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国際刑事裁判所(ICC)の侵略犯罪―カンパラ改正・管轄権と日本の受諾状況(AI作成)

第1 侵略犯罪は戦争犯罪と管轄権の条件が違う

国際刑事裁判所(ICC)が扱う侵略犯罪は,国家による侵略行為について一定の指導者の個人責任を問う犯罪である。戦争犯罪,人道に対する犯罪,集団殺害犯罪と同じ条件で,すべての締約国・非締約国の行為を審理できるわけではない。

とりわけ,ローマ規程の締約国であること,2010年の侵略犯罪に関するカンパラ改正を受諾していること,改正がその国について発効していること,具体的事件について管轄権を行使できることは,別々に確認する必要がある。本記事は,2010年改正,2017年の管轄権行使開始決議,2025年の見直し決議及び2026年10月12日に取得した国連寄託者一覧を基礎とする。

ICC全体の制度は国際刑事裁判所(ICC)とは―役割・管轄権・加盟国と日本との関係,犯罪の疑いと逮捕・有罪判決の違いはICCの逮捕状の効力を参照されたい。

第2 侵略犯罪の定義と責任を負う者

1 国家の侵略行為と指導者の犯罪を区別する

ローマ規程第8条の2(article 8 bis)は,国家の政治的又は軍事的行動を実効的に支配・指導できる地位にある者が,その性質・重大性・規模から国連憲章の明白な違反となる侵略行為を計画,準備,開始又は実行することを侵略犯罪とする。

国家の侵略行為には,他国領域への侵入・攻撃,その結果としての軍事占領・武力による併合,砲爆撃,港湾・沿岸の封鎖,他国の陸海空軍等への攻撃,受入国の合意に反する駐留軍の使用・駐留継続,第三国への侵略に自国領域を使用させること,一定規模の武装集団等の派遣・実質的関与が列挙されている。

ただし,国際法に反する武力行使であれば,すべてがこの個人の侵略犯罪になるという定義ではない。カンパラ決議附属書IIIの了解7は,性質・重大性・規模の3要素のうち1つだけで「明白な違反」の基準を満たすことはできないとする。

2 一般兵士全員が対象となる犯罪ではない

第25条3項の2も,侵略犯罪についての責任を,国家の政治的・軍事的行動を実効的に支配又は指導できる者に限定する。単に戦闘へ参加した者を,その参加だけで侵略犯罪の被告人とする制度ではない。一方,指導者の地位にない者でも,具体的行為が戦争犯罪等の別の犯罪を構成する可能性はある。

侵略犯罪は,武力行使を開始すること自体の違法性に関わる。戦争犯罪は,例えば民間人への攻撃や捕虜の取扱いなど,武力紛争下の個別行為に関わる。この区別により,一方の犯罪について管轄権がないことから,他方の犯罪についても必ず管轄権がないとはいえない。

第3 カンパラ改正と2018年の行使開始

1 2010年の改正採択だけで直ちに捜査が始まったわけではない

2010年6月11日のローマ規程検討会議は,決議RC/Res.6により,侵略犯罪の定義,第15条の2・第15条の3による管轄権の行使条件等を採択した。附属書IIは犯罪の構成要件文書の改正,附属書IIIは解釈に関する了解である。

同決議は,条約改正を批准・受諾に付し,第121条5項による発効とした。第15条の2・第15条の3は,30締約国の批准・受諾から1年という条件に加え,2017年1月1日以降の別途の行使開始決定を必要とした。改正採択・個別国に対する発効・ICCとしての行使開始は同じ日ではない。

2 2017年決議が確認した条件

締約国会議は2017年12月14日,決議ICC-ASP/16/Res.5により,2018年7月17日から侵略犯罪の管轄権行使を開始すると決定した。

同決議2項は,改正を受諾した国について批准書・受諾書寄託から1年後に発効すること,締約国付託・検察官の職権捜査の場合には,改正を批准・受諾していない締約国の国民による,又はその領域で行われた侵略犯罪にICCは管轄権を行使しないことを確認した。他方,同決議3項は裁判官の独立を再確認している。

現在の制度説明では,第15条の2の条文だけでなく,この2017年決議の確認事項も示す必要がある。これは侵略犯罪に関する条件であり,戦争犯罪等の通常の管轄権の条件へ一律に移してはならない。

第4 第15条の2と第15条の3の違い

1 締約国付託・検察官の職権捜査

第15条の2(article 15 bis)は,締約国による付託又は検察官の職権捜査を扱う。第12条の条件に加え,締約国による侵略行為,改正受諾・発効,後述する不受諾宣言等の条件を検討する必要がある。

同条5項は,非締約国について,その国民による又はその領域で行われた侵略犯罪にICCは管轄権を行使しないとする。非締約国が通常の第12条3項の宣言をした場合や,被侵略国が改正を受諾した場合だけで,この侵略犯罪特有の制限が消えるという規定ではない。

加えて,2017年決議2項の確認に従えば,非締約国だけでなく,改正を受諾していない締約国の国民・領域についても制限がある。したがって,被侵略国だけを見て「締約国だから侵略国の指導者をICCで裁ける」と結論付けることはできない。

2 安保理による付託

第15条の3(article 15 ter)は,国連安全保障理事会による付託を扱う。カンパラ決議附属書IIIの了解2は,関係国が侵略犯罪についてのICCの管轄権を受諾したか否かにかかわらず,安保理付託に基づく管轄権を行使するとする。

この経路には,第15条の2の非締約国・不受諾に関する制限と同じ規定は置かれていない。ただし,時的条件,安保理による有効な付託,犯罪の成立要件その他の条件は必要である。安保理に政治的に付託が可能かという問題と,付託された場合の法的条件も別である。

確認点第15条の2第15条の3
手続の端緒締約国付託・検察官の職権捜査安保理付託
非締約国の国民・領域同条5項の制限がある同じ制限は置かれていない
改正を受諾しない締約国2017年決議2項の国民・領域に関する制限関係国の受諾の有無によらないとの了解
不受諾宣言同条4項による制度がある同じ制度は置かれていない
時的条件行使開始・発効等を確認行使開始等を確認

3 安保理の侵略認定がなければ絶対に捜査できないのか

第15条の2の経路では,検察官はまず安保理による侵略行為の認定の有無を確認し,国連事務総長へ通知する。認定があれば捜査を進め得る。通知から6か月以内に認定がない場合でも,予審部門の許可を得て,安保理が第16条による別の決定をしていなければ,捜査を進め得る仕組みがある(同条6~8項)。

これは,安保理の認定がなくても常に自動で捜査できるという意味ではない。非締約国・受諾等の制限を飛び越える規定でもない。外部機関による侵略行為の認定は,ICC自身の判断を拘束しない旨も定められている。

第5 受諾,不受諾宣言と日本の位置付け

1 49か国・地域が侵略犯罪改正の寄託者一覧に掲載されている

2026年10月12日に取得した国連寄託者一覧では,侵略犯罪に関する改正(XVIII-10-b)の当事国は49か国・地域である。日本はこの一覧に掲載されていない。ローマ規程本体の締約国数125とは異なる一覧である。

この件数は侵略犯罪に関する2010年改正のものである。同じカンパラ会議で採択された戦争犯罪に関する第8条改正,その後の武器に関する改正等の批准・受諾を,同じ受諾として数えてはならない。

2 不受諾宣言は改正の未受諾と別の制度である

第15条の2の4項は,侵略行為を行う締約国が,裁判所書記局長に管轄権を受け入れない旨の宣言をあらかじめ提出する仕組みを定める。宣言はいつでも撤回でき,3年以内に当該国が再検討するとされる。3年が経過すれば自動的に失効するという条文ではない。

ICCの公式資料一覧には,ケニアの2015年11月30日宣言と,グアテマラの2018年2月2日付の掲載がある。グアテマラの宣言文自体の日付は同年1月16日であり,国内の改正批准手続を完了するまで受け入れない旨を述べている。文書作成日と公式一覧の掲載上の日付を混同しないことも必要である。

両国が49か国・地域の受諾一覧にないことと,不受諾宣言を提出したことは別々の事実である。特定国の条件を調べる際は,寄託者の受諾一覧だけでなく,書記局長に提出された宣言とその後の撤回・変更も確認する必要がある。

3 日本はICC締約国だが,侵略犯罪改正の受諾国としては掲載されていない

日本は2007年7月17日にローマ規程への加入書を寄託し,同年10月1日に日本について同規程が発効した。他方,2026年10月12日取得の侵略犯罪改正の寄託者一覧には日本の批准・受諾は記録されていない。「日本はICCに加盟したから侵略犯罪の管轄権も同じように受諾済み」と説明することはできない。

外務省の2010年検討会議の結果概要によると,日本は侵略犯罪の管轄権行使を重視してコンセンサス形成に参加した一方,改正手続との関係の疑義,締約国・非締約国間の法的関係の複雑さ,非締約国の侵略行為を必要以上に管轄条件から除外すること等を理由に,採択のコンセンサスには参加せず,採択を妨げない対応をした。これは2010年当時の外交対応の説明であり,その後の受諾書の寄託や,現在の個別の刑事管轄権を証明する資料ではない。

日本の未受諾を,第15条の3の安保理付託による経路まで一律に排除する理由としたり,他の3犯罪への協力義務一般がなくなる理由としたりすることもできない。日本が外国の侵略行為について国内法上の訴追を行えるかという問題も,ICCの管轄権とは別の検討を要する。カンパラ決議の了解5は,改正が他国の侵略行為に対する国内管轄権の権利・義務を新たに作り出すものではないとする。

第6 ウクライナへの侵略とICCの戦争犯罪事件

ウクライナは,ローマ規程本体について2025年1月1日に締約国となった。侵略犯罪改正の批准書は2024年10月25日に寄託されており,寄託1年後という規則による同改正の発効日は2025年10月25日となる。

しかし,ロシアはローマ規程の非締約国である。そのため,ウクライナの加盟・改正受諾だけで,ロシア国民による侵略犯罪を第15条の2の経路でICCが審理できるようになったという説明はできない。他方,プーチン氏に対する2023年3月の逮捕状が対象とするのは,子供の違法な追放・移送に関する戦争犯罪の疑いである。侵略犯罪の管轄制限と,この戦争犯罪事件の管轄権を混同してはならない。

欧州評議会とウクライナは2025年6月25日,ウクライナに対する侵略犯罪を扱う特別裁判所の設立協定に署名した。欧州評議会は,これをICCの管轄権の限界から生じる空白に対応する別の裁判所として説明している。この設立協定や準備の進展は,ICCのローマ規程改正が成立したことを意味しない。特別裁判所が実際に活動する段階,その管轄権・免除・身柄確保については,独自の設立文書と手続に従う。

第7 2025年の見直し―改正案は現行条文ではない

1 改正案が目指していたこと

2025年4月に提出された改正案は,第15条の2の4・5項を差し替え,領域国又は被疑者の国籍国のいずれかによる改正受諾等を基礎とする仕組みと,第12条3項に沿う宣言の仕組みを提案していた。現在の非締約国・未受諾国についての制限を,そのまま維持する案ではない。

しかし,案が国連事務総長に提出・回章されたことは,条約改正の採択・発効ではない。検討会期の文書に掲載された草案も,同じ区別が必要である。

2 7月9日決議が実際に決めたこと

2025年7月9日の特別会期は,決議ICC-ASP/S-1/Res.1を採択した。同決議は,侵略犯罪の管轄権を強化する目的を確認し,附属書の改正案等を検討するため2029年にニューヨークで特別会期を開くこと,2027年に会期間会合を開くこと,改正作業部会の専用小部会で検討を進めることを決めた。

採択されたのはこの見直し決議であり,附属書の改正案を現行条文へ置き換える決定ではない。「2025年に改正が成立して,他の3犯罪と同じ管轄権になった」「2029年には必ず新条文が発効する」と説明することはできない。決議は,管轄権の空白を指摘して調和を求める国々と,カンパラ及び2017年の合意の均衡を重視する国々がいることも明示している。

第8 受諾国別の寄託日と改正発効日

以下は2026年10月12日取得の国連寄託者一覧に掲載された49か国・地域の全件である。「改正発効日」は,第121条5項及び2017年決議2項に従い,寄託日から1年後として算出した日である。具体的事件に対する管轄権の成立日を認定した表ではない。2018年7月17日より前の犯罪をこの表だけで審理できるようにするものでもない。

デンマークについてはフェロー諸島・グリーンランドの除外がある。オランダ王国については欧州部分及びカリブ海部分(ボネール・シントユースタティウス・サバ)への適用が記載され,2017年12月21日にアルバへの適用が通知された旨の注記がある。アルバの適用開始日を,本体の寄託日から単純に計算してはいない。

1 アンドラからルクセンブルクまで

国・地域寄託日改正発効日
アンドラ2013-09-262014-09-26
アルゼンチン2017-04-282018-04-28
オーストリア2014-07-172015-07-17
ベルギー2013-11-262014-11-26
ボリビア2020-12-102021-12-10
ボツワナ2013-06-042014-06-04
チリ2016-09-232017-09-23
コスタリカ2015-02-052016-02-05
クロアチア2013-12-202014-12-20
キプロス2013-09-252014-09-25
チェコ2015-03-122016-03-12
デンマーク2025-01-012026-01-01
エクアドル2019-09-252020-09-25
エルサルバドル2016-03-032017-03-03
エストニア2013-03-272014-03-27
フィンランド2015-12-302016-12-30
ジョージア2014-12-052015-12-05
ドイツ2013-06-032014-06-03
ガイアナ2018-09-282019-09-28
アイスランド2016-06-172017-06-17
アイルランド2018-09-272019-09-27
イタリア2022-01-262023-01-26
ラトビア2014-09-252015-09-25
リヒテンシュタイン2012-05-082013-05-08
リトアニア2015-12-072016-12-07
ルクセンブルク2013-01-152014-01-15

2 マルタからウルグアイまで

国・地域寄託日改正発効日
マルタ2015-01-302016-01-30
モンゴル2021-01-182022-01-18
オランダ王国2016-09-232017-09-23
ニジェール2023-04-142024-04-14
北マケドニア2016-03-012017-03-01
パナマ2017-12-062018-12-06
パラグアイ2019-04-052020-04-05
ペルー2022-10-142023-10-14
ポーランド2014-09-252015-09-25
ポルトガル2017-04-112018-04-11
サモア2012-09-252013-09-25
サンマリノ2014-11-142015-11-14
セーシェル2025-07-012026-07-01
スロバキア2014-04-282015-04-28
スロベニア2013-09-252014-09-25
スペイン2014-09-252015-09-25
パレスチナ2016-06-262017-06-26
スウェーデン2022-01-262023-01-26
スイス2015-09-102016-09-10
東ティモール2025-05-302026-05-30
トリニダード・トバゴ2012-11-132013-11-13
ウクライナ2024-10-252025-10-25
ウルグアイ2013-09-262014-09-26

第9 具体的事件で確認する順序と一次資料

確認の順序は,まず対象が侵略犯罪か他の犯罪か,次に付託の経路が第15条の2か第15条の3か,その後に犯罪時点・国籍国・領域国・締約国の地位・改正受諾と発効・不受諾宣言・捜査許可等の条件である。最後に,犯罪の成立,個人の指導者としての地位,受理許容性,協力・身柄確保を別に検討する。

・カンパラ決議RC/Res.6と附属書I~III,2010年6月11日。
・ローマ規程第8条の2,第15条の2,第15条の3,第25条3項の2,第121条5項。ICC公開の非公式統合版であり,改正の受諾国・発効は寄託者資料で別に確認する。
・第16回締約国会議公式記録所収ICC-ASP/16/Res.5(PDF35頁),2017年12月14日。
・侵略犯罪改正の国連寄託者一覧,及びローマ規程本体の寄託者一覧。
・ICCの資料一覧の「Declarations lodged under article 15bis(4)」,ケニアの宣言,グアテマラの宣言原文及び英訳。
・2025年見直し決議ICC-ASP/S-1/Res.1及び附属書の改正案。
・外務省「ICCローマ規程検討会議(結果の概要)」,2010年6月。
・ICCのプーチン氏紹介。
・欧州評議会のウクライナ侵略犯罪特別裁判所公式案内及び設立協定・附属規程。