第1 結論と令和8年10月現在の指定状況
タクシーの「特定地域」と「準特定地域」は、供給過剰又はそのおそれがある地域について、参入、増車、地域計画及び運賃に特別の規律を設ける制度である。根拠法は、特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(以下「タクシー特措法」という。)である。
国土交通省の全国一覧によれば、令和8年10月現在、準特定地域は全国134地域であり、特定地域は0地域である。指定状況は更新されるため、個別案件ではこの数字だけに依拠せず、国土交通省の全国一覧と、営業区域を管轄する地方運輸局の最新公示を確認する必要がある。
第2 特定地域と準特定地域の違い
1 特定地域
特定地域は、タクシーが既に供給過剰であり、供給輸送力を削減しなければ、健全な経営、輸送の安全及び利用者の利便を確保して地域公共交通としての機能を十分に発揮することが困難な地域である。国土交通大臣は、事業用自動車1台当たりの収入、法令違反その他の不適正な運営及び事故の発生状況を踏まえ、期間を定めて指定する(タクシー特措法3条1項)。
2 準特定地域
準特定地域は、タクシーが供給過剰となるおそれがあり、輸送需要に的確に対応しなければ、健全な経営、輸送の安全及び利用者の利便を確保して地域公共交通としての機能を十分に発揮できなくなるおそれがある地域である(タクシー特措法3条の2第1項)。
したがって、特定地域は「現に供給過剰で、供給輸送力の削減が必要な地域」、準特定地域は「供給過剰となるおそれがあり、予防的な調整が必要な地域」と整理できる。
3 指定期間、延長及び解除
いずれの指定も期間を定めて行われ、必要があれば指定期限を延長できる。指定事由がなくなったときは指定が解除され、指定、延長及び解除は告示によって行われる(タクシー特措法3条2項から4項まで、3条の2第2項)。
このため、過去の報道発表、協議会資料又は古い運輸局公示だけでは現在の指定を判断できない。必ず基準日が明記された最新一覧又は最新告示まで確認する必要がある。
第3 参入・増車規制の違い
1 特定地域では新規許可と増車が禁止される
営業区域の全部又は一部が特定地域に含まれる新規許可申請について、国土交通大臣は許可をしてはならない(タクシー特措法14条の2)。また、特定地域における供給輸送力を増加させる一定の事業計画変更も禁止される(同法14条の3)。
特定地域では、単に審査が厳しくなるのではなく、新規参入及び一定の増車を法的に止める規制である点が重要である。
2 準特定地域では供給過剰防止基準による審査が加わる
営業区域の全部又は一部が準特定地域に含まれる新規許可申請は、道路運送法上の通常の許可基準に加え、許可によって当該地域が供給過剰とならないための基準への適合性が審査される。基準に適合しないときは許可されない(タクシー特措法14条の4)。
準特定地域における一定の増車は、事前届出ではなく認可の対象となり、供給過剰防止基準のほか、1台当たり収入、法令遵守、事故発生状況等に関する事業者基準への適合性も審査される(タクシー特措法15条)。
第4 地域計画と供給輸送力の適正化
1 特定地域計画
特定地域の協議会は、地域公共交通としてのタクシーの機能を維持・向上させるため、供給輸送力の削減及び活性化措置を含む特定地域計画を作成し、国土交通大臣の認可を受けることができる。認可計画に合意した事業者は、計画に従って供給輸送力の削減等を実施する義務を負う(タクシー特措法8条の2、8条の3)。
2 準特定地域計画
準特定地域の協議会は、活性化の基本方針、目標、活性化事業その他の事業及び実施主体等を定める準特定地域計画を作成できる(タクシー特措法9条)。準特定地域は直ちに一律の減車を命じる制度ではなく、参入・増車審査と地域関係者による活性化の取組を組み合わせる制度である。
3 独占禁止法の適用除外は限定される
タクシー特措法8条の4は,認可を受けた特定地域計画及びこれに基づく行為について,独占禁止法の適用除外を定める。しかし,タクシー事業や業界団体の活動全体を除外する規定ではなく,準特定地域の指定があるだけで各社の申合せが除外されるものでもない。
同条は,不公正な取引方法を用いる場合や,一定の取引分野の競争を実質的に制限して不当に利用者の利益を害する場合を除外の例外としている。公取委から措置を求める通知があった場合の扱いも同条に定められている。協議会での取組については,認可計画,対象行為,実施期間及びこれらの例外を確認し,単に「行政も関与している」という理由で適用除外を判断しない。
第5 公定幅運賃の仕組み
1 国土交通大臣が上限・下限の範囲を指定する
国土交通大臣は、特定地域又は準特定地域を指定した場合、その地域のタクシー運賃について範囲を指定し、公表する。協議会が組織されている地域では、その意見を聴く(タクシー特措法16条1項)。この指定された上限と下限の範囲が、一般に「公定幅運賃」と呼ばれる。
運賃の範囲は、①能率的な経営を行う標準的な事業者の適正原価に適正利潤を加えた運賃を標準とすること、②特定の旅客を不当に差別しないこと、③事業者間に不当な競争を引き起こすおそれがないこと、という基準に適合しなければならない(タクシー特措法16条2項)。
2 事業者は範囲内の運賃を届け出る
公定幅運賃が公表された特定地域又は準特定地域内に営業所を有するタクシー事業者は、その範囲内で運賃を定め、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない(タクシー特措法16条の4第1項・第2項)。
届出運賃が公定幅の範囲外であると認められるときは、国土交通大臣は、期間を定めて運賃変更を命ずることができる(タクシー特措法16条の4第3項)。公定幅運賃は単なる参考価格ではなく、範囲外運賃に対する変更命令を伴う制度である。
3 地域名だけで具体的な運賃額は決まらない
実際の公示は、地域、車種、距離制・時間制等の運賃類型ごとに上限額と下限額を定める。運賃改定によって公示内容も変わるため、古い料金表をそのまま利用してはならない。
例えば、関東運輸局の運賃関係ページは、準特定地域一覧、公定幅運賃の範囲及び運賃変更命令の取扱いを掲載している。具体的な運賃額は、利用又は申請の時点で管轄運輸局の最新公示を確認する必要がある。
第6 公定幅運賃と自動認可運賃の違い
特定地域及び準特定地域では、タクシー特措法に基づく公定幅運賃が適用される。これに対し、それ以外の地域では、道路運送法9条の3に基づく運賃認可が基本となり、実務上は地方運輸局が公示する自動認可運賃の範囲が重要となる。
公定幅運賃では、事業者が指定範囲内の運賃を届け出る仕組みであり、範囲外の届出には変更命令があり得る。自動認可運賃では、事業者が認可を申請し、公示された範囲内であれば原価計算書等の添付を省略できる取扱いが設けられている。名称が似ているものの、根拠法と手続が異なる。
指定が解除され、又は指定期間が満了した場合には、公定幅内で届け出られていた運賃が道路運送法上の認可運賃とみなされるなどの経過措置がある(タクシー特措法16条の4第6項以下)。
第7 現在の指定地域と運賃を確認する手順
1 全国一覧で指定の有無を確認する
まず、国土交通省自動車関係情報ページに掲載された最新の「準特定地域一覧」を開き、対象となる営業区域が掲載されているかを確認する。一覧末尾には特定地域の現在数も記載されている。
2 管轄地方運輸局の公示で区域の表記を確認する
次に、営業所を管轄する地方運輸局のタクシー関係公示ページで、特定地域又は準特定地域の最新一覧を確認する。交通圏、市域及び営業区域の表記が日常的な地域名と一致しないことがあるため、市町村名だけで判断しない。
3 同じ公示ページで公定幅運賃の最新版を確認する
最後に、「公定幅運賃の範囲の指定」等の名称の公示を開き、改正日、適用日、対象地域、車種、運賃類型、上限額及び下限額を確認する。準特定地域一覧と運賃公示は別ファイルであることが多く、指定地域であることを確認しただけでは具体的な運賃額を確認したことにはならない。
第8 実務上の注意点
事業者が新規許可、増車又は運賃変更を検討する場合は、①営業区域が特定地域・準特定地域のどちらに当たるか、②申請又は届出時点の指定期間、③参入・増車に適用される最新審査基準、④公定幅運賃の最新改正日と適用日、⑤協議会又は地域計画の有無を分けて確認する必要がある。
利用者が運賃を確認する場合は、公定幅運賃の公示だけで個々の事業者の実際の届出運賃まで決めつけないことが重要である。公定幅運賃は許容される範囲であり、事業者はその範囲内で自社の運賃を届け出るからである。
また、「特定地域・準特定地域」はタクシー事業の供給調整等に関する指定であり、タクシー運転者登録制度における指定地域とは根拠法及び効果が異なる。運転者登録制度については、タクシー運転者登録制度―講習・試験・運転者証・処分を参照されたい。
行政による運賃の範囲の指定と,事業者が具体的な運賃額・改定時期を共同で決めることは異なる。独占禁止法2条6項・3条に基づく価格の共同決定の評価は,公定幅の範囲内かどうかだけでは決まらない。公取委の平成23年度年次報告(第2章第2節(8))には,新潟地区のタクシー運賃の共同引上げについて,排除措置命令・課徴金納付命令を行った事例が掲載されている。この事例は当時の自動認可運賃を背景とするものであり,現在の公定幅運賃の事例として読み替えない。
また,配車アプリの排他条件や乗り場への入構を妨げる行為は,運賃規制と別に競争法上の検討を要する。詳しくは,タクシー配車アプリ・乗り場の参入制限と独占禁止法を参照されたい。ビール大手4社による価格カルテル疑惑との比較でも,同時期の値上げという外形だけでなく,誰が何をどの根拠で決めたかを分ける必要がある。
第9 関連記事
タクシー事業の法規制・労務・事故対応の全体像は、タクシー事業をめぐる参入、運賃、労務、事故対応その他の論点を俯瞰する記事である。
自動車運送事業の種類と主要規制―旅客・貨物・事業用ナンバーの全体像は、タクシーを含む一般乗用旅客自動車運送事業と、乗合・貸切・貨物運送事業の区分及び主要規制を整理している。
第10 出典
e-Gov法令検索・タクシー特措法
e-Gov法令検索・タクシー特措法施行規則
国土交通省・準特定地域の状況(令和8年10月現在)
国土交通省・自動車関係情報
関東運輸局・タクシー事業を始めるには
関東運輸局・タクシー関係申請手続(運賃関係)
中部運輸局・タクシー関係公示