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NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,日本放送協会(以下「NHK」という。)の受信料の支払を求められた人が,古い期間の受信料について消滅時効を主張できるかを扱う。
中心となるのは,受信料債権の時効期間を5年とした最高裁判所第二小法廷平成26年9月5日判決(平成25年(受)第2024号,集民247号159頁)と,受信契約を締結していない人について時効の起算点を契約成立時とした最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号等,民集71巻10号1817頁)である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文と過去時点の条文で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。

消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。

2 結論

NHK受信料の消滅時効についての結論は,次のとおりである。
①受信契約を締結している人の受信料債権は,各期の支払期日から5年で時効が完成する(平成26年判決。改正前民法169条)。
②令和2年4月1日以後の受信料についても時効期間は5年であるが,根拠条文は受信契約の締結時期によって異なり,施行日前に締結された受信契約に基づく受信料には改正前民法169条が,施行日以後に締結された受信契約に基づく受信料には改正後民法166条1項が適用されると考えられる。
③受信契約全体について第1回の弁済期から20年とする定期金債権の時効(改正前民法168条1項前段)は適用されないから,長年払っていなくても将来の受信料の支払義務まで消えることはない(最高裁平成30年7月17日判決)。
④受信設備を設置しながら受信契約を締結していない人については,NHKが承諾の意思表示を命ずる判決を得てその判決が確定した時に受信契約が成立し,設置の月以降の受信料債権が発生するが,その時効は契約成立時から進行するから,何年前に設置した分であっても,契約成立の時から時効期間が経過するまでは時効を主張できない(大法廷平成29年判決)。
⑤時効は援用しなければ効果が生じないから(民法145条),時効が完成した期間の受信料の支払を拒むには,NHKに対して援用の意思表示をする必要がある。

つまり,契約済みで支払を滞納している人は5年より前の分について時効を援用できるが,契約をしていない人は,判決で契約が成立させられた場合には設置の月まで遡って支払を命じられ得ることになる。

3 用語

本記事で「改正前民法」とは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法をいい,同法の施行日は令和2年4月1日である。
「受信契約」とは,NHKの放送又は配信の受信についての契約をいう(放送法64条8項1号)。
改正前民法169条は定期給付債権の5年の短期消滅時効を定めた規定であり,判決で確定した権利の時効期間を10年とする現行169条とは内容がまったく異なる。

第2 受信契約と受信料債権の仕組み

1 放送法64条(現行)

現行の放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定め,1号で「特定受信設備を設置した者」,2号で「特定必要的配信の受信を開始した者」を掲げる。
「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備であって,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(同条8項3号)。
同条5項は,受信契約の条項についてNHKが総務大臣の認可を受けなければならないとし,その記載事項として,受信料の支払の時期及び方法(3号)や,不正な手段により受信料の支払を免れた場合等の割増金(4号)を掲げる。

放送法は,受信料の支払義務そのものを直接定めてはいない。
受信料の支払義務は,放送法64条1項に基づいて締結される受信契約から生じる。
この構造が,後に見る時効の起算点の考え方に直結する。

2 条文の変遷

平成29年判決の当時の放送法64条1項は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と定めていた(e-Gov法令検索で平成29年12月6日時点の条文を確認)。
その後,放送法の改正により,受信契約の申込みの期限や割増金に関する事項が受信契約の条項の認可事項に加わり,さらに,e-Gov法令検索の現行条文(令和7年10月1日施行分まで反映)では,NHKの配信の受信を開始した者も受信契約の締結義務を負う者に加えられている。
本記事で紹介する最高裁判決は,いずれも改正前の条文の下での判断である。

第3 受信料債権の時効期間

1 最高裁平成26年9月5日判決

平成26年判決は,NHKの受信契約において,受信料が月額又は6箇月若しくは12箇月前払額で定められ,支払方法が1年を2箇月ごとの期に区切り各期に当該期分を一括して支払う方法又は6箇月分若しくは12箇月分を一括して前払する方法によるものとされていることを前提とした。
その上で,受信料債権は「年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり,その消滅時効期間は,民法169条により5年と解すべきである。」と判示した。
ここでいう民法169条は,改正前民法169条(「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。」)である。

時効は,権利を行使することができる時から進行する(改正前民法166条1項)。
したがって,契約済みの人の受信料は,各期の支払期日から5年で時効が完成する。

2 最高裁平成30年7月17日判決

最高裁判所第三小法廷平成30年7月17日判決(平成29年(受)第2212号,民集72巻3号297頁)の事案は,遅くとも平成7年6月末までに受信契約を締結した人が,NHKから20年間受信料を請求されなかったとして,改正前民法168条1項前段の定期金債権の消滅時効(第1回の弁済期から20年)の完成を主張したものである。
同判決は,受信料債権は定期金債権に当たるといえるとしつつ,受信料債権について同項前段の適用があるとすれば,受信契約を締結している者が将来生ずべき受信料の支払義務についてまでこれを免れ得ることとなり,放送法の趣旨に反するとして,「受信契約に基づく受信料債権には,同項前段の規定は適用されないと解するのが相当である。」と判示した。

したがって,長年請求を受けていなかったとしても,受信契約そのものが時効で消えるわけではなく,時効を主張できるのは各期の受信料のうち支払期日から5年を経過したものに限られる。
なお,現行の民法168条1項も定期金債権の時効を定めているが,現行規定の下で同様の主張がされた場合について判断した最高裁判例は確認できなかった。

3 改正後民法の下での時効期間

(1) 令和2年3月31日以前に締結された受信契約

改正後民法では定期給付債権の短期消滅時効(改正前民法169条)が廃止され,債権は,権利を行使することができることを知った時から5年間,又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効によって消滅する(民法166条1項)。
もっとも,民法の一部を改正する法律附則10条4項は,「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」と定め,同条1項は,施行日前に債権が生じた場合に,施行日以後に債権が生じた場合であってその原因である法律行為が施行日前にされたときを含むとしている。
受信料債権は受信契約から生じるから,令和2年3月31日以前に締結された受信契約に基づく受信料債権は,施行日以後の期間の分であっても,附則の文言上,改正前民法169条により5年となると考えられる。

(2) 令和2年4月1日以後に締結された受信契約

令和2年4月1日以後に締結された受信契約に基づく受信料債権には,改正後民法166条1項が適用される。
NHKは各期の支払期日を当然に知っているから,通常は支払期日から5年(同項1号)で時効が完成すると考えられる。
いずれの場合でも期間は5年となるが,起算点の説明(改正前民法では「権利を行使することができる時」,改正後民法では「権利を行使することができることを知った時」)が異なる。

経過措置の全体像は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱い,短期消滅時効の廃止については債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間で扱う。

第4 受信契約を締結していない場合の起算点

1 受信契約はいつ成立するか

大法廷平成29年判決は,放送法64条1項は受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,NHKからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立するとした。
また,受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から受信料を支払わなければならない旨の放送受信規約の条項は,受信設備設置者間の公平を図る上で必要かつ合理的であるとして,判決の確定により受信契約が成立した場合には,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するとした。
同判決は,放送法64条1項が憲法13条,21条,29条に違反しないとも判断している。

2 時効は契約成立時から進行する

大法廷平成29年判決は,消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ,受信料債権は受信契約に基づき発生するものであるから,受信契約が成立する前においては,NHKは受信料債権を行使することができないとした。
そして,契約済みの人の受信料債権は時効消滅する余地があるのに,契約をしていない人にはその余地がないのは不均衡にも見えるが,通常は受信設備設置者が設置を通知しない限りNHKがその存在を速やかに把握することは困難であり,他方で受信設備設置者は受信契約を締結する義務を負うのであるから,やむを得ないとした。
結論として,「受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は,受信契約成立時から進行するものと解するのが相当である。」と判示した。

この判示によれば,例えば平成20年にテレビを設置し,受信契約を締結しないまま令和8年に承諾を命ずる判決が確定した場合,平成20年の設置の月以降の受信料債権が発生し,そのいずれについても時効は判決確定時から進行する。
設置から長期間が経過していることを理由に時効を援用することはできない。

3 反対意見と補足意見

大法廷平成29年判決には,木内道祥裁判官の反対意見と,複数の補足意見が付されている。
木内裁判官の反対意見は,判決により成立した受信契約による受信料債権がおよそ消滅時効にかからないことについて,不法行為による損害賠償義務や不当利得による返還義務が一定期間の経過により消滅することと比較すると,およそ消滅時効により消滅することのない債務を負担すべき理由はないと述べている。
もっとも,多数意見の判断が判例であり,現在の実務はこれに従っている。

第5 割増金と延滞利息

1 割増金

現行の放送法64条5項4号は,不正な手段により受信料の支払を免れた場合と,正当な理由がなくて期限までに受信契約の申込みをしなかった場合に,NHKが徴収することができる受信料の額及び割増金の額を受信契約の条項で定めるものとし,同条6項は,割増金の額の上限を,所定の受信料相当額に総務省令で定める倍数を乗じて得た額としている。
NHKの受信料の窓口のウェブサイトによれば,割増金制度は,放送法の改正(令和4年10月施行)を受けて令和5年4月1日から導入されたものであり,割増金の対象となるのは令和5年4月以降の期間分の受信料の2倍に相当する額とされている。
日本放送協会放送受信規約12条は,不正な手段により受信料の支払を免れたときや,正当な理由なく申込みの期限までに受信契約書を提出しなかったときに,受信料に加えてその2倍に相当する額の割増金を請求できると定めている。

割増金の請求権の消滅時効について判断した最高裁判例は確認できなかった。
割増金は令和5年4月以後の期間について受信契約の条項に基づいて生じるものであるから,改正後民法166条1項が適用されると考えられるが,起算点を含めて確立した解釈は見当たらない。

2 延滞利息

日本放送協会放送受信規約12条の2は,受信契約者が受信料の支払を三期分以上延滞したときは,延滞した受信料に加え,一期当たり2.0%の割合で計算した延滞利息を請求することができると定めている。
延滞利息は受信料債権に付随して生じるものであり,元本である受信料について時効を援用する場合には,あわせて援用の対象とすることになる。

第6 時効の援用と注意点

1 援用の方法

時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない(民法145条)。
援用は,NHKに対して時効の利益を受ける旨を伝えれば足り,特別の方式は定められていないが,後日の証拠とするため,援用する期間(何年何月分から何年何月分まで)を特定して,配達証明付きの内容証明郵便で通知するのが確実である。
NHKから支払督促の申立てや訴えの提起を受けた場合には,督促異議の申立てや答弁書の中で時効を援用する。
支払督促への対応は,支払督促の督促異議と仮執行宣言―期間,効果及び通常訴訟への移行で整理している。

2 計算例

令和8年9月19日を基準に,受信契約を締結している人が滞納している場合の計算例を示す。
期間の計算は初日不算入であり(民法140条),支払期日の翌日から起算して5年後の応当日の前日が満了日となる(民法143条2項)。
支払期日は受信規約の定める各期の支払期限によるので,実際の計算では請求書等で各期の支払期日を確認する。

受信料の状況時効期間の満了日令和8年9月19日時点
令和2年3月以前に締結した受信契約で,支払期日が令和3年3月31日の受信料令和8年3月31日満了済みであり,援用すれば支払を拒める
同じ受信契約で,支払期日が令和3年9月30日の受信料令和8年9月30日未完成
平成25年に設置し,令和8年6月1日に承諾を命ずる判決が確定して契約が成立した場合の設置の月以降の受信料令和13年6月1日(契約成立時から5年)未完成(支払を命ずる判決も確定していれば10年)

判決で契約が成立した場合には,設置の月からの受信料が一度に発生し,そのすべてについて契約成立時から時効が進行する点に注意を要する。

3 時効完成後に支払った場合

時効が完成した後に一部を支払い,又は支払を約束すると,債務の承認に当たり,信義則上その時効を援用できなくなることがある(最高裁判所大法廷昭和41年4月20日判決(昭和37年(オ)第1316号,民集20巻4号702頁))。
NHKの訪問員や通知に応じて滞納分の一部を支払う前に,どの期間の受信料が時効期間を経過しているかを確認することが重要である。
この点の詳細は,時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効で扱う。

4 判決や支払督促で確定した場合

受信料の支払を命ずる判決や仮執行宣言付支払督促が確定すると,確定の時に弁済期が到来していた受信料については,時効期間は10年となる(現行民法169条1項。改正前民法が適用される債権については改正前民法174条の2第1項)。
大法廷平成29年判決の事案のように,承諾の意思表示を命ずる判決と同時に受信料の支払を命ずる判決がされることもある。
詳細は,判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違いで扱う。

第7 関連記事

消滅時効に関するメモ書き
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mintsによる支払督促
支払督促の督促異議と仮執行宣言―期間,効果及び通常訴訟への移行
最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧

第8 出典・参考資料

1 法令

①放送法(昭和25年法律第132号)64条(e-Gov法令検索の現行条文,平成29年12月6日時点及び令和5年10月1日時点の条文)
②民法(明治29年法律第89号)140条,143条,145条,166条,168条,169条(e-Gov法令検索の現行条文)
③民法(令和2年3月31日時点)166条,168条,169条,174条の2(e-Gov法令検索の時点指定条文)
④民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条

2 裁判例

最高裁判所第二小法廷平成26年9月5日判決(平成25年(受)第2024号,集民247号159頁)
最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号,平成26年(受)第1440号,第1441号,民集71巻10号1817頁)
最高裁判所第三小法廷平成30年7月17日判決(平成29年(受)第2212号,民集72巻3号297頁)
最高裁判所大法廷昭和41年4月20日判決(昭和37年(オ)第1316号,民集20巻4号702頁)

3 公的資料

日本放送協会放送受信規約(NHK受信料の窓口)
NHK受信料の窓口「受信料の割増金制度について」