第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,家庭裁判所が選任した成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が途中で辞任し,別の者と交代する場面について,辞任の要件である「正当な事由」,大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の同時申立て,本人の陳述聴取,専門職後見人の追加選任及び市民後見人へのリレーを取り上げるものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令APIで取得して確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の169頁~180頁,302頁~308頁及び156頁~161頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を書籍にまとめたものであり,本書1頁は,原則として初出当時の運用を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載の回と初出号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得),「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同ページ掲載の書式で確認できた範囲で書く。
解任については成年後見人の解任理由で扱っているので,本記事では辞任と交代に必要な限度でだけ触れる。
2 結論
①後見人等は,正当な事由があるときに限り,家庭裁判所の許可を得て辞任することができる(民法844条,876条の2第2項,876条の7第2項)。
②辞任によって新たな後見人等を選任する必要が生じたときは,辞任した後見人等は遅滞なく後任の選任を請求しなければならない(民法845条)。大阪家庭裁判所は,辞任許可の申立てと同時に後任選任の申立てをするよう求めている。
③本書(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等の遠隔地への転居・老齢・疾病を原則として正当な事由とし,専門職が関与すべき課題が解決して親族や市民後見人に引き継げる場合も一般に正当な事由があるとする。他方で,本人や親族との信頼関係が築けないことは,それだけで直ちに正当な事由になるのではなく,総合的に判断するとしている。
④後任の選任には本人の陳述聴取が手続要件であり,大阪家庭裁判所は,本人が陳述できれば「本人の陳述書」,意思疎通ができない等の場合は「上申書」を添付するよう求めている。
⑤現在の費用は,辞任許可と後任選任を同時に申し立てる場合,収入印紙1,600円分,登記用収入印紙1,400円分及び郵便切手5,500円分(候補者1人の場合)である。
⑥本書(連載第31回・令和4年6月号初出)は,後見人等の交代を3つの類型に分け,専門職が課題を解決した後に親族や市民後見人へ引き継ぐことを「リレー」と呼び,専門職後見人に辞任の可否と時期の検討を求める機会が増えるとしていた。
⑦この考え方は,令和7年4月1日版の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」として具体化されており,現在,大阪家庭裁判所は,専門職の成年後見人に対し,定期報告と報酬付与申立ての際にこの書式を提出するよう求めている。
⑧親族後見人の事務に問題がある場合,大阪家庭裁判所は,辞任・解任までの間などに専門職後見人を追加選任して権限を分掌させることがある。本書はこれをリレーの「テイクオーバーゾーン」に例えている。
⑨令和8年改正後は,辞任は改正後の民法876条の3,後任選任の請求は876条の4に移る。施行日前に開始した成年後見の成年後見人の辞任は従前の例によるが,解任は改正後の民法876条の5によるから,「本人の利益のため特に必要があるとき」(同条1項3号)という解任事由が,交代のもう一つの道具になる。
第2 辞任と交代の法的な枠組み
1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である
民法844条は,「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人にも同条が準用されるから(民法852条,876条の3第2項,876条の8第2項),監督人の辞任にも正当な事由と許可が必要である。
本書169頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等は,本人の心身の状態や生活・財産の状況,後見人等となる者の職業・経歴,利害関係の有無,本人の意見その他一切の事情を考慮して(民法843条4項等),後見等の事務の適任者として選任されているから,自由な辞任を認めると本人の利益が害されるおそれがあり,そのため辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされていると説明する。
大阪家裁ハンドブック(Q22)も,後見人は本人の保護のため裁判所から適任者と認められて選任されたのだから,自由に辞任できることにすると本人の利益を害するおそれがあると説明している。
2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない
民法845条は,「後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
保佐人・補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。
後見監督人がいる場合,監督人の職務には「後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること」が含まれる(民法851条2号)。
保佐監督人・補助監督人にも同条が準用される(民法876条の3第2項,876条の8第2項)。
本書170頁は,後任の選任は辞任許可の要件ではないが,後見等の事務に空白が生じるのを避けることが望ましいから,実務上は辞任許可の申立てと同時に後任の選任を申し立ててもらう場合が多いとする。
後見人等が複数選任されている場合には,後任の選任申立てをする必要のない場合があるとも注記している(本書170頁注4)。
後見人が欠けたときは,家庭裁判所が本人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で後任を選任することもできる(民法843条2項)。
3 「交代」は辞任と選任の組合せである
本書174頁(連載第31回・令和4年6月号初出)は,後見人等が交代するということは,法的には,従前の後見人等が辞任し,新たな後見人等が選任されることを意味すると説明する。
民法には「交代」という独立の制度はなく,後見人等の側から離れる辞任(民法844条),家庭裁判所が職を解く解任(民法846条)及び欠けた場合の選任(民法843条2項)の組合せで交代が実現する。
解任事由と解任の手続は成年後見人の解任理由で扱っている。
なお,後見人等が破産手続開始の決定を受けて復権していない場合や,後見人等又はその配偶者・直系血族が本人に対して訴訟をした場合などは,辞任ではなく欠格事由(民法847条)の問題となる。
大阪家裁ハンドブック(Q22)は,このような事由が生じた場合には必ず連絡票で裁判所に連絡するよう求めている。
4 辞任した後見人等に残る義務
後見については委任の終了後の処分に関する民法654条が準用される(民法874条)。
同条は,委任が終了した場合において急迫の事情があるときは,受任者は委任者側が事務を処理することができるに至るまで必要な処分をしなければならないと定めている。
また,後見人の任務が終了したときは,後見人は2か月以内にその管理の計算をしなければならない(民法870条本文)。
保佐人・補助人にも,任務が終了した場合について同じ規定が準用される(民法876条の5第3項,876条の10第2項)。
本書172頁も,後任の後見人等は財産目録の作成を終わるまでは急迫の必要がある行為しかできないから(民法854条本文),辞任許可と後任選任の審判がされた場合には,後任への速やかな引継ぎを求めている。
第3 「正当な事由」はどう判断されるか
1 本書が示す4つの場面
本書170頁~171頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,辞任の正当な事由について,次のように述べている。
(1) 遠隔地への転居・老齢・疾病・多忙
後見人等の遠隔地への転居や老齢・疾病は,今後の後見等の事務の円滑な遂行が困難になる事情といえるから,原則として正当な事由が認められる。
本人が大阪家庭裁判所の管外など遠隔地に転居した場合も同様である。
後見人等の多忙も,適切な後任者への引継ぎが期待できる状況にあれば,比較的柔軟に判断されるとしている。
(2) 本人や親族との信頼関係が築けない場合
後見人等が本人や親族との間で適切に信頼関係を築けていない場合について,本書は,安易な辞任は認められないとする一方で,その後見人等に事務を続けさせることが本人の利益にかなうともいい難いとしている。
そこで,正当な事由の有無は,①本人の意向,②後見人等と本人・親族との関係,③後見等の事務の遂行上の課題の有無と内容,④後任の後見人等の候補者の適格性などを総合的に考慮して判断するとしている。
本人や親族との不和は,それだけで当然に辞任の理由になるのではなく,後任の見込みも含めた総合判断の一要素にとどまるということである。
(3) 専門職が関与すべき課題が解決した場合
訴訟の提起や後見制度支援信託・支援預金の利用など,専門職が関与すべき課題があるとして専門職が選任された後,その課題が解決又は消滅し,かつ,専門職から事務を引き継いで適切に遂行できる親族等がいる場合も,一般に正当な事由が認められるとしている。
課題が解決して市民後見人に引き継ぐことが可能となった事件も同様である。
本書171頁注6は,最高裁判所家庭局と専門職団体との間で共有された基本的な考え方においても,本人のニーズや課題,後見人の状況等に変化が生じた場合には,専門職後見人から親族後見人への交代を促すなど,柔軟に選任形態を見直すことが考えられているとしている。
この議論の経緯は,最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用で扱っている。
(4) 後任の見込みが重要な判断要素である
本書171頁は,適切な後任が期待できる状況にあるかどうかは重要な判断要素であるから,必要に応じて弁護士会を通じて後任の調整を行うなどした上で辞任許可を申し立てれば,その後の手続が円滑に進むとしている。
弁護士後見人が辞任を考える場合には,申立ての前に所属する弁護士会の窓口と後任の調整をしておくのが実務上の手順ということになる。
2 大阪家裁ハンドブックと申立書の記載
大阪家裁ハンドブック46頁は,正当な事由の例として,後見人等が高齢・病気になったり,遠隔地に転居したりするなどして職務を遂行できなくなった場合を挙げている。
同Q22は,後見人の職業上の必要から遠隔地に転居しなければならなくなった場合や,高齢や病気などの理由で職務の遂行に支障が生じた場合を挙げている。
同ハンドブックの書式集No.9の申立書(令和7年7月版)は,申立ての理由として「遠隔地居住」「老齢」「疾病」「負担過重」「その他」の選択肢を設けている。
本書が一般に正当な事由があるとする「課題の解決による親族・市民後見人への引継ぎ」は,申立書の上では「その他」として具体的に書くことになると考えられる。
3 本人が転居しても管轄は開始した家庭裁判所にある
成年後見に関する審判事件(後見開始の審判事件を除く。)は,後見開始の審判をした家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法117条2項本文)。
保佐と補助も同様である(同法128条2項本文,136条2項本文)。
本書170頁注5は,本人が大阪家庭裁判所の管外に転居しても,辞任許可や後任選任の管轄は大阪家庭裁判所にあるとした上で,場合によっては,転居後の監督が転居先を管轄する家庭裁判所で自庁処理(同法9条1項ただし書)の方法により行われることもあるとしている。
同注は,未成年後見に関する審判事件は未成年被後見人の住所地の家庭裁判所の管轄に属するから(同法176条),未成年被後見人が管外に転居した場合には大阪家庭裁判所に管轄は認められないとも注記している。
第4 大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の申立て
1 同時申立てが原則である
大阪家裁ハンドブック46頁は,後見人等の辞任が認められると他に後見人等がいなくなる場合は,辞任許可の申立てと同時に後任の後見人等を選任する申立ても行うよう求めている。
同Q22も,本人の保護に支障が生じないよう,辞任の申立てと同時に後任の後見人選任の申立てをするよう求めている。
申立書は,後見ポータルサイトの書式又は大阪家裁ハンドブックの書式集No.9を使う。
書式集No.9は「成年後見人等辞任許可(□及び選任)審判申立書」という表題であり,選任の申立ても行う場合には表題欄の□にチェックを入れる形式である。
2 費用
大阪家庭裁判所の成年後見のページ(令和8年9月19日取得)と大阪家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」によれば,費用は次のとおりである。
| 項目 | 辞任許可のみ | 辞任許可と後任選任 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 800円分 | 1,600円分(800円×2組) |
| 登記用収入印紙 | 1,400円分 | 1,400円分 |
| 郵便切手 | 4,500円分 | 候補者1人につき500円×2枚を追加(候補者1人なら5,500円分) |
郵便切手4,500円分の内訳は,500円×2枚,110円×20枚,100円×10枚,20円×10枚,10円×10枚である。
大阪家裁ハンドブック46頁も,同時申立ての郵便切手を5,500円分(令和8年1月現在の額),辞任のみの場合を4,500円分と案内している。
登記用収入印紙1,400円分は,同頁の申立てに必要なものの一覧と書式集No.9の申立書の「予納収入印紙1400円」の欄によるものであり,同頁は収入印紙と郵便切手について辞任のみの場合の額を別に示しているが,登記用収入印紙については辞任のみの場合の額を別に示していない。
郵便料は,郵便切手ではなく現金・電子納付する予納金の方式で納めることもでき,その場合の額は前記一覧のとおりである(辞任許可は4,000円。別途郵便切手の納付が必要な場合がある)。
大阪家庭裁判所の成年後見のページは,郵便料金を大阪地家裁の裁判手続利用ページで確認するよう案内しているから,申立ての直前に同ページの一覧を確かめておく必要がある。
3 添付資料
大阪家庭裁判所の成年後見のページは,辞任・選任の申立ての添付資料として,次のものを挙げている。
①辞任の理由を証する資料(病気の場合は診断書,転居の場合は住民票など。裁判所に提出済みの場合は不要)
②本人の陳述書又は上申書
③後任の後見人等候補者の住民票(マイナンバーの記載のないもの)
④候補者に関する照会書(専門職〔弁護士,司法書士,社会福祉士〕及び法人は同ページ掲載の候補者照会書,それ以外は後見ポータルサイトの後見人候補者事情説明書〔一般・親族用〕)
⑤候補者の陳述書
⑥後見ポータルサイトの親族の意見書(1項及び3項のみ)
⑦申立人や本人の身分事項や住所に変更がある場合の戸籍謄本・住民票
候補者について裁判所が選任する第三者を希望する場合は,③から⑥までは不要である。
また,事案によっては,後見等事務報告書,財産目録及び収支予定表(前回提出時から変更のある部分は資料も)の提出を求められる。
大阪家裁ハンドブック46頁は,⑥に当たるものを「親族の同意書」と書いており,成年後見のページの「親族の意見書」と名称がそろっていない。
申立ての際は,ページの書式ダウンロード欄と後見ポータルサイトで最新の書式を確認するのが安全である。
4 本人の陳述聴取――陳述書と上申書
(1) 陳述聴取は手続要件である
家庭裁判所は,成年後見人の選任の審判をする場合には,成年被後見人の陳述を聴かなければならない(家事事件手続法120条1項3号)。
ただし,成年被後見人については,その者の心身の障害によりその陳述を聴くことができないときは,この限りでない(同項ただし書)。
保佐人・補助人の選任についても,被保佐人・被補助人の陳述聴取が必要である(同法130条1項5号,139条1項4号)。
本書175頁は,後見人等を新たに選任するに当たって本人の陳述聴取が手続要件とされていることにより,成年後見制度の基本理念の一つである自己決定権の尊重が手続上も担保されていると説明する。
本書171頁~172頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,陳述聴取の方式は法定されていないため,後見センターでは多くの場合,後任の選任に係る本人の陳述を聴取した書面を提出することで足りるものと扱っているとする。
また,本人の状態は後見等開始の審判当時と同じとは限らないから,陳述聴取が心身の障害のため不可能な場合には,その旨を記載した書面を準備するよう求めている。
(2) 大阪家庭裁判所の書式
現在の大阪家庭裁判所は,この扱いを書式にしている。
「本人の陳述聴取の流れ【後見人等選任事件】」(令和4年10月1日版)は,①本人から陳述の聴き取りを行い,②意思疎通ができて陳述があれば「陳述書」を作成・提出し,③意思疎通ができない場合や,陳述がない又は無関係な陳述しかない場合は「上申書」を作成・提出するという流れを示している。
「陳述書」(書式2)は,誰を新しい後見人(保佐人・補助人)に選ぶかについて,「家庭裁判所に任せます」「特に意見はありません」「候補者( さん)にしてください」「その他」から選ぶ形式で,本人が読めるよう振り仮名が付されている。
本人が署名押印できず申立人等が代筆した場合は,その理由を記載する欄がある。
「上申書」(書式3)は,本人と意思疎通ができないため,又は本人から陳述がない若しくは無関係な陳述をしたため陳述を聴くことができなかった旨とその詳しい事情を書く書式である。
例えば,本人が興奮して会話を拒否した場合や,本人が「分からない」と述べたまま何も話そうとしなかった場合がその例として書式に挙げられている。
5 候補者の意見聴取
家庭裁判所は,成年後見人の選任の審判をする場合には,成年後見人となるべき者の意見を聴かなければならない(家事事件手続法120条2項1号)。
保佐人・補助人も同様である(同法130条2項1号,139条2項1号)。
本書172頁は,この意見聴取は,候補者から承諾書兼上申書又は候補者に関する照会書及び陳述書を提出してもらって行っているとして,辞任許可と選任の申立ての際には後任候補者の照会書と陳述書も用意するよう求めている。
現在の大阪家庭裁判所の書式では,これが前記3の④と⑤に当たる。
6 不服申立て
審判に対しては,特別の定めがある場合に限り,即時抗告をすることができる(家事事件手続法85条1項)。
成年後見・保佐・補助に関する審判について即時抗告ができるものを列挙した同法123条1項,132条1項及び141条1項は,解任の審判や解任の申立てを却下する審判を挙げているが,辞任許可の審判や後任選任の審判を挙げていない。
したがって,辞任許可の審判にも,辞任許可の申立てを却下する審判にも,即時抗告はできない。
辞任が許可されない場合には,事情の変化や後任の見込みを整えた上で改めて申し立てることになると考えられる。
第5 後任の後見人等がすること
1 初回の財産目録と収支予定
後見人は,遅滞なく本人の財産の調査に着手し,1か月以内にその調査を終わり,かつ,その目録を作成しなければならず(民法853条1項本文),就職の初めにおいて,本人の生活,療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。
財産目録の作成を終わるまでは,急迫の必要がある行為のみをする権限を有するにとどまる(民法854条本文)。
本書172頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後任の後見人等にもこれらの義務があることを確認し,速やかな引継ぎを求めている。
同頁注8は,保佐・補助には民法853条1項と861条1項が準用されていないが,財産管理権を有する保佐人・補助人には初回の財産目録と収支予定表の作成提出を求めているとしている。
初回報告の期限と作り方は,成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方で扱っている。
2 引継ぎの実際
大阪家裁ハンドブックQ6(後見人の最初の仕事)は,後見の開始までに後見人以外の者が本人の財産を事実上管理していた場合には,その者から速やかに通帳,証書,資料等の引継ぎを受けるよう求めている。
辞任による交代では,前任の後見人等が管理していた通帳・印鑑・証書類,現金出納帳,領収書,契約書類及び関係機関の連絡先等を,後任が一括して引き継ぐことになる。
前任の後見人等は,任務の終了により管理の計算をしなければならない(民法870条)から,引継ぎの時点の財産の状況と,前回報告以後の収支を書面で明らかにしておくことが,後任の初回財産目録の作成にも役立つ。
第6 大阪家庭裁判所が進める交代の考え方
1 第二期成年後見制度利用促進基本計画
本書174頁(連載第31回・令和4年6月号初出)は,令和4年3月25日に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画が,成年後見制度の運用改善等の一つとして「家庭裁判所による適切な後見人等の選任・交代の推進」を掲げていることから,家庭裁判所として本人のニーズ・課題や状況の変化等に応じて柔軟に交代や追加選任を行う取組を進めていくと述べている。
2 交代の3つの類型
本書175頁は,正確な数値を把握しているわけではないとしつつ,交代が問題となるケースとして次の3つを挙げている。
①親族後見人等が,老齢や疾病により事務の円滑な遂行が困難になったことを理由に,他の親族への交代を希望するケース
②親族後見人等の不適切な事務や不正行為,又は親族では対応が困難な専門的な課題の発生を契機として,専門職後見人等への交代が必要なケース
③専門職後見人等が,本人に関する訴訟や環境調整,後見制度支援信託・支援預貯金の利用等の課題を解決したことを契機として,親族や市民後見人への交代を検討すべきケース
本書は,③を後見センターでは「リレー」と呼ぶことがあるとする。
例えば,後見開始時に支援商品の利用を検討すべき事案では,親族の候補者の意向を確認した上で,最初は専門職後見人が就任し,支援商品の利用に至った上で親族に引き継ぐことがある。
市長申立ての事案で,市民後見人への交代を見据え,最初は専門職後見人等に不動産売却や環境調整等を行ってもらい,本人の財産状況や生活が安定した時期に市民後見人に引き継ぐこともあるとしている(本書175頁~176頁)。
もっとも,本書175頁~176頁注4は,令和4年2月から運用を開始した総合支援型後見監督人の下では,後見開始当初から親族後見人が就任し一定期間専門職の監督人が関与するため,支援商品の利用を目的とした後見人の交代は問題とならないとしている。
支援商品の仕組みは後見制度支援信託と後見制度支援預貯金で,総合支援型後見監督人は大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」で扱っている。
3 交代の時期を最初に共有する
本書176頁~177頁は,ふさわしい親族等がいればその者を選任するのが望ましいという考え方は変わらないとしながら,本人にふさわしい親族が身近にいないことも少なくなく,家庭裁判所として専門職の限られた給源を真に必要な事案のために確保することに難渋することもあるとする。
その上で,特に開始から間がない時点において,家庭裁判所と後見人等との間で,本人が抱える課題の内容,解決の方向性及び解決が見込まれる時期(すなわち交代を検討すべき時期)等の認識を共有することが重要であり,専門職後見人等には,必要とする事案・時期に集中して専門性を発揮することが一層求められているとしている。
4 「課題の解決」の意味
本書179頁は,リレーを予定している事案の専門職後見人等は,できる限り速やかに,かつ,引継後の事務の負担が少ない方向で課題を解決することが望まれるとする。
同頁注10は,ここでいう課題の解決は,本人の債務について分割払いの和解をして支払の実績を作っておく場合のように,必ずしも課題を完全に解決することを意味しないとしている。
同頁注11は,将来高齢の親族の介護や相続が問題となる事案でも,リレー後の親族や市民後見人がその事態が生じた場合にどこに働きかけ相談すればよいかを理解していれば,事務の遂行上の支障はないという評価も十分に可能であるとしている。
そして本書179頁は,今後,後見センターが専門職後見人等に対し,親族や市民後見人へのリレーを前提とした辞任が可能か否か,その時期はいつ頃かといった検討を求める機会が,これまで以上に増えるものと思われるとしていた。
この予告が書式として実現したのが,後記第8の3の「お尋ね」である。
5 身上保護が困難な事案での交代
本書139頁~141頁(連載第32回・令和4年10月号初出)は,本人の問題行動が続き,当初の後見人と本人との信頼関係が揺らいで後見事務の継続が困難と思われる事態に至り,やむを得ず辞任を認めて後任の弁護士を選任した事例を紹介している。
その上で,後見人がどの程度まで事実上の負担を耐え忍ぶべきか,新後見人へのスイッチないしリレーを決断すべきタイミングはいつかといった点を考えさせられるとし,身上保護に手厚く関わろうとするほど本人・親族との信頼関係が損なわれる場面が生じがちになることから,柔軟な選任・交代スキームの構築に家庭裁判所として大きな関心を持たざるを得ないと述べている。
前記第3の1(2)の「信頼関係が築けない場合」の総合判断は,こうした事案を念頭に置いたものといえる。
第7 専門職後見人の追加選任
1 根拠条文
成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,本人若しくはその親族その他の利害関係人若しくは成年後見人の請求により又は職権で,更に成年後見人を選任することができる(民法843条3項)。
成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,数人の成年後見人が共同して又は事務を分掌してその権限を行使すべきことを定めることができる(民法859条の2第1項)。
保佐人・補助人についても,追加選任(民法876条の2第2項,876条の7第2項による843条3項の準用)と権限行使の定め(民法876条の5第2項,876条の10第1項による859条の2の準用)が同様に認められる。
なお,本書156頁は分掌の根拠として民法857条の2も挙げているが,同条は未成年後見人が数人ある場合の規定であり,成年後見人については859条の2が根拠になる。
2 親族後見人の事務に問題がある場合
本書177頁~178頁(連載第31回・令和4年6月号初出)は,親族後見人等の事務に問題があるケースについて,家庭裁判所は事案によっては職権で直ちに解任事件を立件した上で,職務執行停止及び職務代行者選任の保全処分を行うこともあるとする(家事事件手続法127条,135条,144条)。
もっとも,問題の内容や程度によっては,親族後見人等が辞任(場合によっては解任)するまでの間,あるいは辞任・解任に至らないまでも問題が解消するまでの間,専門職後見人等を追加選任して権限を分掌することもあり,多くの事案では親族後見人に財産管理事務を行わせないような分掌を行うとしている。
これは,事務の空白が生じることを避けるとともに,本人に生じた課題に関する情報を専門職後見人等と家庭裁判所がより確実に把握することを目的とするものであり,本書178頁注8は,リレーの一種としてテイクオーバーゾーンを設けていることと同じであるとしている。
職務執行停止と職務代行者は後見等開始の審判前の保全処分で,解任は成年後見人の解任理由で扱っている。
3 不正が疑われる事案で追加選任された専門職後見人の事務
本書156頁~158頁(連載第4回・平成29年12月号初出)は,本人の財産が大幅に減少しているなど不正行為の存在を疑わせる問題が確認された場合,後見センターでは専門職後見人を追加選任して財産の管理に関する事務を分掌することとしており,そのときは弁護士を追加選任することが通例であるとしている。
解任事由の存在が明らかな場合には,解任,専門職後見人の選任並びに職務執行停止及び職務代行者選任の保全処分の措置を講じることもあるとし(本書156頁注4),追加選任の審判書謄本とともに事務の大まかな流れと問題となった事務の内容を知らせているとしている(同頁注5)。
本書が示す事務の流れは,次のとおりである。
(1) 早期の面談と資料の引継ぎ
追加選任された専門職後見人は,審判書謄本を受領した後,直ちに,問題となる事務を行った後見人等(本書は「相後見人等」という。)と面談し,通帳・印鑑,現金出納帳,領収書等の財産関係書類の引継ぎを受けるとともに,財産減少の原因を含め,不正行為に当たるかどうかの調査に着手する(本書156頁~157頁)。
必要に応じて,問題となる事務に関与した者(相後見人等の親族等を含む。)とも面談する(本書157頁注6)。
面談ができなかった場合やできないことが見込まれる場合は,速やかに後見センターに報告し相談するよう求めている(本書157頁)。
(2) 調査事項と報告の期限
専門職後見人は,初回財産目録を作成するとともに,①不正行為の有無,②不正行為の内容(不正使用された金額及びその使途等),③相後見人等に不正行為に当たるとの認識があったか否か,④返済意思の有無,返済方法及び返済の見込み,⑤これまでの身上保護の状況などを調査する(本書157頁)。
そして,選任後1か月と3週間以内に,初回財産目録とともに,その段階で報告可能な事項を記載した報告書を後見センターに提出し,その後は追加の報告が可能となった時点で報告書を提出するよう求めている(本書157頁)。
この「1か月と3週間」という期限は平成29年12月号初出の記述であり,現在の大阪家裁ハンドブックと成年後見のページには追加選任事案の報告期限の記載は見当たらなかった。
実際の期限は,審判書謄本と一緒に届く案内で確認する必要がある。
(3) 不正の有無による対応
不正行為が認められる場合,専門職後見人は,まず損害の回復方法を検討し,公正証書を作成したり,民事裁判や調停等の手続を利用したりして債務名義を作成する(本書158頁)。
そして最後に,不正行為の内容,相後見人等の認識,損害回復の有無及び推定相続人の意見等を踏まえ,相後見人等を解任すべきか否か,刑事告発をすべきか否かについて意見を記載した報告書を提出する(本書158頁)。
不正行為が認められなかった場合は,相後見人等の事務処理能力等,後見人等としての適格性に問題がないかを検討し,今後も専門職後見人が関与すべきか否かについて意見を記載した報告書を提出するとしている(本書158頁)。
横領の民事・刑事上の責任は成年後見人による横領で扱っている。
4 スポット的な選任
本書178頁は,専門職をスポット的に活用するものとして,課題解決(一定期間経過)後に辞任してもらう可能性があることを前提とし,専門職団体に推薦を依頼する際にその旨を伝えた上で,推薦を受けて就任を承諾した専門職を後見人等又は監督人として選任することもあるとする。
同頁注9は,例として,本人の子が成年後見人に就任した後に同居の父が体調を崩して初回財産目録等の作成や環境調整に新たな課題が生じたため専門職後見人を追加選任した例,本人の財産も親族後見人の財産も極めて僅少で福祉的な支援を受けていなかったため生活の立て直しのために追加選任した例,本人の居所をめぐって本人と親族後見人の意向が対立したため意思決定支援と関係調整のために追加選任した例を挙げている。
スポット的に選任された専門職後見人は,就任の時点で,課題が何か,それが解決したら辞任することが予定されているかを意識して事務に当たることになる。
5 複数の専門職後見人が選任された場合と課題解決後の辞任
本書158頁~160頁(連載第4回・平成29年12月号初出)は,財産管理が複雑・困難な場合や親族間紛争がある場合に加え身上保護面でも専門職の対応が必要な場合に弁護士と社会福祉士を複数選任し,財産関係が相当複雑であったり親族間紛争が極めて激しかったりする場合には弁護士を複数選任することもあるとする。
複数選任の場合,後見センターは速やかに裁判官と各専門職後見人の面談を実施し(困難な場合は書面等),選任の趣旨と本人に係る課題を説明しているとしている(本書159頁)。
財産管理担当の後見人等が,身上保護担当の後見人等に小口現金の管理を委ね,本人の日々の支出等に充ててもらうことは問題がなく,むしろ迅速な対応のためには望ましいとし(本書159頁),後見等事務報告書を各自で提出する場合には他方の専門職後見人に送付して情報を共有するよう求めている(本書160頁)。
意見の相違が生じた場合は,まず両者で協議し,解決が困難なら所属する会へ相談し(大阪弁護士会では高齢者・障害者総合支援センター「ひまわり」事務局),なお困難な場合は連絡票等で後見センターに相談するとしている(本書160頁)。
その上で本書160頁は,課題が解決されるなどして複数の専門職後見人を選任する必要がなくなった場合には,その課題の解決に当たっていた専門職後見人は辞任を検討して構わないとし,課題の内容と辞任の時期は,可能な限り選任当初の面談で裁判官から説明しているとする。
本書161頁は,複数選任の留意点は各専門職団体と後見センターとの協議に基づく新たな試みであるとしていたから,現在の運用は個々の事件で確認する必要がある。
保佐人・補助人が複数の場合の権限行使は保佐人・補助人の権限と実務で扱っている。
6 後見監督人から見た辞任と追加選任
本書184頁~185頁(連載第27回・令和3年10月号初出)は,後見人の高齢化や体調の悪化等による事務処理能力の低下がうかがわれる事例について,親族や支援者が補っていて後見事務に具体的な支障がない限り,直ちに解任事由があるとまではいえないことが通常であるとする。
その上で,後見監督人は,後見人に能力低下等が見られた場合には適時に今後の事務について意見を交換し,必要に応じて辞任許可申立てや後見人の追加選任申立てを勧め,具体的な支障がうかがわれるに至った場合は裁判所に報告して追加選任の職権発動を促したり解任の申立てをしたりするなど,必要な措置を講じることが求められるとしている。
同頁注9は,後見監督人は急迫の事情がある場合に必要な処分をすることができるにとどまるから(民法851条3号),能力が低下した後見人に代わって継続的に後見事務を行う権限はなく,そのような事務処理は適切ではないとしている。
後見監督人の職務は後見監督人とはで扱っている。
第8 市民後見人へのリレー
1 大阪家庭裁判所管内の市民後見人
本書302頁~304頁(連載第35回・令和5年4月号初出)によれば,大阪家庭裁判所管内では,大阪市は大阪市成年後見支援センター,堺市は堺市権利擁護サポートセンター,その余の府下市町村は大阪府社会福祉協議会地域福祉部権利擁護推進室が,それぞれ市民後見人の養成・活動支援を行っている。
市民後見人になろうとする市民は,養成講座を受講した上で市民後見人バンクに登録され,選任を待つ。
主な選任対象は,首長申立事件で受任調整会議等により開始当初から市民後見人相当とされる事件と,専門職後見人からのリレーが相当とされる事件などである(本書303頁注5)。
選任後は,各センター等の日常的な相談に加え,専門職による半年ごとの定期相談(家庭裁判所への定期報告前)や随時相談が行われ,選任直後は最初の打合せ,初回財産目録等の提出前及び受任3か月目にも専門職の定期相談が行われるとしている(本書303頁,同頁注6)。
大阪家庭裁判所管内の市民後見人の特徴として,本書303頁は,①後見監督人や複数後見人を選任せず市民が単独で受任し後見終了まで事務を行うこと(単独受任方式),②無報酬のボランティアで活動すること(無報酬原則)を挙げる。
大阪家庭裁判所が市民後見人を初めて選任したのは平成20年1月であり,家庭裁判所の立場からみても,市民後見人の定期報告で遅延や報告内容の不備が問題になる例は見当たらず,市民後見人による不正が報告されたこともないとしている(本書303頁~304頁)。
大阪市成年後見支援センターのウェブページ(令和8年9月19日取得)も,大阪市の市民後見人は,活動経費を除き報酬を前提とした活動ではなく,後見監督人等はつかず単独で受任していると説明している。
なお,本書176頁注5は大阪市の市民後見人の養成事業の開始を平成18年度とするが,同センターのページは「平成19年度から」市民後見人養成講座を開催しているとしており,表現が一致しない。
2 市民後見人の選任に適した事案
本書305頁は,市民後見人の選任が相当な事案として,成年後見類型を前提に,おおむね次の要件を満たすことが必要とされているとする。
①急迫した虐待や権利侵害,親族間の係争がない。
②現在の居所(近い将来転居が決まっている場合はその予定地)が大阪府内の市民後見人支援活動事業実施市町村である。
③本人に自虐や他害の行為がない。
④預貯金が1,200万円未満である。
⑤本人と何らかの形でコミュニケーションを図ることができる。
⑥不動産の処分,相続,遺産分割や債務整理などの課題がない,又は市民後見人において当該課題に対応できる(専門家へ委任するなどにより対応が可能な場合を含む。)。
⑦後見事務費を月々の収支又は預貯金から支弁可能である。
本書306頁は,これらの要件を充足する事案が直ちに市民後見人相当であるとはいえないが,少なくとも類型的に市民後見人の強みを生かすことが期待できる事案とはいえるとして,専門職後見人に対し,担当事件の中に要件を充足するものがあればリレーを一考するよう求めている。
3 現行の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」
(1) 提出の場面
大阪家庭裁判所の成年後見のページ(令和8年9月19日取得)は,定期報告について,専門職(弁護士,司法書士,社会福祉士)の成年後見人は,後見等事務報告書・財産目録等のほか,「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」(令和7年4月1日版)を提出するよう求めている。
報酬付与の申立てについても,専門職の成年後見人は,後見等事務報告書にこのお尋ねを含めて提出するよう案内している。
書式の冒頭には「本ペーパーは、後見類型の場合に限り御提出ください。」とあり,「専門職専用書式」と表示されている。
専門職の保佐人・補助人は提出の対象外ということになる。
(2) 書式の内容
お尋ねの1は,次の各項目について当てはまるものに印を付けるもので,全てに該当する事案は市民後見人へのリレーを検討できる可能性があるとしている。
①虐待や権利侵害,親族間の係争がない。
②現在の居所(近い将来転居が決まっている場合はその予定地)が大阪府内市民後見人支援活動事業実施市町村である。
③本人に自虐や他害の行為がない。
④預貯金が1,200万円未満である。
⑤本人と何らかの形でコミュニケーションを図ることができる。
⑥後見事務費(交通費・通信費・事務費)を預貯金から支弁可能である(約月3,000円)。
お尋ねの2は,1に全てチェックが入った場合に,財産管理の課題(預貯金以外に管理すべき財産があるか,不動産の処分・相続・遺産分割・債務整理などの対応を要するか,弁護士等に委任して対応できるか)と身上保護の課題(本人の対応が困難か,支援者等の協力が得られるか)を検討させるものである。
お尋ねの3は,リレーについて,①現時点で検討可能であると思われる,②一定の課題が解決すれば検討可能であると思われる(課題の内容と解決見込時期を記入),③将来的にも困難であると思われる(理由を記入)のいずれかを選ぶ形式である。
①を選ぶ場合は,リレーに関する「意見書」を各会に提出する予定か,関係機関との調整後に提出する予定かを選び,リレーについて検討可能と判断した場合は所属の専門職団体に報告し,その後の手続について相談するよう求めている。
(3) 本書の要件との違い
お尋ねの1の項目は,本書305頁の①から⑤まで及び⑦とほぼ同じであるが,細部が違う。
本書の①は「急迫した」虐待や権利侵害としていたが,お尋ねは単に「虐待や権利侵害」としている。
本書の⑦は後見事務費を「月々の収支又は預貯金から」支弁可能としていたが,お尋ねは「預貯金から」とし,約月3,000円という目安を示している。
本書の⑥(不動産の処分,相続,遺産分割等の課題)は,お尋ねでは1の要件ではなく,2の「市民後見人受任上の問題・課題」として検討する項目になっている。
本書が連載第35回(令和5年4月号)で要件として述べていたものが,令和7年4月の書式で,定期報告のたびに専門職後見人に確認を求める仕組みに変わったといえる。
市民後見人の養成者数・登録者数・受任件数と,大阪家裁後見センターの市民後見人の運用全体は,大阪家裁後見センターで扱っている。
4 リレーの手順
本書306頁~307頁によれば,リレーのスキームは各センターで工夫が重ねられているため,本人の居住地を担当するセンターでの手続を確認する必要があるが,おおむね共通する流れは次のとおりである。
①専門職後見人が,一次的に市民後見人へのリレーが相当と考えた場合,所属団体に情報提供する。所属団体は,弁護士であれば大阪弁護士会,司法書士であれば公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部,社会福祉士であれば大阪社会福祉士会である(本書306頁注10)。
②所属団体が,リレー相当かどうかのスクリーニングを行う。
③所属団体がリレー相当と判断した場合,受任調整会議等でリレー相当かどうかを検討する。
④相当とされた場合,候補者を選出し,候補者の受任の意向を確認する。
⑤専門職後見人が,家庭裁判所に辞任選任申立てを行う。
⑤の申立ては,前記第4の辞任許可と後任選任の同時申立てである。
本書176頁注5(連載第31回・令和4年6月号初出)は,大阪市では市民後見人候補者の活用拡大のためにリレー方式が構想され,平成29年7月から実施されるに至ったとし,現在は大阪市のほか大阪府,堺市でも同様の仕組みがあり,自治体と専門職団体とで構成される会議体が受任調整や候補者推薦を行っているとしている。
5 首長申立てでリレーを前提に専門職を推薦する運用
本書307頁は,一部の首長申立てでは,後見開始時に,特定の課題が解決した後は市民後見人へのリレーを検討することを前提として専門職後見人を推薦する運用も行われているとする。
課題解決に要する見込み期間を経過した段階で,専門職後見人が課題の進捗状況を確認してリレーの是非を検討する。
専門職後見人が本人や支援チームとの間でリレーの見込みについて当初から情報を共有することで,スムーズな辞任・選任と引継ぎが期待できるとしている。
前記第6の3の「交代の時期を最初に共有する」という考え方を,申立ての段階から組み込んだものといえる。
6 リレーが進まない理由と後見センターの考え
本書307頁は,リレーのスキームの成果はあまり芳しいものとはいえないと認めている。
大阪弁護士会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部及び大阪社会福祉士会の三士会(本書307頁注11)との協議を通じて,要件を充足する事件が相当数存在するとの情報に接しているが,リレーのスキームに乗るまでにはなおハードルがあるとする。
その理由として,専門職後見人から,後見事務上さしたる問題がなく本人や支援チームとの関係も構築されているので,あえて交代する必要を感じない,あるいは本人の心情に鑑みて交代しづらいという声を耳にするとしている。
これに対し本書307頁~308頁は,市民後見人はきめ細やかな身上保護や意思決定支援において独自の強みを持つ担い手であるから,その強みが生きる事案を積極的に見出してリレーすることは本人保護の質をさらに向上させる手段として有用であり,本人らとの信頼関係を築けている専門職後見人であれば,身上保護等の強みや無報酬のメリットなどを丁寧に説明することで本人らの納得を得ることは十分可能であるとしている。
市民後見人が無報酬原則で活動することは,本人の財産から報酬を支払う負担がなくなることを意味する。
専門職後見人がリレーを検討する際には,本人や親族に対し,交代によって本人の生活がどう変わるか(面談の頻度,身上保護の手厚さ,報酬負担の有無)を具体的に説明できるようにしておくことが,本書のいう納得の前提になると考えられる。
専門職後見人の報酬の目安は成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。
第9 令和8年改正後の辞任と交代
1 施行の時期
令和8年法律第45号は令和8年6月24日に公布され,成年後見制度に関する部分は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(同法附則1条)。
基準日現在,成年後見制度に関する部分は未施行であり,施行日を定める政令も公布されていない。
改正後は,法定後見は補助に一元化され,後見と保佐は廃止される。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
2 改正後の条番号
法務省の新旧対照条文によれば,辞任と交代に関係する規定は,改正後の民法で次のとおりとなる。
| 事項 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 辞任(正当な事由と許可) | 民法844条(876条の2第2項,876条の7第2項で準用) | 民法876条の3 |
| 辞任した者の後任選任請求 | 民法845条 | 民法876条の4 |
| 欠けた場合の選任・追加選任 | 民法843条2項・3項 | 民法876条の2第2項・3項 |
| 選任の考慮事項 | 民法843条4項 | 民法876条の2第4項 |
| 解任 | 民法846条 | 民法876条の5 |
| 数人ある場合の権限行使 | 民法859条の2 | 民法876条の12 |
| 監督人による後任選任請求 | 民法851条2号 | 民法876条の9第2号 |
改正後の民法876条の3は,「補助人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定め,現行の民法844条と同じ文言である。
改正後の民法876条の4も,辞任した補助人は遅滞なく新たな補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないと定め,現行の民法845条と同じ内容である。
補助監督人の辞任には改正後の民法876条の3が準用される(改正後の民法876条の10)。
選任の考慮事項を定める改正後の民法876条の2第4項は,補助開始の審判を受けた者の「意見」を考慮事項の冒頭に置いている。
家事事件手続法では,補助人又は補助監督人の選任の審判をする場合の本人の陳述聴取が改正後の同法120条1項12号に,補助人となるべき者の意見聴取が同条2項2号に置かれる。
改正後の同項ただし書は,陳述を聴かなくてよい場合を「その者の精神上の理由によりその者の陳述を聴くことができないとき」としている。
3 解任事由3号が交代の道具になる
改正後の民法876条の5第1項は,補助人の解任事由を,①補助人が不正な行為をしたとき,②補助人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき,③補助開始の審判を受けた者の利益のため特に必要があるときの3つとする。
3号の事由で解任された者は欠格事由から除かれる(改正後の民法876条の6第2号)。
現行法では,課題が解決しても専門職後見人が辞任しない限り,解任事由がなければ交代させることができない。
本書179頁の「リレーを前提とした辞任の検討を求める」という運用や,お尋ねの書式も,あくまで専門職後見人の辞任を促すものである。
改正後は,本人の利益のため特に必要があるときは,不正や任務違反がなくても家庭裁判所が補助人を解任して交代させることができ,しかも解任された者は他の事件で欠格とならない。
辞任による交代と,3号の解任による交代とが並ぶことになる。
解任事由の改正の詳細は成年後見人の解任理由で,弁護士の後見業務への影響は令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するかで扱っている。
4 既存の成年後見人・保佐人への経過措置
施行日前に後見開始の審判がされた成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例による(令和8年法律第45号附則2条1項)。
したがって,施行日前に選任された成年後見人の辞任と後任選任の請求は,施行後も現行の民法844条・845条による。
他方,成年後見人及び成年後見監督人の解任については,成年後見人を補助人と,成年後見監督人を補助監督人とそれぞれみなして,改正後の民法876条の5が適用される(同附則2条2項)。
保佐も同様である(同附則3条1項・2項)。
施行日前に開始した補助は,施行日以後は改正後の補助開始の審判とみなされ,補助人・補助監督人も改正後の補助人・補助監督人とみなされる(同附則4条1項)から,既存の補助人の辞任には改正後の民法876条の3が適用されることになる。
5 お尋ねの書式と市民後見人のリレーはどうなるか
現行のお尋ねは「後見類型の場合に限り」提出を求めるものであり,本書305頁の市民後見人の選任要件も成年後見類型を前提としている。
改正後は新たな後見開始の審判はされなくなるから,施行後に開始する事件について,大阪家庭裁判所がリレーの対象や書式をどのように定めるかは,基準日現在の公表資料では確認できなかった。
他方で,施行日前に開始した成年後見は従前の例により存続するから(附則2条1項),既存の成年後見事件では,当面,現行のお尋ねによる確認が続くと考えられる。
第10 出典・参考資料
1 法令
民法(654条,843条,844条,845条,846条,847条,851条,852条,853条,854条,857条の2,859条の2,861条,870条,874条,876条の2,876条の3,876条の5,876条の7,876条の8,876条の10) e-Gov法令検索
家事事件手続法(9条,85条,117条,120条,123条,127条,128条,130条,132条,135条,136条,139条,141条,144条,176条) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法(876条の2,876条の3,876条の4,876条の5,876条の6,876条の9,876条の10,876条の12)及び家事事件手続法(117条,120条),同法附則1条~4条 法務省(新旧対照条文)
民法等の一部を改正する法律案(本文) 法務省
2 公的資料
大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」(令和8年9月19日取得) 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)Q22,46頁,書式集No.9 裁判所
大阪家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」 裁判所
大阪家庭裁判所「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」(令和7年4月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「本人の陳述聴取の流れ【後見人等選任事件】」(令和4年10月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「陳述書【後見人等選任事件】」(令和4年10月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「上申書【後見人等選任事件】」(令和4年10月1日版) 裁判所
大阪市成年後見支援センター「市民後見人」(令和8年9月19日取得) 大阪市成年後見支援センター
3 文献
大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)1頁,139頁~141頁,156頁~161頁,169頁~180頁,184頁~185頁,302頁~308頁
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