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日ソ共同宣言とは――全10項の内容,二島引渡し・請求権放棄と現在の効力(AI作成)

第1 日ソ共同宣言で決まったことと残ったこと

1 戦争状態は終了したが,平和条約交渉は残された

日ソ共同宣言は,昭和31年(1956年)10月19日にモスクワで署名され,同年12月12日に東京で批准書が交換されて発効した,日本とソ連との国際約束である。
第1項は発効日に戦争状態が終了することを,第2項は外交関係及び領事関係を回復することを定めた。
したがって,平和条約が未締結であることを理由に,日露間の戦争状態が今も続いていると理解するのは誤りである。

一方,第9項は外交関係の回復後に平和条約締結交渉を続けると定め,歯舞群島及び色丹島の日本への引渡しにソ連が同意した上で,現実の引渡しを平和条約の締結後とした。
国交正常化を先行させ,平和条約と領土問題の処理を残した構造を区別して読む必要がある。
原文は外務省掲載の「日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言」で確認できる。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1957/s32-shiryou-001.htm

2 「共同宣言」という名称でも法的拘束力がある

第10項は批准を必要とし,批准書交換の日に効力を生ずると定める。
外務省の北方領土問題に関するQ&Aも,両国の立法府の承認を経て批准された法的拘束力のある条約と説明している。
文書の名称だけから,政治的な意向表明にすぎないと判断することはできない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/mondai_qa.html

本記事は令和8年10月19日を調査基準日とし,宣言原文,後続の日露文書,関係政府の説明及び国内裁判例を扱う。
各政府の主張を示す文書と,国家間の争いを中立的に裁定した判断とは区別する。
現在の個別の渡航・漁業手続,国際制裁の適用及び四島の領有権の最終的な判定は対象としない。

第2 全10項の内容を読む

1 第1項から第5項――正常化と日本人の帰還

①第1項は,宣言の発効日に戦争状態を終了させ,平和,友好及び善隣関係を回復する。
②第2項は,外交関係及び領事関係を回復し,大使級の外交使節を交換する。
③第3項は,国連憲章の原則,紛争の平和的解決,武力による威嚇又は行使の抑制,自衛権及び内政不干渉を扱う。

④第4項は,ソ連が日本の国連加盟申請を支持するという約束であり,宣言それ自体によって日本の加盟を実現する規定ではない。
⑤第5項は,ソ連で有罪の判決を受けたすべての日本人を,宣言の効力発生とともに釈放して日本へ送還することを定め,消息不明の日本人について,日本国の要請に基づき引き続き調査することも定める。
送還の規定と,過去の抑留に対する損害賠償の問題は,同じものではない。

2 第6項から第8項――賠償・請求権と経済関係

⑥第6項の前段は,ソ連が日本に対するすべての賠償請求権を放棄することを定める。
後段は,両国,その団体及び国民の相手国・団体・国民に対する請求権の相互放棄を定めるが,対象は昭和20年(1945年)8月9日以来の戦争の結果として生じた請求権である。
将来の取引を含むあらゆる請求権を,永久に無条件で放棄したという条項ではない。

⑦第7項は,安定した通商関係を設けるため,貿易又は通商及び海運に関する条約・協定の締結交渉を速やかに始めることを扱う。
⑧第8項は,既に署名された北西太平洋の公海漁業条約と海上遭難者救助の協定を宣言の発効と同時に発効させ,漁業資源の保存・合理的利用のために協力するという規定である。
これを,現在の特定海域で日本漁船が自由に操業できる根拠と読み替えてはならない。

3 第9項・第10項――領土交渉と効力発生

⑨第9項は,外交関係の回復後の平和条約交渉の継続と,歯舞群島・色丹島の引渡しに関する合意を定める。
⑩第10項は,批准,可能な限り速やかな東京での批准書交換,及び交換日における宣言の効力発生を定める。

以上の要約は,各項の機能を読み分けるためのものである。
個別の権利義務を判断する際は,前記原文の主体,対象,条件及び時期を省略せず確認する必要がある。

第3 二島引渡しの合意と平和条約の関係

1 引渡しへの同意と,現実に引き渡す時期

第9項は,ソ連が歯舞群島及び色丹島を日本に引き渡すことに同意するとした上で,現実の引渡しは平和条約が締結された後に行うと定める。
引渡しへの同意が存在することと,実際の引渡しが既に完了したことを混同してはならない。
また,平和条約の締結を,宣言全体の発効条件と読むこともできない。

第10項に基づく批准書交換は昭和31年12月12日に行われ,宣言は同日に発効した。
二島の現実の引渡しの時期は第9項に置かれている。
国交回復,請求権処理及び二島引渡しを,全て同じ時点に一括して実現する文書ではない。

2 四島の帰属と後続文書

第9項は歯舞群島と色丹島を明記しているが,国後島・択捉島の日本への引渡しを約束する文言はない。
他方,国後島・択捉島に対する日本の請求を放棄するという文言もない。
二島の記載があるという一点だけから,四島問題全体の最終解決まで合意したとすることはできない。

平成5年(1993年)の東京宣言は,四島の帰属の問題を解決して平和条約を早期に締結するとの交渉方針を示した。
同時に,ロシア連邦がソ連との同一性を有する国家であることと,日ソ間のすべての条約その他の国際約束が引き続き適用されることを確認した。
外務省掲載文は仮訳であり,文言を精密に比較する際はその性質にも注意を要する。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1993_1/h05-1-shiryou-3.htm

サンフランシスコ平和条約第2条との関係は,第2条と個別の領土問題の記事で,昭和26年の草案の変化は,領土の帰属先を記載しなかった起草過程の記事で扱っている。

3 ソ連・ロシア側の説明も,条文との対応を確かめる

外務省の経緯説明によれば,ソ連は昭和35年(1960年)に外国軍隊の日本からの撤退という条件を加え,日本側は共同宣言の内容を一方的に変更できないとして抗議した。
これは外務省が示す経緯の説明であり,本記事では当時の往復文書原本を独立して照合したものではない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html

平成28年(2016年)12月のプーチン大統領のインタビューには,第9項は引渡しの条件や主権を明記していないとする説明がある。
これはロシア側の解釈上の主張であり,その主張が法的に正しいことまで当然に意味しない。
同じ英語掲載文には宣言の効力発生時期に関して原文第10項と整合しない説明もあるため,発効日については宣言原文を優先する。
https://www.russian-embassy.org/en/p_1586/

第4 請求権放棄とシベリア抑留訴訟

1 国家の請求,外交的保護,個人の権利を分ける

第6項の適用では,誰の誰に対する請求で,どの行為から発生したのかを先に特定する必要がある。
さらに,個人の実体的な権利が存在するか,裁判で行使できるか,国が外交的保護を行使できるか,日本国に補償義務があるかを分ける。

政府は,平成9年11月28日付けのシベリア抑留者に関する答弁書の「二について」で,国家自身の請求権を除けば,第6項による放棄は外交保護権の放棄であり,日本国民が個人として有する請求権を放棄したものではないとの見解を示した。
これは政府見解であり,個人がロシアに対する訴訟で賠償を得られることや,日本国が代わって補償する義務を負うことまで認めた答弁ではない。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/b141009.htm

2 最高裁平成9年3月13日判決の射程

最高裁平成9年3月13日第一小法廷判決(平成5年(オ)第1751号,民集51巻3号1233頁)は,シベリア抑留者らが日本国に損害賠償・補償等を求めた事件である。
最高裁は上告を棄却した。
ロシアを被告として,個人の賠償請求を直接認容した事件ではない。
https://www.courts.go.jp/hanrei/52788/detail2/index.html

判決書2頁は,宣言第6項後段による請求権放棄に伴い,日本が国際法上,旧ソ連との間で抑留者の損害の回復を図る権利を失い,抑留者らが旧ソ連に損害の賠償を求めることは,仮にその請求権が存在するとしても,実際上不可能となった旨を述べる。
3頁は,本件の損失について憲法29条3項による日本国の補償義務を否定する。
個人請求権の存在を仮定した表現を,その存続を積極的に確定した判示へ強めることも,すべての個人請求権の消滅を判示したと読み替えることもできない。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52788.pdf#page=2

請求権放棄についての三つの見解は,平和条約の請求権放棄の記事で,サンフランシスコ平和条約との違いは,第14条・第19条の記事で扱っている。
ポツダム宣言第9項,抑留関係裁判例及び国内の特別給付金制度については,シベリア抑留の記事を参照されたい。

第5 イルクーツク声明,2018年合意と交渉停止

1 共同宣言を出発点とする後続の確認

平成13年(2001年)のイルクーツク声明は,日ソ共同宣言を平和条約締結交渉の出発点を設定した基本的な法的文書として確認した。
同時に,東京宣言に基づき,四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという交渉の進め方も確認している。
前者だけを抜き出して,後者の四島に関する記載を省略すべきではない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2002/gaikou/html/siryou/sr_03_02.html

平成30年(2018年)11月14日の首脳会談について,外務省は,1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させることで一致したと発表した。
交渉を加速するとの一致を,二島の引渡しが完了したことや,具体的な実施条件がすべて確定したことと同視してはならない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/rss/hoppo/page1_000697.html

2 交渉の停止と宣言の失効は同じではない

外交青書2026のロシアの節は,ロシア政府が令和4年(2022年)3月に平和条約交渉を継続しない意向等を発表した経緯を記載する。
また,日本政府は四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する方針を維持すると説明している。
これは外交青書が記載する日本政府の認識と方針であり,調査基準日当日のすべての外交上の動きを網羅する記録ではない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2026/html/chapter2_06_02.html

交渉が止まったこと,義務の履行が争われること,条約が法的に終了したことは,それぞれ別の問題である。
外務省のQ&Aは共同宣言が現在も法的に有効であるという日本政府の立場を示しているが,ページの記載を国際裁判による有効性の最終判断とみなすことはできない。
少なくとも,平和条約交渉の停止という事実だけから,戦争状態の終了を含む宣言全体が当然に消滅したとする結論は導けない。

第6 日ソ中立条約・平和条約と混同しないために

日ソ中立条約は昭和16年(1941年)の文書であり,昭和31年(1956年)の日ソ共同宣言とは成立時期と役割が異なる。
ソ連参戦の条約違反を検討する問題と,後の戦争状態の終了及び請求権処理を確認する問題を分ける必要がある。
参戦時の条約義務は,ソ連の対日参戦と日ソ中立条約の記事で扱っている。

ソ連がサンフランシスコ平和条約に署名しなかったことと,昭和31年に別の文書によって日ソ間の戦争状態を終了させたことも,両立する。
多国間条約の署名・批准・発効と,非当事国との個別の正常化は,平和条約の署名国・批准国・非参加国の記事で整理している。

第7 出典

①外務省「日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言」(昭和31年10月19日署名)。全10項と署名・批准書交換の日付。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1957/s32-shiryou-001.htm

②外務省「北方領土問題に関するQ&A」。法的拘束力,有効性に関する日本政府の説明。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/mondai_qa.html

③外務省掲載「日露関係に関する東京宣言」(平成5年,仮訳)及び「平和条約問題に関する交渉の今後の継続に関する日本国総理大臣及びロシア連邦大統領のイルクーツク声明」(平成13年)。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1993_1/h05-1-shiryou-3.htm
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2002/gaikou/html/siryou/sr_03_02.html

④最高裁平成9年3月13日第一小法廷判決(平成5年(オ)第1751号,民集51巻3号1233頁)。判決書2頁~3頁を中心に参照。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52788.pdf

⑤平成9年11月28日付け「衆議院議員相沢英之君提出シベリア抑留者に関する質問に対する答弁書」(答弁第9号)。「二について」。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/b141009.htm

⑥外務省「日露首脳会談」(平成30年11月14日)及び『外交青書2026』第2章第6節2「ロシア」。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/rss/hoppo/page1_000697.html
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2026/html/chapter2_06_02.html

⑦外務省の歴史・交渉経緯説明及び在韓国ロシア大使館サイト掲載のプーチン大統領インタビュー英語文(平成28年12月13日実施,同月14日掲載)。後者のロシア語原文との対照は行っていない。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html
https://www.russian-embassy.org/en/p_1586/