設の管理運営上支障があるときを除き,刑事施設の長はこれを許すものとすると定める。
夜間・休日の面会に関する新申合せは,この3項の運用について,法務省と日本弁護士連合会が手続と判断の基準を定めたものと考えられる。
(2) 申合せに当たらない場合の扱い
通達は,新申合せの予約が行われていない場合においても,弁護人等が未決拘禁者等との面会等の申出をしたときは,職員配置等が可能な限り,できるだけ実施するよう求めている。
新申合せの要件に当たらない面会の申出であっても,刑事収容施設法118条3項によれば,刑事施設の管理運営上支障があるときを除き,刑事施設の長は面会を許すものとされている。
3 対象となる施設と人
(1) 刑事施設・少年鑑別所・少年院
新申合せが対象とするのは,刑事施設のほか,少年鑑別所及び少年院における面会と文書等の差入れである(新申合せ前文)。
通達の宛先は矯正管区長と矯正施設の長であり,警察署の留置施設は新申合せの対象として書かれていない。
留置施設の被留置者と弁護人等との面会は,刑事収容施設法220条が別に定めており,同条3項は,留置施設の管理運営上支障があるときを除き,留置業務管理者は日時の定めによらない面会を許すものとすると規定している。
(2) 「弁護人等」と時間帯の定義
「弁護人等」には,弁護人のほか,弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者が含まれる(新申合せ1項ケ)。
執務時間は午前8時30分から午後5時までであり,「夜間」は平日の執務時間終了時以後午後8時までの時間をいう(新申合せ1項ウ・エ)。
第2 被疑者との夜間・休日の面会
1 夜間の面会
被疑者の弁護人等との面会は,夜間にも実施する(新申合せ2項)。
被疑者について,夜間の面会に公判期日等の要件はなく,平日の午後5時から午後8時までの間に面会ができる(新申合せ1項エ,2項)。
2 休日の面会
被疑者の弁護人等との面会は,休日における,平日の執務時間と同一の時間にも実施する(新申合せ3項本文)。
ただし,当該刑事施設に収容された後の2回目以降の面会については,面会の回数は1日につき1回までとし,面会時間の上限は1時間程度とする(同項ただし書)。
休日の面会も予約が必要であり,2回目以降の面会を含め,面会希望日の直近の平日の執務時間終了までに予約をする(新申合せ8項(1))。
第3 被告人との夜間・休日の面会
1 夜間の面会
(1) 夜間の面会ができる場合
被告人の弁護人等との面会は,次の各場合に夜間にも実施する(新申合せ5項(1))。
①面会希望日の次の平日から起算して5日(休日の日数は算入しない。)以内に公判期日が指定されている場合
②上訴期限,抗告期限又は控訴趣意書,上告趣意書,予定主張記載書面等の提出期限が,面会希望日の次の平日から起算して5日(休日の日数は算入しない。)以内に迫っている場合
ここでいう公判期日には,公判前整理手続期日,期日間整理手続期日,進行協議期日及び刑事訴訟規則178条の16に基づく打合せ期日が含まれる。
(2) 公判期日が長引いた場合
上記により面会を実施する場合において,公判期日の終了時刻の遅延や交通事情等により被告人の刑事施設への帰着が午後7時を過ぎるときは,午後8時30分まで面会を行うことができる(新申合せ5項(2))。
この延長は,(1)の要件を満たして夜間の面会を行う場合のものである。
2 休日の面会
被告人の弁護人等との面会は,次の各場合に土曜日の午前中にも実施する(新申合せ6項)。
①面会希望日の次の平日から起算して10日(休日の日数は算入しない。)以内に公判期日が指定されている場合
②上訴期限,抗告期限又は控訴趣意書,上告趣意書,予定主張記載書面等の提出書類の提出期限が,面会希望日の次の平日から起算して10日(休日の日数は算入しない。)以内に迫っている場合
被疑者と異なり,被告人の休日の面会は土曜日の午前中に限られ,日曜日・祝日の面会は,第5の2の例外的措置に当たる場合を除き,新申合せの対象として書かれていない。
第4 夜間・休日の文書等の差入れ
1 差入れができる文書等
(1) 面会の機会に限られること
弁護人等による被疑者・被告人に対する文書等の差入れは,夜間・休日の面会の機会において弁護人等が希望した場合に,夜間又は休日にも受け付ける(新申合せ4項(1),7項(1))。
受付時間は,その日に面会を実施する時間と同一である(同4項(2),7項(2))。
新申合せは差入れを面会の機会におけるものとして定めているので,面会をせずに差入れだけをするための夜間・休日の来訪は,新申合せの対象として書かれていない。
(2) 「文書等」の範囲
対象となる「文書等」は,新申合せ1項サに列挙されたものに限られる。
主なものは,検察官から開示を受けた証拠,裁判所で謄写した記録,作成者が記名により明らかな訴訟に関する弁護人作成書面,検察官作成書面,裁判所提出予定の証拠及び書面,日弁連作成書式の被疑者ノート(書き込みのないもの),弁護人等の連絡に使う未使用の市販ノート,示談書・念書・同意書・誓約書・脱退願・反省文・謝罪文及び委任状,付添人選任届,弁護人選任届,国選弁護人選任請求書等である。
2 枚数の上限と引渡し
(1) おおむね30枚
被疑者に差し入れる文書等の合計枚数の上限は,おおむね30枚(両面印刷。片面印刷の場合は60枚,ノートの場合は60ページ)である(新申合せ4項(3))。
被告人に差し入れる文書等の上限も,おおむね30枚である(同7項(3))。
ただし,一つの文書等が上限を超える場合には,その文書等の全体を差し入れる必要がある場合に限り,全部の差入れができる。
差入れを希望するときは,予約の際に申し出て,交付する文書等の種類と分量を申告する必要があり,申告がないと差入れが受け付けられないこともある(同8項(6))。
(2) 即日に渡されない場合
夜間又は休日に受け付けた文書等について,検査に時間を要すること等により即日引き渡すことができない事情がある場合は,翌日以降できる限り速やかに被疑者・被告人に引き渡す(新申合せ4項(4),7項(4))。
このため,翌日の公判期日等で使う書面は,引渡しが翌日以降になる可能性も見込んで差し入れることが考えられる。
3 差入れ拒否を違法とした裁判例
東京地裁令和4年4月21日判決(令和2年(ワ)第22514号)は,控訴趣意書の提出期限の2日前の土曜日に,東京拘置所で接見した国選弁護人が控訴趣意書案(A4判11頁)の差入れを申し出たところ,閉庁日には物品の差入れ業務を行っていないという理由のみで拒否された事案である。
判決は,控訴趣意書案の重要性と提出期限の切迫から被告人に早期に交付する必要性が高かった一方,文書の体裁・分量等から検査は比較的容易であったとして,拒否は東京拘置所長に与えられた裁量の範囲を逸脱し,国家賠償法1条1項の違法があると判断した。
認容額は,慰謝料2万円と弁護士費用2000円の合計2万2000円である。
国はこの訴訟で,夜間・休日の面会については法務省と日弁連の申合せがあるが,弁護人等の物品の差入れについてはそのような申合せがないと主張していた。
新申合せは,夜間・休日の面会の機会における文書等の差入れを,第4項・第7項で定めている。
第5 予約と例外的措置
1 予約の方法と締切
(1) 予約の締切
夜間又は休日の面会を希望する弁護人等は,被疑者の休日の2回目以降の面会の場合も含め,面会希望日の直近の平日(面会希望日を含まない。)の執務時間終了までに予約をする(新申合せ8項(1))。
ただし,夜間の面会については,次の時点まで予約ができる。
①面会希望日当日に面会の必要が生じた場合(②の場合を除く。)は,当日の午後4時
②面会希望日に公判期日が開かれており,翌日にも公判期日が予定されている場合は,面会希望日の執務時間終了時刻
(2) 予約の方法と施設の対応
予約は,弁護人等から刑事施設に電話をする方法で行う(新申合せ8項(2))。
締切までに連絡があった場合,刑事施設は,管理運営上特段の支障がない限り予約に応じる(同項(3))。
弁護人等は,予約に当たり緊急連絡先を告知し,面会が遅延又は中止となる場合には速やかに刑事施設に連絡する(同項(4))。
予約がない場合には職員配置の事情等により面会が実現できないこともあるとされているが(同項(5)),通達は,予約がない場合でも職員配置等が可能な限りできるだけ実施するよう求めている。
2 例外的措置
新申合せ12項は,弁護人等又は付添人等から,次の事情があり平日の執務時間内に面会及び文書等の差入れを実施することが困難であるとの申出がある場合には,夜間又は休日(平日の執務時間と同一の時間)にも刑事施設,少年鑑別所及び少年院がこれを認めるとしている。
①弁護人等又は付添人等が遠隔地から来訪する場合
②通訳を要する事案において,通訳人が遠隔地から来訪する場合
③未決拘禁者等から,被疑事件について取調べを受けたので至急面会したい旨の信書(電報及びファクシミリを含む。)が休日又はその直前に届いた場合
④その他これらに準ずる緊急性又は必要性が認められる場合
第6 少年鑑別所・少年院と再審請求
1 少年鑑別所
少年鑑別所に勾留されている未決在所者については,夜間の面会と文書等の差入れは被疑者の例に準じ,休日の面会は,収容後の初めての面会は休日における平日の執務時間と同一の時間に,2回目以降の面会は土曜日の午前中に実施する(新申合せ10項(1))。
観護措置により収容されている被観護在所者については,付添人等との夜間の面会と文書等の差入れは被告人の例(午後8時30分までの延長を除く。)に準じ,休日の面会は未決在所者と同じく,初めての面会は平日の執務時間と同一の時間に,2回目以降は土曜日の午前中に実施する(同項(2))。
予約は,第8項の未決拘禁者の夜間・休日の面会の定めに準ずる(同項(3))。
2 少年院と再審請求人
少年院に収容されている保護処分在院者と弁護人等・付添人等との,被疑事件及び抗告審(再抗告審を含む。)の打合せのための面会及び文書等の差入れは,被疑者の例に準ずる(新申合せ11項)。
再審請求のために選任された弁護人が,即時抗告,異議申立て又は特別抗告の打合せのためにする面会及び文書等の差入れは,被告人の例に準ずる(同9項)。
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第7 出典
①法令
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律118条,220条(e-Gov法令検索)
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律施行令2条(e-Gov法令検索)
②裁判例
東京地裁令和4年4月21日判決(令和2年(ワ)第22514号)裁判所HP
③所管行政機関の通達
法務省矯正局長「夜間及び休日の未決拘禁者等と弁護人等との面会等の取扱いについて(通達)」(令和8年5月1日付け法務省矯成第649号)及び別添「夜間及び休日の未決拘禁者等と弁護人等との面会等に関する申合せ」PDF