第1 この記事の対象と基準日
国民年金保険料を納めることが難しい場合には,免除又は納付猶予を申請でき,承認期間は一定の条件で追納できる。
国民健康保険料(税)についても,低所得世帯に対する法定軽減のほか,失業,所得減少又は災害等を理由とする減免若しくは徴収猶予を利用できる場合がある。
本記事の調査基準日は令和8年9月9日である。
国民年金は全国共通の制度を中心に説明し,国民健康保険は市町村の条例等で内容が異なるため,大阪市の令和8年度制度を具体例として説明する。
令和8年10月1日に始まる国民年金保険料の育児免除は,基準日現在の制度とは分けて記載する。
第2 国民年金保険料の免除と納付猶予
1 最初に制度の違いを確認する
保険料免除は,保険料の全部又は一部を納めなくてよいものとする制度であり,平成21年4月以後の免除期間は国庫負担分を含む一定割合が老齢基礎年金額に反映される。
納付猶予は,保険料の支払を後に延ばす制度であり,承認期間は受給資格期間に算入されるが,追納しない限り老齢基礎年金額には反映されない。
| 比較項目 | 保険料免除 | 納付猶予 |
|---|---|---|
| 所得審査の対象 | 本人,配偶者及び世帯主 | 本人及び配偶者 |
| 年齢要件 | 制度上の年齢上限なし | 20歳以上50歳未満 |
| 承認の内容 | 全額,4分の3,半額又は4分の1の免除 | 全額の納付を猶予 |
| 老齢基礎年金額 | 免除区分に応じて反映 | 追納しない限り反映しない |
| 受給資格期間 | 算入する | 算入する |
世帯主である親の所得が高い場合,保険料免除は承認されない一方で,本人及び配偶者の所得要件を満たせば納付猶予が承認されることがある。
親と同居しているだけで親の所得が常に審査対象となるのではなく,親が世帯主であるかを確認する必要がある。
2 所得基準と失業等の特例
(1) 全額免除と納付猶予
全額免除及び納付猶予の所得基準は,「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」である。
扶養親族等がいない場合の基準額は67万円となるが,障害者,寡婦又はひとり親に該当する場合等は基準が異なるため,申請時に確認する必要がある。
免除又は納付猶予の年度は7月から翌年6月までである。
令和8年度分である令和8年7月から令和9年6月までについては,原則として令和7年中の所得を審査する。
(2) 一部免除
一部免除の本人所得の基準額は,4分の3免除が88万円,半額免除が128万円,4分の1免除が168万円に,扶養親族等控除額及び社会保険料控除額等を加えた額である。
本人,配偶者及び世帯主の全員がそれぞれ所得基準を満たす必要がある。
一部免除が承認されたときは,免除されなかった残額を納付しなければならない。
残額を納付しない月は一部免除期間ではなく未納期間となるため,承認通知と納付書を確認する必要がある。
(3) 失業,倒産又は事業廃止の特例
失業,倒産,事業の廃止又は休止等の事実を確認できる場合,その事情がある者の前年所得にかかわらず,免除又は納付猶予を受けられる特例がある。
ただし,配偶者又は世帯主について必要となる所得審査までなくなるものではない。
雇用保険被保険者離職票,雇用保険受給資格者証,雇用保険受給資格通知,廃業届出書又は履歴事項全部証明書等,失業等の事実を確認できる資料が必要となる。
単に収入が不安定であるという事情だけでなく,利用する特例とその裏付資料を申請前に確認することが実務的である。
3 申請できる期間,申請先及び必要書類
(1) 申請できる期間
免除又は納付猶予は,保険料の納付期限から2年を経過していない期間,すなわち申請時点から2年1か月前までの期間について遡って申請できる。
複数年度を申請するときは,7月から翌年6月までの年度ごとに申請書が必要となる。
遡及申請ができる場合でも,初診日又は死亡日より後に過去分を申請しても,障害基礎年金又は遺族基礎年金の保険料納付要件に算入されないことがある。
保険料を納めることが難しくなった時点で,申請を先送りしないことが重要である。
(2) 申請方法と基本書類
申請は,マイナポータルによる電子申請,住所地の市区町村の国民年金窓口,年金事務所又は郵送により行うことができる。
紙で申請する場合は,基礎年金番号通知書若しくは年金手帳等,又はマイナンバーと本人確認のための書類を準備する。
前年所得を証明する書類は原則として添付不要であるが,本人,配偶者又は世帯主について税の申告がされていない場合は,先に市区町村民税の申告が必要となることがある。
失業等の特例を利用するときは,その事実を確認できる書類を添付する。
(3) 申請後の確認
申請書を提出しただけで免除又は納付猶予が確定するわけではない。
日本年金機構から届く承認又は却下の通知,承認区分,対象月及び一部免除後の残額を確認する必要がある。
全額免除又は納付猶予について翌年度以後の継続審査を希望できる場合があるが,失業等の特例による承認など継続審査の対象外となる場合もある。
婚姻,離婚又は世帯主の変更があったときは,変更後の審査関係者を確認する必要がある。
4 年金額と受給資格期間への反映
平成21年4月以後の期間について,免除区分等と老齢基礎年金額への反映は次のとおりである。
平成21年3月以前の免除期間は反映割合が異なる。
| 記録の区分 | 老齢基礎年金額への反映 | 受給資格期間 |
|---|---|---|
| 全額免除 | 2分の1 | 算入する |
| 4分の3免除 | 8分の5 | 算入する |
| 半額免除 | 8分の6 | 算入する |
| 4分の1免除 | 8分の7 | 算入する |
| 納付猶予・学生納付特例 | 反映しない | 算入する |
| 未納 | 反映しない | 算入しない |
承認された免除期間及び納付猶予期間は,障害基礎年金及び遺族基礎年金の保険料納付要件を判定する際にも所定の期間として扱われる。
未納を放置すると,老齢基礎年金だけでなく障害基礎年金又は遺族基礎年金を受けられない原因となり得る。
5 追納できる期間と加算額
免除,納付猶予又は学生納付特例の承認期間は,追納が承認された月の前10年以内であれば,全部又は一部を追納できる。
一部免除の期間は,免除されなかった残額を納付していることが追納の前提となる。
免除等を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以後に追納すると,当時の保険料に経過期間に応じた加算額が上乗せされる。
追納は原則として先に経過した月から行うが,免除期間と納付猶予期間等の双方がある場合の順序は年金事務所に確認するのが安全である。
第3 出産,育児及び学生に関する別制度
1 産前産後期間の免除
国民年金第1号被保険者が出産する場合,出産予定日又は出産日の属する月の前月から4か月間の保険料が免除される。
多胎妊娠の場合は,同月の3か月前から6か月間が免除期間となる。
産前産後免除には所得要件がなく,免除期間は保険料を納付したものとして老齢基礎年金額に反映される。
出産予定日の6か月前から住所地の市区町村へ届出でき,出産後の届出も可能である。
2 令和8年10月から始まる育児免除
令和8年10月1日から,1歳未満の子を養育する国民年金第1号被保険者の実父母及び養父母等を対象とする育児免除が始まる。
根拠となる国民年金法88条の3は,社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)により設けられ,同日に施行される。
所得要件はなく,親子関係が継続し,子と同一住所であることが必要である。
免除期間は保険料を納付したものとして老齢基礎年金額に反映され,父母がともに第1号被保険者として要件を満たすときは双方が対象となり得る。
産前産後免除を受けた実母は,その期間に引き続く9か月間が育児免除期間となる。
実父,養父母又は産前産後免除期間を有しない実母は,子を養育することとなった月から1歳の誕生日の前月まで,最大12か月間が対象となる。
基準日現在は施行前であり,令和8年10月1日より前から子を養育している場合も,同日以後の対象月に限られる。
届出様式及び電子申請は同日以後に利用可能となるため,実際の届出時に日本年金機構の案内を再確認する必要がある。
3 学生納付特例と法定免除
学生は,通常の納付猶予ではなく学生納付特例の対象となる場合がある。
対象校,学生本人の所得,申請年度及び在学期間を確認し,免除又は納付猶予と混同しないようにする必要がある。
生活保護の生活扶助を受けている者又は所定の障害年金の受給権者等には,申請免除とは別の法定免除がある。
該当する場合にも届出が必要となるため,年金事務所又は市区町村窓口へ確認するのが安全である。
第4 国民健康保険料の軽減・減免の全国的な枠組み
1 保険料又は保険税と自治体ごとの差
国民健康保険の負担は,自治体により保険料又は保険税として賦課され,具体的な算定方法,率,賦課限度額,納期及び減免手続は条例等で定められる。
したがって,別の自治体の早見表又は民間の計算結果だけで自分の保険料を確定することはできない。
国民健康保険法77条は,市町村及び国民健康保険組合が条例又は規約により,特別の理由がある者に対して保険料を減免し,又は徴収を猶予できると定める。
具体的な減免事由,減免対象となる保険料,申請期限及び必要書類は加入先へ確認する必要がある。
2 低所得世帯の7割・5割・2割軽減
世帯主,被保険者及び一定の旧被保険者の所得合計が法令上の基準以下である世帯については,均等割及び平等割に相当する応益割が7割,5割又は2割軽減される。
所得割まで一律に同じ割合で軽減される制度ではない。
令和8年度は,5割軽減の所得判定で被保険者数に乗ずる額が30万5000円から31万円へ,2割軽減では56万円から57万円へ改められた。
実際の判定には国民健康保険に加入していない世帯主等の所得が含まれる場合があるため,加入先の説明を確認する必要がある。
3 未就学児の均等割軽減
令和4年4月から,未就学児に係る均等割保険料(税)の5割を公費により軽減する制度が実施されている。
7割,5割又は2割軽減が適用される世帯では,その軽減後の均等割額がさらに5割軽減される。
4 失業,所得減少又は災害の場合
非自発的失業者について給与所得を一定割合に圧縮して算定する軽減制度があり,対象となる離職理由,年齢,期間及び届出書類を確認する必要がある。
自己都合退職又は事業所得の減少が当然に同じ制度の対象となるわけではない。
所得が大幅に減少した場合又は災害を受けた場合は,自治体独自の減免を利用できることがある。
多くは申請期限があり,自動適用ではないため,納期限前に加入先へ相談する必要がある。
第5 大阪市の令和8年度の軽減・減免
1 7割・5割・2割軽減の所得基準
大阪市では,令和8年度の医療分,後期高齢者支援金分,介護分及び子ども・子育て支援金分について,平等割及び均等割の軽減判定所得を次のとおり定めている。
| 軽減割合 | 世帯の軽減判定所得の基準 |
|---|---|
| 7割 | 43万円+10万円×(給与所得者等の数-1) |
| 5割 | 43万円+31万円×被保険者等の数+10万円×(給与所得者等の数-1) |
| 2割 | 43万円+57万円×被保険者等の数+10万円×(給与所得者等の数-1) |
給与所得者等の数に関する加算は,該当者が2人以上の場合に計算する。
この軽減は申請不要であるが,世帯全員の所得が判明していることが必要であり,所得未申告者がいる世帯には適用されない。
2 子どもと出産に関する軽減
令和8年4月1日時点で6歳未満の未就学児については,均等割が5割軽減される。
令和8年度から加わった子ども・子育て支援金分保険料については,令和8年3月31日時点で18歳未満の被保険者の均等割が10割軽減され,いずれも申請は不要である。
出産予定の被保険者又は出産した被保険者については,出産予定日又は出産日の属する月の前月から4か月間,多胎妊娠では同月の3か月前から6か月間の所得割額及び均等割額が軽減される。
この産前産後軽減は届出が必要であり,出産予定日の6か月前から届出できる。
3 非自発的失業者の軽減
大阪市では,令和7年3月31日以後に倒産又は解雇等の理由で離職し,離職時点で65歳未満である者のうち,雇用保険受給資格者証又は受給資格通知の離職理由番号が11,12,21,22,23,31,32,33又は34である者が対象となる。
軽減期間は離職日の翌日が属する月から翌年度末までである。
所得割の計算と7割,5割又は2割軽減の判定では,対象者の給与所得を100分の30として扱う。
届出には雇用保険受給資格者証又は雇用保険受給資格通知の写しが必要であり,郵送又は大阪市の行政オンラインシステムも利用できる。
4 所得減少減免
退職,倒産,廃業,休業又は営業不振等により,事由発生後の世帯見込所得が前年所得の10分の7以下となる世帯は,所得割の減免を受けられる場合がある。
減免率は所得減少率に応じて30%から100%までであり,均等割及び平等割を同じ割合で減免する制度ではない。
申請は所得減少事由の発生後,減免を受けようとする月の納期限までに行う。
特別の理由がない限り申請月以後が対象であり,国民健康保険料減免申請書,収入状況申告書,事由発生日及び減少後の所得を確認できる書類が必要となる。
5 保険料を確認するときの資料
大阪市の保険料は,大阪市「保険料の決め方」と納付通知書で確認する。
民間の国民健康保険料シミュレーションは概算の参考にはなるが,自治体の最新の率,世帯構成,年度途中の資格異動及び個別の軽減・減免を完全に反映するとは限らないため,申請又は納付の根拠にはしない。
第6 申請前後の確認順序
1 国民年金
国民年金の手続では,次の順序で確認すると漏れを減らせる。
① 第1号被保険者である月と申請対象月
② 全額免除,一部免除,納付猶予,学生納付特例,産前産後免除又は育児免除のいずれを検討するか
③ 本人,配偶者及び世帯主の関係並びに審査対象年の所得
④ 失業,廃業,出産又は育児を示す資料
⑤ 申請年度,遡及できる月及び提出方法
⑥ 承認通知,一部免除後の残額及び翌年度の継続審査
⑦ 追納期限,加算額及び将来の年金額への影響
2 国民健康保険
国民健康保険では,加入先自治体,保険料又は保険税の別,対象年度,世帯主及び被保険者,前年所得と当年見込所得,離職理由,災害等の事由,申請期限並びに必要書類を確認する。
7割,5割又は2割軽減のように申請不要の制度と,失業時の届出又は所得減少時の申請が必要な制度を区別する必要がある。
3 納付が難しいときの停止基準
制度名又は軽減率だけを見て自己判断で納付を止めてはならない。
承認又は決定の通知を受けるまでは納付義務が消滅したとは限らないため,支払が難しい場合は納期限前に年金事務所又は自治体窓口へ相談し,免除,減免又は徴収猶予の申請可否を確認する必要がある。
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第8 出典・参考資料
1 法令
① 国民年金法(昭和34年法律第141号)88条の2,89条,90条,90条の2,90条の3及び94条並びに88条の3(令和8年10月1日施行)
② 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)77条
2 厚生労働省及び日本年金機構
① 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
② 日本年金機構「国民年金保険料免除・納付猶予申請書の電子申請」
③ 日本年金機構「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」
④ 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」
⑤ 日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」
⑥ 日本年金機構「国民年金保険料の育児免除制度」
⑦ 日本年金機構「国民年金保険料の学生納付特例制度」
⑧ 厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」
⑨ 厚生労働省保険局長令和8年1月15日通知
3 大阪市
① 大阪市「保険料の軽減・減免」
② 大阪市「保険料の決め方」
③ 大阪市「令和8年度に『子ども・子育て支援金制度』が創設されます」