第1 資料の位置付けと現在との違い
厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」は,政策統括官付社会保障担当参事官室が平成30年(2018年)3月23日に公表した資料である。
同年4月に実施された変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,介護,子ども・子育て,福祉,疾病対策,雇用・労働及び各種手当の8分野を挙げている。
この記事では,そのうち弁護士の相談で問題になりやすい項目について,資料の記載と確認日現在の制度とを分けて整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
平成30年当時の数字は,過去の保険料,給付額又は雇用義務を計算し直す場面ではそのまま使えるが,現在の相談に当てはめることはできない。
| 項目 | 平成30年4月の資料の記載 | 令和8年10月4日現在 |
|---|---|---|
| 国民年金保険料(月額) | 1万6340円 | 1万7920円(令和8年度) |
| 老齢基礎年金(満額・月額) | 6万4941円(据置き) | 7万608円(昭和31年4月2日以後生まれ) |
| 国民健康保険 | 財政運営を都道府県単位化 | 都道府県が市町村とともに行う(国民健康保険法3条1項) |
| 国保の賦課限度額 | 93万円 | 113万円(子ども・子育て支援納付金分3万円を含む) |
| 障害者の法定雇用率(民間) | 2.2%(精神障害者を雇用義務の対象に) | 2.7%(令和8年7月から) |
| 労災の介護(補償)給付(常時介護の最高限度額) | 10万5290円 | 18万6050円 |
| 家事支援従事者 | 労災保険の特別加入の対象に追加 | 現行の労災保険法施行規則46条の18第5号ロ |
| 児童扶養手当(第1子・全部支給) | 4万2500円 | 4万8050円(令和8年度) |
第2 年金と手当
1 国民年金保険料と年金額
資料によれば,平成30年度の国民年金保険料は月額1万6340円であった。
これは,法律に規定された保険料額1万6900円(平成16年度価格)に,平成16年度以降の物価や賃金の変動を反映した率0.967を乗じたものである。
同年度の年金額は,平成29年の物価変動率がプラス0.5%,名目手取り賃金変動率がマイナス0.4%であったため,法律の規定により前年度から据え置かれ,老齢基礎年金(満額)は月額6万4941円とされた。
厚生労働省の「令和8年度の年金額改定について」(令和8年1月23日)によれば,令和8年度の国民年金保険料は月額1万7920円であり,法律に規定された保険料額(平成16年度水準)は1万7000円である。
平成30年度の1万6900円から100円上がったのは,平成31年4月に国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除制度が施行され,令和元年度分から保険料が月額100円引き上げられたためである(同資料4頁)。
令和8年度の老齢基礎年金(満額)は,昭和31年4月2日以後生まれの人が月額7万608円,同年4月1日以前生まれの人が月額7万408円である(同資料1頁)。
過去の未納期間の保険料を追納する場合や,過去の年度の年金額を基に計算する場合は,その年度の額を使う必要がある。
国民年金保険料の免除・納付猶予・追納は,国民年金保険料の免除・納付猶予・追納で整理している。
2 物価スライドの手当
資料は,児童扶養手当等の手当額を,平成29年の全国消費者物価指数の上昇(0.5%)を踏まえて0.5%引き上げるとしていた。
平成30年度と令和8年度の主な月額は次のとおりである。
| 手当 | 平成30年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 児童扶養手当(第1子・全部支給) | 4万2500円 | 4万8050円 |
| 特別児童扶養手当(1級) | 5万1700円 | 5万8450円 |
| 特別児童扶養手当(2級) | 3万4430円 | 3万8930円 |
| 特別障害者手当 | 2万6940円 | 3万450円 |
| 特別障害給付金(1級) | 5万1650円 | 5万8650円 |
平成30年度の額は資料のリンク先「児童扶養手当等の手当額について」により,令和8年度の額は前記「令和8年度の年金額改定について」の5頁による。
所得制限,支給制限及び認定要件は,各手当の現行の案内で別に確認する必要がある。
第3 医療保険
1 国民健康保険の都道府県単位化
資料は,平成30年4月1日から,国民健康保険の財政運営の都道府県単位化と財政支援の拡充による財政基盤の強化を柱とする国保改革を施行するとしていた。
現行の国民健康保険法3条1項は,「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、この法律の定めるところにより、国民健康保険を行うものとする。」と定める。
被保険者も,「都道府県の区域内に住所を有する者」とされている(同法5条)。
平成30年3月以前の制度を前提にした書籍や記事には,国民健康保険の被保険者を「市町村の区域内に住所を有する者」と説明するものがある。
現在の条文に基づいて説明するときは,都道府県の区域を基準とする現行の文言を用いる必要がある。
もっとも,資格管理,保険料率の決定,賦課・徴収及び保険給付は引き続き市町村が担っている(厚生労働省「国保制度改革の概要(運営の在り方の見直し)」)。
2 転居したときの高額療養費
資料は,都道府県単位化に伴う変更として,①同一都道府県内の他の市町村へ住所を移した場合に,高額療養費の多数回該当の回数を引き継ぐこと,②転居した月の自己負担限度額を転出元と転入先でそれぞれ本来の2分の1にすることを挙げている。
現行の国民健康保険法施行令29条の3第1項1号ただし書と同条16項がこれに当たる。
高額療養費の月額の限度額は令和8年8月に引き上げられ,同月から年間上限も導入された。
転居の前後の計算方法と令和8年8月の見直しは,国民健康保険の加入者が転居した場合の高額療養費で詳しく扱っている。
3 国民健康保険と後期高齢者医療の保険料の上限
資料は,国民健康保険の保険料(税)の賦課限度額を89万円から93万円に,後期高齢者医療の賦課限度額を57万円から62万円に引き上げるとしていた。
リンク先の「平成30年度の国保保険料(税)賦課(課税)限度額の在り方について」によれば,平成30年度の国保の93万円は,基礎賦課分58万円,後期高齢者支援金等賦課分19万円,介護納付金賦課分16万円の合計である。
同資料は,被用者保険とのバランスを考慮し,限度額を超える世帯の割合が1.5%に近づくように段階的に引き上げていると説明している。
| 区分 | 平成30年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 国保・基礎賦課分 | 58万円 | 67万円 |
| 国保・後期高齢者支援金等賦課分 | 19万円 | 26万円 |
| 国保・介護納付金賦課分 | 16万円 | 17万円 |
| 国保・子ども・子育て支援納付金賦課分 | なし | 3万円 |
| 後期高齢者医療・基礎賦課分 | 62万円 | 85万円 |
| 後期高齢者医療・子ども・子育て支援納付金賦課分 | なし | 2万1000円 |
令和8年度の額は,現行の国民健康保険法施行令29条の7第2項9号,3項8号,4項8号及び5項10号並びに高齢者の医療の確保に関する法律施行令18条1項7号・13号による。
子ども・子育て支援納付金賦課分は,令和8年度から加わった区分である。
具体的な保険料率と限度額は,市町村の条例・広域連合の条例で定められるため,住所地の現行の額を確認する必要がある。
4 後期高齢者医療の保険料軽減特例と診療報酬
資料は,後期高齢者医療の保険料軽減特例の段階的な見直しとして,所得の低い人の所得割の軽減を2割軽減から本則(軽減なし)とし,元被扶養者の均等割の軽減を7割軽減から5割軽減とすることを挙げていた。
この軽減のその後の変更と現在の内容は,この記事では検討していない。
平成30年度診療報酬改定は,本体0.55%のプラス改定であり,オンライン診療料(70点)等が新設された。
介護報酬は0.54%,障害福祉サービス等報酬は0.47%のプラス改定であった。
現在の診療報酬の算定要件は,その後の改定で大きく変わっているため,個別の算定は現行の告示・通知で確認する必要がある。
第4 雇用・労働
1 障害者の法定雇用率
資料は,平成30年4月1日から,障害者雇用義務の対象として,身体障害者と知的障害者に精神障害者が加わり,法定雇用率が次のとおり変わるとしていた。
| 事業主の区分 | 平成30年3月まで | 平成30年4月から | 令和8年10月4日現在 |
|---|---|---|---|
| 民間企業 | 2.0% | 2.2% | 2.7% |
| 国,地方公共団体等 | 2.3% | 2.5% | 3.0% |
| 都道府県等の教育委員会 | 2.2% | 2.4% | 2.9% |
現在の率は,障害者の雇用の促進等に関する法律施行令9条(「百分の二・七」)並びに2条(「百分の三」,教育委員会は「百分の二・九」)による。
民間企業の2.7%は令和8年7月1日からの率であり,同年6月までは2.5%であった。
37.5人基準,算定方法,雇用状況報告及び障害者雇用納付金は,令和8年7月の障害者法定雇用率2.7%への引上げで整理している。
過去の年度の雇用義務や納付金を検討する場面では,その年度に適用されていた率を確認する必要がある。
2 労災保険の介護(補償)給付
資料は,平成30年4月から,労災保険の介護(補償)給付の最高限度額と最低保障額を引き上げるとしていた。
平成30年度と現在の額は次のとおりである。
| 区分 | 平成30年度 | 令和8年10月4日現在 |
|---|---|---|
| 常時介護・最高限度額 | 10万5290円 | 18万6050円 |
| 常時介護・最低保障額 | 5万7190円 | 9万790円 |
| 随時介護・最高限度額 | 5万2650円 | 9万2980円 |
| 随時介護・最低保障額 | 2万8600円 | 4万5400円 |
現在の額は,労働者災害補償保険法施行規則18条の3の4による。
平成30年2月8日付け基発0208第1号は,当時の最高限度額と最低保障額を人事院勧告に基づく国家公務員給与の改定率の変動に応じて見直すとし,平成30年3月以前の月に係る給付は,4月以後に支給する場合も従前の額によるとしていた。
現在の改定の仕組みと給付の要件は,労災保険の給付内容で扱っている。
交通事故や業務災害の損害賠償で既払いの介護(補償)給付を控除するときは,支給された月の額を確認する必要がある。
3 家事支援従事者の特別加入
資料は,個人家庭に雇用され,家事,育児等の作業に従事する人を,労災保険の特別加入制度の対象とするとしていた。
現行の労働者災害補償保険法施行規則46条の18第5号ロは,特別加入の対象となる作業として,「炊事、洗濯、掃除、買物、児童の日常生活上の世話及び必要な保護その他家庭において日常生活を営むのに必要な行為」を掲げている。
個人の家庭に直接雇われて家事を行う人は,労働基準法116条2項の「家事使用人」として,労働基準法と労災保険法が適用されない。
特別加入は,そのような人が労災保険の給付を受けるための手段である。
家政婦紹介所と訪問介護事業所を兼ねる会社に登録した家政婦について,家事の部分も会社の業務であるとして家事使用人該当性を否定した東京高裁令和6年9月19日判決を含め,個人宅で働く家政婦の労災で詳しく扱っている。
4 労災保険率等の改定
資料は,業種ごとの労災保険率,特別加入保険料率及び労務費率を平成30年度から改定するとしていた。
労災保険率は原則として3年ごとに見直されており,平成30年度の率は現在の率ではない。
現在の率と年度更新の手続は,労働保険の加入・保険料・労災給付・雇用保険の手続を参照されたい。
第5 子ども・子育て,福祉及び疾病対策
資料は,母子父子寡婦福祉資金貸付金の修学資金と就学支度資金について,大学院に進学するひとり親家庭の子を対象に加えるとしていた。
当時の貸付上限額は,修学資金が月額で修士課程13万2000円,博士課程18万3000円,就学支度資金が国公立38万円,私立59万円とされていた。
現在の貸付限度額は,この記事では確認していない。
また,難病の患者に対する医療等に関する法律に基づく指定難病に1疾病,児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病に33疾病と包括病名1疾病が追加された。
現在の対象疾病は,厚生労働省・こども家庭庁の現行の一覧で確認する必要がある。
第6 別セッションで掘り下げるテーマと未検討点
この記事は,提供資料である厚生労働省の平成30年3月23日の一覧表と,同ページからリンクされた資料6点(国保制度改革の概要,多数回該当の引継ぎ,住所異動月の自己負担限度額,国保の賦課限度額,介護(補償)給付の改定,児童扶養手当等の手当額)を全文確認した。
その他のリンク先ページは,この記事で扱った項目に関係するものに限って確認した。
法令は,確認日現在のe-Gov法令検索で,国民健康保険法3条・5条,国民健康保険法施行令29条の3・29条の7,高齢者の医療の確保に関する法律施行令18条,障害者の雇用の促進等に関する法律施行令2条・9条,労働者災害補償保険法施行規則18条の3の4・46条の18及び労働基準法116条を確認した。
令和8年度の年金額と手当額は,厚生労働省の「令和8年度の年金額改定について」の別添資料で確認した。
判例秘書による検索は行っていない。
別のセッションで掘り下げるテーマと未検討点は次のとおりである。
①後期高齢者医療の保険料軽減特例(元被扶養者の均等割軽減等)の平成30年度以後の変更と現在の内容
②母子父子寡婦福祉資金貸付金の現在の貸付限度額と,大学院進学者への貸付けの実績
③平成30年度診療報酬改定で新設されたオンライン診療料のその後の変遷(現在の情報通信機器を用いた診療の算定要件)
④障害者の法定雇用率の平成30年4月から令和8年7月までの各段階の経過措置
第7 出典
①厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日,政策統括官付社会保障担当参事官室)
②厚生労働省「国保制度改革の概要(運営の在り方の見直し)」
③厚生労働省「平成30年度の国保保険料(税)賦課(課税)限度額の在り方について」
④厚生労働省「平成30年度介護(補償)給付・介護料の最高限度額・最低保障額の改定について」
⑤厚生労働省「児童扶養手当等の手当額について」(平成30年4月以降)
⑥厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(令和8年1月23日)
⑦厚生労働省労働基準局長「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成30年2月8日付け基発0208第1号,厚生労働省法令等データベース)
⑧国民健康保険法(e-Gov法令検索)3条,5条
⑨国民健康保険法施行令(e-Gov法令検索)29条の3,29条の7
⑩高齢者の医療の確保に関する法律施行令(e-Gov法令検索)18条
⑪障害者の雇用の促進等に関する法律施行令(e-Gov法令検索)2条,9条
⑫労働者災害補償保険法施行規則(e-Gov法令検索)18条の3の4,46条の18
⑬労働基準法(e-Gov法令検索)116条
同じシリーズの記事(制度変更の時期の順)
①平成26年4月の厚生労働省制度変更
②平成26年10月の厚生労働省制度変更
③平成27年10月の厚生労働省制度変更
④平成28年4月の厚生労働省制度変更
⑤平成29年10月の厚生労働省制度変更
⑥令和5年4月の厚生労働省制度変更
⑦令和5年10月の厚生労働省制度変更
⑧令和6年4月の厚生労働省制度変更
⑨令和6年10月の厚生労働省制度変更
⑩令和7年4月の厚生労働省制度変更
⑪令和7年10月の厚生労働省制度変更
⑫令和8年4月の厚生労働省制度変更