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債務不履行と弁護士費用―契約の履行・仮処分・訴訟・強制執行に要した費用を請求できるか(AI作成)

契約の相手方が任意に履行しないため、弁護士へ依頼して交渉、仮処分、訴訟又は強制執行を行った場合、その弁護士費用を債務不履行による損害として相手方へ請求できるでしょうか。最高裁令和3年1月22日判決は、土地売買契約の履行を実現するための弁護士報酬について、請求を否定しました。本記事は、この判決の射程と契約・訴訟実務上の対応を整理します。

第1 結論

最高裁令和3年1月22日第三小法廷判決(令和元年(受)第861号)は、土地売買契約の買主が、売主の引渡し・所有権移転登記義務の履行を求めるため、訴訟、保全命令及び強制執行等を弁護士に委任した事案で、その弁護士報酬を売主の債務不履行による損害として請求できないとしました。

ただし、この判決から「債務不履行では弁護士費用を一切請求できない」という一般命題を導くのは広すぎます。少なくとも、①どの契約上の義務が不履行になったのか、②求める費用が契約の履行を実現するためのものか、別の権利利益の侵害を回復するためのものか、③契約に費用負担条項があるか、④不法行為その他の請求原因が併存するかを分ける必要があります。

第2 最高裁令和3年1月22日判決の事案と判断

1 問題となった費用

買主らは土地を購入しましたが、売主会社が契約締結後間もなく営業を停止し、代表者も行方不明となりました。買主らは弁護士に依頼し、処分禁止の仮処分、所有権移転登記請求訴訟、建物収去土地明渡請求訴訟及び強制執行等を行いました。

別の債権者が売買残代金債権を差し押さえて取立訴訟を提起したため、買主らは、売主の債務不履行によって弁護士報酬等の損害を被ったとして、その損害賠償債権との相殺を主張しました。原審は弁護士報酬を損害と認めましたが、最高裁はこの部分を否定しました。

2 最高裁が弁護士報酬を損害と認めなかった理由

最高裁は、契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償請求等と異なり、侵害された権利利益を回復するものではなく、契約目的を実現して履行利益を得ようとするものであると整理しました。また、契約を締結する者は、任意の履行がされない可能性を考慮して、契約内容や締結の可否を決めることができると述べました。

さらに、本件の土地引渡し・所有権移転登記義務は契約から一義的に確定し、その履行請求権は契約成立という客観的事実により基礎付けられるものでした。そこで最高裁は、その履行を求める訴訟、保全命令又は強制執行の申立てを弁護士に委任しても、その弁護士報酬を債務不履行損害として請求できないと判断しました。

3 判決が判断していないこと

判決は、土地売買契約の買主が契約履行を実現するために行った一連の事務を対象としています。あらゆる契約類型、あらゆる費用負担条項、債務不履行と不法行為が競合する全ての場面について、弁護士費用請求を一律に否定したものではありません。

また、判決は弁護士報酬以外の費用まで全て否定したわけではありません。原判決を変更した金額関係からも、建物解体費、担保権抹消のための支払、測量費等と弁護士報酬は区別されています。訴訟で費目をまとめて「権利実現費用」と記載するのではなく、費目ごとに発生原因、必要性、相当性及び請求根拠を特定する必要があります。

第3 不法行為の弁護士費用との違い

不法行為により権利利益を侵害された被害者が損害回復のため訴訟を余儀なくされた場面では、事案により、相当因果関係のある範囲の弁護士費用が損害として認められることがあります。最高裁令和3年判決自身も、契約履行の請求を「不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合」と区別しています。

したがって、契約関係がある事件でも、契約上の請求と不法行為請求の要件を混同してはいけません。不法行為を併記すれば当然に弁護士費用が認められるわけでもありません。契約上の義務とは別の権利利益侵害、違法性、故意・過失、損害及び因果関係を具体的事実に即して主張立証する必要があります。

第4 契約実務で費用負担を設計する方法

1 契約条項を置く

任意の履行がされない場合の費用負担をあらかじめ契約で定めることは、紛争予防上有用です。例えば、催告、保全、訴訟及び執行に要した合理的な弁護士費用を、法令上許される範囲で不履行当事者が負担する旨を定める方法があります。

ただし、条項があれば常に記載額全額を請求できるわけではありません。消費者契約法その他の強行法規、公序良俗、条項の明確性、実際の支出、必要性・相当性及び過大性が問題となり得ます。「一切の費用」のような包括的文言だけに頼らず、対象となる手続と合理的範囲を明示する方が安全です。

2 弁護士費用以外の実費を分ける

登記費用、測量費、保管費、撤去費、第三者への弁済、調査費、裁判所へ納める手数料・予納金等は、性質が異なります。弁護士費用が否定されることから、これらの実費まで当然に否定されるわけではありません。反対に、実際に支出したというだけで相手方負担になるわけでもありません。

各費用について、契約上誰が負担すべきか、不履行がなければ支出を要しなかったか、支出が合理的であったか、契約の履行そのものに通常必要な費用ではないかを個別に検討します。

3 請求原因ごとに構成する

訴状や準備書面では、債務不履行、不法行為、不当利得、契約上の費用負担条項等を、要件と事実に対応させて分けます。同じ金額を複数の法的構成で請求する場合は、二重取得を求める趣旨ではないことも明らかにします。

契約履行請求の付随費用をそのまま損害と呼ぶのではなく、「どの義務違反により、どの費用が、なぜ必要かつ相当な損害として発生したのか」を一段ずつ示す必要があります。

第5 訴訟・保全・執行前の確認事項

  • 契約書に費用負担、違約金、損害賠償額の予定又は補償条項があるか。
  • 相手方に求める本体義務が、契約から一義的に定まる履行義務か。
  • 弁護士へ委任した事務を、交渉、保全、訴訟、執行、登記、調査等に分解できるか。
  • 各費目について、請求書、領収書、委任契約、支払記録があるか。
  • 契約違反とは別の権利利益侵害があり、不法行為の要件を満たすか。
  • 費用を損害として主張することが、相手方の債権との相殺、遅延損害金、訴訟費用負担の申立てと混同されていないか。

第6 まとめ

契約の履行を得るために弁護士へ依頼したというだけでは、その報酬を相手方の債務不履行損害として請求できるとは限りません。最高裁令和3年1月22日判決は、土地売買契約から一義的に定まる義務の履行を実現するための訴訟・保全・執行等に係る弁護士報酬を否定しました。

実務では、判決を広く一般化せず、契約条項、請求原因、侵害された利益及び費目を分けます。契約締結時に合理的な費用負担条項を設計し、紛争発生後は費目別の証拠と法的根拠を対応させることが重要です。

第7 出典