第1 第26回国民審査の概要
1 実施日と投票方法
第26回最高裁判所裁判官国民審査は,令和6年10月27日,第50回衆議院議員総選挙と同時に執行された。
日本国憲法79条2項・3項は,最高裁判所裁判官について,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査を行い,その後は10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に更に審査を行うものと定めている。
投票者は,罷免したい裁判官の氏名の上の欄に「×」を記載する。
罷免を可としない裁判官については何も記載しない。
最高裁判所裁判官国民審査法14条・15条・32条により,「×」を記載した票は罷免を可とする票,何も記載しない票は罷免を可としない票として扱われ,前者が後者を超えた裁判官は罷免される。
2 本記事で扱う範囲
本記事では,第26回国民審査に固有の事項として,審査対象裁判官の告示順,審査公報,全国の投開票結果及び改正後初となった在外国民審査を扱う。
国民審査制度の一般的な仕組みや個々の裁判官が関与した裁判の詳細は,第6記載の関連記事に譲る。
記載内容は,令和8年8月29日現在の公開資料に基づく。
第2 審査対象となった6人の裁判官
1 告示順・任命日・出身分野
審査対象者は,次の6人である。
氏名の順序は着任順ではなく,中央選挙管理会のくじで定められた告示順である。
| 告示番号 | 裁判官 | 最高裁判所裁判官への任命日 | 主な出身分野 |
|---|---|---|---|
| 1 | 尾島明 | 令和4年7月5日 | 裁判官 |
| 2 | 宮川美津子 | 令和5年11月6日 | 弁護士 |
| 3 | 今崎幸彦 | 令和4年6月24日 | 裁判官 |
| 4 | 平木正洋 | 令和6年8月16日 | 裁判官 |
| 5 | 石兼公博 | 令和6年4月17日 | 外交官 |
| 6 | 中村愼 | 令和6年9月11日 | 裁判官 |
今崎幸彦裁判官は令和4年6月24日に最高裁判所判事に任命され,令和6年8月16日に最高裁判所長官に任命された。
中村愼裁判官の「愼」は,「慎」ではなく旧字体の「愼」である。
2 法令上の定年退官日
裁判所法50条は,最高裁判所裁判官の定年を70歳としている。
年齢計算ニ関スル法律及び民法143条2項によれば,年齢は誕生日の前日の終了時に加算される。
そのため,法令上の定年退官日は70歳の誕生日の前日となる。
| 裁判官 | 生年月日 | 法令上の定年退官日 |
|---|---|---|
| 尾島明 | 昭和33年9月1日 | 令和10年8月31日 |
| 宮川美津子 | 昭和35年2月13日 | 令和12年2月12日 |
| 今崎幸彦 | 昭和32年11月10日 | 令和9年11月9日 |
| 平木正洋 | 昭和36年4月3日 | 令和13年4月2日 |
| 石兼公博 | 昭和33年1月4日 | 令和10年1月3日 |
| 中村愼 | 昭和36年9月12日 | 令和13年9月11日 |
第3 審査公報と最高裁判所の送付文書
1 選挙管理委員会が発行した審査公報
第26回最高裁判所裁判官国民審査公報には,各裁判官の氏名,生年月日,経歴,最高裁判所において関与した主要な裁判,裁判官としての心構え及び国民審査に際して考慮してほしい事項が掲載されている。
審査公報は選挙管理委員会が発行する公報であり,第26回の公報は2頁で,告示番号1から6までの裁判官を掲載している。
2 最高裁判所の「審査公報掲載文」との違い
最高裁判所は,令和6年10月15日付けの決裁文書により,中央選挙管理会へ審査公報の掲載文を送付した。
この決裁文書は,審査公報に掲載する原稿の送付に関する最高裁判所内部の文書である。
選挙管理委員会が実際に発行した審査公報そのものとは区別する必要がある。
第4 国民審査の結果
1 6人はいずれも罷免されなかったこと
6人全員について,罷免を可とする票が罷免を可としない票を下回ったため,いずれの裁判官も罷免されなかった。
2 速報系列の全国集計
次の表は,令和6年11月5日の最高裁判所事務総局会議資料及びさいたま市選挙管理委員会の結果調に共通して掲載された全国の速報系列の数値である。
罷免可票率は,罷免を可とする票を罷免可票と罷免不可票の合計で除して算出した。
| 告示番号 | 裁判官 | 罷免可 | 罷免不可 | 記載無効 | 罷免可票率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 尾島明 | 5,980,388票 | 48,371,423票 | 82票 | 11.00% |
| 2 | 宮川美津子 | 5,715,853票 | 48,635,968票 | 72票 | 10.52% |
| 3 | 今崎幸彦 | 6,230,043票 | 48,121,789票 | 61票 | 11.46% |
| 4 | 平木正洋 | 5,420,046票 | 48,931,786票 | 61票 | 9.97% |
| 5 | 石兼公博 | 5,439,278票 | 48,912,545票 | 70票 | 10.01% |
| 6 | 中村愼 | 5,336,060票 | 49,015,769票 | 64票 | 9.82% |
この速報系列では,有効投票数は54,351,893票,無効投票数は1,351,585票,投票総数は55,703,478票であり,無効投票率は2.43%である。
3 後日刊行された自治体記録との数値差
後日刊行された尾道市の選挙記録など複数の自治体の選挙記録は,全国の罷免可票を,尾島明5,980,011票,宮川美津子5,715,535票,今崎幸彦6,229,691票,平木正洋5,419,857票,石兼公博5,439,056票,中村愼5,335,897票と掲載している。
これらの数値は,前項の速報系列より順に377票,318票,352票,189票,222票,163票少ない。
確認できた公表資料からは,この差異が生じた理由を特定できなかった。
そこで,本記事の表には資料間の数値を混在させず,速報系列の数値を掲げた上で,後日刊行された自治体記録との不一致を明示している。
4 全国の投票率
全国集計によれば,当日有権者数は103,880,743人,投票者数は55,722,330人であり,投票率は53.64%であった。
在外投票については,当日有権者数95,466人,投票者数15,111人,投票率15.83%であった。
5 結果を読む際の留意点
罷免可票率は,個々の裁判官に対する評価だけで決まるとは限らない。
投票者が審査公報を読んだか,裁判官の関与判決を知っていたか,制度自体をどのように理解していたかなどは,全国集計の票数だけから確定できない。
したがって,罷免可票率の高低を特定の判決や経歴に直接結び付けることはできない。
第5 改正後初の在外国民審査
1 最高裁令和4年5月25日大法廷判決
最高裁令和4年5月25日大法廷判決(令和2年(行ツ)第255号・令和2年(行ヒ)第290号,第291号,第292号,民集76巻4号711頁)は,在外国民に国民審査権の行使を全く認めていなかった当時の制度について,憲法15条1項並びに79条2項・3項に違反すると判断した。
同判決は,国が国外に住所を有することを理由として次回の国民審査で審査権を行使させないことの違法確認を求める訴えを適法とし,立法措置を執らなかったことを国家賠償法上違法として各原告に5000円の支払を命じた。
2 法改正と第26回国民審査
同判決を受け,令和4年法律第86号により最高裁判所裁判官国民審査法が改正され,在外投票,洋上投票及び南極投票の制度が設けられた。
衆議院調査局の資料によれば,第26回国民審査は,在外投票制度の創設後,初めて実施された国民審査である。
実際の在外投票率は,前記のとおり15.83%であった。
第6 関連記事
国民審査制度の仕組み,過去の結果及び投票方法については,最高裁判所裁判官の国民審査及び最高裁判所裁判官国民審査における判断方法を参照されたい。
在外国民審査をめぐる最高裁大法廷判決については,最高裁判所裁判官の国民審査の合憲性等を参照されたい。
次回の国民審査については,令和8年2月8日執行の第27回最高裁判所裁判官国民審査を参照されたい。
各裁判官の詳細な経歴及び関与判決は,第2の表にある氏名のリンク先を参照されたい。
第7 出典・参考資料
1 法令
日本国憲法79条
最高裁判所裁判官国民審査法
裁判所法50条
年齢計算ニ関スル法律
民法143条
2 裁判例
最高裁令和4年5月25日大法廷判決(令和2年(行ツ)第255号・令和2年(行ヒ)第290号,第291号,第292号,民集76巻4号711頁)
3 審査対象裁判官・審査公報
最高裁判所裁判官一覧
尾島明裁判官の公式略歴
宮川美津子裁判官の公式略歴
今崎幸彦長官の公式略歴
平木正洋裁判官の公式略歴
石兼公博裁判官の公式略歴
中村愼裁判官の公式略歴
沖縄県選挙管理委員会・審査対象者の氏名及び告示番号等
沖縄県選挙管理委員会・第26回最高裁判所裁判官国民審査公報
最高裁判所・審査公報掲載文の送付に関する決裁文書
4 投開票結果・在外国民審査
最高裁判所事務総局会議資料(令和6年11月5日)
さいたま市選挙管理委員会・第50回衆議院議員総選挙及び第26回最高裁判所裁判官国民審査結果調
尾道市選挙管理委員会・令和6年執行選挙の記録
浜松市選挙管理委員会・第26回最高裁判所裁判官国民審査結果
衆議院調査局・政治改革に関する動向