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令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した60項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和6年司法試験の論文式試験民事系科目第1問(民法)について,法務省が公表した出題の趣旨及び採点実感から答案の評価項目を60項目抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらを踏まえた模範解答を示すものである。
設問1は他人物賃貸借の賃貸人を所有者が相続した場合の賃借権・留置権の主張と,建物の雨漏りをめぐる賃料減額・必要費償還請求を,設問2は財産分与の錯誤取消しと取消前の第三者の保護を扱う。
評価項目と重みは本記事が独自に付けたものであり,法務省の採点基準又は配点ではない。

本記事の対象は,令和6年司法試験論文式試験問題(民事系科目)の第1問である。
本問の試験日は令和6年7月11日であり,問題文は,令和6年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答するよう指示している。

各設問の結論は次のとおりである。
①設問1⑴ア:Aは所有者としての地位と相続した賃貸人としての地位を併せ持ち,信義則に反する特別の事情がない限り賃貸人としての債務の履行を拒めるから,Cは契約①の賃借権を占有権原として主張できない。
②設問1⑴イ:Cは300万円の損害賠償請求権を持つが,甲土地との牽連関係がないから,留置権を主張できない。
③設問1⑵ア:9月分の賃料は,丙室の割合と20日分に応じて当然に減額されるから,請求2は減額分の不当利得返還として認められる。
④設問1⑵イ:修繕権がなくても必要費償還請求権は成立するが,償還の範囲は適正な報酬額20万円に限られる。
⑤設問2:Gの錯誤取消しは認められるが,Iは民法95条4項の第三者として保護され,Fとの関係でも登記なくして所有権を主張できるから,請求4は認められる(この結論は,Iが保護された場合の所有権の移転経路をどう考えるかで分かれ,出題の趣旨は反対の結論も許容している)。

公式資料から抽出した評価項目は60項目であり,そのうち重み5(答案の骨格そのもの,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは10項目である。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(民事系科目第1問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
「〜しない」の形の項目は,採点実感が誤り若しくは不十分な答案として挙げた記述,又は出題の趣旨・採点実感が論ずる必要がないとした記述から作ったものであり,答案にその記載がなければ満たす。
出題の趣旨が別の考え方として許容した事項は,「(許容分岐)」と付記した。

出題の趣旨は法務省のPDFの頁と見出し番号で,採点実感は民事系科目の採点実感のうち第1問の部分の頁と見出し番号で示した。
一方の資料に記載がない場合は「記載なし」と表示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,所在を頁と見出し番号で示した。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
令和7年度の模範解答の記事と同じ5段階である。

①重み5:答案の骨格そのもの,又は採点実感が「極めて少なかった」「極めて少数」等と述べて評価の分かれ目とした事項のうち,出題の趣旨も検討を求めるもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(論じた答案を高く評価し,又は多くの答案の不足を指摘した)事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け・当てはめ,又は採点実感が不良の答案の例として挙げた誤り
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,又は許容される別の構成

第3 本問の概要

設問1⑴では,BがA所有の甲土地をBの名でCに建物所有目的で賃貸し(契約①),Cが建物を築造して登記を備えた後,Bが死亡してAが唯一の相続人となり,AがCに建物収去土地明渡しを請求した(請求1)。
Cは,契約①に基づく占有権原(下線部㋐)と,300万円の損害賠償を受けるまでの占有権(下線部㋑)を主張している。

設問1⑵では,AがCから建物を買い受けてDに賃貸した(契約②)後,契約前から原因のあった雨漏りで一室(丙室)が9月11日から30日まで使えなくなり,Dが通知をせずに業者に修繕させて30万円を支払った。
Dは9月分の賃料の一部返還(請求2)と30万円の償還(請求3)を求め,Aは修繕権の不存在と金額の過大を主張した。
設問は,急迫の事情がなく,適正な報酬額が20万円であることを前提としている。

設問2では,GがHに離婚に伴う財産分与として丁土地を譲渡し(契約③),登記をHに移した後,HがIに丁土地を売却した(契約④)が,HからIへの所有権移転登記はされていない。
その後,Gは自己に課税されることを知って契約③を取り消し,丁土地を無断で使っていたFに丁土地を売却した(契約⑤)。
IはFに丁土地の明渡しを請求した(請求4)。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴ア(賃借権の主張の可否)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1契約①を他人物賃貸借と性質決定し,相続前はCがAに対し賃借権を占有権原として主張できないことを示す46頁1⑵ア1〜2頁3⑴ア(ア)(多くの答案が正しく指摘)
2AがBから承継した地位・債務の内容(賃貸権限を取得し使用収益させる債務。601条,559条による561条準用,896条)を分析する36頁1⑵イ記載なし
3最大判昭和49年9月4日を踏まえ,所有者の地位と賃貸人の地位が融合せず併存し,特別の事情がない限り履行を拒めるとする56頁1⑵イ2頁3⑴ア(ア)(結論的には多くの答案が併存とした)
4理由として,相続という偶然の事由でAが所有者として賃貸権限を与えるか否かを決する自由を奪われる理由はないことを述べる36頁1⑵イ記載なし
5理由として,Aが履行を拒否してもCが不測の損害を受けない(損害賠償で保護される)ことを述べる26頁1⑵イ記載なし
6結論として,相続開始後もCは契約①による賃借権を甲土地の占有権原として主張できない(㋐で請求1を拒めない)36頁1⑵イ記載なし
7地位が併存するのか融合するのかという構成を明示する3記載なし2頁3⑴ア(ア)(構成を明確にしないものが少なくなかった)
8結論の根拠として,Aにとって酷というにとどまらず,A及びCの利益状況を具体的に検討する2記載なし2頁3⑴ア(ア)(具体的に検討したものは少数)
9本人が無権代理人を相続した場合に関する判例法理と比較する3記載なし3頁3⑴ア(イ)(優秀答案の例)
10Bの行為を無権代理と捉えて,本人が無権代理人を相続した事案として処理しない3記載なし1〜3頁3⑴ア(不良答案の例)
11設問1⑴アで民法94条2項の類推適用を論じない2記載なし2〜3頁3⑴ア(不良答案の例)
12登記された建物の所有(借地借家法10条1項)を理由に,Aに対して借地権を主張できるとしない2記載なし2頁3⑴ア(ア)(その第三者への対抗も問題にならない)
13AがBを相続して賃貸人としての債務を負うに至ったことを看過して,Cの占有権原を否定しない2記載なし3頁3⑴ア(イ)(不良答案の例)

2 設問1⑴イ(留置権の主張の可否)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
14Cの㋑を,300万円の損害賠償債権を被担保債権とする留置権(295条)の主張と特定する46頁1⑶2頁3⑴ア(ア)(正確に指摘する必要)
15被担保債権について,Aの明渡請求でAが承継した賃貸人の債務が履行不能となったこと,賠償額の予定(420条)があること,415条1項で300万円の債権を有することを述べる46頁1⑶ア2頁3⑴ア(ア)(丁寧に論じた答案は比較的少なかった)
16Aが所有者として使用収益を拒絶できることと,Bの債務不履行について責任を負うこととの関係(矛盾しないこと)に言及する3記載なし2〜3頁3⑴ア(極めて少数。論じた答案に高い評価)
17物と債権との牽連関係の意義を明らかにする(規範を立てる)46頁1⑶イ(重要性に応じた丁寧な検討)3頁3⑴ア(イ)(優秀答案の例)
18最判昭和51年6月17日を踏まえ,他人物賃貸人は返還を請求し得る関係になく,返還拒絶による間接強制の関係が生じないとして牽連関係を否定する56〜7頁1⑶イ2〜3頁3⑴ア(肯定が圧倒的に多かった)
19牽連関係を肯定すると,賃貸権限のない者の賃貸行為によって目的物上に留置権が成立し,所有者の地位と衝突することを指摘する37頁1⑶イ記載なし
20相続により債務者と所有者が同一人となった事情(偶然の事情)は,地位併存と解する限り牽連関係の存否に影響しない(考慮すべきでない)とする57頁1⑶イ(なお書き)2頁3⑴ア(ア)(偶然の事情を考慮することは妥当でない)
21損害賠償債務は物自体から生じたもの(物の瑕疵による損害の賠償・費用償還等の典型例)ではないことを示す2記載なし2頁3⑴ア(ア)
22Cが同時履行の抗弁を主張しているとして,その要件を検討しない2記載なし2頁3⑴ア(ア)・3頁(イ)(不良答案の例)

3 設問1⑵ア(請求2:賃料の一部返還)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23請求2の法的性質を,611条1項による当然減額を前提とする既払賃料の一部の不当利得返還請求と捉える57頁1⑷3頁3⑴イ(ア)(法的性質の正確な理解が必要)
24611条1項の要件を当てはめる(丙室=賃借物の一部,9月11日〜30日の20日間の使用収益不能,賃借人の帰責事由なし)47頁1⑷4頁3⑴イ(イ)(優秀答案の例)
25減額が,丙室の占める割合及び使用収益を妨げられた日数に応じた当然減額であることを示す37頁1⑷記載なし
26不当利得の要件を具体的に当てはめる(賃料の支払が利得に当たること,減額により法律上の原因が失われること等。給付利得)47頁1⑷3〜4頁3⑴イ(丁寧に検討したものは少ない)
27611条それ自体を返還請求権の根拠とせず,減額から直ちに返還請求を認めない3記載なし3頁3⑴イ(ア)(目立った)
28請求2を修繕義務の債務不履行に基づく損害賠償請求としない3記載なし3頁3⑴イ(ア)・4頁(イ)(不良答案の例)

4 設問1⑵イ(請求3:必要費の償還)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
29請求3を必要費償還請求権(608条1項)と捉え,雨漏り修繕の報酬が必要費に当たることを示す47頁1⑸ア4頁3⑴ウ(イ)(優秀答案の例)
30急迫の事情も事前の通知もないため,本件工事はDの修繕権(607条の2)に基づくものではないとする47頁1⑸ア4頁3⑴ウ(イ)(一応の水準の例)
31607条の2の趣旨(賃借人の修繕を賃貸人に対する債務不履行・不法行為でなくする)と608条1項との非接続から,修繕権がなくても必要費償還請求権が成立し得ることを論ずる57頁1⑸ア4頁3⑴ウ(趣旨に遡る検討は極めて少数)
32修繕権に基づかないことを理由に,償還額が制限されることにもならないとする(主たる理解の一貫性)27頁1⑸ア記載なし
33通常(相当)の額を超える部分は「賃貸人の負担に属する必要費」に当たらないとして,償還を相当額20万円に限る47頁1⑸イ4頁3⑴ウ(ア)(結論自体は妥当)
34(許容分岐)607条の2の趣旨を賃貸人が自ら修繕する利益の保護とみて,賃貸人が自ら修繕した場合の支出額を限度とする17頁1⑸ウ記載なし
35修繕権がないことから直ちに請求3を全部否定しない3記載なし4頁3⑴ウ(イ)(不良答案の例)
36必要費性を否定して有益費として20万円を認めるなど,必要費償還請求権以外の構成をとらない2記載なし4頁3⑴ウ(ア)(不適当)
37本件で急迫の事情があると判断しない1記載なし4頁3⑴ウ(ア)(問題文を注意深く)

5 設問2(請求4:所有権に基づく明渡請求)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
38基本構造:取消しにより契約③が遡って無効(121条)となり,無権利者Hからの取得者Iは原則として所有権を取得できないことを示す58頁2⑴5頁3⑵ア(ア)(丁寧に明示した答案は多くない)
39離婚に伴う財産分与を内容とする契約の意思表示にも95条1項が適用されることを論ずる58頁2⑴ア5頁3⑵ア(イ)(明示的な議論は極めて少数)
40Gの錯誤は95条1項1号の錯誤ではなく,2号の基礎事情の錯誤に当たるとする48頁2⑴イ5頁3⑵ア(イ)(多くの答案が適切に論じた)
4195条2項の「表示されていた」の意味について立場を明確にする(法律行為の内容になっていること,相手方の了解等)48頁2⑴ウ(ア)5頁3⑵ア(イ)(立場を明確にする必要)
42表示要件の当てはめ:Gが財産・収入状況を伝えた上でH課税を気遣う発言をし,Hが課税されるとの理解の下で応じたこと等から,黙示的に表示(了解)があったとする48頁2⑴ウ(ア)5頁3⑵ア(イ)
43主観的因果関係(「錯誤に基づ」く。Gに課税されるなら意思表示をしなかった)を示す48〜9頁2⑴ウ(イ)5頁3⑵ア(イ)
44客観的重要性(財産・収入状況が悪いこと,課税額約300万円)を示す49頁2⑴ウ(イ)5頁3⑵ア(イ)
45表示要件と主観的因果関係・客観的重要性との関係(重なり)を検討する29頁2⑴ウ(イ)(検討が望まれる)記載なし
46GとHが同一の錯誤に陥っていたことから,重過失の有無にかかわらず取消しができる(95条3項2号)とする49頁2⑴エ5頁3⑵ア(イ)(共通錯誤を根拠とするものが多かった)
4795条4項は取消し前の第三者に適用されること,Iが取消し前に利害関係を有するに至ったことを示す49頁2⑵ア5頁3⑵ア(ウ)(多くの答案が正しく論じた)
4895条4項の「第三者」の意義(当事者及び包括承継人以外で,錯誤による意思表示によって生じた法律関係について新たに法律上の利害関係を有するに至った者)を示す29頁2⑵ア記載なし
49Iの善意無過失を事実15に基づいて認定する39頁2⑵ア5頁3⑵ア(ウ)
50Iが未登記であることについて,95条4項の保護を受けるための権利保護資格要件としての登記の要否を論点として取り上げ,最判昭和49年9月26日を参照して結論を示す59〜10頁2⑵イ5〜6頁3⑵ア(ウ)(論じた答案は極めて少なかった)
51登記の要否の理由として,錯誤者と詐欺被害者の帰責性の比較(詐欺の場合との比較)を踏まえる49頁2⑵イ(イ)6頁3⑵ア(ウ)(必要説なら比較を踏まえた議論が必要)
52表意者Gとの関係での対抗要件としての登記の要否は論じない(論ずる必要がない)110頁2⑵イ(ウ)(論ずる必要がない)6頁3⑵ア(ウ)(あえて論ずる必要はなかった)
53G→H→IとG→Fの二つの所有権移転ルートがあり,登記名義人がHであることを踏まえて,IとFの関係を論ずる410頁2⑶6頁3⑵ア(エ)(登記名義人がHであることを踏まえる)
5495条4項で保護される場合の所有権移転の経路(G→I直接か,G→H→I順次か)に遡って,IとFの関係の構成を根拠付ける510頁2⑶ア6頁3⑵ア(エ)・イ(優秀答案の例)
55(許容分岐(1-1))Hの登記によりHが確定的に所有権を取得しFは無権利となるとし,根拠として登記名義人でないGと契約したFは保護に値しないことを挙げる210頁2⑶ア6頁3⑵ア(エ)
56反対の立場(対抗問題構成:G→I直接移転又は(1-2))とその根拠(Fが保護に値しないとはいえない,不動産流通の阻害)を意識して自説の理由を述べる510頁2⑶ア6頁3⑵ア(エ)(反対説を意識した答案は極めて少なかった)
5794条2項の第三者の解釈(最判昭和42年10月31日)との関係や,無効の対抗不能と取消しの対抗不能の違いを検討する310頁2⑶イ(高い評価)記載なし
58採った所有権移転の構成と首尾一貫した請求4の帰結を示す310頁2⑶ア・イ記載なし
59IとFの関係について,特段の理由を示さずに,対抗関係だから登記なしには対抗できないと結論付けない2記載なし7頁3⑵イ(一応の水準の例)
60Iが無過失であったかどうかを論じない(事実15で明示されている)1記載なし5頁3⑵ア(ウ)(問題文を注意深く)

6 重みの分布

60項目の内訳は,重み5が10項目,重み4が18項目,重み3が15項目,重み2が13項目,重み1が4項目であり,重みの合計は197点である。
このうち「〜しない」の形の項目は13項目である。
設問別では,設問1⑴アが13項目(37点),設問1⑴イが9項目(32点),設問1⑵アが6項目(22点),設問1⑵イが9項目(26点),設問2が23項目(80点)である。
重みの合計は設問1が117点,設問2が80点であり,問題文が示す配点の割合(設問1と設問2が50:50)に比べて設問1が多い。
設問1は4つの小問に分かれ,項目数が多い(設問1が37項目,設問2が23項目)ためであり,重みの合計は配点を示すものではない。

重み5の10項目は,所有者の地位と相続した賃貸人の地位が融合せず併存し,特別の事情がない限り履行を拒めるとする(番号3),他人物賃貸人は返還を請求し得る関係になく間接強制の関係が生じないとして,牽連関係を否定する(番号18),相続で債務者と所有者が同一人となった偶然の事情は,牽連関係の存否に影響しないとする(番号20),請求2を,611条1項による当然減額を前提とする既払賃料の一部の不当利得返還請求と捉える(番号23),607条の2の趣旨から,修繕権がなくても必要費償還請求権が成立し得ることを論じる(番号31),取消しで契約③が遡って無効となり,無権利者Hからの取得者Iは原則として所有権を取得できないという基本構造を示す(番号38),離婚に伴う財産分与を内容とする契約の意思表示にも95条1項が適用されることを論じる(番号39),Iが95条4項の保護を受けるために権利保護資格要件としての登記が必要かを論じる(番号50),Iが保護される場合の所有権の移転経路(G→Iか,G→H→Iか)に遡って,IとFの関係の構成を根拠付ける(番号54),反対の立場(対抗問題とみる構成)とその根拠を意識して自説の理由を述べる(番号56)である。
いずれも出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項であり,そのうち番号3・23・38は,それぞれ設問1⑴ア,設問1⑵ア及び設問2の答案の骨格をなすもの,その余は,採点実感が,論じた答案が少ない,誤った答案が多い,又は優秀な答案の特徴であるとして,評価の分かれ目とした事項である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

法令は令和6年1月1日時点の条文をe-Gov法令検索で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文で引用部分を確認した。
出題の趣旨は民事系科目第1問の部分(5頁〜10頁)を,採点実感は民事系科目第1問の部分(1頁〜7頁)を全て読んだ。

答案は,問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型で示した。
字数は約5200字であり,設問1と設問2の配点(50:50)を踏まえ,設問2に約4割強を割いた。
評価項目のうち,表示要件と主観的因果関係・客観的重要性の関係(第4の5の評価項目)及び民法94条2項の解釈との関係は,字数との兼ね合いで答案には入れず,第5の3で説明する。

2 答案

1 設問1⑴アについて
(1) Aは,甲土地の所有権に基づき,乙建物を所有して甲土地を占有するCに対し,建物収去土地明渡しを請求している(請求1)。
Cの下線部㋐は,契約①に基づく賃借権を占有権原として主張するものである。
本問では,BはA所有の甲土地をBの名でCに賃貸しているから,契約①は他人物賃貸借に当たる。
Bは,Aから賃貸権限を取得し,これに基づいて甲土地をCに使用収益させる債務を負う(601条,559条・561条)。
しかし,Aは契約①の当事者ではないから,Bの死亡前には,Cは賃借権をAに対する占有権原として主張できない。
なお,Bは自己の名で契約しているから無権代理ではなく,借地借家法10条1項も,有効に成立した借地権の第三者への対抗を定めるにすぎない。
(2) もっとも,Bの死亡により,AはBの賃貸人としての地位と前述した債務を承継した(896条本文)。
そこで,Aは,所有者として請求1をすることができなくなるのではないか。
所有者が他人物賃貸人を相続した場合の両地位の関係が問題となる。
思うに,相続という偶然の事情によって,所有者が相続前に有していた賃貸権限を与えるか否かの自由を奪われる理由はない。
また,所有者が履行を拒んでも,賃借人は賃貸人の債務不履行責任を追及できるから,不測の損害を受けない。
よって,両地位は融合せず併存し,所有者は,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,承継した債務の履行を拒むことができると解する(他人の権利の売主を権利者が相続した場合につき判例同旨・最大判昭和49年9月4日)。
本人が無権代理人を相続した場合に追認拒絶が許されること(最判昭和37年4月20日)とも整合する。
(3) 本問では確かに,Cは,乙建物を築造して登記を備え,居住し,Bの死亡後も賃料を供託している。
しかし,Aは契約①を了承しておらず,Bの「言い繕った」説明にも関与していない。
また,甲土地は「遠方」の「空き地」で,AはCの利用に気付くと直ちに請求1をしている。
Cの不利益は損害賠償で回復される。
よって,特別の事情はない。
(4) したがって,Cは,下線部㋐の反論に基づいて請求1を拒むことはできない。

2 設問1⑴イについて
(1) 下線部㋑は,300万円の損害賠償請求権を被担保債権とする留置権(295条1項)の主張である。
本問では,Aは,Bから承継した賃貸人の債務の履行を請求1によって拒んだから,この債務は履行不能となり(412条の2第1項),契約①には賠償額の予定がある(420条1項)。
よって,Cは,Aに対し,300万円の損害賠償請求権を有する(415条1項)。
なお,Aが所有者として履行を拒めることと,承継した債務の不履行責任を負うこととは矛盾しない。
拒絶の自由は所有者としての地位に基づき,責任は相続した賃貸人としての地位に基づくからである(本人が無権代理人を相続した場合につき最判昭和48年7月3日参照)。
(2) では,この損害賠償請求権は,甲土地「に関して生じた債権」といえるか。
物と債権との牽連関係が問題となる。
思うに,留置権の趣旨は,物の返還を拒絶させることで債務者に弁済を間接的に強制し,当事者間の公平を図る点にある。
よって,牽連関係は,債権が物自体から生じた場合のほか,物の返還を拒むことが当該債務の弁済を間接に強制する関係にある場合に認められると解する。
他人物売買の買主が売主の債務の履行不能による損害賠償債権で留置権を主張できないのも,売主が目的物の返還を請求しうる関係にないからである(判例同旨・最判昭和51年6月17日)。
(3) 本問では,損害賠償債権は契約①の不履行から生じたもので,甲土地自体から生じたものではない。
そして,他人物賃貸人Bは甲土地の返還をCに請求しうる関係になかったから,返還拒絶による間接強制の関係はない。
仮に牽連関係を認めると,賃貸権限のない者の賃貸によって所有者の土地に留置権が成立し,所有者の地位と衝突する。
本問では確かに,相続によりAは損害賠償債務者となり,同時に返還を請求する所有者でもあるから,留置によってAに弁済を間接に強制できるとも思える。
しかし,この状況はBの死亡という偶然の事情によるものであり,前述のとおり両地位は併存するから,牽連関係の判断に影響しない。
(4) したがって,留置権は成立せず,Cは,下線部㋑の反論に基づいて請求1を拒むことはできない。

3 設問1⑵アについて
(1) 請求2は,9月分の賃料が611条1項により当然に減額された結果,既に支払った賃料の一部が不当利得になるとして,その返還を求めるものである(703条)。
(2) 本問では,丙室は乙建物の一部であり,雨漏りにより9月11日から30日までの20日間使用収益できなかった。
雨漏りは契約②の締結前からの原因によるから,Dの責めに帰することができない。
Dが通知(615条)をしなかったことは,使用不能の原因ではない。
よって,9月分の賃料は,丙室が乙建物の使用収益に占める割合と20日分の割合に応じて当然に減額される(611条1項)。
(3) 本問では,Aは,8月31日に9月分の賃料12万円全額の支払を受けている(利得)。
他方,Dはその分の金銭を失い(損失),両者は同じ給付によるから因果関係がある。
そして,減額部分については賃料債務が存在しないことになるから,その受領は法律上の原因を欠く。
(4) したがって,Aは減額分(12万円×丙室の割合×30分の20)を返還する義務を負い,請求2はその限度で認められる。

4 設問1⑵イについて
(1) 請求3は,必要費の償還請求(608条1項)である。
本問では,雨漏りの修繕は乙建物を使用収益に適する状態に保つための工事であるから,Eへの報酬の支払は必要費の支出に当たり,雨漏りは契約前からの原因によるから修繕はAの義務である(606条1項)。
(2) これに対しAは,Dに修繕権がなかったと反論する。
本問では,本件工事に急迫の事情がなく,DはAに通知もしていないから,Dの修繕権(607条の2)はない。
では,修繕権のない修繕について,必要費の償還を請求できるか。
思うに,607条の2は608条1項と接続されておらず,その趣旨は,賃借人による修繕を賃貸人に対する債務不履行・不法行為でなくする点にある。
また,賃借人が修繕しなければ,結局賃貸人が負担すべき費用である。
よって,修繕権に基づかない修繕であっても,そのことを理由に必要費償還請求権が排除され,又は償還額が制限されることはないと解する。
(3) もっとも,Aは報酬30万円は高すぎるとも反論する。
通常の額を超える部分は「賃貸人の負担に属する必要費」とはいえない。
本問では,同じ内容及び工期の工事の適正な報酬額は20万円であるから,償還の範囲は20万円に限られる。
なお,607条の2の趣旨を賃貸人が自ら修繕する利益の保護にあると解しても,Aが自ら修繕したと仮定した場合の支出額20万円が限度となり,結論は同じである。
(4) したがって,請求3は,20万円の限度で認められる。

5 設問2について
(1) 請求4は,Iが所有権に基づく返還請求権として丁土地の明渡しを求めるものであり,Iが丁土地の所有者であることを要する。
丁土地はG→H→Iと移転したはずであるが,Gが契約③を取り消しているから,取消しが認められれば契約③は遡って無効となり(121条),Iは無権利者Hから取得した者として,原則として所有権を取得できない。
(2)ア まず,離婚に伴う財産分与を内容とする契約③の意思表示も,売買の意思表示と同様に95条1項の適用を受ける。
本問では,Gは財産分与として丁土地をHに譲渡する意思で契約③を締結しており,意思と表示に不一致はないから,1号の錯誤ではない。
しかし,Gは,Gに課税されないと真実に反して認識しており,これは法律行為の基礎とした事情についての錯誤である(同項2号)。
イ 基礎事情の錯誤による取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限りすることができる(同条2項)。
思うに,基礎事情の錯誤による不利益は本来表意者が負うべきものである。
よって,「表示」とは,その事情が法律行為の内容となっていること,つまり,その事情が欠ければ意思表示の効力が否定されることについて相手方の了解があることをいうと解する。
本問では,Gは,自己の財産・収入の状況が悪いことをHに伝えた上で,Hに課税されることを気遣う発言をし,Hは,Hに課税されるとの理解の下で「私に課税される税金は,何とかするから大丈夫。」と応じている。
これらのやりとりからすれば,Gに課税されないことが契約③の前提であることについて,Hの了解が黙示的にあったといえる(黙示の表示で足りることにつき判例同旨・最判平成元年9月14日)。
ウ 本問では,Gは,自己に課税されるのであれば契約③をしなかったといえるから,錯誤に基づく意思表示である。
そして,丁土地以外の財産をほとんど持たず,失職中で収入もないGに約300万円の課税がされることからすれば,錯誤は法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである(同条1項柱書)。
エ 本問では確かに,Gは課税関係を専門家に確認しておらず,重大な過失があったとも思える。
しかし,HもHにのみ課税されると理解しており,Gと同一の錯誤に陥っていたから,Gは取り消すことができる(同条3項2号)。
そして,Gは令和6年1月15日にHに対し契約③をなかったこととする旨を伝えており,これは取消しの意思表示である(123条)。
(3) では,Iは95条4項の第三者として保護されないか。
ア 同項は取消しの遡及効によって害される取消前の第三者に適用され,「第三者」とは,当事者及びその包括承継人以外の者で,錯誤による意思表示によって生じた法律関係について新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解される。
本問では,Iは,取消前の令和6年1月10日にHから丁土地を買い受け,代金2000万円を支払っているから,「第三者」に当たる。
また,Iは,Gの錯誤について善意無過失である。
イ もっとも,Iは登記を備えていない。
95条4項の保護を受けるために,権利保護資格要件としての登記が必要かが問題となる。
思うに,詐欺による取消しについて,判例は,96条3項の第三者を対抗要件を備えた者に限定する理由はないとしている(最判昭和49年9月26日)。
そして,自ら錯誤に陥った表意者は欺罔された表意者よりも帰責性が大きいから,錯誤者を詐欺の被害者より厚く保護する理由はない。
よって,権利保護資格要件としての登記は不要と解する。
本問では,Iは,Hの説明を信じて代金全額を支払っており,登記がないことを理由に保護を否定すべき事情はない。
したがって,GはIに取消しを対抗できない。
(4)ア では,Iは,取消後にGから契約⑤により丁土地を買い受けたFに対し,登記なくして所有権を主張できるか。
95条4項によって取消しを対抗できない場合の所有権の移転の経路が問題となる。
この点,取消し自体は有効であるから,所有権はGからIへ直接移転し,IとFはGを起点とする対抗関係(177条)に立つとの考え方がある。
これによれば,未登記のIは,Fが登記の欠缺を主張する限り,Fに所有権を対抗できない。
しかし,95条4項は,取消しの遡及効を第三者との関係で制限し,意思表示が有効であることを信頼して利害関係を有するに至った者を保護する規定である。
よって,Iとの関係では契約③は有効なものとして扱われ,所有権はG→H→Iと順次移転すると解する。
イ 本問では,GからHへの所有権移転登記は令和5年12月11日にされ,契約⑤(令和6年1月25日)より前である。
よって,Hは確定的に所有権を取得し,Gは無権利となったから,Fは無権利者からの譲受人にすぎない。
本問では確かに,Fは代金2000万円を支払い,Gから「契約③は既になかったこととなっている」と説明を受けて買い受けたのであるから,保護の必要がないとはいえないとも思える。
しかし,Fは,登記名義がHであることを知りながら,所有権の登記名義人でないGと契約⑤を締結したのであり,Hとの関係を確かめることもできたから,保護に値しない。
したがって,Fは,Iの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(177条)に当たらない。
(5) 以上より,Iは登記なくしてFに丁土地の所有権を主張でき,請求4は認められる。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 設問1⑴:相続の偶然を評価に持ち込まない

設問1⑴アの中心は,最高裁大法廷昭和49年9月4日判決(他人の権利の売主をその権利者が相続した場合)の考え方を他人物賃貸借に及ぼし,所有者としての地位と相続した賃貸人としての地位が融合せず併存することを示す点にある。
同判決は,権利者は相続によって売主の義務ないし地位を承継しても,相続前と同様にその権利の移転について諾否の自由を保有し,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,履行義務を拒否できるとしている。
採点実感は,Bの行為を無権代理と捉える答案や民法94条2項の類推適用を論ずる答案を不良の例とする一方,本人が無権代理人を相続した場合の判例(最高裁昭和37年4月20日判決)との比較を優秀な答案の例として挙げている。

設問1⑴イでは,採点実感によれば,牽連関係を肯定する答案が圧倒的に多かった。
しかし,損害賠償債務を負う者と返還を請求する所有者がAという同一人になったのは,Bの死亡という偶然の事情によるものであり,地位が併存すると解する限り,牽連関係の判断に影響しない。
その上で,他人物売買の買主の損害賠償債権について留置権を否定した最高裁昭和51年6月17日判決の理由(売主は目的物の返還を買主に請求しうる関係になく,返還拒絶による間接強制の関係が生じない)を,他人物賃貸借に当てはめることになる。
なお,同判決のこの判断は判決本文の上告理由第二点に対する部分にあり,裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨には載っていない。
また,所有者が履行を拒めることと,承継した債務の不履行責任を負うこととが矛盾しないことに触れた答案は,採点実感で高く評価されている。

(2) 設問1⑵:請求権の根拠と修繕権の位置付け

設問1⑵アでは,民法611条1項は賃料が減額されるという効果を定めるにすぎないから,返還請求の根拠は不当利得(民法703条)である。
採点実感は,同条の要件の検討から直ちに返還を認め,不当利得の要件を検討しない答案が目立ったとしている。

設問1⑵イでは,民法607条の2は同法608条1項と接続されておらず,修繕権に基づかない修繕でも必要費償還請求権は排除されない。
そのうえで,通常の額を超える部分は「賃貸人の負担に属する必要費」に当たらないとして,20万円に限ることになる。
採点実感は,結論として20万円とする答案が多かった一方,その理由を民法607条の2の趣旨に遡って検討する答案は極めて少数であったとし,修繕権がないことから直ちに請求3を全部否定する答案を不良の例とし,必要費であることを否定して有益費として20万円を認める結論を不適当としている。

(3) 設問2:錯誤の要件,登記の要否,所有権の移転経路

錯誤取消しでは,財産分与契約にも民法95条1項が適用されること,1号でなく2号の基礎事情の錯誤であること,表示要件の意味について自分の立場を明確にすることが求められる。
離婚に伴う財産分与と課税の錯誤については,最高裁平成元年9月14日判決が,他に特段の事情がない限り,分与者が自己に課税されないことを当然の前提とし,かつ,その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえないとして,原判決を破棄し差し戻している(改正前の民法95条の下で,要素の錯誤の成否等をさらに審理させたものである)。
なお,財産分与として不動産を譲渡した分与者に譲渡所得課税がされることは,最高裁昭和50年5月27日判決が判示している。
表示要件と,主観的因果関係・客観的重要性の両要件との関係を検討する答案は,出題の趣旨で高く評価されるとされている。

民法95条4項の第三者が保護されるために権利保護資格要件としての登記を要するかについては,詐欺取消しについての最高裁昭和49年9月26日判決(民法96条3項の第三者を対抗要件を備えた者に限定する理由はないとした)を参照して論ずることが考えられ,出題の趣旨は不要説・必要説のいずれでもよいとしている。
採点実感によれば,この論点を論じた答案は極めて少なかった。
他方,表意者Gとの関係で対抗要件としての登記を論ずる必要はない。

最後に,IとFの関係は,Iが保護される場合の所有権の移転経路(G→H→Iと順次移転するか,G→Iと直接移転するか)に遡って論ずることが求められている。
順次移転と考え,Hの登記によってHが確定的に所有権を取得したとみれば,Fは無権利者となり請求4は認められ,直接移転と考えるなどすれば,IとFは対抗関係に立ち,未登記のIはFに対抗できない。
出題の趣旨は,民法94条2項についての最高裁昭和42年10月31日判決を後者に準ずる見解を採るものとする理解があることに触れ,無効の対抗不能と取消しの対抗不能の違いを意識した検討を高く評価するとしている。
ただし,同判決の判決本文は,処分禁止の仮処分登記の効力という一般則で結論を出しており,民法94条2項や「対抗関係」の語を用いていない(裁判所ウェブサイトの判示事項は民法94条2項に触れ,裁判要旨は「対抗することができない」と述べている)。

(4) AIの未読復元との比較(参考)

本記事の模範解答を作る前に,AI(Claude)が出題の趣旨・採点実感を読まずに問題文と条文・判例だけから答案(未読復元版)を作り,その後に公式資料と照合した。
その結果,「〜しない」の形の項目を除く47項目のうち,完全に一致したものが22項目,実質的に一致したものが11項目,部分的に一致したものが8項目,欠落したものが6項目であり,5段階の重みで加重した実質的な網羅率は約76%(本記事の推計であり,得点ではない)であった。
欠落したのは,本人が無権代理人を相続した判例との比較,財産分与への民法95条1項の適用,詐欺取消しとの比較による登記不要の理由付け,所有権の移転経路に遡った検討の一部などである。

もっとも,AIが答案作成の手順として参照した資料の一部に,本年度の公式資料との照合から作られた一般的な規則が含まれていたことが事後に判明したため,この未読復元は完全な未読ではない。
とくに設問1⑴イの牽連関係の否定は,その規則の影響を受けた可能性があり,その規則を参照しなかった別のAI(同系統のモデル)は牽連関係を肯定していた。

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⑤令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和6年司法試験の実施について」
②法務省「令和6年司法試験問題」
③令和6年司法試験論文式試験問題(民事系科目)
④法務省「令和6年司法試験の結果について」
⑤令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和6年司法試験の採点実感」
⑦令和6年司法試験の採点実感(民事系科目)

2 法令

①民法(e-Gov法令検索)
②借地借家法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所大法廷昭和49年9月4日判決(昭和44年(オ)第23号,民集28巻6号1169頁)
②最高裁判所第二小法廷昭和37年4月20日判決(昭和35年(オ)第3号,民集16巻4号955頁)
③最高裁判所第三小法廷昭和48年7月3日判決(昭和46年(オ)第138号,民集27巻7号751頁)
④最高裁判所第一小法廷昭和51年6月17日判決(昭和50年(オ)第1148号,民集30巻6号616頁)
⑤最高裁判所第一小法廷平成元年9月14日判決(昭和63年(オ)第385号,集民157号555頁)
⑥最高裁判所第一小法廷昭和49年9月26日判決(昭和45年(オ)第344号,民集28巻6号1213頁)
⑦最高裁判所第三小法廷昭和42年10月31日判決(昭和41年(オ)第1438号,民集21巻8号2232頁)
⑧最高裁判所第三小法廷昭和50年5月27日判決(昭和47年(行ツ)第4号,民集29巻5号641頁)

4 確認状態

出題の趣旨及び採点実感は,法務省のPDFを取得し,民事系科目第1問の部分を全て読んだ。
評価項目の根拠とした記述は,抽出したテキストと機械的に照合し,全て実在することを確認した。

裁判例①〜⑧は,裁判所ウェブサイトの判決全文で,本記事で触れた判示の文言を確認した。
大審院昭和17年9月30日判決は,判例秘書で書誌と判決要旨だけを確認した(後記の残る不明点①)。

条文は,e-Gov法令検索の時点指定機能で令和6年1月1日時点の条文を確認した。

公式資料の記載と一次資料が食い違う点は,次のとおりである。
①出題の趣旨は最高裁大法廷昭和49年9月4日判決の掲載頁を「民集28巻6号169頁」としているが,判決全文及び裁判所ウェブサイトでは民集28巻6号1169頁である。
②採点実感は,建物の登記による借地権の対抗要件を「民法第10条第1項」としているが,借地借家法10条1項である。
③なお,出題の趣旨が最高裁平成元年9月14日判決の掲載誌とする「家月41巻11号75頁」は,裁判所ウェブサイトには表示がない(同サイトの表示は「集民157号555頁」)が,判例秘書の書誌で家庭裁判月報41巻11号75頁にも掲載されていることを確認したので,誤記ではない。

残る不明点は,次のとおりである。
①出題の趣旨が取消前の第三者に関して参照する大審院昭和17年9月30日判決(昭和17年(オ)第4号,大審院民事判例集21巻17号911頁)は,裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判例秘書の大審院判例検索で書誌と判決要旨(詐欺による売買取消しの意思表示をした後に利害関係を持った者は民法96条3項の第三者に当たらないこと等)を確認したが,判決理由の全文は読んでいない。
②丙室が乙建物の使用収益に占める割合は問題文に示されていないため,請求2の具体的な金額は算定できない(答案では計算式で示した)。
③民法95条4項の第三者に権利保護資格要件としての登記を要するか,及び同項で保護される場合の所有権の移転経路については,出題の趣旨は,前者について錯誤取消しの場面ではまだ議論が十分にされていないとし,いずれについても首尾一貫した論述をしていればどの考え方を採ってもよいとしている。